
《内容》
不可思議で、奇妙で、痛々しく、哀しみに満たされた、これは現実をかたる物語たち――失われ、取り戻される希望、ぎこちなく、やり場のない欲望、慰めのエクスタシー、寂しさと隣り合わせの優しさ、この世界のあらゆることの、儚さ、哀しさ、愛しさ。
少女たちが繰り広げるそれらの感情が、物語を超え、現実の世界に突き刺さる。
本処女作にして強烈な才能を発揮し、全米書評家たちをうならせ絶賛された、珠玉の傑作短編集。
《収録作品》
*思い出す人
*私の名前を呼んで
*溝への忘れもの
*ボウル
*マジパン
*どうかおしずかに
*皮なし
*フーガ
*酔っ払いのミミ
*この娘をやっちゃえ
*癒す人
*無くした人
*遺産
*ポーランド語で夢見る
*指輪
*燃えるスカートの少女
《この一文》
“私の髪は茶色。ときどき私は一週間ばかり赤毛に染めてみることがあったが、それは小間使いにお姫さまのガウンを着せるような気分だった。育ちがともなっていなかった。
―――「ポーランド語で夢見る」より ”
女性的であるとか、あるいは男性的であるとか、そういう区別をどういうふうにしたらよいのかはっきりとは分からないけれど、現実あるいは幻想のなかにおいては、たしかに女性的とか男性的と感じられるものがあって、これらの作品は紛れもなく女性的な感じがしました。書いたのが女性だからというだけでなく、感性の鋭さの方向が女性的というか。
前半の「皮なし」までの物語では、私にしてみれば特にその傾向が強く感じられ、あまりの生々しさにさっと血の気が引くようです。耐え難いほどです。「溝への忘れもの」がもっとも耐え難かった。吐きそう。「マジパン」はちょっと面白かったけど。
生々しいといってもそれはどろどろしたものではなく、どちらかというとさらっとしているけど、ただすごく冷たい。私がしばしば夢に見る、大きな水槽の中にホルマリン漬けにされたバラバラの少年少女の体の部分、そのイメージがよみがえるような暗い冷たい感触です。気分が悪い。
ひたすら淡々と語られるだけなのに、いやむしろこの淡々とし過ぎたところが、あらゆるものを拒絶しているような、この人は決して私を許したり、認めたりさえしないだろうとまで思えてくる。
そんなことを感じながら半ばまで読んだところで一旦眠りについた私は悪夢を見、その夢では、檻に閉じ込められた体じゅう傷だらけの青白い肌をした少年少女たちが男に悪逆の限りをつくされながら、互いに折り重なって横たわっているのだが、生き残った数人の少年と少女(大部分はいつのまにか死んだらしい)は檻から脱出し、ついに男に反逆する。彼等のひとりに足首を掴まれブンブンと振り回された男の体は、頑丈な鉄の檻にぶつかってまるで紙粘土で作った人形みたいに、まずは腕、つぎは脚というように少しずつバラバラになるのだった。
と、こんな夢を見てしまった。この夢とこの短編集とにいったいどんな関わりがあるのかは知りませんが、いずれにせよ私はヘトヘトです。
ここでもう止めてしまおうかと思いましたが、ひょっとしたらまだ面白くなるかもと思い直し、先を続けました。
結果としてその判断は間違っておらず、次の「フーガ」から突然面白くなりました。突然慣れて受け入れられるようになったのかもしれませんが、この「フーガ」という作品以降、物語の幻想性がぐっと増したような気がします。この人の奇想の才能がぱっと開いたような感じです。
「癒す人」という作品がとりわけ奇妙で、あらすじをまとめるのは難しいですが、ある町に住むふたりの少女の一方は燃え上がる火の手を持ち、もう一方は岩のように固まった氷の手を持っています。彼女たちが手を繋いだときにだけ、ふたりは普通の手を手に入れることができるのですが、手を繋いだ子供のころを過ぎ大きくなるにつれ、ふたりの距離は遠ざかっていく。燃える手の少女は人々から恐れられ、氷の手の少女は人々を癒し続ける。しかしある時……
という話です。変な話過ぎて、全然まとめられません。でも、どことなく寓話風で面白かったです。
全体的にグロテスクで冷たい印象の物語ばかりでした。
でも、どうやらこのエイミー・ベンダーという人はとても人気があるらしい。最新刊を図書館で借りようとしたら、予約で待っている人がたくさんいました。たしかに、人を魅力する力のある人のようには感じます。たしかに、すごく読ませる力は感じます。
……ただ、私に次が読めるか。自信はない……。
ていうかそうでした。
この人の書く文章、生々しくて怖いですよ。
夢に見るってわかるなあ。
言葉で説明する理屈じゃなくて直接イメージで脳に訴えかけてくる感じだから。
そういえばノトさんはそういうの苦手だったかもとか今になって思います。
でも、おそらく「わがままなやつら」はそこまでグロい印象持たれないかも。割と寓話として洗練されてます。
いえ、まあ面白かったんですよ、それなりに。読みの遅い私が一気に読んでしまえるくらいですから……。ハハハ。
記事でも書きましたが、後半はわりと好感触でしたので、「わがままなやつら」はひょっとしたらいけるかもしれません (^^;
この人の寓話っぽいお話は、たしかに洗練されていて美しいところがありますよね。