半透明記録

もやもや日記

『壁』

2005年03月14日 | 読書日記ー日本
安部公房 (新潮文庫)



《あらすじ》

ある朝、突然自分の名前を喪失して
しまった男。以来彼は慣習に塗り固
められた現実での存在権を失った。
自らの帰属すべき場所を持たぬ彼の
眼には、現実が奇怪な不条理の塊と
うつる。他人との接触に支障を来た
し、マネキン人形やラクダに奇妙な
愛情を抱く。そして....。独特の寓
意とユーモアで、孤独な人間の実存
的体験を描き、その底に価値逆転の
方向を探った芥川賞受賞の野心作。



《この一文》

” 間もなく壁は見渡すかぎりの曠野の中に、ただ一つの縦軸として塔のようにそびえ立ちました。
      ーー「第一部 S・カルマ氏の犯罪」より ”



とてもシュールです。
名刺が女の子といちゃついたり、狸に影を食われたりします。
かなり面白かったです。
これまで読んだ中では(『砂の女』『カンガルー・ノート』『第四間氷期』だけですが)、最も幻想的でした。
面白い、面白い!
盛大に面白がってしまいましたが、テーマは深刻です。
現実の世界での存在権を失ってしまったら、どうしたらよいのでしょうか。
なんだかとても不安です。
それなのに、物語に悲壮感はありません。
「第一部 S・カルマ氏の犯罪」の終わりでは、涙がこぼれそうに感動します。
忘れてしまわないように引用しておきましょう。

” 見渡すかぎりの曠野です。
  その中でぼくは静かに果てしなく成長してゆく壁なのです。  ”

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2 コメント

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Unknown (kaji)
2005-03-30 21:47:12
わかります!ラスト感動しますよね~!

裁判のシーンとか、笑えるんですが何を表さんとしているかが分かってくると、だんだんと不安になってきます。

安部公房はどんな深刻なテーマを書いても悲壮にならないで、一種爽快なカタルシスが残るのが不思議です。



以前、間抜けなコメントをして以来、恥ずかしくて来られなかったんですがリンクしてくださったんですね。ありがとうございました。

レビュー本のセレクトが只者じゃないですね!ストルガツキー是非読んでみたいと思います。

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ようこそおいでくださいました! (ntmym)
2005-03-30 22:47:20
kajiさま、こんばんは!

再びコメントをいただきまして、ありがとうございます!

実は私の方では、kajiさんのブログをちょくちょく拝見しております。

文章がとってもお上手ですよね~。

私のマニアックな読書感想に興味をもっていただいて、なんだか恐縮しています。

今後ともどうぞよろしくお願いします!



『壁』は、文章の美しさに感激でした。

恐ろしいですね、安部公房は。

私は他に日本人の小説をほとんど読まないので適切ではないかもしれませんが、

安部公房の感覚はちょっと日本人離れしてますよね。

タイピストの名前が「Y子」というのは日本的ですが。

でもちょっと官能的な感じでもあるような。

この人の文章は好きですね。

あと取り扱うテーマの重さも。



さて、ただいま「ストルガツキイ祭り」を開催中です。

はじめは洒落で言ったつもりだったのが、参加して下さる方がいらして、

びっくりでした。

ありがたいことですね☆

みなさんの感想を拝見すると、納得することしきりです。

ストルガツキイは面白いですよ~。

kajiさんもよろしければ御参加くださいませ!
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