旅限無(りょげむ)

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実(げ)に恐ろしきは縦割り 其の参

2006-03-30 12:27:25 | 政治
■最初に引用した『韓非子』という書物は、王様の安泰を第一義として考え抜かれた統治の要諦を書いた王様用の教科書ですから、民の幸福を追求する目的で書かれてはいません。突き詰めれば、悪い役人が権力を独占して内乱が起これば、民は苦しむ事になるので、民の安寧を考えているとも言えなくはないのですが、役人は無能で何も考えない歯車として馬鹿馬鹿しい役目を黙々と果たしていれば良いという結論に従えば、コンビニのアルバイト学生よりも低い賃金で雇われるべきでしょうなあ。それが、「遅れず、休まず、働かず」ミスを犯さなければ一生安泰で、特別な年金やら天下りの渡り鳥生活まで保証されているのですから、テスト勉強しか能の無い人達が大挙して集まるのも仕方が無いのでしょうなあ。『韓非子』の教えに背くとなると、これは大変な苦労と犠牲が必要なのは今も昔も変わらないようです。

「幼稚園」と「保育園」の垣根が、ぐっと低くなる。遅過ぎた一歩だ。幼稚園を所管する文部科学省と保育所を所管する厚生労働省が、両方の機能を併せ持つ「認定こども園」を整備する。政府がそのための法案を国会に提出した。

■幼稚園があちこちで定員割れを起して、ばたばたと閉まっているのに、保育所を利用できない「待機児童」が2万人以上も居る、そんな馬鹿馬鹿しい状態がやっと解消されるようですなあ。半世紀も前から、旧通産省では夫婦に子供二人の「標準家庭」を政策の中心に据えていながら、「子供」の育て方も後々の「夫婦」の介護も旧厚生省の縄張りで、まったく整合性が取れていないのですから、子供は「鍵っ子」、年老いた親は「社会的入院」、その中から家庭崩壊やら少年犯罪の凶悪化など、不安ばかりが充満する恥ずかしい国が出来てしまったのでした。


幼稚園は3歳以上の子が対象で、原則1日4時間の教育施設だ。保育所は0歳児から長時間預かる児童福祉施設である。就労している親の子を対象とし、原則として、専業主婦の家庭などには開放されていない。核家族化が進んだため、専業主婦にも乳児の段階から幼稚園や保育所に助けて欲しいという切実な声がある。また、保育所でも充実した幼児教育を受けさせたい、と親が望むのは当然だろう。法案が成立すれば……制度スタート時点で1000施設が認定されると見込まれている。

■幼稚園と保育所の総数は3万7000だそうですから、1000箇所の「認定こども園」が出現しても焼け石に水でしょうなあ。「男女雇用機会均等法」などという法律を作っておいて、子育て支援は後回しにしてしまう感覚が分かりませんが、ずっと、厚労省と文科省は縄張り争いをして無駄な時間を費やして来たのです。それにしても、英語をそのまま直訳したような名称からしても、間に合わせの緊急避難でしかない実情が透けて見えますなあ。


現実にはすでに、自治体が住民の強い要望に応じ、独自の財源や工夫で作った幼保一体型施設が約300ある。それ以外にも、幼稚園で預かる時間を延長したり、保育所で教育カリキュラムを充実させるなど、ニーズに応えようと個々の取り組みは行なわれている。

■地方自治体の方が民の顔を見て、民の声を聞く場所に居るので、アホらしい永田町と霞ヶ関の縄張り争いに付き合っていられないのでしょうなあ。


認定こども園制度を発足させるために文科、厚労両省は、幼稚園と保育所の所管課長を人事交換した。……子育て支援は、少子化対策の重要な柱だ。文科、厚労にとどまらず、関係省庁は垣根を越えて効果的な政策を実施しなければならない。幼保一元化は、総合的な子育て支援策の入り口だ。もたつくことなく軌道に乗せる必要がある。3月23日 讀賣新聞社説より

■お役人は「垣根」の向こう側を見る力も権限も意欲も有りません。それをするのが政治家の役目なのですが、お役人に手取り足取り世話になっているようでは、新しい枠組みを考えられる筈は有りません。族議員などと呼ばれる役人以上に『韓非子』を愛読しているような政治家が居るのですから、垣根を取り払う事など不可能でしょうなあ。本当は「構造改革」の目的はこういう垣根を壊して、新しい行政システムを構築する事なのですから、小さな一歩ではあっても、厚生大臣を経験した小泉さんの業績として認めて良いのかも知れません。しかし、任期が切れる9月以降、新たな垣根がにょきにょきと建って元の木阿弥になる可能性も有りますなあ。そもそも、通産省が「標準家庭」のイメージを棄てる気が有るのかどうかも分かりません。縦割りを維持している垣根こそが、お役人の存在理由を支えているのですから、放って置いたら、永久に垣根は消えないのでしょうなあ。(其の四もあります)

実(げ)に恐ろしきは縦割り 其の弐

2006-03-30 12:26:17 | 政治
■この事件を起こした二代目の経営者は、北海道の王様気取りだったようですから、念が入った話です。

……自宅は札幌市中央区の高級住宅街。鉄筋コンクリート2階建て約350平方メートル……1670万色の発光ダイオードの室内特殊照明、高級ジェットバス、エアコン・床暖房完備の犬小屋……学園が公務に使う法人名義のカードは、約1億円が女性用の鞄や靴、高級スーツ、高級腕時計の物品購入などに消費さた。多い時で6人の家政婦がいた。……過去4年間に受けた補助金は20億6000万円。道内2位の4億6500万円を大きく引き離す……「職員1人雇っても、学生1人入学させても補助金が出る。学校経営ほどおいしいものはない」「カネがないなら授業料を上げろ」……イエスマンの幹部たちが暴走を支えていた。

■ヒューザーの小嶋社長が聞いたら泣いて悔しがるような話ですなあ。こんなアホ教育者にじゃぶじゃぶ税金をくれてやるなら、俺にも130億円くらいくれたって良いじゃないか!と叫んでいる声が聞こえそうですぞ。この他にも、仙台市の東北文化学園大が、日本私立学校振興・共済事業団から5億6000万円も騙し取ったり、埼玉県の佐藤栄学園が、7億円もの税金を誤魔化していたり、税金は天下り役人と無能な役人と、それを知り尽くしている悪い奴らに食い荒らされているのですなあ。毎年、1000件以上も交付される補助金が、何処で何に使われているのか、誰も知らないのですから、恐ろしい事です。「教育者=善人」と誰が決めたのかは知りませんが、教育者は善人であるべきだ!というのが正しい考え方で、悪人が紛れ込んだら徹底的に罰して排除しないとトンデモない事になりますぞ!


……1975年の私学振興助成法施行以来、80年代の2年を除き減ったことはない。私学を重視する政府与党の意向が大きいという。……3月23日 讀賣新聞より

■教育は国家百年の計ではありますが、こうした「偽装学校」は教育とは無縁の設備でしょうなあ。欧米の有名大学などは、文字通りの「私学の自治」を死守する為に卒業生や企業などから自前で寄付金を集めて運営していると聞きますが、日本は税金を沢山取ってくる政治家を卒業生から出すのに熱心なようです。自民党の中にも私学の学閥が有るようですし、公明党となれば立派な私学を経営している団体に支えられているのですから、誰も私学に対して厳しい意見は言えないのでしょうなあ。自衛隊の設備を巡る長年の談合体質が暴露されましたが、最も巨額の談合疑惑を持たれているのが文科省なのですから、教育の美名を利用して税金を無駄にしているシステムをこそ「構造改革」しなければならないでしょう。

■でも、マンションやホテルの偽装を見抜けなかった国土交通省に助っ人を頼んでも役に立ちそうもないし、何よりもそれは『韓非子』の教えに反するのですから困ったものです。本当は生徒の事などまったく心配していない奴に限って、悪事がバレると、「生徒が可哀想です」などと、人質に取って開き直ったり泣き落としに出るのですから始末に負えません。しかし、盗人学校に入学したのは不運と諦めて貰うしかないでしょうなあ。大体、義務教育の施設に対して大学と名の付く施設が多過ぎるのです。「皆が高校生」では飽き足らずに「皆が大学生」と主張して、自分の生徒愛に陶酔するような愚か者があちこちに居る内は、文科省から税金は垂れ流されるのでしょうなあ。

実(げ)に恐ろしきは縦割り 其の壱

2006-03-30 12:25:56 | 政治
■『韓非子』二柄篇に、お役人の役割分担を厳密に守る話が出ていて、とても有名です。役人は権力を分割して法律に則(のっと)って政治を行なう身分なので、勝手に他の権力を自分のものにしたり、法律を気儘に変更しては行けません。それはとても厳しいものなのは、今も昔も変わりません。

……昔者韓の昭侯酔うて寝(い)ね、典冠の者、君の寒きを見る。故に衣を君の上に加う。寝より覚めて説(よろこ)び、左右に問いて曰く、「誰ぞ衣を加えしは」と。左右対(こた)えて曰く「典冠なり」。君よって典衣と典冠とを兼ねて罪す。その典衣を罪せしは、もってその事を失うとなせばなり、その典冠を罪せしは、もってその職を超ゆとなせばなり。寒きを悪(にく)まざるにあらずして、おもえらく、官を侵すの害は寒きよりも甚だしと。……

