半透明記録

もやもや日記

『時を生きる種族 ファンタスティック時間SF傑作選』

2014年01月21日 | 読書日記ーSF

ロバート・F・ヤング、フリッツ・ライバー他
中村融編(創元SF文庫)



《内容》
時間エージェントは、9世紀の宮殿から『千一夜物語』の語り手シェヘラザードを連れ帰ろうとした矢先、見知らぬ世界へ飛ばされた。さらに彼女に恋をされ――ヤング「真鍮の都」に始まり、時と場所を問わず過去を撮影できるカメラを発明し、何本もの“真実の”歴史映画を製作した男たちの物語――シャーレッドの傑作「努力」まで、本邦初訳2編を含む全7編。


《収録作品》
 「真鍮の都」 ロバート・F・ヤング
 「時を生きる種族」 マイケル・ムアコック
 「恐竜狩り」 L・スプレイグ・ディ・キャンプ
 「マグワンプ4」 ロバート・シルヴァーバーグ
 「地獄堕ちの朝」 フリッツ・ライバー
 「緑のベルベットの外套を買った日」 ミルドレッド・クリンガーマン
 「努力」 T・L・シャーレッド


《この一文》
“つまり、そういうことはじっさいに起こったし、ふたたび起きても不思議はない。いまだって起きているかもしれない。そういうことが起きたのは、ねじ曲げられた真実が、国家間の、党派間の、人種間の感情にあまりにも長く刷りこまれてきたからだ、という主張だ。多くの者がおれたちと同じ意見を持ちはじめたときはうれしかった。つまり、過去を忘れることは大切だが、視野を広くとり、偏見のない目で過去を理解し、評価することのほうがもっと大切だ、という意見だ。おれたちのいおうとしていたのは、まさにそれだったんだ。 ”
     「努力」 T・L・シャーレッド より




あまりにも面白かったので、絶えずつきまとう息子の猛攻を交わしつつ、彼の昼寝の合間に、あるいは私自身の昼食を台所で立ち食い早食いするその間に、じりじりと細切れにしかし飛ぶような勢いで読み進めました。いやー、やっぱりアンソロジーっていいですね! SF傑作選というタイトルの通り、どれもこれもものすごく面白い作品ばかりでした。はあ~、痺れたわ! あー、楽しかった! ありがとう! ありがとう! なんだか興奮を抑えきれない!


というわけで、全部で7つの物語。いずれも読み応えたっぷり、ファンタジックなものもあればロマンティックなものあり、シリアスなものもあればユーモラスなものありとそれぞれが独自の世界観と魅力を備えた、素晴らしい傑作選です。「真鍮の都」ではいきなり幻想的なお話に夢中にさせられ、ムアコックの「時を生きる種族」はなんのこっちゃと思っていたらガツンとくるような展開に、「恐竜狩り」ではその鮮やかかつ巧みな語り口にハラハラし、シルヴァーバーグの「マグワンプ4」はなんだかおとぼけだなあと笑っていたら思わず硬直するような結末を迎え、フリッツ・ライバーの「地獄堕ちの朝」は安定の面白さと格好良さ。「緑のベルベットの外套を買った日」のロマンティック加減は「少女漫画か!?」というほどで、そんなうまい話があるかよと言ってしまえばそれまでですが、ご都合主義でもいいじゃないか! 私はトキメキましたよ!

ここまででも十分に面白かったですが、最後の「努力」が特に強烈です。なるほどこれは傑作ですね。どことなく、コスタ=ガブラス監督の映画『Z』を思い出させるような、切れのある、情熱に満ちた、胸を打つ作品でした。100頁ほどの小説ですが、もう少し長かったのではないかと思わせるような感触があります。
過去のあらゆる時と場所を撮影できるカメラを発明した男マイケルとそのパートナーであるエドが、いかにして人類の「真実の」歴史映画を製作し、それを世に送り出すのか。そしてまた彼らはその機械を手に入れたという事実をどのように受け止め、自身の人生を決定していくのか。彼らが製作した映画とその機械の存在によって、世界はどうなってしまうのか。というお話。
面白かったなあ。もしも人類が、すべての人がそれぞれに、自分たちの生きるこの世界の「真実の過去」を見られるようになるとしたら、それは私たちにどういう衝撃となって押し寄せるのでしょうか。あるいは、「真実の過去」を見られる手段が存在するとして、果たしてそのような手段を共有することが人類には能力として可能なのでしょうか。誰かの思惑が世界を動かしているかもしれない、そしてそれはいつも隠されているのかもしれない。多くの名もなき人々は生きるも死ぬもただただ翻弄されるばかり。過去のすべてが明らかになるとしたら、私たちはついに何者にも支配されない世界に生きられるようになるでしょうか。
力作。傑作。




長編を読むだけの集中力を維持するのは難しいので、しばらくは短編集を読んでいこうと思います。アンソロジーは素敵だ!






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