半透明記録

もやもや日記

『火星人第二の来襲 ー或る常識人の日記ー』

2005年10月10日 | 読書日記ーストルガツキイ
ストルガーツキイ兄弟 橋本敏雄訳(「季刊ソヴェート文学 1987年 No.98」 群像社)


《あらすじ》

6月1日深夜3時。北の地平線が色とりどりに燃え上がった。一体なにが起こったのかは誰も知らなかったが、その日から奇妙なことが起こりはじめる。パンは青くなり、税金は胃液で徴収されるようになる。どうやら火星人がやってきたらしいという噂が流れ始めた。元天文学教師アポローンによる15日間の記録。

《この一文》

”病的な顔色をして、髪を短く刈り込んだあの男達はジーンズに柄物のシャツでキメているが、玄関では足を拭いたためしもない。それでいて、世界政府だの、テクノクラシーだの何だの、奇妙奇天烈な何とかイズムだのの話でもって、わしみたいな平和な人間の平安と安全を保障するものを、寄ってたかって否定しようってんだ。思い返してみて、わしは何が起こったのかようやく理解した。そうだ、わしの婿とその一団は過激分子だったんだ。  ”



ある日突然、世の中が変ってしまうというのはどんな感じでしょうか。
物語では、ある日突然火星人がやってきて、主人公アポローンの住む国を統治しはじめます。彼等は進んだ技術力を持ち、入り口もタイヤもない自動車に乗ってやってきては、驚くべき速さで成長する青い穀物の種を配り、町に暗躍していた麻薬商を逮捕し、なぜか胃液を徴収するかわりに貨幣を与えるとふれ回ります。様々な憶測が飛び交い、パトロール隊を編成する者や、町から身を隠そうとする者、反乱を起こす者などが現れます。アポローンは急変する事態にとまどいを覚えつつもそれを傍観するばかりですが、新聞社の編集長である彼の娘婿は、なぜ誰も何もしようとしないのかと憤慨し武器を手に家を飛び出します。
一方、火星人のほうは、不快感を覚えるほどに異質ではありますが、決して圧政を強いる訳でもなく、むしろ非常に理性的であるらしく描かれます。武器をとり反乱を起こすアポローンの婿たちに向かって、「何故暴力に頼るばかりで、理性的に反対運動を起こさないのか」と諭すのでした。
アポローンのように「これから自分達はどうなるのか」とどこまでも受け身に考えるにしろ、その婿のように「自分が何をすべきなのか」と能動的に考えるにしろ、ある理解をはるかに超えた事態が起こり、それに違和感を感じた時、ひとはどのように対処するのか。おろおろしても、いらいらしても、それだけでは問題の解決にならなそうである、というストルガツキイらしい短篇でした。

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
読みたい! (piaa)
2005-10-10 22:13:08
しかしよく見つけましたね~

かなりのレア物ですよ!
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うふっふ~ (ntmym)
2005-10-10 23:59:41
群像社のHPを何気なく見てたら在庫があったので、取り寄せました♪

この号はもしかしたら、まだあるかもしれないです。



そして「リットルマン(抄)」を収録している「ソヴェート文学」(同じ雑誌名ですが、これは別の出版社から出てたものらしいです)も古本で入手済みです。

着々とコレクションが増えてます!
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