半透明記録

もやもや日記

『FLIP-FLAP(フリップフラップ)』

2015年04月28日 | 読書日記ー漫画


とよ田みのる(アフタヌーンKC 講談社)



《あらすじ》
自身を「普通」、カギカッコが付くくらい本当の「普通」であると認めている深町は、高校最後の日に心の中の反逆児を総動員させ「変化」を試み、山田さんに「付き合ってください」と申し込む。すると山田さんからは意外な返答があり…。深町は山田さんの出した交際の条件を満たすため、【ピンボール】というゲームと出会い、そしてのめり込んでいくのであった。

《この一文》
“「ゲッ……なんてスコア出してんだ!! こりゃギャラリーもわくわ……」
 「違いますよ。本気でやってる人間は それだけで人を魅きつけるんです!!」 ”




いくつになっても青春の爽やかな風のただなかで成熟し続ける人間というのが存在するのかもしれません。とよ田みのるさんの作品を読むと、いつもそう感じてしまいます。この人はおそらく私と同世代の方なのでしょうが、デビュー作『ラブロマ』以来ずっと変わることのないこの爽やかさと朗らかさは一体なんなんだっ! 登場人物たちとともに過ごしていると、世界をまるで明るく美しく、ただただ楽しくまっすぐに、どこまでも歩いていけそうな気持ちになってしまうではないか! この私でさえ! 溢れかえる熱くて透明なエネルギーに、どこまでも駆け出してしまいそうになるんだ。


というわけで、とよ田みのるさんの『FLIP-FLAP』です。上にも書きましたがピンボールをめぐる青春の物語です。爽やかだー。キラキラ輝いて眩しいほどに明るいんだー。詰まらないことで腐っているのがバカらしくなるほどに健全なんだー。世界はいつだって美しいんだー!!! と、普段は暗黒塊そのものの私ですらポジティブエネルギーで満ちあふれるくらい、とよ田さんの作品は素敵なのでありました。どこれもこれも素敵。きっととよ田さんは人間の善性や可能性、ありきたりに見える普通の人間の価値というものに対して常に肯定的でいらっしゃるのではないかと。この世界には辛いことや苦しいこと、嫌なことや詰まらないことだってたくさんあるけれど、他人にはくだらなくても自分は心から楽しめる、心から愛せる何かを見つけてそれに全力でぶつかることができたなら、「それ」と「自分」が向き合う世界はもはやそれまでに考えていた世界とは全く別の世界となり得る。それは孤独であったとしてもきっと素晴らしい世界でもあるんだ。と、まあ、こういうお話でした。はあ、素敵だなあ。

私自身はピンボールをやったことがないですが、たとえばピンボールじゃなくても、何かに夢中になってそれに情熱を注いでいる人々の姿には心を打たれます。人生にはままならないことも多いけれど、自分の力で、ささやかなところからでも人生を喜びと楽しさで彩ることはできるのです。好きなことをもっと好きになっていく人生は美しいですね。なんの役にも立たなくても、誰にもその楽しさが分からないとしても。私自身はこのところそういう情熱を失って久しいのが寂しい限りですが、けれどきっと遠くない日に取り戻せるさ。『FLIP-FLAP』を読んで燃え上がるものが私の中にまだたしかにあるんだからさ。


明るくて爽やか。きっと人は誰でも青春のあのまっすぐさと熱さのなかで、いつまでも成熟し続けることができるはず。そう信じたくなる。そう信じるよもう私は。







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