要するに、王様が酔って転寝(うたたね)をしているのを見た冠係が、風邪を引いては行けないと気を利かせて上着を掛けた。それを知った王様は怒って、冠係は他の役人の仕事をしたという理由で罰し、服係は職務怠慢で罰した。という話です。

■王様は、風邪を引くのも困るけど、役人が自分の役割分担を無視して勝手に気を利かせて権力を振るう事の方が遥かに恐ろしい!と言ったそうですなあ。役割を厳格に分けて余計な仕事はさせず、やると約束した事は絶対に実行させる。こうしておけば役人は徒党を組んで国を亡ぼす事は無いのだそうです。


「業者を1社抱えれば、学校法人は何でもできる」浅井幹夫容疑者(57)の共犯として起訴された建設業者、酒出信二容疑者(36)は逮捕前、読売新聞の取材に語った。私学へのチェックの甘さは、それだけ見透かされていた。……計画段階で3社に見積もりを出させていたが、うち1社が浅井容疑者の親族が絡んだ業者……受注した別の業者が、工事を請け負える建設業法の許可を持っていなかった……耐震工事がきちんと行なわれたかどうか、完成状況を確認する現地調査を行なわず、書面審査で補助金交付を決めていた。

■韓非子が泣いて喜ぶようなお役人仕事ですなあ。国土交通省の役人だって耐震偽装を見破れないのですから、文科省の権限を厳密に守っている優秀な役人に見抜けるはずなど有りません!土木会社の裏側なども、文科省の役人にとっては領域外の別世界、一切知らなくても良いのです。こんな相手から3億円ぐらいの「ハシタガネ」を騙し取るのは簡単でしょうなあ。


補助金を担当する同省私学助成課は、課長以下十数人の小所帯だ。国からの「直接補助金」を扱う係官は3人に過ぎない。2004年度には、3人で約1400件を処理した。永山賀久課長は「全国の学校法人を現地調査して回るのは、物理的に不可能。制度自体が学校法人への信頼を前提にしている」と語る。

■オウム真理教に対して宗教法人の認可を下した東京都庁の事情と同じですなあ。あの時も、確か担当者は3人しか居ない上に、教育行政の係官なので、殺人宗教の教義などにはまったくチェック機能が働かなかったのでした。人数は少ないわ、審理能力は無いわ、それでも仕事をしていると胸を張れるぐらいの根性が無いと役人は勤まらないのですなあ。『韓非子』に出ていた、王様の冠だけを担当する役人みたいなものです。考えて見れば、実に情けない仕事なのですが、本人は大真面目に宮廷での大事なお役目だ!と思い込んでいたに違い有りませんから、自分に与えられる給料が税金の無駄遣いなどとは夢にも思わなかったでしょうなあ。

良いお役人 其の参

2006-03-29 12:25:29 | 政治
■ますます能天気な調子が高まって行きますぞ。

自然を大切にする心は、省エネ製品や低公害車に生かされ、自然の中で育まれた美と感性は、家具や家電製品の洗練されたデザインに結実している。自然の食材を大切にする日本食は、世界の垂涎(すいぜん)の的でもある。

■病硬膏(やまいこうこう)に至る、とはこの事でしょうなあ。「省エネ製品」は二度の石油ショックを乗り切る為に渋々始まった技術ですし、「低公害」製品は1960年代の深刻な公害問題に怒った住民が、あちこちに革新首長を選出したりマスコミが次々と反公害キャンペーンを張ったので、困った企業が対策を取り始めただけの事でしょう?それは日本の伝統でもないし、伝統的な「美と感性」とも無関係です。それにしても、「美と感性」が大好きな人ですなあ。御自身は「名文」だと思い込んでいるのでしょうが、誰か教えて上げた方が良いですぞ。

■本当に日本の家電製品が「洗練されたデザイン」を手に入れているのなら、ドイツ人に大金を巻き上げられて奇怪なゴミ処理場を建設した大阪市などは大罪を犯していることになりますし、服やらバッグやら、借金してでも欧州製を買い漁っている日本人をどう説明すれば良いのでしょう?日本の大金持ちは、日本車なんか買わないでしょうに!その上、「世界の垂涎の的」であるはずの日本食文化は遠い昔に崩壊していているのは、昨今の「牛肉騒動」でも分かるでしょうし、こんな寝言を言っている暇が有ったら早く捕鯨が再開できる手助けでもして欲しいものですなあ。野菜も魚介類も環境汚染が深刻な中国から続々と輸入されて、貧乏人は安全よりも安価である事を選ばねばならないのが、現在の日本食文化の状況と言うものです。


日本の伝統産業を支えた巧みの心は、日本のモノづくりに息づいている。引き継がれた技や知恵に新しい技術や発想を取り入れる手法は、日本特有の巧みの技を造り上げてきた。精巧な陶磁器や漆器、木製品などはその伝統性を超えて、現代の生活様式に新しい潤いを与える力である。日本の織物は、海外で洋装ファッションの素材としても高く評価されている。

■紙面に掲載されているスーツ姿の写真を拝見すると、その服地は絶対に英国製ではないのでしょうな?そして、毎日使う汁椀も高級漆器なのでしょうし、茶碗や皿も数千円以上で購入した物なのでしょう。間違っても100円ショップなどで買った商品ではないに違い有りません。それにしても、この人が講読している新聞には、「2007年問題」で大量の退職者が伝え切れない技術や情報が膨大に消えてしまうと日本中が大騒ぎしている事や、伝統工芸品は後継者も顧客も失って間も無く死滅する運命を辿っている話なども載っていないようです。それにしても「伝統性を超える」だの「新しい潤い」だの、どこからこんなヘンテコリンな表現を引き出して来るのでしょう?「巧みの技」などと、内橋克人さんが随分前に流行らせた言葉を恥ずかしげも無く使える神経も大したものです。


日本人の心の中には、個性を磨き、気品を保ち、礼節を大切にするふるまいの心がある。華道や茶道の奥義は、形を精神の美しさにまで高め、連歌は、調和と創造を象徴する優雅さがある。これは、気品あるデザインや粋な演出につながろう。……

■引用はこの辺で終りますが、この段落などは藤原正彦先生の本からの丸写しではないかと思われます。「個性」「気品」「礼節」の心と最も縁遠いのが官僚の世界なのではないでしょうか?そんな世界に何十年も居ながら「華道や茶道の奥義」を学べたら奇跡です。「調和と創造を象徴する優雅さ」などと、ここにも意味不明の表現が飛び出していますなあ。御本人は得意なのでしょうが、意味がさっぱり分かりません。そして「粋(いき)」というのは江戸文化だけに通用する感覚で「野暮」の反対です。この野暮を煮詰めたような文章中に突然出て来ると、読んでいる方は大いに慌ててしまいますなあ。

■福川伸次さんの肩書きは「機械産業記念事業財団会長」なのだそうで、名前だけ見たら何をやっている財団なのかさっぱり分かりません。元通産事務次官の74歳だそうですから、バブルが破裂した頃には50代の働き盛りだったのでしょう。こんな人が活躍していたのですから、欧米にしてやられるのも納得が行きます。「新日本様式協議会」などという恥ずかしい暇潰しは早く止めて、少しは中身の詰まった日本語が書けるように勉強し直して欲しいものであります。


……最近、日本は共産国家ではないのだし、別に役人に贅を凝らした住宅をあてがうこともないだろうにという意見が出てきた。
 そうしたら森義朗前総理が、役人からいい官舎を取り上げたら、いい役人が集まらなくなると言い出した。
 過去にいい役人がいたとは知らなかった。

■これは『週刊新潮』3月30日号に高山正之さんが書いた「変見自在」の最後の段落です。福川さんのような人は、こういう分かり易い文章は嫌いなのでしょうなあ。

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良いお役人 其の弐

2006-03-29 12:25:09 | 政治
■能天気な文章の引用が続きます。

ところが、日本には歴史的に世界から高く評価される生活文化や伝統技術がありながら、それを現代の魅力に生かし切れずにいる。日本らしさは、まず自然観に表れる。日本には、四季の恵みを享受し、自然との共存と調和の中で美と感性を培う伝統がある。たとえば日本庭園では、自然の美と人工の粋を見事に融和させ、借景という魅力を生み出している。……

■中学生の教科書から抜き出した短文をツギハギしたような訳の分からない寝言が並んでいますなあ。「四季の恵み」とは何でしょう?今年は豪雪で大変な災難でしたが、「冬の恵み」も享受しなければなりませんぞ。黒塗りの車も茶を飲むオフィスも上着不要の暖房完備でなければ不機嫌になるエライ役人が、こんな空々しい事を書いては行けません。「美と感性を培う」というのも意味が分からない文ですが、「借景」の能書きを垂れるのなら、東京都内に点在する木々の向こうにビルが屹立する見事な「借景」の公園施設を何とかしろ!偶然ですが、『週刊新潮』3月30日号のモノクロ・グラビア記事は「これが醜い日本の風景」という特集でしたぞ。

