半透明記録

もやもや日記

『竜座の暗黒星』-現代ソビエトSF短篇集2

2010年02月24日 | 読書日記ーSF

ストルガツキー兄弟/西本昭治・編訳(早川書房)


《内容》
金属を食って自己を再生産する自動機械カニの話『カニが島を行く』(ドニエプロフ)、地球から1800億キロもはなれた竜座の暗黒星探検の物語(グレーヴィチ)、地球以外の宇宙の惑星にかならず理性的存在があると信じている男の話『さすらいの旅をつづける者たちについて』(ストルガツキー兄弟)など6篇を収録。

《収録作品》
*カニが島を行く…A・ドニエプロフ
*竜座の暗黒星…G・グレーヴィチ
*ベルン教授のめざめ…V・サフチェンコ
*さすらいの旅をつづける者たちについて…A&B・ストルガツキー
*宇宙で…I・ワルシャフスキー
*ホメーロスの秘密…A・ポレシチューク
*雪つぶて…E・パルノフ/M・エムツェフ
*湾の主…S・ガンソフスキー

《この一文》
“『人生は年齢によってではなく仕事によって測られる』――このことばをぼくがじいさんからはじめて聞いたのは、十七年前である。
  ――「竜座の暗黒星」(グレーヴィチ)より  ”

“ ムッシュー、ほかの人はどうだか知らないけれど、とにかくわたしは、なにごとにも驚かない人間はきらいです。わたしはそんな人間を見ると、まったく苦痛をおぼえますな。なにごとにも無関心であることによってこいつはおれを侮辱しようとしている、という気がしましてな。だって世の中には、ふしぎなことがやまほどあるじゃありませんか、ね、そうじゃありませんか? とどのつまり、わたしとあなたが生きているということさえ、ふしぎなことです。心臓がうつということ、肺臓が呼吸すること、脳髄が思考することも。ね、そうじゃありませんか?
  ――「湾の主」(ガンソフスキー)より  ”




有名な「カニが島を行く」のために買ったようなものの本書ですが、それ以外の短篇もとても面白かったです。特に面白かったのが、「湾の主」。これは、この短篇集のなかで唯一未来世界を舞台にしていませんでした。過去を回想する形式をとり、《湾の主》という未知の生物と遭遇するという、古き良きSF小説という感じでした。なんだかんだでこれが一番気に入ってしまうあたり、私はやはり懐古趣味であると言わざるを得ませんね。

さて、一応作品ごとに一言ずつ書いておきたいと思います。

*「カニが島を行く」
機械のカニが、赤道直下の無人島にある実験のために持込まれる。そのカニは金属を食って自己を再生産するという性能があるのだが、島のところどころに置かれた金属の山を食いつくし、増えに増えたカニたちがとった行動とは――というお話。
オチは見え見えですが、ちょっとした描写が間抜けで、猛烈に面白かったです。

*「竜座の暗黒星」
年老いた英雄的宇宙船長と若い建設技術者である「ぼく」は、竜座の暗黒星を目指して航行することになる。長い年月に及ぶ航行の末に、ようやく目的地へ辿り着くのだが――というお話。
結末がいささか唐突なものの、じんわりと胸を打つ短篇でした。ただ行くだけで14年、その間は狭い空間に閉じ篭り切りの、そんな道のりだとしても自ら望んで乗り出す人間がいるだろうか。いるだろう。人間ならきっとやるだろう。それが人間の美しいところだと、つくづく思います。

*「ベルン教授のめざめ」
人類はふたつの世界大戦を経験したが、科学はさらなる凶暴性をもって進化しようとしていることを憂えるベルン教授は、数万年後には人類は滅亡しているに違いないと断言し、そのことを確かめるためにあることを計画する――というお話。
タイムトラベルものです。どうせ人類は滅びる、それみたことか、というとてもネガティブなお話なので、私は気に入りました。そして意外な結末がまた私の気に入りました。面白い。

