半透明記録

もやもや日記

お知らせ

『ツルバミ』YUKIDOKE vol.2 始めました /【詳しくはこちらからどうぞ!】→→*『ツルバミ』参加者募集のお知らせ(9/13) / *業務連絡用 掲示板をつくりました(9/21)→→ yukidoke_BBS/

『年刊SF傑作選 4』

2009年02月26日 | 読書日記ーSF
ジュディス・メリル編 宇野利泰訳(創元推理文庫)



《収録作品》
*「新ファウスト・バーニー」ウィリアム・テン
*「ジープを走らせる娘」アルフレッド・ベスター
*「二百三十七個の肖像」フリッツ・ライバー
*「とむらいの唄」チャールズ・ボーモント
*「ユダヤ鳥」バーナード・マラマッド
*「二つの規範」フレドリック・ブラウン
*「明朝の壷」 E・C・タブ
*「カシェルとの契約」ジェラルド・カーシュ
*「酔いどれ船」コードウェイナー・スミス


《この一文》
“悪行にたいして、人の受ける罪は、その結果を見つめ、苦しまなければならぬことだ。
  ――「二百三十七個の肖像」(フリッツ・ライバー)より ”



『年刊SF傑作選』の4巻です。
編者のジュディス・メリル氏が6巻の前書きでも書いていましたが、この「SF傑作集」に収められた作品は、いわゆる「SF小説」だけでなく「幻想小説」「怪奇小説」とも分類できそうなものも多いようです。どのように分類したらよいのか分からないけど、とにかく不思議な物語。第3巻に引き続き、どれもこれも奇妙な味わいです。面白かった。


*「新ファウスト・バーニー」(ウィリアム・テン)
これはとても奇妙な物語。果たして事件は本当に起こったのか……?
バーニーのオフィスに見知らぬうすぎたない小男がやってきて「二十ドルを五ドルで買わないか?」ともちかける。バーニーはいったん男を追い返すも、結局ふたりはおかしな取り引きを結ぶことになり……というお話。
取り引きの内容がずんずんと大きくなっていってハラハラします。バーニーは最後には地球を売り渡すところまでいってしまいます。彼の視点で語られる一切はしかし、あくまでも彼の推論に過ぎず、いったいどこまでが真相に行き当たっているのか分からないところが面白い。



*「ジープを走らせる娘」(アルフレッド・ベスター)
どうやらアメリカに核爆弾が落ち、街中の人間が瞬時に消滅したらしい。無人の街を、金髪の娘がジープで走り回っていると、ある日彼女はひとりの男と出会い……というお話。
核汚染ということに関してその認識はちょっとナメ過ぎではないかという疑念もわきますが、ともかく大惨事のあとに生き残った女と男の物語でした。無人の街での生活の様子は興味深く読むことができます。ショーウィンドーをぶち破って店に侵入し、サイズの合うスカートや食料品を持ち出すのですが、お金はちゃんと払う…みたいな。
かなり面白かったです。ただ、どう言っていいのか分かりません。そこはかとなく怖い物語でした。たまたま生き残ったふたり、互いのことをまったく知らないふたりは、どうやって相手のことを信用したらよいのでしょうか。


*「二百三十七個の肖像」(フリッツ・ライバー)
フリッツ・ライバーは、第3巻収録の「電気と仲よくした男」で初めて知ったのですが、どうやらこの人の作品は面白いようです。この「二百三十七個の肖像」もかなり面白かった。
名優フランシス・ルグランドは引退後、大量の肖像画を遺すことにした。彼の死後、一人息子のフランシス・ルグランド・ジュニアは酒に溺れ、屋敷に引きこもっていると、父の肖像が話しかけてきて……というお話。
うーん。面白い。どことなくとぼけた味わいがあって、私は好きです。妙に面白い。他のも読みたい。


*「とむらいの唄」(チャールズ・ボーモント)
これはたいそう不気味でした。
ロニーは子供のころ、ソロモンをはじめて見た。どこからともなくソロモンが現れると、村中の人々は彼のあとについて歩いた。彼の行く先を知りたかったからだ。なぜならソロモンには「人の死期が分かる」からであり、彼の訪問を受けた家からは必ず死者が出た。しかしロニーはそれを信じることができず……というお話。
こ、怖い!!
とにかく気持ちが悪かったです。あー、怖い。


