先日所用で盛岡へ出かけた時には鶯宿温泉で一泊したのですが、ただ泊まるだけでは芸がないので、時間の許すかぎり当地で湯めぐりすることにしました。まず1湯目は温泉街の中心部に位置している「清光荘」です。廃業相次ぐ当地でも頑張って営業を続けているお宿の一つですが、袖看板も建物全体も相当年季が入って草臥れており、某大手予約サイトから予約した方は実際のお宿を目にすると不安に陥るかもしれません。
玄関で「ごめんください」と声をかけると、帳場からゆっくりとおばあちゃんが登場。入浴をお願いしますと「これから団体さんが来るんだけれども、今だったら大丈夫ですよ」とのことで、無事入浴することができました。鶯宿温泉は、表向き多くの宿で日帰り入浴が可能となっているのですが、実際にはお宿の都合によって不可な場合も多々ありますので、利用の都度確認をした方がベターです。
脱衣室は棚がくくりつけられているだけの、至ってシンプルな造り。壁クロスも床も棚のペンキも、室内全てが色褪せており、おそらく建物が建てられた当時のものがそのまんま使われ続けているような雰囲気です。風通しも決して良い方ではなく、扇風機も無いため、夏だったら相当蒸し暑くなりそうな予感がしますが、そんな古さを払拭すべく室内はきちんと清掃されていますので、実使用においては特に問題ありません。
全面タイル貼りの浴室は、モスグリーンの側壁だけ見ると渋い印象を受けますが、床は白と青のタイルでストライプ模様となっており、全体的に捉えるとひと昔前のアトリエのようなアーティスティックな装いに見えなくもありません。
左側が手前に出っ張っている浴槽は、槽内には水色の小さなタイルが、そして縁には群青色のタイルがそれぞれ貼られており、この濃淡の青系配色によって無色透明のお湯の透明感がより際立っていました。なお手前側へ出っ張っている部分は浴槽の底が浅くなっています。浴室内にはふんわりと薄く石膏泉のような匂いが漂っていました。
洗い場には混合水栓が6基設置されており、うちシャワー付きは3基(そのうちの1つは立って使うもの)です。腰掛けも桶も各水栓前にきちっと並べられており、整理整頓を徹底している浴室からは旅館としての矜持が感じられます。
洗い場の混合水栓も、浴槽に加水するための水道蛇口も、お湯に含まれる硫黄の影響で悉く黒く変色していました。分析表によれば総硫黄は硫化水素イオンの0.8mgしかありませんが、実際のお湯はイオウ感を有していますし、こうした金具類も自らの姿を変貌させることによって硫黄の存在を証明してくれています。
石積みの湯口から湯船へ注がれるお湯は、鶯宿温泉でもメジャーな源泉である八九四の湯。おばあちゃんが私をお風呂へ案内してくれたときに「熱いからよくかましてね(「掻き混ぜて」の意)」と教えてくれたのですが、この時の湯船は本当に熱く、そのままでは入れたもんじゃなかったので、水道の水を大量に投入し、且つ桶を使って懸命に掻き混ぜて、なんとか入れそうな温度まで調整しました。
お湯は無色澄明で湯の花などは見当たりません。薄いタマゴ味とともに、弱い芒硝感や石膏感が得られました。分湯槽から配湯されてきたお湯をそのまま注いでおり、完全掛け流しのお湯は新鮮そのもの。弱いツルスベと弱いひっかかりが拮抗する浴感があるのですが、それ以上に鮮度の良さゆえのキリリとした浴感がとても嬉しく、体が多少のぼせかかっても、その浴感の良さのために湯船から出る時は後ろ髪を引かれる思いでした。鶯宿温泉の中小規模旅館はどこでも苦境に立たされているようですが、お湯の鮮度の良さに限って見れば、中小旅館の方がはるかに優れていますね。
八九四の湯
単純温泉 60℃ pH8.3 溶存物質0.6536g/kg 成分総計0.6537g/kg
Na+:153.3mg, Ca++:34.5mg,
Cl-:42.2mg, SO4--:325.7mg, HS-:0.8mg,
H2SiO3:66.1mg,
(平成9年2月4日)
盛岡駅東口(10番のりば)より岩手県交通バスの鴬宿温泉行きで終点下車、徒歩3~4分(約300m)
岩手県岩手郡雫石町鴬宿第6地割14-1 地図
019-695-2136
10:00~19:00(要確認)
400円
シャンプー類・ドライヤーあり
私の好み:★★