旅限無(りょげむ)

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飛ぶか?テポドン 其の六

2009-03-31 18:08:34 | 外交・情勢(アジア)
……韓国統一研究院の朴英鎬研究委員は「長距離弾道ミサイル発射は、国内の結束強化を図る目的がある。同時に、対外的には米国との交渉カードとして利用する。さらに、北がミサイルを輸出して外貨を稼いでいる中東諸国に対しては、ミサイル技術が向上したことを示す狙いがある」と述べ、「実際に打ち上げるだろう」と予想する。
2009年3月26日 産経新聞

■前回のテポドン発射と同じ「政治日程」に沿って発射準備は進められていると言われていますから、一種の祝砲か祝いの花火みたいな心算で打ち上げる心算なのかも知れません。1940年代で時間が停止してしまっている珍しい国ですから、平和な祝い事が苦手なのでしょうなあ。


……北朝鮮外務省報道官は26日、同国の長距離弾道ミサイル発射後に国連安保理で議長声明など比較的弱い措置が検討された場合でも「敵対行為」とみなし、核問題をめぐる6カ国協議再開を拒絶する姿勢を示した。……「国連安保理が『議長声明』であれ、一言でも非難する文書のようなものを打ち出すのはもちろん、上程し、取り扱うこと自体が乱暴な敵対行為になる」……「このような行為によって、6カ国協議共同声明が否定されるその瞬間から、6カ国協議はなくなる」と警告。さらに「朝鮮半島の非核化に向けたすべてのプロセスが元通りの状態に戻る」とし、安保理での対応次第では核施設無能力化プロセスを停止する姿勢もにじませた。
2009年3月26日 時事通信

■「人工衛星」の打ち上げを祝う外交辞令以外は受け付けない構えのようですが、一体、どこの国が北朝鮮に祝いのメッセージを送るのやら、これは見物ではあります。まあ候補としてはイランかシリア、アフリカの独裁国家あたりから注文通りの祝電が届くかも知れません。東アジアで孤立しても中東やアフリカには仲間が居るんだぞ!と威張って見せる必要はあるでしょうから、今頃は在外公館の職員は大汗をかいて交渉中なのかも知れませんなあ。ミサイル開発に多大な貢献をしたと言われている日本の某組織からも祝辞が送られることでしょう。

■相手が何かと「戦争を意味する!」と脅迫めいた言動を繰り返しているので、韓国としては露骨に軍を動かすわけにも行かず、日米と共同で海軍を出すのも「宣戦布告と見なす!」などと言われそうですから遠慮しているようです。せめて国連安保理から形式的にでも「遺憾の意」でも出して貰えれば、韓国としても少しだけ尻馬に乗って自主性を見せたいところですが、非難めいた事を言ったら即座に6カ国協議を潰して大っぴらに核開発を進めるぞ!とまで言っているのですから、北朝鮮としても乾坤一擲の大博打を打とうとしているのでありましょう。


……北朝鮮の祖国平和統一委員会報道官は30日、韓国が大量破壊兵器拡散防止構想(PSI)への参加を検討していることについて、「破局に至った南北関係を完全に破綻させる犯罪行為だ」と非難した。さらに、「李明博(韓国大統領)集団が参加するなら、それはわれわれへの宣戦布告であり、即刻断固たる対応措置を講じることになる」と警告した。朝鮮通信(東京)が伝えた。
2009年3月31日 時事通信

■「朝鮮半島の非核化」を目指していると言っていたのに、「大量破壊兵器」の拡散を防止することが「宣戦布告」と同義だと言い出すとは、いよいよ北朝鮮は核保有国として世界に認められる日が近いと考えているとしか思えませんなあ。そういう隣国に対して、日本の国会では馬鹿馬鹿しい作文の手直しなどをしているのだそうです。


……与野党が30日、発射の自制を求める衆参の国会決議の原案から、北朝鮮のミサイル発射を「国連安保理決議に明白に違反」とした文言を削除……。共産、社民、国民新の野党3党の要求によるものだ。自民、公明両党は削除を受け入れたが、自民党内からは不満の声も出ている。また決議案の名称も「北朝鮮による飛翔体発射に対して自制を求める決議」とし、「弾道ミサイル」ではなく「飛翔体」とあいまいな表現にとどめた。衆参両院は31日の本会議で、それぞれ全会一致で採択する。

■戦中の日本では退却を「転進」と言い、自爆攻撃を「特別攻撃」と言い変えたものですが、今度は大陸間弾道ミサイルを「飛翔体」ですか?拉致問題にせよ核やミサイルの問題にせよ、自国が情報収集能力に欠けている恥ずかしい現実を棚に上げたままで、調べる方法が無いからとて「相手が人工衛星と言っているから」などという噴飯物の理由で「何だか分からないけど飛んで来る物」と言い換えるのが日本の国会であります。

飛ぶか?テポドン 其の伍

2009-03-31 16:38:24 | 外交・情勢(アジア)

其の四の続き。

■6カ国協議を最も有効に利用しているのは北朝鮮で、どんなに形骸化しようとも協議が断続的に開かれる状態が続いていれば、少なくとも米国が一方的に先制攻撃を仕掛けて来る可能性はほとんど無くなり、議長国のチャイナは絶対に協議を崩壊させるわけには行きませんから、北朝鮮が苦し紛れに席を蹴って「脱退」の素振りでも見せれば米朝間の調整役も買って出てくれますからなあ。米国はイラク戦争の後遺症とリーマン・ショックの衝撃に耐えるので精一杯ですし、チャイナは出来るだけ早く、つまり現体制が崩壊する前に東アジアの盟主とならって最終的には米国と完全に対等な大国になるという規定路線を進み続けねば共産党による一党独裁体制を維持出来ないのであります。


……中国から帰国した魏本部長は「必ずしも制裁になるとは断定できない」と述べた。韓国は安保理で拒否権を持つ中国やロシアが制裁に慎重なことから姿勢を軟化させたとみられる。ミサイル発射問題への対応策をめぐり中国との間で意見の相違があることについて、魏本部長は「少しずつ共感する部分を広げている過程」と述べ、まだ意見が一致していないことも明らかにした。

■韓国は前政権の政治外交遺産(6カ国協議)を上手に利用してロシアともチャイナとも経済的な結びつきを強化しようとしているようですが、二代続いた政権の「太陽政策」が北朝鮮を本物の核保有国に育て上げてしまったのですから、現政権としては後始末を押し付けられた格好で何かと手詰まりなのでしょうなあ。サブプライムローンが破裂するまでは米国との軍事同盟を背景にして自国の経済力で圧倒してしまいそうな勢いでしたが……。


……「(ミサイルが発射されたら)多少冷却期があるかもしれないが、6カ国協議が再開して非核化を論じる機会があると期待している」と、北朝鮮がミサイルを発射しても6カ国協議はいずれ再開されるとの見通しを示した。韓国内では、北朝鮮が主張する人工衛星打ち上げロケットがミサイルであると証明するのは難しいとして、制裁より安保理議長声明で非難する方が現実的とする見方が出ている。

■人事問題で躓いたのは大統領の責任なのでしょうが、有効な経済対策が打てないのは現政権が無能だからではないでしょう。とは言っても議会制民主主義の国である以上は、国内世論の批判には真摯に耳を傾けねばなりません。たとえ政敵から「同胞の言う事を信じないのか?」と言われようと無視する訳には行きませんから、対話の場として6カ国協議は維持しなければならないでしょう。戦争準備しかやる事がない北朝鮮とは違って、貿易立国の韓国は誰よりも平和を求めているはずですから、休戦状態の「朝鮮戦争」が再び火を噴くような事になるのは困るでしょう。


一方、北朝鮮の外務省報道官は24日の談話で、「日米が、唯一わが国(北朝鮮)に対して宇宙の平和的利用の権利を否定し自主権を侵害しようとしている」とし、これは「(2005年9月19日の6カ国協議の)共同声明の『相互尊重と平等の精神』に全面的に反する」と強調。その上で「共同声明が破棄されれば、6カ国協議は存在する意義もなくなる」と不参加を示唆しており、強硬姿勢を崩していない。……

■「平和利用」だの「相互尊重・平等の精神」だのと、北朝鮮のお国がらには合わない言葉が飛び出して来ただけで、不安な気持ちになってしまいます。どうせ平和利用するのなら「宇宙」ではなくて国内の田地田畑や山林を正常に利用したら如何なものでしょう?人民を飢餓線上に放置して核とミサイルを開発し続けたのは毛沢東でした。それは核兵器による「平等」を手に入れるための非常手段だったと正当化されているようですが、今の北朝鮮にとって本当に「宇宙の平和利用」や核弾頭付きの大陸間弾道ミサイルが必要なのでしょうか?

飛ぶか?テポドン 其の四

2009-03-31 15:18:46 | 外交・情勢(アジア)
PAC3の迎撃範囲は半径約20キロと狭く東北には未配備だが、発射機などは車載式で移動展開できる。故障による本体の落下やブースターの直撃に備え、陸上自衛隊秋田、岩手両駐屯地に空自浜松基地(静岡県)の高射教導隊に配備したPAC3の発射機を移動。秋田県の空自加茂基地には指揮所運用隊を配置する。本来、PAC3は政経中枢の大都市圏への配備計画に基づき、導入が進められてきた。改良型が想定コースを外れ、首都圏に飛来する恐れもある。

■「人工衛星」の打ち上げに成功すれば、中東やアフリカの国々に向けての売り込み材料になりますし、万が一の事態になって日本の何処かに破片が落下すれば、牙を抜かれて平和ボケが進んでしまった日本国内に、見当外れの臆病風が吹き始めるかも?


入間(埼玉県)、習志野(千葉県)、武山(神奈川県)、霞ケ浦(茨城県)の空自4基地に配備したPAC3を、首相官邸をはじめ都心の防護に充てる。発射機の展開地は、防衛省庁舎のある陸自市ケ谷駐屯地と朝霞駐屯地(東京都など)、習志野基地。指揮所運用隊は入間基地に置く。イージス艦は「こんごう」と「ちょうかい」が日本海に展開する。日本海に2隻を配置すればSM3で全国を防護できるが、改良型の射程は米アラスカ州全域に届く8000キロ以上との分析もある。最大射程で発射すれば高度は1000キロ以上に達し、迎撃可能な高度が100キロ程度のSM3では対処できない。
3月26日 産経新聞

■今のところは「破片」が落下するかも?と心配している日本ですが、ずっと昔から「本物」が日本に狙いをつけて配備されている事実を熱心に伝える努力を払ったマスコミは見当たりません。北朝鮮には日本各地を狙ってノドンが配備されているのは有名でしょうが、その北と西にはチャイナの中距離核ミサイル群が「先には打たないよ」という但し書き付きとは言え、しっかり日本を狙って配備されていますし、ロシアとて御同様。従って、改良型テポドンの「破片」が落ちて来るかも?と大騒ぎしてみせるマスコミには、もっと別の国民に伝えるべき事実がたくさん有るはずなのです。

■クリントン政権の時代に、北朝鮮に対する先制攻撃が実施される直前まで事態が緊迫したことがありましたが、したたかな北朝鮮外交はその危機を凌いで逆にカネと原油を手に入れる話をまとめ上げてしまいました。将軍様は自分の度胸と外交手腕に自信を深めたのかも知れませんが、同じ手に乗って騙されるほど米国は愚かではないので、オバマ新政権は本気で新たな交渉を始めようとする気配すら見せておりません。ブッシュ前大統領は苦し紛れの置き土産として、「テロ支援国家指定」を解除して政権を去りましたが、オバマ政権がもっと大甘の対応をする可能性は随分と低そうです。


北朝鮮の核をめぐる6カ国協議の韓国首席代表、魏聖洛・外交通商省平和交渉本部長は25日、北朝鮮がミサイルを発射した場合、「一定の対応が不可避」としながらも、国連安全保障理事会による制裁については積極的に推進しない姿勢を示した。これまで日米韓が一致して安保理での制裁を示唆しながら北朝鮮に圧力をかけてきたが、ミサイル発射が近づいたことから、韓国政府は現実的な対応策を検討し始めたとみられる。……

■大筋では合意はするものの、6カ国協議は実際には米朝間の接触を維持するための保険にしか過ぎませんから、日本が変な期待を持って気を揉んでみても何も得られないのは当然でしょう。

ネットで募集 其の弐

2009-03-31 07:56:47 | 社会問題・事件
其の壱の続き

■携帯サイトで見つけたオイシイ仕事がトンデモない犯罪の下請けだった話の続きです。


……手紙の主は、昨年10月末に連絡が取れなくなっていた大学生の長男(25)で、韓国・仁川市の拘置施設から出されていた。そこには携帯電話のサイトを見たのをきっかけに、韓国で逮捕されるまでの経緯が説明してあった。……携帯電話のアルバイト紹介サイトで「海外旅行して稼げる仕事」という書き込みを見つけ、投稿者に連絡したのは昨年10月初め。都内の飲食店に呼び出されると、5~6人の男たちがいて食事をごちそうになった。その後も何度か食事に誘われ、家庭の事情で学費を稼がなければならないことなど、親身になって聞いてもらった。「これからは生活の面倒をみてやる」。リーダー格の男からそう言われたのは同月中旬。

■「海外で稼ぐ」のではなく「海外旅行して稼ぐ」というのですから、旅行会社などの宣伝に使う体験レポートを書くとか、よほど高い知名度を持っている人なら買い物やらグルメやらの宣伝番組に出演して稼ぐとか……。単純に「移動」するだけで成立する仕事などという物がこの世の中に存在するのなら、犯罪の臭いに気が付かねばならないでしょう。


マレーシアから韓国に「荷物」を運ぶアルバイトをすれば30万円を支払うと言われ、成田空港で引き合わされた20代前半の女性と2人で出国した。マレーシアでは携帯電話で指示を受け、白人の男からスーツケースを1人一つずつ受け取った。その日のうちに韓国に渡ったが、仁川空港の税関で、スーツケースの二重底に覚せい剤が隠されていることを指摘され、そのまま2人一緒に逮捕されたのだという。

■先の「メルボルン事件」でも、ヘロインが動き始めた場所はマレーシアで、運んだ物も二重底のスーツケースでしたなあ。あの時は団体ツアーに参加した客の一人がスーツケースを盗まれて……というストーリーだったのですが、今回の携帯サイトで募集していた「仕事」はずっと単純な形になっております。これもコスト削減だったのかも?


……その後も、手紙が届き、仁川空港で逮捕された日本人が数人いることも書かれていた。実際、東京・練馬の女性の家にも今年1月、韓国旅行に出たきり連絡が取れなくなっていた長男(24)から同様の手紙が届いた。

■北朝鮮の拉致犯罪に巻き込まれた可能性の高い特定失踪者とされる方々とはまったく違うはずですが、「韓国旅行に出かけたきり」という所が紛らわしい。行方不明になった場所が東南アジア諸国であっても同様に紛らわしい。日本国内で発生する外国人犯罪が摘発されると、道案内やら自動車の運転手役が雇われた日本人だった!という情けない話も多いようですから、海外での犯罪でも日本人が雇われているとしても不思議ではないのでしょう。正にグローバル化時代とIT技術が結合した多国籍犯罪が横行しているという話のようです。


……問題のサイトに書き込みをしていたのは、元東洋大生の渡辺恭被告(20)=覚せい剤取締法違反罪で起訴。事件発覚後、退学処分=だった。渡辺被告は、この書き込みを見て連絡してきた無職の男(25)を使い、マレーシアから覚せい剤を密輸したとして先月、大阪府警に逮捕され、今月には、同様に2人の運搬役にトルコから覚せい剤を密輸させたとして、警視庁に逮捕された。

■麻薬の運び人に仕立て上げられたのが20代の若者ばかりだとすると、30年前に公開された衝撃作『ミッドナイト・エクスプレス』を知らない世代が狙われていることになるかも知れません。この暗くて怖い映画は、トルコのイスタンブール空港で麻薬不法所持で逮捕された米国青年の実話!というので日本でもヒットしたのでした。そこで描かれる刑務所生活は実体験に基づいているだけにとてもリアルでしたなあ。主人公のビリー君は麻薬樹脂を地肌に貼り付けて密輸しようとして失敗してしまいます。米国映画らしく「自由」を取り戻す映画に仕上がっているのですが、発端が麻薬の密輸ですから鑑賞後の感想はなかなか複雑なものがあります。監督は『ミシシッピー・バーニング』を撮ったアラン・パーカーで、『JFK』や『プラトーン』を監督することになるオリバー・ストーンが脚本を担当してアカデミー賞脚色賞を受けております。

■携帯サイトで変な「募集」に応募する前に一見の価値があるかも?


渡辺被告は「15人ぐらい海外に行かせた」と供述。警察当局は、このうち横浜市の女性の長男も含め、少なくとも3人が韓国で逮捕されたことを確認した。渡辺被告が、サイトに書き込みを始めたのは昨年9月頃から。知り合いのホステスに紹介された男と、月30万円の報酬をもらう約束を取り決めていた。この男も密輸組織の末端にすぎないとみられ、関係都府県の警察は組織の割り出しを進めている。
2009年3月30日 読売新聞

■元大学生の渡辺被告は20歳!一体、どんな大学生活を送っていたのでしょう?まさか国際貿易や法律を勉強していたのではないでしょうな?!携帯サイトで運び屋を募集していたのが渡辺被告一人だとは限りませんし、韓国以外で逮捕されてしまった若者もいるのかも知れません。仁川の拘置所に入れられている25歳の大学生は、学費を稼ぐ目的で「仕事」をしたという話もあるようです。それが本当ならば、グローバル化の時代にIT技術が発達した上に米国発の金融危機で始まった世界的な景気後退が起こり、究極の日雇い派遣労働者として犯罪の片棒を稼ぐ役を携帯サイトで募集するような現象が起きたということなのでしょうなあ。募集したのも応募したのも大学生だったというのも、今時の日本を象徴してるような気もします。年齢から考えて、募集役は「ゆとり世代」で応募して仁川で逮捕された方は「ゆとり」前の世代に属してることになりますなあ。

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ネットで募集中 其の壱

2009-03-30 12:38:16 | 社会問題・事件
■今年の1月11日に、
オーストラリアはグレート・バリア・リーフの中心、ウィットサンデー諸島のハミルトン島で「世界で一番いい仕事」の募集情報がネット上に掲載されたと、日本のマスコミでも大々的に取り上げておりました。世界中から多くの応募があって、日本の女性も第一次選考で残ったとか……。金融危機で世界中の観光産業が打撃を受けている中で、オーストラリアはまんまと海外メディアを利用して観光地の宣伝に成功したという次第。この半年で約900万円の給料が貰える「世界最高の仕事」求人募集しているのはオーストラリアのクイーンズランド州観光局ですから、仲介業者や派遣業者は介在していないようです。

■就職活動をするのにネット情報は欠かせないものになりましたが、そこにも正社員と臨時雇いの労働者との格差があるわけですが、きちんとしたHPを開設して正社員を募集している企業がある一方で、派遣労働者向けの日雇い仕事はもっぱら携帯電話のサイトが利用されることが多いそうですが、そこには怪しげなサイトも混在しており、本当に怪しい募集情報が氾濫しているそうですなあ。実際には覗いたことが無いので、本当のところは、その便利さもオゾマシさも知らないのではありますが……。


名古屋市千種区の契約社員磯谷利恵さん(当時31歳)が2007年8月、インターネットの「闇サイト」で知り合った3人組の男に拉致、殺害された事件で……1審・名古屋地裁で無期懲役(求刑・死刑)とされた住所不定、無職川岸健治被告(42)について、名古屋地検は27日、判決を不服として名古屋高裁に控訴した。川岸被告と、死刑判決を言い渡された愛知県豊明市、元新聞セールススタッフ神田司(38)、名古屋市東区、無職堀慶末(33)両被告の弁護側は既に控訴している。同地裁は今月18日の判決で、川岸被告が自首したことなどから死刑を回避した。
2009年3月27日 読売新聞

■裁判印制度などという恐ろしい司法制度の改革が強引に進められている中で、「時効制度」の廃止問題が急に注目を集めたり、「終身刑」の導入を真剣に考える人が増えて来たりしていますが、今のところは残虐非道の犯罪者には「死刑」か「無期懲役」か言い渡されることになっていますから、因果な裁判員に指名されてしまったら途方に暮れるしかなさそうです。「死刑」の方は、人道主義に基づいて廃止論も出ていますが、実際には15年程度で何だカンだと理由をつけて娑婆に戻れる「無期懲役」の方が大問題であります。

■一体、何を考えているのか、さっぱり分からない悲しくも情けない男衆三人組が、携帯サイトで陰湿な談合を重ねて妄想的な変態犯罪を決行したのですから、妄想の標的にされた方は堪ったものではありません。「自首」して来た点を大いに認める裁判官に対して、被害者遺族も検察も、断固として「死刑」を求めているわけで、反対に犯人の弁護側は商売とは言え、あれこれと理由を付けて「死刑」判決を生煮え状態の「無期懲役」にしようと鋭意努力中という虚しい対立がこれからも続くのでありましょう。

■暇を持て余し、稚拙で残虐な妄想ばかりを膨らませて日々を過ごしている困ったオトコたちはいつの世にもいるのでしょうが、携帯サイトという特殊な接触場所が出現したことで、同じ趣味?を共有する機会が爆発的に増えてしまいました。情報化時代だのIT革命だのと大仰に騒いだところで、突き詰めれば「欲とカネ」に行き着く感情の裏側を四六時中刺激し続ける道具が世間に氾濫させただけの事だったのかも知れませんなあ。

■見ず知らずの人間がいとも簡単に残虐な犯罪仲間になってしまうという恐ろしい携帯サイトですから、利用者側は「ご利用は計画的に」を心がけ「無理の無いプラン」を予め用意しておかねばなりますまいなあ。


「密輸容疑で韓国の警察に捕まっている」。今年1月、横浜市内の女性のもとに、音信不通になっていた息子から突然、手紙が届いた。インターネットで知り合った男たちにだまされ、中身を知らないまま、覚せい剤の入った荷物を運ばされたことが記されていた。息子をだました男たちとは、何者なのか。その実態が、先月、東洋大学の学生が覚せい剤を密輸しようとしたとして逮捕されたのをきっかけに明らかになろうとしている--。

■ 1992年6月に、オーストラリアのメルボルン空港で日本人観光客4人が逮捕された「メルボルン事件」を思い出してしまいますなあ。あの事件は「冤罪事件」としてマスコミでも大きく取り上げられたのですが、いつの間にやら真相も追求されずに忘れ去られて行ったようです。最初は人道的に「冤罪だ!」と糾弾した人達の声も聞こえたのですが、短い間に消えて行ったところを見ると、相当に怪しい話だったのかも知れません。

■「メルボルン事件」で発見されたのは、スーツケースの二重底に隠されていた約13キログラムのヘロインでしたから、麻薬に厳しい国だったら「死刑」になってしまいます。日本では大麻事件が頻発しておりますが、それも法律が比較的緩いからかも知れませんぞ。平和ボケに加えて麻薬ボケにもなったまま、外国の麻薬組織に取り込まれるようなドジを踏むと大変なことになります。携帯サイトには恐ろしい世界に通じる入り口がたくさん用意されているそうな。御用心、御用心。

チベット問題の3月 其の伍

2009-03-30 08:52:13 | チベットもの
新華社通信によると、中国青海省ゴロクチベット族自治州で21日、僧侶約100人を含む数百人の暴徒が地元警察署を襲い、地元政府の職員数人が軽傷を負った。警察当局は22日に暴徒6人を逮捕。89人が自首した。チベット亡命政府によると、チベット族約4000人が「独立」を叫んで警察と衝突したという。……同通信によると、僧侶が地元警察の取り調べ中に行方不明になったとのうわさが引き金になったという。一方チベット亡命政府によると、僧侶は動乱50周年の今月10日に寺院屋上の中国国旗を降ろし、亡命政府の旗を掲げた。地元警察に拘束されたものの逃走し、黄河に飛び込んで自殺を図ったという。
3月22日 毎日新聞

■毎日新聞の記事では、行方不明になったのを「うわさ」だったとしています。流言飛語によって「暴徒」が警察署を襲った?あんなに小さな町で、真偽不明の噂が広まって暴徒が押し寄せるとは無茶な話です。大きな都市ならば噂に尾鰭が付いて話がどんどん膨らんで行くこともあるでしょうが、ラジャ寺周辺の環境では考えられません。

■こうして報道記事を比較してみますと、ラジャ寺の屋上に掲げられていた五星紅旗を引き摺り下ろした若い僧侶が、「チベット独立運動」をしたという容疑で逮捕された上に、寺は監督不行き届きの連帯責任で封鎖の制裁を受け、10日間の取調べの後、警察の隙を見て僧侶が黄河に跳び込んだ。その情報が町と対岸のラジャ寺に伝わって大群衆が抗議に押し寄せ、それを問答無用で鎮圧しようとした警察官数名が「軽傷」を負ったという事になりそうです。

■黄河に跳び込んだ僧侶の安否。そして、ラジャ寺の修行僧たちの消息が気になります。負傷したのは警官だけのはずはなく、武装しているのは警察側だけですから、万が一、銃器を発泡していたりすると悲惨な事になっているはず。封鎖されていたラジャ寺の内部はどうなっているのやら……。そして何より、有名なラジャ寺でこの種の騒動が起こったという話は、瞬く間にチベット地域全体に広がっているでしょうから、次は何処に飛び火するのだろう?と気になりますなあ。

■実はラジャ寺の暴動騒ぎが起こる10日前に、在北京の日本大使館から危険情報が公式に発表されていました。


北京の日本大使館は11日「チベット動乱」から50年を迎え治安情勢が緊張している中国青海、甘粛、四川各省のチベット族自治州に渡航する場合は、安全確保に努めるよう呼び掛けるメールを中国在住の日本人らに送った。現地で「治安当局が厳重な警戒態勢を敷いている」との情報があるためとしており、デモや騒動が起きている場所に近づかないよう要請。チベット自治区については既に、渡航の是非検討を求める危険情報が出ている。
2009年3月12日 産経新聞

■最近ではパソコンを持っている人が多くなりましたから、この種のメールもある程度は有効でしょうが、電話線も無いような場所に滞在している人には情報は届きません。現地の口コミ情報が早くて正確なのが助けになりますが、その情報網に入れない人は混乱してしまうかも?

飛ぶか?テポドン 其の参

2009-03-29 06:23:35 | 外交・情勢(アジア)
……米海軍が日本の周辺海域で、弾道ミサイルを探知するイージスレーダーを備えた駆逐艦の展開を始めている。……少なくとも5隻で、いずれも弾道ミサイルを迎撃する「SM3」ミサイルを搭載しているとみられる。……長崎・佐世保港では今月23日から米海軍第7艦隊の駆逐艦3隻が入港。うち2隻が25日午後に出港、青森港に寄港していた駆逐艦も26日午後に出港する。3隻とも日本海または太平洋で活動を始めるとみられる。海上自衛隊のイージス艦「こんごう」と「ちょうかい」の2隻も佐世保基地に停泊中で、政府が自衛隊法82条の2に基づく迎撃体制を正式に決定すれば、日本海に展開するとみられる。
3月26日 読売新聞

■イージス艦の「こんごう」と「ちょうかい」は、実質的に北朝鮮に対して最前線で極めて難しい迎撃作戦に従事しなければなりません。作戦海域に命知らずの小型漁船などが出て来ないことを祈りましょう。


……長距離弾道ミサイルの落下に備える破壊措置命令を受け、海上配備型迎撃ミサイル(SM3)を搭載した海上自衛隊のイージス艦「こんごう」と「ちょうかい」が28日午前、長崎県の佐世保基地を出港した。SM3を搭載しないイージス艦「きりしま」も発射時にミサイルの探知・追尾に当たるため、同日午前、神奈川県の横須賀基地を出発した。30日ごろまでに、こんごうとちょうかいが日本海に、きりしまが太平洋に展開し、米海軍のイージス艦などと連携し、北朝鮮が4月4~8日と通告した発射に備える。こんごうとちょうかいは、ミサイルの弾頭部分や切り離した部分などが日本の領域に落下する恐れが生じた場合にSM3で迎撃し、きりしまはミサイルの航跡を捕らえ、弾道の解析や落下地点の予測などを行う
2009年3月28日 産経ニュース

■現時点では、北朝鮮が求める甘ったれた要求に対して、米国のオバマ政権は無視の態度を取り続けていますから、このまま予告通りに北朝鮮は「人工衛星」を打ち上げることになるでしょう。いっそのこと打ち上げ自体をお祝いしておいて、人工衛星が軌道に乗らなかった時には徹底的に馬鹿にするという悪趣味な外交儀礼を使っても面白かったような気もしますが、拉致犯罪の幕引きを勝手にしてしまう国ですから、お祝い事には不向きでしょうなあ。

■打ち上げを祝うのではなく、迷惑そうに「失敗」を前提にした迎撃態勢を採らざるを得ない日本は、何とも物騒な配備作業をしなければなりません。物々しい軍用車両の大移動は、ゴジラが上陸して来るような騒ぎになるようですから、映画会社などは次回作のために撮影するのかも?


……迎撃に向けた自衛隊の部隊運用計画の全容が25日、判明した。30日にもイージス艦と地対空誘導弾パトリオット(PAC3)の展開を開始。焦点のPAC3の展開地は首都圏3カ所と東北地方2カ所の自衛隊施設に絞り、二正面で防護を固める。各1カ所に迎撃を統制する指揮所運用隊も置く。……迎撃は二段構えとなる。海上自衛隊のイージス艦搭載の海上配備型迎撃ミサイル(SM3)が大気圏外で撃ち落とし、失敗すれば航空自衛隊のPAC3が着弾直前に迎撃する。……4月4日から8日の間、ブースター(推進エンジン)の落下区域として秋田沖130キロの日本海と銚子沖2150キロの太平洋を設定し、秋田、岩手両県の上空を通過する可能性がある。……

■辞任騒ぎが起こっている小沢クラッシャー民主党代表の選挙区の上空をテポドンが飛ぶというのも、何か皮肉なものを感じますが、拉致問題でも領土問題でも、カネで解決しようというのが小沢外交の基本だそうですから、貯め込んだ怪しげな政治資金を一挙に放出して将軍様と談判するチャンスかも知れませんなあ。小泉元総理との電撃会見の時には、内々で「1兆円」の援助資金という大きな餌があったわけですが、小沢さんが貯め込んでいるカネでは足りないとは思いますが……。

飛ぶか?テポドン 其の弐

2009-03-28 13:15:52 | 外交・情勢(アジア)
■少なくとも「核弾頭搭載」という情報はまったく無く、その可能性も皆無に近いのに、北朝鮮が長距離ミサイルを発射するのが確実になったとて、急に日本の政府内が騒々しくなっているようです。唯一、標的とされている米国では、ポンコツ・ミサイルが領土内には到達しないとタカを括っているのか、北朝鮮のミサイルよりも恐ろしいサブプライム・ローンという大量破壊サイバー兵器の連鎖的爆発が起こってしまったことの方が、よほど深刻な問題だからなのか、今のところはクリントン国務長官の自制を求めるコメント程度で済ませているようです。

■確かに米国海軍のイージス艦は日本海に展開中ですが、その目的は監視と観測の範囲に留まるようで、グアム島の空軍基地に爆撃機が臨戦態勢を採ったというような情報は無いようです。日本はミサイルが上空を通過すると想定される東北地方の秋田県と岩手県に迎撃ミサイルを配置すると同時に東京都を囲む三箇所にも迎撃ミサイル部隊を配置するとの事ですが、これも万が一、ミサイルが予定のコースを外れて落下した場合に備えての事だそうで、決して日本列島に向けてのミサイル発射を断固として阻止する!という意思表示ではないようです。


社民党の福島瑞穂党首は26日の参院予算委員会で、北朝鮮の弾道ミサイルが日本領内に落下した場合、迎撃する日本政府の方針について、「迎撃ミサイルが目標に当たったら残骸が落ちる。当たらなくともミサイルは向こう(国外)へ行ってしまう。国内外の市民に被害はないといえるのか」と激しい批判を展開した。

■海上輸送の動脈が通るソマリア沖での海賊退治にも大反対!を連呼している変わった政党の事ですから、この程度のピント外れの発言をしても誰も驚かないでしょう。ちょっと前まで北朝鮮による拉致犯罪についても、平壌工作に同調して「濡れ衣だ!」と言い張っていた政党でもありますからなあ。発射に成功したらパチンコ文化人に選ばれた元党首の土井さんあたりは「祝電」の一本くらいは打ちそうですなあ。大韓航空機爆破テロの時にも、韓国による自作自演説を本気で信じていたような政党ですから、発射実験の現場に招待されても不思議ではないでしょう。


中曽根弘文外相は「わが国民の生命財産に被害が及ぶ恐れがあるならば迎撃は当然だ」と答弁。浜田靖一防衛相も「そのまま落ちてきた方が被害は大きい。宇宙空間で当たれば燃え尽きてほとんど落ちてこない。まず破壊することで規模を小さくするのが重要だ」と強調し、理解を求めた。しかし、福島氏は、「当たらない場合は国益を侵害し、当たった場合でも単なる人工衛星だったらどうなるのか」などと迎撃批判を延々と続け、野党席からも失笑が漏れた。
3月26日 産経新聞

■どうして「当らない場合は国益を侵害」する事になるのでしょう?福島さんの事ですから「百発百中」の迎撃システムを開発しろ!と言っているとも思えませんが……。たとえ「単なる人工衛星」であったとしても、日本の何処かに危険な燃料を満載した大型ミサイルが落下して来た場合の「国益の侵害」の方はまったく考えない政治家が、今の国会には棲息しているという事実はよく覚えておきましょう。それにしましても、「平和」や「核兵器廃絶」を主張している政党が、核兵器の拡散や核恫喝の問題に関してこれほどの無知を晒しているようでは、本当に万が一の被害が出るかも?と心配になってしまいますなあ。何せ、この政党の前身だった社会党の党首が総理大臣になった時には阪神淡路の大震災が起こるわ、東京都下ではオウム真理教の地下鉄サリン・テロが起こったのですからなあ。

飛ぶか?テポドン 其の壱

2009-03-27 09:55:08 | 外交・情勢(アジア)
■いよいよ北朝鮮が「人工衛星」を本気で打ち上げることになりそうです。迎撃ミサイルが当るか、当らないか?などという的外れな素人談義に話題を移している政府もマスコミも、日本という国では外交も軍事も重大な政治的な問題にする能力も資格も無いことを、改めて世界中に宣伝しているようであります。北朝鮮の将軍様におかれては、さぞやご満悦のことでありましょうなあ。一切の「報復手段」を持たない日本としては、現行の憲法に従って、米国の信義やら国際社会の理解やらに期待を懸けるしか政府の選択肢は無いようです。
 
■ウソばかり言っている北朝鮮に対する信頼は地に落ちて久しいわけでありますが、万が一にも本当に通信衛星の打ち上げだったら、ちょっと前に衛星の打ち上げに成功したイランとの違いを明らかにしなければならなくなるでしょうから、国連決議のグレーゾーンに付け込んで来る軍事と外交と犯罪で生き延びている国に対して、軍事も外交も実質的に放棄しているような国が対抗できるのか?米国のオバマ新政権の本音が徐々に見え始めた時ですから、よくよく腹を括っておかないとエライことになるかも?


……北朝鮮は「人工衛星打ち上げ」として国際法上の手続きを着実に進めており、ミサイルだったことを証明するのは至難の業となるからだ。そこが北朝鮮の狙いなだけに、政府は新たな理論武装を迫られている。政府が北朝鮮を批判する論拠は、平成18年6月にテポドン2号など弾道ミサイル7発の発射実験を行ったことにある。これを受け国連安保理は「弾道ミサイル開発に関するすべての活動を停止」を求める非難決議1695号を採択。同年10月には核実験を行ったため、さらに制裁決議1718号を採択し、「大量破壊兵器と弾道ミサイル計画の完全なる放棄」を求めた。……麻生太郎首相は「1718号の違反は明らかであり発射を見過ごすつもりはない」と表明、ミサイルが軌道をそれたら迎撃し、国連安保理に提起する考えを表明している。

■核関連技術ももミサイル技術も、平和目的なのか軍事目的なのかを明確に区分けするのは非常に難しいようです。それを承知の上で、国連安保理は大量破壊兵器に含まれる明らかに軍事目的の「弾道ミサイル」を北朝鮮が開発するのを止めて欲しい。と懇願しているのでしょう。純粋に平和目的でロケット開発をしている日本という国は、世界でも珍しい変わり者で、「唯一の被爆国」だから軍事的な核開発をしないという、これまた世にも珍しい理論を作り上げている国でもあります。もしも、三個目も日本で炸裂したとしても、やっぱり「唯一の被爆国」であり続けるわけですが……。

■少なくとも、何度か米国の標的にされた北朝鮮は、核実験らしい何かを地下トンネル内で実施したお蔭で、史上三発目の核攻撃を受ける可能性はほぼ零になっております。


……発射準備を米偵察衛星で確認されたことを受け、北朝鮮は2月24日、実験用通信衛星「光明星2号」をロケット「銀河2号」で打ち上げるとの談話を発表した。3月上旬に宇宙空間の利用原則を定めた宇宙条約と宇宙物体登録条約に加盟。12日には国際海事機関(IMO)と国際民間航空機関(ICAO)に対し、4月4~8日の打ち上げを通報、危険区域を設定した。日本の国土交通省にも3月21日、同様の通報を行った。……江畑謙介拓殖大客員教授は「北朝鮮は建前上は国際条約にすべて従っており、もし『平和的な宇宙活動だ』と主張すれば国際法違反とはいえない。『ミサイルとロケットは同じ構造であり、発射は地域の安定を損なう』との政府の理論だけで安保理で非難決議が通せるのか」と指摘する。

■一説には、人工衛星の打ち上げに不可欠な衛星を制御するために使用される電波の周波数を国際機関に届け出なければ、打ち上げに支障が出るはずなのに、北朝鮮はこれをせず電波による制御をしないで衛星を軌道に乗せようとしているのだそうですなあ。前回のテポドン騒ぎの時にも、発射した後になって「あれは人工衛星の打ち上げだった」と発表し、誰にも受信できない主体思想を讃える革命歌を軌道上から流し続けている!と発表したものでした。あの歌声は今も流れているのでしょうか?


……「領空」は慣例で地上約100キロ以下とされており、今回のミサイルは高度約1000キロに達するため、日本の東北地方の上空を通過しても「領空侵犯」とは言えないという。北朝鮮は平成10年8月のテポドン1号発射でも「衛星打ち上げ」を主張した。この際は危険区域の事前通報もしなかったが、政府が「弾道ミサイル発射の可能性が高い」と報告をまとめるのに2カ月を要し、安保理への提起は見送られた。

■たった一発のミサイルに、日本政府は絵に描いたように「翻弄」されたのでした。完全なる泥縄方式で、胆を冷やした日本政府は大急ぎで米国のミサイル迎撃技術の共同開発を始めると同時に、独自に北朝鮮を宇宙から監視する人工衛星の打ち上げを行ったのでした。その結果、海上自衛隊のイージス艦「あたご」はハワイ沖で立派に迎撃実験に成功し、凱旋帰国の祝福を受けるために東京湾に向かい漁船と衝突してしまいました。一方の監視衛星は、ロケットの打ち上げに失敗して貴重な目を持ち損なったのでした。まさか、どちらの事故(失態)も北朝鮮の工作員が仕掛けた謀略とも思えませんが……。


……イスラエルさえも衛星打ち上げの際はミサイル攻撃と誤認されぬように軌道投入に適さない西方向の地中海側に打ち上げている。しかも北朝鮮は「衛星が迎撃されれば日米韓へ正義の報復打撃戦を開始する」と表明している。これが「宇宙の平和利用」といえるのか。もし国連安保理が北朝鮮の主張を受け入れたならば、北朝鮮のミサイルがますます世界中に拡散する結果を招きかねない。
2009年3月26日 産経新聞

■一方的に「止めろ!止めろ!」と騒ぐより、逆に大いに応援してやる替りに、「西に向けて打ってね」と条件を付けるのは如何でしょう?国際世論の中でも、「人工衛星なら許しておやりよ」と言ってくれているのがチャイナとロシアという西の隣人たちなのですから、大いにお言葉に甘えて思い切り西に向けてぶっ放して頂ければ、仲間内で問題を処理して貰えるかも知れません。チャイナは人工衛星を狙い撃ち出来る技術を持っているのですから、気に入らない物が打ち上げられたら撃ち落してしまうことも可能でしょう。

チベット問題の3月 其の四

2009-03-25 06:57:05 | チベットもの
■次は讀賣新聞の記事です。

新華社電によると、中国青海省ゴログ(果洛)チベット族自治州のラギャで21日、チベット仏教僧侶100人近くを含む数百人の群衆が警察署を襲撃、地元政府職員数人が軽いけがを負った。……新華社電は、僧侶側にけが人が出たかどうかは伝えていない。襲撃の原因については、チベット独立活動に関与した疑いで警察の取り調べを受けていた男性が、20日に警察署から逃亡し、行方不明になった事件との関連を指摘している。

■この報道では僧侶が逃亡した日付が「20日」になっております。それなら「行方不明」になった翌日に大騒動が起こったことになります。現地の位置関係から考えて、そんなに悠長な段取りにはならないはずですから、これは誤報かと思われます。地名をチベット式でカタカナ表記したのは好感が持てますが、ラサ地域の音で読んだもののようです。現地では「ラジャ」と聞こえます。「ゴログ」という地名も最後の音は鋭い息を出すので日本人の耳には聞こえず「ゴロッ」のように聞こえます。北京政府による漢字の当て方は乱暴で、「洛」の字では音がズレます。

■地名も人名も漢字表記は不便な上に不正確なので、チベット人達は往生しております。ラジャ寺の僧侶が橋を渡って押し掛けた町の名前が「軍功」というのも、どんな意図で名付けたのかがよく分かる字になっておりますなあ。


AP通信などは、亡命政府の情報として、男性が黄河に飛び込んだと伝えた。警察はこの男性の部屋でチベットの旗や政治宣伝ビラなどを見つけ、拘束したという。
3月22日 読売新聞

■嫌疑を受けたチベット人の自宅や部屋では、必ず国旗やビラが大量に発見されることになっております。時には草原の小さな寺で経を読み続けている老僧の部屋から手製の爆弾が発見されるような事もあります。宗教舞踊で使用する模造の剣を「武器」だと称して摘発するような無茶なことも起こります。讀賣新聞の記事では単に「男性」という話になっていて、出家僧であることが抜け落ちていますから、「男性の部屋」というのが寺院内の宿坊だということも分かりません。人里離れたラジャ寺の宿坊で、「政治宣伝ビラ」を作って何に使うというのでしょう?寺院内の仲間に配っても意味はありませんし、小さな軍功郷の町で配って自己満足しようとしたとでも言うのでしょうか?

■次は朝日新聞の記事です。


中国国営新華社通信によると、青海省果洛チベット族自治州で21日午後、チベット寺院の僧侶約100人を含む数百人が地元警察署を襲撃し、職員ら数人が軽傷を負った。同自治州では9日にも警察署が地元住民に襲われる事件が起きており、厳戒態勢を強める当局とチベット族との対立が深まっているようだ。 ……警察当局は、20日に拘束したチベット独立派の男が取り調べ中に逃げ出し、行方不明になったことがきっかけになったと説明しているが、詳しい原因は明らかにしていない。チベット亡命政府の説明では、男はチベット寺院の若い僧侶で、警察の取り調べを受けていた最中に近くを流れる川に飛び込み、自殺を図ったという。
2009年3月22日 朝日新聞

■どの記事も「近くを流れる川」としか書かず、黄河という誰でも知っている有名な川の名前を避けているのは不思議ですなあ。朝日新聞は最初から「自殺を図った」との見立てをしている点が目立っていますが、警察当局が「独立派の男」と決め付けているのをそのまま丸写ししている裏の意図を考えた方が良さそうですなあ。
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米国の腐臭 其の参

2009-03-24 19:03:54 | 外交・情勢(アメリカ)
……AIGの巨額ボーナス支給問題を調査している米コネティカット州司法当局は、ボーナスの総額が、これまで報告されていた額を5300万ドル(約50億円)上回り、2億1800万ドル(約209億円)に達していると明らかにした。……AIGのデリバティブ(金融派生商品)部門があるコネティカット州など19州が、ボーナス支給に関する詳細な情報開示を求めていた。支給総額はこれまで1億6500万ドルと報告されていたが……。同州のブルメンタール司法長官は、多額のボーナスが「まるで紙吹雪のようにばらまかれた」と指摘。73人の幹部に100万ドル以上が支払われ、このうち5人は400万ドルを超えていた……。

■こういう話を毎日のように聞かされていると「50億円」という金額の大きさが分からなくなります。どうして最初の報告からこんな大金が漏れていたのか?そちらの方が金額の大きさよりも重大な問題でしょう。まさに「紙吹雪」のようにAIG本社の中には札束の雨が降っていたようですなあ。儲かった!儲かった!と、WBCに優勝するよりも何倍も喜ぶ米国人がたくさん居たのでありましょう。


政府管理下で経営再建中のAIGが、経営危機の原因となったデリバティブ部門の幹部に巨額のボーナスを支給していた問題は、支給を阻止できなかったガイトナー財務長官への批判に転じており、共和党議員をはじめとして辞任要求が出ている。これに対して、オバマ大統領は22日までのCBSテレビとのインタビューで、ガイトナー長官の辞任を受け入れるつもりはないことを明らかにした。
2009年3月23日 産経新聞

■自分の任命権者としての責任問題に直結することですから、オバマ新大統領としても、ガイトナー長官の更迭は避けたいところでしょう。そもそも世界的な金融危機の大問題を、一握りのカネの亡者たちが多額のボーナスを持ち逃げした問題に矮小化してしまうのは如何なものか?超人的な肉体に恵まれ、人並みはずれた鍛錬の末に稼ぐ数十億円と、詐欺同然の金融商品を世界中の亡者たちに売り付けて稼ぎ出した巨額のボーナスとはまったく別物であります。スポーツ選手にはドーピング検査や反社会的なスキャンダルなどの厳しい審査の目が光っているものですが、怪しげな金融商品を開発して荒稼ぎした連中には何の制限も無く、ボーナス金額も契約年棒も単なる数字か記号のようなものだったのかも知れませんなあ。


AIGの救済で恩恵を受けるのはヘッジファンド-。
18日付の米紙ウォール・ストリート・ジャーナルはAIGが損失を抱えているデリバティブ(金融派生商品)取引の相手は多くがヘッジファンドであると報じた。AIGは政府による優先株取得や米連邦準備制度理事会(FRB)による特別融資の形で、総額1700億ドル(約16兆7000億円)超の公的支援を受けている。同社救済により富裕層を顧客とするヘッジファンドが利益を得ることになれば国民の不満が高まりそうだ。ヘッジファンドにわたる公的資金の額は明らかになっていない。
2009年3月19日 産経ニュース

■悪事で稼いだ泡銭で建てた豪邸を巡る「見物ツアー」まで企画され、ボーナスを受け取った人物の具体的な名前のリスト公表まで求められ、針の筵(むしろ)に座らされているような以前のエリート金融マンたちに比べて、彼らを利用して底なしの金銭欲を満足させようとしていた「取引相手」たちの方は、まるで被害者か善意の第三者みたいな顔をして米国で吹き荒れるボーナス騒動を見物しているのでしょうなあ。

米国の腐臭 其の弐

2009-03-24 19:03:21 | 外交・情勢(アメリカ)
■3月24日という日は、何かと「男」を考えさせる出来事が多かったようです。米国のロサンゼルスからの実況生中継で「侍ジャパン」が強豪韓国との死闘の末にWBC連続優勝を果たし、同じ時間帯には陣内某とかいう大阪の芸人さんが身も蓋もない離婚会見を開いていたそうですが、そのコントラストの強さが情けない男の姿をくっきりと浮かび上がらせていたとか……。夕刻の大相撲では日馬富士が朝青龍を破って見せたので、陣内某が満天下に晒した「男」の見苦しさが尚一層強調されることになったようです。この一連の流れは今夜から明日にかけてテレビの報道番組では繰り返し繰り返し放送されるのでしょうなあ。

■WBC決勝戦、試合前のセレモニーで『君が代』が流れているいる時に、一人だけ巨大なチューインガムをもぐもぐ噛み続けていた小笠原選手の姿がちょっと気になりましたが、勝てば官軍と申しますから先制タイムリー・ヒットを打ったことで誰も苦情は言わないのでしょうなあ。日韓ワールド・シリーズみたいな展開になった今回のWBCですが、両チームとも「カネよりも名誉や意地」のために頑張った感があります。本家の米国では有力選手が集まらず、最初から優勝を狙っていなかったようですが、これは何よりも「カネの問題」だったのかも知れません。剥き出しの金銭欲を解放してしまった新自由主義経済の影響なのでしょうか?


今大会の賞金は、優勝270万ドル(約2億5920万円)、準優勝170万ドル(約1億6320万円)。日本代表は第2ラウンドを1位突破したため、1位ボーナス40万ドル(約3840万円)が加算され、優勝した場合の獲得総額は310万ドル(約2億9760万円)となる。賞金は主催者(WBCI)と出場国との契約で、50%を首脳陣と選手が均等分配し、残り50%を野球振興資金(アマ団体への支援など)に充てることが決まっている。……50%を原監督以下首脳陣7人、選手29人の計36人で分配すると1人あたり約4万3056ドル(約413万円)。……これ以外に、NPB(日本プロ野球組織)から出場料として選手に200万円、首脳陣に150万円(前回は優勝後にそれぞれ倍増)が支払われる。
3月24日 サンケイスポーツ

■要するに大いなるプレッシャーに耐えながら必死て連日の死闘を勝ち抜いた金銭的な報酬は最高でも約560万円になるということです。巷の噂では米国のメジャー・リーグで活躍している有名選手ともなれば、年棒は数十億円単位になるとか……。本シーズンを前にして、単なるお祭騒ぎに駆り出され、たとえ優勝しても560万円しか貰えない代わりに、故障でもしたら大変だ!という計算と本音が透けて見えるようです。そう言えば、前回のWBC大会でも、メジャーで大活躍していた日本人選手が出場を辞退していましたが、当時の日本は小泉時代でしたなあ。

■米国人はボーナスが異様に好きなようで、オバマ新政権もボーナス問題で大揺れであります。


米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版)は23日……AIG幹部の高額ボーナス問題で、受給額上位20人のうち15人が返還に同意、返還額が3000万ドル(約29億円)以上になったと報じた。……他幹部の分も含めると5000万ドル(約49億円)の返還が同意済みという。エドワード・リディ会長兼最高経営責任者は10万ドル以上受け取った幹部に受給額の半分以上を返還するよう求めていた。
2009年3月24日 読売新聞

■自家用ジェット機に乗って公的資金の注入を要請しに来るような経営者が生息している奇怪な国ですから、政府が税金を使って救済しようとしている「企業」と、自分が莫大なボーナスを受け取る契約した結んでいる「企業」とは別物だと考えられる奇怪な頭脳と神経を持っている人間が増殖していても不思議ではありません。特別に法律を作って一時的に「課税」しようとする議会というのも米国特有のものなのでしょうなあ。課税法案など議論しているより、いっそのこと国名を「ユナイテッド・ステート・オブ・ボーナス」に変えたらどうでしょう?最悪の評価を下されたイラク戦争に若者を駆り出すのにもボーナス制度が活用されました。金額はWBC大会での一人当たり優勝賞金ボーナスの半分以下だったのですが……。

チベット問題の3月 其の参

2009-03-24 10:46:16 | チベットもの
■ラサ市の名刹セラ寺の分院として18世紀半ばに建立されたのがラジャ寺で、寺の北側には見上げるような岩山が屏風のように切り立っております。以前からこの岩山の絶壁に英語で「フリー・チベット」と書かれているとの伝説があるようですが、含蓄のあるブラック・ジョークです。数キロ上流に鳥葬場があるからか、岩山には大型の猛禽類が巣を作っていて、恐ろしく澄んだ青空を背景にして気持ち良さそうに旋回していたりします。多くのチベット仏教寺院と同様にラジャ寺もちょっとした都市のような規模を持っていまして、全盛期には2000人近い僧侶が修行していたそうです。解放(侵略)戦争の後、仏教撲滅を目指して定められた出家僧侶定員制度によって「396人」の定員が押し付けられているそうですが……。

■南岸の町である軍功郷のチベット人住民とラジャ寺の僧侶全員を総動員しても「4000人」には足りないかも知れません。まあ、それくらいの迫力のある大群衆が警察署に押し寄せたという少々文学的な誇張があるのかも知れません。しかし、仮に1000人だったとしても日頃は静かな山奥の田舎でのことですから、これは大事件には違いありません。その中の誰かが本当に「チベット独立」を叫んだのか?それとも単に「漢族は出て行け!」と言ったのを拡大解釈したのか?真相は闇の中ですが、大群衆の中から「主犯格4人」を特定して逮捕することなど出来るのでしょうか?まさか取る物も取り合えずに駆けつけた僧侶の手にプラカードが掲げられていたはずもないでしょうに……。次は北京発の産経新聞記事です。


中国国営新華社通信によると、青海省ゴログ・チベット族自治州で21日、チベット寺院の僧侶約100人を含む数百人が地元警察署を襲撃し、地元政府の数人が軽傷を負った。当局は22日、6人を逮捕した。しかし、89人は自ら警察に出頭したという。これらのうち、93人が僧侶だという。当局は暴動の発生を警戒して厳戒態勢を敷いているが、僧侶らによる大規模な暴動が伝えられるのは初めて。暴動のきっかけは、チベット独立を支持する活動をした疑いで拘束されていた男性が脱走、その後行方不明になったとの情報が原因とみられるという。

■ここでは「その後行方不明」という話になっております。先の「川に跳び込んだ」という報道と繋ぎ合わせますと悲しい結論になってしまいそうです。「独立」だの「分裂」だの、ちょっと前なら「反革命」だのの嫌疑を掛けられた人が逮捕直前に自殺するという話は何度も耳にするものです。マスコミもマトモな裁判制度も無い国で、官憲に睨まれたら御仕舞いで、人権思想の欠片も存在しない場所ならば苛烈な拷問も当たり前でしょうし、一族郎党も過酷な生活が強いられるのは目に見えているからなのでしょう。地元政府の役人が「軽傷」を負ったとなれば、その落とし前を着けるためには手段を選びませんから、89人が「自主」する前にどんな脅迫宣伝が行われたことやら……。


チベット亡命政府(インド・ダラムサラ)によると、集まった人数は約4000人で、「チベット独立」のスローガンを叫ぶなどした。……ダライ・ラマ14世がインドに亡命した「チベット動乱」から50年にあたる10日には、僧侶が同自治州の寺院に掲げられていた中国国旗を降ろしてチベットの旗を掲げたことで当局が寺院を封鎖。僧侶らを取り調べていたが、そのうちひとりが自殺を図り、僧侶らが警察署に抗議したという。
3月23日 産経新聞

■町を複数の寺院が取り囲んでいるような場所では、夜の闇に紛れて悪戯を仕掛ける小さな?事件は頻発しているようです。町の目抜き通りにチベット国旗を掲げるとか、地元公安の建物に胸のすくような言葉を書いた紙を貼ったり……。でも、寺と僧侶の数の多過ぎて犯人の特定は不可能ですし、伝統的に門前町ともなればまだまだ住民の多くはチベット人で、もしも不確かな容疑で名刹の僧侶を拘束でもしようものなら、大変な事が起こりますからなあ。そういう場所には独特の緊張感が漂っているものです。

■しかし、今回の事件が起こった場所はラジャ寺しかありませんから、袈裟姿の僧侶はラジャ寺の人間以外ではあり得ません。境内に五星紅旗が掲げられていたのが事実なら、おそらくは北京五輪の開催を前にした「愛国教育」を目的として始められたか、「解放してくれた有難う」記念日に向けた思想教育の一環として、地元の事情も知らない愚かな役人からの指示に従って現地の政府が寺に命令したものと思われます。交通の便が悪いことが幸いして、観光化の並とも無縁だったラジャ寺は、本格的な修行が出来るゲルク派の寺院として有名ですから、そんな場所に「教育」を仕掛ければ大きな反発を受けるのは当たり前でしょう!きっと軍功郷の役人も、嫌な予感がしていたに違いありません。

チベット問題の3月 其の弐

2009-03-24 10:44:25 | チベットもの
■3月9日に爆弾騒ぎが起こった場所は四川省の裏側に当る険しい山岳地帯の小さな町でしたから、V谷の斜面を削って付けた一本道を誰かさんが閉鎖でもすれば情報を遮断するのは比較的容易だったはずです。チベット地域にはどんなに険しい山奥の土地でも驚くほど巨大な寺院が作られているような場所も珍しくはないのですが、事件が起こった場所の周辺にも幾つかの寺院が点在しています。突発的に起こった事件に寺の関係者が関わっていたかどうかは不明なままでしたが……。

■事件が起こった青海省果洛チベット族自治州班瑪県には、省都の西寧から毎日長距離バスが走っておりまして、所要時間は約20時間。そのバス路線の丁度中間地点で大きな事件が発生したようです。日本の主要新聞が一斉に報道しておりますが、断片的な情報が各紙に散らばっている状態なので、比較しながら再構成してみましょう。


2009年3月21日、青海省果洛チベット族自治州瑪沁県拉加鎮でチベット僧約100人と現地市民らが地元警察署を襲撃する事件が発生した。警察官、職員ら数名が負傷した。22日、シンガポールの華字紙・聯合早報が伝えた。新華社によると、21日午後2時に警察署で取り調べを受けていた拉加寺の僧侶(河北省籍)がトイレに行くと偽り逃走、黄河に飛び込み対岸まで泳いで逃げようとした事件が発端となった。同僧侶はチベット独立を訴えたため拘束されたと伝えられる。

■「河北省籍」とまで人物が特定されている情報は真実味があります。地名の「拉加」は地元の発音ではラジャで、非常に有名な寺院があります。地図で黄河の流れを辿ってみれば、上流で潰れたS字型になっているのが分かりますが、ラジャの寺はは黄河が流れを西に向けて流れている黄河の沿岸に位置していまして、岸辺の道を川の流れに沿ってとことこ30分ほど歩いて行きますと黄河大橋という立派な橋が架かっております。そこを渡った南岸が軍功郷という小さな町になっています。襲撃された警察署があるのはこの南岸の町でなければなりません。

■そして、僧侶が跳び込んだ川というのは黄色くない黄河に間違いないでしょう。水音もさせずに悠然と流れて行く黄河上流の澄んだ豊かな水の流れは見事なものですが、その水量の多さと川幅の広さを考えますと対岸に泳いで渡ろうとするのは自殺行為としか言えません。本当に跳び込んだのなら、誰も助けに飛び込まないでしょうし、水に入る習慣のないチベット人ならば水泳の達人であるはずもありません。この段階では僧侶の「その後」は不明です。


その後、同寺の僧侶約100人と地元市民ら数百人が集まり、警察署を襲撃した。チベット亡命政府は襲撃参加者は4000人で、チベット独立を求めるスローガンを叫んだと発表している。事件発生後、関係部門は主犯格4人を逮捕。22日時点で95人が逮捕された。うち89人が自首だという。同自治州では今月9日にも消防車、パトカーに爆発物がしかけられる事件が起きている。今年は中国共産党の統治50周年にあたるが、現地では緊張が高まっている。
3月23日 Record China

■僧侶が黄河に跳び込んだのが3月21日の午後2時。その情報が対岸のラジャ寺に伝わり仲間の僧たちが橋を渡って押し寄せるには数時間を要したはずです。長距離バスは1日に2本ほどしか通りませんし、ヒッチハイクをしようにも輸送トラックがごく偶に走って行く程度ですし、御寺にはジープが2台ほどあったかしら?やっぱり100人の僧侶は健脚に物を言わせてサフラン色の袈裟の裾をたくし上げて駆けつけて来たのでしょうなあ。橋を押し渡る光景はさぞや見事だったでありましょう。
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チベット問題の3月 其の壱

2009-03-23 15:46:06 | チベットもの
■無気味に静かな新年を沈黙のうちに過ごしたチベット地域ですが、やっぱり、北京政府の思惑通りの解放感謝記念日を祝う気分にはなっていないようです。少数民族に対する手厚い?援助によって経済発展していることになっているモデル地区としてのラサ周辺、そして解放(侵略)戦争以来の怨念が貯まりに溜まっているカム地方では、北京五輪と四川省パンダ震災以後の警戒体制が秘かに強化されていたのでしたが、チベット鉄道の始発駅のある青海省は報道メディアにとっても北京政府にとっても、ちょっとした盲点となっていたような気がします。

■一口に「チベット」と言ってしまいますと、何となくラサを中心としたチベット自治区だけを指しているような錯覚を持ってしまうのは、北京政府のチベット政策が大成功を収めた結果で、日本の新聞やテレビで紹介される地図やジオラマでも、律儀に北京政府が強引に設定した境界線が書き込まれていますから、チベット問題が火を噴いたとの報道で「青海省」やら「甘粛省」やらの地名を目にすると混乱してしまう人も多いのではないでしょうか?

■唐の時代に青海省全土と四川省東部と甘粛省西部は、正式な外交条約によって古代チベット帝国の領土となってから、シルクロードの貿易権益を巡って熾烈な争奪戦が繰り広げられ、文字通りの取ったり取られたりの戦乱が続いたのであります。それが20世紀になってからは、チベット人・モンゴル人・回族が混在していた地域に最も新しい闖入者?の漢族の人口が増え続け、毛沢東時代からは急カーブを描いて人口比率を高めて現在に到っております。


……中国青海省の果洛チベット族自治州で9日未明、警察と地元住民の間で衝突が発生し、自家製爆弾により、警察車両と消防車の屋根やライトが破壊された。死傷者は伝えられていない。8日午後、警察が検問所で、伐採した木材を運搬する地元住民のトラックを停止させ調べようとしていさかいが起き、抗議の住民数十人が深夜まで、近くの警察署を取り囲む騒ぎとなった。同自治州でも昨年3月、チベット自治区ラサの暴動の影響で、チベット僧らによるデモ行進が起きた。
2009年3月9日 読売新聞

■少し古いニュースですが、「青海省」だけでもその位置が判然としていない人にとって「果洛」などいう読み方も分からない地名が紛れ込んだ報道ならば、簡単に読み飛ばしてしまうでしょうなあ。しかし、大昔から長安(西安)とラサを結んでいた最も重要な道が通っていた場所だったという説明が付け加えられていれば、只事ではないと感じられるでありましょう。

■チベット文化に興味を持っている向きには、『ケサル王伝奇』という世界最長の未完のファンタジー物語の舞台となった場所だと言った方が、その場所の重要性がお分かりになるかも知れませんなあ。または、NHKがうっかり?チャイナと共同で制作した『大黄河』というドキュメンタリーを御覧になった人にとっては、黄河源流を探索した番組を思い出すかも知れません。但し、あの番組の中で感動的に建立された「黄河源流」の石碑は残念な事に有名無実化されて、後にチャイナ独自に発見した本物?の源流とされる地点に日本とは何の関係も無い立派な石碑が立っているとか……。どちらも「果洛チベット族自治州」の中でのお話です。

■「果洛州」というのは青海省の中でも最も広い州で、場所は同省の東南、四川省と甘粛省の両方と境を接しています。3月9日の爆弾騒ぎが発生したのは四川省に近い山岳地帯の「果洛州班(王偏に馬)県」のようです。


……青海省果洛チベット族自治州班瑪県で9日未明、数十人の住民が地元警察を襲い、手製爆弾でパトカーと消防車を爆発させた。現場近くではチベット族による騒乱が相次いでおり、10日にチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世がインドに亡命するきっかけとなった騒乱から50周年を迎えることから、地元当局は厳戒態勢を敷いている。現場は四川省との境界近くの山岳地帯にある地元警察の検問所。警察当局が8日午後、地元住民のトラックを停止させ、荷物と免許証を検査していたが口論となった。近くの数十人の住民が集まり深夜まで続いた。……四川大地震の被災地復興のために、地元のチベット族が「聖地」とあがめている山で大量の木が伐採されていることへの反発が口論の引き金になったという。自治州では昨年3月にチベット族による騒乱があり、4月には地元警察幹部が「チベット独立派」の銃撃に遭い死亡している。
2009年3月9日 朝日新聞

■朝日新聞の情報の方が事件の背景を詳しく教えてくれています。チベットには山岳信仰が根強く残っており、仏教の陰に隠れてしまっていても人々の信仰は微妙な混淆状態が続いているのです。日本でも江戸時代までは行政上の資源保護を目的とする「お留め山」や、地元のアニミズム信仰に根差した伐採禁止の「聖なる山」が日本中にありましたが、チベットは今でも強烈な山岳信仰が生き残っているのであります。無神論を掲げて乱入して来た共産党軍は、寺院の仏像や法具などを掠奪破壊すると同時に、膨大な森林資源を根こそぎにして持ち去ったのは有名な話です。人的被害も甚大だったのに正確な記録が残っていないくらいですから、動植物が受けた被害の実態など誰も知りません。

■山奥で起こった地元住民と警察との諍(いさか)いは、あっと言う間に情報統制の網の目をくぐって口コミで広がりますから、青海省内の別の場所で、もっと大きな騒動が起こるのではないか?と危惧しておりましたら、最も起こって欲しくない場所で火を噴いてしまったようです。


新華社によると、中国の青海省チベット自治区で暴動が起き、数百人が警察署などを襲撃した。それを受け、中国当局は22日、僧侶ら約100人の身柄を拘束した。チベット独立運動に関与した疑いで拘束された男性が行方不明になった問題が一因となったもようで、新華社は、人々が「うわさにだまされている」と伝えた。また21日には「警官と政府職員が(集団)攻撃を受け、複数の政府職員が軽傷を負った」と伝えたが、現地は平穏に戻っていると付け加えた。

■これはロイター電ですが、新華社発表の丸写し情報ですから、さっぱり要領がつかめません。何が起ころうとも直ぐに「平穏」無事になってしまうのがチャイナ情報の悪い癖なのですが、「身柄拘束」された僧侶の数が本当に100人以上だとしたら、これは相当に大きな規模の暴動であったはずですし、その後の影響もただならなぬ物になりそうな予感がしますぞ。決して簡単に「平穏」状態になど戻れないはずなのですが……。


インド北部のダラムサラにあるチベット亡命政府のウェブサイトは、チベット人僧侶の自殺をめぐり、約4000人が中国警察と衝突したと伝えた。新華社の報道によれば、6人が拘束され、89人が「降伏」。大半が行方不明となった僧侶が属していた寺院の僧侶だったという。2009年3月23日 ロイター

■どうやら、この暴動騒ぎは時期と言い場所と言い、ただでは済まない広がりと深刻さが予想されます。杞憂で終わればよいのですが……。