旅限無(りょげむ)

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沖縄基地移設問題 其の八

2005-10-31 17:53:22 | 政治
其の七の続き

■文書は遠慮会釈せずに、日本の裏側まで知っている米国から、要求可能な全てが付き付けられているようです。

◇4 二国間の安全保障・防衛協力の態勢を強化するための不可欠な措置
 上述の役割・任務・能力に関する検討に基づき、双方は、更に、新たな安全保障環境において多様な課題に対処するため、二国間の安全保障・防衛協力の態勢を強化する目的で平時からとり得る不可欠な措置を以下のとおり特定した。また、双方は、実効的な二国間の協力を確保するため、これまでの進捗(しんちょく)に基づき、役割・任務・能力を引き続き検討することの重要性を強調した。

●緊密かつ継続的な政策及び運用面の調整
双方は、定期的な政策及び運用面の調整が、戦略環境の将来の変化や緊急事態に対する同盟の適時かつ実効的な対応を向上させることを認識した。部隊戦術レベルから戦略的な協議まで、政府のあらゆるレベルで緊密かつ継続的な政策及び運用面の調整を行うことは、不安定化をもたらす軍事力増強を抑制し、侵略を抑止し、多様な安全保障上の課題に対応する上で不可欠である。米軍及び自衛隊の間で共通の運用画面を共有することは、運用面での調整を強化するものであり、可能な場合に追求されるべきである。防衛当局と他の関係当局との間のより緊密な協力もますます必要となっている。この文脈で、双方は、1997年の日米防衛協力のための指針の下での包括的メカニズムと調整メカニズムの実効性を、両者の機能を整理することを通じて向上させる必要性を再確認した。

■「部隊戦術レベルから戦略的な協議まで、政府のあるあゆるレベル」と投網を打ったような文言です。この文書を作った人の頭の中には「憲法9条」も「集団的自衛権」も欠片も無いようです。日本は米国と対等の世界戦略を語り合える、立派な軍事大国であるかのような印象を受ける文書ですなあ。

●計画検討作業の進展
1997年の日米防衛協力のための指針が共同作戦計画についての検討及び相互協力計画についての検討の基礎となっていることを想起しつつ、……この検討作業は、空港及び港湾を含む日本の施設を自衛隊及び米軍が緊急時に使用するための基礎が強化された日本の有事法制を反映するものとなる。双方は、この検討作業を拡大することとし、そのために、検討作業により具体性を持たせ、関連政府機関及び地方当局と緊密に調整し、二国間の枠組みや計画手法を向上させ、一般及び自衛隊の飛行場及び港湾の詳細な調査を実施し、二国間演習プログラムを強化することを通じて検討作業を確認する。

■「有事法制」は、日本側でどれほどモメようと、着々と米軍の再編成と歩調を合わせて進めねばならなかったのです。緊急時には、日本中の港湾や飛行場が米国に自由に使って頂ける様になっております。「関連政府機関」が選挙の大勝の後で文句を言うはずはなく、「地方当局」であろうと、自民党の地方支部に粛清の嵐が吹き荒れた後で、どれほどの意見を述べられるのか、はなはだ心細いところです。米軍の人員や装備が引っ越して来るのをぶつぶつ言うくらいが精一杯なのではないでしょうか?

●情報共有及び情報協力の向上
双方は、良く連携がとれた協力のためには共通の情勢認識が鍵であることを認識しつつ、部隊戦術レベルから国家戦略レベルに至るまで情報共有及び情報協力をあらゆる範囲で向上させる。この相互活動を円滑化するため、双方は、関連当局の間でより幅広い情報共有が促進されるよう、共有された秘密情報を保護するために必要な追加的措置をとる。

■「個人情報保護法案」などという奇妙な法律が提出されて、悪徳政治家が賄賂を受け取っても逃げ遂せるように悪用しようとしたとて、大騒ぎになりましたが、本当に保護しなければならないのは「個人情報」ではなく「国家機密」です。米国が大幅に情報の共有を要求して来れば、日本に忠誠を誓わずに、別の国のイデオロギーに親近感を持っているような政治家を徹底的に洗い出して追い出さねばならなくなります。そんな激しい法律が日本で通せるのか?しかし、300議席を手に入れたからには,これからの4年間、自民党は存分にその威力を示してくれる事でしょう。びっくりするような法律が続々と提出されて来そうです。

●相互運用性の向上
自衛隊が統合運用体制に移行するのに際して円滑な協力を確保するため、自衛隊及び米軍は、相互運用性を維持・強化するため定期的な協議を維持する。共同の運用のための計画作業や演習における継続的な協力は、自衛隊と米軍の司令部間の連接性を強化するものであり、安全な通信能力の向上はこのような協力に資する。

●日本及び米国における訓練機会の拡大
双方は、相互運用性の向上、能力の向上、即応性の向上、地元の間での訓練の影響のより公平な分散及び共同の活動の実効性の増大のため、共同訓練及び演習の機会を拡大する。これらの措置には、日本における自衛隊及び米軍の訓練施設・区域の相互使用を増大することが含まれる。また、自衛隊要員及び部隊のグアム、アラスカ、ハワイ及び米本土における訓練も拡大される。
○特に、グアムにおける訓練施設を拡張するとの米国の計画は、グアムにおける自衛隊の訓練機会の増大をもたらす。

■アラスカまで出張って来い!というのは思い切った事を言われたものです。先の戦争では、日本はダッチハーバーにちょっかいを出しただけで終わりましたからなあ。アッツ島玉砕、キスカ島奇跡の撤退、妙になつかしい地名が思い浮かぶ話です。アラスカで寒冷地用の訓練でもするのでしょうか?一体、何処の寒い国を仮想敵国としているのでしょう?またしても、シベリア出兵をしようとでも言うのでしょうか?グアムでの「訓練機会の増大」という事は、強襲上陸作戦を前提としているのでしょうか?一体、何処の国の海岸に上陸する準備なのでしょう?

○また、双方は、多国間の訓練及び演習への自衛隊及び米軍の参加により、国際的な安全保障環境の改善に対する貢献が高まるものであることを認識した。

■何度も出て来る「国際的な安全保障環境」ですが、今の世界で最も安全を脅かしているのは、イスラム過激派のテロ攻撃です。これに対してイラクに派遣されている自衛隊は、絶対に攻撃してはならない!と命令されているのです。この文書では、この制限は早々に消えてなくなる、と米国側は考えているとしか思えませんなあ。

其の九に続く

沖縄基地移設問題 其の七

2005-10-31 17:11:16 | 政治
其の六の続き

■さらに基本的な考え方の羅列が続きます。

また、双方は、国際的な安全保障環境の改善の分野における役割・任務・能力に関連するいくつかの基本的考え方を以下のとおり確認した。

●地域及び世界における共通の戦略目標を達成するため、国際的な安全保障環境を改善する上での二国間協力は、同盟の重要な要素となった。この目的のため、日本及び米国は、それぞれの能力に基づいて適切な貢献を行うとともに、実効的な態勢を確立するための必要な措置をとる。

●迅速かつ実効的な対応のためには柔軟な能力が必要である。緊密な日米の二国間協力及び政策調整は、これに資する。第三国との間で行われるものを含む定期的な演習によって、このような能力を向上し得る。

●自衛隊及び米軍は、国際的な安全保障環境を改善するための国際的な活動に寄与するため、他国との協力を強化する。
 
■これらは「韓国と仲良くしろ!」という米国の注文です。靖国神社に行かない方が良いんじゃないか?などという発言が米国から出て来るのも、この相互確認文書に基づいているのかも知れません。チャイナに気を使って見せる意味も持たせられるので、米国としては使い易いカードになります。日米それぞれの「能力」という文言が有りますから、自衛隊の装備やシステムを更に米国とリンクさせて行くことの再確認でもありましょうなあ。


加えて、双方は、新たな脅威や多様な事態に対処すること、及び、国際的な安全保障環境を改善することの重要性が増していることにより、双方がそれぞれの防衛力を向上し、かつ、技術革新の成果を最大限に活用することが求められていることを強調した。

◇3 二国間の安全保障・防衛協力において向上すべき活動の例

 双方は、あらゆる側面での二国間協力が、関連の安全保障政策及び法律並びに日米間の取極(とりきめ)に従って強化されなければならないことを再確認した。役割・任務・能力の検討を通じ、双方は、いくつかの個別分野において協力を向上させることの重要性を強調した。

●防空
●弾道ミサイル防衛
●拡散に対する安全保障構想(PSI)といった拡散阻止活動
●テロ対策
●海上交通の安全を維持するための機雷掃海、海上阻止行動その他の活動
●捜索・救難活動
●無人機(UAV)や哨戒機により活動の能力と実効性を増大することを含めた、情報、監視、偵察(ISR)活動
●人道救援活動
●復興支援活動
●平和維持活動及び平和維持のための他国の取組の能力構築

■誠に盛りだくさんの内容で、日本の自衛隊は大忙しです。15年前の湾岸戦争で、海上自衛隊が「機雷掃海」を行なった実績が有りますが、「弾道ミサイル防衛」だの「無人機」だのと、米国が苦しい財政の中で必死で開発している兵器を、開発段階でも配備段階でも、日本はせっせと予算を付けて注文に応じなければなりません。

●在日米軍施設・区域を含む重要インフラの警護
●大量破壊兵器(WMD)の廃棄及び除染を含む、大量破壊兵器による攻撃への対応
●補給、整備、輸送といった相互の後方支援活動。補給協力には空中及び海上における給油を相互に行うことが含まれる。輸送協力には航空輸送及び高速輸送艦(HSV)の能力によるものを含めた海上輸送を拡大し、共に実施することが含まれる。
●非戦闘員退避活動(NEO)のための輸送、施設の使用、医療支援その他関連する活動
●港湾・空港、道路、水域・空域及び周波数帯の使用

双方は、以上に明記されていない他の活動分野も同盟の能力にとって引き続き重要であることを強調した。上述の項目は、更なる向上のための鍵となる分野を強調したものであり、可能な協力分野を包括的に列挙することを意図したものではない。
 
■引用末尾の「可能な協力分野を包括的に列挙することを意図したものではない」という言い訳染みた文言は、おろらく日本側が逃げ道を用意して欲しい、と要求して書き加えられてのではないでしょうか?敗戦後、米国は日本から「翼」をもぎ取ってしまいました。その後もジェット機の自主開発は許さず、米国が売り付けた航空自衛隊が保有する全ての機種から「航続距離」を奪い取りました。プロペラ機の時代に、設計と試作段階にまで太平洋を横断する長距離爆撃機を開発している日本は、長い間、米国の驚異でした。

■日米同盟を利用して日本が世界一の自動車産業を育てたのを見て、米国は改めて「翼」を奪っておいて良かった!と思ったことでしょう。YS-11という民間用の傑作プロペラ機を作った日本は、その段階で世界のジェット化から大きく遅れていました。その後も、米国製のジェット機を購入し続けて、「飛鳥」というずんぐりむっくりの国産ジェット機を開発したものの、商業ベースに乗せられずに生産を断念した経緯が有ります。航空技術を断絶させておかなければ、三菱や中島などの飛行機産業が、米国の民間機生産を凌駕するような発展をした可能性が有りましたなあ。造船能力だけは温存出来たので、戦艦大和の技術で石油タンカーを造り、大海軍を国産で組み上げた特殊船の造船能力も、戦後の造船業を支えました。