*「ユダヤ鳥」(バーナード・マラマッド)
冷凍食料品のセールスマン、ハリー・コーエンの家の窓に、一羽の痩せた鳥が飛び込んできた。カラスに似たその鳥は「ユダヤ鳥」と名乗った。しゃべる「ユダヤ鳥」シュワルツとコーエン一家との生活が始まり……というお話。
「反ユダヤ主義者」というのがキーワードですね。マラマッドもユダヤ人ではなかったでしょうか。


*「二つの規範」(フレドリック・ブラウン)
フレドリック・ブラウンという人は、洒落た、遊び心のある人だったのでしょうか。第3巻収録の「人形芝居」も、人をおちょくったような展開のお話でしたが、この「二つの規範」もまた独特です。
スクリーンに男女が映っている。おれは彼らのあまりに大胆な行動に、思わず画面に目が釘づけになってしまうのだが……というお話。


*「明朝の壷」( E・C・タブ)
最初は盗まれた壷をめぐるミステリーかと思ったら、まさかの超能力ものでした。面白かった。
ある古美術商から高価な壷が盗まれた。犯人を追うCIAの特別捜査課員のグレグソンは、勘の鋭い男だったが、追っているのは未来を知る能力のある人間で……というお話。
状況が二転三転して、とても面白かった。未来を変えることは可能か? という大きなテーマを扱っていました。閉塞のなかにも希望の持てる短篇。


*「カシェルとの契約」(ジェラルド・カーシュ)
別記事でも書いたので、感想は省略。

*「酔いどれ船」(コードウェイナー・スミス)
これはまだ読んでいません。明日までに図書館へ返さないといけないので、間に合えば読みたいですが、どうも気が乗りません。



第3巻と第4巻を読んでみた感触では、どうも借りて読むよりも所有していた方が落ち着いて読めそうな感じです。うーん。持っておきたいなあ。しかし、また増えてしまうしなあ。
とりあえず、まだ第6巻も借りてあるので、それを読んでしまいたいと思います。



『年刊SF傑作選 3』

2009年02月20日 | 読書日記ーSF
ジュディス・メリル編 吉田誠一訳(創元推理文庫)


《収録作品》
*「不安全金庫」 ジェラルド・カーシュ
*「恐怖の七日間」 R・A・ラファティ
*「玩具店」 ハリー・ハリスン
*「木偶」 ジョン・ブラナー
*「電気と仲よくした男」 フリッツ・ライバー
*「生贄の王」 ポール・アンダーソン
*「クリスマスの反乱」 ジェイムズ・ホワイト
*「世にも稀なる趣向の奇跡」 レイ・ブラッドベリ
*「あのころ」 ウィリアム・F・ノーラン
*「狂気の人たち」 J・G・バラード
*「アンジェラのサチュロス」ブライアン・クリーヴ
*「人形芝居」フレドリック・ブラウン
*「地球人、ゴー・ホーム!」マック・レナルズ
*「分科委員会」 ゼナ・ヘンダースン


《この一文》
“「それで?」
 「それで、戦争が必要なのだ。――いや、待った! 〈死の商人〉とか〈独裁者は外敵を必要とする〉とか、宣伝文句めいたことを言っているんじゃない。闘争は文化に内在していると言いたいのだ。生活様式そのものによって民衆の中に醸成されている破壊欲にはけ口を与える必要がある。その生活様式は人間の進化の方向と合致していないのだ。」
  ―――「生贄の王」(ポール・アンダーソン)より ”




初めて知った作家の作品が多くありました。『SF傑作選』とありますが、これはSFだろうか? というものもあります。どちらにしても面白ければそれでいいのでありますが。


私は次から次へと夢のように読んだものの中身を忘れてしまうので、備忘録としてそれぞれの作品について一言ずつ書いておこうと思います。というわけで、以下に簡単なまとめ。


*「不安全金庫」(ジェラルド・カーシュ)
先日別の記事にも書きましたが、今私がもっとも気になっている作家のひとり ジェラルド・カーシュの短篇。タイトルの通り、「不安全」な「金庫」のお話。この場合、「不安全」なのは「金庫」の中身です。弗素八〇+(プラス)という危険な物質が、地球を吹き飛ばしてしまいそうになります。


*「恐怖の七日間」(R・A・ラファティ)
かなりユニークでユーモラスな短篇。意味はよく分からないのですが、物質を消失させることのできる魔術的な道具を使って、クラレンスという子供が街中の人や物を次々消し去ってゆき、人々は大混乱! というお話。


