旅限無(りょげむ)

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ソマリア沖海戦 其の壱拾壱

2008-12-31 14:23:51 | 外交・世界情勢全般
今年6月の国連決議第1816では、ソマリアの海賊対策で「必要なあらゆる措置」の行使を認めているものの、他国での裁判までには言及していない。……
11月21日 産経新聞

■日本の海上自衛隊が頑張っているインド洋は、これからますます重要度を増して行くのは確実で、国際的な発言力を増すために存在感を高めようと、あちこちの国々がそれぞれの思惑で動き始めていますから、日本がもたもたしていると何処の会議に参加しても、誰も話を聞いてくれなくなるかも知れません。麻生内閣の支持率は2割を切ってしまったとは言え、野党第一党の外交戦略には多くの国民が不安を感じていますから、小沢代表がしゃしゃり出て来ても日本が「普通の国」として振舞えるようになる可能性は低そうです。麻生首相にしても小沢代表にしても、インド洋やイラクに出向いた事もなく、アフリカに足を踏み入れる素振りも見せませんから、新年を迎えても日本は新しい動きを見せることなどないのでしょうなあ。


インドネシア・ジャカルタ沖で今月4日、日本の海上保安庁とインドネシア側関係機関による海賊対策訓練が行われた。……マラッカ海峡はかつて世界最悪の海賊多発海域だったが、海峡の「利用国」である日本の対策支援もあり、近年、件数が大幅に減少した。アフリカ東部ソマリア沖の海賊に対する国際社会の懸念が高まる中、マラッカでの取り組みが改めて注目されている。……

■師走になって「非戦闘地域」のイラクから航空自衛隊が無事に帰還したのを喜んでいる暇も無く、海上保安庁は自衛隊が出向けない危険な「戦闘地域」に派遣されて頑張っております。これも国会ならぬ日本の法律が捻れたまま長年放置されているからなのでしょう。マラカッカ海峡に海上保安庁の船を派遣する時には、そこが「戦闘地域」か「非戦闘地域」かの議論はまったくありませんでした。海賊は軍隊ではなくて犯罪集団だと単純な線引きをしているからでしょうが、最近の海賊は下手な軍隊よりも強力な武器を持っていたりしますから、命令を受ける海上保安庁の皆さんにはご苦労を掛けることが多くなります。重武装していた北朝鮮の不審船を追跡した際に、犠牲者が出なかったのは奇跡みたいは話で、そんな危なっかしい僥倖に甘えて法律の改正に動かなかった国会の怠慢は、きっと大きな代償を払わされることになるのでしょうなあ。


訓練は、武装集団の船が日本の民間船舶を襲撃、負傷者が出たという想定で行われた。インドネシア側から海上保安庁への連絡で、付近を航行していた海保の巡視船「しきしま」が現場に向かい、インドネシア側機関の船と協力して「海賊船」を制圧、ヘリコプターで負傷者を救出するという内容だった。……「しきしま」はもともとプルトニウム輸送船の護衛用で、開発時から対テロを想定した海保の中でも特殊な船。全長約150メートル、約6500トンと巡視船としては世界最大で、35ミリ連装機関砲と20ミリ機関砲をそれぞれ2基装備し、ヘリコプターも2機搭載できる。

■警備用の艦艇としては実に堂々たるものですが、元を質せば海上自衛隊が使えないから海上保安庁の船が徐々に軍艦に似てくるだけの話で、刃物や拳銃ぐらいの武器しか持っていない敵を想定したような訓練では威嚇の効果も期待できない厳しい状況に対応するためには35ミリという大口径の機関砲が必要になっているのでありましょう。北朝鮮の不審船は荒波に揺られながら必死で逃走していたのが幸いして船内に装備していたミサイル兵器を使う暇が無かったと推測されます。しかし、獲物の船に乗り移れるほど波が穏やかな時に悪さをする海賊を相手にする時は、警備艇も標的になる覚悟が必要でしょう。


……欧州各国が本格的な制圧に乗り出しているソマリア沖の海賊対策に、日本からは海上自衛隊か海保の参加が検討されているが、現有船舶から海保が派遣する場合、能力的に「しきしま」が最有力とされる。安全保障筋は「海賊は公海上の国際犯罪で、警察権の行使と考えれば海保の仕事。海自にはそうした捜査、法執行のノウハウがない」と話し、今回の訓練内容にも関心を寄せている。……

■一度解体した軍隊を朝鮮戦争を切っ掛けにして復活させることにした米国のご都合主義も酷いものですが、今の自衛隊の前身となる「警察予備隊」が発足した時から、憲法問題が絡みついていた事を何よりもこの名称が示しておりました。でも、隊員に支給されたのは米国陸軍が使っていた立派な軍用銃だったのですから、米軍としては紛れもなく軍隊として働かそうとしていたのでしょう。それが60年間も誕生時の名称通りに「警察」なのか、装備と任務に相応しく正式に軍隊と改称すべきなのか、国会もマスコミも意図的に議論を避けて怠慢な態度で過ごして来たツケが、拉致だの島だの海底資源だのと具体的な課題となって噴出し続けております。

■重武装の海賊相手に、本気で警察権で対抗しようとしているのなら、相当の犠牲を覚悟しておかねばなりませんぞ。

日本語学習教材から透けて見えるもの 

2008-12-31 11:07:16 | 日本語
■北京五輪で活躍した選手の中で、ほんの数人が今でもマスコミの玩具にされているようです。CMや特別番組に顔を出す人もいますし、柔道の石井クンのようにちょっとアザトいパフォーマンスを繰り返し過ぎて、本業が何だか分からなくなりそうな人も居ます。野球の星野監督のように「自業自得」という道理が理解できずに恥の上塗りを重ねている人もいますが……。多くの人は、平和の祭典と呼ばれる五輪大会が開催されたはずなのに、まったくその実感が無いなあ、と思っているのではないでしょうか?

■「あなたとは違う」福田ホイホイ首相が、あれほど気を使って協力し、日本のマスコミは挙(こぞ)って友好ムードを盛り上げたというのに、日中関係は相変わらず芳(かんば)しくないままで、新年がそこまで来ているような時期に、来年もよい変化は望めそうもないニュースが入って来ました。


日本のNPO法人が編集した日本語教材が中国で今秋出版されたが、原本に史実として収録されていた「旧日本軍医が多くの中国人を助けた」との内容に対し、中国側が「問題がある」として削除していたことが29日までにわかった。中国では愛国主義教育の一環として、日本軍の残虐さを誇張して描写した書籍が大量に出版されており、こうした日本軍のイメージと矛盾しているため中国側が難色を示したとみられている。

■歴史の正誤判断は北京政府の独占事項ですから、この程度の介入があっても不思議ではありません。恐るべき検閲制度を持っている国を相手にする場合は、当方の善意が想像を絶する曲解を受けるのは覚悟しておかねばなりません。拙著『チベ坊』にもチャイナの奥地で日本語を教えた体験を書きましたが、使用する教材には細心の注意が必要でした。芥川龍之介の『蜘蛛の糸』に始まって夏目漱石の『坊っちゃん』に到ったチベット語翻訳実習も、信頼出来る複数の人に依頼して、取り上げる作品の内容を事前に吟味して貰ったものでした。


この日本語教材は、北京の大手出版社「外語教学と研究出版社」が9月に出版した「日語読庫」で、日本のNPO法人、日本語多読研究会(本部、東京)が外国人向けに編集した「日本語多読ライブラリー」(アスク出版)を原本にしている。日中の両出版社は当初、同じ内容の掲載を前提に話を進めていた。ところが、中国側が突然、変更を求めてきたという。

■副読本として使える教材の多くは、日本の文化や習慣を紹介したり、ちょっとした観光名所の説明をする程度の当たり障りの無い物が多かったと記憶しますが、新しい日本人作家の文学作品が人気を博したりするような時代になってからは、こうした一歩踏み込んだ「日中友好」を考える企画も出て来るのでしょうなあ。でも、歴史に関係する内容に手を出すのは、特に現代史などは誰かさんの逆鱗に触れる危険がありますから、よほど慎重に事を運ばねばなりませんぞ。


この教材にはもともと、「雪女」「走れメロス」など日本のおとぎ話や短編小説、伝記など5つの文章が収録されていたが、中国側が問題視したのは「永井隆、原爆の地 長崎に生きて」という文章だった。長崎に原爆が投下された後、自分も被爆しながら、多くのけが人を治療した医者、永井隆氏の生涯をつづった文章で、1937年に永井氏は軍医として中国に赴き、日本人だけではなく、病気や負傷をした中国人を多数治療したことも紹介されている。そのうち、「1939年には1年間で4000人の中国の人々を助けた」などの部分について、中国の出版社が「記述に問題がある」として日本側に手直しを求めてきた。

■この記事を読んでいて、ずっと気になっていた正体不明の映画の事が急に気になり始めまして、あちこち検索してやっと発見しましたぞ!何せチベット語を学びに行った青海省で偶然にテレビで観た作品なので北京語に吹き替えられていた上に、途中からの鑑賞なので題名も分からず、画面から判断するに日中戦争当時の大陸を舞台とした苦労話らしいのですが、のべつ幕無しに放映されている「共産党よ有難う!」を教え込むための宣伝映画とは雰囲気が違うし、主演が個性的な顔をしたドナルド・サザーランドだったので、頭の中は大混乱したのでありました。

■題名は『黄土の英雄 -軍医ベシューンの生涯-』というのだそうです。いろいろ検索して廻ってeiga.comで目出度く発見!1990年のアメリカ映画とありますから、あの撮影はチャイナの現地ではないのかも知れません。要するにカナダ人医師が日中戦争の最中にチャイナに来て、「病院のずさんな衛生状態に激怒、医療レベルの向上に乗り出す。そして多くの人命を救いながら、医師や看護婦の育成をし、中国人に医学を教えていく。そんな彼も患者の傷から伝染病に感染。ついに息を引き取る。中国人たちの手によって行われた葬儀は盛大なものであった」という実話を基にした映画のようです。

