半透明記録

もやもや日記

「かえるくん、東京を救う」

2011年11月09日 | 読書日記ー日本

村上春樹(新潮文庫『神の子どもたちはみな踊る』所収)



《あらすじ》
ある晩、片桐がアパートの部屋へ帰ると、巨大な蛙が待っていた。その蛙は片桐にひとつ用件があると言う。蛙が言うその用件とは、「東京を壊滅から救う」こと、片桐と一緒に。


《この一文》
“「誤解されると困るのですが、ぼくはみみずくんに対して個人的な反感や敵対心を持っているわけではありません。また彼のことを悪の権化だとみなしているわけでもありません。友だちになろうとか、そういうことまでは思いませんが、みみずくんのような存在も、ある意味では、世界にとってあってかまわないものなのだろうと考えています。世界とは大きな外套のようなものであり、そこには様々なかたちのポケットが必要とされているからです。 ”




私は村上春樹を読まないのですが、「かえるくん、東京を救う」という短篇は、現在放送中のアニメ『輪るピングドラム』に関係のありそうな場面があったので、良い機会だと思い読みました。kajiさんが貸して下さった!

それで、「かえるくん…」だけをまずは読んでみたわけですが、面白かったです。けれども、どういうことだか私にはよく分からなかった。どういうことを言おうとしているのかが、ハッキリとは分からなかった。結末は悲しい、無力感のような、空虚のような、狭くて何もない部屋に放り込まれたような、それでそこから出られないような、そんな気持ちがしましたね。



以下は物語のまとめです。未読の方はご注意を。

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かえるくんは東京を壊滅から救おうとする。そのために、地下で東京壊滅の原因となろうとしている「みみずくん」と闘うつもりだ。かえるくんは孤独なその闘いを支援してくれるように片桐に頼む。片桐は東京安全信用金庫新宿支店融資管理課の係長補佐で、風采の上がらぬ独身者だが、真面目に職務をこなし脅しに屈せぬ勇気と強靭さを持った人物。かえるくんは一緒に闘うのは、その片桐でなければならないと言う。

東京壊滅の前夜、かえるくんと片桐は地下ボイラー室で待ち合わせていたが、片桐がその直前の夕方に狙撃され、約束の場所には行けなかった。目ざめると病室で、約束の時刻はとうに過ぎ、翌日になってしまっていた。東京は壊滅していなかった。

その夜にかえるくんがやってきて、片桐は約束の場所へ行けなかったことを詫びるが、かえるくんが言うには、前夜はかえるくんと片桐とはちゃんと一緒に闘ったらしい。かえるくんはみみずくんを倒すことはできなかったが、引き分けることはできた。かえるくんは重傷を負った。

かえるくんは片桐の目の前で眠りにつき、その体は瘤状に隆起しては弾けて中から無数の虫が這い出す。暗黒の虫は片桐のベッドの中にも入ってきて、片桐は叫びながら目を覚ます。


*********




このお話で重要なのは、「かえるくんと片桐とが、みみずくんと闘って東京壊滅を救ったことを、誰も知らない」ということでしょうか。彼らの闘いは「想像力の中でおこなわれました」とあるので、誰も知らないのは仕方がないかもしれませんが。あるいは、片桐が自分の人生を充実させることよりもその弟妹を育て上げることに時間と財産を費やしたことを、誰も知らないし、その当の弟妹も感謝すらしていないということ。または、片桐が厳しい職務を果していることを上司や同僚が正しく評価しないばかりか知ろうともしないということでしょうか。

誰かが別の誰かのために、なにか正しいと思うもののために働いているという事実が尊いものとして描かれながらも、時としてそのような人物や行動はまったく無視されてしまうこともあるところにひとつの焦点が当たっていたかと思われます。

誰も知らない死闘の末、かえるくんと片桐はみみずくんに勝利することはできず、傷ついたかえるくんはその内側から崩壊して真っ黒な虫に変わってしまう。かえるくんは失われ、片桐は目覚めを繰り返し、どこからが夢でどこからが現実であったのかがもう分からない。ここがとても悲しい。ここが、とても悲しい。どうしてかえるくんは勝利できないのか。どうしてかえるくんは失われてしまうのか。かえるくんの中の「非かえるくん」とは何なのか。どうしてかえるくんは誰の目にも見えないのか。



どんなふうに読み解けばよいのか、私にはまだ分からないようです。かえるくんはところどころでトルストイの『アンナ・カレーニナ』やドストエフスキーの『白夜』について言及するのですが、片桐同様私もそれらをまだ読んだことがないので、読んだらもう少し理解が深まるでしょうか。どうだろうな。









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