軌道エレベーター派

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OEV豆知識(29) 軌道エレベーターの殿堂

2013-09-22 21:06:14 | 軌道エレベーター豆知識
 軌道エレベーターという情報が、日常で人口に膾炙というか、人々の一般知識の隅っこに席を得るようになったのはごく最近のことですが、その研究の系譜は、足かけ三つの世紀にわたる歴史を持っています。今回の豆知識は、この分野で顕著な実績を残した人々のうち、わが軌道エレベーター派の独断と偏見。。。では決してなく、まごうかたなく「殿堂入り」に値する7人(法人含む)をピックアップしました。軌道エレベーター史を語る時には決して外せない、偉大な先人たちを紹介します(敬称略。2013年9月22日現在の情報で、故人のみ生没年を記載。呼称は「軌道」に統一)。

コンスタンティン・E・ツィオルコフスキー(1857~1935)
 「ロケットの父」として知られるロシア(旧ソ連)の科学者。宇宙速度や多段式ロケットの理論など、ロケット工学を確立して宇宙開発の礎を築いたとして名高いこの人物が、早くも19世紀に軌道エレベーターの基となる構想を公にしていた。1895年、赤道上から垂直にどこまでも高く塔を建てた場合、昇るにつれて重力が軽減し、静止軌道では無重量状態になるという思考実験を、エッセイ『空と大地の間、そしてヴェスタの上における夢想』で紹介した。後述のアルツターノフと並ぶ「軌道エレベーターの始祖」と呼んでも差し支えない人物(書題の邦訳は『軌道エレベーター -宇宙へ架ける橋-』による)。

ユーリ・N・アルツターノフ
 同じくロシア(同)の技術者。ツィオルコフスキーは地上から建ててゆくモデルを想定していたとされるが、アルツターノフは現在の軌道エレベーターの基礎理論となる、静止軌道から吊り下げた構造のモデルを発案した。1960年、『電車で宇宙へ』と題し、7月31日付『コムソモルスカヤ・プラウダ』に発表した。位置エネルギーを利用した電力の回収や月面上の軌道エレベーターなどのアイデアも盛り込み、軌道エレベーターの標準モデルを確立し、利用可能性の多様さを示した。なんとまだご存命とのこと。なおこれを記念し、当サイトでは7月31日を「軌道エレベーターの日」と定めている(書題の邦訳は『SFマガジン』1961年2月号による)。

アーサー・C・クラーク(1917~2008)
 ご存じ『2001年 宇宙の旅』の原作者として有名な英国のSF作家。アイザック・アシモフ、ロバート・A・ハインラインと並ぶ「SF御三家」として、日本でも不動の人気を誇る。1979年に軌道エレベーターの建造をテーマにした小説『楽園の泉』(邦訳は早川書房刊)を発表。軌道エレベーターの発想を一般の人々に知らしめることに多大な貢献をし、このテーマを語る時に欠かせないバイブルとなった。同作のほかにも、『2001年─』の続編『3001年 終局への旅』(1997年)や、『太陽の盾』(2005年)、『最終定理』(2008年。いずれも邦訳は早川書房)などにも軌道エレベーターを登場させている。

金子隆一(1956~2013)
 日本の作家、サイエンスライター。1997年、石原藤夫(後述)とともに、世界初の軌道エレベーター専門書『軌道エレベータ -宇宙へ架ける橋-』を発刊(初刊は裳華房刊。2009年に『軌道エレベーター -宇宙へ架ける橋-』に改題し早川書房から復刊)。このほかにも、極めて早くから軌道エレベーターの意義に着目し、クラークの『楽園の泉』の発表と同じ1979年には、設定に携わったTVアニメ作品『宇宙空母ブルーノア』で、映像作品としては初めて軌道エレベーターを登場させているほか、数多くの著述で軌道エレベーターを紹介、解説した。今年8月30日、惜しまれつつもこの世を去った(『軌道エレベーター』の筆頭著者は石原氏ですが、金子氏に敬意を表し先に紹介させていただきました。ご冥福をお祈りいたします)。

石原藤夫
 日本の作家。上記『軌道エレベータ(ー)』の著者。同書は軌道エレベーターの意義を見出し、先行研究やアイデアの応用例など、広い視野で研究を包含、紹介する歴史的な一冊となった。それまでSFのネタでしかなかった軌道エレベーターに、一つの研究分野として学術的に正しい評価を与えた。『惑星』シリーズ、『宇宙線オロモルフ号の冒険』(いずれも早川書房)などのSF小説や、解説書なども著している。

ブラッドリー・C・エドワーズ
 米国の物理学者。米ロスアラモス国立研究所で軌道エレベーター研究に携わり、成果をまとめて出版。このうち『宇宙旅行はエレベーターで』は2008年にランダムハウス講談社から翻訳書が発刊、今年6月にオーム社から復刊されている。建造プロセスや必要な年数、輸送コストなどをシミュレーションし、初めて詳細かつ本格的に打ち出したもので、後述の大林組のモデルと並ぶ、軌道エレベーターの規範となる具体像を描いた。

大林組(法人。石川洋二氏をはじめとする『宇宙エレベーター建設構想』プロジェクトチーム)
 完成したひとつの軌道エレベーター構想を、最新の知見にもとづき建設プランとしてまとめた『宇宙エレベーター建設構想』を2012年に発表。ピラーの長周期振動や荷重による伸長などを具体的なパラメータで計算し、2050年には建造可能という見解を示した。2013年現在、軌道エレベーターの最新研究といえば、必ずこのプロジェクトが紹介される。この分野の研究において貴重なベンチマークを提供し、日本がリードする牽引力となっている。

 ──今回は「軌道エレベーターが一般に普及することへの貢献」に重きを置いて、この業界でよく知られた方々を殿堂入りとしましたが、このほかにも、同じくらいふさわしい方々を申し添えておきます。
 西側世界で早くに軌道エレベーターを研究したジョン・アイザックスらのチームやジェローム・ピアソン、ポール・バーチとG.ポリヤコフ(いずれもORSの提唱者)、ロバート・ズブリン(極超音速スカイフックの研究)、D.V.スミサーマン(NASAの研究レポートの編者)ら、フィリップ・レーガン(エドワーズの共同研究者)、チャールズ・シェフィールド(『星ぼしに架ける橋』著者)。日本では、おそらく世界で初めて軌道エレベーターが登場する小説を書いた小松左京、石川憲二(『宇宙エレベーター -宇宙旅行を可能にする新技術-』著者)、佐藤実(『宇宙エレベーターの物理学』著者)などなど。。。
 そして宇宙エレベーター協会も殿堂入りに値すると思ってはいるのですが、当事者である私自身が選出したら内輪褒めになってイタいだけなので、とりあえず外します。我々の評価は後世の歴史家次第といったところでしょうか。

 「軌道エレベーター学」あるいは「軌道エレベーターネタ」も、ずいぶんと広がりを見せてきました。それもこれも、上述した方々をはじめとする、偉大なパイオニアたちのお陰です。みんな人に先んじてオービタってきたのだ。この原稿をまとめている最中に、金子隆一先生が亡くなり、惜しまれてなりませんが、こうした方々に感謝と敬意を表しつつ、足跡を受け継いでいかねばと実感します。

 この7人が後に「軌道派の七賢人」と呼ばれることになるのである。。。かどうか。

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