半透明記録

もやもや日記

『幽霊殺人』

2008年04月22日 | 読書日記ーストルガツキイ
ストルガツキー兄弟 深見弾訳(早川書房)

《あらすじ》
警察監督官、ピーター・グレブスキーが二週間の休暇にやってきた山小屋には、どこか尋常ではないところがあった。前年の事故で死亡した登山家にちなんで変えたというホテルの名《山の遭難者》の悪趣味もさることながら、泊りあわせた客たちの風変りさはまた格別だった。札束で煙草の火をつけわがもの顔でホテルをのし歩く大富豪モーゼスと、頭は弱いが絶世の美女の彼の妻、あたりかまわず自慢の腕を披瀝してまわる奇術師ドュ・バルンストクル、そのほかひとくせもふたくせもありそうな連中。そして、吸いさしの煙草をグレブスキーの部屋において、彼を歓迎する山の遭難者の幽霊。しかも、泊り客のなかに殺人者が紛れこんでいるという置き手紙が、無慈悲に彼の休暇を取りあげてしまう。破れかぶれで真相の究明に乗りだすグレブスキーの行手には、だが思いがけぬ事態が待ち受けていた!
英米に匹敵するSFの生産・消費国ソビエトは、近年その質的な面での急激な変化をとげてきた。本書は、そうした新しいタイプの作品のひとつとして、あくまでもミステリ仕立てのストーリー展開と、従来のソ連SFには見られない娯楽性をもつ、才筆ストルガツキー兄弟による意欲的長篇である。


《この一文》
“「裏切ったな!」おれは驚いて叫んだ。
「違いますよ、そうじゃありません、ピーター。理性的になってくれなきゃ。人の良心は、法だけじゃ生きていけないんです」  ”




ついに読了。良かった、面白かった!! 大枚をはたいて激レアのこの本を購入した甲斐があったというものです。あー、満足。

さて、ストルガツキーのこの作品は、本の裏表紙の紹介によると「ミステリ仕立ての」とある。なるほど、たしかにミステリー仕立てでありました。邦題は『幽霊殺人』となっており、どこからどうみても赤川次郎の『幽霊シリーズ』ではないですか。おそらく原題は『ホテル《山の遭難者》』という感じかと思われます。そのまま訳したほうが良かったのではないだろうかと、いらぬお世話なことをつい考えてしまいます。


雪に覆われた《山の遭難者》という名のホテルには、奇妙な客が滞在している。主人公がそこへ休暇で訪れると、次々と奇妙な事態に見舞われる。そんななか、ホテルと街とを繋ぐ唯一の道である《壜の細頸》と呼ばれる渓谷が雪崩によって封鎖され、さらに不幸なことに、客の一人が死体となって発見される。犯人は誰だ――?

うむ、あらすじだけ見ればたしかにミステリーです。もしもこれがストルガツキー作品だと知らなかったならば、豪華でロマンチックな文章を愛する私などは、

「おれは車を止めて外へ出ると、サングラスをはずした。」

なんていう似非ハードボイルドな感じで始まる小説なんかは読む気にならないだろうところです。しかし、そこはやはりストルガツキー作品だけあって、私の文体の好み云々は問題にならないくらいに、物語は魅力的なのです。

結局のところ、この物語がミステリだろうがSFだろうが、どちらでも構わないのです。ここには、いかにもストルガツキー作品らしく、奇妙な人物がこれでもかというくらいに登場します。そして、奇妙な名前のホテルで繰り広げられる事態もまたとても異常なものなのです。さらにまた、多くのストルガツキー作品においてみられるように、この主人公の警察監督官グレブスキーもまた、「正しさ」というものを選び迷うことになります。彼はつねに正しいことを選択したつもりでいるのに、どうしてだか疑念や後悔に襲われることもある。守るべき正しさというのは、いったいどういうものであり、またそれはどこにあるのか。
私はこれだからこの兄弟の物語が好きだ。

あとがきで深見さんもおっしゃっていましたが、この物語の舞台はどこの国であるのかが明確に示されていません。ストルガツキーはソ連時代の作家ですが、その批判の精神は必ずしもソ連のあり方にのみ向けられたのではなく、より広く人類全体、過去だけでなく現在にも未来にも適応されるような何か普遍性をもっているように、今回もやはり考えさせられました。ミステリ仕立てで軽めの内容にもかかわらず最後にはそのように考えさせるあたりは流石。

まあ、細かいことを考えなくても、私はミステリ風味のストルガツキー作品を読めたというだけで十分満足ですよ。欲を言えば、もうちょっと派手にやらかしてくれても良かったかもしれません。


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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (piaa)
2008-04-22 22:10:21
おお~

読みたい~
でも高い~
ハヤカワさん再発してくれ
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まったくです (ntmym)
2008-04-22 22:44:16
piaaさん、こんばんは!

ほんと、ストルガツキーの一連の作品はそろそろ再版してもよさそうなものですよね~。なんとかブームが起きないものでしょうか。

『幽霊殺人』はまあまあ面白かったです! なんならお貸ししましょうか? 私ひとりで読んでも誰とも語り合えなくてつまらないですし(^^)
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 (piaa)
2008-04-24 00:14:55
まじっすか!
借していただけるもんなら借りたいですが…
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どぞどぞ! (ntmym)
2008-04-24 09:49:20
どうぞ遠慮なく!
喜びは分かち合わないと、ですね!

差し支えなければ、@mail.goo.ne.jp のアドレス宛にでもメールをくださいませ☆(freecom はおなくなりになったので;)


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