■現在は、IT技術の軍事転用が中心となりましたから、米国は軍事用では完全に日本を屈服させているので、安心して共同作戦を練ることが出来ますなあ。日本が下請けに甘んじていれば問題は起こりません。

其の八の続き

沖縄基地移設問題 其の六

2005-10-31 16:31:08 | 政治
其の五の続き

■もう、日本が何をしなければならないのか?その答えは出ているのです。国内世論を睨みながら選挙に負けないようにだらだらと時間を稼いで、天の配剤か、郵便ポストの増減だけで大喧嘩を演出するのに成功した小泉さんは、国民から白紙委任状と4年間と言う望み得る最長の時間をまんまと手にしました。


◇1 重点分野
この文脈で、日本及び米国は、以下の二つの分野に重点を置いて、今日の安全保障環境における多様な課題に対応するための二国間、特に自衛隊と米軍の役割・任務・能力を検討した。
--日本の防衛及び周辺事態への対応(新たな脅威や多様な事態への対応を含む)
--国際平和協力活動への参加をはじめとする国際的な安全保障環境の改善のための取組

■あれほど国会が加熱して議論してもさっぱり意味が分からないまま通ってしまった「周辺事態」という言葉が、当然のように文書に入っています。「地理的概念ではない」と突っぱねられた意味不明の「周辺」が、イラクまでは続いていた事だけはやっと分かりました。しかし、これからは「国際的な安全保障環境」まで改善するという大仕事を、日本は分担するのだそうです。どんなに巧妙に言い逃れようとも、「国際的な完全環境」は「周辺事態」よりは絶対に広い領域を意味します。世界が200海里時代に入った遥か後でも、「周辺事態」に台湾が入るか入らないか?と大真面目に議論していた国会が懐かしうございますなあ。

■インド洋に出た海上自衛隊、イラクに駐留する陸上自衛隊、そしてクウェート基地で空輸作戦に従事している航空自衛隊にとって、アフリカも地中海も、「遠い場所」ではなくなりました。もしも、地中海にも海上自衛隊が呼ばれると、第一次世界大戦以来のこととなります。そして、残されているのは、米英両国が担当している大西洋だけですが、ここにもお呼びが掛かるとなれば、史上初の快挙?怪挙?となりますなあ。そうなったら、お祝いでもするのでしょうか?


◇2 役割・任務・能力についての基本的考え方
双方は、二国間の防衛協力に関連するいくつかの基本的考え方を確認した。日本の防衛及び周辺事態への対応に関連するこれらの考え方には以下が含まれる。
 ●二国間の防衛協力は、日本の安全と地域の平和と安定にとって引き続き死活的に重要である。
 ●日本は、弾道ミサイル攻撃やゲリラ、特殊部隊による攻撃、島嶼(とうしょ)部への侵略といった、新たな脅威や多様な事態への対処を含めて、自らを防衛し、周辺事態に対応する。これらの目的のために、日本の防衛態勢は、2004年の防衛計画の大綱に従って強化される。
 
■「弾道ミサイル攻撃やとゲリラ、特殊部隊による攻撃」と聞いて、何処の国を想定しているのか、ピンと来ない日本人はいなくなりましたなあ。「島嶼部への侵略」と言えば、尖閣諸島と竹島を既に「侵略」している2つの国が有ります。今までは日米で手を組んで「対応する」事は無かったけれど、これからはヤル!という約束のように読めます。

●米国は、日本の防衛のため、及び、周辺事態を抑止し、これに対応するため、前方展開兵力を維持し、必要に応じて兵力を増強する。米国は、日本の防衛のために必要なあらゆる支援を提供する。

●周辺事態が日本に対する武力攻撃に波及する可能性のある場合、又は、両者が同時に生起する場合に適切に対応し得るよう、日本の防衛及び周辺事態への対応に際しての日米の活動は整合を図るものとする。
 
■米国は「前方展開兵力」を維持すると書かれている通り、既に日本海にはイージス艦を送ってくれていますし、北朝鮮上空を偵察飛行したり、一説にはステルス機で金正日総書記が滞在していると思われる場所に爆音を響かせて示威行動を続けているとも言われます。日本はその陰で、「拉致被害者」の人数を調べておりますなあ。

●日本は、米軍のための施設・区域(以下、「米軍施設・区域」)を含めた接受国支援を引き続き提供する。また、日本は、日本の有事法制に基づく支援を含め、米軍の活動に対して、事態の進展に応じて切れ目のない支援を提供するための適切な措置をとる。双方は、在日米軍のプレゼンス及び活動に対する安定的な支持を確保するために地元と協力する。

●米国の打撃力及び米国によって提供される核抑止力は、日本の防衛を確保する上で、引き続き日本の防衛力を補完する不可欠のものであり、地域の平和と安全に寄与する。

■日本の安全の為に「核兵器」まで使って下さるのだそうです。親切心で使っていただく核兵器は、「持たず、作らず、持ち込ませず」の非核三原則の範囲外ですから、特に問題は無いのでしょうが、憲法よりも非核三原則を改定しておくべきでしたなあ。右に振るなら、「作らず」を「今のところは作らず」にするとか、「持ち込ませず」を「同盟国の持ち込みは歓迎する」とか書き換えれば、日米同盟政策ももたもたしないでも済むでしょう。左に振るのなら、「持ち込ませず」を「領海内通過さえも認めず、核搭載艦は撃沈の可能性も有る」ぐらいの意志を表明しておくべきでしたろうに……。極左か極右か分かりませんが、「日本周辺の国には作らせず」という一項を入れておけば、外交方針が明確になったかも知れませんなあ。

其の七に続く

沖縄基地移設問題 其の伍

2005-10-31 15:41:43 | 政治
其の四の続き

■沖縄基地の移転問題に衆目が集まっている今回の日米交渉の基盤となっている日米同盟について、更に詳しく見てみようと思います。再び、毎日新聞の特集を引用します。


在日米軍再編:中間報告 日米同盟「未来のための変革と再編」

◆1 概観
 日米安全保障体制を中核とする日米同盟は、日本の安全とアジア太平洋地域の平和と安定のために不可欠な基礎である。同盟に基づいた緊密かつ協力的な関係は、世界における課題に効果的に対処する上で重要な役割を果たしており、安全保障環境の変化に応じて発展しなければならない。以上を踏まえ、2002年12月の安全保障協議委員会以降、日本及び米国は、日米同盟の方向性を検証し、地域及び世界の安全保障環境の変化に同盟を適応させるための選択肢を作成するため、日米それぞれの安全保障及び防衛政策について精力的に協議した。
 
■日本の占領政策から、朝鮮戦争の助っ人として日本国内の共産主義勢力に対する警備、それから対ソ冷戦時代の子分役、日米関係は軍事同盟としての色彩を強めながら、米軍主導で歴史を刻んで来ました。そして、21世紀になって米国本土が直接攻撃される事態になって、日本は「周辺事態」から一足飛びに「世界の安全保障環境の変化」に対応するように米国から背中を押されております。


2005年2月19日の安全保障協議委員会において、閣僚は、共通の戦略目標についての理解に到達し、それらの目標を追求する上での自衛隊及び米軍の役割・任務・能力に関する検討を継続する必要性を強調した。また、閣僚は、在日米軍の兵力構成見直しに関する協議を強化することとし、事務当局に対して、これらの協議の結果について速やかに報告するよう指示した。
 本日、安全保障協議委員会の構成員たる閣僚は、新たに発生している脅威が、日本及び米国を含む世界中の国々の安全に影響を及ぼし得る共通の課題として浮かび上がってきた、安全保障環境に関する共通の見解を再確認した。また、閣僚は、アジア太平洋地域において不透明性や不確実性を生み出す課題が引き続き存在していることを改めて強調し、地域における軍事力の近代化に注意を払う必要があることを強調した。この文脈で、双方は、2005年2月19日の共同発表において確認された地域及び世界における共通の戦略目標を追求するために緊密に協力するとのコミットメントを改めて強調した。
 
■外交文書特有の、持って回った言い方ですが、「アジア太平洋地域において不透明性や不確実性を生み出す課題」とは、台湾問題が第一で、北朝鮮の核開発、そしてチャイナの海軍力増強です。日本の西に北から順に「不透明で不確実」な課題がずらりと並んでいるというわけです。これは、列島の下に走る巨大な活断層や構造線に匹敵する危機の連鎖でもあります。米軍はこの東アジアからバルカン半島までを「不安定な弧」と読んで、グアム島を一つの要にしようとしております。グアムには中東全域に空爆を加える能力が備わっていますし、沖縄列島を楯としてチャイナと大規模な戦闘を展開する拠点ともなります。


閣僚は、役割・任務・能力に関する検討内容及び勧告を承認した。また、閣僚は、この報告に含まれた再編に関する勧告を承認した。これらの措置は、新たな脅威や多様な事態に対応するための同盟の能力を向上させるためのものであり、全体として地元に与える負担を軽減するものである。これによって、安全保障が強化され、同盟が地域の安定の礎石であり続けることが確保される。

■今年の2月の段階で、これだけの決意を日本は表明しているのですから、いかにも普天間問題に関しては無様にもたつきました。その間にも、英国の地下鉄やインドネシアやインドで爆弾テロが広がり、イラクは本格的な内戦状態になってしまいました。滑走路一本を作るの作らないのとうだうだ言っている間に、イラクでの米軍の戦死者は公式に2000人を越えたのですから、砂漠でボーイスカウト生活している身分の日本が、いかにも身勝手に見えるのも仕方が有りませんなあ。

◆2 役割・任務・能力
テロとの闘い、拡散に対する安全保障構想(PSI)、イラクへの支援、インド洋における津波や南アジアにおける地震後の災害支援をはじめとする国際的活動における二国間協力や、2004年12月の日本の防衛計画の大綱、弾道ミサイル防衛(BMD)における協力の進展、日本の有事法制、自衛隊の新たな統合運用体制への移行計画、米軍の変革と世界的な態勢の見直しといった、日米の役割・任務・能力に関連する安全保障及び防衛政策における最近の成果と発展を、双方は認識した。

■このように、中身がぎっしり詰まったパッケージに判子を捺している日本政府が、せっかく国民の総意を確認できる貴重な機会だった総選挙を、「郵政民営化に賛成か反対か」というどうでも良い問題を最大の争点にしてガリレオ首相が茶番劇にしてしまいましたなあ。次の選挙は4年後ですから、今回の大勝の影響は延々と続いて、この意図的に隠されたかのような日米同盟プランが着々と進められて行くのですなあ。これこそ、「国民の意思を問う」べき最大のテーマでした。これを郵政改革の包み紙に隠して認印を捺させたのですから、さすがは小泉衆愚政治です。実に見事でした。「刺客」「マドンナ」「小泉チルドレン」こんな造語をしてハシャイだマスコミの罪は重く、それにまんまと乗った国民はアホでしたなあ。勿論、一緒になって民営化の重箱の隅をつつき合った民主党は、最も罪が重いわけですが……。