■先日も米国空軍が秘かに蒋介石を助けるために派遣していた「フライング・タイガー」部隊が日本の主要都市を専制爆撃する計画があったという秘話をテレビ朝日が探り出すドキュメンタリーが放送されましたが、日本は真珠湾を攻撃する前から連合国と戦っていたのは歴史上の事実でありますから、カナダ人医師が軍医となって大活躍するのは当たり前でしょう。そして、感謝の意を込めて全国向けのテレビ番組として放送するのも当然なのでしょうなあ。

■朝鮮戦争当時の移動野戦外科病院(M☆A☆S☆H)をそのまま題名にした1970年公開の名作でも軍医役を演じたサザーランドが、コメディではなくシリアスな軍医役を演じているのも何かの縁なのかも知れません。しかし、同じような軍医の行動が出身国によって受け取り方がまったく違ってしまうようでは困りますなあ。そう言えば、北京五輪直前に発生した四川省のパンダ大震災でも、日本から駆けつけた救援隊に対して、何かと邪魔が入って活躍出来ないように仕向けるような動きが目立ちましたなあ。


日本側は、執筆の際に参考にした「永井隆全集」など多くの史料を中国側に送り、説得しようとしたが、結局「永井隆」の部分はすべて削除して出版された。アスクの担当者は産経新聞の取材に対し、「この教材は外国人向けの読み物であり、日本人の中には永井隆博士のように素晴らしい人物がいることを、ぜひ中国の皆さんに知ってもらいたかった」と述べた。中国側と何度も交渉したこの担当者は「削除は中国側の出版社の現場の意見ではなく、上の方の判断」との印象を受けたという。中国の外語教学と研究出版はこの件について「ノーコメント」としている。同教材は2007年10月に韓国で出版され、来春は台湾でも出版される予定だが、いずれも原本のままで、内容については問題視されていない。
2008年12月29日 産経ニュース

■日本には立派な人物など居ないんだ!と言いたくて仕方がない人物が「上の方」で頑張っているということです。北京五輪の聖火リレーの騒動、大会中の行儀の悪い観客の姿、なかなか付き合い易い国になるのには、まだまだ長い時間が必要なようであります。

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ソマリア沖海戦 其の壱拾

2008-12-30 12:06:39 | 外交・世界情勢全般
……紅海沿岸の6か国は(11月)20日、カイロで初の実務者会議を開き、領海内の警備強化や航路の安全確保での連携で合意した。エジプト、サウジアラビア、ヨルダン、イエメン、スーダン、ジブチの外務省高官らが出席。海賊対策を提言する専門委員会の設置や、公海を含む紅海の安全確保で協力することで一致したが、具体策の検討は来年1月の次回会議に持ち越した。……エジプトは、主要な外貨収入源であるスエズ運河の通航量が減る事態を憂慮……サウジアラビアの大型石油タンカー乗っ取り事件後、ノルウェーの海運会社はスエズ運河の通航をやめ、アフリカ南端の喜望峰を回る航路に変更している。
11月21日 読売新聞

■欧州人として初めて喜望峰を廻ってインド洋に入ったヴァスコ・ダ・ガマの時代に逆戻り!破綻国家のソマリアを復興させるのは国際政治の問題でしょうが、当面の海賊退治が焦眉の急で、既に事態は外交官など文民の手に負えないところまで悪化しているようです。変な憲法を後生大事にしている日本では、危険な任務を無事に果たしてイラクから凱旋した航空自衛隊の皆さんに労いの声をかけるマスコミも無いようですし、政府は田母神論文で大騒ぎしているくらいですから、当面は外国の海軍に丸投げしておくしかないのでしょうなあ。

■海上保安庁と海上自衛隊との区別も曖昧なまま、現行の法律に抵触しない海上警備行動の命令が自衛隊に下るようですが、法体系が時代の変化によって現状に適さなくなるのは世の常で、「戦争」という概念を極限まで拡大解釈した奇妙な平和論が跋扈した日本には、軍事に関する法律を新たに作ったり、用済みとなった条項を適切に改正したり削除する仕事をする人材が払底しているようです。憲法や法律を作ったり直したり廃止するのが仕事の立法府では、一体、何をしているのやら……。
 
 
……マレー半島とスマトラ島に挟まれ、かつて海賊の巣窟と呼ばれたマラッカ海峡とシンガポール海峡での事件は激減した。……国際海事局(IMB)によると、今年1~9月のマラッカ・シンガポール両海峡での海賊事件(未遂を含む)は4件で、2004年同期(32件)の8分の1に激減した。両海峡は、東アジアと中東・欧州を結ぶ重要航路で年間約9万4000隻が航行。……1日にタンカーで両海峡を通過する原油量は1500万バレル以上……。05年の国際海事機関(IMO)ジャカルタ会議で、インドネシア、マレーシア、シンガポールの沿岸3カ国が合同海上パトロールを実施することで合意。その後、軍用機による上空からの偵察活動も実施された。……海賊の拠点とされたインドネシア・アチェ州の紛争が終結し、治安が改善されたことも海賊事件激減の背景にある。

■日本の海上保安庁もマラッカ海峡の警備活動には大いに協力しており、国際社会から高く評価され関係諸国からは大いに感謝されているようです。不思議なことに日本国内ではあまり大きく報道されることがないので、多くの国民は海賊問題をよく知らないようです。国内に問題が山積しているのは分かりますが、国際信義の方もしっかり目配り気配りしておかないと、貿易立国の国是が揺らぎかねませんぞ。


……国際協力体制も治安改善も、それぞれが主権国家であり、海軍や沿岸警備隊が機能しているからこそ期待できる。現在のソマリア暫定政府は、自国の海賊を逮捕することも、裁く力もない。実際、10月末にフランス海軍はソマリア沖で捕らえた海賊9人をソマリア側に引き渡したが、その後、ソマリアで裁判が行われたという情報はない。……英国はソマリア沖で(11月)11日、乗っ取った漁船を使ってオランダ船を襲おうとした海賊8人を拘束。18日にソマリアの隣国ケニアに引き渡した。……ケニア当局は20日、8人を国際的な海賊取り締まりに関する合意に基づき、起訴したという。

■これは11月下旬の報道記事なのですが、事態は一向に好転する兆しは無く、アフリカ問題は来年に持ち越される大きな宿題となるのは確実です。ソマリア沖の海賊事件は拡大し続ける「アフリカ大戦」の一局面でしかないという見方も出来ますから、対岸の火事どころか見知らぬ遠い場所で起こっている出来事のような印象を受けてしまいそうですが、アフリカは中東に隣接しており、そこからイスラムを介して中央アジアへも東南アジアへも騒乱は連動する可能性がありますから、大きな流れとして捉えておいた方が良さそうですなあ。

絶対儲かる話? 其の四

2008-12-27 12:06:02 | 社会問題・事件
ロサンゼルスに本社を置くユダヤ系紙「ジューイッシュ・ジャーナル」のロブ・エシュマン編集長は産経新聞の取材に対し、「ユダヤ系社会の中でも、慈善事業を行うような最富裕層は誰もが顔見知りの狭い世界。その信用をもとに、マドフ氏を直接知らない資産家も次々にカネを投じていった。親友を後ろから刺したような犯罪に、人々は打ちのめされている」と、ユダヤ系社会の受けた衝撃の大きさを指摘している。
2008年12月17日 産経ニュース

■変な思い込みに凝り固まった反ユダヤ思想の持ち主などは、きっと「ざまあ見ろ!」と無言で快哉を叫んでいるのでしょうなあ。でも、慈善事業に集まる資金は決して大邸宅に暮らす富裕層の使い切れない財産ばかりでなく、貧しいながらも少しでも人の助けになりたいと僅かな金額を寄付し続ける多くの人が居ることを忘れては行けません。特に宗教組織が仲介している慈善運動には多くの善意が集まるところは米国の美点でありましょうなあ。


米国のノーベル平和賞作家エリ・ウィーゼルさんの設立した慈善財団は24日、巨額詐欺事件で訴追された証券界の実力者、バーナード・メードフ氏の投資会社に「ほぼ全資産に相当する」1520万ドル(約13億7500万円)の運用を託していたと発表した。全額損失になるとみられている。財団は声明で、「創設者エリ・ウィーゼル氏のライフワークを遂行し続けることを約束する」として、活動継続の方針を示した。ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)を生き延びたウィーゼル氏は1986年、悲惨な体験を基に平和を訴え続けたとして平和賞を受賞した。
12月25日 時事通信

■ノーベル平和賞を受賞した人まで被害者にしてしまうとは、強欲資本主義も行くところまで行ってしまった観がありますなあ。財団の「全資産」を託したというのですから、マードフ氏に対する信頼の厚さが偲ばれます。平和の祈りも食い物にして肥え太って行く化け物は、やはり次の戦争を求める貪欲さを持っているのではないでしょうか?またしてもユダヤ人の苦難の歴史に新たな一頁が加わったことになりますが、それが同胞によって引き起こされたのですから、世界中のユダヤ人が落胆していることでしょう。とは言っても、日本では毎日のように同胞を相手に振り込み詐欺の電話が鳴り続けておりますぞ。
 

米ナスダック市場運営会社のバーナード・メードフ元会長による巨額詐欺事件で、約14億ドル(約1270億円)の損失を抱えていたとされる投資ファンドの創業者、ティエリ・デラビルシェ氏(65)が、ニューヨーク市内の事務所で倒れているのが23日朝見つかり、死亡が確認された。米メディアによると、両手首を切っての自殺とみられる。自殺が事件に関係があるかどうかは現時点では不明だが、報道によると、同氏は事件に絡んで発生したファンドの損失を取り戻そうと深夜まで事務所で働いていたという。
2008年12月2日 時事通信

■全米が明るくなるはずのクリスマスの時期に、良い子にプレゼントを配るサンタクロースならぬ詐欺師が全米に残した巨大な穴は、これからも謎の自殺者を増やして行きそうです。来年は、何とも前途多難な年になりそうな米国であります。
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絶対儲かる話? 其の参

2008-12-27 12:05:36 | 社会問題・事件
……スティーブン・スピルバーグ監督が設立した慈善団体が、逮捕された米証券界の実力者バーナード・メードフ容疑者の投資ファンドに絡む500億ドルに上る巨額詐欺事件で相当の被害を被ったもようだ。……同団体の分配金・利子収入の70%は、メードフ容疑者の投資会社によって扱われていた。……同監督と共同で映画会社ドリームワークスSKGを設立したカッツェンバ-グ氏が同事件で何百万ドルもの損失を受けた……。
2008/12月17日 時事通信

