中野美代子さん、『契丹伝奇集』

 極上の幻想文学。素敵でした。
 『契丹伝奇集』、中野美代子を読みました。

 どの短篇も、いにしえの中国を舞台にした典雅で妖しい幻想譚でした。硬質で端整な文体。其処此処にしっかりと仕込まれた匂やかな媚薬が、ゆっ…くりと体内をめぐっていくような、そんなひと時でした。頽廃の妖美。めくるめくイメージの、高雅で贅沢なことと言ったら…!

 一話目の「女俑」は、ページを開いた途端に吃驚するほど、平仮名が圧倒的に多い文章です。慣れるまではとても読みにくかったです。でも、長沙宰相軑(たい)侯の若い妾の、“あたし”という一人称で語られる物語を追っていくうちに、この妾の浅はかで短絡的なところや、学や教養もないままに、女としての色香だけを武器にのし上がっていこうとするあけすけに野心的な彼女の語り口としては、その平仮名ばかりの文章が妙にしっくりとくるのでした。神仙思想の話が出てきたり、西王母の噂が出てきたり、中国ものとしての旨味も存分に堪能しました。
 二話目の「耀変」は、二つの時間軸を使った耀変天目茶碗をめぐるミステリ仕立てとなっています。現代の日本を舞台に一人の陶磁家の死をめぐる時間軸と、クビライに滅ぼされる宋朝を舞台に中書左丞相が耀変の窯を探し求める時間軸と。その二つのよじれる様をとても面白く読みました。
 「掌篇四話」では、ちょっと澁澤龍彦を彷彿させられました。“ワクワクの樹”を知ったのが、やはり澁澤作品からでしたので。
 (2007.4.20)

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