■東京都国立市の富士見通りは、「電線電柱が空を覆う」し、東京都渋谷区の『春の小川』の舞台となった渋谷川は無機質で汚い「排水路」、同じ渋谷区の低層ビルの屋上は空調機器の室外機が墓石のように並び、東京日本橋は首都高で空が見えません。神奈川県藤沢市の丘陵地帯は里山を削って坂道だらけの住宅地になり、静岡県の海岸には朽ち果てた波消しテトラポットが半分砂浜に埋没したまま、埼玉県所沢市には違法投棄された産廃が山を成し、千葉県佐倉市の高速道路のインター周辺はラブホテルの看板が林立、栃木県宇都宮市の駅前は金貸しの看板が毒々しく目を射て、その裏側にはシャッター商店街。これらは、「美しい景観を創る会」が選んだ70の醜い風景からの抜粋だそうです。


この会のホームページ(http://www.utsukushii-keikann.net/)によれば、これらは伊藤滋・早大匿名教授(都市計画)や照明デザイナーの石井幹子氏、中村良夫・東工大名誉教授(土木工学・風景学)など12人の同会メンバーが、折に触れて目にした風景70をとりまとめ、世論喚起のために公表しているもの。……目を凝らせば全国いたるところゴロゴロと転がっているのだ。

■フランスのパリを散歩すると、あちこちで街の風景画を描いている画家の卵に出会いますが、東京都内でそんな人を見た事は有りません。既にこうした醜い日本風景は、能天気なお役人が称揚する「日本の伝統」になっているのです。毎日毎日、こうした風景を眺めながら、もう半世紀近くも日本人は暮らしているのですから、そこから湧き出す「美と感性」は、薄暗いホラー小説やグロテスクな漫画ぐらいにしか役立たないのではないでしょうか?

良いお役人 其の壱

2006-03-29 12:24:46 | 政治
■まったくお役人というのは能天気な物だなあ、と呆れるような投稿文を見つけましたぞ。お役人の名前は福川伸次さんと言います。結局は「天下り」法人の自己主張らしいのですが、その能天気ぶりが並大抵でないので記録として書残して置こうと思います。3月23日の読売新聞13面、『論点』に投稿された文章です。題名は「新日本様式」だそうです。大体、お役人が「新」と言ったら眉にたっぷりと唾を付けなければなりません。

新日本様式協議会が発足した。現在の参加者は、松下電器、トヨタ、三越など47企業と、日本貿易振興機構(ジェトロ)など18法人、デザインや美術に学識の深い20人の有識者たちである。発足は経済産業省の新日本様式・ブランド推進懇談会がきっかけとなった。私も参加したが、懇談会では「ジャパネスク・モダン」(今日的な日本らしさ)が強調され、日本の伝統的な文化や技術を今日的な要素に再設計し直し、日本の新しい魅力づくりとブランド発信につなげたいという内容の提案をまとめ上げた。……

■「協議会」だの「懇談会」だの、税金の無駄遣いが止められないお役人達は、愚にも付かない「提言」やら「レポート」を作るのが大好きですなあ。この段落が「まとめ上げた」で終っているのが、何とも鼻に付く大時代的な駄文の臭いがぷんぷんなのですが、ご本人は酔っ払っているので、その悪臭に気付かないのでしょうなあ。47企業の皆さんは、デザインとブランドを武器にして国の内外で鎬(しのぎ)を削って競争している真っ最中でしょうから、暇なリタイヤ役人の道楽に付き合うのも大変でしょう。各企業が練り上げている「デザイン」こそは秘中の秘、外務省が顔色を失うような熾烈な情報合戦を繰り広げているのは業界の常識なのですから、こんな暢気な茶飲み話の場で披露するようなクズ情報など、何の価値も無いに決っているでしょ?


中国を筆頭にアジア各国の産業の強化で、激しいグローバル競争が展開され、日本の産業が価格や機能の優位性だけで差別化を図ることは難しくなっている。加えて、グローバル化の進展は、人々に自己の独自性を、精神面とりわけ文化に求める意識を促している。いまや国際競争の焦点は、その製品やサービスの醸し出す品格や趣向といった文化性に移っている。……

■もしも、この駄文が20年前か30年前に書いた物ならば、堺屋太一さんの後に続く人材?なのかとも思えますが、この人はどんな新聞を読み、テレビのニュースを観て暮らしているのか、理解できない時代錯誤丸出しの話ですなあ。役人時代に見に付けた作文術が大脳に染み込んでいるのが良く分かる、その意味では貴重なサンプルですぞ。「産業の強化」「グローバル競争」「意識を促す」などの意味不明で明らかな単語の誤用にも気づかない神経は見上げたものですし、藤原正彦先生を意識して「品格」などと平気で書けるセンスも素晴らしい役人根性の精華でしょうなあ。段落の最初に「中国」を置いて、「品格」で締める流れに、御本人はまったく違和感が無いようです。大したものです。

『坊っちゃん』危篤!

2006-03-28 14:49:42 | 日本語
■山籠もり中ではありますが、知人からの連絡で、四国松山の学生が漱石の『坊っちゃん』を読んでいないという調査結果が有るという衝撃的な事実を知りまして、新聞記事を調べて見ましたら、本当でしたぞ!何と調査対象となったのは愛媛県立松山東高校ではありませんか!私事ながら尊敬するK先生が奉職なさっている高校でもあり、1895年4月から漱石が英語を教えた『坊っちゃん』の舞台となったと考えられている学校ですから、これは本当に衝撃的であります。読売新聞の記事を引用します。

夏目漱石が教鞭を執り、『坊っちゃん』の舞台となった愛媛県立松山東高(旧制・県尋常中)の1年生のうち、同作を読んだ生徒は約4割で、約10年前の約7割を大きく下回っていることが、市民でつくる「松山坊っちゃん会」(頼本富夫会長)のアンケートでわかった。19日、松山市であった「坊っちゃん」100年記念愛媛大学シンポジウムで報告された。

■或る人の言葉に、「名作を読む目的は、それは読んだと言う為である」というような物が有りましたなあ。トルストイの『戦争と平和』だのロマン・ロランの『ジャン・クリストフ』だののバカ長い名作でも、友人との会話の中では「ああ、それは読んだよ」の一言で済んでしまうものですが、この一言でだらだらと無駄話をする時間を節約出来るものです。どれ程不埒(ふらち)で下世話な冗談を言い合って笑っていても、読むべき本を読んでいる友や、自分が読もうと思いつつも読破していない名作を読んでいる友との交流は、人生を豊かにしてくれますし、相手の心の中を少しばかり理解する助けになるものです。

■それは音楽や美術作品にも言える事で、たとえ身近に音楽ホールが無くても、有り難いことに技術の進歩で各種の音楽ソフトや映像ソフトが簡単に入手出来るようになっているのですから、昔に比べれば格段に優れた作品に接する苦労は無くなったような物です。大都市でしか観られない演劇も、テレビやビデオ映像などで楽しめるのも有り難いところです。優れた職員と議員に恵まれている地方なら、公立図書館にさえ行けば見事な画集や映像・音楽ソフトが揃っていますから、貧富の差も余り大きな問題では無くなっています。しかし、理論的には日本人の教養と知識は再現も無く向上して行くはずなのですが、現実はそうは成らないのが不思議ですなあ。

■拙著『チベット語になった「坊っちゃん」』の収蔵状況を調べようと、全国公立図書館検索サイトで執拗にトレースしてみると、地域間格差の大きさに愕然とします。毎年、200万円の「図書購入費」が公布されているのに、何処かの地方自治体ではほとんど図書資料などには使わずに、訳の分からない予算に流用されている事が指摘されてはいましたが、検索サイトの画面に次々と現れる市町村立図書館の立派な「建物」に感動して所蔵内容を調べると、何とも貧弱で住民の皆さんの知識と教養は大丈夫だろうか?と心配になってしまう場所が、驚いたり呆れたりするほど多いのです。

■平成の大合併の大混乱の後、もう誰も「地方の時代」などと言わなくなったようですが、このまま地方「分権」となってしまったら、碌な蔵書の無い高価な図書館の「建物」が虚しく並ぶ知的廃墟があちこちに出現しそうですなあ。いざ、自分の教養に危機感を覚えて駆け込んだり、新聞や雑誌では分からない事を調べようと足を踏み入れても、さっぱり知識が深まりもせず拡がらないような、名ばかりの図書館が林立していても、まったく意味は無いでしょうなあ。それぞれの土地柄に合った他では御目に掛かれない貴重な資料を蒐集(しゅうしゅう)している図書館も有る一方で、最近話題になって短期間で消えて行くと分かり切っている本を熱心に集めているだけの所も有りますぞ。

■出版不況の中で、やっとヒット作を生み出してみたら、さっさとベスト・セラーが何冊も公立図書館に収まって、売れるはずの本が売れない!と出版社は悲鳴を上げています。その一方で、一生の間に読んでおくべき本、年齢相応に読み直し続けるべき本が揃っていない貧弱な図書館が増えて行くことになるでしょう。残念ながら、ベスト・セラーの中で5年後も読者を集める本は殆ど無いのではないでしょうか?憲法に「愛国心」を書き込むかどうかの不毛な議論をする前にやるべき事は多いようですなあ。