■詐欺師と被害者双方が同じユダヤ人というところが、「国内融和」を掲げて当選したオバマ新大統領直後だけに、新しい政治と歴史が始まる期待感に水を差してしまいそうです。シェークスピアの『ヴェニスの商人』以来、金貸し=ユダヤ人というイメージが広まって、一切の不動産の所有が認められずに知識と技術だけを頼りに生き延びて来たユダヤ人の歴史が歪曲されて定着していますから、度重なる反ユダヤ運動の逃れて新天地のアメリカに渡ったものの、今でも数々の人種差別が消え去ったわけではありません。しかし、ブッシュ政権の大失敗が功を奏して、アメリカの歴史は大きく変わろうとしています。

■怪しげな金融商品を開発して世界中に売りまくったのは特定の人種や団体ではないのですが、あまりにも複雑な問題が起こった時には便利に「ユダヤ陰謀説」が誰にでも分かる単純な構図を提供してくれるものです。こうして有名なユダヤ人が被害を受けているという事実を忘れてしまうと、再び米国は歴史を逆行して始めて黒人の血を引く大統領が暗殺されるような結末を迎えることになるのかも知れません。

 
……ユダヤ人富裕層が多く住む南カリフォルニアでは、今回の事件を「身内を狙った詐欺だ」として、ユダヤ系社会のモラル低下と結びつける意見も出始めている。……1954年に創立されたロス最大のユダヤ系慈善団体「ロサンゼルス・ユダヤ系コミュニティー基金」は、資産の5%弱にあたる1800万ドル(18億円)の損害を公表した。また「大ロサンゼルス・ユダヤ連盟」も資産の11%の640万ドル(6億4000万円)がふいになった……。旧ソ連圏や東欧のユダヤ系社会への援助として年間約1200万ドル(12億円)の寄付を続けていたチェイス基金(カリフォルニア州)や、ユダヤ系青少年のイスラエルへの体験旅行などを行ってきたラッパン基金(マサチューセッツ州)は閉鎖に追い込まれた。

■マードフ氏に基金の運用を任せた理由の一つが同じユダヤ系だからだったのは確かでしょう。いろいろと苦労の多い境遇と民族の悲しい歴史を共有していればこそ、仲間を助けるために設立された団体の基金を食い物にするはずはない、と思うこと自体が、アメリカ製の強欲資本主義にとっては間抜けなカモになる事を意味するのかも知れません。そんな恐ろしい仕組みをせっせと日本に導入して広めようとしていたのは誰だったのでしょう?橋本内閣の時代に始まった金融ビッグバンあたりから、小泉改革時代に行われた派遣制度の拡大まで、格差是認の弱者切捨て政策は今も続いている日本には、なかなか明るい未来が見えて来ません。日本の金融機関もマードフ氏のカモになっていたのですから、騙すより騙されう方がマシだ!と開き直るか、常に富を米国に巻き上げられる間抜けさを悲しむべきか……。


……マドフ元会長はニューヨークのユダヤ人家庭に生まれ、ニューヨークにあるユダヤ系大学の評議員も務めたほか、ユダヤ系社会の慈善事業に積極的に参加してきた。米紙ロサンゼルス・タイムズはこうした状況に「まるで“身内詐欺”の様相を呈している」……有力ユダヤ教指導者、シュムリ・ボテアク師も、「ユダヤ系社会は、内部に広がりつつあるガン組織に気付くべきだ。鼻持ちならない物質主義がわれわれを食い荒らしつつある」と自らのブログで嘆いた。

■ユダヤ人を「身内」として一括りにするのは如何なものか?とも思いますが、巨大な移民国家の現実として各種の互助組織が並存しているのも米国の素顔であります。合法的な物からマフィアなどの地下組織まで、実に様々なものがあるようですが、そうしたネットワークが悪用されたとなると、これは大きな衝撃でありましょう。まあ、日本でも宗教団体を始め、県人会や各種OB会の組織網が悪用されることも多いようですから、何処も同じようなものかも?

大学の生存競争 

2008-12-27 09:57:27 | 教育
■楽しい話題が実に乏しい年末に、40億円もの公金をつぎ込んで実施た「学力テスト」の結果を公表するかしないかで国も地方も大騒ぎしております。実施した本当の目的は日教組の影響力が強い地域の学力が低いことを実証するためだ!という、とても分かり易い解説をしてくれた中山前国交相の話が本当なのかどうかは、不思議に検証されていないようですが、公表するな!と主張している側は「序列化」や「過当競争」が起こるから、具体的な学校名が順番に並ぶような資料は公表するな!と言っているようです。

■序列化や競争の向こうには、名門大学・一流企業、あるいは高級官僚への道が続いているのでしょう。詰め込み教育を否定するための「ゆとり教育」が登場した時に、某週刊誌が文科省のキャリア官僚の子供たちのほとんどが有名進学塾に通っているという、驚く者など居ない当たり前の調査結果を記事にしていましたなあ。大分県で発覚した教育行政のポストを内輪で私物化している人事問題でも明らかなように。問題は「競争」ではなくて犯罪になる「不正」と「情実」でしょう。この件は巧みに大分県限定の特殊な事件としてテキパキと裁判も進んで大急ぎで蓋をしようと、誰かさんは一生懸命のようですが……。


関西プレスクラブの12月定例会が26日、大阪市北区のヒルトン大阪で開かれ、京都大学の松本紘総長が「時空と大学~京都大学のポジション」と題して講演した。今年10月に総長に就任した松本氏は、京都大の今後について「世界的な大競争時代に突入する中で、知の追究だけではいけない」とし、「30~40年先を目指して、世界を見渡せるような学生を育てていきたい」とした。

■天下の京都大学ともなりますと、「時空と大学」などという大仰なテーマで話をしなければならないのでしょうか?単に「時代と大学」「現代と大学」でも十分すぎるような話の内容のようなのですが……。湯川秀樹博士以来、理系のノーベル賞の後光が射している京都大学ですが、今年の大量受賞者の中に京都大学と縁が有る人は居なかったようですし、そもそも湯川博士も米国に移ってからの研究活動が物を言ったという説も多いようですから、今頃になって「大競争時代」を持ち出しているようでは、在学生も入学希望者も落胆してしまうかも?


講演では「社会として生き残りをかけた人類の本格的な生存競争が始まる」と指摘。その上で大学のあり方について、「エネルギー資源の乏しい日本で何を優先的に取り組むか、その中で大学として何をすべきかを改めて問うていくべきだ」と話した。
2008年12月26日 産経ニュース
 
■エッ?「問う」のは素人庶民で、大学人はそれに「答える」のが任務なのではないでしょうかな?「何を優先的に取り組むか?」「何をすべきか?」を問い続けるだけなら、生徒を指導する指針が無い!という実情を正直に告白したようなものです。国家100年の計とは申しますが、「30年~40年先」と妙に遠慮して時間を区切っているところは「時空」という壮大なテーマとは合致しないようです。

■それよりも、新学長の口から「生存競争」という、聞き様によっては物騒な響きのある言葉が飛び出したことに注目しましょう。話は1箇月ほど遡ります。


(11月)18午前10時45分、京都市左京区 京都府宇治市の無職、伊達悟さん(57)が刺殺された事件で、事件3日前のトラブルで伊達さんにけがをさせた傷害容疑で逮捕された京都大学職員、岩手利之容疑者(50)について、伊達さんが通報時に「酒くさかった」などと話していたことが18日、わかった。府警は同日、岩手容疑者を送検するとともに、勤務先の京都大学数理解析研究所(京都市左京区)や宇治市内の自宅などを家宅捜索。殺人事件との関連についても慎重に捜査している。……

■京都大学の「数理解析研究所」に殺人容疑で司直の捜査が入るとは、まるで『刑事コロンボ』に出て来るような話ですなあ。コロンボ・シリーズなら、理系の知識と論理を駆使して凡人には絶対に見破れないトリックを使った凶悪犯罪が起こって、そこによれよれのコートを来たコロンボがチビた葉巻を加えて現われるのでしょうが、日本の京都大学ではその種のドラマは成立しないようです。


岩手容疑者は10月22日未明、伊達さんが生活拠点にしていた乗用車にぶつかってトラブルになり、もみ合った末に双方が負傷。伊達さんは110番通報し、駆けつけた警察官に「相手は知らない男で、酒くさかった」などと話していたといい、府警は岩手容疑者が当時、飲酒していた疑いがあるとみている。一方、岩手容疑者は調べに「相手が向かってきたから抵抗した」などと供述。自身も頭を殴られて負傷、出血したが、帰宅時には血は止まっていたため、病院には行かなかったという。
2008年11月18日 産経ニュース

■結局、岩手容疑者は殺人容疑で再逮捕され、大学も懲戒免職になってしまったのだそうです。真相は裁判で明らかになるのでしょうが、自動車暮らしをしている人の「自宅」に酔っ払って追突した京都大学の職員が、通常の事故処理をせずに刃傷沙汰の喧嘩をして結果的に刺殺してしまったという事件です。国立大学の50代の職員がホームレス同然の50代の男を殺害する。流行語になった、勝ち組と負け組との衝突事故とも言えそうですが、こういう場合に「生存競争」などという恐ろしい言葉は聞きたくないものです。

■この刺殺事件の1箇月前にも、京都大学の校内で暴行事件が起きています。


京都大は(9月)16日、教授に暴行したとして低温物質科学研究センターの男性助手(57)を停職10日の懲戒処分にした。……助手は昨年5月8日、同センターの男性教授(59)に貸したタオルが返却されないのに腹を立て、学内で教授の眼鏡を手でたたき落とし、教授や近くにいた学生らに暴言を吐くなどした。教授は唇から出血したという。京大は「就業規則に違反して学内の秩序を乱した。再発防止に努めたい」としている。
2008年9月16日 産経ニュース

■ほぼ同じ歳の教授と助手という関係は、単なる「タオルの貸し借り」を切っ掛けにして暴力沙汰に到るほど複雑で危険なものなのでしょうなあ。医学部の暗部は『白い巨塔』という名作に描かれていますが、何処の学部も内側では相当にどろどろした感情が渦巻いているようです。学問研究や教育よりも学内政治が大好き!という変な大先生が蠢いていたり、新進気鋭の若手を陰湿に虐めて潰してしまったり、それも一種の「生存競争」と呼べないこともなさそうですなあ。


京都大学は(9月)10日、東京都内の会社役員から高級腕時計を受け取ったとされる工学研究科の男性教授(60)を訓告処分に決めたと発表した。京大では昨年8月、同研究科の研究生だった役員から約130万円の腕時計を受け取ったとする報道を受け、調査委員会を設置し聞き取りなどをしていた。時計の授受は確認できず、懲戒処分を見送ったが、総合的に判断して訓告処分にしたという。この役員は、パチンコ情報提供会社「梁山泊」グループ実質経営者らによる株価操縦事件で証券取引法(現金融商品取引法)違反罪に問われ、大阪地裁で公判中。
2008年9月10日 産経ニュース

■これも京都大学の理系学部内で起こったものですが、工学研究科の「研究生」が会社「役員」で、その裏に株価不正操作の犯罪集団が潜んでいるという実に奇怪な事件であります。IT技術の塊と化したパチンコ遊具には高度な工学的な技術と情報が必要とされるのなら、京都大学の工学研究科で最新のパチンコ技術を研究している人物が存在するとしても不思議ではありません。しかし、60歳の教授が130万円の高級時計を貰う具体的な理由は不明で、もともと国会の証人喚問より捜査能力が劣る大学内の調査委員会では真相究明などは最初から不可能なのは分かっているようなもので、意味不明の「総合的に判断して訓戒処分」という体面を繕う玉虫色の処分になるのも当然でしょう。これもやっぱり一種の「生存競争」なのでしょうなあ。

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絶対儲かる話? 其の弐

2008-12-25 17:30:14 | 社会問題・事件
■既に米国の投資銀行や格付け会社が詐欺商売をしていたのはバレてしまいましたし、世界中のファンドに投資していた大金持ち達は我先に資金を回収し始め、次々にファンドが解散しているそうですから、「夢」は消え去ったというわけなのでしょうなあ。金融が信用を失ったら、後は悪夢のような相互不信と疑心暗鬼しか残りません。
……同氏が運営する投資ファンドは、損失が拡大していたにもかかわらず、毎年10%の利益を上げていると宣伝。投資家から資金を集め、配当や解約金の支払いに充てていた。同氏は「自分のやっていることは詐欺と変わりはなかった」と非を認めているという。
2008年12月13日 時事通信

■麻生コロコロ内閣が、たったの?2兆円を選挙用にばら撒くという話でさえ、財源やら経済効果やら議論百出で、中には麻生内閣が崩壊する原因になるぞ!と言う人まで現われていますが、メードフ氏の詐欺事件の被害はその2倍以上の規模です。被害総額の全貌はまだ見えていないようですから、米国史上最大になるのは間違いないとしても、それが何処まで膨らむか分からないようです。

 
……発覚した元ナスダック会長のバーナード・マドフ容疑者による巨額詐欺事件の被害が深刻だ。……国内証券大手の野村ホールディングスや仏銀大手のBNPパリバ、英HSBCホールディングス、王立スコットランド銀行、スペイン銀大手のサンタンデール、さらにイタリア、スイス、オランダなど各国の金融機関に多額の損失が発生している。また個人では米映画監督のスティーヴン・スピルバーグ氏や映画プロデューサーのサム・イングルバート氏など少なくとも数百人の富裕層や投資家が騙されてしまったという。投資のプロである一流の金融機関や普段から勧誘や誘惑に慣れているはずの富裕層がどうして騙されてしまったのか。

■庶民が宝クジのわざとらしい宣伝に乗せられて「欲」を「夢」と勘違いして楽しむのと、大金持ちが更に財産を増やそうとする「欲」とはまったく違います。大金持ちに共通する特徴は、吝嗇(りんしょく)と強欲と臆病だと言われていますが……。


……その手口とは年間平均10%という高利回りを謳い投資家から金を集め、会員となった投資家に新規顧客を紹介してもらう……典型的な「ネズミ講」だ。……集めた資金をそのまま配当に回し、また顧客を紹介してもらう……。実際にはファンドは多額の損失を抱えており、その巨額損失を投資家から集めた資金でひそかに穴埋めしていたのだ。ネズミ講による詐欺は日本はもちろん世界中に古くからある犯罪で、誰もがそう簡単にひっかかる手口ではないが、職業柄お金に携わる慎重なプロたちが一様に騙されてしまったのにはある理由があった。それがマドフ容疑者の「元ナスダック証券取引所の会長で伝説的ファンドマネージャー」という華麗な経歴だ。

■比較するのも変ですが、突如としてテレビ界から姿を消した自称占い師の細木数子さんは、なかなかに怪しい経歴を持っている人ですが、それでもマスコミを利用して占いも言動も面白いように信頼されるようになったようですから、正真正銘の立志伝中の人物だったマードフ氏の経歴なら、誰も疑わずに大金を預けるでしょうなあ。


米国ニューヨーク州生まれのマドフ容疑者は米店頭市場ナスダックの運営会社会長をはじめ、証券業界の要職を務め、その実績と幅広い人脈によってウォール街の重鎮として知られていた。また毎年多額の寄付を行いチャリティー活動にも熱心なことから同容疑者を信用して資産運用を任せていた投資家も多かった。

■まったく非の打ち所のないアメリカン・ドリームの体現者!裸一貫から自力で資金を作って事業を興し、業界の頂点を極めてからは巨万の富を慈善活動に使って社会に還元するという美談には、誰もが賞讃の拍手を贈るでしょう。


だが詐欺被害に詳しい横張清威弁護士(みらい総合法律事務所)は同容疑者の手口をこう説明する。「権威を利用することで投資家を安心させるのは詐欺ではよくある手口。加えて巧妙なのは最初に配当を与えていること」。つまり最初に配当によって儲けさせることで投資家の欲を煽り、多額の資金をむしり取っていたのだ。……米史上最大規模の投資詐欺となった今回の詐欺被害は総額で500億ドル(約4兆6000億円)にも達するといわれ、被害はさらに拡大する可能性がある。
12月21日 MONEYzine

■発覚から10日も経ずに、予想される被害総額が1000億円も増えていますぞ!何だか「当たれば3億円!」などという西田敏行さんの歌声も色褪せてしまいますなあ。

絶対儲かる話? 其の壱

2008-12-25 17:28:24 | 社会問題・事件
■宝クジ売り場の風景は、年末の風物詩と言うべきなのでしょうが、金融危機に始まって不景気、人員削減、倒産など、年の瀬を暗くする話題が報道されない日が無いのですから、今年の宝クジ売り場には独特の緊張感と期待感、時には殺気までもが漂っていたのではないでしょうか?30年目の記念だそうで、『ジャンボ30年感謝賞』(100万円)が7000本で、1億円以上の当選本数が史上最多になったのは事実のようですから、何となく当たる確立がぐっと高くなったと考えたくなるのが人情でありましょう。
 
■宣伝に起用されている俳優の西田敏行さんには悪気は無いのでしょうが、「30年の感謝を込めて、メニー当たります」などと下手な駄洒落混じりに歌って踊って連日流されるテレビCMに乗せられて、誰が言ったか知らないけれど、「買わなきゃ当たらぬ宝クジ」なるウソではない決め言葉なども思い出して、ついつい何十枚かを購入してしまうのも人情。日垣隆氏が新潮社新書の『世間のウソ』に書いておられますが、日本の公営博打は世界で最も高い搾取率になっているそうで、その中でもジャンボ宝クジは最悪という数値を得ておられます。一等に当たる確立は「0.0000001」で、保険を請求するほどの交通事故に遭う確立の方が9万2651倍も高いという比較計算も附されております。

■博打に「ロマン」を求める人も居るので、宝クジを買ってささやかな「庶民の夢」を楽しむというのもちょっとした気分転換にはなりそうです。しかし、今年は宝クジで大金を当てた某所の女性が悪い男にカネを奪われたばかりか命まで奪われるという事件が発覚したのも記憶に新しいところで、やはり西田敏行さんが派手な衣装で「3億円!」と連呼している声に反応して庶民の心に湧き出すのは、「夢」ではなくて「欲」なのでしょう。

■日垣氏は「当たり易い場所など無い」「当選賞金は増えていない」と冷静に事実を書いておられますが、マスコミはそれを承知で特定の売り場を意図的に取材して、ますます貴重になる広告費を払ってくれるスポンサーに協力していますなあ。さてさて、この数年間、ずっと宝クジの宣伝をしている西田敏行さんは、その間に出演料を使って何枚のクジを買ったのでしょうなあ?宝クジは買うよりも広告宣伝の仕事にありついた方が、ずっと儲かるような気もしますし、何よりもテラ銭として売り上げの「52%」を合法的に取り上げる胴元の地方自治体が一番儲けているようなものですが……。うっかり忘れて換金しない人も居るので実質的には6割近くも吸い取られることになるという話もありますなあ。

■そんな宝クジでも多くの人達が行列して買うのですから、世界的に有名な金融のプロが運用する特殊なファンドに大金を預けておけば、「必ず儲かる!」と素朴に信じ込むのも人情なのでしょう。庶民は利息が無いも同然の預金しか出来ませんが、1口数千万円などという高いハードルを楽々と飛び越えられる人達は、1割だの2割だのという夢のような利益を楽しめるという話がまことしやかに流れておりました。


ウォール街(米金融街)の重鎮として知られるバーナード・メードフ氏の運用する投資ファンドが、高利回りを約束しておきながら、実は500億ドル(約4兆5000億円)を超える損失を隠していたことが判明、同氏は12日までに連邦捜査局(FBI)に逮捕された。米メディアによると、詐欺事件としては米史上で最大規模。市場関係者は、投資離れに拍車が掛かりかねないと懸念を強めている。

■高級ホテルやら豪華客船などを舞台に、特に金融や投資に詳しいはずもない芸能人などを並べて豪華なパンフレットや怪しげなグラフなどを掲げて、「必ず儲かる!」と言っては大金を集めるのはプロの詐欺師がやる悪事。必ず1回は約束通りのカネや賞品を送ってカモを信用させるのも常套手段。自転車操業を続ければ、短期間に破綻してしまいますから、早めに詐欺師は濡れ手に粟の大金を持って逃走!というのがお決まりの結末です。そして、プロの詐欺師は絶対に詐欺師には見えないのだそうですから、素人が騙されるのは当たり前。まして世界的に有名なウォール街の重鎮となれば、誰も詐欺とは思わないでしょうなあ。

歴史バネの反発 其の弐

2008-12-25 09:59:08 | 歴史
■「100年に1度」の金融危機が荒れ狂っている時期に、何かと「歴史の節目」が大好きなチャイナでは、改革開放30年周年を何が何でも大成功だった!と言わねばならない儀式が開かれました。胡錦濤主席は、延々3時間を越える大演説を敢行したとか……。一党独裁体制の国家は全ての権力を一手に握っていなければなりませんから、その親玉ともなると大所高所から天下国家を論じながら、社会の隅々まで目が届いている事を強調するために細々した事象まで取り上げて語り続けなければなりません。

■旧ソ連時代のフルシチョフ書記長などは、短いスピーチで3時間、公式の演説ともなれば8時間を越えるのも珍しくなかったと言いますし、全盛期のカストロさんなどは豪雨の中で2日間も吠えるように演説を続けたという話もありますから、歴史的な演説が3時間程度で終わったのなら、それも改革開放が進んだ証拠なのかも知れませんなあ。でも、小平が開いたパンドラの箱から飛び出した困った歴史的遺産の矛盾や不満は増え続ける一方のようですなあ。


2008年12月18日午前、北京市の人民大会堂で「中国共産党第11回中央委員会第三次全体会議」の改革開放30周年を記念した式典が行われ、胡錦濤国家主席は「改革開放30年の歴史を総括すると、『10項目の結合』に要約される」との重要講話を発表した。……「10項目の結合」とは、「4つの基本原則(社会主義を堅持するなどの原則)と改革開放を結合し、経済発展を中心とした改革開放の正しい方向を維持する」「社会主義の基本制度と市場経済を結合し、社会全体に発展・改革の創造力をみなぎらせる」「自主独立と世界経済への参画を結合し、国内外2つの大局を統一的に計画・運営し、人類の平和と発展に貢献する」など。

■単なる偶然なのでしょうが、11月5日に中国国務院の常務会議で決定された内需拡大策も「10項目」でした。内容は低所得者層向けの賃貸住宅の建設促進や農村のインフラ建設、鉄道建設、国民の所得増、銀行の融資制限撤廃などが列挙されたもので、その予算規模は「2010年末までに4兆元(約57.5兆円)」を投じる!という空前絶後。驚天動地の大盤振る舞い。2兆円をぱらぱらと国内にばら撒けば景気が回復するんじゃないか?などと考えている日本とは比較にならない大規模な政策群で、その策定と発表の早さも世界を驚かせました。少しばかり楽観的なエコノミストは、中国国務院の対策と米国の新大統領オバマ政権が打ち出す対策が連動すれば、世界的な金融危機も終息に向かうのではないか、と考えているとか……。

■近頃のチャイナは「10項目」が好きなようで、五輪大会が終わった北京市で始まった交通規制も「10項目」。10月11日から自動車ナンバープレートの末尾の数字による運転日制限という強引な奇策を試し始めたそうです。来年の4月10までが試行期間だそうで、規制の範囲は市内の五環路以内、時間は6時から21時までとされています。交通管理部署が発表した運転規制時に外出する際の利便性を高める措置として発表されたのが「10項目」。毎日の車両交通量が約80万台減って、五環路以内の道路交通量は6.5%減るだろうと見込まれるているのだそうですが、既に偽造ナンバープレートが出現しているような気もしますなあ。

■「上に政策あれば、下には対応策がある」というお国柄ですから、強烈な政策を打ち出しても、下々に行き渡らせる段階では相当に薄味になっている場合が多いようです。上の方では事ある毎に「社会主義」を標榜しても、既に人民の心は社会主義から離れているのは間違いないようですから、「項目」ばかり増やしても思い通りに事は進まないでしょうなあ。


さらに、胡錦濤主席は「10数億人の人口を擁し、発展途上にある社会主義大国であるわが国は、30年間で貧困からの脱出、現代化の促進など、社会主義の固定化と発展という貴重な体験をしてきた」と語った。
12月19日 Record China

■今の状態を「貧困からの脱出」と呼ぶのなら、日本以上の格差社会となったチャイナの貧困層はこれからもどんどん増え続けるでしょう。軍事以外の領域では「現代化」の促進は政府が自画自賛するほど進んでいないような気がします。現代的な社会インフルが整備されつつあるのは広大な国土の極一部、沿岸都市の限定された地域だけが突出しているだけに、残された貧困地域の広さは圧倒的な存在感を持っております。本当に「社会主義の固定化」が実現したのは、胡錦濤主席が強調するこの「30年間」ではなく、それ以前の毛沢東時代と文革時代だったはずです。その後の小平時代に始まった改革開放政策が、「社会主義の固定化」だと強弁するなら、そんな社会主義は要らない!という叫びが国中に満ち溢れそうですなあ。


……共産党・政府は18日、北京の人民大会堂で、1978年にスタートした改革・開放路線の30周年記念式典を開催した。胡錦濤国家主席(党総書記)、温家宝首相ら党政治局常務委員9人全員が出席したほか、江沢民前国家主席、李鵬元首相、朱鎔基前首相ら引退した指導者も姿を見せた。……胡主席は、改革・開放以後の中国の発展について「年平均9・8%の経済成長を達成し、世界第3位の貿易大国となり、世界が注目する新しい偉大な成果を挙げた」と高く評価する一方、「党と政府の活動に欠点や不足もあり、人民が満足していないところも少なくない」と指摘、貧富の差の拡大など問題が存在していることを認めた。その上で、社会の調和を促進し、共産党設立100周年(2021年)の際に「より高い水準の小康社会(ややゆとりのある社会)」を実現するとの目標を掲げた。

■「調和」の後は「小康社会」が出現するのなら、あまり活気のある世の中にはならないかも知れません。何が何でも一党独裁の政治体制を維持しようとすれば、党が打ち出す方針や政策に欠陥が有っても、決してそれを認めずに更なる方針を接木し続けねばなりません。常に前政権の正当性を認めつつ、長い目で観れば明らかに前後が矛盾しているような政策が繰り出されて露骨な対症療法が施されます。海外から「世界最大のマーケット」を餌にして投資を呼び込んで、二桁の経済成長を続けられたのは奇跡と呼んでも良さそうですが、何かと目詰まりが多い社会システムが邪魔をして、地域間格差が広がり続けるのを防げない政府は、実際のところ「結党100周年」まで現体制が維持できるなどとは考えていないのではないでしょうか?


胡主席はまた、共産党による指導体制の重要性に繰り返し言及し、「軍に対する党の絶対的な指導により、軍隊と国防建設などで重大な成果を挙げた」と強調した。知識人たちが最近発表した、「共産党一党独裁の廃止」や「軍の国家化」などを求める「08憲章」が一般市民に浸透するなど、共産党の求心力が低下していることを意識した発言とみられる。……
12月19日 産経新聞

■突如として出現した「08憲章」は、14世紀の英国で造られた『マグナカルタ』を思い出させるような文書であります。昔の中国共産党なら草の根分けて関係者を探し出し、冤罪を含めて少し多めに逮捕して見せしめの公開処刑に持ち込むところでしょうが、今のところは昔の流儀は使わない方針のようですなあ。これも五輪効果の一つなのでしょうが、いつまでも爪を隠しているとも思えません。人民解放軍が既得権を奪われるのではないかと、少しでも不安になれば党の指導に従わずに動き出す危険性もありそうです。

■いつまで党と軍との関係が現状のままで続くのか?革命軍として誕生した人民解放軍は、建国の後は国共内戦・朝鮮戦争・チベット解放(侵略)戦争・中印戦争・中ソ軍事衝突・中越戦争……と、次々と対外戦争に動員され続けましたが、第二次天安門事件では人民に銃口を向けて達成したのが「社会主義の固定化」というものなのかも知れません。革命を起こした後は、革命国家を防衛するのが革命軍の任務ですが、いつの間にやら領土拡張を目的とした帝国主義時代の軍隊と同じ仕事をするようになるのは皮肉な話であります。

今年も「偽」の字? 其の四

2008-12-25 07:15:01 | 社会問題・事件
台湾産マンゴーを沖縄県宮古島産と偽り販売したとして、不正競争防止法違反罪に問われた食品通信販売会社「美ら島フーズ」(同県浦添市)幹部らに対する判決が22日、那覇地裁沖縄支部であり、榊原敬裁判官は「私利私欲を満たすためで、動機や経緯に酌むべきものはない」として、社長玉城理被告(42)に懲役1年6月、執行猶予3年(求刑懲役1年6月)を言い渡した。……同社役員池間清栄被告(44)に懲役1年、執行猶予3年(同懲役1年)、法人としての同社には求刑通り罰金150万円の支払いを命じた。
2008年12月22日 時事通信

■素人には台湾産の方が高く売れるような気もするのですが、今の日本で私利私欲のためには宮古島産が有利なようです。商品価値を上げるより、手っ取り早く交換価値を上げて荒稼ぎするには、産地を偽装して売り抜けるのが最も簡単で暴利を得られる。そんなカラクリが満天下に晒されてしまえば、誰も宣伝やシールを信用しなくなるでしょう。つまりは「情報」を提供する商売が成り立たなくなるという事ですなあ。自分の首を自分の手で絞めているようなものですが、中には焼け太りで喜んでいる人達も居るようであります。以下は岐阜県からの「情報」です。


2009年度政府予算の財務省原案内示を受け、県は21日、国に要望していた地方消費者行政の充実や、食品の安全確保対策について必要な予算が盛り込まれる見通しになったと発表した。地方消費者行政の充実は、県内の市町村に専門員を配置する常設の消費生活相談窓口を設けるなどの交付金創設を含めて総額240億円を盛り込んだ。また、食品の安全対策は、養老町の食肉卸会社「丸明(まるあき)」の飛騨牛等級偽装事件や中国製冷凍食品などの輸入食品、事故米など食の安全を揺るがした問題を受け、県が検査体制の充実などを主張してきた。これに対し、原案では輸入食品の監視体制の強化に前年度比23%増の26億円、食品表示の監視指導、啓発の推進に3億円が計上された。古田肇知事は「新たに食品危害情報を迅速に収集、共有するためのシステム構築が盛り込まれたことは評価する」とコメントした。
2008年12月22日 読売新聞

■高級肉の「飛騨牛」が安く買える!という評判を聞いて県外からも多くの客が足を運んでいたのが岐阜県の丸明で、客が喜んで買って行ったのが値段相応の安物肉だったという偽装事件でした。予算が取れて喜んでいる岐阜県の古田知事ですが、飛騨牛の偽装事件は農水省が管轄する毒ゴメ事件と酷似している事を忘れているのでしょうか?


