半透明記録

もやもや日記

『ブラジルから来た少年』

2011年05月28日 | 映像
1978年 イギリス

出演:グレゴリー・ペック/ローレンス・オリヴィエ
監督:フランク・J・シャフナー
音楽:ジェリー・ゴールドスミス


《あらすじ》
第二次大戦から30年、世間からも忘れられかけた年老いたナチ残党追跡者リーバーマンのもとへ、南米から1本の電話がくる。通話相手のアメリカ人青年は、ナチスの残党がそこで結集し、秘密の恐ろしい計画を立てていることを突き止めたと言うのだが……。






いつも思うことですが、ヒトラーおよびナチスって、ちょっと悪く描かれ過ぎじゃないですかね。悪の化身とか、悪魔の申し子みたいに描かれすぎると、実際のところはどうだったのかと気になってしまいます。物語のキャラクターとして、そのように描くのにはたしかに魅力ある素材だということは分かるんですけれども。

私はなにも彼らを肯定するつもりはありませんが、酷いことが起こって、その責任を特定の誰かにすべて押し付けておけばいいや、自分たちは何も知らなかったし、ただの被害者だったんだ、それで片が付いた、あるいは相手を「悪」と断罪することによってさも自分が「善なる者」であるような錯覚、というふうな気配を感じることもあるわけです。そういうことは歴史が悲劇を証明している、のかもしれませんが、その「歴史」の信憑性って、どのくらいのものかな、と私などは思ったりもするんですよね。報道資料や個人の手記や発言の記録などは一面的で、あまり当てにならなかったりするということを、最近になって身にしみて感じていますしね。結局は誰もが好き勝手なことを、自分の都合のいいようなことを言っているだけではないか、なんてね。いや、それを検証するのが、そういうのを含めて検証したのが、「歴史」なのかもしれませんけど。膨大な情報のなかからどれを残すのか。そこには何の思惑も入り込まないものだろうか。とか。
事実をその通りの大きさで評価するのは難しい。物事の善し悪しを判断するのは、私には難しいのです。



それはともかく、この『ブラジルから来た少年』。上に書いたように、ヒトラーやナチの残党が登場します。ジャンルとしては、オカルトサスペンスとでも言えますかね。

南米に潜伏しているナチの残党は、ある計画を立てます。それは「2年以内に、ヨーロッパおよびアメリカで94人の男を殺す」というもの。「94人」という人数は正確ではないかもしれませんが、100人弱の男たち、その職業はだいたいが公務員で、年の離れた若い妻を持つ、ごく普通の男たちです。奇妙な計画でした。

ネタバレをしますと(ご注意ください!)、この奇妙な計画の目的は、この世界にふたたびヒトラーを再生させることです。ナチスの医師メンゲレは、潜伏先の南米の密林の中で、生前のヒトラーから採取した細胞から100体近いクローンを生み出します。生み出されたこどもたちは、各国の、特定の条件を満たす家庭の養子となるのです。遺伝的な同一性だけでなく、生育環境の同一性にもこだわっているあたりが、慎重なんですね。
そしてこどもたちが成長して父親との別離を経験しなくてはならない年頃になり、そのためのあの奇妙な暗殺計画だったというわけです。果たして、ヒトラーはふたたびこの世に飛び出してくるのだろうか。というお話。



この計画の目的が明らかになるところくらいまでが、ハラハラします。各地で目撃される問題の少年たちは、当然ながらそっくり同じ風貌ですが、その少年の風貌が非常に印象的です。よくこんな男の子を見つけてきたものだと、感心してしまいました。忘れがたい顔つきをしています。

それから、グレゴリー・ペックが医師メンゲレ役を演じているのですが、大スターの彼は、ただでさえ大柄で目立つ姿をしていますが、それにしてもスターのオーラが出過ぎていて圧倒的存在感を放っていました。すごい迫力。これぞ狂気。最後の場面なんかは凄まじかったですね。

そして、ローレンス・オリヴィエ演じるリーバーマン。この人の思想的バランスの良さが、このお話の肝でしょうね。リーバーマンは、過去の犯罪的行為は許さない、けれども、犯罪者の遺伝子をそのまま受け継いでいるがまだ何事も為していない者の、その未来までをも断罪しようという気はありません。この点については、私はもうちょっと深く考えたいところですが、いまのところ、まだ掘り下げることができていませんので、今後の課題としておきます。(でも……最後のアメリカで遭遇した「少年」のアレは犯罪ですよねー。仇討ち無罪? いやでも、犬、怖いわー……)



最後まで飽きさせない、見事な映画でした!









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