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軌道エレベーター派

伝統ある「軌道エレベーター」の名の復権を目指すサイト(記事、画像の転載は出典を明記してください)

私たちはどこにいるのか

2023-09-23 09:21:57 | その他の雑記
 少し前、ある科学関連施設の長で、天文学を専攻していた方にインタビューをしました。好きな分野なので話題が多岐に及びまして、日ごろ抱えている疑問をぶつける機会にも恵まれました。その中の一つで「地球の位置(座標)を伝えられる全宇宙共通の方法はあるか?」という質問をしてみました。

 以前、「軌道エレベーターが登場するお話」で「三体」を扱った時、本作の矛盾点というか疑問点の一つとして、この点を挙げました。作中では、何らかの数値で星の座標を表せることになってるみたいなんですが、具体的説明はないんですよね。
 「三体」の場合は、三体文明との距離感が数光年のスケールだから成立するのかな? という可能性もありますが、どうにも信じがたい。本作はこういう点がかなり雑というか、細かいことはスルーしてるので、作者も考えてないと思う。

 まあ小説はそもそも作り話なんだからいいとしても、地球の位置をいかに定義するかというのは興味のある問題で、そんなことが可能なのか、専門の方に聞いてみたかったのです。結論としては「無理でしょうね」でした。

 1972、73年に打ち上げられ、それぞれ反対方向に旅立った探査機パイオニア10号と11号には、地球外知的生命に宛てたメッセージを搭載しています。152×229mmのこの金属板には、地球の相対的位置が図示されています。太陽系内における地球の位置は太陽とほかの惑星との関係で説明していて、まあこれはいい(この時代は惑星の数が、冥王星を含む九つでした)。では太陽系の位置はどう示したかというと、パルサーとの相対的な距離を示す絵を描き込んだのでした。

 パルサーはパルス状の電磁波を発する天体で、ざっくり言うと瞬いてるんですね。地上から見る星が瞬いて見えるのは大気の濃淡のせいですが、パルサーは真空でも瞬いていて(肉眼で判別できるものではないですが)、「宇宙の灯台」とも呼ばれます。
 この「灯台」を目印として、パイオニアの金属板には、太陽系が中心に来るように、14個のパルサーとの間を線で結んだ絵が描かれました。ちなみにもう1本、銀河系中心部までの相対的距離を示した水平な線もあり、これがいわばx軸に相当します。このほかには、長さの基準として水素の21cm波長や、パイオニアと人間との大きさを比較した絵などが描かれています。
 ですがこの絵、我々地球人の研究者の間でも、解読できなかった人ばっかりだったらしい。これがその金属板。



難解だよなあ ( ̄□ ̄) それでも試みは素晴らしい。一見シンプルな絵ですが情報量は相当なものです。 
 余談ですが、このメッセージは裸の男女の姿が描かれていることで非難を浴びたそうで、そのせいか77年に打ち上げられたボイジャー1号と2号には、色んな情報を吹き込んだレコードが積まれました(レコードの入れ物には、パイオニアと同じパルサーを基準にした太陽系の座標が描かれている)。途中の惑星探査を丹念に行ったボイジャーの存在によって、パイオニア計画は影が薄くなってしまった感があり、ちょっと残念です。パイオニアのメッセージプレートのほうが、ビジュアル的にはインパクト強いのにね。

 もともと、パイオニア両機はおうし座のアルデバラン(太陽系から65光年)とわし座(α星のアルタイルは同16.7光年)の方向をそれぞれ目指しており(といっても、到着すると停止したり着陸したりするわけではなく、たぶん惰性で星系を通り抜けるだけでしょうが)、距離的スケールが小さいので、仮にどこかの地球外知的生命がパイオニアに接触してこの金属板を理解してくれたとしても、それは我々の住む天の川銀河の範囲内の住人に限られそうです。

 ましてや、太陽系は天の川銀河の回転に乗る形で秒速約240kmで動いており、その天の川銀河全体も同600km超で移動し、銀河同士は局所的には接近しあいながらも、宇宙全体は膨張して天体間の間隙は拡大しており。。。とすべてが動いていて、相対的な位置関係は常に変化しています。まさに万物流転、宇宙的スケールと相対論的限界から「普遍の位置」などというものは存在しない。
 ことほど左様に、上も下もない広大な宇宙空間において、何かの位置を示すというのは難しいということですね。
 
 結局のところ、地球の座標を伝えられるような全宇宙共通のフォーマットというのは、まずつくれないのではないか、というのが結論のようです。今回インタビューした方は「共有できるスタンダードをどうやって見つけるか。環境の中で共有できるものを使わざるを得ない。知的生命に共通に理解できるものは数学があり得るのでは」と仰っていましたが、それを使って宇宙の果てにいる存在に、特定の座標を示すのは今のところ無理であろうということでした。
 そもそも「地球の位置を知らせるのは危険」という考え方も大昔から議論されているのですが、それ以前に知らせる方法が見つからないんだから、現時点では空論でしょう。

 知的生命は、この宇宙で決して特別ではなく、ごくありふれた存在なのかも知れない。でもお互いの居場所がわからないから探すあてがないし、伝えようもない。判明しても距離と時間の壁がある。この宇宙において、いまだに我々は孤独なままです。
 私たちは、どこにいるんだろうね。

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2023軌道エレベーターの日プレゼント当選者発表

2023-09-02 08:22:12 | その他の雑記
 今年の「軌道エレベーターの日」のプレゼント、この記事のアップをもって、締め切りとさせていただきます。ご応募いたいだのは以下の皆様でした。


 Taki 様
 エゴム 様


 ほんの2名様であっても、このようなしがないサイトをご覧いただけることへの感謝を込めて、両名様とも当選とさせていただきます。
 当選者の皆様には、追ってメールさせていただきます。プレゼントを取り寄せる時間もかかるので、いま少しの間、お待ちいただければ幸いです。
 今年もご応募、誠にありがとうございました。

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野辺山電波天文台に行ってきました

2023-08-28 21:13:11 | その他の雑記
軌道エレベーターの日記念プレゼント、ご応募お待ちしております。

 さて先日、長野県での所要の帰りに、同県南牧村にある野辺山電波天文台こと、国立天文台野辺山宇宙電波観測所に寄ってきました。
 同天文台は1982年(前身の野辺山太陽電波観測所は1969年)開所の、電波望遠鏡を多数備えた歴史ある天文台です。年末年始を除き通年で無料開放されているので、いつか行きたいと思っていた場所で、この機会にぜひ寄らねば! 足を運びました。

 電波望遠鏡は、私たちが直接または間接的に覗いて観測する光学望遠鏡ではなく、可視領域外の電磁波を観測する、ようは巨大なパラボラアンテナです。
 私たちに見える光は電磁波の一部の領域であり、その外側に幅広い波長の幅を持っています。天体が発する電磁波ももまた可視領域以外の電磁波を放っており、肉眼では見えないこの領域の波を観測することで色んな天体を観測できるわけです。そして異星文明からのメッセージをキャッチする可能性も有しています。
 地球規模で複数の電波望遠鏡を広域連動させて巨大な一つのアンテナとして用い、特定の対象を集中的・継続的に観測する目的にも用いられます。最近だと野辺山電波天文台は、2019年ブラックホールの撮影に成功した、イベントホライズン・テレスコープ・プロジェクトの予備実験にも参加しています。


 小難しい話はこの辺にして、現地の紹介や訪れた感想を。野辺山電波天文台は標高1342mの高原にあり、とにかく緑豊かで静か。時間が止まったような場所でした。
 施設内には大小色んな種類のアンテナが多数あり、受付を過ぎると目に飛び込んでくるのは、直径10mの「ミリ波干渉計」。星間物質などの電磁波を観測するやつで、6台ありますがすでに引退。
 土台のところにレールがあり、ロックを外して台車に載せ、敷地内のあちこちに動かすことができるようになっていたそうです。上下左右にも動くから、軍艦の砲台みたいで、これが6台もあるのはなかなか壮観です。


 その奥に鎮座ましますのが、現役かつ最大の「45m電波望遠鏡」。その大きさに比例して幅広い領域の電波を拾う施設であり、まっすぐな通路の一番奥にあって敷地内のどこからでも見えるだけに、このラスボス感はすごい。
 この日はかなりの暑さで日なたを歩くのが苦痛だったのですが、やはり高原の風自体は涼しく、望遠鏡の影に入っているととても気持ち良かったです。
 45m電波望遠鏡は現在メンテナンス期間であり、「真上を向いている時はお休み中」と書いてありました。なんかそっぽ向かれてるみたいね。

 45m電波望遠鏡との間に農場を挟んだ所には、太陽観測に使う「太陽電波強度偏波計」と「電波ヘリオグラフ」が並んでいます。太陽は中心より外側の方が温度が高いなど不思議な特徴を持っており、太陽観測はこうした疑問を解く様々なデータを提供してくれました。


 直径80cmの電波ヘリオグラフは何十台もずらりと並んでいます。全部退役してるんで敷地の端に寄せてあるだけなんでしょうが、まるで寺院に並ぶ百万塔のようだと思いました。

 このほかには、展示用のアンテナや、1949年に作られた日本初の電波望遠鏡のレプリカなどがありました。可能なら見学だけでなく職員の方に話を聞いたりもしたかったのですが、説明会やイベントの時などでないと無理そう。今回は取材じゃないから仕方ないね。


 近年、可視領域の天体観測が都市の光源や人工衛星による「光害」に阻害されていることが問題となっていますが、電波天文学もまた、携帯電話の登場で通信量の増加に拍車がかかり、ノイズが深刻化しています。今回訪れた野辺山電波天文台でも、見学エリアは携帯の電波を止めるよう求められています。これは文明が支払わねばならない代償なのでしょう。
 ざっくり見学しながら散歩しただけなんですが、緑に囲まれ、敷地内のあちこちにはきれいな花も植えてあり、天気にも恵まれて、これぞ信州長野の高原という開放的な気分を楽しめました。そして牧歌的な風景と、ハイテク装置の電波望遠鏡の組み合わせは新鮮でした。年1回という、設備内の公開にもいつか行ってみたいものです。

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きょうは軌道エレベーターの日(2023年プレゼント)

2023-07-31 20:36:41 | その他の雑記
軌道派の同志諸君、本日7月31日は「軌道エレベーターの日」です。
 毎度毎度ワンパターンですが、1960年7月31日、軌道エレベーターの父(の一人)であるロシア(当時はソ連)のユーリ・アルツタ-ノフが、「プラウダ」紙上で
静止軌道エレベーター
の構想を紹介しました。「軌道エレベーター -宇宙へ架ける橋-」に、このように述べられています。

 これこそ、軌道エレベーターの原理上の必要条件を正確に示し、
 かつその利点のすべてを正確に指摘した、史上初の構想であった


 軌道エレベーターの原初的アイデアは、同じくロシアのコンスタンティン・ツィオルコフスキーが先駆者と言えますが、地上から建造物を積み上げていくツィオルコフスキーのイメージに対し、アルツターノフは静止軌道から
ピラー
を吊り下げるという、軌道エレベーターの基本中の基本であるモデルを提唱したのでした。

 我が軌道エレベーター派はこの偉業に敬意を表すとともに軌道エレベーターの普及を願って、7月31日を「軌道エレベーターの日」と勝手に決めています。ただし「軌道」な。お忘れなく!
 で、毎年記念のプレゼントを差し上げております。今年は以下のものを予定しています。

1. 雑誌「フィギュア王」No.301 総力特集・超時空世紀オーガス 1名様
 「軌道エレベーターが登場するお話」で紹介した、我が軌道派の原点的作品「超時空世紀オーガス」について特集した雑誌です。ただしホビー誌なので玩具やプラモデルの紹介記事がメインです。このほかには簡単な設定紹介や制作者のインタビューなどを掲載しています。軌道エレベーターについて解説は全然ないんだけどね。