漱石は1895年4月から約1年間、同尋常中で英語を教え、ここでの体験をもとに「坊っちゃん」を書いた。アンケートは今年2月、1年生414人に実施。「全部読んだ」が168人、「部分的に読んだ」が137人で、「読んでいない」とした109人は「まったく興味がない」「身近に本がなかった」「読みにくい」などと答えた。

■比較的短い作品である『坊っちゃん』を「部分的に読んだ」という学生は、出だしだけは読んだという事なのか、それとも、あんなにテンポの良いストーリー展開を、途中で投げ出したという事なのでしょうか?それは考え難いですなあ。自分の良心に反する「読んだ」とウソは言えないものの、「読んでいない」と答えるのは情けない、そんな躊躇(ちゅうちょ)が先行しているような気がします。「読んでいないた」理由が、このアンケートの価値を高めてくれますぞ。「まったく興味がない」と正直に答えた109人の生徒諸君に感謝します。どんどん薄くなり続けた国語の教科書は、古典や伝統的な名作の影が薄い内容なのですから、見事に「ゆとり」教育世代らしい開き直り現象を暴露してくれましたなあ。

■「読みにくい」と答えた生徒の中に、食わず嫌いとしか思えない思い込みが浸透している事が透けて見えますぞ。もっと正直に、「昔の本だから、きっと漢字が多いだろう。漢字なんか読めないよ」と答えてくれると、もっと調査の価値が上がりましたなあ。国語教育を専門的に研究している学者の中にも、文科省の中にも「漢字撲滅」を生涯の仕事だと信じ込んでいる人が居るのですから、若い日本人が「日本語」の能力を減退させるのは、彼等が大喜びする事なのです。何とも恐ろしい話です。漢字は小中学校時代に記憶の基礎を作っておかないと、後が大変です。「格差社会」を強固にしようとする隠された目的を持って発動された「ゆとり教育」政策ですから、漢字の重要性を知っている親を持つ子供と、うっかりしていたり、本当に仕事で草臥れ切って学校に任せ切っている親を持つ子供との間には、生涯埋められない亀裂が入ります。間も無く、漢字は専門の機関で有料サービスを受けないと身に付かない時代になるでしょう。

■「身近に本がなかった」と答えた生徒は、自分の家には本らしい本が無い!と保護者の責任を言い立てているのかも知れませんが、学校の図書館や公立図書館に足を向けない自分を恥ずかしく思った方が良いでしょうなあ。そもそも、どうして本を読むのか?と考えて見れば、世間に対して恥ずかしい、これが最初の動機となるでしょう。子供社会のイジメにも通じる仲間意識を生み出して強化する共同感覚には、共通の体験と言葉と情報が不可欠です。ですから、残念ながら「朱に交われば赤くなる」の諺通り、仲間に恵まれないと人生を棒に振ることになりますなあ。ろくな本も読んでいない、下手をすると漢字も扱えないような「トモダチ」と付き合わねばならなくなった子供は悲劇です。「あの本読んだか?」と声が掛かる仲間を持つかどうかで、人生の入り口が決められてしまうのは恐ろしい事ですが、それが現実でしょうなあ。

■本を読んでいる大人や教師の姿や言動に「カッコよさ」を感じた子供は、本に手が伸びますし、思春期から20歳までに決定的な読書体験をした人間はずっと本を気にして生活するようになるようです。名作の中には、この時期にしか手を出せない作品が多いので、本当は周囲が急かして上げた方が良いのですが、残念ながら読書経験の無い大人にはそんな助言は無理ですなあ。長い間、漱石の『坊っちゃん』は、絵の無い本として生涯で最初に読破した作品の第一位の地位を独占していたものです。それさえも読んでいない日本人となると、その中には本らしい本を読まずに、競馬新聞とパチンコ必勝法と不埒な漫画しか目玉と脳味噌を通過しないような悲しい人生を送る人も含まれるのでしょうなあ。人に生まれ、日本人に生まれついたのですから、『坊っちゃん』から始まる読書生活を送れないというのは、実に残念な話ですなあ。

■拙著にも書きましたが、チベットの山奥で、「漱石の『坊っちゃん』は面白いですね」と声を掛けられた日本人が答えに窮するようになったら御仕舞いですぞ!

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2006年3月25日 朝日新聞夕刊

2006-03-25 19:46:08 | お知らせ
■拙著が3月25日朝日新聞夕刊で紹介されました。

チベット人学生勉強わずか半年 「坊っちゃん」を翻訳「先生」が交流つづる

日本語を学び始めてわずか半年のチベット人学生たちが、夏目漱石の名作「坊っちゃん」をチベット語に翻訳した。「奇跡ではない。チベット人ならできるのです」中国青海省のチベット人師範学校で、彼らに日本語を教えた中村吉広さん(47)は語る。その顛末と、学生との心の交流を「チベット語になった『坊っちゃん』」(山と渓谷社刊)でつづった。チベット語は日本語と語順がほぼ同じ膠着語。「てにをは」も驚くほど対応しており、学生には「チベット語の文法の上に北京語の漢字を乗せれば日本語になる」と説明したという。
「坊っちゃん」を選んだのは学生たちも小説と同じ全寮制で、話が分りやすかったから。登場人物に似た先生は彼らの身近にもいた。
 東洋大で西洋哲学を学んだが、チベット仏教にひかれ、その言葉を学ぼうと決意。留学先に選んだ師範学校で、在学中に日本語学科が創設されることに。「頼まれての日本語教師への転身が。得がたい体験となりました」(清水勝彦)

野球世界一は目出度いけれど

2006-03-22 19:28:05 | 日記・雑学
■目出度い事が有ると、その裏側に隠れていた目出度くない事が急に目立ってしまう事があります。3月21日の春分の日、日本中が野球世界一で盛り上がり、東京銀座の一角では新聞の号外を奪い合って若い娘さんが怪我をしたとか、夕方のニュースが伝えていましたなあ。喜びを伝える号外という物を始めて体験したからではないでしょうか?同じニュースの中に、世界一になった選手達のインタヴュー直後に、イロイロ事情が有って指名を辞退した松井君が、桜吹雪の中でフルスイングしている薄型テレビのCMが流れたのにはぎょっとしましたぞ。スポンサー企業は頭を抱えたのではないでしょうか?「君はそんなところで何をしているの?」とテレビ画面を観ていた多くの人が思ったでしょうなあ。

■それにしても、優勝トロフィーを真ん中にして王監督と30人の選手が勢揃いした記念撮影には違和感が有りましたぞ!王監督の横に変なオヤジが笑顔で並んでいませんでしかな?あれは、日本プロ野球の天下りコミッショナーさんではないでしょうか?まさか公金でファーストクラスに乗り込んで渡米していたり、最高級ホテルのスウィートに踏ん反り返っていたのではないでしょうな!一体、あの人は何しに行ったのでしょう?昨年の「1リーグ制」問題やら、近鉄買収騒動が起こった時には雲隠れして逃げ回っていたクセに!実に興ざめな記念撮影でしたなあ。

■テレビの視聴率が40%を軽々と超えたそうですから、野球中継を生まれて初めて凝視したという日本人も多かったのではないでしょうか?少なくとも、「久し振りに」野球中継を楽しんだという人はとても多かったに違いありませんなあ。テレビ会社やウッカリ者の野球関係者は、この世界一で今シーズンから野球人気が再燃してくれるのではないさだろうか?と淡い期待を抱いていると仄聞(そくぶん)しますが、何とも甘い考えですなあ。今回の日本代表選手団を結成する時のドタバタ振りやら、各球団の不熱心さをファンは忘れてはいませんし、民主党の永田スットコドッコイ議員の御蔭で難を逃れたとは謂え、自民党の武部幹事長が球団買収問題に政治介入して、ホリエモンを応援するようにネベツネさんに電話したという由々しき問題だってまだまだ風化などしていません。

■高校野球の不祥事にしても、まだまだ根が深い問題が隠されているようですし、ドラフト制度の改革は遅々として進まないし、裏金問題にしても根本的な改善策は打ち出されない上に、過去に遡って膿を出し切るような作業もしませんでしたなあ。既に若年人口がサッカーにシフトしてしまったのですから、これからサッカー少年達が大挙して野球に鞍替えするなどとは考えられませんし、熱し易く醒め易い日本国民が、世界一の感動を3日以上持続などさせないでしょうから、野球は相撲にさえも負けてどんどん影が薄くなって行くのでしょうなあ。

■昨年の日本映画、『3丁目の夕日』の大ヒットから昭和30年代へのノスタルジーが高まったそうですが、あの頃、ガキンチョたちは皆野球をしていましたし、親子はキャッチボールをするものだと誰もが信じきっておりました。「空き地」という貴重な宝物が有って、サザエさんだろうと、ドラエモンだろうと、オリジナル作品には少年達が野球をする話が必ず描かれていたのです。その後、新幹線や高速道路、都市の再開発やらマンション建設などで、バブル後の日本は別の景観を持つ国になりましたが、それは野球やキャッチボールをする場所が消えた事を意味しいます。心身ともに蝕んでしまう少年野球・高校野球・プロ野球と言う旧態依然とした悪弊だらけの進路には、もう何の魅力も感じられなくなっていますから、野球は外側からも内側からも崩壊しつつあるのでしょうなあ。