*「玩具店」(ハリー・ハリスン)
空中に浮かぶ模型ロケット船。それを持ち上げているのは実は目に見えにくい黒い糸、という詰まらない仕掛けの手品セットを売り歩く若者。しかし彼には実は狙いがあって……というお話。
せっかくの技術と知識を、なかなか自らの儲けにつなげられない技術者の切なる願い、といったものを感じさせられます。


*「木偶」(ジョン・ブラナー)
これはかなり怖かった。ある病院でウィルズはひとつの実験が行っていた。ベッドに眠る被験者達は、夢を見そうになるとそれを妨害されるようになっている。脱落者が続出する中、ひとりの男だけがずっとその実験に耐えている。しかし、同時にウィルズの周りでは奇妙なことが起こり始めて……というお話。
なんとも不気味。胸が悪くなるような読後感です。面白かった。


*「電気と仲よくした男」(フリッツ・ライバー)
とぼけたタイトルがいいですね。内容もわりかしとぼけていますが、ちょっと恐ろしい。高圧線の電柱のすぐそばの山荘を借りることになったレバレット氏は少し風変わりな人物で、彼は電気をこよなく愛しており、しかも電気と話ができると言う……というお話。世界中を駆け巡る電気と話せるレバレット氏が、ある日、電気から「電気の世界連邦が成立した」と告げられて、びっくり仰天するところが最高に面白かったです。


*「生贄の王」(ポール・アンダーソン)
びっくりするほど皮肉な結末。
人類はその争いの場所を地球上から宇宙へと移していた。地上での戦闘は無くなったが、宇宙での戦いは熾烈を極め、宇宙飛行士たちはいずれも悲惨な最期をとげる運命にあった……というお話。
短いですが、かなり深刻で、考えさせられる物語です。「生贄」であるのは敵、味方にかかわらずすべての宇宙飛行士であり、彼等は地上の平和のためにその命を犠牲にしなければならない。敵のユネシアン軍に捕らえられたアメリカ軍のディーアス中尉は、ユネシアン艦のロストック将軍とある取り引きをする。ロストックの驚くべき提案によって、宇宙飛行士たちは新たな、自分達の道を選択できるかもしれない……それなのに。うーむ。悲しい結末です。


*「クリスマスの反乱」(ジェイムズ・ホワイト)
クリスマスにサンタからプレゼントを貰うのを楽しみにしている子供たち。しかし、彼らはクリスマス当日を待ちきれない。サンタはどこにプレゼントを隠しているのだろう? そして、みんなでその秘密を探るのだか……というお話。子供たちにはそれぞれ特殊な能力があるらしく、子供らしい好奇心だけで危険な場所に寝間着のまま侵入してしまうので、ハラハラさせられます。とんでもない結末になるかと恐れましたが、意外とハッピーエンドでした。良かった。


*「世にも稀なる趣向の奇跡」(レイ・ブラッドベリ)
ウィルとボブのふたりの生涯はどうもツキに見放されたみじめなものだったが、ある日、砂漠で不思議な蜃気楼の街に遭遇する……というお話。
幻想的です。ブラッドベリって、センチメンタルな物語が多いような気がしますね。


*「あのころ」(ウィリアム・F・ノーラン)
ある日、蝶が〈ラ・ボエーム〉をハミングし、赤ん坊を抱えた大きな斑猫が二本足で駆け抜けていき、ネズミとちょっとした会話をし、友達のウォリーはラクダになってしまった。わたしは急いで精神科医のメーローシン医師に会いに行こうと思うのだが……というお話。
妙に面白かった。こういうのは好きですね。気持ちの悪い夢みたいな、カラフルなイメージのお話です。


*「狂気の人たち」(J・G・バラード)
……バラードって!!
『結晶世界』を読んだことがありますが、バラードはこれで2作目。世界ではとうの昔に精神科医による医療行為は禁じられていた。彼はかつてそれを犯したために投獄され、今さっき出所してきたばかりだった。彼はもう仕事には関わりたくないと思っているのに、彼の前には次々と患者が現れて……というお話。
お? 面白くなってきたな……というところで終了! バラードって!!
私はどうもバラードとは相性が悪いようです……。


