佐藤亜紀さん、『金の仔牛』

 『金の仔牛』の感想を少しばかり。 

 “言わば泥棒の夏至が、訪れようとしている。” 89頁 

 ひやひやはらはら…で、面白楽しかった! 株とお金儲けのからくりを解く箇所もひっくるめ、ぐいぐいひき込まれた。濃ゆい登場人物が各々に策を弄する筋立てから、全く目が離せない。18世紀パリという舞台背景も、存分に堪能した。
 …などと言いつつ何をおいてもまず、悪党なのに全然すれてない若者アルノーと、頗る付きの別嬪でおきゃんな恋人ニコルが大好きだった。とりわけ、ニコルの瞳が爛々と輝く場面は、同性ながらも惚れ惚れしてしまう。芳紀まさに17歳、やっぱり美人はいいねぇ…。そんな二人の周辺は、相当物騒になっていく。て言うか、二人こそが渦中にあり窮地に陥ってしまうのだが、そこを掻い潜っていく強かさも見事なものだった。

 追い剥ぎだったアルノーを見込んでカンカンポワ街に深入りさせる、投資家の老紳士カトルメールを始め、ニコルへの邪な欲を抱きアルノーを追い詰める悪役の貴族に、腹黒くて吝いニコルの父親に…(まだまだいるの)と、一筋縄ではいかない面々の騙くらかし合いなんて、身を乗りだすほどにぞくっと魅入られた。
 カンカンポワ街から始まった株価狂騒曲、はて、その落としどころは…。

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