半透明記録

もやもや日記

『南極点のピアピア動画』

2013年09月30日 | 読書日記ーSF


野尻抱介(早川書房)



《あらすじ》
日本の次期月探査計画に関わっていた大学院生・蓮見省一の夢は、彗星が月面に衝突した瞬間に潰え恋人の奈美まで彼のもとを去った。省一はただ、奈美への愛をボーカロイドの小隅レイに歌わせ、ピアピア動画にアップロードするしかなかった。しかし、月からの放射物が地球に双極ジェットを形成することが判明、ピアピア技術部による“宇宙男プロジェクト”が開始されるーーネットと宇宙開発の未来を描く4篇収録の連作集。


《この一文》
“ ピアピア動画で作品を発表するユーザーのほとんどは、金銭収入のためにそうしているのではない。人と出会い、自らの作品やスキルを見てもらい、承認されたいから来ているのである。彼らは誰かに見てもらうことが嬉しく、生きがいになっている。
  それは人類全体にも言えよう。地球が狭くなったいま、地球外文明の視線こそ、人類が真に欲するものではないか。誰かに見られてこそ、人は自己を振り返り、高めようとするのである。 ”
  ーー「星間文明とピアピア動画」より




はじめの2話はわりと苦行でしたが、あとの2話は面白かったばかりでなく、最終話の結末には思わずジワリと来てしまいました。いやー、SFっていいですね!

というわけで、『南極点のピアピア動画』を読みました。発行されてからずっと読みたいと思っていたのですが、ようやく読めました。タイトルと表紙からもお分かりのように、現在も【ニコニコ動画】やそこで盛んに行なわれている【VOCALOID】関連の活動をベースにして、架空の【ピアピア動画】とそこに関わる人々が宇宙時代の始まりをどう歩んでいくのかが描かれていました。ロマンに溢れていましたよ。実に清々しい。

先にも書きましたが、正直言って、私にははじめの2話「南極点のピアピア動画」「コンビニエンスなピアピア動画」を読むのは、やや苦行でした。いえ、どちらもお話としては面白かったのですが、何と言いますか、登場人物の言動にちょっと20世紀臭がするというかなんというか…。今時(というか多分現在より少し未来設定だろうに)の大学院生のカップルが「省一と奈美」とか、その友達が「郁夫」とか、短大を出たばかりの女の子が「美穂」とか、全体的にネーミングが20世紀末。なんなら80年代という感じ。それで、女の子キャラがあまり可愛くない…ピクリとも萌えない。奈美みたいな恋人って困るだろー。ていうか、省一もどこかいけすかないぞ! ある意味お似合いのカップルだぞ! 

と、こんなくだらないことが気になって気になって、物語に没入するためには第3話までかかってしまったろくでもない私です。第3話の「歌う潜水艦とピアピア動画」からは、人間の女の子の登場頻度が激減するせいか、ものすごく面白くなりました。小隅レイたんカワユス。まじ天使。

第4話の「星間文明とピアピア動画」は、書き下ろしの一編です。前3話の内容を踏まえて、いよいよ地球人類が地球外の文明圏と交流を始めます。このお話はとても面白く、人類の行為全般、そしてまた地球人類とその文明の向かう先に対する作者の肯定的な考え方が読み取れて、非常に清々しい読後感がありました。さらに繰り返しますが、小隅レイたん、まじ天使!って感じです。野尻さんはこういうキャラクターを描くといいんですかね。人間の女の子より、ボーカロイド・小隅レイの姿形を借りた地球外文明の知的存在「あーやきゅあ」の描写はすっごく可愛かったです。あと、第1話で登場した省一の友達、郁夫が再登場して活躍していたのが、私としては嬉しかった! 郁夫はまじいい奴だから幸せになってほしい!


作中には、ネット用語、とくに【ニコニコ動画】内で多用されるような言葉が数多く出てきますが、いくつかは既に風化しかかっているのを、ちゃんとお話の中でも死語として扱っています。いつか近い将来、今のニコ動にどっぷり浸かっているような人々が、社会的に影響力を持つような立場になったとき、どういうことが出来るだろう、起こるだろう? なんでもないきっかけから、ものすごい未来がひらけるかもしれない。面白いからやってみただけのことが、我々をずっと遠くへ連れて行ってくれるかもしれない。そんな夢と希望が溢れる連作集でした。

「ピアピア動画」という語感からしてちょっと…なんて思っていましたが、最後には気にならなくなっていたや(^o^;) きちんとした意味のあっての「ピアピア」でしたしね。
たまにはこんな爽やかなSFもいいものです!






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2 コメント

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Unknown (piaa-piaa)
2013-09-30 22:50:27
私は「沈黙のフライバイ」を読みましたが、現実に本当にありそうな事をSFとして書いてしまう作家さんで、かなり異色の作風だと思いました。
ただし人物、特に女性キャラの描写は全くヘタクソで魅力に欠けると私も思います。

「ピアピア動画」はあの表紙がアレなのでまだ読めずにいますが、現代のネット社会を題材にした作品て意外と少ないので貴重かも知れません。
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表紙がアレですが (ntmym)
2013-10-01 22:11:02
piaa-piaaさん(爆)、こんにちは!(^o^;)

やっぱ、表紙はアレですかね?
中にも挿絵があったりして実にライトなつくりでしたが、内容は結構面白かったです(^_^)

私はこの本が出るまで野尻さんのことは存じ上げなかったのですが、わりと有名な方のようですね。星雲賞もとってるらしいし。
現実にありそうなことを描くというのは面白いので、私もほかのをチェックしてみましょうかね!(´∀`*)
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