*「アンジェラのサチュロス」(ブライアン・クリーヴ)
おとぎ話のような不思議な短篇。
水浴びをしていたアンジェラは、ある日美しい少年と出会った。驚くほどに美しい彼はしかし〈半人半獣(サチュロス)〉で、彼らの恋はなかなか成就できなくて……というお話。
おとぎ話のようなのですが、ところどころが確かに現代社会らしくて、奇妙な味わいでした。面白かった。


*「人形芝居」(フレドリック・ブラウン)
非常にユーモラスな作品。
チェリーベルに恐ろしいものがやってきた。ロバにまたがったデイド・グランドという老人と、そのロバに引きずられて運ばれたガーヴェインという人間に見えなくもないが、真っ赤な皮膚と青緑色の髪や目を持つ無気味な人物。
オチに至るまでの二転三転が愉快です。


*「地球人、ゴー・ホーム!」(マック・レナルズ)
地球上のあらゆる旅行地に行き尽くした地球人におすすめする、火星旅行ガイド。ふざけた火星紹介には笑えます。地味に面白かったです。


*「分科委員会」(ゼナ・ヘンダースン)
こういう風にあっさりと他者と分かりあえたらいいのですが――。
当然空から降り立ったリンジェニの黒い大きな宇宙船。建設された壁を挟んで、戦闘と和平交渉が繰り返されるが、彼らの目的は不明なままだ。そんな折り、セリーナの5歳の息子スプリンターは、壁の下を掘って、向こう側へ忍び込み、そこで自分と同じくらいの毛だらけのドゥーヴィーと出会い……というお話。
男たちが始めから対立しあって交渉を続けるなか、セリーナとミセス・ピンクという、それぞれの種族の子供の母親の交流を通して和平に至る、という、こんなうまい具合にすべての紛争が解決すれば世話はないわなと思わざるを得ません。しかし、まるで道徳の教科書のような模範的な、未知の他者に対して楽観的・肯定的に過ぎる態度でもってあらゆる危機に有効に対応できるのか、というだけではとうてい反論になりません。どうしてこういうことの実現が難しいのか、そこを考えなくてはならないのでしょう。理想論だ、と無闇に反発するだけでは不足です。



さて、次は『傑作選』の4と6も読まないと。




『12モンキーズ』

2005年12月15日 | 読書日記ーSF
エリザベス・ハンド 野田昌宏訳(ハヤカワ文庫SF)


《あらすじ》
21世紀初頭、全世界に蔓延したウイルスにより、人類は死滅寸前にあった。地表をおおいつくした死のウイルスをさけ、密閉された地下都市で生活するわずかに生き残った人々。科学者たちは、ひとりの男に人類が生きのびるための一縷の希望を託して、鍵を握る時代ーーすべてがはじまった1996年へと送りこんだ。そこで彼がつかんだ巨大な謎……”12モンキーズ”とは? 知られざる兵器か? 秘密の軍隊か? それとも……!?


《この一文》

”「精神科なんかーー最新の宗教よ! われわれは祭司様なのよーー何が正しいか、何が間違っているかを決めるのはわれわれなのよ! 誰が頭が変で、誰がそうでないかを決めるのはわたしたちにすぎないのよ!」  ”




映画『12モンキーズ』の小説版だそうです。映画の方はまだ観たことがありません。テリー・ギリアム監督作品なのに……。映画と言えば、この作品はもともとフランスのクリス・マイケルという人が制作した『ラ・ジュテ』という映画に触発されて作られたそうです。『ラ・ジュテ』、以前からタイトルは聞いていて、観たいと思いつつ観たことがないSF映画の名作です。
さて、物語はなかなか良く出来ており盛り上がりもし、2時間ほどで一息に読めます。まさに映画的。断片的な夢のイメージと悪夢のような現実が、「現在」と「過去」を行きつ戻りつしながら進行します。始まりと終わりが輪ッかのように繋がっている物語で、こういうのを考えるのは大変なのだろうなーと感心しました。それと、あからさまにそういう描写はないのですが、どことなく幻想的な感じがするところが気に入りました。やはり、映画版を観たいところです。科学者が並んでいる場面なんかは、テリー・ギリアムだったらとても良い感じに表現しているんだろうなあ。ああ、『未来世紀ブラジル』を観たくなってきました。

『愛はさだめ、さだめは死』

2005年02月17日 | 読書日記ーSF
ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア 伊藤典夫 浅倉久志訳(早川書房)


