半透明記録

もやもや日記

『いばら・ら・ららばい』

2010年10月26日 | 読書日記ー漫画

雁須磨子(講談社)




《あらすじ》
茨田あいさんは、とんでもなく美人でスタイルもいいけど、とんでもなく生きていくのがむつかしそうな人でした――。繊細だけど棘もある…バラの心を持つ女の子たちの物語。

《この一文》
“美しいものが 私のまぶたを そっとなぜると ”



『のはらのはらの』で好きになった雁須磨子さんの漫画。これは連作短編集。

あらすじにもあるように「棘が」あるので、私は最初読んだ時にはグッサーっとささりまくって、痛くて、それ以後なかなか読み返すことができませんでした。何ヶ月か経って、ようやく読み返せた; やっぱり刺さる、でも慣れてきたぞ。

なにが刺さるかというと、このお話に登場する女性はみな、美人も可愛い人もそうでない人も、みんなそれぞれに別の誰かに憧れたり羨ましかったり妬ましかったりして、同時にそういう自分が情けなかったりみじめだったりするんです。あんなふうに素直で可愛かったら自分だってもっと…と思いつつ、ついつい卑屈になったり自虐に走ったり、うっかり失言したり、他人の言葉がいちいち皮肉に聞こえたり、そんなふうにしか考えられない自分をまた嫌になったり。
こういう心情は私にも馴染みのあるもののような気がして、とにかく読んでいて辛かったです。「しまった、今のは失言だった」とか「ひょっとしてさっきのは皮肉だったんだろうか」とか、結局は自己完結するしかないようなささいなことについて際限なく反復して転げ回ったりは、私もよくやります。そう言うときのことをよく思い出せる感じのお話でした。

でも、痛くて気の滅入るような思いの合間にも、美しくて暖かいものは時々現われてくるので、悩んだり転げ回ったりするのも、つまるところそういう綺麗なものを得たいがためだと分かるのです。綺麗なものとうまく付き合いたいのに、彼女たちはそれができなくて転げ回ってしまうのかもしれません。

連作の中には、明るくて可愛くて優しい度上(どのうえ)さん、ものすごい美人なんだけれど言動が粗雑で人とうまく付き合えない茨田(いばらだ)さん、自他ともに認める可愛らしい容姿を持つ故に恋人には事欠かないけどいつも何か不満な石田さん、容姿への自信なさからか自分にも他人にも厳しい評価を下してしまう平良さん。といういくつかのタイプの女性が登場するので、読者はその中の誰かの言動に「ああ…ある、あるね、そういうのって」と同調できるかもしれません。

私が同調したのは平良(ひらら)さんという女の子。美しいものを眺めたりするのが大好きで、物事の背後に隠された美しさを発見したいと思っているのに、そうやって美しいもののことを思えば思うほど、自分自身がいかにそれから遠くかけ離れているかということも思い知らされて、うなだれて卑屈になってしまう。どうせ私なんて、そもそも私のごときが…と常に自虐状態。うぅうぅ、なんて自虐的なんだ(^_^;) 特に平良さんは客観性と洞察力が鋭いゆえに容赦なく他人を批評してしまう反面、逆にそんな自分への嫌悪感にも深く潜り込んでいるのが、読んでいてとても辛かったです。

求めるものはほとんど手に入れられない平良さん。なにも自分のものにはならない。でも、本当は手に入れようとする勇気がないだけではないのか。ちょっと素直になれば、ほんのちょっと自分にも他人にも優しくなれれば、自虐に走る前に少し落ち着いて周りを見渡せば、彼女にだって美しいものはやってくる。何より、彼女の「美しいものを美しいと思える心」は、表面には見えなくても紛れもなく、そもそもの最初から美しかったんだ。というような結末(私の個人的解釈ですが)には心が癒されましたね。いやはや良かった。平良さんのバイト先の同僚の橋さんという女の子がまたいいキャラクターでした。とにかく平良さん関連のお話は胸に迫るものがあります。


もっと綺麗だったら、もっと可愛かったら、もっと明るかったら、もっと優しかったら。ないものをねだって、きりもなく傷だらけになって、でもそれはただ、自分が好きになった誰かが、同じように自分のどこかにも素敵なところを見つけてくれて私を好きになってくれないかな、というそれだけのことなのかもしれません。孤独なんだ、ちょっと寂しいんだ。憧れて、羨んで、妬んで、見下して、傷つけられたり傷つけたりしても、時々は暖かくて美しいものがそっと手を触れたりするから。それが欲しくて。


雁須磨子さんはやっぱり面白い。実は他にも何冊か買ってあるので、おいおい感想を書いていきたいと思います。





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2 コメント

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とても… (yuki)
2010-10-26 23:43:01
レビュー読んでいて、凄く読みたくなりました。
あたしも、無い物ねだりのI want youなんで…。
だけど、自分が傷つきたくないばっかりに、鎧を着て、目の前のものを半分にしてる気がしました。だけど鎧を脱ぐのはとても怖いし…。
ちょっとの素直さ、これってあたしの永遠の課題かもしれない…です。
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おお! (ntmym)
2010-10-27 09:14:42
yukiさん、こんにちは~♪
ハイ! では今度の合宿にコレを持っていきますね~(^_^) 雁須磨子さんは面白いですよ♪

ちょっとだけでも素直になれば楽だろうに…と思いますよね。でも、なかなかそれができない(^_^;) 私もかなりの強情っぱりなので、たまには意識してでも素直になってみたいですね☆
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