イェジー・コシンスキ、『ペインティッド・バード』

 東欧の想像力、シリーズの7冊目。『ペインティッド・バード』の感想を少しばかり。

 “そして、その翼には赤いペンキ、胸には緑のペンキ、そしてしっぽには青いペンキを塗った。”(65頁)

 あまりの凄まじさに幾度となく戦慄した。ずぶりと踏み込んだままひき返すこともならず、目の前の物語の俄かには受け入れがたい内容に、声もなく言葉もなくただ立ち竦んだ。自分が空っぽになっていくような無力感。本当にこんなことまで知らなければならないのだろうか…?と、何度も自問しつつ読んだ作品である。酸鼻とすらもはや言いたくない、そんな気持ちになった。でも、最後まで読んでよかった。

 1939年、六歳の少年が東欧の都市から両親の手によって、遠い村へと疎開させられた。だが里親になった女性はすぐに死んでしまい、少年は一人ぼっちで村々をさまよい歩くことになる。浅黒い肌に黒い髪と黒い目の少年は、とんでもなく迷信深い東方の農民たちからは常に悪霊の如く忌まれる存在でしかなく、頻繁にその命の危険に曝されながらあやういサバイバルを続ける。
 戦時下における狂乱、そうでなくても残忍で無知な村人たち。突然抛り込まれた、全くわけのわからない世界。少年の身の丈に合わせた視点から見渡せば、文字通りその世界中、どんなに満遍なく探したところで彼にとって安全な場所は何処にもない。完璧にない。森の中に身を隠してみても、食い繋げる期間は短いものでしかない。たとえ一時の寝食を与えてくれる相手を見付けたとしても、今度はその相手に命を奪われる恐怖と向かい合わなければならない日々。眠りの中にすら安らぎはない。ドイツ軍に捕まることも怖いが、普通の農民も怖ろしく子供たちはもっと残虐だ。
 そんな中で彼は、ひたすらひたすら祈り続ける。だがやがて、その祈りが虚しく潰えたことを知る時がやってくる。生き延びるためになら、悪魔に魂を売った方がどれだけ有利か知れやしない…と、気が付く時が。

 辺境における人々の蒙昧な残忍さやおぞましい性的倒錯が、これでもかこれでもかと描き込まれているところも衝撃的だった。一見それらは戦争とは関係ないようにも見えるけれど、果たして本当にそうなのだろうか。歯止めの効かなくなった人間の欲望は、如何に際限なく醜く歪んだものになり得るか、堕ちていけるか…という点では、同じことなのかも知れない。その闇黒に押し潰されていくのが、非力な子供たちであるという点でも。


 そしていつか少年は、あの一人の兵士のことを思い出すこともあっただろうか? あの、途切れることのない恐怖の日々の中では、光と呼ぶにはあまりにも小さな。
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8月10日(水)のつぶやき

06:34 from web
おはよーさんです。あいすこーしーなう。お弁当作り、5日も間が開くと久しぶりに感じる。8月の前半はお弁当を作る日が少なくて、傷みやすい時期だからちょうどよかった。
12:30 from 読書メーター
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