《あらすじ》

自然と本能のまえにとまどう異星生物のラ
イフサイクルを、斬新なスタイルで描き、
1973年度ネビュラ賞に輝く表題作ほか、コ
ンピュータによって他人の肉体とつながれ
た女の悲劇を通して、熾烈な未来社会をか
いま見せ、1974年度ヒューゴー賞を獲得し
たサイバーパンクSFの先駆的作品「接続
された女」、ユカタン半島に不時着した飛
行機の乗客が体験した意外な事件を軸に、
男女の性の落差を鋭くえぐった問題作「男
たちの知らない女」など、つねにアメリカ
SF界の話題を独占し、注目をあつめつづ
けたティプトリーが、現代SFの頂点をき
わめた華麗なる傑作中短篇全12篇を結集!



《この一文》

” ただし、実はポールを愛してるのは、八千キロかなたのP・バークなんだ。P・バーク、地下牢につながれ、電極糊の臭いをぷんぷんさせた怪物。真実の愛に燃え、とろけ、とりつかれた女のカリカチュア。往復六万四千キロの大真空を渡り、見えない膜で麻痺させられた娘の肉体をつうじて、恋人に近づこうとする女。彼が彼女のものと信じこんだ体に、彼の腕がまわされるのを感じ、重い影とたたかい、それをかきわけて、恋人に身を捧げようとする女。美しい死んだ鼻孔をつうじて恋人を味わい、嗅ぎ、炎のさなかにも燃えない肉体で、彼の愛にこたえようとする女。
                  --「接続された女」より  ”



ティプトリーという人のことは全然知りませんでした。
が、とてつもない人物であったようです。
作品もそうですが、作者本人も凄まじい経歴の持ち主です。
いやー、すごい。
さて、この人の作品を初めて読んだ感想は、率直にいうと、「難しい!!」
こういうスタイルは経験がありません。
作品によって文体がころころ変わり、最初に収められている「すべての種類のイエス」などは、今誰がしゃべったり行動したりしているのかさっぱりわからない、という極度の混乱に陥り、途中で断念・・・。
初っ端から私の自尊心はいたく傷つけられてしまいました。
これほどまでに読めないなんて、ひさしぶりの屈辱です・・・。
私はまだまだ甘かった・・・!
そうしてハリボテの高い鼻をあっさり折られてしまった私は、気力をふりしぼって、一番面白そうだった「接続された女」を読むことにしました。
あふれる鮮烈なイメージと疾走感、まるで火花を散らすジェットコースター。
ショックでなかなか寝つけませんでした。(またか)
ティプトリー、はまりそうな予感がします。
なんとか「すべての種類のイエス」のような作品も克服したいです。
しかし、SFというのはどうしてこう面白いのでしょうか。

余談ですが、「接続された女」冒頭部分にこんなくだりがありました。

” 娘は人波にもまれながら、魂の憧れを眼玉に託し、背のびしてむこうをのぞく。大好き! おおおォ、大好き!(中略)・・・すてきィ!    ”

このノリ、ちょっとあれに似ています。
久しぶりに読みたくなってきました。
明日は「あれ」を取り上げることにします。

『結晶世界』

2005年01月25日 | 読書日記ーSF
J・G・バラード 中村保男訳(創元SF文庫)


《あらすじ》

忘れられぬ人妻を追って、マタール港に到着した医師サ
ンダーズ。だがそこから先の道はなぜか閉鎖されていた。
翌日、港に奇妙な水死体があがった。四日も水につかっ
ていたのにまだぬくもりが残っており、さらに驚くべき
ことには、死体の片腕は水晶のように結晶化していたの
だ。それは全世界が美しい結晶と化そうとする不気味な
前兆だった。


《この一文》

”--通常の世界では、われわれは常に動きというものを生命および時間の経過ということと関連させて考えてきたのですが、モント・ロイアルの近くの森でのわたしの経験では、すべて動きは必然的に死に通じ、時間は死の下僕にすぎないのだ、ということがわかりました。    ”



思ったよりもSFではありませんでした。
個人的にはもうすこしスケールの大きなSFらしい展開を期待していたのですが、そういう期待をしなければまあまあ面白い物語といえるでしょうか。
あとがきにもありましたが、どちらかというと純文学です。
タイトルは内容そのままですが美しいです。
特に邦題が素敵です。

『歌おう、感電するほどの喜びを!』

2005年01月17日 | 読書日記ーSF
レイ・ブラッドベリ 伊藤典夫・他訳(ハヤカワ文庫)


《あらすじ》

母さんを失くした、ぼくたちの家
に、魔法のようにやってきた電子
おばあさん。料理の腕は最高で、
凧をあげれば天まで届く。暗く沈
んだ家の空気も元のように明るく
なった。でも妹のアガサだけは、
どうしてもおばあさんに心を開こ
うとせず・・・。子守りロボットと
子供たちとの交流を描く表題作ほ
か、願いが何でもかなう火星の都
を訪れた地球人たちの不思議な体
験「火星の失われた都」など、ブ
ラッドベリが優しく歌う短篇集。


《この一文》

” グレート・ブリテンの最後のひとり、とハリーは思った、そうだ、聞け。そのひびき。時の流れにたえ、すべての霧雨をついて聞こえていたロンドンの大いなる鐘の音、それがこの奇妙な日、奇妙な時をかぎりに静まり、最後の、ひとりを除く最後の一団が、この民族の塚、冷たい光の海を彩るみどりの墓所から去ってゆくのだ。最後の。最後の一団が。
             --「ヘンリー九世」より   ”


レイ・ブラッドベリ、とても有名ですがずっと読んだことがありませんでした。
ほかにも沢山有名な作品がありますが、はじめて読んだのがこの作品です。
邦題が美しいです。
引用した「ヘンリー九世」は真面目な話だとは思うのですが、設定があまりに面白いので、とても気にいっています。
イギリスは寒過ぎるので、とうとう誰もいなくなってしまった・・・。
あり得る!!

これまた有名な『華氏451度』の映画を観ましたが、参りました。
ラストシーンが美し過ぎます。
しかし、原作はまだ途中までしか読んでいないのでした。
今はまだ少ししかブラッドベリの作品に触れていないのですが、その表現には何か独特な雰囲気があるように感じます。

『ガニメデの優しい巨人』

2005年01月16日 | 読書日記ーSF
ジェイムズ・P・ホーガン 池 央耿訳(創元SF文庫)


《あらすじ》

木星最大の衛星ガニメデで発見された二
千五百万年前の宇宙船。その正体をつき
とめるべく総力をあげて調査中の木星探
査隊に向かって、宇宙の一角から未確認
物体が急速に接近してきた。隊員たちが
緊張して見守るうち、ほんの五マイル先
まで近づいたそれは、小型の飛行体をく
り出して探査隊の宇宙船とドッキング。
やがて中から姿を現わしたのは、二千五
百万年前に出発し、相対論的時差のため
現代のガニメデに戻ってきたガニメアン
たちだった。前作「星を継ぐもの」の続
編として数々の謎が明快に解明される!


《この一文》

” 衛星面輸送機はピットヘッド基地を死装束のように覆って晴れることのないメタンとアンモニアの霧の上に軽やかに浮かび出ると南に針路を取って水平飛行に移った。氷の上に彫りつけられ、半ば濁った霧の海に沈んだかのような荒涼として変化のない景色を見降ろしながら、トランスポーターは二時間近く飛び続けた。時折、虹の七色を帯びた巨大な木星の穏やかな輝きに妖しく染まる霧を背景に黒々と突出した岩の露頭が僅かに眼下の単調を破った。     ”



SFミステリーという感じで楽しく読めます。
これに先立つ『星を継ぐもの』があまりに面白かったので、夜9時閉店間際の本屋さんまで全力疾走で、続く『ガニメデの優しい巨人』、『巨人たちの星』を買いに行きました。
大胆な発想で進行する物語は大変にドラマチックでありました。

『ソラリスの陽のもとに』

2004年12月28日 | 読書日記ーSF
スタニスワフ・レム 飯田規和訳(早川書房)


《あらすじ》

菫色の霞におおわれ、たゆたう惑
星ソラリスの海。一見なんの変哲
もない海だったが、内部では数学
的会話が交わされ、みずからの複
雑な軌道を修正する能力さえもつ
高等生命だった! 人類とはあま
りにも異質な知性。しかもこの海
は、人類を嘲弄するように、つぎ
つぎと姿を変えては、新たな謎を
提出してくる・・・思考する<海>
と人類との奇妙な交渉を描き、宇
宙における知性と認識の問題に肉
迫する、東欧の巨匠の世界的傑作


《この一文》

”「ワンピースを着たままでは、これは着られないよ。そいつは脱がないといけない」
 「コンビネーション? また何のために?」ハリーは興味を示して、すぐにワンピースを脱ぎにかかった。しかし、そのとき驚くべき事実が明らかになった。ワンピースは脱ぐことができなかった。ボタンもなければ、チャックもなく、ホックもなければ、何もなかったのである。胸の中央に一列についている赤いボタンはまったくの飾りにすぎなかった。ハリーははずかしそうにほほえんだ。   ”


面白いテーマです。
タルコフスキー監督の映画『惑星ソラリス』も観てしまいました。
しかし、この間のソダーバーグ版『ソラリス』はまだ観てません。
それなのに、早川文庫の表紙が映画公開にあわせてジョージ・クルーニーさんの顔入りになっているのを買ってしまったのは、なんとなく複雑です。
いえ、いいんですけど、表紙なんて別に・・・。
国書刊行会から原典邦訳版が出たらしいので、そちらも読んでみなくてはなりません。
少し内容が変わっているそうです。
というより、これまでのものが本来と少し違った内容だったというべきでしょうか。
興味津々です。

『夏への扉』

2004年12月16日 | 読書日記ーSF
ロバート・A・ハインライン 福島正実訳(ハヤカワ文庫)


《あらすじ》

ぼくの飼っている猫のピートは、
冬になるときまって夏への扉を探
しはじめる。家にたくさんあるド
アのどれかが夏に通じていると信
じているのだ。1970年12月3日、
このぼくもまた夏への扉を探して
いた。最愛の恋人には裏切られ、
仕事は取りあげられ、生命から二
番めに大切な発明さえ騙しとられ
てしまったぼくの心は、12月の空
同様に凍てついていたのだ! そ
んなぼくの心を冷凍睡眠保険がと
らえたのだが・・巨匠の傑作長篇



《この一文》

” 扉に行きつくごとに、ピートはぼくの脚のあいだをかいくぐり、首をつき出して外を見ては、まだ外が冬であることを知ると、無造作にくるりとふりむいて、危うくぼくを転倒させそうになる。
  だが、ピートも、ぼくも、決して、つぎの扉こそ探し求める扉だという確信を、放擲することはなかった。    ”



はらはらしながら読みました。
気楽に読める娯楽作でしょうか。
どんどんと話が進んでいくので爽快です。
この人の作品は他にも面白そうなのがたくさんあるので、
まだまだ楽しめそうです。
次は『メトセラの子ら』を読みたいです。

『賢者の石』

2004年12月09日 | 読書日記ーSF
コリン・ウィルソン 中村保男訳(東京創元社)

《あらすじ》

死の問題にとり憑かれた一人の青年が永
生を夢みて不老長寿の研究をはじめる。
古来、天才的な思想家に長寿を全うした
人が多いのは何故か。この疑問はやがて
大脳生理学の研究へと発展し、青年は前
頭前部葉の秘密に逢着する。かくして彼
は意識をほとんど無限に拡大し、過去を
も透視できるようになる。パラドックス
を伴わない真の”時間旅行”が、ここに
初めて実現する。だが、人類の起源にま
つわる秘密を探る彼の前に意外な妨害が
現われ、命さえ危険にさらされる。『ア
ウトサイダー』の著者コリン・ウィルソ
ンが放つ壮大な人間進化のヴィジョン。


《この一文》

” このことが私の心にひらめいたとき、私はいわばショックを受けた。私ハワード・レスターは今こうしてベッドに寝て、私自身の自我同一性--つまり私が私であるということ--をいささかも疑わずにいる。だが、私の意識の表面下、ひいては今の私にとってはもはや手の届かないものではない直観の宿る領域よりもなお下に、もう一人のハワード・レスターがいて、しかも、その男のほうが私の名を名のる権利をより多くもっているのだ。この私は贋者であり、彼のほうが”本物(リアル)の私”なのだ。      ”


タイトルに惹かれて買ったものの、当時の私には難しすぎたのか、読まずに10年近く保管してあったのを、とうとう読みました。
うーむ、面白い。
SFです。好きです。
私が読むものとしては長篇でしたが、一気に読んでしまいました。
途中で止められないくらい面白いのです。
読んでいる間は主人公とともに、すっかり進化した気分になりましたが、終わってみるとやはり元の自分のままなのでびっくりです。
頭脳をもっと働かせなくては--と日々の暮らしを反省するばかりです。