大手ビール会社の懸賞品をめぐる飛騨牛の等級偽装事件。……6月。丸明の偽装を告発する情報を得た県は、直後に当時社長だった吉田明一容疑者に接触した。慣例であらかじめ立ち入り調査の意向を伝え、期日を打ち合わせてしまった。「当時は『抜き打ち調査』への認識が足りなかった」と岩田康夫・県食品安全推進室長。マニュアルには当時、業者との接触に関する記載はなかったが、前例踏襲で事前通告は常態化していた。このため、問題発覚から食の安全、安心を揺るがしているとの批判は丸明だけでなく、県にも向けられた。県は直ちに「情報の内容を問わず、すべて無通告で調査する」と方針転換。岩田室長は「厳しい対応でないと消費者の理解を得られないと痛感した」と振り返る。……

■「地方消費者行政の充実」のためには、新たに「専門員を配置」するだの「常設の消費生活相談窓口」を作るより、県食品安全推進室の人事を一新して真面目に「調査」する組織に変えるだけで済みそうな話です。同業者からは、県自体が丸明と結託して偽装事件を起こしたとする声まで出ているようですからなあ。


ある食肉業者は「県やJAは、飛騨牛ブランド確立の功労者として丸明を厚遇してきた。その『もたれ合い』が丸明側のおごりを生んだ」と指摘。「時代の要請で厳しい姿勢を示していれば、事件に行き着いて業界全体がここまで傷つくこともなかった」と唇をかむ。……古田肇知事は11月、中国・香港を訪れ、政財界の要人らに海外初進出の飛騨牛をアピール。最高級のヒレやサーロインをステーキにして振る舞った。今後は県特産品の顔として、東南アジアや中東の富裕層にも積極的に売り込む構えだ。その矢先、丸明の偽装問題がブランドに与えたダメージは、計り知れない。……飛騨牛業界が再生できるか、ブランド牛肉として生き残れるか。県や業界の今後の取り組みにかかっている。
2008年12月8日 中日新聞

■毒ゴメを大量に買い付けて怪しいルートに流して暴利を貪っていた悪徳業者と農林水産省とが癒着してもたれ合っていたのと同じ構図が見て取れますなあ。毒ゴメ業者の三笠フーズが農政局の職員を接待していたように、岐阜県の担当者と丸明との間に「美味しい関係」が有ったのではないか?商売熱心な古田知事が、丸明の関係者を知らないとも思えませんし、功労者扱いしていたのなら相当に深い関係にあったとも考えられます。丸明側では「不正競争防止法違反(虚偽表示)」の疑いで吉田明・前社長(65)が逮捕されているのに、結託していたいも同然の県側は無傷。自分たちの失政を糊塗するための予算が取れて嬉しいな!などと言っている場合ではないでしょう。

■さてさて、不景気で経営が苦しくなるマスコミも、政府の言いなりに借金を積み重ねてしまった地方自治体も、どちらも苦し紛れにこれからも「偽装事件」を起こしてしまいそうです。今年の漢字が「変」と決まり、これから明ける次の年が終わる頃、またまた「偽」の一字が選ばれるような事のないように祈るばかりであります。騙されないための知恵を磨くしか防衛策は有りませんが、どうやら自分だけが安く「掘り出し物」を手に入れたい!と最初から考えない。そして、自分はきっと騙されるのだろうなあ、と覚悟をしておいて背伸びせずに倹(つま)しく暮らすのが宜しいようです。新年を祝う前に、もう一度、御用心、御用心。

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雲来末・風来末(うんらいまつふうらいまつ) テツガク的旅行記
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チベット語になった『坊っちゃん』―中国・青海省 草原に播かれた日本語の種

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今年も「偽」の字? 其の参

2008-12-25 07:14:29 | 社会問題・事件
中国産のタケノコ水煮などを国産と偽って販売したとして、農林水産省は16日、農産物加工会社「たけ乃子屋」(愛知県一宮市)に対し、日本農林規格(JAS)法に基づき改善を指示した。一部のパックには、取引先の従業員の写真を「竹林農家の皆さん」などと偽って張り付けていた。偽装作業を手伝っていたのは、森林組合「ぬながわ森林組合」(新潟県糸魚川市)と缶詰製造会社の「出石缶詰」(京都府木津川市)、「甲木フーズ産業」(福岡県立花町)、「熊本罐(かん)詰」(熊本市)。……たけ乃子屋は4社に、中国産タケノコ水煮と「熊本県産」などと表示したパックを売却。4社がこれらのパックに中国産のタケノコ水煮を詰めたものを買い戻したり、自社工場で偽装した製品を国産として出荷していた。
2008年12月16日 読売新聞

■ラーメンに欠かせないシナチクは、台湾特産の筍でないと作れないそうですが、普通の筍を水煮加工した商品となりますと、筍自体よりも「水」の方が心配になりますなあ。漂白や殺菌などの加工過程にも不安が残りますから、開封後に煮直すにしても、食材がぼろぼろになってしまっても困ります。国産の朝掘り筍の旨さを知っている人なら、おいそれとは手を出さない商品でしょうが、手軽な炊き込み御飯の素などの商品やら、惣菜や弁当に使われる材料までこだわり続けるのも大変であります。この業者は森林組合と結託して、生産者の「写真」まで偽造していたのですから、何が何でも儲けようと固く決心していたのでしょう。プロの執念に素人が対抗するのはほぼ不可能ですから、食品事故が起きなかっただけでも幸運だったと考えるしかありますまい。


東京・新宿のホテル「ヒルトン東京」内の高級フレンチレストラン「トゥエンティ ワン」が、高級黒毛和牛「前沢牛」使用とうたいながら、実際には山形県産牛を使っていた問題で、公正取引委員会は16日、景品表示法違反(優良誤認)で運営会社の「日本ヒルトン」に排除命令を出した。……昨年2月~今年9月、メニューに「特選前沢牛フィレステーキのグリエ」、ポスターでも「オーガニック野菜や厳選された前沢牛を用いたフレンチ」と表示しながら、実際には提供した牛肉の約8割は山形県産牛、野菜の大半は農薬使用だった。ボタンエビやタラバガニ、ホタテなどの産地も偽装した疑いもあったという。

■「予約が取れない店」だの「行列ができる店」だの、何だか落ち着いて飯も食えないようなイメージが先行する話が、マスコミは大好きですなあ。報道番組なのか宣伝なのか分からない「情報バラエティ番組」などという得体の知れない物が増えているようで、夕方に放送されている長いだけのニュースもどき番組でも、「安い!旨い!」と料理に関する情報を垂れ流ししているとか……。「旨い!」と画面でハシャイでいる人の味覚と趣味は判断不能ですが、交通費を考えたら決して「安くない」ような店を、広範囲に届く電波に乗せて放送するテレビ局の神経が分かりません。広告費が激減したテレビ局は掟破りの通販番組枠を拡大しているくらいですから、食べ歩いて「情報」を提供している番組も、無銭飲食が多いのではないか?などと下世話な心配もしてしまいます。

■問題の「東京ヒルトン」の高級フレンチ食堂も、何処かのテレビ局が捺し掛けて飲んだり喰ったりしたかも?


同レストランは「ミシュランガイド東京2008」で二つ星を獲得したが、9月にこの問題が発覚して閉店した。11月から「ル・ペルゴレーズ」として再スタートしており、ヒルトン東京では「再発防止体制の確立と信頼回復に努めます」とコメントした。
2008年12月16日 読売新聞

■何を聞かれても、商売上は、「再発防止」「信頼回復」しか言えないのでしょうが、ミシュラン本に引かれて利用した客は2度と戻っては来ないでしょうなあ。聞くところによりますと、ミシュラン社がレストラン・ガイドを作り始めたのは、販売しているタイヤをどんどん磨り減らして貰う目的で、自動車でしか行けないような人里離れた場所にある優良店を紹介して、欧州の食いしん坊ドライバーを走り回らせようと無料で配布した冊子が始まりだとか……。東京ヒルトンに自動車で乗り付けて問題のレストランで食事する人がどれほど居るのかは分かりませんが、日本中の書店に同社のガイド本が平積みされているのは異様な事態だと申せませしょうなあ。

■看板とメニューに偽りがあったのに、星を付けたミシュラン側には何の責任も発生しないのも不思議な話で、自他共に「高級フレン」と認めているような店で高いカネを払って本当に食事を楽しめる日本人が、どれほと居るのかも分かりません。それにしましても、こうした事件が詐欺とは呼ばれず、公正取引委員会が『景品表示法違反(優良誤認)』で排除命令を出して看板を変えれば解決するというの変な話です。騙された客は損害賠償の訴えも起こさず、「情報」を提供したマスコミも頬被りして反省もしないのでは、地道に真面目に仕事をしている店の立場はどうなるのでしょう?マスコミやガイド本の信頼性が落ちれば、放送・出版業はますます衰退し、宣伝広告業界も仕事が減って行くのでしょうなあ。

今年も「偽」の字? 其の弐

2008-12-24 17:22:37 | 社会問題・事件
米穀加工販売会社「三笠フーズ」(大阪市、破産手続き中)による工業用「事故米」の不正転売事件で、大阪、福岡、熊本3府県警の合同捜査本部は、不正転売は売買価格をつり上げて多額の利益をだまし取る目的だった疑いが強まったとして、同社の冬木三男社長(73)ら5人前後を年明けにも、詐欺容疑などで立件する方針を固めた。詐取総額は約1億円に上る見通し。……冬木社長らは共謀し、数年前から「工業用糊(のり)の加工用」として国などから購入した事故米を「食用」や「国産米」などと偽り、殺虫剤「アセタミプリド」に汚染されたベトナム産うるち米を酒造会社などに、また、基準値を超える有機リン系殺虫剤「メタミドホス」が検出された工業用中国産もち米を食品製造販売会社などにそれぞれ販売し、代金を詐取した疑いが持たれている。……三笠フーズは、商社などとの架空取引を介在させ、自社やグループ会社「辰之巳」(東京都、破産手続き中)に買い戻す形にしてから酒造会社などに売却していた。……
2008年12月21日 読売新聞

■90回も現場に踏み込んで調査していながら、何も発見できずに飲食接待を受けて帰って来た間抜けな農政局は被害者みたいな顔をして、こっそり行政改革の流れの中で看板を架け替えて失政の責任をうやむやにしてしまうような悪巧みがあるようです。厚労省・文科省・農水省と、偽装首相が連続して登場して来たのをよい事に、空き放題の延命工作に勤しんでいるようであります。


中国、台湾産ウナギを徳島県産に偽装し販売したとして、徳島県は19日、同県阿南市の水産物卸会社「アオキ淡水」と、同市の食品加工会社「タカラ食品」に対し、日本農林規格(JAS)法に基づき改善を指示した。……中国や県外の商社などから仕入れた中国、台湾産のウナギの産地証明書や伝票を徳島県産と偽装して、今年4~10月、計68トンを水産物加工会社2社に卸していた。……県の調査に対し、アオキ淡水は「国産ウナギが足りなかった」とし、タカラ食品は「国産でないと売れないのでやった」と偽装を認めているという。
2008年12月19日 読売新聞

■偽装しようのないマグロは別として、牛肉やらウナギやら、昔は高嶺(高値)の花だった食品が、日常的に食べられるようになったのは目出度い事なのかも知れませんが、国内の生産者が廃業に追い込まれて減り続けている報道に耳を傾けていれば、「掘り出し物」が偽装である可能性が高いと誰にでも判断が出来るはずなのですが、オレオレ詐欺に狙われた被害者と同様に、店先で「国産」「高級」のシールの文字を見てしまうと、値段の不自然さは気にならなくなるようです。

■こうなったら、腹を括って「中国産」ウナギ、「米国産」ビーフを安く買って時々食べることにするしかないかも?まさか、国産の商品に外国産の偽装シールを貼る業者は居ないでしょうから、少なくとも「騙された!」と腹を立てなくても済みそうです。安さと安全の両方を手に入れようと欲張るのは止めて、地元で取れる季節の野菜を安く買ってたくさん食べ、ウナギやら牛肉やら、昔は特別な食品だった物は年に数回しか食べない。思い切って本物の国産を大金払って少し楽しむか、外国産を思う存分食べるかは個人の判断ではありますが……。


……伊勢丹は昨年12月~今年7月、新宿店でインドから輸入したストール計219枚を「カシミヤ50%、シルク50%」と表示して販売したが、実際にはカシミヤではなく、ウールが使用されていた。ファイブフォックスは今年7~10月、自社で運営する「コムサイズム」など368店舗で、中国から輸入したストールを「アクリル70%、カシミヤ30%」と表示して計3327枚販売したが、原材料はすべてアクリルだった。……両社とも取引業者の申告をうのみにして原材料比率を表示していたという。……
2008年12月10日 読売新聞

■カシミアの軽さと風合いと知らずに、伊勢丹の名前を信用して買った人も多かったのでしょうが、全国に名が知れている店の仕入れを担当しているプロが、インドやチャイナの悪徳業者に騙されることなど有り得るのでしょうか?バレた時には被害者になり切って誤魔化すだめの方便としか思えません。販売した数から想像するに、「目玉商品」として売り捌いたと思われますから、本物を知らない欲張りで見栄っ張りの客を騙して利益を上げようとしたのでしょうなあ。偽物と知らずに騙されたままで居たかった!という消費者も居るかも?

今年も「偽」の字? 其の壱

2008-12-24 17:22:08 | 社会問題・事件
■骨董品の鑑定で大人気の中島誠之助さんのインタヴュー記事を某新聞で読みました。世の中には「掘り出し物」などという物は絶対に無い!という、実に歯切れの良いお話だったのが印象に残っております。では、どうして有るはずの無い「掘り出し物」が世の中にぞろぞろと現われて来るのか?というと、その理由は人の欲深さに尽きるとも仰っておりましたなあ。
 
■年の瀬ともなりますと、マスコミ各社が「10大ニュース」を発表するのが恒例となっておりますが、衣食住から季節感が失われて何の節目もない時間が忙しく流れるだけの昨今、強引に1年間を区切って振り返れば、驚くほど多くの事件や変化が起こっていたことに呆然とするばかりです。去年の「10大ニュース」を誰も覚えていないのですから、今年の企画も三が日が過ぎる頃にはほとんど忘れ去られているのでしょうが、昨年を象徴する漢字一文字が「偽」だったことは、案外と多くの方が覚えておられるのではないでしょうか?


秋田県の特産「比内地鶏」の偽装表示事件で、詐欺などの罪に問われている食肉加工会社元社長に対し、秋田地方裁判所は、懲役4年の実刑判決を言い渡した。……秋田・大館市にあった食肉加工製造会社「比内鶏」の元社長・藤原誠一被告(77)。……卵を産みにくくなった1羽10円程度の鳥の肉や普通の卵を仕入れ、薫製などに加工した食品に、「比内地鶏」と偽って表示、取引先の業者などからおよそ6,300万円をだまし取ったとして、詐欺と不正競争防止法違反の罪に問われている。秋田地方裁判所で開かれた24日の判決公判で、馬場純夫裁判官は「自らの主導のもと、偽装商品の拡大を図るなど、酌量の余地はない」として、懲役4年の実刑判決を言い渡した。
2008年12月24日 秋田テレビ

■今年の漢字は「変」でしたが、何かが良い方向に変わったような印象はほとんど有りませんが、昨年の「偽」が今年までずっと尾を引いているのは確かなようです。考えてみれば、上は総理大臣から、下は振込め詐欺の「オレ、オレ」連中まで、偽物が大発生中であります。どちらも手の込んだ芝居仕立てなので、つい騙されてしまうのが日本人の弱点でもあり、美点なのかも知れませんなあ。政局がらみの話となると、取り合えずマスコミは大騒ぎをして見せるので、どんな政治家でも総理総裁となった瞬間には、変な期待感が生まれる仕掛けになっております。親族を名乗って泣いたり喚いたりする声を電話で聞けば、警官や銀行員の言う事など耳に入らないのが人情というもの。詐欺集団もマスコミも、同じ習性を利用して商売しているようなものかも知れませんなあ。

■日本の三大地鶏に数えられる「比内鶏」は、何よりも「歯ごたえ」が違う!とグルメ本やその種の漫画にも書かれていますから、老いて筋張ったブロイラーを加工して濃い味を付ければ、知ったかぶりが好きな者が小耳に挟んだ薀蓄を並べて、旨い!旨い!と顎が草臥れるほど食べていたのでしょうから、偽装が発覚した後、大恥を掻かされた!と怒った人もいたはずです。本物を知らない者の悲しさで、高級地鶏の「歯ごたえ」と廃鶏の固さの区別が付かない!それは高級ブランド牛肉や国産ウナギも同様で、大金を払って本物を賞味した者でなければ、安価な「掘り出し物」を喜んで買わねばなりません。店先に並ぶ商品に貼り付けてある1枚数銭のシールを頼りに、安全と品質の両方を手に入れようと思うところに、残念ながら欲深さと浅ましさが出てしまうようです。

■その点、米の偽装は相当に手が込んでいましたなあ。


農林水産省は、日本農林規格(JAS)法の運用指針を改定し、食品の表示偽装をして改善指示を受けた業者名を一律公表する方針を固めた。……業者名の公表を巡って同省と都道府県で対応が異なり、不公平が生じているなどの指摘を受けた措置。……改定後は、同法に基づく改善指示を受けた業者のほか、調査を逃れようと関係書類を廃棄するなどした業者名も公表する。現行指針では、業者名は「原則公表」となっており、同省はすべて公表してきたが、営業地域が都道府県をまたがらない業者の公表については自治体に判断がゆだねられていた。2002年以降、指針に照らせば公表すべきだったが、自治体の判断で非公表となった案件が72件あった。
2008年12月17日 読売新聞

■輸入した毒ゴメを大量に買い付けて売り捌いた偽装業者を利用していたのが農林水産省ですから、今更、何を言い出すのかと思えば、太田スーパーフリー大臣が暴言に続いて強行した杜撰な「業者名公表」を反省もせずに、悪評高い出先機関の怠慢を棚に上げて地方自治体に責任を押し付けようとする保身の心が透けて見える「運用指針」の発表です。店先のシールも信用出来ませんが、農林水産省の行政はもっと信用出来ない!と考えておくべきでしょうなあ。

歴史バネの反発 其の壱

2008-12-15 11:23:36 | 歴史
■政治家が地元選挙区に戻って「政治活動」に忙しく走り廻る週末、政治関連のニュースがぱったりと無くなる頃を見計らったかのように、昨夕、麻生コロコロ首相が緊急記者会見を開きました。宿敵の野党からばかりでなく、身内からも好き放題に批判され始めて首の辺りに冷ややかな風を感じる師走の中旬であります。

……新たな雇用対策などを盛り込んだ23兆円規模の「生活防衛のための緊急対策」を発表した。首相は「3年後の消費税引き上げ」を税制改正の道筋を示す「中期プログラム」に盛り込む考えを強調した。対策には概算要求基準(シーリング)の枠外となる1兆円の「経済緊急対応予備費」が盛り込まれ、小泉政権以来の財政再建路線を転換することが明確となった。……首相は「100年に一度の危機だが、被害を最小限に抑えることは可能」と緊急対策に理解を求めた。……
12月12日 毎日新聞