其の六に続く

沖縄基地移設問題 其の四

2005-10-31 13:58:36 | 政治
其の参の続き

■沖縄から消える7000人は凶暴な戦闘要員ではないし、在日米軍自体が縮小されるのではなく、日本の何処かに分散するという話です。これは、インターネット技術が開発された軍事思想と同じものかも知れません。インターネットは、軍の中枢を核攻撃された場合を想定して、まったく同じ機能を持つサブ・システムを分散させて継戦能力を維持しようとする技術です。網の目上に結び付いた指令系統は、どこかの中心が壊滅しても全体としての機能は保存されるというわけです。韓国に駐留している米軍は、冷戦の終結にともなって攻撃力を削減して沖縄に集中している部隊の重要性が更に増したわけですが、逆に言えば、敵の攻撃が沖縄に集中したら一挙に防衛線が崩壊して、西太平洋が一時的に奪い取られてしまう事を意味します。

■そうなれば、旧日本海軍を相手にして実施されたハワイからの反攻作戦を再びやらねばなりません。沖縄の重要性は変らずとも、グアムと言う本物の切り札を強化しつつ、日本列島内の米軍基地の能力を高めて沖縄のサブ・システムを構築しようと言うのです。勿論、そのシステムには自衛隊ががっちりと組み込まれています。

嘉手納基地以南の人口密集地にある「相当規模の土地の返還を可能にする」との表現で、牧港補給地区などの返還を検討することも盛り込まれたが、日本側が普天間飛行場の代替空港建設を実行し、海兵隊司令部のグアム移転経費を負担することが前提とされている。
神奈川県内では、空母艦載機の夜間発着訓練(NLP)に悩まされてきた厚木基地の周辺住民にとっては大きな負担軽減となる一方、キャンプ座間は陸上自衛隊の中央即応集団司令部の設置も検討され、米陸軍との連携拠点となる見通し。中間報告には盛り込まれなかったが、原子力空母の横須賀配備も決まり、基地の固定化が進んだ側面も強い。政府は今後、同盟強化と負担軽減のパッケージで国民に理解を求めていく方針。しかし、米軍基地の移設経費だけでなく、周辺自治体への基地対策や地域振興策の経費を負担するのも国民であり、同盟強化の得失と国民負担の全体像は中間報告に示されていない。

■海の横須賀から内陸の厚木まで、東京を南西から圧する場所に強力な米軍のベルトが敷かれます。横須賀は東京湾の内側から浦賀水道を圧する港ですから、東京は南の出口を完全に米軍に抑えられているというわけです。日米交渉は絶対に決裂などしない象徴のような基地ですなあ。裁判やら補償金支払いやら、長年もめていた厚木問題が沖縄に移り、沖縄からは岩国基地へと一部が分散移動する計画案は、日本の地方自治体のエゴがぶつかる騒動が必ず起きるでしょうなあ。

◇沖縄のための削減でない--我部政明・琉球大教授
 在日米軍再編では、普天間飛行場の移設については日本側のシュワブ沿岸案に米国が譲歩したという受け止め方があるが、むしろトータルでは米国が取るべきものを取ったのではないかと思う。在沖縄海兵隊の約7000人削減は普天間の移設受け入れの条件としてパッケージだ。だが普天間を移すために海兵隊を削減する必要が本当に米軍にあったかというと、そうではない。必要があるのなら、96年のSACO(日米特別行動委員会)最終報告の時に言っていたはずだ。これは米軍再編の流れの中で削減されたのであって沖縄の負担軽減に配慮したものではない。

■この指摘は重要です。米国は日本に「屈服」と「予算」しか求めませんし、それを当然だと考えています。キャンプ・シュワブは沖縄本当の東海岸、つまり台湾有事の際には、戦場に対して島の裏側に位置する事になる場所に有ります。戦場と正対する西海岸に並ぶ牧港補給地区・普天間・瑞慶覧・嘉手納から指令機能をグアムに移転し、戦闘力を東海岸のキャンプ・シュワブに集中的に移転するというのは米軍の一方的な計画で、日本側からの要望など一切考慮されていないでしょう。九州や岩国に一部が移転して、一層、半島や台湾に対して臨戦態勢が取られるようにしか見えませんぞ。

◇実現優先、シュワブ沿岸案--久間章生・元防衛庁長官
米軍普天間飛行場の移設先となったキャンプ・シュワブ沿岸部は非常に現実性のある案だ。米提案の海上では(反対運動の)警備を海上保安庁に頼まなければならない。陸だったら(警察権を行使して)排除できるが、海なら難しい。米政府は日本の法律や実態をよく知らなかったのではないか。理想論で海上の方が騒音や危険性が少ないと思っていた。人口密集地の普天間を移すことは大きな負担軽減になる。沖縄の基地の必要性を認めざるを得なくなれば、負担の軽減を図らなければならないと思うが、負担をゼロにすること自体は無理だ。99年に閣議決定した海上の辺野古沖現行計画で今やろうと思っても実現できない。そういう現実を知ったうえで、実現可能な解決策を探ったというのが今度の方法だ。(現行計画は)中身に問題があった。(96年から98年まで)防衛庁長官だったから、やっぱり海への埋め立ては難しいということをもう少し考えるべきだったと、今は思う。ただ、日本に米海兵隊が駐留することがアジア太平洋地域の安定性につながっている。中国に対する抑止力になる。中国にとってもマイナスじゃない。国内の強硬派が出てくるのを抑えることにもなっていると思う。自制心が働くのではないか。

■チャイナの人民解放軍を抑え込めば胡錦涛さんも喜ぶだろうとは、久間さんも思い切った事をおっしゃりますなあ。大したものです。逆に奮い立ったりしないか、ちょっと心配ですなあ。こういうのを余計な一言、挑発と言うのですぞ!

◇陸上自衛隊中央即応集団
国内で起きた大規模テロや災害などの緊急事態に素早く展開・対応させるため、防衛庁が計画している新たな長官直轄部隊。国際協力活動で海外派遣された部隊も指揮し、派遣隊員を育成する「国際活動教育隊」も置かれる。防衛庁は06年度予算の概算要求に新設費を盛り込んでおり、4000~5000人規模となる見通し。
ここまで毎日新聞 2005年10月30日

其の五に続く

沖縄基地移設問題 其の参

2005-10-31 13:38:16 | 政治
其の弐の続き

■沖縄の基地問題と言うと、推進する方も反対する方も、人口密集地のど真ん中に置かれている普天間基地が、東側の海岸に移転する話に集中してしまうので、報道もそれに合わせて問題が見えなくなってしまいます。今回の日米交渉は、滑走路一つを引っ越すだけの話ではありませんでした。毎日新聞の特集記事を下敷きにして、少し詳しく見て行きましょう。


◇ガイドライン改定検討
日米両政府が29日発表した在日米軍再編協議の中間報告では、自衛隊が米軍の「後方支援部隊」として世界に展開する方向性が打ち出された。3年越しで続けられた再編協議の狙いは、自衛隊と米軍の一体化による世界規模の同盟協力強化にあり、沖縄を中心とした基地負担の軽減は一体化の副産物のようにも映る。両政府は今後、来年3月の最終報告へ向け再編計画の作成を進めるとともに、日米防衛指針(ガイドライン)の改定を検討し、役割・任務分担の具体化に着手する。「同盟を本来あるべきところに持っていかないといけない。日本の変化は控えめで、安全保障上の利益を拡大する機会を失いかねない」在日米軍再編協議が普天間飛行場の移設先をめぐり難航していた25日、東京で講演したローレス米国防副次官はこう語り日本政府の対応を批判した。「沖縄の負担軽減」を求める日本政府に対し、同盟強化という本来の目的を忘れているのではないか、との不信感を示した発言と受け取られた。

■この10年間、日本は常に被害者のような顔をして先延ばしを続けていました。政権担当能力など無い野党であっても、反米・反基地になると与党を追い詰めるだけの理屈を持っていましたし、「沖縄問題」と言われると、国民全体の気分としても沖縄だけに犠牲を強いていると感じてしまいます。沖縄には沖縄の事情が有って、本当に基地が無くなってしまったら、島の経済が崩壊してエライことになるという事実を指摘するのも遠慮がちでした。こうした吉田茂さんの時代から使って来た「米国の指示に従った非武装」を楯にする外交方針は、一度も変更されること無く、つい最近まで外務省は伝統を守っていました。しかし、米国側から憲法改正や自衛隊の海外派遣を要請して来る時代になってしまいました。「安全保障上の利益を拡大」と米国側が言う時には、日本側が迷惑顔で沖縄問題を扱う事を許さないぞ!という意味です。「これから地元を説得します」などという防衛庁長官の台詞など聞く耳持たないのが米軍の本音でしょうなあ。

日本政府は昨年12月に閣議決定した新たな「防衛計画の大綱」で国際平和協力活動を日本の防衛と並ぶ2本柱に位置づけた。しかし、政府は国際活動を本来任務に格上げする自衛隊法改正案の国会提出を見送り、自衛隊を海外派遣するための恒久法の制定作業も進んでいない。新防衛大綱で世界規模の同盟強化を公約したと受け取った米側からみれば、日本政府のこの1年間の対応は期待外れだった。
中間報告にはそうした米側の思いが反映された。97年に改定された現行の防衛協力指針は、日本の防衛だけでなく朝鮮半島有事などを想定した周辺事態の協力を打ち出したが、中間報告では「現在指針で取り上げられていない追加的な分野」の協力強化が明記された。今後、国際活動での協力強化を規定し、日本の防衛でも一体化を進めるため、指針改定が検討される見通しだ。

■「非戦闘地帯」という苦し紛れの法解釈の抜け道を作って、苛立つ米国を宥めてイラクに自衛隊を送ってしまったという事実は、その前後の政治状況などとは切り離された「歴史的な事実」となって一人歩きを始めてしまっています。

 日本有事や周辺事態に自衛隊と米軍が日本国内の空港・港湾を使用できる有事法制が整備されたことを受け、各地の空港・港湾の使用を想定した共同作戦計画の検討作業を拡大させることも中間報告に盛り込まれた。「共有された秘密情報を保護するために必要な追加的措置をとる」として軍事機密の漏えいを防止する法整備の可能性も示唆。国民生活も同盟強化と無縁ではない。米国の世界戦略に自衛隊を組み込む形で進む米軍の変革・再編(トランスフォーメーション)。しかし、昨年の新大綱決定は防衛予算の削減幅に注目が集まり、今回の中間報告は普天間飛行場の移設先見直しが焦点となったため、同盟強化の本質論はかすみがちだ。日本政府は今回の中間報告を受け、自衛隊法の改正や恒久法の制定作業も進める見通しで、国会も論議の舞台になる。

■イラクやインド洋に自衛隊が派遣された後に残された問題は、「自衛隊を何時撤退させるか」ではなく、「次は何時、何処に派遣するか」です。イラク派遣は、問題の終結ではなく、大きな始まりなのですが、どうも総選挙の様子を見ていますと、日本人の多くは「イラクはもう終わった話」だと勘違いしているのではないか、と思えてなりませんなあ。

