ジャック・フィニィ、ロバート・F・ヤング他 中村融 編
(創元SF文庫)
《内容》
時という、越えることのできない絶対的な壁。これに挑むことを夢見てタイム・トラヴェルというアイデアが現れて一世紀以上が過ぎた。時間SFはことのほかロマンスと相性がよく傑作秀作が数多く生まれている。本集にはこのジャンルの定番作家といえるフィニィ、ヤングらの心温まる恋の物語から作品の仕掛けに技巧を凝らした傑作まで名手たちの9編を収録。本邦初訳作3編を含む。
《収録作品》
「チャリティのことづて」 ウィリアム・M・リー
「むかしをいまに」 デーモン・ナイト
「台詞(せりふ)指導」 ジャック・フィニィ
「かえりみれば」 ウィルマー・H・シラス
「時のいたみ」 バート・K・ファイラー
「時があたらしかったころ」 ロバート・F・ヤング
「時の娘」 チャールズ・L・ハーネス
「出会いのとき巡りきて」 C・L・ムーア
「インキーに詫びる」 R・M・グリーン・ジュニア
《この一文》
“たぶんショックだったのだろう、恐怖だったのだろう。彼女は自分自身のために泣いていたのだ。なぜなら、愛は待ってくれないと、いきなり思い知らされたのだから。愛はあとまわしにはできない。先のばしにすれば、死んでしまう。 ”
ジャック・フィニィ「台詞指導」より
『時を生きる種族 ファンタスティックSF傑作選』に続き、こちらの『時の娘 ロマンティック時間SF傑作選』も読んでみました。とても面白かったです。ただ、あくまで個人的な好みの問題ですが、私は『ファンタスティックSF』のほうが好きですね。『ロマンティック』のほうは面白かったのですが、私が期待していたほどにロマンティックではなかったというかなんというか。わりと恐ろしい感触のお話もありましたしね。たとえば「時の娘」とか…「時の娘」とか…。広瀬正の『マイナス・ゼロ』を読み返したくなるような「時の娘」ですが、登場人物の性格がなんとも恐ろしかったのです。それが印象的ではありました。
いかにもロマンティック! 素敵!! と感じたのは、ロバート・F・ヤングの「時があたらしかったころ」。これは素敵なお話でした。結末には思わず「グハアァ!」と声が出ましたよ。全体的に軽快で明るい印象です。ラストの展開のはやさが最高でしたね。唸らされました。これはマジで面白かった。
次にドスッときたのは、上にも一文を引用したジャック・フィニィの「台詞指導」。これは映画製作者たちのお話ということもあって、短いながらも描写が実に映像的でドラマチックな物語なのですが、思わず立ちすくんでしまいそうになるほどに苦い教訓を与えてくれました。
「愛はあとまわしにはできない」。こんなにはっきり言われるとグサッときますわ。「時間」と「愛情」の問題が鋭く描かれていましたね。忘れがたい作品になりそうです。
他の作品もそれぞれに面白かったですが、「インキーに詫びる」だけは時間が足りなくて最後まで読めませんでした。そのうち読みたいと思います。
さて、フィニィとヤングが面白かったので、ちょっと他の作品も読んでみます。やはり有名で人気がある作家の作品というのは、ちゃんと人気が出る理由があるものなのですね。そういうことを納得させられた1冊です。楽しかった!
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