半透明記録

もやもや日記

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いつか一緒に輝いて

2010年07月19日 | 学習







物語の終わりとどう付き合うか。物語の終わりをどう受けとめるか。このことは私をずっと悩ませることのひとつです。なかなか耐えられないし、受け入れられません。どうして終わってしまうのかなぁ。

終わるのが辛いので、私は長編が苦手でした。物語が長ければそれだけ私は登場人物に深入りしてしまい、結末で強引に彼らと切り離されてしまうあの痛みを思うと、なかなか手が出せなかったのです。しかし、それでもやっぱり手を出してしまう。好奇心に負けて読み始めたり観始めたりしてしまう。最初の方はよいのです。これから楽しくなる、もっと好きになりそうな予感に満ちているし、真ん中のあたりではやっぱりその予感の通りに物語の中に入り込んだみたいな愉快な気持ちになるのでいいんです、でも最後が近づくにつれてもの凄い孤独感が襲って来るんですよね。物語の最後で、私だけがいつも置いていかれてしまうから。物語が終われば、私だけがその世界から放り出されてしまう。

こういうことは、これまでにも何度も書いてきた気がしますが、まだ全然解決できません。ますます苦しみが増している気さえします。ああ、私は本当に終わりというやつが苦手なのです。別れたくない。いっそ出会わなければよかったのだろうか。


このあいだ『シルヴェストル・ボナールの罪』という小説を読んだのですが、その中ではボナール氏の三つの人生について語られていました。まずは両親と伯父と暮らした幼年時代、次に生涯のほとんどの時間を占めた書物と研究に明け暮れた時代、最後はかつての想い人の孫娘ジャンヌの後見人となってともに暮らした時代。ボナール氏はこのいずれの時代にもその時々で人や書物を愛してそれとともに暮らして、たぶん不幸ではなかった。むしろ幸福だったんだと思う。文字の世界でも、現実の世界でも、ボナール氏はその愛に報いられたし、満たされたと思うのです。けれども、どの人生もどのみち去っていってしまうんですよね。愛そうが、満たそうが、去ってしまう。夢みたいにつかみどころがない、この手応えのなさに、私の胸の中はざわざわとしてくる。


私もいろいろな人や物語を好きになる。出会って、好きになって、楽しくて、でもその合間にもふと別れのことを思ってしまう。いつかは終わってしまうと、そのことばかり考えてしまう。これが最後になるかも知れないと、つい考えてしまう。結局私は高校生だったあの頃から少しも成長していない。そこではすべてが終わらない秘密の世界への抜け道を探していたあの頃から全然成長できていないのです。私は成長しないまま、その後もっとずっと多くの人々と物語を愛してしまった。耐えられるのだろうか。いつかやってくるお別れに、すでに少しずつ始まっている終わりに、私は耐えられるのだろうか。どうやって耐えたらいいんだろう。

そうやってビクビクと怯えているくせに、それでも私はさらに新しい出会いへと、出会って始まった関係のさらなる深みへとはまり込んでいくんだろうなぁ。その楽しさや喜びにどうしようもなく惹かれてしまってさ。


人生は、私にはまるで夢みたいに手応えがないのです。そして、私はひとりでは夢を見られない。美しい出会いと、美しい記憶がなかったら、私は夢を美しく彩ることができない。人生が夢のようなら、せめてそれを美しく夢見たい。美しければ大丈夫なんだ。美しいことは私をなだめてくれるから。いつか私が愛する人も物語もすべて去ってしまっても、美しければ、遠くなっても大丈夫。いや、美しいものは、最初から遠いものなんだ。最初からみんな遠いんだよ、だから私はそれを美しいと思うのだろう。突然遠ざかるわけじゃないんだ。最初からものすごく遠いのに、時々近くにあるみたいに光が私に向かって飛び込んでくる、その凄さに打たれるんだろう。打たれた衝撃はまた、この夢みたいなあやふやの中でも、わりと手応えのあるものです。この衝撃を蓄積していくことが人生ってものなのでしょうか。人や物や物語が去っても、私の中に蓄積されたものは、私がそれを思っている限りは残るだろうし。大丈夫だ。遠くのものを思うんだ。美しいものを集めるんだ。もっと。


始まったことは終わるから、私が「どうして?」なんて疑問をはさむ余地もなく終わってしまうから、私は受け取った美しいものを、できるだけその場で返せるようになりたい。私が終わりを恐れるのは、それができていないからなのかもしれない。どうやって返すのか、その方法が分からないまま終わってしまいそうなのが怖いんだな、きっと。

今日もビクビク、美しいものと出会って夢中になりながら、放り出されています。でも、いつかは、いつかは一緒に――。