◇米国「食い逃げ」嫌う
在日米軍再編協議の中間報告に盛り込まれた再編案の骨格は、キャンプ座間と横田基地に自衛隊と米軍の司令部機能を集めて「一体化」を進める一方、米軍基地の集中する沖縄と神奈川の「負担軽減」にも配慮する内容となった。ただ、中間報告には「(再編案の)パッケージ全体について合意され次第、実施が開始される」ことも強調され、負担軽減だけが食い逃げされることを嫌う米側の意向もにじむ。沖縄の負担軽減の目玉は(1)普天間飛行場の移設(2)在沖縄海兵隊の約7000人削減(3)嘉手納基地の訓練を県外の自衛隊基地に移すことによる騒音軽減--など。ただ、普天間の県内移設には反発が強いほか、海兵隊の削減は司令部要員や後方支援要員が中心で、実動部隊は沖縄に残る。

■「物は言い様」で「見ると聞くとでは大違い」と言いますが、新聞の大見出しや、要点だけを伝えるテレビ・ニュースを聞き流していると、トンデモない事になりますぞ!現在、人口密集地のど真ん中に位置している普天間基地の風景は、うっかりすると丁度うまい具合にドーナツ型の空き地が有ったから、そこに米軍基地をはめ込んだような印象を受けますが、強引に土地を収用して基地を設営した時から半世紀以上が経過して、基地を中心に周辺に人々が集まって町が大きくなったとい歴史の産物でしょうから、米軍側としては手狭で不便になった不満が有ったでしょうし、何よりも老朽化が激しいのは当然でしょう。基地の「移転」というと日本側の要求を受け容れたような気がしますが、実際には「新築」された最新設備に引っ越すという事です。移転先にどんな豪華な設備が完成するのか、駐留軍は楽しみにしている事でしょうなあ。

其の四に続く

沖縄基地移設問題 其の弐

2005-10-31 12:52:46 | 政治
其の壱の続き

■ワシントンでは日米蜜月時代の再来のような笑顔がいっぱいの記者会見でしたが、国内政治と切り離された外交など有るはずが無いのです。本当なら、この後始末をどうするんだ!と日本中が大騒ぎになっていなければならない本日10月31日なのに、自民党から「憲法草案」まで発表されたと言うのに、マスコミは「小泉サプライズ人事」を物欲しそうに追い回している始末です。こんなマスコミが国策を誤らせるのですなあ。


在日米軍再編協議の中間報告に厚木基地(神奈川県)から空母艦載機の岩国基地(山口県)への移設が盛り込まれた山口県の二井関成知事は30日、受け入れ反対を表明した。記者会見で「厚木から岩国への単なるたらい回しではないか。夜間発着訓練(NLP)の実施を誘因する恐れがある」と述べた。毎日新聞 2005年10月30日

■岩国基地は、朝鮮半島で戦争が始まっても、山口県と瀬戸内海が自然のバリアとなって利用できる上に、日本最大の軍港だった呉を監視する位置に有るなど、占領時代に設置したまま放置されている時代遅れの基地のように思えます。


在日米軍再編協議の中間報告に対し、岩国基地が県境から約5キロ、広島市から約30キロにある広島県の藤田雄山知事は「国には同基地の機能強化は容認できないと伝えてきた。中間報告でも、夜間発着訓練(NLP)実施の可能性は否定できない」とのコメントを出した。毎日新聞 2005年10月30日

■地元では、夜間発着訓練の騒音問題くらいしか、反対の理由が見つからなくなっているのが問題で、占領時代にあちこちで起こった不祥事や犯罪をGHQは徹底的に隠蔽して「良い米軍」を演出しましたが、それでも基地周辺では人の口にとは立てられず、悪い噂は止む事はなかったようです。日本が独立を回復するに従って、徐々に日本の警察機構も力を得て有る程度は米軍の犯罪行為に文句が言えるようになって行きましたが、占領時代の力関係が最後まで残ったのは沖縄だと言えそうです。全国に点在する米軍基地に、日本が「思いやり予算」を注ぎ込んだのは、基地周辺で不祥事が起きないようにする消極的な目的の有ったのでしょうなあ。露骨な飼い慣らしというわけです。しかし、それも行き過ぎればサービス過剰となって「無駄使い」が常態化してしまうのは避けられません。


日米両政府がまとめた在日米軍再編協議の中間報告に米軍横田基地(東京都)への航空自衛隊航空総隊司令部の移転が盛り込まれたことについて、同基地の軍民共用化を主張してきた東京都の石原慎太郎知事は30日「共用化が後回しにされたことは誠に遺憾。国益を考えれば(共用化は)当然のことで、国は認識が足りない」とするコメントを発表した。毎日新聞 2005年10月30日

■沖縄は地上に広大な基地が目に見える形で設置されていますが、東京都を中心とした関東平野は、目に見えない「空の占領」状態が続いています。米軍が日本の空を封鎖して独占しているのです。それを避けるように日本の飛行機は遠慮して迂回しなければなりません。羽田を飛び立った飛行機が、西に向って飛ぶ時にどうして太平洋に出て相模湾を通って行かねばならないのか?理由は簡単で、その北側は米軍が支配する空だからです。その空の真下に横田基地が有るのですから、まずはこの基地の滑走路に日本の民間飛行機を離発着させる事から、最終的には日本の空を奪還するという計画が始まるわけです。しかし、この問題提起が東京都から出されても、外務省も防衛庁も「それは東京の問題」と言わんばかりの無視を決め込んでいるようです。米軍が怒るのが怖いのでしょうなあ。今回の日米交渉では議題にさえなっていません。


海兵隊7000人とその家族らの県外移設--。在日米軍再編の中間報告で、海兵隊の県外移設を求めてきた沖縄は削減対象が戦闘部隊の若い兵士ではないことに当惑の色を濃くした。県幹部は「県が求めたのは、事件、事故を起こす戦闘部隊の削減。補給を減らして戦闘部隊をどう維持するのか」と懐疑的だ。「司令部が移れば、若い兵士が野放しになる」と危惧(きぐ)する声もある。普天間代替施設建設のため一部が埋め立てられる名護市の大浦湾沿いに住む50代の主婦は「7000人減らそうが、基地は造ってしまったらおしまい」と憤る。普天間所属の空中給油機12機と海兵隊員300人が移設される見通しの鹿児島県鹿屋市では、市民らが海自鹿屋航空基地前で緊急集会を開き、約60人が座り込んで抗議した。「九条の会・おおすみ」の松下徳二事務局次長(67)は、憲法9条2項の「戦力不保持」を削除した自民党の新憲法草案に触れ「時代はここまで来ているのか。体が震えるような恐ろしさを感じた」と現実味を増した米軍移設と改憲への懸念を重ね合わせた。毎日新聞 2005年10月30日

■海兵隊というのは米軍の中でも最も戦闘力が高い部隊と言われていて、非常に凶暴な部隊です。その性格を維持するにはそれ相応の厳しい訓練を続けねばなりませんから、ストレスも溜まり、その気晴らしでハメを外すと基地周辺では許せない事件が起こるわけです。これは「憲法9条」よりも、生命の安全の話ではないかと思います。憲法問題に入り込むと、話は東アジアの安全保障に広がって、朝鮮戦争と冷戦と続いた時代の中で議論自体が成立しない流れが出来上がりました。北朝鮮の拉致と核武装、そしてチャイナの海軍力増強が明らかになって、日本の抑止力を純粋な軍事問題として語らねばならなくなってしまったので、素手で立ち向かうような「憲法9条」の非現実性がますます露になっています。憲法護持の主張に対して、北朝鮮やチャイナに向っては黙っている姿勢を批判すれば、議論はそこで終了してしまいます。9条を死守しながら、北朝鮮問題を解決する秘策が提出されない限り、同胞を「見棄てる」話や相手が暴発したら標的になる話しか出て来ませんなあ。だから、護憲派はこの問題になると、急に黙ってしまいます。

其の参に続く

沖縄基地移設問題 其の壱

2005-10-31 11:26:45 | 政治
■重大な事が、窮屈な外交日程や内閣改造の空騒ぎのどさくさの中で決定しました。日本側では「ジュゴンの生息地」問題に矮小化してしまった沖縄の在日米軍の再編問題は、米国側からすれば、イラク問題の出口とそれ以降の世界戦略の入り口となる大問題です。これだけ認識がズレていれば、ちぐはぐな交渉を繰り返すだけというのは仕方が無い流れでした。橋本政権が安請け合いしてしまった「妥協案」は、地元沖縄を置き去りにした強引な内容でしたから、相手の米国に対しては良い顔だけして時間稼ぎに終わる最悪の結果となって「空白10年間」を作り出してしまいました。

■イラク問題とハリケーン災害で危機感を強めていた米国のブッシュ大統領は、比較的簡単に解決できそうな「牛肉輸入問題」を弾(はず)み車に使って日本の初動を仕掛け、一挙に沖縄基地移転問題を動かして見せました。


日米両政府は29日午前(日本時間同日夜)、米国防総省で外務・防衛担当閣僚による日米安全保障協議委員会(2プラス2)を開き、在日米軍再編の中間報告で合意した。米軍基地の大半を自衛隊との共同使用に移行し一体的運用を強化。沖縄の海兵隊約1万5000人のうち7000人の県外移転も盛り込んだ。両政府は来年3月までに、具体的なスケジュールを含む最終報告「実施計画」を作成する。
 協議後の共同記者会見で大野功統防衛庁長官は「地元の協力を得られるよう努力する」と強調。ラムズフェルド米国防長官は「全員が満足する形で実施されることを見守る」と述べ、普天間飛行場移設を含め、再編計画の着実な履行を迫った。中間報告によると、キャンプ座間(神奈川県)に、米陸軍第一軍団司令部(ワシントン州)を改編して移し、陸上自衛隊に新設される中央即応集団司令部を置くほか、米軍横田基地(東京都)に「共同統合運用調整所」を設置する。これに関連、町村信孝外相は「横田基地の軍民共用化、遊休施設返還も検討していきたい」と語った。
 自衛隊と米軍の役割分担では、平成9年の日米防衛協力のための指針(ガイドライン)改定後に整備された有事関連法を踏まえ、日本有事の際の「共同作戦計画」策定などを具体化させる。米国は前方展開能力を維持し、打撃、抑止力を担い、自衛隊はゲリラ、島嶼(とうしょ)侵略などに自力で対処、米軍への後方支援を行う。ミサイル防衛(MD)を中心に「情報共有」を向上、グアムやハワイなど米軍拠点での共同訓練の拡大も図る。沖縄の海兵隊は6000人がグアム、1000人がハワイと日本本土に移動。経費は日本政府が負担する。産経新聞 10月30日

■記事は、国民にとって当面の問題となる順序とは逆に並べるようにして協議内容が書かれています。「経費は日本政府が負担する」ので、早速予算に計上されて問答無用で通りますなあ。「情報共有」となればコンピュータなどの設備を充実させる必要が出て来て、これも予算を食います。更に、「共有」は米国主導になるでしょうから、相互接続をした場合、米国は日本の全情報をほぼ合法的に取り出せたり、やろうと思えば操作だって可能でしょう。日本側から積極的に米軍のシステムに入り込むのは厳禁されるのは目に見えています。次がMDで、これも膨大な開発予算の多くを日本が負担する話で、未だに総額が分からないという厄介な大計画ですが、日本は大成功か大失敗かは分からなくても、最後まで付き合う事にしました。

■自衛隊によるゲリラ掃討作戦能力と島嶼部防衛も、日本に初の「海兵隊」が誕生する道を拓きそうです。陸・海・空がごちゃごちゃと島を目指して動くのでは、先の大戦と同じ失敗をするので、米軍の指導を仰いで、ミニ海兵隊が作られそうですなあ。こうした枝葉末節が簡単に決まるのも、以前に策定した『ガイドライン』が生きているからです。法整備の作業もずっとこれに従って進められて来たのですが、国民は何がどのように議論されているのか、さっぱり分からないままで、先の総選挙のお祭り騒ぎを楽しんだのでした。

大野功統防衛庁長官、ラムズフェルド米国防長官らは29日午前の安全保障協議委員会(2プラス2)終了後、国防総省で共同記者会見を行った。ラムズフェルド長官は、日米が合意した在日米軍再編案について「われわれの仕事は、みんなが満足する形で実施されることを見詰めていくことだ」と述べ、普天間飛行場の移設を含め着実な実施を求めた。一方、大野長官は再編案の実現に当たって「相当な財政(支出)が必要になる」と述べ、在沖縄海兵隊のグアム移転などに必要な財政負担を前向きに検討する考えを表明。さらに「地元の理解を得ることが一番大きな課題だ。協力が得られるよう努力していく」と強調した。時事通信 10月30日

■日本全体から予算案に反対の声が上がったり、沖縄県から不承知!の声が上がっても断固やるぞ!というのが大野さんで、どんな手を使っても丸く収めろ!というのがラムズフェルドさんです。

ラムズフェルド米国防長官は29日の日米安全保障協議委員会(2プラス2)で、来年3月で期限が切れる在日米軍駐留経費の日本側負担(思いやり予算)に関する特別協定に関し「日本側の支援は重要だ」と述べ、新協定でも十分な予算規模が確保されるよう求めた。また、同長官は「新協定締結に向けた協議を加速させたい」と強調したのに対し、町村信孝外相も同意した。時事通信 10月30日

■予算案も通過していないのに、「協議を加速する」約束なんかして大丈夫なのでしょうか?「充分な予算規模」の明細書が公になってから、フザケルナ!と言っても手遅れでしょうなあ。実は、先の総選挙の『裏マニフェスト』にはちゃんとこんな事が書かれていたというわけです。「田舎の郵便局が減るか、減らないか」などという問題に国民の注意を引き付けて、マドンナだの「刺客」だので選挙民をバカにした小泉さんに、まんまと乗せられた人が多かったのはとても残念です。選挙後の「増税予告」や「憲法改正」と、こうした日米協議は全部連動して動いているのです。あの選挙の時期を考えれば、「靖国問題」さえも小さなテーマでした。日米関係と憲法9条が最大の争点になるべきで、仮に増税もせず年金制度を抜本的に見直す事にでもなれば、米国にプレゼントする金額もぐって減るし、海外に派兵する能力など持つ余裕は無くなるのです。

其の弐に続く

世に暗殺の種は尽きまじ

2005-10-30 12:10:05 | 歴史
■余り大きく取り上げられませんでしたが、面白いニュースを見つけました。
第2次大戦中に英国の情報機関が、インドの民族運動指導者で対英独立闘争を率いたスバス・チャンドラ・ボース(1897-1945年)の暗殺を計画していたことが、アイルランドの歴史学者の研究で分かった。英BBC放送などによると、オハルピン・ダブリン大教授が、昨年解禁された英公文書から突き止めた。同教授は「これまで考えられていたより英政府がボースの独立運動をずっと深刻に受け止めていたことを示している」と話している。オハルピン教授はこのほど、ボースの活動舞台だったインド東部コルカタ(旧カルカッタ)での講演で新史実を発表。
それによると、独立機運が高まっていた41年初め、ボースは枢軸国に独立運動への支援を要請するためコルカタから姿を消した。英対外情報機関の特殊作戦委員会(SOE)が行方を捜し、枢軸国イタリアの公電を解読した結果、ボースがアフガニスタンのカブールに滞在中で、中東経由でドイツ訪問を計画していることが判明。SOEは同年3月、イスタンブールとカイロに駐在する工作員に追跡と殺害を指示した。共同通信 8月20日

■こういう情報を20世紀中はずっと隠しているのですなあ。日本側は悪名高い「インパール作戦」を仕掛けて自滅しましたが、牟田口という無能な司令官の思いつきで実施されたので、勇敢な兵達は雨と泥濘の中で飢えと病に倒れました。上層部はアホでも、日本兵は精強で、アラカン山脈を越えてちゃんと目的地を攻撃しています。悲劇は帰路に起こりました。インドを旅した時に、一人の老人に出会いました。その出来事は『印度の老兵』に書きました。インド側では、日本兵がインドに進攻するという噂が流れて、反英運動が盛り上がったとも言われます。今、かわぐちかいじ氏が『ジパング』という作品を描き続けていますが、その中にドイツのUボートに乗って日本にやって来るチャンドラ・ボースが登場しています。

■日本は「自存自衛」の目的で開戦し、緒戦の勝ちに気を良くして「アジアの解放」を公言しましたが、陸軍ばかりでなく外務省も海軍もその具体的な方法や戦略を持っていなかったようです。南方の地下資源を確保した後、日本軍は迷走をしてしまいましたなあ。真珠湾を空爆してから、機動部隊はインド洋に出撃しましたが、後が続かなかったし、オーストラリアに圧力を掛けますが、これも先が無い気まぐれな作戦でした。太平洋を渡って潜水艦が西海岸を砲撃もしますが、その目的には何の戦略も無かったようです。最も日本の支配地域が広がった時、確かにシンガポールの次はインド洋に広がるとインド側からは見えたでしょう。でも、日本にはそんな準備はしていませんでした。本当に東アジアの解放を達成するのなら、チャイナとインドを日本一国で支えて指導する覚悟が必要ですが、それは荷が重過ぎたでしょうなあ。

■要衝のシンガポールが陥落し、虎の子の戦艦プリンス・オブ・ウェールズとレパルスを撃沈された英国は、インドの危機を心配しなければなりませんでした。ですから、インパール作戦は正しい選択だったわけです。しかし、海軍の協力を得ずに、強引な雨季の山越えを考えるようなアホな指揮官に任せるような軽い作戦ではなかったのです。英国側の極秘資料が、それを教えてくれましたなあ。世に暗殺の種は尽きないようで、やっぱりアルカイダ関連の作戦が有ったようです。

米CNNテレビ(電子版)によると、国際テロ組織アルカイダの指導者ウサマ・ビンラディン容疑者暗殺の可能性を1998年当時、米政府とアフガニスタンの当時のタリバン政権が協議していたことが分かった。20日までに機密指定を解除された米公文書で判明した。
 暗殺を中央情報局(CIA)などが画策していたことは明らかになっていたが、同容疑者を保護していたタリバンとの“共謀”の試みが裏付けられたのは初めてとみられる。ケニアとタンザニアの米大使館爆破テロが起きた3カ月後の98年11月、在パキスタン米大使館の公使がタリバンの指導者オマル師の側近と接触。側近は「米国が決めれば、ビンラディンを巡航ミサイルで殺害できる。タリバンにそれを防ぐ手段はほとんどない」として、暗殺は可能との認識を示したという。共同通信 8月20日

■CIAの暗殺作戦は、世界中で実施されていた事が暴露されたのは随分と昔の事ですが、組織自体が老朽化してしまって、成功率が下がっているようです。こうした協力者まで得ていても、ビン・ラディンの正確な居場所が分からないのですから、CIAも衰えたものですなあ。何度かタッチの差で逃げられたような場面も有ったようですが、米国の探査能力は怪しいものです。イラク戦争で、サダム・フセインの身柄を確保されたのは現地住民の密告によるとされていますが、あの身を潜めていた穴にしても、発見のタイミングの良さから、ずっと前に捕まえておいたのを後から作り話に従って、世界に発表したという噂が有りましたなあ。

■情報の漏洩で大揺れのCIAですが、ホワイトハウスも心中する気はさらさら無いようですから、解体的な組織改変が行なわれるかも知れません。日本を占領した米軍の影でOSSから衣替えしたばかりのCIAは大活躍したという話は有名で、それに関する春名幹男さんの『秘密のファイル CIAの対日工作』上下巻を購入したばかりだったので、このニュースが気になったのでした。読み終わったら書評欄に書き込もうかと考えています。

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チャイナ崩壊の序曲 其の参

2005-10-29 19:38:05 | 外交・情勢(アジア)
其の弐の続き

■再び、チャイナの国内問題に戻ります。四半世紀前にヴェトナムに対する「懲罰戦争(実質的に敗戦)」を仕掛けて以来、インドシナ半島を軍事的に支配したつもりのチャイナは、南沙諸島を自国領だと言い張っています。メコン河を利用した交易網を最大限利用して、経済的な支配も強化しつつあります。インドシナ半島を完全に握れば、インド洋は庭先の池となりますから、アフリカはお隣さん、という具合に世界が大きく変わりますなあ。日本は中東原油を、チャイナの庭先を遠慮しながら運び込まねばならなくなりますぞ!時々、「最近の日本は生意気だぞ!」などと言って、原油を通さない意地悪も出来るようになりますなあ。

■しかし、メコン・デルタとの関係を強化すると、厄介な特産物が大量に入荷するのは避けられません。それが、ポルポト派の残党が支配しているルビー原石などの宝石や、高級天然木材なら結構な話ですが、清朝を内部から蝕んで最終的には滅ぼしてしまった商品が入って来るのですなあ。


中国の国家禁毒委員会は27日、薬物に関する取り締まり状況を発表し、今年1~9月の9カ月間に、覚せい剤約4・5トンを押収したことを明らかにした。日本国内で昨年1年間に押収された量の十倍以上に上り、経済成長の道をひた走る中国社会の裏側で、薬物汚染が深刻化している実態をあらためて浮き彫りにした。
発表によると、覚せい剤のほか、錠剤型合成麻薬MDMA約90万錠、ヘロイン約7・2トン、アヘン約1・8トン、麻酔薬ケタミン約1・6トンも押収。押収に合わせて取り締まり当局は、麻薬犯罪約7万4000件を摘発し、約4万9000人を拘束したとしている。麻薬犯罪は特に、タイ、ミャンマー、ラオスの三カ国にまたがる世界有数の麻薬生産地「黄金の三角地帯」に隣接する雲南省が多く、摘発数は全体の1割を超える約8700件、拘束者数は4分の1に当たる約10700人に上っている。西日本新聞 10月28日

■「黄金の三角地帯」は、常に麻薬の産地として有名ですが、日本の政治家の中には、芥子(けし)栽培から蕎麦栽培に転換させる援助活動をしている人もいると聞いた事がありますが、世の中で一番儲かる商品を、蕎麦と交換するのは難しいでしょうなあ。それにしましても、その名産地に関連するう摘発数が「1割」というのが気になります。では、残りの「9割」は何処から入って来ているのかな?と考えてしまいますなあ。あの「黄金の三角地帯」を凌ぐ生産力を持った産地が何処かに有るという事ですぞ!勿論、アフガニスタンと言う麻薬のパラダイスと新疆ウイグルは隣接していますなあしかし、MDMAなどの合成麻薬を大量に生産する工場が林立しているとも思えませんぞ。

■現在、胡錦涛さんは北朝鮮を訪問中です。朝鮮労働党60周年記念の行事には顔を出さずに、金正日さんの面子を潰しておいて、2週間遅れでの訪朝です。この2週間、両国の外交部はどんな話をしていたのでしょう?「経済交流を強めよう」という友好的な事ばかりを話し合っていたのでしょうか?チャイナの投資で硝子工場が完成したとか、北朝鮮産の鉄鉱石が大量にチャイナに輸出されているとか、誠に目出度い話題が報道されていますが、楽しくない「輸出品」に関連したシビアな話はなかったのでしょうか?胡錦涛さん自身か、誰か有能な側近の中から、現代の「林則徐」が現れて、今度は負けない「新アヘン戦争」などが始まるのではないでしょうなあ。北朝鮮の核兵器やミサイルが北京に向って発射される心配は無いでしょうが、国家を骨の髄から腐らせるような「商品」を販売しているようだと、台湾問題の前に解決しなければならないでしょうなあ。

■もしも、「新アヘン戦争」が勃発したら、日本の自衛隊はどうするのでしょう?台湾有事の際には、米軍の後方支援をすることになっていますが、まずは北京政府と連携して日本国内の麻薬密売組織を壊滅させて協力するのでしょうか?偽札やら麻薬やら、迷惑な物を特産品にしている子分を持つのも大変ですなあ。チャイナは決して、ただでは倒れませんぞ!そして、日本を守る為に米軍が大活躍するなどという夢を見ていては行けません。北京とワシントンが日本に内緒で手を結んだ歴史を忘れては行けません。ご用心、ご用心。
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チャイナ崩壊の序曲 其の弐

2005-10-29 19:37:19 | 外交・情勢(アジア)
其の壱の続き

■というわけで、最初に引用したニュースにある「都市での戸籍移動に対する制限を徐々に緩和」とうのは、チャイナの長い歴史を大きく変える事を意味するのです。「都市において、労働者が平等になるような就業制度を徐々に形成して、社会保障や医療、教育などの問題を解決していきたい」と発表しなければならないほど、「暫定居住者」が膨大な数になってしまったという事です。「登録されているだけで8673万人」というのですから、北京や上海などの大都市には、既に数億人の「暫定居住者」が暮らしているのでしょう。彼等はチャイナの伝統からすれば、「存在しない人間」なのです。「給料の遅配や超過労働など権利の侵害」を受けるのは当然だと思われる理由が有るのです。しかし、「03年以降、公安部の取締りの対象となった権利侵害の案件は約40万件」というように、表面化している問題だけでも、この始末です。地下に潜って鬱屈している不満は大変なエネルギーを蓄えている事でしょうなあ。

■頭の良いカリスマが、「毛沢東伝記(神話)」などと徹底的に研究して利用したら、本当の革命が起こるかも知れません。その危険を察知している北京政府は、共産党支配の国家転覆よりは、チャイナの伝統を崩す方を選んだという事です。これこそ、「苦渋の選択」ですなあ。巨大な戦乱でも起こらない限り、歴史上起こらなかった「戸籍」の消滅に向ってチャイナは動き出したという事ですぞ!共産党の延命のために決断された政策でしょうが、これから何が起こるのか、非常に心配な事ですなあ。

■チャイナにとって最大の外交課題であり、軍事問題である「台湾問題」も急速に危機的状況に近付いているように見えます。もしも、国内問題が解決不能となれば、人民の目を外に向けるのが政府の常套手段ですから、北京政府に向う不満や憎悪を束にして台湾に向けさせようと考える悪い連中が元気になりそうな気配ですなあ。ロシアとも合同演習をやって盛り上がっているところでもありますし……。、

台湾の外交が手詰まり状態に陥っている。中国と国交樹立したセネガルと断交した結果、外交関係を持つ国はわずか25カ国となった。セネガル断交問題で野党から責任追及の声も出た陳唐山外交部長(外相)は立法院(国会)で、「25カ国いずれも断交の危険性がある」と答弁、苦渋の表情を見せている。
27日付の台湾紙、聯合報などによると、薛石民・国家安全局長は、中国が西アフリカのセネガル(人口1010万)との国交樹立のために6億ドル(約690億円)を費やしたとし、中国が「金銭外交」で台湾と外交関係を持つ国々の切り崩し工作を行っているとの内部情報を明らかにした。国安局では、今年前半にセネガルが中国と水面下の外交交渉を始めたことを察知したものの、25日の国交樹立は予想外だったとし、事前情報を得ながらも中国の攻勢を防ぎきれなかったことを認めた。セネガルには陳水扁総統が2002年6月に公式訪問しており経済協力も行っていた。
5年前の陳政権誕生以来、台湾が中国の外交攻勢により断交に追い込まれた国は、マケドニアやリベリア、グレナダ、そして今回のセネガルなど六カ国に上っている。外交関係を保っている25カ国は、太平洋の島国やアフリカ、中南米の小国がほとんどで、アジアや北米には外交関係のある国は一つもない。欧州で唯一、残されているバチカン市国についても陳外相は26日、立法院での答弁で「断交懸念がある中で最も危険だ」との見解を示した。新ローマ法王は共産国家への警戒感を持ちながらも、人口13億の中国での布教や信者の保護に関心が強いとみられる。

■貯め込んだ外貨を使って、露骨な国際的な収賄工作で台湾を孤立化させるという非常に危険な外交を北京政府は展開しています。李登輝さんが米国に行って切迫した演説をしている事を、日本のマスコミはまったく報道しようとはしません。日本国民は、「台湾有事」を絵空事だと思って、来年のカレンダーを購入して紅白歌合戦の出演者を話題にしていますが、来年がどんな年になるのか、誰にも分かりませんぞ!北朝鮮で何事かが起これば、それにかこつけて一気に台湾問題を解決するような勢いがつく可能性も有りますし、逆に、北朝鮮問題がソフト・ランディングしたとしても、北の問題が解決した後は、南の台湾問題だけに北京政府は集中して行くでしょう。それにしても、バチカンの遣り口も相当なものですなあ。その相手になっている北京政府も、「宗教はアヘンだ!」というマルクスの言葉を旗印にして国内の宗教施設をぶっ壊して回ったのを忘れたかのような芝居をして、革命のためならば「悪魔とでも手を結ぶ」決意でカトリックと組むのですなあ。革命の戦士はまだまだ元気なようです。

残る諸国に対しても中国が多額の経済援助を振りかざして攻勢をかけているのは確実で、中台の外交関係争奪戦はさらにエスカレートしそうだ。台湾は、陳総統による歴訪などトップ外交でこれら諸国をつなぎとめる戦略を続けており、自由貿易協定(FTA)の締結による関係強化や世界保健機関(WHO)など国際機関への参加に、外交的空間の確保への活路を見いだしたい考えだ。
産経新聞 10月28日

■戦争が外交の延長ならば、外交は戦争の始まりにもなるわけです。「戦争は無くなった」教を信仰している日本人は、まったく自分の身近に戦乱が迫って来ることをイメージできなくなっていますが、米国がどうしてまだ名前も決まっていない新鋭原子力空母を、小泉首相の地元に配備すると発表したのか、その理由を考えねばなりませんぞ!韓国や日本に散らばらせている米軍を、急速に整理統合してグアムと沖縄の2箇所に主力を集中させようとするのは何故か?もしも、チャイナが台湾を手中に収めれば、バシー海峡はチャイナの海となってフィリピンと直接向かい合い、同時にマラッカ海峡からインド洋への航路が裸にされてしまいます。日本を給油係でも良いから、インド洋に引っ張り出した米国の戦略をとくと考えねばなりません。それは、「沖縄の痛み」や可愛いジュゴンちゃんの棲息環境を心配する事とは、大分違う話なのです。

其の参に続く

チャイナ崩壊の序曲 其の壱

2005-10-29 19:36:24 | 外交・情勢(アジア)
■ちょっと大袈裟な題名になりましたが、これは重大なニュースです。

公安部の劉金国・副部長は26日に開かれた会議で、農村戸籍と非農村戸籍の区別をなくし、統一した戸籍管理制度の導入を検討していることを明らかにした。さらに、決まった住所があることを前提に、都市での戸籍移動に対する制限を徐々に緩和していくことも表明。27日付で競報が伝えた。また劉・副部長は、「都市において、労働者が平等になるような就業制度を徐々に形成して、社会保障や医療、教育などの問題を解決していきたい」とも発言した。
 中国では、2005年6月30日現在、都市に求職などのために移り住んだ「暫定居住者」は、登録されているだけで8673万人。給料の遅配や超過労働など権利の侵害も目立つ。03年以降、公安部の取締りの対象となった権利侵害の案件は約40万件に達している。一方で、犯罪集団を形成するケースもあり、社会秩序の維持にとっても問題となってきている。サーチナ・中国情報局 10月28日
 
■どうして、こんな小さなニュースが「チャイナ崩壊の序曲」に聞こえるかというと、遠く殷や周王朝の時代から平均すると3年に1回の大暴動、数十年に1回の大規模な戦乱が何処かで起きていたという過酷な歴史を持っているチャイナは、中華思想の元となった黄河中流域の「中原」を取り囲むように「蛮族」が暮らしている場所でした。殷が周の武王に滅ぼされた後、土地を追われたその末裔達は「商」という国を作って生き残り遠い場所から品物を運んで交換する仕事をするようになったそうです。彼らを「商人」と呼び、彼等の仕事を「商業」と呼びます。この「商」という字には、交易や売買の意味はまったくありません。

■統一王朝が出来ると、王宮を中心にした貴族や官僚群の住居が建てられ、支配地域から運び込まれる租税の管理をする巨大な倉庫軍、兵器庫なども完備されます。こうした税金で生活する者たちの食糧や日用品を売る者達が「市場」を形成して街を作ります。そして、生活雑貨を作る職人達や食糧を生産する農民達も生活しているのが、城塞都市でした。厚さ10メートル以上の高い城壁が正方形に街を取り囲み、城壁の四方には門が設けられて夜間や戦時にはぴしゃりと閉じられます。チャイナで「城」というのはこうした城塞都市の事です。城壁の外に広がる畑で農作業をする農民達も、城門が開いて労働に行き、閉まる前に帰らねばなりません。

■しかし、あちこちで戦乱や大飢饉が起こると大量の流民が発生して、略奪され焼き滅ぼされて廃墟になった城塞都市を捨てて、別の城塞都市の近くに流れ着きます。しかし、彼等には城壁内に住む場所は与えられませんから、遠く城壁を望む場所に「農村」を作って「ヨソ者」として生活し始めます。平時は、城内の市場に農産物を運び込んで商売する事も許されますが、外敵が攻めて来た時には、城門の外に捨て置かれる運命でした。こうして、戦時に壁の中に逃げ込める都市の住民と、いざとなれば結局は「ヨソ者」として見棄てられる農村生活者の区別が完成し、共倒れにならないように、この区別は代々厳格に守られて来ました。城砦の形から「国」という字も生まれましたし、「国民」というのは都市住民の事を意味しました。

■この区別が無くなるような事が起こると、チャイナは大混乱になります。過剰な人口が都市に流れ込んで、あっと言う間にスラムと暗黒街が出来上がります。かつて上海が「魔都」と呼ばれたのは清朝の力が衰えて欧州列強が支配した地域から、伝統的な「戸籍」の区別が消えた事が原因とも言えるのです。社会主義を標榜して建国された中華人民共和国になっても、それがチャイナの伝統を受け継ぐ国家である限り、都市住民と農村生活者の区別は守られました。毛沢東が都市住民を農村に強制移住させた「下放政策」は未曾有の大混乱を引き起こしたのは、この伝統と秩序を破壊したからです。誰でもあの「下放」の時代を恨んでいます。都市住民は農村に対して絶対的な優越感を持っていましたし、農村側ではまったく役に立たない「無駄飯食らい」を押し付けられて飢餓が起こったからです。

■清朝の支配地域を丸ごと受け継いだ中華人民共和国は、56(台湾の原住民を除けば55)民族を抱え込む他民族国家であると同時に、北京を頂点として多数の都市をピラミッド型に支配するシステムを持つ国家です。従って、都市住民としての戸籍を持っているからと言っても、日本のように役所に行って「転出届」を提出して自由に引越し、新しい居住地の役所に「転入届け」を出せば良いというような悠長な事は許されません。実際に、地方の農村出身者が、大学進学と就職によって地方都市の戸籍をやっと手に入れたものの、更に大きな都市に職を見つけて(勿論政治的な強力なコネが無ければ困難です)移住しようとするのを身近で見た経験からすると、余程の財力が無ければスムースな転居は不可能だと分かりました。

■転出する都市側は、それまでの「行政サービス」に見合う清算金を要求するのです。そして、受け容れる側も、支度金のような保証金のような奇妙な金銭を要求するようです。その両方の支払い能力を持てない限り、合法的な「引越し」は不可能なのです。では、地方で食えなくなったり、悪徳役人に土地を巻き上げられたりした人々はどうするか?国内難民となって、違法に移住するのです。彼等は正式な戸籍を持たない違法入「国」者ですから、行政サービスは受けられません。巨大な開発が進む北京などでは、言葉も習慣も違う地域から、安い賃金を承知で建設業などに就こうと不法に入り込んだ人達がコミュニティーを作って、何とお金を出し合って学校を運営してるのです。こうした互助組織を作れない違法転入者はどうなるか?想像するだけでも過酷な人生を覚悟しなければならないでしょうなあ。

■開発を急ぐためには、こうした弱い人々の労働力が必要です。勿論、医療保障も労災も無い危険で不安定な暮らしに耐えねばなりません。しかし、こうした人達も家庭を持ち、子供を育てますから、国家の管理の外側に独自のコミュニティーが、猛烈な勢いで形成され成長してしまいました。毛沢東時代のような強引な「下放」を執行すれば、一切の開発事業は頓挫すると同時に、あっと言う間に民衆暴動が起こって収拾のつかない大混乱が起こります。彼等は既に帰る場所を失った都市生活者なのですから、「帰れ!」と言うのは「死ね」と言うのと同義です。民の不平不満が爆発する度に、チャイナの王朝は倒れ、新たな「天命」を受けた「天子」が現れて次の王朝が建ちました。これが天の命が変る「革命」です。欧州で起こった市民革命は王族や貴族を根絶やしにして、市民が政治権力を奪取する騒動ですが、チャイナでは「天子の交代」ですから、同じように「革命」と呼ぶのは大間違いなのです。

其の弐に続く

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年貢の納め時を間違えないように 其の弐

2005-10-29 11:06:42 | 外交・情勢(アジア)
■金正日総書記が胡錦涛さんに抱きつく様は、「あなただけが頼りです」の叫び声が聞こえそうな場面でしたなあ。国連や米国の動きと連動してチャイナは動いているように見えますから、さっさと日本と手打ちをして「カネを貰えよ。もう面倒見てやれんからさ」と言うか言わないかで勝負は決まるでしょう。あの穴だらけで意味不明の「共同声明」を議題にしているようでは、まだ本格的な議論はしていないという事でしょう。核放棄と軽水炉提供が別々に書かれている文書に「積極的な意義」など有るはずも無く、その順番がまったく決まっていないのですから、相互五回の種になるだけの文書です。胡錦涛さんが、問題の順番をどう解釈しているのか、注目です。
北朝鮮国連代表部の韓成烈次席大使は、北朝鮮は軽水炉の建設が完了するまで核プログラムや核兵器に関する詳細を公表しない、との考えを示した。韓国の聯合ニュースとのインタビューで語った。
 また次席大使は、韓国による電力提供の申し出が軽水炉の代替案を意味するなら、北朝鮮は関心がないと述べた。韓次席大使は「(現存の)黒鉛炉を放棄するには、軽水炉の建設が完了する必要がある。そうなって初めて、黒鉛炉や、そこで製造した核兵器について公表することができる。いま(公表するの)は時期尚早であり、意味がない」と語った。ロイター 10月28日15時
 
■NPTから脱退したり、IAEAの調査員を追い出したりしても、誰も怒らなかった事で味をしめているのでしょうが、「今度はそうは行かないぞ」というメッセージが米国とチャイナの間で交換されているのではないでしょうか?本当にイラクに攻め込んだ後ですからなあ。時を合わせるようにイランと欧州がはっきりと対立したのですから、ブッシュ大統領は人気絶頂だった「悪の枢軸」演説の時代に向って時間を巻き戻したいところでしょう。

訪米中の拉致被害者家族会の増元照明事務局長らは27日(日本時間28日)、米下院外交委員会のハイド委員長(共和)と会談した。同委員長は「拉致問題が風化しないよう、火をたき続けることが大事だ」と強調。6カ国協議の米首席代表であるヒル国務次官補らに働き掛けるなどして早期解決に努力する考えを示した。同委員長は、北朝鮮が横田めぐみさん=失跡当時(13)=のものとした偽の遺骨を日本側に渡したことについて、「ひどい策略だ」と非難。拉致問題の解決が日朝国交正常化の前提になるとの日本の立場への支持も表明した。時事通信 10月28日

■何故か被害者家族の動向を熱心に報道しないのが日本のマスコミで、民間人の増元さんが渡米していたのですなあ。税金で仕事している人達は何をしているのでしょう?

国連人権委員会のビチット・マンターポーン特別報告者(タイ・チュラロンコン大教授)は27日、国連総会第3委員会(人権)に出席し、日本が横田めぐみさんら多くの拉致被害者が生存しているとして、早期の帰国を北朝鮮に求めていることについて、「迅速かつ効果的」に回答するよう北朝鮮側に要求した。国連加盟191カ国で構成される総会の場で日本人拉致問題が本格的に討議されたのは初めて。マンターポーン氏は来週から韓国を訪れ韓国人拉致問題も調査、報告する意向で、拉致問題への国際社会の関心を高めるのに寄与しそうだ。共同通信 10月28日

■この191カ国の内、どれだけの国と根回しが済んでいるのやら、少々心細いものが有ります。テレビで放送された日本代表の発言シーンは、テーブルに這(は)い蹲(つくば)るような格好に見えました。北朝鮮側は、いつもふんぞり返って発言しています。日本は政治家も役人も、「原稿読み」に慣れ過ぎているのではないでしょうか?相手を睨みつけて背筋を伸ばして「発言」「交渉」の出来る能力を持った人を、ああいう重要な席には座らせるべきでしょうなあ。別に、借金をお願いしているのではないのですぞ!既に三代目の襲名が日程に上っているという噂も有る北朝鮮ですから、「世襲」に反対しているチャイナの御機嫌を取りながら「伝統」を守らねばなりません。その上で、日本から巻き上げる1兆円を遺産として息子に継がせたい金正日総書記には時間が無いはずです。

■何度か失敗していると言われる軍部のクーデターが成功してしまわない内に、兵隊達の空腹だけは解消したい将軍様としては、いよいよ日本からもカネが必要になっているでしょう。どこまで、この「約束」を効果的に使えるか、外務省の名誉挽回…というより「初白星」がかかっておりますなあ。正しいメッセージを相手にしっかり伝えるのに、国連は良い場所ですぞ。自分の都合に合わせて「約束」を自在に曲解する相手ですから、油断の無い交渉を望むばかりです。

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年貢の納め時を間違えないように 其の壱

2005-10-29 11:05:57 | 外交・情勢(アジア)
■やっと拉致問題が国連の人権委員会に持ち込まれました。なんとも長い時間がかかったものです。先に平壌に行ってしまった日本の外交は、世界中にその底の浅さと読みの甘さを宣伝してしまったでしょうが、最初から国連で地道に包囲網を作って日本と国交を結ぶしか逃げ場は無い、という構図にしてから共同宣言の文案を考えるべきでした。誰かが功名心に逸(はや)って拙速な決断をしたのでしょう。その最終的な責任は首相にあるのですが、情報や見通しを説明したのは外務官僚に違いなのですから、それを誤魔化しては行けません。

■9月末の段階で国連人権委員会に報告書が上げられていました。

国連は27日、北朝鮮の人権状況に関する最新の報告書を発表した。報告書は人権をめぐる北朝鮮の姿勢を「言語道断」と批判、日本人の拉致問題の状況について「深く憂慮される」とした。その上で、北朝鮮が横田めぐみさんを「死亡した」としていることに「北朝鮮が遺骨として送付した骨を日本で鑑定、別人と判明している。客観的根拠を示すことが必要だ」と勧告した。報告書は北朝鮮担当の特別報告者、ビチット・マンターポーン氏(タイ・チュラロンコン大教授)を中心に作成された。北朝鮮が協力を拒否しているため、日本などの政府や非政府組織(NGO)の情報に基づいてまとめられた。報告書は開会中の第60回国連総会の第3委員会で審議される。
 報告書は、横田さん以外の安否不明者についても「あいまいではっきりしない」と断定。拉致の責任者を裁判にかけた上で、被害者や被害者家族に「損害賠償すべきだ」と指摘している。さらに、「北朝鮮は拉致問題を解決済みの問題として、交渉再開を求める日本の要求に応じていない」と、北朝鮮側の態度を厳しく批判。国際社会に対しても「両国が問題を解決できるよう一致団結して対応すべきだ」として、各国の協力を呼びかけた。
【国連北朝鮮人権報告書の要旨】
▼生存している拉致被害者の帰国を求める日本の主張に効果的かつ迅速に回答するよう要求。
▼北朝鮮が拉致し、同国が「死亡」したと主張する(横田めぐみさんら)日本人の安否不明者に関し、信頼できる客観的根拠を示すよう勧告。
▼迅速かつ効果的なプロセスを通じ、外国人拉致などの罪の償いを行うよう勧告。
▼日本人拉致問題の平和的解決のため、日本(政府)との対話を再開するよう勧告。
▼建設的な進展も一部に見られるが(日本人安否不明者などに関する主張には)あいまいさや矛盾点がある。それらの幾つかは言語道断と呼べるたぐいのものだ。
▼北朝鮮国内の食料は大幅に不足し子供の栄養不良率は依然高い。政治・思想犯として処罰されると「連座の罪」で家族も迫害される。犯罪者収容施設や家庭では女性への暴行が見られ、移動の自由は厳しく制限されている。
▼北朝鮮は「子どもの権利条約」など4つの人権条約に加盟、これらの取り決めに沿ってさまざまな報告書を提出するなど国連機関との協力を行い、近年は法改正にも取り組んでいる。共同通信 9月28日

■至極、当たり前の事ばかりが並んでいますなあ。こんな報告書が発表されるまで、2回も平壌に日本の首相が乗り込み、6カ国協議で狐と狸の化かし合いをして時間を浪費していたのは愚かな事でした。でも、やっと本格的な審議が世界注視の中で始まります。

北朝鮮の人権状況を調べている国連人権委員会のビチット・マンターポーン特別報告者(タイ・チュラロンコン大教授)は26日、国連本部で共同通信と会見し、来週から韓国を訪れて政府関係者や拉致被害者と会談、北朝鮮による外国人拉致の調査を拡大すると明らかにした。日本人拉致については訪日調査を踏まえ、横田めぐみさんら安否不明者の情報開示を北朝鮮に勧告する報告書を国連総会に提出、27日の総会第三委員会(人権)で説明する予定。韓国人拉致も報告書をまとめる方針で、拉致問題への国際社会の関心がこれまで以上に高まりそうだ。
 マンターポーン氏によると、11月2-11日に訪韓し、政府や非政府組織(NGO)の関係者と会談する予定。拿捕(だほ)、拉致された漁船の乗組員を中心に500人近くとされる韓国人拉致被害者の実情を調べる。共同通信 10月27日
 
■韓国が「同一民族内の問題だ」などと意地を張らずに、調査委員会と歩調を合わせて欲しいところですが、北朝鮮が相当に浸透しているらしい現政権では、何を言い出すやら安心は出来ませんなあ。

中国共産党の胡錦濤総書記(国家主席)は28日、北朝鮮を公式訪問し、平壌の百花園招待所(迎賓館)で朝鮮労働党の金正日(キムジョンイル)総書記と会談した。11月上旬にも予定される次回6カ国協議での協力関係や経済協力について話し合った。中国最高指導者の訪朝は01年9月の江沢民主席(当時)以来4年ぶり。
 中国中央テレビなどによると、平壌国際空港には金総書記が直接出迎えた。胡総書記は空港で開かれた歓迎式典で「中朝両国が、ともに中朝の両党・両国の関係を新たなレベルに高められるよう願っている」との声明を発表。沿道で数10万人の市民が歓迎のスローガンを叫ぶ中、百花園招待所に入った。
 会談では、今年9月の第4回6カ国協議で採択された共同声明が議題になり、胡総書記が「核問題は話し合いを通じた平和解決が望ましい」などと述べると、金総書記も賛同し「共同声明には積極的な意義がある」などと高く評価した。同声明では北朝鮮が核放棄を約束しており、次回協議を前にした突っ込んだ話し合いがもたれたとみられる。また、両国は経済協力に関する文書も交わした。
毎日新聞 10月28日21時

小泉帝国が出現するのか?

2005-10-29 02:52:52 | 政治
■民主主義は、民意を反映する選挙の結果が全てです。この道理を小中学校で学んだはずの日本国民が、それも識字率は世界有数で、新聞の購読者数も世界に誇れる値と言われる日本の国民が、小選挙区制と細川内閣から始まった「選挙制度改革」のカラクリを知らないはずはないのに、まるで知らなかった事のように。「小泉粛清」と「小泉サプラズ内閣」を騒いでいるマスコミに付き合っているらしいのです。衆議院で300議席も独占すれば、何も怖いものは有りません!不信任案など冗談にもなりませんし、憲法改正だろうが「三国同盟」だろうが、何でも出来ます。

■確かに民主党は酷かった!テレビだろうと、新聞だろうと、写真週刊誌だろうと、酒場の噂話だろうと、国民は正確にこの事実を認識していました。そして、野党がだらしなければ、それを補って余りある倒閣運動が起こるのが自民党の伝統です。それを怖れるからこそ、小泉さんは自民党に対しては一切の交渉も妥協もせず、飽きもせずに毎日毎日、下らない質問を受ける事に絶え続けてテレビ用の影像を提供していたのです。音痴なくせにプレスリーでもプッチーニでも歌ってみせるし、好い加減なガリレオ話もする。選挙に勝って権力を維持するためなら、「ブっ壊す!」と叫んで見せます。これは、「死ね!」「イヤです」「何?死なない?死ななけりゃ殺すぞ!」「ああ、死ぬから殺さないで!」というような、寄席で喋ったら弁当箱が飛んで来そうな古臭い小話と同じ構造を持った自爆論理です。

■しかし、それをマスコミはまともに取り上げて、「改革」「民営化」「郵政民営化」という具合に実に細い一本の筋に乗せられて、小泉さんの綱渡りを応援しました。テレビを観る傾向の強い人ほど小泉支持者が多い、こんな馬鹿馬鹿しいデータを重大な総選挙後にしか流せない日本のマスコミはどうかしています。テレビ局が実質的に新聞社のオマケとして機能し続けているから、こんな間抜けな報道をするのだろうと思います。国内の有権者数は男性5000万477人で、女性は5327万3395人で計1億327万3872人だそうです。この中の4割は投票をしなかったようですなあ。比例区に限って海外からの投票を認める在外投票のために登録した人を加えると、計1億335万6879人という状態で、あの総選挙は戦われたのでした。いつの間にか、少子化が進んで日本人なら誰でも有権者のような状態になっていたのでした。

連合長野(近藤光会長)は28日、定期大会を開き、来年夏の長野県知事選について「田中康夫知事が仮に立候補しても推薦せず、清新な信頼できる知事誕生に努力する」とした運動方針を正式決定した。
 田中知事は現時点で出馬を表明しておらず、選挙の構図が固まっていない段階で、連合がこうした決定を行うのは極めて異例だ。 
(時事通信) - 10月28日

■田中康夫さんが、再選は無いと自分で判断して「倒閣運動」に参加して、あわよくば国政の場に再就職先を確保したいのだろう、とマスコミに陰口を叩かれていた通りになりました。長野県民がアホだとか、信濃毎日新聞は「プラウダ」だと言ったところで、民主主義を実践しているのは有権者で、その選挙区で最大のシェアを持つメディアが民主主義のバロメーターとなっているのです。部外者から見れば、田中知事の県政に関してプラスとマイナスを正確に判定するのは困難ですが、長野オリンピックで最も得をした西武グループ総帥の堤さんが有罪判決を受け、その翌日に、長野オリンピックで最も損をした長野県で時期県知事に関する不穏な声が湧き出すというのは、この国を本当に「改革」しようとする政治家は生き残れないという事なのかも知れませんなあ。

■田中知事は、新しい何かをしようとした事だけは確かで、それに猛烈に反発した「変えたくない勢力」が存在しているのは長野県だけではないでしょうが、たまたま長野県の県政が注目されたので、幾つかの修羅場を全国に知らしめてしまいました。表ざたにならない奇妙な地方行政の現場は全国に満ちているらしい、と全国民が知ってしまったからには「地方分権」の掛け声には大量の水が差されたに違い有りません。本当に壊したら膨大な返り血を浴びるのですから、口先だけで「改革」を売り物にしている政治家の本性も、逆に証明されるという事でしょうなあ。

財務省と国税庁は28日、職員による出張旅費の水増し請求などが過去5年間で579件あり、職員への過払いが総額1109万円に上ったと発表した。両省庁は同日付で、水増し額の多かった職員22人を国家公務員法に基づく懲戒処分とし、89人を訓告などの内規処分とした。徴税や脱税調査などを担当する官庁で大量の水増し請求が発覚し、納税者からの強い非難を浴びそうだ。……3か月の減給処分を受けた沖縄地区税関のある職員は、不正請求を14回繰り返し、水増し総額は19万5700円にのぼっていた。処分対象者はすでに過払い分を全額返還した。読売新聞 10月29日

■こんな線香花火みたいな不祥事を表沙汰にして、本丸の「増税」計画をどんどん進めながら「自分の任期中は税制を動かさない」と言い切るような変な総理大臣を、「ジュンちゃーん」と読んで喜んでいる有権者がいるのですから、民主主義と言うのは実に恐ろしいものです。遺族会のまとまった票が欲しいから「靖国参拝」するなど、どうでも良い事なのです。総理になるにはキャリアも支持勢力も無い小泉さんが権力を維持するには、分かっているのかいないのか、さっぱり分からないオペラ見物をするのと同じ波長で「靖国参拝」パフォーマンスが行なわれているのです。そんな事にマスコミが精力を注いで報道しているのは、小泉さんにとっては大助かりでしょうなあ。

中国の唐国務委員(副首相級)は28日、北京の人民大会堂で訪中している民主党の小沢一郎前副代表と会談し、小泉純一郎首相の靖国神社参拝に触れて「小泉首相は約束を守らない人だ」と批判した。小泉首相の靖国神社参拝後、中国指導者が日本の政治家と会談するのは初めて。小沢氏によると、唐国務委員は、昨年11月と今年4月の首脳会談で、胡錦濤国家主席が小泉首相に靖国参拝について「日中友好のために考慮してほしい」と中止を求め、小泉首相が前向きな態度を見せたと認識。このため唐国務委員は「約束を全く踏みにじった」と非難したという。毎日新聞 10月29日

■こういうウッカリ者が小泉さんを助けます。師匠の田中角栄さんの後を継ごうと、のこのこ北京にこの時期に出向く小沢さんという人は何を考えているのでしょう?靖国問題を一発で解決して男を上げようとでもしたのか、これまでに外交交渉に首を突っ込むたびに失点を重ねた自分の姿が見えないのか、妙な事をしたものです。北京と手を組んで小泉政権を倒そうとでも思ったのでしょうか?

自民党党紀委員会(委員長=森山真弓・元法相)は28日、先の通常国会で党議拘束に反して郵政民営化関連法案に反対票を投じた59人のうち、処分未決定だった50人について審査した。その結果、今特別国会の首相指名選挙で小泉首相に投票せず、同法案の採決も欠席した野呂田芳成・元防衛長官を、最も重い除名処分とすることを全会一致で決定した。先の衆院選で党公認を得られずに出馬した平沼赳夫・前経済産業相、野田聖子・元郵政相ら26人と、衆院選で国民新党の亀井静香・元建設相を応援した亀井郁夫参院議員の計27人が、除名処分の次に重い離党勧告となった。10日以内に離党届を出さなければ除名処分となる。27人のうち14人は離党届を提出済みで、この日受理された。残り13人も離党届を提出する見通しだ。…除名・離党勧告処分は、21日に除名が決まった綿貫民輔・元衆院議長ら新党組9人と合わせ、計37人になった。これほど大量の除名・離党勧告処分は初めてだ。
読売新聞 10月29日

■各選挙区ごとに、数万人から数十万人の投票行動を根こそぎにして否定するような「粛清」が実行されます。自民党員であるかどうかは、自己申告ではなくて、小泉さんの認可を得られるかどうかで決まります。派閥が無くなり、政治献金も個人宛ではなくなると、こういう事になると、少なくとも政治記者達は知っていたはずです。小泉さんは違法な事は一切しないで、本当に自民党をぶっ壊してしまいましたなあ。
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