ロレンス・ダレル、『黒い本』

 ただただアレクサンドリア四重奏が好きで、ふらふらと手に取ってしまった。『黒い本』の感想を少しばかり。

 “雪の孤立、と書き加えたことだろう、もし彼グレゴリーが今日ページをめくっていたとすれば。バロック趣味の夢魔のように、このホテルの静かにひたっている孤立を。” 24頁

 黒い英国、澱む狂気の瀰漫――。 
 生と性に倦み果て、生きながらに爛れゆく登場人物たちの濃厚な死臭といい、歪んだ愛と自意識に溺れていく姿といい、なかなかきつい内容だった。だが、文章の持つ力があまりにも凄まじいので、それだけで読まされてしまう。しだくほどの言葉の奔流に、圧倒されるがままだった。
 黒い本とは、語り手“ぼく”がホテルの階下から見付け出した、緑色の筆跡の手記のことである。“ぼく”が一度も顔を合わせたことのないデス・グレゴリーが綴ったこの日記と、“ぼく”自身の独白による箇所が交錯するこの物語には、取り立ててこれと言った筋はない。グレゴリーと街の女グレイスの恋愛と不毛な結婚の経緯、その破綻とグレイスの死。グレゴリーの絶望に強く吸引されていく一方で、若い語り手である“ぼく”は、年上の友人たちの無様を具に見詰める。そしてまるで排泄の如くに毒を含んだ言葉を吐き散らしながら、いったい彼はどこへたどり着けるというのか…。と、突きつめて言ってしまえばそれだけの、ロレンス・ルシファーの魂の遍歴を、延々と読んでいたことになる…。

 己の思考に耽る“ぼく”が、その中で執拗に“おまえ”と呼びかけ続ける妄想の中の女の存在が気になった。時にまるで実体を持つかのように描かれていたりするので、このまま彼は向こう側の世界へと踏み入っていくのかと思い、何度もぞっとした。だが“ぼく”はやがて、“おまえ”とともに浮上する。
 解説によればダレル自身は、『ジュスティーヌ』をこの『黒い本』の続篇として書きたいと洩らしていたこともあるそうだ。

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

9月3日(土)のつぶやき

06:47 from web
しゃべり方が可愛過ぎる……(絶対クラスにいた)。
07:04 from web (Re: @ayaoshima
@ayaoshima 私は名前しか存じ上げず、可愛らしい方で吃驚しています。これは騙される…(笑)。
07:17 from web
夜中に夫が私の手首の上に落ちてきたので、動かすと少し違和感がある。
20:30 from 読書メーター
【黒い本 (中公文庫)/ロレンス ダレル】を読んだ本に追加 →http://t.co/sMx1t6a #bookmeter

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )