旅限無(りょげむ)

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言った言わない菅総理 其の壱

2011-05-25 16:07:40 | 政治
■何事も正直であることは人として賞賛されるべきなのですが、事が深刻で正直になるのが遅すぎた場合は逆に罪深いことになるようであります。しかも見え透いたウソを混入させて誤魔化そうとすると「醜態」と悪口を言われることになります。

枝野幸男官房長官は25日午前の記者会見で、東京電力福島第1原発1号機への海水注入が菅直人首相の言動を受けて中断したとされる問題で、東電が海水注入の準備を政府側に事前に報告していたことを認めた。……3月12日午後6時から首相官邸で開かれた会議について「東電から『海水注入の準備をしているが時間がかかる』という報告を受けた」と指摘。さらに「それに先立って、経済産業省原子力安全・保安院にそのような趣旨の報告があったことは報告を受けている」とも述べた。…… 

■今でも菅アルイミ内閣の原発事故対応の初動段階での動きに関してましては多くが闇の中に隠されていますが、政府と東電との間で責任の擦り付け合いに決着がつかない内は誰にも真相は分からないのでしょうなあ。炉心溶融を認めるのに2箇月間もの時を要したのも、責任問題を棚上げして東京電力の存続が決めるのに、放射能汚染問題も被災者救済も横に置いて菅アルイミ首相の延命と政府内の調整に手間取ったからに違いない!全電源喪失に至った実態が判明したのも東電がメルトダウンを認めたのと同時なのですから、菅アルイミ首相と東電が腹の中では罵り合いながらも、結局は手に手を取って一緒に延命しましょうね、という話がまとまったのでしょう。しかし、補償問題を引き起こす大規模な放射能汚染を恐れてベント作業が遅れ、せっかく減価償却が終わった旧式のポンコツ原子炉で荒稼ぎできると皮算用していたのに「廃炉」に直結する海水の注入に躊躇している間に水素爆発を起こしてしまった舞台裏は絶対にうやむやにしてはなりませんぞ。


首相はこれまで、東電の海水注入について「報告が上がっていないものを『やめろ』『やめるな』と言うはずがない」と国会で答弁しており、矛盾が明らかになったといえる。枝野氏は、首相の言動について「まったく矛盾していない。首相は『実際に水を入れ始めた』という報告をまったく聞いていないということだ」と反論した。
2011年5月25日 産経ニュース 

■「海水注入したらどうなるの?」「爆発するかもね」と原子力に凄く詳しい総理大臣と一体何に詳しいのかさっぱり分からない原子力委員会の委員長とが真意が分からない問答をしていたとか、首相がまた激怒して怒鳴り散らしているとの忖度情報が流出して原子炉が破裂するよりアルイミ首相に怒られて会社が潰されるのが怖いとて気を利かせて東電は注入を停止させたとか、いろいろと状況証拠から事実関係が垣間見えて来たようですが、弁護士上がりの枝野官房長官の見事な弁護が煙幕となって、またしても菅アルイミ首相は逃げ遂せると安心して用も無いのにフランスはパリに飛んで行ったそうな……。世界中のエネルギー戦略が大きく揺らぎ始めるほどの衝撃を与えた大事故の後始末も出来ないのに、これが同じ政党の政策なのか?!と世界中がきっと唖然とするようなエネルギー政策の大転換を白々しく国際会議の舞台でぶち上げるとかしないとか……。原発依存度を50%にするぞ!と大見得を切った前の首相は世界有数のウラン鉱石輸出国のカザフスタンを訪問していたのは先週の事でした。

■海水注入を「止めろ」と言ったのか言わなかったのか、野党第一党の党首と総理大臣が、そんな悲しい水掛け論を1時間以上も続けていたそうですが、枝野官房長官の「矛盾しない」という強弁弁護でも菅アルイミ内閣の危機管理能力の低さは隠蔽できそうもないようです。福島第1原発1号機への海水注入に関する経緯を確認しておきましょう。


「いよいよ検証の時期に入った。ここは覚悟を決めなければならない」細野豪志首相補佐官は22日のフジテレビ番組で、海水注入中断問題に関連してこう述べた。省庁幹部も「いかに官邸が情報を止め隠してきたか。全部国民に克明に明らかにすべきだ」と事故調に期待感を示す。21日の政府・東電統合対策室の記者会見などによると、東電が3月12日午後7時4分に1号機に海水注入を始めたという情報は、官邸には届かなかった。だが複数の政府高官が証言する。「首相が『聞いていない』と激怒した」。首相は海水注入が再臨界を引き起こす可能性があると知人に言われたようで、海水注入を主張する官僚を怒鳴りつけたという。首相の問題行動は、部下である官僚や政府組織を信用せず、安易に外部に「セカンドオピニオン」を求めることだ。 

■橋洋一氏が何処かのテレビ番組で言っていましたが、官僚は常に「新しい情報」を上げるように訓練されているので、首相が聞く話は初耳であるのは当然なのだそうですなあ。いつも「俺は聞いてないぞ!」と怒鳴り散らしている菅アルイミ首相は官僚の仕事をご存じないまま総理大臣になってしまったのかも知れませんなあ。アルイミ首相が聞きたいのはゴマすり御追従とウソでもいいから褒め言葉だけなのでしょう。これまでの敬意から誰も褒めてはくれませんから、それも人情としては理解出来るのですが……。


「首相が再臨界について心配していたのは事実だ」細野氏は22日の番組でこう認めた。細野氏らは首相が直接指示して、海水注水を中断させたとの見方は否定するが、首相の言動が東電側に「首相の意向」として伝わった可能性がある。「首相が誰かから『海水にホウ酸を入れてもしようがない。むしろ有害だ』と聞いた。原子力安全・保安院も東電も『ホウ酸が必要』と訴えたが…」と官邸筋は語る。結果的に3月12日午後7時4分の海水注入時や、同8時20分の注入再開の際には、中性子を吸収し再臨界防止に有効な「ホウ酸」は投入されなかった。首相が外部の声に頼り判断を遅らせたとの疑惑は絶えない。…… 

■会議や本部を20以上も立ち上げて「情報」を混乱させて指揮系統を混乱させ、学者をぞろぞろと参与に引き立てて官邸内に百家争鳴状態を作り出し「判断」を自ら遅らせる工夫を一所懸命にやっていた菅アルイミ首相の本心は、絶対に責任は負わない!というリーダーとしてはあるまじき姑息な自己保身だったことは衆知の事実となっております。


……東電の清水正孝社長は5月2日の参院予算委員会で、3月12日の海水注入指示の時間を「真水停止(午後2時53分)の前」と証言。この日は官邸に東電幹部もいた。首相が本当に海水注入を知らなかったとしたら、初動時に、首相がほとんど状況把握できていなかったことになる。首相は、3月15日に自衛隊による空中放水の検討を指示する際の打ち合わせでも外部意見にこだわった。首相「ところでホウ酸は粉末で入れるのか液化して投入するのか」
事務方「…」首相「答えられないのか。俺の知っている東工大(首相の母校)の教授と議論してから来い」……
2011年5月23日 産経ニュース 

■「政治主導」を掲げて自分で作った奇怪な官邸システムが見事に機能不全を起こして情報は錯綜し、首相は首相で苛立ちを隠そうともせずに怒鳴り散らして八つ当たり、最後は誰も情報を持って来なくなる。東電本社に乗り込んだり、フクシマ第一原発に自衛隊ヘリで飛んで行ったりしたのも官邸が頭脳として機能しなくなっていたからでしょう。全力と万全を常套句にしている菅アルイミ首相の顔を見るたびに「無力の全力」「無策の万全」と一人呟いてしまいます。嗚呼

急流を渡っている時に

2011-05-23 07:07:35 | 日記・雑学
■各種義捐金がまともに届かない被災地に、菅アルイミ首相はチャイナと韓国の首脳を連れて乗り込み、身も世も無いほど嬉しそうな笑顔で記者会見をしたそうですが、今の日本でにやにや笑っていられるのは菅アルイミ首相だけだという現実を、どう受け止めてよいのかまったく分からず当惑するばかりであります。
誰が言ったか知りませんが、「急流を渡っている時に馬を換えるな」との諺が取り沙汰され、民主党内からも菅アルイミ首相では急流を渡れない!という声が漏れ始めているそうで、野党側と結託して内閣不信任案を出すの出さないのと寂しい政局話が浮いたり沈んだりしている昨今であります。

■フクシマ第一原発の事故から2箇月、「実はあの時……」という話がポロポロと転がり出しております。要するに東京電力という異様な大企業を存続させることに決するまでは、事故の真相を隠し通すと誰かさんが決めていたようで、密かにネットニュースや各種週刊誌の記事を掻き集めて事故の全貌を再構成しようとしても、まるでピースが無くなったジグソー・パズルみたいにいつまで経っても完成しそうにありませんでしたが、不十分な情報ながら原発行政の裏側で起こっていることが、何となく透けて見えるようにはなって参りました。

■諸般の事情によりまして、しばらく新しいブログ記事をアップできませんが、読者の皆さんにはもう少しお待ち願いたく存じます。日本は本当に「急流を渡っている」のか?それとも急流に押し流されているのか?それを見極めるには、もう少し時間がかかりそうでありますが、夏の猛暑が始まれば何とか誤魔化して隠されている本当の問題があちこちから噴出して来るものと思われます。「安心安全」ではない今年の夏を、今の菅アルイミ首相という馬で乗り切れるのかどうか?心配しながらもう少し推移を見守ろうと思います。

市民運動を続ける菅総理? 其の弐

2011-05-07 16:56:15 | 政治
■沖縄の基地問題は極東・東アジアの軍事バランスを無視する現行の憲法を前提にする限り、解決策は見付からないでしょうし、日本が軍事的な能力を含めて領海とシーレーンを自力で守り、米国と対等の立場で世界戦略を語り合えるようになるまでは日米双方が納得する妙案など得られないのでしょうなあ。沖縄問題にせよ原発問題にせよ、戦後の日本政治が先送りしてきた巨大な宿題ですから、ぽっと出の素人総理大臣が思い付きで簡単に解決できるようなものではありません。前の総理大臣は成り行きで米軍に「出て行って下さいね」と言ってしまう自らの稚拙さが原因で不名誉な辞任に追い込まれてしまい、その後始末も出来ないまま、今度は米国のエネルギー政策にケチを付けるような今回の唐突な脱原発めいた発表はますます日米関係をぎくしゃくさせてしまうことでしょう。ワシントンが本気で「菅降ろし」を画策し始めたら、寄り合い所帯の民主党政権など木っ端微塵になってしまうかも?

……海江田万里経済産業相が5日に浜岡原発を視察した際、「中部電の津波対策は不十分」と指摘した川勝平太知事は6日夜、「福島第一原発の事故を受けて安全確保に対する地元の要望を最優先した菅直人首相と海江田経産相の英断に敬意を表する」と談話で発表。知事は「国は地元経済への影響にも適切に対応しなければならない。県は省電力、省エネルギー対策にこれまで以上に取り組み、安全な代替エネルギーの確保を加速するように全力を挙げて取り組む」と訴えた。…… 

■節電と省エネで巨大な原発の発電量を補うのは最初から無理な話で、「代替エネルギーの確保」には数十年単位の期間が必要でしょう。日本のエネルギー政策を全面的に改編するのは民主党が引っ込めてしまった年金制度改革案を実行するのと同じくらいの時間と労力が必要だと考えておくべきでしょうが、どうも日本の国民は長過ぎたデフレ不況の影響で、安くて手軽で量の多い商品に慣れてしまって、何処かに安くて安全なエネルギー源が転がっていると勘違いしているのかも知れません。不思議なほど安価な生肉ユッケが危険であることと同様に、安いエネルギーは危険が付き物だと再確認すべきでありましょうなあ。高くても安全を優先するという冷静な議論が盛んになっていれば、日本の原子力発電所は今よりずっと安全な物になっていた可能性がありますし、廃炉費用や高レベル汚染物質の最終処分に必要なコストを押し隠してまで「安い!安い!」と宣伝して来た原発ムラの住人達も偽りの旗を降ろし易かったことでしょう。行き過ぎた原発依存の国策にも多少のブレーキが掛かって自然エネルギーの開発にも人材や資金が回っていたかも知れませんが、今となっては大急ぎで原発を少しでも安全に運転する仕組みを作り直し、電力行政を根こそぎ変えて新しい道を模索し始めるしか他に方法はなさそうであります。


一方、浜岡原発地元の御前崎市の石原茂雄市長は「昨日(5日)、海江田大臣が来て地元の意見を聞いてから3号機の稼働を判断するといっていた翌日にこの発表。愛情がない。40年余り国のエネルギー政策に協力してきたのは何のためだったか。国策というなら国内の全原発を止めるべきだ」と反発した。同市原子力対策室の男性担当者は「首相の会見を聞いて市役所に飛んできた。寝耳に水だ。事前に(地元には)連絡はまったくなかった」と当惑した様子。地元関係者の中には、「(菅首相には)展望がないのではないか。原発関係者が納得するわけがない」との声も出ている。
2011年5月7日 産経ニュース 

■これが菅アルイミ政権が言う「政治主導」の正体なのでありましょう。「地域主権」などという意味不明の公約を掲げていたのも、本当は地方に財源も権限も与える気などまったく無かったからなのかも知れませんし、政権を奪う(革命の)ためならどんなウソを並べても許されるという恐ろしい独裁志向が脈々と民主党内には生き続けていたのかも知れません。聞くところによりますと、今回の震災や原発事故が無くても今年中に13基の原子炉が定期点検のために一時停止することになっているのだそうで、日本中にある54基のうち震災と事故で止まったままの11基と震災前から定期検査で止まっている21基とを合わせると実に45基の原子炉が止まってしまうことになるとか……。問題の浜岡原発は1基が定期検査中で稼動しているのは2基なので、菅アルイミ首相の英断?により今年中に47基の原発が止まる可能性があるそうです。そうなりますと全電力の3割を占めている原発分が2割に落ちて、東京電力管内に送っている電力もままならなくなりますと東京・関東の生活はどうなるのでしょうなあ?


菅首相が運転停止を要請した中部電力浜岡原発は、近い将来の発生が予想される東海地震の想定震源域のほぼ中央に位置する特異な立地環境にあり、これまでも安全性が議論されてきた。首相は「想定外」の巨大地震と津波が襲った東日本大震災の教訓を重視した形だが唐突な印象は否めず、熟慮の上での判断だったか疑問も残る。……東海地震は南海トラフ沿いで繰り返し起きる海溝型巨大地震の一つ。国は30年以内の発生確率を87%と推定し、最大震度7の揺れを想定。極めて甚大な被害が予想されるため、日本で唯一、直前予知を目指す態勢を敷いている。日本の沿岸部には多くの原発があるが、国が巨大地震を高い確率で具体的に想定している点で、浜岡原発は特異な存在だ。…… 

■今回の東日本大震災が「想定外」とされたのは、その「東海地震」にばかり予算も人材も集中させ過ぎたからだという指摘もありましたなあ。観測装置も東海地震の発生地点に集中しているとも言われておりますが、大地震の予知研究と原発行政との間にも怪しいものがあるようです。地震学者は予算を獲得するために「予知」の価値を高く売り込むでしょうし、電力会社と政府は専門家の見識を尊重する振りをして責任を学者に負わせようとしていた節もあります。でも、東日本大震災で分かったように、いざとなったら全ては「想定外の天災」として処理され、誰も責任など取らないのであります。今、福島県には東電と政府を信じたことを悔いても悔やみ切れない声なき声が溢れているのですが……。


東海地震の警戒宣言が出た場合、同原発は停止されるが、予知が成功する保証はない。中部電力が平成19年に作成した津波評価では、安政東海地震(1854年)の6メートルを過去最大とした上で、数値計算により8メートルを想定。海岸沿いにある標高10~15メートルの砂丘を越えないため「安全」とした。しかし、大震災では国や電力業界の想定を大幅に超える巨大地震と津波が発生し、従来の評価法が未熟だったことを露呈。国の中央防災会議は南海トラフ沿いの大地震が3つ連動する可能性を視野に、巨大地震の想定を再検討する方針を決めており、浜岡原発の安全評価は揺らいでいる。ただ、こうした想定の見直しとリスクの再評価は、国が一定の判断基準を示した上で、すべての原発を対象に行うべきものだ。なぜ浜岡原発だけ停止すべきだと即断できるのか。首相の言葉からはその具体的な根拠は見えてこない。…… 

■「なぜ浜岡原発だけ……」なのか?それは震災後、ずっと菅アルイミ政権の痛いところを責め続けて売り上げをぐっと伸ばした週刊誌が書き立てていたからでしょう。特に『週刊ポスト』は政府がうっかり「真夏の大停電が起きるぞ!」と発表すると、東電の内部極秘資料を入手して「揚水発電と停止中の火力発電所の発電量」が意図的に外されていることを指摘。その取材過程でエネルギー庁と東電は掌を返したように「7月末の電力は大丈夫」と発表。さらに「菅官邸が隠した被曝データ6500枚」という特集記事を組めば、発売日直後に公開を始めているのですからなあ。週刊ポストと原発論争を繰り広げた『週刊現代』が4月30日号で「静岡・浜岡原発まるでフクシマ」という記事を掲載していたことを覚えている人々は、菅アルイミ首相が誰にも相談しないで「浜岡原発停止」を要請してしまった理由をすぐに推測できたのではないでしょうか?


収束の見通しが立たない福島第1原発の事故を教訓に、原発の地震・津波対策は抜本的な見直しが急務だ。しかし、稼働中の原発停止は電力需給バランスに支障が生じる懸念があるだけでなく、エネルギー政策の根幹にも関わる極めて重大な意思決定だ。首相は経済への影響など包括的な検討をどこまで行った上での判断だったのか、国民にきちんと説明すべきだろう。
2011年5月7日(土) 産経新聞 

■「国民にきちんと説明」することが最も苦手な菅アルイミ首相ですが、そのうち取り返しがつかない大混乱にでもなれば、参与の○○氏が言ったんだとか、海江田大臣が……などと言い出すかも知れませんなあ。鳩山サセテイタダク前総理が日本の防衛戦略をまったく持ち合わせていなかったのと同様に、菅アルイミ首相が国家の根幹に関わる「エネルギー政策」など持っている筈もなく、きっとテレビで原発反対を叫ぶデモ行進を観て懐かしい古巣の市民運動を思い出して即決したものと推察されます。でも、「原発は要らない!」と叫んでいる人達は決して「電気など要らない」とは言わないでしょうし、「子ども達を放射能から守れ!」と訴える人達も子ども達に真っ暗闇の夜を過ごさせたいと思っているわけでもないでしょう。安全なエネルギーを求めている人たちに応えるのなら、総理大臣として原発停止を要請する前に新しいエネルギー政策を国民に示すべきでしょうなあ。

市民運動を続ける菅総理? 其の壱

2011-05-07 16:55:37 | 政治
■東北の秋田や青森では桜が満開だと聞いても、何となく気の重い今年の黄金週間であります。大型連休が始まる前の4月26日は、四半世(25年)前の同日に旧ソ連のチェルノブイリ原発で、当時は文字通り「未曾有」「前代未聞」「空前絶後」の原子炉暴走・炉心爆発というトンデモない大事故が発生して、それまでは広島・長崎で採取された被曝データに基づいて何の役にも立たない安全基準が作られていたのでしたが、この大事故によって否が応でも新しい放射性物質に関する恐ろしいデータが掻き集められ、放射性ヨウ素と甲状腺癌との因果関係が初めて確認されるなど、決して目出度くはない知識が得られたのでした。

■放射性物質が乳幼児や妊産婦に与える影響に関する新たなデータが得られて各関係機関がせっせと安全基準を作ったものの、まだまだ未解明の部分も多いので解釈次第では安全にも危険にもなるグレー・ゾーンが残っておりました。専門家の中にも「最後は個人の自己責任だ!」と匙を投げてしまう声が出ているくらいですから、今の菅アルイミ政権に的確な判断を期待するのは土台無理な話なのでありましょうなあ。既に大地震・津波による天災とその後の東京電力と政府機関と総理大臣による「人災」とは違う!という悲しい事実が徐々に明らかになりつつあるようです。チェルノブイリで終わるはずだった原爆・原発の悲劇の歴史に「FUKUSHIMA」という地名が刻み込まれてしまったのは残念至極であります。

■そして連休が始まって5月3日の「憲法記念日」に、パキスタンでビン・ラディン殺害!の速報が流れて来たのであります。緊急事態に対応できない日本国憲法の欠陥が露呈して震災・原発事故に対応できずに右往左往するばかりの菅アルイミ首相は護憲派勢力の出身のはずですから、前政権が着手した憲法改正手続きの見直し作業など最初から引き継ぐつもりは毛頭なかったのでしょうが、平和憲法が前提としている国際信義など何処を探しても見付からない現状をどう考えているのやら……。そもそも民主党は政権交代のドサクサに紛れてインド洋での給油作業を打ち切って対テロ戦争から下りていますから、米国政府に対しても取って付けた様な評価と賛辞の言葉しか送れず、沖縄の基地移設問題を解決できぬまま震災後のトモダチ作戦の恩義を受ける外交的齟齬に、今度は対テロ戦争に関しても新たな矛盾を上乗せした格好になってしまいました。日本外交のお粗末さを裏打ちするようなウィキリークス発の恥ずかしい極秘情報が公表されまして、ますます日本の外交は面子を失い続けることになりそうです。

■新聞紙面には憲法改正に関する記事が散見されたものの、国民の目は原発から約5キロの福島県大熊町で行なわれた一時帰宅の予行演習に集まっておりました。白い防護服とマスク姿の自治体職員が緊張した面持ちでバスに乗り込む様子は、原発事故の影響の深刻さを改めて教えてくれました。どうして東京電力の職員が手伝いに参加しないのかいなあ?と思っていたら翌日の5月4日に清水社長御一行がひょっこり避難所を訪れて、数々の罵声を浴びせられてお決まりのエライ人が並んで土下座する虚しい儀式を強いられた由。5月4日は歴史的には何の意味もない「みどりの日」で、何でも自然環境を国民が身近に感じて考える「みどりの日の趣旨を広く普及し、緑豊かな自然と国土の形成及び国民生活の向上に資する」月間(4月15日~ 5月14日)の中核的意味を持っているそうなのですが、その日に福島第一原発が緑の農村地帯を汚染して住民を路頭に迷わせてしまった災厄を誰も収束させられない悲しい現実が再確認されてしまったようなものであります。

■5月5日の端午の節句(子どもの日)が過ぎて、連休気分を引きずって職場や学校に行く人も多かった6日の金曜日に、菅アルイミ首相から何とも唐突な「重大な発表」が飛び出しました。「後手、後手」と全国に非難の声が轟々と響いているのなら、今度は「先手」を打てば政権にしがみ付いていられると菅アルイミ首相は考えたのでありましょうが、これは「羹に懲りて膾を吹く」ようなもので、毎度の事ながら代替案も無ければ事後の対応策も皆無のまま、「浜岡原発を止める!」と言い出したから中部電力が電力を供給している各企業が蒼褪めるのも尤もな話であります。


6日夕、突然発表された中部電力浜岡原発の運転停止要請で、これまで環境問題やエネルギー安全保障の面から「化石燃料だけに依存できない」としてきた日本の原子力政策は真っ向から否定され、関係者に衝撃が走った。菅直人首相が自ら原発を捨て去ったことに、監督官庁の経済産業省幹部からも「海外に誤ったメッセージを送りかねない」との声が上がった。
「今まで実施してきた政策と矛盾する。(首相は運転停止の)根拠と考え方を示すべきだ」
日本原子力学会の沢田隆副会長はこう強調し、「浜岡原発は保安院に求められた対策へ手を打っている。このタイミングでの要請は不思議だ」と指摘する。エネルギー総合工学研究所・原子力工学センターの内藤正則部長も「すべての原発を止めるなら筋が通るが、なぜ浜岡原発だけなのか。対策を重ねることで、運転再開への理解が得られる」と批判する。…… 

■福島第一原発で起こった大事故の処理が終わるどころか、ますます出口が見えなくなって行くばかりで、被災住民は仕事と家と故郷を失うことを恐れ、関東一帯では真夏の電力不足の不安が募るばかりという時に、東京電力による補償問題さえ決着しないまま唐突に中部電力を相手に浜岡原発を止めろ!と言い出すのは、いささか八つ当たり気味の印象は拭えませんし、統治能力が無いのに新たな政治課題を背負い込んで、一体、菅アルイミ内閣は何をどうしようと言うのでしょうなあ?地道な努力をせずに次々に参考書や問題集を買い集める愚かな受験生のように見えるのですが、菅アルイミ首相としては孤立無援の官邸生活に耐えかねて、ととう自分の出自の市民運動を踏み台にして闇雲に支持率を上げようとでも思ったのでしょう。日本の総理大臣が反原発運動の先頭に立つことになろうとは、アノ政権交代劇の最中でさえ想像した人は居なかったのではないでしょうか?

■社会生活の基盤である電気エネルギーを安定的に確保する義務を負う総理大臣が、後先考えずに反原発運動のお先棒を担いで最高権力を振り回し始めたら、国民は夏も冬も節電・耐久生活を強いられることになるわけですが、それを承知で原発停止のドミノ現象が日本中を駆け巡ることを歓迎する人が大勢いるとは思えないのですが……。


東海地震が懸念される浜岡原発。今回、経産省原子力安全・保安院が「より一層の高い信頼性が求められる」と言及したように、「世界一危険な原発」などと指摘されてきた。だが、国などはそのたびに、「お墨付き」を与え続けた。浜岡原発をめぐる司法の場においても、平成19年10月の静岡地裁判決は「(国の)安全基準を満たせば、重要設備が同時故障することはおよそ考えられない」として原発反対派の住民側の請求を棄却した。中電は、東海地震の規模をマグニチュード(M)8クラスと想定し、耐震性や津波対策を考慮してきたが、技術評論家の桜井淳(きよし)氏は「停止判断は遅かったぐらいだ。想定を超える地震が実際に起き、条件は正当性を失った」とする。一方で、東京電力福島第1原発の事故を受けても、米国のオバマ大統領が推進政策の堅持を表明するなど、原子力推進という海外の流れは変わっていない。そのような中で発せられた「原発放棄」に、ある経産省幹部は「これまでの日本の原子力行政への信頼が失われ、誤ったメッセージを世界に送りかねない」と危惧を強めた。
2011年5月7日 産経ニュース 

■先の鳩山サセテイタダク首相時代に日米関係をぶっ壊しかけた事態に酷似した恣意的な政策転換の臭いがします。政権交代を錦の御旗にすれば外交やエネルギー政策の継続性を軽々と無視して国家の安全保障を台無しにしてしまっても構わないなどという暴挙は許されないのに、民主党政権はどこか幼児の暴力にも似た危うさが付きまとい続けているようであります。沖縄の米軍基地も危険な原発も、それなりに歴史的な経緯の中で生まれて存続して来たものですから、もしも大きな政策変換を試みるのならば国益とリスクを勘案して慎重に事を運ばねばなりますまい。