温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

市比野温泉 世界一温泉

2013年06月10日 | 鹿児島県

各地を旅していると、「探偵ナイトスクープ」で桂小枝が取材にきそうな、常識を超越した不思議な世界観によって構成されている施設に遭遇することがありますが、長閑な田園風景が広がる鹿児島県市比野温泉にもそんなエキセントリックワールドがありました。その名も「世界一温泉」。名前からして面白そうな匂いがぷんぷんしますね。敷地入口では「いらっしゃいませ」と書かれたアーチがお出迎え。一体どんなことが「世界一」なんでしょうか。


 
この温泉を紹介しているサイトやブログでは、皆さん必ずこの敷地内に無数に置かれている石像を面白要素として取り上げていますが、確かにこれを見て何とも思わない人なんていませんよね。灯籠や五重塔ならともかく、仏様・動物・各種キャラクターなど、そのラインナップは方向性がバラバラで、完全にカオス状態。ここって石屋さんなの?



駐車場の前には個室風呂の並ぶ棟が建っており、各個室の入口には浮世絵がプリントされた暖簾がさがっていました。なお駐車場に立っている看板には、ここの温泉について「みょうばん泉」と謳っていますが、これは明らかな誤りです。


 
受付棟で料金を支払うと、10枚集めれば1回入浴無料になるサービス券をくれました。次回ここに来れるのはいつになるのだろうか…と思案しながら、前足を上げて嘶きながら左右に立っている白黒の馬の石像の間を抜けてゆくと、左手の受付棟側には飲泉処が設けられていました。こちらの温泉は飲めることを売りのひとつにしており、「どれどれ、入浴前に飲んでみるか。どんなお湯かね」と警戒心ゼロでお湯に触れたら、あまりの熱さにびっくり慄いて、飲泉するのを忘れてしまいました。



こちらが浴場棟。


 
脱衣室からいきなり不思議な世界が広がっていました。左右に分かれたふたつの部屋がつながっており、入口のある右側の部屋には小上がりやロッカーがあるごく普通の脱衣室なのですが、その奥にある左側の部屋にはマッサージチェアーや乗馬マシーンが所狭しと置かれており、その周囲をコインロッカー群が囲んでいました。脱衣室としての使い勝手よりも、マッサージチェアーを優先して置いちゃうところが面白いですね。
室内の壁には、この施設を運営する会社の社長がどこぞへ寄付したとか、社会貢献したとか、公園を開業させたとか、いかにもこの手の不思議施設にありがちな、オーナーさんの自己顕示欲を前面に押し出している広告や新聞記事が掲示されていました。オーナーさんは元々広島県の呉で造園業を営んでいるんですね。敷地内に石像がたくさん置かれてるのは、その本業関係なんでしょう。



室内に用意されていた飲料水も摩訶不思議。説明によれば、温泉水に電子をかけた「すばらしい電子水」なんだそうでして、「血行を良くし、血液の浄化を促進します」とのこと。私は口にしませんでしたが、信じるものは救われるのかもしれませんね(これをプラセボ効果と称するんでしょけど)。


 
浴室にも動物を象ったいろんな石像が置かれていました。とはいえ、数は少なく存在感も控えめでして、浴室では温泉に主役を譲っているのでしょう。
室内にはうっすらとタマゴ臭が漂っていました。左側にはシャワー付き混合水栓が6基並んでおり、水栓から出てくるお湯はおそらく源泉かと思われます。


 
室内には浴槽が4つあり、うち真ん中に据えられてる2つが主浴槽。画像左(上)は手前側に位置している適温槽で、一方画像右(下)は湯口のお湯が直接注がれている熱めの槽です。竹筒の湯口まわりにはコップや柄杓が置かれていたので、さきほど受付棟での飲泉をし忘れた私はここでお湯を飲んでみたところ、ほぼ無味無臭で癖のないアッサリとしたものでしたが、強いて言うならば、アルカリ性泉的な微収斂とゴムっぽい知覚があったようななかったような…。なお見た目は無色透明ですが、うっすら褐色がかっているようにも見えました。


 
露天風呂の傍に設置されている、大きな丸い金盥を重ねたような浴槽は電気風呂なんだそうでして、壁に貼ってある説明によりますと、利用時には頭上にぶら下がっている電極を湯船の中に入れるんだそうです。こんな使用方法の電気風呂って他に存在するんでしょうか。電極を目にしたときは、てっきり拷問道具かと勘違いしちゃいました。なおお湯をオーバーフローさせながら電極を湯船に突っ込むと故障しちゃうそうですよ。どういう仕組みになってるんだろうか?