■今回の野球世界一という大事件は、過去の人になっていた王貞治という偉大な野球人の伝説を復活させると同時に、イチローという新たなヒーローの姿を人々の心に刻み込んだのは確かでしょう。野茂投手にしろイチロー君にしろ、実は日本の野球に愛想を尽かして渡米した人だという事を、マスコミも野球関係者も意図的に忘れた振りをしているようですなあ。不合理で非科学的な側面を色濃く残している日本の野球の伝統を変革しない限り、日本の野球が復活する事は無いし、野放図な土建屋政治を改めない限り、親子のキャッチボールが復活する事もないでしょうなあ。少なくとも公園や校庭を上手に開放する習慣を身に付けないと、ただでさえ狭い国土と過密な住宅事情の中で野球文化を維持発展させるのは不可能でしょう。

■サッカーのワールド・カップという戦争の代替イベントが日本にも普及してしまった限り、今回のワールド・ベースボール・クラシックが日本中の若者を奮い立たせる力を持つ事はないでしょう。優れて王監督とイチローという偉大なキャラクターが「日本」を全面に押し出して、「自分の為に楽しんで来ます」とは一度も言わずに戦い抜いた姿、それは非常に特異で違和感を持って迎えられていたはずですぞ。何となく時代錯誤、危険なナショナリズム、そんな響きに身構えた報道が目立っていたような気がします。勝てば官軍で、各マスコミは掌を返して最初から応援していたような顔をしていますが、これも不愉快で卑怯な感じがします。

■平和の祭典でなければならない国際スポーツ大会ではありますが、今回の米国のやり方は、改めて日本人にあの国の性根を見せ付ける結果になったのではないでしょうか?出口の見えないイラク問題を何度も思い出した人も多かったでしょうなあ。アジアとラテン・アメリカから呼び集められた各国チームは、イラク攻撃に参加した有志連合軍に重なりますし、審判員から開催地、組み合わせ方法など、全部米国の事情に合わせて一方的に決められた事。そして、最初から米国チームが優勝するという嫌らしい前提で大会が運営されていた事など、どうしようもなく身勝手で世間知らずの若造ぶりを徹底的に見せてくれました。

■改めて、こんな国と同盟関係を結んでやって行くのはエライことだなあ、と思った次第です。そして、アジアやラテン・アメリカからの助っ人選手がいないと大リーグ自体が存続できないという実情が有るというのに、大リーグとは何の関係も無いキューバと、辛うじて2人の大リーグ所属の選手を擁する日本とが決勝戦を行なうという、彼らに取っては大きな番狂わせを味わったというわけです。しかし、あの国は決して自分の見っともなさというのには気が付かないのですなあ。負け惜しみが強いというのではなく、面の皮が厚いのでしょうなあ。野球を見直した日本人が多かった反面、米国が嫌いになった人も多かった、そんな大会だったのではないでしょうか?

■イラクを拠点にして中東を民主化するのなら、やがてはアラブ諸国からも野球選手が誕生するのでしょうか?或いは、打倒米国!に燃えている中国が、無様に負けた悔しさで3年後には大化けして決勝トーナメントにまで残るチームを作るのでしょうか?日本はともかく、この大会が存続するのなら、今回の日本優勝は、かつての大東亜戦争の始まりと同じように「アジアの覚醒」を引き起こすかも知れませんなあ。その時、日本はその盟主になれるのでしょうか?

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月刊 山と渓谷書評

2006-03-20 15:37:50 | 書想(その他)
チベット文化の伝承のために。ひとりの日本語教師の奮闘記
『チベット語になった『坊っちゃん』』 多賀幹子

書名『チベット語になった『坊っちゃん』』の意味を、すぐに理解することは難しかった。私にはチベットの地図上の位置すらあやふやで、それと夏目漱石の代表作とが結びつかなかったのである。ずっと前の語ではあるけれど、大学の国文学科で夏目漱石を卒業論文に選んだ。小学生の時に出会った雰っちゃん』の歯切れの良い文体、ユーモアあふれる内容に取り付かれたからだ。それ以来、漱石の作品を繰り返し読んできたが、チベットとの関わりについては初耳だったのだ。しかしいったんぺージをめくり始めると、たちまち引き込まれた。文字通り、『坊っちゃん』はチベット語になったのだ、と合点がいった。

 本著では、チベットの学生が『坊っちゃん』の文章を具体的に訳し始める第4章あたりから、面白さに一段と拍車がかかる。まず「親譲りの無鉄砲で子供の時から損ぱかりしている」の冒頭部分は、「父母の慎重さを欠く気質を受け継いでいたので、子供の時から損ぱかり受けている」と学生たちから慎重に訳された。続けて、坊っちゃんが悪友の挑発に乗って校舎の2階から飛び降りる。自慢のナイフに難癖を付けられて自分の親指を切り落とそうとする。こうした場面は、まるで坊っちゃんの姿が目に浮かぶようだと学生たちは笑う。羊肉をナイフで切って主食とするチベット人であることもあってか、売り言葉に買い言葉で白分の指を切って見せる坊っちゃんの姿は、想像を掻き立てるらしく、万年筆をナイフに見立てて即興芝居まで演じたという。

 チベット語にない「栗」やチベットに存在しなかった野菜の「人参」に頭を抱えることがあったし、「茶代」や「色町」の訳には苦しむが、学生たちの理解力と想像力はすばらしく、嬉々として翻訳を続けたのだった。そのシーンは、まるで奇跡に立ち会っているかのような感動を呼ぷ。漱石は草葉の陰から、学生たちの純粋で真摯な学ぷ姿勢と翻訳への情熱をさぞ喜んでいることだろう。

 著者の中村吉広さんは、写真で拝見するとあごひげの似合う優しげな先生だが、そもそもはチベットにはチベット語を学びに行っている。チベット仏教への関心から中国・青海省チャプチャの青海民族師範専科学校に留学したのだ。かつてよりイスラエルのキプツに行かれたりしているとはいえ、なんという実行カだと感嘆する。語学留学といえぱまだ欧米が中心の日本では、とても新鮮な印象を受ける。

 それがさらに、逆にチベットの学生に日本語を教えることになる。そのときに逃げもせず臆することもなく、著者は正面から受け止める。学校には、日本からプレゼントされた子供向けとはいえ多くの文学全集が揃っていた。しかし利用者はほとんどいなくて、いわぱ死蔵されていたのである。著者はそこから芥川龍之介の本などともに、『坊っちゃん』を選ぷ。しかも、チベット語文法と日本語文法の共通点に目をつけ、チベット語を介して日本語を教えたのだった。チベット語の文法と日本語のそれとが似ていることを私は知らなかったが、著者の説明によると、驚いたことに共通点が多く存在するのである。それをたくみに生かして翻訳作業を進めるが、そこにはチベット語と学生たちの豊かな可能性を伸ぱしたいとの著者の熱い思いが働いていたのだ。

 翻訳は順調に進むのだが、壁になったのは中国共産党サイドだった。チベットは、民族教育の名前のもと漢族への同化を進められている。チベット語の学習を声高に叫ぷことは、独立運動に通じるとみなされる危険がなくはない。お世話になっている人々に万が一でも迷惑がかからないように、十分に注意を払わなくてはいけなかった。「海外からの資金援助を受けて日本人が日本語を教えるという看板だけが大切な学校と、その看板でチベット語が秘めている可能性を広げようとする私」と、著者は孤軍奮闘ぷりを端的に描いている。

 さらに「少数民族の言語という箍(たが)を嵌められたチベット語は、政治力と経済力を奪い取られてしまったのも同然なのだが、貴重な文化を伝承する唯一の手段としての役割は失われていない。従って、チベット語が担っている文化的価値を、チベット人が捨てたり、忘れたりした瞬間にチベット語の命脈が断たれるのは疑いの無い事である」との信念を述べているのだ。

 日本語教師の役割を1年ほどで終え、著者は借しまれながらもこの地を去る。涙をこらえたチベットの学生たちから「見棄てないでください」と懇願されるところでは、思わず目頭が熱くなった。それは、日本ではこのような純粋な師弟愛をなかなか目にすることが
なくなったからだろう。たとえ著者は帰国しても、サブタイトル通り「草原に播かれた日本語の種」は、いつかきっと実を結ぷ日が来るに違いない。読後感のさわやかな、しかも教えるところの多い良書として、ぜひ一読を勧めたい。

中国洗浄法 其の参

2006-03-18 02:06:28 | 外交・情勢(アジア)
■3月17日の読売新聞が、「中国が反資金洗浄法」という題名の記事を国際面に掲載しています。

…2005年1月、中国4大商業銀行の一つ、「中国銀行」の黒龍江省ハルビン分行河松街支店の高山・支店長が、顧客の預金約8億元(約120億円)を横領してカナダに逃亡した。当時、中国国内で「高山事件」として大々的に報じられたが、容疑者は現在も逃亡中だ。

■またもや黒龍江省ですなあ。アムール河は汚染で得たいの知れない泡が消えなくて対岸のロシアは怒っているし、こんな大泥棒も出るしで、日本の若くない男の嫁さんにでもなって脱出したくなるのも分からないでは有りません。昔、哲学者のフリードリッヒ・ニーチェはこんな事を言いましたなあ。


どんなに注意深い男でも、女は袋詰めのまま買ってしまうものだ。

■開けてビックリ、チャイニーズ袋というわけでしょうか?ビザと結婚証明書を手に入れて、来日して暫くしたら行方不明などという不法移民の隠れ蓑に日本の嫁不足を悪用する輩もいるようですから、ご用心、ご用心。何事も「地獄の沙汰も金次第」が通用する国から来る人には、日本の呑気な民百姓には計り知れない闇が有ると思った方が良さそうですなあ。留学生の世話をしても同じ目に遭う保証人も多いのですが、日中友好の国策を慮(おもんぱか)ってか、余り大々的には報道しないようです。「井戸を掘った人の恩義は忘れない」と言うのも、自分の都合の良い時にだけ使われる外交辞令で有る事を忘れては行けませんぞ!


(黒龍江省)の地下銀行は朝鮮族の経営で、表面上は小規模な日用雑貨店、航空券や電話の販売などを営んでいるが、裏では韓国の通過ウォンと人民元との両替や海外送金などを仲介、年間の総取引額は300億元(4500億円)にも上っていた。

■こういう国を相手にして、人民元を切り上げるの上げないのと交渉している人達は、一体、何を目安に話をしているのでしょうか?高級寿司屋の「時価」と同じで、ブラック・マーケットは国際関係を敏感に繁栄して動くものですから、どちらの為替相場が「本物」なのかは、最終的には流通量で決まります。ソ連崩壊直前の東欧諸国など、何種類も為替相場が有って何が何だか分からなくなり、仕舞いにはただの紙屑同然で、アメリカ煙草の方が信頼出来る貨幣になっていましたなあ。それが平壌でせっせと偽煙草を製造している理由ではないでしょうなあ。日本の外務官僚達も、こうした為替事情を知っていて、本国から支給される給与や手当てをしっかり膨らませて蓄財するのだと、ムネオ議員が暴露しています。北京の日本大使館でもお盛んなのでしょうか?


…2004年には前年の5倍に当たる155業者を摘発、05年1~10月に42業者を摘発した。だが、地下銀行は「違法経営罪」(刑法225条)には問えても、資金洗浄罪(刑法191条)は適用しにくい。中国の刑法では、資金洗浄罪の構成要件が厳しく、①麻薬②テロ③密輸④暴力団組織犯罪――に関係する資金移動について、「故意に」資金の出所や性格を隠したことを立証できなければ、犯罪が成立しない。

■要するに、今までは地下銀行の利用は自由だったという事です。中曾根さんが気前良く「10万人留学生招致」などと恐ろしい事を言い出してから、日本と大陸の間には地下銀行のパイプが無数に生まれて、どれだけの非合法な収入が送金されたか誰も分かりません。国際電話の通話料が安くなり、インターネットの時代になれば、実際には現金を動かす必要の無い地下銀行は大繁盛です。どんな理由であろうと、地下銀行を取り締まる!と北京政府が宣言していたら、日本への不法な出稼ぎはぱたりと止んだかも知れないのです。何を今更!と言うべき事態ですぞ。面白いのは、地下銀行を経由して送金されたカネは全部が非課税になるという点です。地下銀行自体が非合法な組織が運営しているのですから、送金を受けた者が税務署に申告するはずが無いのです。そんな穴だらけの税制で、税収不足で貧困状態に苦しんでいるから、ODAが必要だ!と平気で言える国なのですから、油断はなりませんぞ。

■4種類だった「資金洗浄罪」を増やしたのだそうで、「腐敗犯罪」と「金融詐欺」の2つを加えて6種類の罪が問われるのだそうです。しかし、違法入国して荒稼ぎしたカネを実家や親戚に送金する事は罪に問われないようですなあ。「世界の工場」やら「世界の金融センター」になるのは良いとしても、世界の「地下銀行」になられたら堪りませんぞ!


上海外国為替市場で、人民元と直接交換できるのは米ドル、日本円、欧州ユーロ、香港ドルの4通貨だけ。換金需要の高まっている韓国ウォン、台湾ドルは、米ドルなどを介してしか換金できず、手続きが煩雑で、費用も時間もかかる。このため、中国の韓国系企業も地下銀行を経由して韓国の本社と資金の遣り取りをするケースが多い。違法為替業者の撲滅には、まず換金の自由化など為替制度の整備が先決のようだ。

■これは話がまったく逆でしょうなあ。「地下銀行」が便利で活発に動いているからこそ、誰も使いたくないような「煩雑で時間と費用がかかる」正規の為替業務が改善もされずに放置されているのでしょう?正規と闇と、どちらが表やら裏やら分からない恐ろしい仕組みが完成しているのです。こんな危なっかしい経済基盤の上に、「共同体」を構築しようとなどと酔狂な事を言って得意になっている困った学者や政治家が居るのですから、本当に嫌になりますなあ。

■中国に必要なのは、「反資金洗浄法」などという役にも立たない法律ではなくて、国を丸ごと洗い清める「中国洗浄法」なのではないでしょうか?でも、本気で洗ったら汚い水がどんどん外に流れ出してしまいますなあ。嗚呼、困った。世界的なメーカーになっている日本の自動車や電機製品の一流会社が、中国に生産拠点を作ろうと熱心ですが、決算や送金はどうする心算なのでしょう?まさか、外務官僚の手引きで裏の闇マーケットで為替の利鞘を稼いで甘い汁を吸おうなどと思ってはいますまいな!?自国通貨を信頼していない国との取り引きは、余ほど注意深くやらないと、エライことになりますぞ。

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中国洗浄法 其の弐

2006-03-18 02:05:47 | 外交・情勢(アジア)
■中国に開いた大穴の実態を1月9日のFujiSankei Businessから引用してみましょう。

非合法な民間金融「地下銀行」の中国での融資規模が昨年末現在で、7405億~8146億元(約10兆3670億~11兆4044億円)と、正規の金融機関による融資規模の3割近くに上ることが初の実態調査で明らかになった。中国では、国有商業銀行などから融資を受けられない中小企業や個人が高金利の地下銀行に依存する傾向が強まっており、不正資金の温床や金融政策が機能しにくい原因となっている。

■日本にも莫大なアンダーグラウンド・マネーが蠢いていると言われますが、正規の経済の3割になどはならないようです。こんな闇金融が活動していたら、計画経済など成り立つはずが有りません。簡単に言ってしまえば「闇金融」が国家の経済政策に支障を来たすほど巨大化しているという事です。


新華社電によると、この調査は北京の中央財経大学が実施した。全国の20省の82市・県および206村の中小企業110社、個人事業主1203人に対して直接調査したほか、金融機関や司法当局からも聞き取りした結果をまとめた。中国の地下銀行の実態を明らかにしたのは、この調査が初めて。 それによると、中国政府が昨年4月からの景気過熱抑制策として、資金の供給などを抑えている炭鉱や石油、鉄鋼、セメントの分野での調達資金の多くが地下銀行から出ていることがわかった。政府の金融引き締め策の影響で昨年から、地下銀行の活動が活発化している実態が浮き彫りになった。

■つまり、政府がいくら金融政策で赤字企業を整理しようとしても、闇から湧き出す黒いカネで延命してしまうという事です。しかし、慢性的な赤字企業は高利貸しから得た資金をどうやって返済する心算なのでしょう?結局は地方政府の役人と結託して違法な税金を取り立てて返済に回して貰うしか無いでしょうなあ。逆に、政府が投資した予算も、この大穴に投げ込まれたら二度と戻っては来ないのでしょう。どうやって帳簿を調整していることやら。


金融引き締めにより、商業銀行などから融資が受けにくくなっている中小企業経営者の約3分の1や農民の半数以上が地下銀行から資金を調達。また、正規の金融機関に対する地下銀行の融資額の割合は、黒龍江省が53・4%と全国で最も高かったほか、遼寧省や福建省、山西省が30%を超えていた。

■沢山ある中国の省の中でも、黒龍江省はすっかり日本の皆さんに馴染み深い地名になってしまいましたなあ。千葉県の農家に嫁いで来た整形エステ嬢の鬼嫁さんの故郷です。上の省政府が闇金融からの借金で省予算の半分以上を賄っているのですから、手段を選ばず海外に逃亡しようとする娘さんが出て来ても何の不思議も有りません。そんな場所に大金を払って嫁探しに行く人こそ、良い面の皮、葱を背負ったカモでしょうなあ。どうしても農家の嫁不足解消には大陸からの花嫁が必要ならば、出身地別の離婚率や家庭争議のサンプルを集計するべきでしょう。少しはリスクを回避できるかも知れません。


中国証券報は、中国では地下銀行が一定の役割を担っていると指摘。浙江省など沿海部では中小企業でも正規の銀行との取引比率が高いが、地方や農村では地下銀行に依存せざるを得ないと分析するとともに、地下銀行から高利融資を受けた企業が株式投資に失敗し、巨額の損失を出したケースを紹介しリスクの高さを警告している。一方、中国国家外貨管理局は地下銀行がマネーロンダリング(資金洗浄)の温床になっているとして、公安省と協力。昨年1年間で地下銀行や取引場所47カ所を摘発し、3300万元(約4億3400万円)の現金を押収した。これらの地下銀行が関与した資金総額は100億元(約1400億円)にのぼるという。このほか、同局は2000あまりの銀行口座で1億7000万元(23億8000万円)相当の資金を凍結しているが、これらは「氷山の一角」(同紙)とみられている。

■眩暈(めまい)がするような天文学的な闇金融の規模です。高利貸しから借金して株に投資している企業まで居るのなら、これはもう市場経済の末期症状です。もしも株で儲けても決して従業員には還元されず、経営陣は持ち逃げしてしまうのでしょうし、失敗したら夜逃げ騒動の末に、大量の失業者が吐き出されるのでしょうなあ。しかし、この闇の大穴は海外に通じる穴でもあるので、中央政府はほとほと困っているようです。

中国洗浄法 其の壱

2006-03-17 19:57:42 | 外交・情勢(アジア)
■小平さんは「四つの近代化」、江沢民さんは「三つの代表」、胡錦涛さんは2人の先輩を足した数より多い「八栄八恥」だそうです。ブレイン役の学者先生や官僚が一生懸命に考えるのでしょうが、こういうスローガンには細かい解説書が付いていて、有無を言わせず全部棒暗記しなければならないので、人民は大変な苦労をするようです。それをテキストにして全国隅々まで学習会を開いて覚えなければならないのですから、大変な苦労です。少数民族も北京語で覚えさせられるのですから、生きた心地もしないでしょう。学校施設に地域の教員を招集してぎゅうぎゅう短期集中講習会などをやる時など、参加者はみるみる内に顔色が悪くなってふらふらしていましたなあ。

■胡錦涛さんは親切なのか単純なのか、対概念になっている8組の用語を並べただけですから、少しは覚え易いかも知れません。3月15日の読売新聞から抜粋してみましょう。


「八栄」=「祖国熱愛」「人民奉仕」「科学尊重」「勤勉労働」「団結互助」「誠実信用」「法律順守」「刻苦奮闘」

「八恥」=「祖国損壊」「人民背離」「愚昧無知」「安逸怠惰」「私利私欲」「道義忘却」「法律無視」「贅沢淫乱」

■「八栄」を実践すれば、共和国は必ず繁栄する!という教えですから、わざわざ列挙して連呼しなければならないほど、誰も実践していないのでしょうなあ。従って、「八恥」が氾濫しているのが実態だと宣伝しているようなものです。「八栄」などは、何を幾つ並べても同じ事でしょうが、「八恥」の方は実際に起こっている大問題が並んでいるに違い有りません。ですから、頭を抱えて困り果てた胡錦涛さんが、やっと8種類の「恥」にまとめ上げたのでしょう。こんなものが100も200も有ったら誰も覚えられませんからなあ。

■「祖国損壊」と「人民背離」は毎度お馴染みのスローガンと同じです。「愚昧無知」は、間違いなく法輪功の撲滅を目指す動きの継続です。「安逸怠惰」「私利私欲」と2つ並べられると、「社会主義革命」はどうなったの?と聞きたくなりますなあ。搾取も経済恐慌も無い労働者の国家なのに、働かない者や欲深い者が溢れているのなら、早く社会主義革命を起こした方が良いのではないでしょうか?「道義忘却」なら儒教を国教化すべきでしょうし、「法律無視」なら韓非子などの法家思想が必要ですぞ。「贅沢淫乱」ならば禅宗や道教の修行が欠かせませんなあ。中華4000年も社会主義革命も何処に行ってしまったのでしょう?


中国では司法機関が党の指導下にあるため、せいじ権力を握る幹部の干渉を受けやすく、判決がゆがめられたり、その執行が阻害されたりといった問題がよく起きる。不正・腐敗に走る裁判官も少なくなく、昨年は378人の裁判所関係者が処分をうけた。……全人代で採択された第11次5ヵ年計画は、「司法の公正を促進し、社会正義と司法の権威を守る」「法律を順守し、法に基づき事を行なうという社会気風を作り上げる」との目標を掲げている。しかし、それを実現するための政治改革などの具体的道筋は何も提示されていない。
3月15日 読売新聞

■典型的な「総論賛成・各論反対」が計画経済政策ですから、更にその計画を実現するための施策となれば、ちょっとでも具体的な部署名や責任者の個人名などが発表されたらクーデターが起こるでしょう。まして、こうした腐敗や不正が蔓延している原因を究明などしようものなら、前政権の悪口を並べなければなりませんから、最悪の場合は内戦が勃発します。ですから、「新農村」などのように「新」という字を冠した意味不明の用語が宙に浮いてしまうのでしょうなあ。

■「私利私欲」「道義忘却」「法律無視」と「恥」の三点セットが絡み付いているのが「地下銀行」の問題です。北朝鮮という穴からは、偽札がひょいひょいと出て来て大変な迷惑ですが、中国には「地下銀行」という大穴が開いていて、折角貯まった外貨がずるずると流れ出ているのだそうです。北朝鮮がやっている偽札犯罪は、刷った覚えの無い紙幣が各国の中央銀行に戻って来るのですから、責任の負えないインフレが起こる危険が増して行きます。しかし、中国の「地下銀行」は中央銀行の外貨準備高が目減りし行く事になりますから、限定的な国内問題に留まりそうですなあ。でも、北朝鮮が中国の人民元をどんどん刷り始めたら目も当てられない混乱が起こりそうです。

変なCMを考える

2006-03-17 00:44:46 | マスメディア
■世の中は何でも宣伝になるそうで、ホリエモンがその代表例ですが、マスコミが好みそうな騒ぎが有れば先回りして待ち構えていれば、必然的に顔と名前が売れるわけです。恥や慎み深さが無くなった日本を憂えた藤原正彦さんの新書が売れているという事は、本当に日本には恥知らずが大量に増殖した証拠なのでしょう。朝から晩までテレビ画面に脂ぎった顔を晒して悦に入っている人も居るようですから、昔はヤクザさんだけが顔を売っていましたが、今や、日本人は誰もが顔を売りたがっているようです。若い娘さん達は手段を選ばずにゲーノー人になりたがっているそうで、一番人気のオネエチャンがヘソを出したと聞けばヘソを出し、金髪になったと知れば後先考えずに金髪になるし、人目に付くのを嫌がっていた日本人は間も無く絶滅する雲行きですなあ。

消費者金融大手5社(武富士、アコム、プロミス、アイフル、三洋信販)が、4月からテレビCMの自粛時間を延長することが15日、分かった。テレビCMを多用しての宣伝が多重債務者を増加させる一因と指摘されるなど、社会的な批判が高まっていることに配慮した。5社は現在、午後5~9時のCM放映を自粛しているが、これを午後10時まで延長するほか、午前7~9時の放映も取りやめる。さらに、CMが集中している午後10~12時の時間帯を対象に、1社あたりの出稿量を制限する自主ルールも新たに導入する方針だ。
読売新聞 - 3月16日

■企業の名前と商品名を覚えて貰う事が第一義で、良い物を作るのは二の次になったら「物つくり日本」は御仕舞いでしょうなあ。バブルが崩壊した後のテレビには、目だって「金貸し」の宣伝が増えたようで、消費者金融の陰に隠れていた銀行が大手を振ってサラ金の真似事を始めると、朝から晩までテレビは「金貸します!」の連呼を続けているようです。都市銀行がしゃしゃり出てからは、「借りたらちゃんと返してね!」のダメ押しCMが目立って増えていますなあ。企業の体質が良く分かる現象です。「御利用は計画的に」の宣伝文句は定着しましたが、元々、収入と支出を「計画的に」バランスしている人間が、「金貸し」に頼るわけがないのですが……。


与謝野馨金融担当相は16日の参院財政金融委員会で、多重債務者問題の増加などで見直しが議論されている貸金業制度に関し「高い金利で消費を慫慂(しょうよう=勧奨=)するようなことが当たり前の社会であってはならない」と述べ、規制を強化する考えを示した。大手消費者金融会社や銀行がテレビCMなどで、借り入れを勧めている体質を批判した格好だ。時事通信 - 3月16日

■企業側には、無理な借金をする客の方が悪い!と言いたい気持ちが有るでしょうが、熱し易く冷め易い付和雷同の日本人ですから、サブリミナル効果などというややこしい事をする必要は有りません。真正面から同じフレーズを繰り返して呼び掛ければ、ついその気になる愚か者が沢山居るので、電話やメールを使った詐欺師達も大いに助かっているようですなあ。金融担当大臣が怒っていると知れば、金の出所の銀行は震え上がって「自粛」します。この素早さは大したものですが、バブルの土地高騰の時にも、最後の「総量規制」などという荒業を使う前に金融業界に警告を出しておけば良かったのに!


■どうしてこんなに日本人はテレビCMが好きなのか?というテーマも面白いかも知れませんが、基本的には東京発の情報に執着している地方出身者が常に感じている不安に付け込んで、「今、○○が大流行」の殺し文句で商売が成り立つからでしょうなあ。始めから効用など期待出来ない大衆薬が、テレビCMでは効果覿面(てきめん)の特効薬か万能薬のように見えますし、ドリンク剤などはまるで覚醒剤であるかのような演出が頻出します。スポーツ選手などが「効きます」などと語り掛けて来ると、「おいおい、ドーピングは大丈夫かい?」と画面に向って問い返したくなりますなあ。「ええ、大丈夫です。大した物は入っていませんから」とは答えられないでしょうけれど…。

■知らぬ間にテレビのCMを占領しているのが外資系の保険屋さんで、最近は成人病になるような豪勢な食材を「オマケ」に付ける健康保険が有るそうですなあ。それは悪い冗談でしょう?最近、売れなくなったなあと思える役者さんが、外資系の保険を熱心に売り込んでいる姿は、グローバル時代を教えてくれますなあ。酷いのは、ちょっと前までニュース原稿を真面目な顔して読んでいたような人が、これまた真面目な顔で保険商品を買わないと心配だ!と訴えていますぞ。あれは犯罪では無いのでしょうか?以前から、一滴も酒が飲めないゲーノー人が平気でビールの宣伝をしているとか、外車しか乗らない歌手が「マッチのマーチ」などとニッコリ笑うCMなんていうのも有りましたなあ。

■効くところによると、日本のテレビCMの出演料が世界でも一番高いのだそうですなあ。ろくに歌を歌わない歌手や、何の芸が有るのか分からないゲーノー人が大挙してCMに出演したり、米国の映画スターがひょっこり日本のCMに出ているのも、高額な出演料が物を言っているのだそうです。広告費が無駄にならないという事は、商品を選ぶ時に消費者はまったく主体性を持っていないという事を意味しますぞ。セールスの極意は、相手に商品を必要だと思い込ませる事だそうですから、詐欺ぎりぎりの商売というわけですから、これはご用心、ご用心。

■最初の「金貸し」CMが悪質ならば、「博打」のCMも変ですなあ。宝くじやら、サッカー籤、競輪に競馬、そしてパチンコ屋さん、全部博打です。宝くじのCMなど、「3億円~3億円~」と無責任な歌を流して宣伝していますが、あれも犯罪ではないのですかな?100万人に1人にしか当たらないような代物を、誰にでも当たるような宣伝をするのは詐欺でしょう?始めから綺麗なオネエチャンにプロがみっちり化粧して、名人級のカメラマンが撮影する化粧品のCMも相当のワルですなあ。痩せているとしか思えない女性が出て来るダイエット商品も罪作りですし、戦後の50年間、「白くなる!」洗濯洗剤を宣伝している洗剤会社やら、虫歯や歯槽膿漏が根絶するような事を言い触らし続けて数十年という歯磨き会社も有りますなあ。

■膨大な情報と鋭利な分析力を誇る広告会社が必死の思いで制作するCMですから、効果は抜群なのでしょうが、自分に必要な情報かどうかを見抜く力が無い者は、カモになり餌食にされるのが情報化社会で、テレビが日本一の詐欺師になる箱だという事を忘れない方が良いでしょうなあ。日本を良い国にしようと頑張っているCMも無ければ、本当に家庭の平和を念願しているCMも無いと思って楽しんで観ているのが無難でしょう。ボケ防止には、CM画面に向って即座に「ツッコミ」を入れるのが安上がりで効果も高いのではないでしょうか?特に意味は無いのですが、最近、ラジオを聴いていると新興宗教の宣伝が入るようになりましたなあ。

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ロシアの陰の日本 其の参

2006-03-16 10:34:12 | 外交・情勢(アジア)
■狐と狸の化かし合いですから、目鯨立ててムキになる必要は有りませんが、油断しては行けません。1960年代には、本気で原爆戦争をやりかけた間柄なのですから、凄まじい腹の探り合いが続いているに違い有りません。綺麗なオネエちゃん工作員に追い込まれるようなマヌケな国ではなく、謀略戦の代表みたいな2つの国が握手している裏側で、どんなエゲツない事をやっているやら、呑気な日本人には想像も出来ません。昨年の秋に爆発事故を起こした中国の化学工場から流れ出した有毒物質が、今も結氷しているアムール川に貯まっているとの話が有るのは象徴的です。やっと国境線を画定したとは言っても、互いの不信感は簡単には消えません。川の氷が溶けると膨大な量の有害物質が流れ出すように、ちょっとした切っ掛けで緊張状態になる危険性を孕んでいる両国ですから、日本も上手に楔(くさび)を打ち込んでおかねばなりませんぞ。

一方、北京発のインタファクス通信によると、中国の消息筋が先月、「日中間の歴史論争でロシア側が中国の『正しい歴史認識』への支持を公式に表明するよう望んでいる」と述べ、中国政府がロシアに対し、反日の立場からの同調を求めたことを明らかにした。同筋はさらに、「ロシアは20世紀半ばに中国などアジア侵略をした日本の歴史歪曲(わいきよく)問題に対する立場をまだ公表していないが、ロシアの(中国への)支持は、この問題の解決に大きな影響を及ぼすだろう」と強調した。中国側はロシアのメディアを在露中国大使館のパーティーに招き、中国製反日映画を公開。いかに第二次大戦で中国が残虐な軍国日本と戦い、勝利したかを宣伝しているという。

■最近、中国のテレビではセピア色に変色しかけている日ソ蜜月時代の古めかしいプロパガンダ映画を放映したり、VCDにして売り出したりしているのですが、60年代には「ソ連は悪魔だ!」の宣伝に熱心でした。ころころ変わる「歴史認識」に正しいも間違っているも有ったものではありません。そんなヨタ話に振り回される日本の政治家や財界人を、現地では腹を抱えて笑っているのではないでしょうか?


一方、ロシア側は日本の領土問題などをめぐる「反露的な発言」に反発を強めており、「中露が今後、歴史問題での連携を外交カードに使おうとする可能性はある」(外交筋)。また、10日のインタファクス通信によると、1945年のヤルタ会談に出席したスターリン、ルーズベルト、チャーチルの米英ソ三首脳の銅像が、サハリン州のユジノサハリンスクに設置される見通し。日本への北方領土返還に反対する州議員らの提案を受けたもの。同時に、北方領土占有はヤルタ合意に基づく正当なものだ、とするロシア政府の主張にも沿う。ロシアの世界経済国際関係研究所のチュフリン副所長は「中露関係が悪化する土台はない。両国関係は順調に発展し、そのポテンシャルも高い。プーチン大統領の訪中は関係発展強化に貢献することになるだろう」と述べ、中露の蜜月関係が長期化するとの見通しを示した。産経新聞 - 3月11日

■有人ロケットを打ち上げたり、原爆を貯め込んだりしているのに、民生用の工業製品が作れない共通点を持つ2つの国が友好関係を結んでも大して脅威にはなりませんが、ヤルタ会談の密約を後生大事にしている国が日本に圧力を掛けようとするのは困ります。この問題に関しては日本は米国と相談は出来ません。東西分断を強いられたドイツだけが話し相手になるはずでしたが、あちらはEU問題と移民問題で精一杯で、とても日本と一緒にヤルタ体制を糾弾する暇は無さそうです。


日米欧露の主要8カ国(G8)のエネルギー担当相会議が15、16の2日間、モスクワで開催される。7月のサンクトペテルブルク・サミット(主要国首脳会議)の準備の閣僚会議の第2弾で、原油高やイランの核開発などエネルギー安全保障をテーマに意見交換する。会議では、世界のエネルギー市場安定化に向け、油田やガス田開発の投資促進や原子力を含めたエネルギー源の多様化を論議する。天然ガス大国のロシアは、消費国と生産国との対話促進を訴える見通しだ。日本は需要抑制につながる省エネなどエネルギー利用の効率化を提言する。

■石油会社を実質的に国有化したロシア政府は、存分にエネルギー戦略で点数を稼げますから、イランや北朝鮮とのパイプも誇示して主導権を握る算段をしていると言うわけですなあ。日本は、イランの石油も北朝鮮に対する圧力も必要ですから、プーチン大統領が打ち出す政策に乗らねばならない立場に追い込まれつつあります。東シナ海のガス田開発も、北朝鮮に対する圧力を期待して中国側の好き放題にさせておたら、あれよあれよと言う間に採掘を始められてどうにもならなくなったのですから、ロシアの言いなりになっていると、北の方でもエライことになってしまう可能性が有りますなあ。


エネルギー問題がサミットの主要テーマになるのは石油危機直後の80年のベネチア・サミット以来で、主要国のエネルギー担当相会議が開かれるのは98年のモスクワ、02年の米デトロイト会議に次いで3回目。ボドマン米エネルギー長官などが出席、日本からは西野陽・副経済産業相が出席する。毎日新聞 2006年3月15日

■準備会議とは言っても、副大臣クラスの出席でお茶を濁していて良いのでしょうか?北朝鮮の核問題を話し合う6カ国協議もいつ再開されるか分からないし、米国は勝手に偽札や偽タバコに激怒して北朝鮮を絞め上げに掛かっていますから、日本はおろおろして時間ばかりが過ぎて行きます。虻蜂取らずの貧乏籤を引かされるのを待っているだけのように見えて仕方が有りませんなあ。国会の会期中だというのに、エネルギー戦略や外交方針に関する議論が盛り上がらず、野党第1党の存続などというどうでも良い内向きの話題ばかりが目立つようでは、中国とロシアにしてやられるのが目に見えていますなあ。

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