*「さすらいの旅をつづける者たちについて」
セプトボドというタコのような生物を観察・研究しているスタニスラフ・イワノヴィチは、ある日ゴルボフスキーという天文考古学者と出会う。彼は地球以外の惑星に、人間とは発達段階のちがった理性的存在の痕跡を探しているというのだが――というお話。
ストルガツキーの作品は、時々よく分からないことがあるのですが、この短篇もいまのところ私にはよく分かりません。でも好き。面白かったです。もっとよく読めば、もうちょっと分かったかもしれません。人間という存在のちっぽけさとか、それに対する悲しみとか諦めとか開き直りというようなところはチラチラと見えた気はします。
それにしても、ゴルボフスキーってどこかで聞いたような…? ひょっとしてアレかな、えーと、ほら……コムコン2とか。あのシリーズに出てくる人でしたっけ? あとで調べよう。

*「宇宙で」
宇宙へ探索任務に出かけた宇宙船。その旅においては、さまざまなトラブルに見舞われる。というお話。
ちょっと変わった作品でした。違った時点での話が、細かい章で断片的に語られます。

*「ホメーロスの秘密」
未来世界からホメロスの時代にタイムトラベルするお話。
これは結構面白かったです。地味ながらに面白い。工学部の生徒に古代の韻文を教えるべく派遣されてきた教授が、そのうちの熱心な学生が作ったタイムマシンに乗って、ホメーロスとは何者であったかを確かめるために古代へさかのぼります。実際に当時を見たり体験したりできればなぁ、と思っている研究者はいそうですが、でもこんな機械があったら、大変でしょうね。それでもいつかはそんな時代がくるのでしょうか。

*「雪つぶて」
私は論文発表の会場で頭に血が上り、しばらくは隠しておくつもりだったはずのタイムマシンを覆うカバーを外し、聴衆の面前で過去にさかのぼる――というお話。
これまたタイムトラベルものです。タイムトラベルって、まあ、とにかく面白いですよね。このお話も、主人公が過去の自分と邂逅し、こいつ結構いい奴じゃん、とか思ったりするあたりが最高に面白かったです。終わり方はなんだか青春小説的な爽やかさもあり、清々しい短篇でした。、

*「湾の主」
空港の待ち合わせで出会った人物は、かつてニューギニアで遭遇したという不思議な生物について語り出す。映画撮影技師である彼が見たというそれは実に奇妙な生物で――というお話。
普通に面白かったです。こういう古典的なSFという感じのする短篇は、安心して読めますね。SFというよりも怪奇小説という感じもしますが、いちおう最後のほうはちょっとSFっぽかった。ベリャーエフの「髑髏蛾」に近い感触です。どこがどうと、はっきりとは言えませんが、私は非常に気に入りました。この雰囲気がすごく良い。面白い!
ついでに、上に引用した「とにかくわたしは、なにごとにも驚かない人間はきらいです。」という部分は、ドストエフスキーの「ボボーク」という短篇にも似たような文がありました。いやほんと、世界は驚異に満ちているというのに、それに驚かないで過ごすなんて、まったくもったいない話ですよね。



というわけで、『竜座の暗黒星』は読了。同じ現代ソビエトSF短篇集というシリーズの『宇宙翔けるもの』と『アトランティス創造』も手もとにあるので、ついでに読んでしまおうかと思います。






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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (piaa)
2010-02-24 21:09:04
おお、面白そうですね~!
東欧SFは読める絶対数が少ないので貴重ですよね。何らかの形で復刊してくれるといいのですが…
特にストルガツキーの22世紀シリーズはぜひまとめて一冊の本にして欲しいものです。

ちなみにゴルボフスキーなら「蟻塚の中のかぶと虫」などでコムコン2の主要人物として登場、というか語られていますね。
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ですよね~! (ntmym)
2010-02-25 00:45:25
piaaさん、こんばんは!

やっぱりpiaaさんなら教えてくださると思ってました(^^)…というか、思いっきりpiaaさんに向けて書いてました; ありがとうございます~。やっぱゴルボフスキーはコムコン2の人でしたよね! あー、すっきりした(←結局自分では調べてないあたり…;)

しかし、このシリーズはほんと、どうして復刊しないんですかね。かなり良いセレクションだと思うんですけどねー。
あと、22世紀シリーズも、ほんとどっかで出して欲しい。そしたら私は絶対買うのになぁ。


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