2. 学研 組み立て式天体望遠鏡ウルトラムーン 1名様
 アルテミス計画への関心から、月に興味を持つ子供たちも増えるだろうということでチョイス。対象は6歳以上とのことです。

3. 宇宙にちなんだグッズ 若干名様
 昨年に続き、ご応募があった場合に購入してお送りすることにしているので、届いてのお楽しみということにして下さい。これまでに、宇宙食やブロックなどをお送りしています。

 応募方法も毎年同じですが、以下の通り。

 必ずタイトルを「軌道エレベーターの日プレゼント希望」とした上で、ご希望の品と、このサイト上で公開してもいいハンドルネームを明記し、画面左「ご意見等はこちらへ」下のアドレスにメールでご応募ください。今回は8月31日を締め切りとし、そのハンドルネームを発表。当選者にのみ、こちらからメールを差し上げます(私の知り合いの方は書いてね)。
 その上で、送付先等を改めてお知らせいただきます。当選者の方は個人情報を送っていただくことになりますが、送付目的以外には使用しないことを確約します。送料は当方が負担しますが、個人情報保護のために私書箱等を設ける場合は、その代金は自己負担でお願いいたします。
 いつも定員割れですが、それでも今年もやります。応募、お待ちしています。

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14周年

2023-04-08 10:27:40 | その他の雑記
 軌道エレベーター派、お陰様で、今月で14周年を迎えました。ご覧下さる皆様、誠にありがとうございます。。。といっても、今年はお世辞にも失速気味であります。このところ、資料を読み込んだりする余裕がなくてサイト記事の更新がままならならず、なかなか話題提供できないのも一因ですが、これは軌道エレベーターの分野全体にも当てはまる状況です。

 例年、4月の「~周年」の記事には、軌道エレベーター界隈の見通しなどを書いているのですが、昨今の軌道エレベーターの話題性や研究動向は、下火といっていいでしょう。

 というのも、月面回帰を目指すアルテミス計画の本格始動、新たな日本人宇宙飛行士の選抜、民間ロケットの活発化などに、世間の耳目は移っています。また結局打ち上げはできませんでしたが、H3の一挙手一投足が話題を呼びました。
 軌道エレベーターの研究畑においても、この分野を活気づけた大林組の「宇宙エレベーター構想」の発表からもう10年余りが過ぎているほか、先日述べたように、研究者のトップランナーのお一人であった静岡大の山極芳樹先生が退官されるなど、全体として低迷期に突入しているようにも思えます。
 何よりも、最大の懸案である軌道エレベーターの素材面で進展が乏しいのは、この分野をSFの世界に押し込めたままにしている主要因とも言えます。

 だからといって、これまでのことが無駄だったかというと決してそんなことはなく、この10年余りの軌道エレベーター関連の研究や話題の増加は「軌道エレベーターというアイデアがある」ということを世間に知らしめ、軌道エレベーターまたは宇宙エレベーターを知る人はかなり増えたといえます。いわば軌道エレベーターの「常識化」の時代だったと評価してよいと思います。
 そして世間の関心に波があるのはむべなるかな、またしばらくの間、軌道エレベーターは隅へ追いやられるのではないか、と予想しています。

 とはいえ、個人でやっている(わずかに同志はいるのだが)我が軌道派としては悲観はしておりません。決して虚勢ではなく、地道な研究は行われているし、現代科学において、積み重ねをすっ飛ばしたブレイクスルーなどまずあり得ないものですから。
 そして何よりも、もともとあまり注目知られていなかった軌道エレベーターに着目し、掘り下げたり紹介したりするのが楽しくて始めたわけで、ようは、マイナーなことをやってる方が性に合ってるんです。
 「孤立してようか痛々しかろうが、理解者は少なくてもそれでも続けるんだよ (゚Д゚)クワッ」が、軌道派のスタンスです。

 というわけで、なかなか更新できず申し訳ありませんが、軌道エレベーター派、これからも続けていきます。どうぞよろしくお願いいたします。

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