 
露天風呂エリアは思いのほか狭く、岩やコンクリの塀が迫っているため圧迫感があり、景色が楽しめるような造りではありません。せいぜい打たせ湯が目を引く程度なので、はじめはあまり関心を抱かなかったのですが、この打たせ湯を浴びたら考えが180度変わりました。てっきり全ての浴槽に同じお湯を引いているのかと思いこんでいたのですが、この打たせ湯だけは他のお湯と異なる知覚的特徴を有しているのです。見た目は明らかに褐色を帯びており、近寄るだけでも確認できるほどタマゴ臭がはっきり漂い、口に含めば薄いながらも明確なタマゴ味が感じられました。ここだけ違う源泉なのか、はたまた湯使いの違いによるものなのか。



なお同じ露天風呂でも、打たせ湯ではなく湯口がある方の浴槽は、内湯と同様のお湯でした。


 
内湯の電気風呂と並んで不可思議なものが、一部の浴槽に仕込まれている気泡発生装置です。画像左(上)は内湯、右(下)は露天の状況ですが、底にパイプが一本敷設されており、常時ブクブクと細かい泡をあげていました。ジャグジーにしては勢いが弱く、熱帯魚用水槽のエアーポンプみたいな感じだったので、これは一体なんじゃろな?と不思議に思いつつ、脱衣室内を見回してみたら…



どうやら室内に置かれているこうした機械からエアーあるいは磁気と思しきものが送られているようでした。館内の説明によれば「自然界の清浄な空気を再現する磁気エアー」を浴槽内に送り込んでいるんだそうでして、これによって健康の増進に役立つとのこと。上述の飲料水と同じようなものなんでしょうね。ま、事の真偽については敢えて措いておくとして、空気の綺麗さに関しては、市比野温泉界隈は都会に比べりゃ遥かに空気が澄んでいますから、こんな機械を使わなくたって空気の清浄は維持できるんじゃないかと思うのですが…。


 
浴室は上述のお風呂に並行してもう一つあり、こちらには小さな岩風呂が4つ並べられています。各岩風呂には打たせ湯用の配管が設置されているのですが、バルブを前回にしてもうんともすんとも言わず、しかも一部の槽は冷たくなっていたので、今回こちらは見学のみにとどめておきました。

結局何が「世界一」なんだか理解できないまま退出してしまいました。お湯はこの界隈では特に珍しいものでもありませんし、謎の「磁気エアー」なるものも「世界一」という概念とは結びつきそうにありません。いや、ひとつの温泉施設に置かれている石像の数は世界一かもしれませんね。オーナーさんのマジかジョークかわからないエキセントリックな世界観を楽しむべき場所なのでしょう。みうらじゅんのイベントへ出かけてしまうような感覚を持つ私は、悔しいかなユルいキャラクターの石像群にハートを掴まれてしまいました。鹿児島の、あるいは温泉界の「石景山遊楽園」と名づけたくなる温泉施設でした。


単純温泉 56.8℃ pH9.4 溶存物質278.8mg/kg 成分総計278.8mg/kg
Na+:76.1mg(96.78mval%),
Cl-:53.7mg(44.81mval%), SO4--:19.8mg(12.17mval%), HCO3-:54.3mg(26.41mval%), CO3--:11.7mg(11.57mval%),
H2SiO3:55.7mg,

鹿児島県薩摩川内市樋脇町市比野1173-1
0996-38-1155

10:00~22:00 無休
500円
ロッカー・ドライヤーあり

私の好み:★★
コメント (2)
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