恩田陸さん、『朝日のようにさわやかに』

 今日も寒かったですね。春はどこへ…。
 『朝日のようにさわやかに』、恩田陸を読みました。

 一冊で14回美味しい短篇集です。まあ言ってしまえば、ごった煮のよう…ですが、ごった煮ならではの楽しみ方が出来てしかも味は旨い。
 まず一品目の「水晶の夜、翡翠の朝」は、恩田作品ではお馴染みの美少年ヨハンの活躍する美しい一篇ですけれども、これはもう殆どファンサービスです。ミステリとしては犯人がわかり易い…とは言え、あの学園独特の閉塞感の中で語られると逆にそこが良いわけです。校長や憂理や聖にも会えるし、ラストでのヨハンの邪悪さも堪能出来るし(ぐふっ)。

 その他の作品も各々に楽しみましたが、本当に多様な内容なのでほとほと感じ入りました。
 私が意外と楽しんだのは、「一千一秒殺人事件」です。少し読み始めて、これは足穂だ…と気が付いたら(いや、最初からタイトルで気付けば良いのに)、もうそれからは楽しくて楽しくて。
 「楽園を追われて」や「朝日のようにさわやかに」も、ツボにくる話でした。こういう追憶もの、好きなのです。例えば「楽園を追われて」に至っては、この短い小説の中で事件と呼べるようなものは今にも過去にも起こってはいません。でも、仲間の死をきっかけに集まった同窓生たちの間で交わされる会話や、古い記憶を掘り下げていく過程で浮き彫りにされる彼らの心情を読んでいると、懐かしさと切なさで胸が一杯になりました。二度と戻らない時間への郷愁を…。
 身につまされたのは「淋しいお城」。余韻がひどく後をひいて気になったのは「邂逅について」。さらに発展させた作品があったら、きっと気に入る。失われ滅びゆく少女の時間。 
 恩田色の濃い、ごった煮でした。満足。
 (2007.4.4)

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