■対策の中身は「公共事業や・宅減税による10兆円」と「金融対策13兆円」の2本柱だそうで、年明けまで凍結状態の第2次補正予算と09年度予算に振り分けて組み込むとのことです。それなら補正予算の意味が無いではないか!と怒る気にもなれないほど麻生コロコロ内閣は憐れを誘う崖っぷち状況ですなあ。連立与党の公明党から「来週の身も分からないのに3年後の話などするな!」と冷たく突き放されている麻生コロコロ首相ではなりますが、日本経済を「全治3年」との見立てを発表したのは早かったのですし、何よりも今回の金融危機を「100年に一度の危機」と受け止めたのも正解だったと言えましょう。

■米国発の「金融危機」に関するマスコミの解説や特集が、先の「世界大恐慌」と安易に比較して悦に入っているような態度がずっと気になっていたのですあります。田原総一郎さんなどは、盛んに「恐慌+政済界の醜聞+テロ」の三点セットから軍靴の響きが聞こえて来る、と警鐘を鳴らしているようです。国際金融は当時とは比較にならない複雑さと速さを持っていますし、過去の反省から生まれた各種国際機関が存在しているので、このまま「ブロック経済→軍事侵攻→世界大戦」という単純な進み方はしないとは思いますが、歴史には繰り返されるある種の必然性が潜んでいるのも確かですから、様相は違っても似たような結果を生む動きが出始めているのかも知れません。

■先の「世界恐慌」が起こったのは帝国主義時代の末期に当たっていましたから、世界の大半は植民地だったのです。第二次世界大戦が勃発した段階で、国家と呼べる政体は欧州を中心にたったの「66箇国」しか無かったのです。つまり、現在の国連加盟192カ国の3分の2は、「世界恐慌」に対処した経験を持っていないのです。勿論、大戦後に独立した比較的新しい国家にも立派な研究者や政治家がたくさんおりましょうし、他国の歴史に通じている識者も多いでしょう。しかし、実体験として「100年に一度の危機」を知らないという歴史的事実は、これから年明け早々にも何らかの影響を及ぼし始めるのではないでしょうか?

■世界でも珍しいとても長い歴史を持っている日本国は、世界恐慌も骨身に浸みるほど体験しておりますし、第二次世界大戦を太平洋に広げる役目を果たしてもいます。欧米の経済学者や歴史学者の研究も大いに参考にした世界恐慌に関する書籍も豊富に揃っているのですが、つい最近まで義務教育の歴史教育から現代史が抜き取られるという奇怪な現象が続いていたので、「世界恐慌って何?」などと恐ろしい事を口走る若者が大量に発生しているのは心配なことではあります。

■要するに、1920年代の世界大恐慌を経験しなかった「国家」が、今の世界には100以上も存在しているという事を踏まえて、今回の金融危機を乗り切ろうとする世界各国の動きを見なかればならないということです。


世界的金融危機のあおりで多くの工場が閉鎖に追い込まれた中国広東省東莞市の玩具工場で25日、出稼ぎ労働者が解雇に伴う補償金が少ないとして事務所のコンピューターなどを破壊した。地元紙は警察車両数台も破壊されたと報じた。……工場は香港系で玩具を米国や日本などに輸出。約7000人の労働者のうち500人以上の解雇を決め、一律770元(約1万円)を補償金として支払う方針を提示した。労働者側は金額が労働契約法の規定に基づかず不当に安いと主張。工場内での抗議の座り込みが治安要員に排除され、反発して事務所を襲撃した。工場側は騒動を受け、26日、補償金額を引き上げることに同意したという。東莞市では10月、大手玩具メーカーの工場が閉鎖され、失業した労働者数千人が未払い賃金の支払いを求めてデモを起こした。
11月26日 産経ニュース

■社会主義を標榜する国には失業も不況も恐慌も起きず、国民の福利厚生は至れり尽くせりで、常に世界平和のために努力し、環境問題にも真剣に取り組んでいる。そんな絵空事が広く信じられていた時代もありましたなあ。先の世界大恐慌の時代、チャイナはどんな状況だったかと言うと、1925年に孫文が死去して事態は一挙に流動化し始めて地方軍閥が林立し、孫文の直系を自認する蒋介石が1927年に上海でクーデターを起こして国共合作が破れて大混乱になります。ドイツとソ連と米国の支援を受けて蒋介石は北伐を開始し、満洲では張作霖が爆殺され、苦境に立たされた共産党は各地にソビエト区を建設して持久戦に入ります。世界大恐慌が起こった頃は、蒋介石の国民党軍と毛沢東が実験を握る前の共産党とが血みどろの戦いを展開していたのでした。

■マルクスが想定した近代工業国家の労働者が団結して資本家を倒して誕生するはずの社会主義政権が、貧困と戦乱に苦しむ巨大な農業国家に出現するという椿事が起きる20年前に当たる年に、世界恐慌が起こったのでした。ですから、チャイナの政府も国民も世界恐慌を体験していないも同然で、更に中華人民共和国政府が成立した後、社会主義洗脳教育が進められたので、もしも再び世界恐慌が起こっても、社会主義国である限りは大丈夫だ!という何の根拠もない安心感?が定着してしまったとか……。社会主義国家で、これから本物の失業問題が深刻化して労働争議も多発して行きそうなのですから、何とも皮肉な話であります。

■このお話の続きは、数日間の雑用が済んでからになります。

いつまで踊るか麻生内閣 其の壱拾九

2008-12-14 11:24:50 | 政治
■今年を象徴する漢字は「変」。でも、政治だけは変わらないまま年を越しそうです。自民党総裁が「変」わったのは事実ですが、訓読みせずに音読して変な「あなたとは違う」ホイホイ総理から、漫画好きで漢字が苦手のコロコロ総理に交代しただけで、自民党はますます変な政党になったようです。自民党の政治的役割は歴史的に終わっているという根源的な解釈が出て来た昨今であります。

■世襲三代目議員の小泉さんは、自分が鞄持ちとして仕えた福田赳夫首相の怨念を受け継いで不倶戴天の敵だった田中派の残存勢力を根絶やしにして、古めかしい忠義を守って筋を通しましたが、それも自民党が果たすべき役割が無くなっていたからこそ、党内に残っていた恨みを晴らすエネルギーが破裂させる余裕も有ったのではないか?今にして思えば、ソ連崩壊・チャイナの転換した後、ずっと自民党は暇なのではないでしょうか?

■次の安倍晋三さんも母方の祖父岸信介から数えれば三代目ですが、首相になる直前に病に倒れた父親の遺志を継ぐという身内の鬱憤晴らしみたいな首相でした。安倍さんが掲げた「美しい国」というヴィジョンは、ひどく叙情的かつ抽象的で、とても政治家が言うべき事ではありませんでした。それでも総裁が務まったのは、自民党に新しい政治を行う必要がなかったからだったかも知れません。その安倍さんが北海道での開催を決めた環境サミットを主催したのは次の福田ホイホイ首相でした。でも、案の定、50億円も掛けて何も決められない単なる儀礼的祭りに終わりましたから、まだ半年も経っていないのに誰も覚えていないのも当然なのでしょうなあ。


国連気候変動枠組み条約第14回締約国会議(COP14)の閣僚級会合に出席するため、当地に到着した斉藤鉄夫環境相は10日夜(日本時間11日未明)、記者団に対し、「北海道洞爺湖サミット(主要国首脳会議)で合意された『2050年までに温室効果ガス半減』という長期目標を全世界で共有するよう、サミット議長国としてしっかり訴えたい」と意欲を示した。
12月11日 時事通信

■福田ホイホイ首相が「あなたとは違う」の捨て台詞を残して辞任したのは、選挙向けの麻生コロコロ首相に禅譲して解散総選挙に雪崩れ込み、政策論争を避けて「秋葉原」人気を足がかりに小泉ブームの再現を狙ったのでしょうが、見事に空振り。選挙用看板として登場しただけの首相でも、国際的信義は守らねばなりませんから、誰も覚えていない「洞爺湖サミット」の遺産をしっかり継承しなければなりません。麻生内閣が立ち往生しているのは世界規模の金融危機が実体経済を縮小させ始めたからですが、それと同時に行き場を失った強欲資金が原油と食糧と工業原材料の価格を高騰させたので、世界中の経済活動が一挙に停滞!世界的な自動車企業も家電メーカーも製造販売を絞るというのですから、実に皮肉な事に洞爺湖サミットで決まった「2050年までに温室効果ガス半減」という目標が割と簡単に実現してしまう可能性が出て来たようです。

■前年・前期よりも少しでも拡大成長し続けねばならない資本主義経済が、エネルギー消費を抑制しながら生産活動を増やして行くには、新しい技術を開発して市場に投入すれば良いという話になっていますが、これから道路と鉄道を整備して物流と移動手段を増強しなければならない多くの国がありますから、化石燃料の使用量は増え続けると考えるのが自然でしょう。でも、サミット議長を務めた福田ホイホイ首相から政権を継承した麻生コロコロ首相は、自分が求めたわけでもないのに「サミット議長国」の首脳になってしまいましたから、温暖化ガスの削減を実行しなければなりません。

■世界一の省エネ技術を誇る日本が、本当に排出量を半減させるのなら、経済活動を半減させねばならないはずです。そんな事を国家目標にするわけには行かないのですが、世界的な恐慌に遭遇した麻生さんは運がよいのかも?とは言っても、「経済活動の縮小は地球環境のためには目出度いことだ」などと口を滑らしたら政権が吹き飛ぶのは間違いありません。麻生コロコロ首相は景気対策に責任がある!という理由で総選挙を先延ばしにしているのですから、もしも、有効な政策が打ち出せたら景気が上向いて生産活動も息を吹き返しますから、地球温暖化を更に進める結果になります。米国のオバマ新大統領は環境対策を公共事業や生産活動に直結させる政策を提出していますが、日本の政府は何をどうするのか、さっぱり分かりませんなあ。