長野まゆみさん、『デカルコマニア』

 『デカルコマニア』の感想を少しばかり。

 時間旅行という表現では少しロマンティック過ぎるということで、《デカルコ》――。まさにデカルコマニーのサイケな模様に似つかわしい、めくるめく惑わしに満ち満ちた作品だった。
 21世紀に生きる少年シビルが伯父の家の図書室で見つけたのは、金箔押しで飾られた革装の古書だった。風変わりな活字によるタイトルは、《デカルコマニア》。伯父の手ほどきをうけて読んでみたところ、書き手は同い年の少年ソラであることがわかったのだが、この少年は、自分は今23世紀に生きていると主張していた。そう、実はこの書物に記されていたのは、家系図の制作をするのにエッシャーなみの視覚をあざむく技法を必要とする、ねじれた時空に住む一族の物語だったのである…。

 20世紀から23世紀という時を越えた一族の、メビウスの輪のようなその軌跡。1901年にまで遡る一族の記録の中、例えば〈ポルトラノ〉と呼ばれる不思議な絵や、SとRを組み合わせたモノグラム付きのリングが、まるで何かの目印のように何度も出てくる。繋がりはなかなか見えてこないけれど、意味深な雰囲気をまとっているところが思わせ振りで素敵だな…と思ったり。
 海面の上昇によって全く海岸線が変わってしまった、旧称シトラスカ湾。その岬だった場所に、水没を免れて陸地から切り離されたドラモンテ島があり、そこにはバロック様式の灯台だけが残されている。幅広い時間の波を渡る彼らのことを、見守り続けてきた光でもある。
 
 謎めいたメッセンジャー役の美少年ロマン、何ともファンタスティックなマシュマロデイの風物(鳩が出てくる帽子コロンビエラ!)、繰り返される“鳩”の符牒、一族の嗜好するレモン・ドーナッツと奇妙なチェス、対のバロック真珠、ぴたりと当たるマダム・デボンの鳥占い、ヘルマフロディテの王女…などなどなど。長野ワールドならではのアイテムがこれでもかと散りばめられ、そして至るところに粋な仕掛けが張り巡らされているという、まことにお洒落な時間旅行物語だった。
 誰と誰がどこでどう繋がっていて、誰と誰が本当は……で、だからあの言葉に隠された意味は……で、だから……だったのね! と、読み解いていく楽しさは満載。堪能しましたことよ。
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6月9日(木)のつぶやき

04:03 from web
桃、食びたい……。
08:16 from web
おはようございます。涙をおふきよ……。
09:38 from Twitpic
朝ご飯に、キャベツの味噌粕カレー。暑いのだが、酒粕がちょいとマイブーム…。http://amba.to/lLUAzG

15:19 from web (Re: @massirona
@massirona キャベツたんもりでした^^ 味噌と酒粕を合わせると、独特なコクが生まれるようです。ぜひに~。
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