辻村深月さん、『オーダーメイド殺人クラブ』

 辻村さんの作品を読むのは3作目だった。『オーダーメイド殺人クラブ』の感想を少しばかり。

 懐かしいと、眩しいが、胸に溢れて涙になった。最後のカタルシスで号泣することになろうとは…。奥深く埋もらせた痛みを呼び覚まされるようで、途中は辛かったけれど読んでよかったな…と、心から呟く。

 主人公の小林アンは、一見リア充な中二女子である。可愛いし、格好良い彼氏もいるし(本当は別れたばかり、でもいつでもまた出来そうだ)クラスで中心的存在の芹香と仲が良い。たまたま今は無視の標的にされているものの、クラスでのヒエラルキーはかなり上。端から見たら、色々と妬まれそうな女の子だ。彼女はクラスのイケてない男子たちを、昆虫系と名づけて冷ややかに見下していたのだけれど、そのうちの一人である徳川勝利の姿を思いがけない場所で見かける。河原の草むらで彼がしていたこととは…。
 執拗なまでにセンスにこだわり、己を追い詰めるように研ぎ澄ましていった感性が求める世界(陰惨な事件を起こした少年Aたちのニュースの切れ端、人形の写真集『臨床少女』…)だけを心の拠り所に、日々をやり過ごしていたアン。だが、教室で隣の席の徳川(ショーグンJr.)が、少年Aに限りなく近い闇を抱えた男子であることを知ったことにより、自分だけが特別な存在になるという夢を叶える方法に思い至ってしまう。…そうしてタイトルにもある通り、アンは徳川に、前例のないやり方で自分を殺して欲しいと頼むことになるのだ。
 そして物語の流れの中、あることをきっかけにアンにとってのオーダーメイド殺人の意味合いとその必要性がぐんと切実なものへと変わり、後戻りの出来ない状況へと追い詰められていく。その辺りの展開からも目が離せなかった。

 アンが感じること考えること。その無力感、自身を取り巻く全てに向ける(家も学校も友だちも…)厳し過ぎる批判の眼差し、脇目も振らずに“死”へと惹かれ、自ら傾いていこうとする危なっかしさ。少女のままで時間を止めたいという願い。それらの全てが読み進む私の心のひだを逆撫でするようでいて本当は切なくて、風通しの悪い教室で孤立していくこの女の子へ向けて、気持ちがどんどん入れ込んでいくのをひしひしと感じた。ただ、痛いほどに懐かしかった。

 今更思い返してみたところで心温まる訳でもない、遥か遠いあの頃を、あの酷過ぎる日々を、心から懐かしんで悼む気持ちになれたのは何故だろう…と、あらためて思う。観念ばかりがやたらと死に近かった、ひりりとしたあの頃。それは恐らく、いやきっと、あの場所を捨て去り前を向いて生きていく為に、あえてその代償として失わなければならなかったものの独特な重みを、今でも私が憶えているからに違いない。ささくれをむしり続けるような日々だったけれど、そうでなければあり得ない仄暗い耀きもそこにはあったのかも知れない。…などと、これも今だから見えること。
 中二で中二病ならそれは、そのあやうさを哀しいほどに愛おしくも思える。何処かで今もまだうずくまる少女を、優しく抱きしめてあげられたなら。大丈夫だよと一言。こんな物語を読んでしまった後では、そう思わずにいられようか。

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6月8日(水)のつぶやき

04:54 from 読書メーター
【オーダーメイド殺人クラブ/辻村 深月】を読んだ本に追加 →http://bit.ly/hSIf7m #bookmeter
04:56 from 読書メーター
【遠い水平線/アントニオ タブッキ 他】を読んだ本に追加 →http://bit.ly/f4ZtRs #bookmeter
08:15 from web
昔って、本当に、初……(むぐっ)。
08:31 from web (Re: @hanakochia
@hanakochia はい、もちろんおひさまです。そして、ここも損なところかも…と思いました。だって、何か支障があっても何も知らずとか…えっとえっと…むぐぐぐ。あ、おめでとうございますっ(無理くり切りかえ)。私も6月です♪
08:41 from web
あ、おはようございます。あんなツイートから始めちゃった…。
09:26 from web (Re: @ginko_books
@ginko_books 凛々しい眉が熊本っぽい…?(私のイメージです・笑)
09:31 from web
高良くん、手がいいかも…(ぼそっ)。きれいにしてるし。
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