半透明記録

もやもや日記

『栞と紙魚子』(文庫版第1巻)

2012年06月11日 | 読書日記ー漫画

諸星大二郎(ソノラマコミック文庫)



《内容》
奇々怪々な人々が棲息し、摩訶不思議な事件が頻発する胃の頭町を舞台に、女子高生コンビの栞と紙魚子が大活躍する、諸星大二郎の異色シリーズの待望の文庫版第1巻。
「生首事件」「自殺館」「桜の花の満開の下」「ためらい坂」「殺人者の蔵書印」「ボリスの獲物」「それぞれの悪夢」「クトルーちゃん」「ヨグの逆襲」「ゲッコウカゲムシ」「本を読む幽霊」「青い馬」「おじいちゃんと遊ぼう」「雪の日の同窓会」の14編を収録。



《この一文》
“悪魔のタンクローリーめ!
 地獄へ追い返してやる! ”
   ――「ためらい坂」より





うーん。面白い。
『栞と紙魚子』の第1巻を読みました。私はこのシリーズを文庫版の第2巻から読んだので、いまいち「胃の頭(いのあたま)町」や「段先生一家」、「鴻鳥さん」などのことがよく分からなかったんですよね。それでシリーズのはじめから読めば少しはよく分かるようになるかと思っていたのです。


結果としては、えーと、まあ、何て言うか、やっぱりよく分かりませんでした。でも、「鴻鳥」さんのことはちょっと分かったかな。少なくとも彼女が「人肉パーティーよ!」と第2巻で叫んでいた理由は分かりました。

それから「段先生一家」についても少し理解が深まりました。今頃気がついたのですが、段先生の名前は「段 一知(だん いっち)」。第2巻でも出ていたのに、その時には気づきませんでしたが、ラヴクラフト絡みなんですね。先生の娘の名前が「クトルーちゃん」だから、先生自身もなにか関係があるんだろうとは思ってましたが、ラヴクラフトの『ダニッチの怪』から来ているんだなー。なるほど。“Dunwich”とは、ラヴクラフト作品中に出て来る架空の村の名前。私はまだ読んだことがないけれど、やっぱそろそろ読む頃合いだなあ。段先生の奥さんも、性格が可愛らしいからうっかりしてたけど、どうやら邪神みたいですしね(まあ、あのただならぬ姿から、ただ者ではないことは容易に推測できましたけど)。


さて、第1巻に収められた14のお話はどれも奇妙かつ怪奇、不気味な雰囲気に満ちていますが、やはりどこかほのぼのとさせられます。斧をふりかざして襲ってくる仮面の男や、血を滴らせた袋を手に持って裸足で歩き回る幼女(クトルーちゃん)、女の長い髪と血糊がべっとりと貼り付いたラブロマンス本、などなど恐ろしいものが次々と登場するわりには、読み終えたあとに不思議と爽快感に似た感情が沸き上がってくるのが凄い。こんなに血と破壊に満ちて猟奇的なのに、諸星先生はいつもユーモアを忘れません。人肉料理に執着する幽霊がカップ麺の汁を浴びて「まずいっ! 死ぬ!」と言って消えるところには、諸星先生の天才が燦然と輝いていました。コマの外には諸星先生ご自身による「もう死んでるよ」というツッコミが入っていて、これを見た私は生涯『栞と紙魚子』を愛し続けると誓いました。

どの作品もとても面白いですが、今回特に面白かったのは、「ためらい坂」ですかね。ケーキ屋の親父さんの逞しさに心を打たれました。しかし、紙魚子はなんで『ケーキ爆弾』なんていう本を持ち歩いていたんですかね? しかもそれってレシピ本なの?? オチのつけ方も最高でしたね。これは面白かった。


さあ、これで私は『栞と紙魚子』の文庫版を第1巻から第3巻まで所有することになりました。こないだ本屋へ行った時、第4巻があったのを買っておけばよかったです。次に行った時には買ってきますよ!

私のようにホラーが苦手な人でも読める、ほのぼの怪奇シリーズと言えましょう。世の中は不思議に満ちていて、少しくらい常識はずれのことが起こっても、人生を楽しく過ごすことはできるんじゃないかという気になってきます。栞と紙魚子のように、恐ろしい目にあっても、「やれやれ、とんでもない目に合ったわ!」なんて軽く流していきたいものですね(^_^)







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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (kaji)
2012-06-16 01:08:03
私もケーキ爆弾の話好きです!お話に架空の古本がよく出てくるんですが、いちいちタイトル面白いですよね。
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うんうん (ntmym)
2012-06-16 13:55:39
kajiさん、こんにちは~♪

ケーキ爆弾、オチが最高ですよねっ! ドリフみたいな^^

>架空の古本がよく出てくるんですが、いちいちタイトル面白いですよね。

そうそう。『(趣味と実用のシリーズ)生首の正しい飼い方』とかね。
こういう細かいところが面白いですよねー(^_^)
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