旅限無(りょげむ)

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実(げ)に恐ろしきは縦割り 其の参

2006-03-30 12:27:25 | 政治
■最初に引用した『韓非子』という書物は、王様の安泰を第一義として考え抜かれた統治の要諦を書いた王様用の教科書ですから、民の幸福を追求する目的で書かれてはいません。突き詰めれば、悪い役人が権力を独占して内乱が起これば、民は苦しむ事になるので、民の安寧を考えているとも言えなくはないのですが、役人は無能で何も考えない歯車として馬鹿馬鹿しい役目を黙々と果たしていれば良いという結論に従えば、コンビニのアルバイト学生よりも低い賃金で雇われるべきでしょうなあ。それが、「遅れず、休まず、働かず」ミスを犯さなければ一生安泰で、特別な年金やら天下りの渡り鳥生活まで保証されているのですから、テスト勉強しか能の無い人達が大挙して集まるのも仕方が無いのでしょうなあ。『韓非子』の教えに背くとなると、これは大変な苦労と犠牲が必要なのは今も昔も変わらないようです。

「幼稚園」と「保育園」の垣根が、ぐっと低くなる。遅過ぎた一歩だ。幼稚園を所管する文部科学省と保育所を所管する厚生労働省が、両方の機能を併せ持つ「認定こども園」を整備する。政府がそのための法案を国会に提出した。

■幼稚園があちこちで定員割れを起して、ばたばたと閉まっているのに、保育所を利用できない「待機児童」が2万人以上も居る、そんな馬鹿馬鹿しい状態がやっと解消されるようですなあ。半世紀も前から、旧通産省では夫婦に子供二人の「標準家庭」を政策の中心に据えていながら、「子供」の育て方も後々の「夫婦」の介護も旧厚生省の縄張りで、まったく整合性が取れていないのですから、子供は「鍵っ子」、年老いた親は「社会的入院」、その中から家庭崩壊やら少年犯罪の凶悪化など、不安ばかりが充満する恥ずかしい国が出来てしまったのでした。


幼稚園は3歳以上の子が対象で、原則1日4時間の教育施設だ。保育所は0歳児から長時間預かる児童福祉施設である。就労している親の子を対象とし、原則として、専業主婦の家庭などには開放されていない。核家族化が進んだため、専業主婦にも乳児の段階から幼稚園や保育所に助けて欲しいという切実な声がある。また、保育所でも充実した幼児教育を受けさせたい、と親が望むのは当然だろう。法案が成立すれば……制度スタート時点で1000施設が認定されると見込まれている。

■幼稚園と保育所の総数は3万7000だそうですから、1000箇所の「認定こども園」が出現しても焼け石に水でしょうなあ。「男女雇用機会均等法」などという法律を作っておいて、子育て支援は後回しにしてしまう感覚が分かりませんが、ずっと、厚労省と文科省は縄張り争いをして無駄な時間を費やして来たのです。それにしても、英語をそのまま直訳したような名称からしても、間に合わせの緊急避難でしかない実情が透けて見えますなあ。


現実にはすでに、自治体が住民の強い要望に応じ、独自の財源や工夫で作った幼保一体型施設が約300ある。それ以外にも、幼稚園で預かる時間を延長したり、保育所で教育カリキュラムを充実させるなど、ニーズに応えようと個々の取り組みは行なわれている。

■地方自治体の方が民の顔を見て、民の声を聞く場所に居るので、アホらしい永田町と霞ヶ関の縄張り争いに付き合っていられないのでしょうなあ。


認定こども園制度を発足させるために文科、厚労両省は、幼稚園と保育所の所管課長を人事交換した。……子育て支援は、少子化対策の重要な柱だ。文科、厚労にとどまらず、関係省庁は垣根を越えて効果的な政策を実施しなければならない。幼保一元化は、総合的な子育て支援策の入り口だ。もたつくことなく軌道に乗せる必要がある。3月23日 讀賣新聞社説より

■お役人は「垣根」の向こう側を見る力も権限も意欲も有りません。それをするのが政治家の役目なのですが、お役人に手取り足取り世話になっているようでは、新しい枠組みを考えられる筈は有りません。族議員などと呼ばれる役人以上に『韓非子』を愛読しているような政治家が居るのですから、垣根を取り払う事など不可能でしょうなあ。本当は「構造改革」の目的はこういう垣根を壊して、新しい行政システムを構築する事なのですから、小さな一歩ではあっても、厚生大臣を経験した小泉さんの業績として認めて良いのかも知れません。しかし、任期が切れる9月以降、新たな垣根がにょきにょきと建って元の木阿弥になる可能性も有りますなあ。そもそも、通産省が「標準家庭」のイメージを棄てる気が有るのかどうかも分かりません。縦割りを維持している垣根こそが、お役人の存在理由を支えているのですから、放って置いたら、永久に垣根は消えないのでしょうなあ。(其の四もあります)

実(げ)に恐ろしきは縦割り 其の弐

2006-03-30 12:26:17 | 政治
■この事件を起こした二代目の経営者は、北海道の王様気取りだったようですから、念が入った話です。

……自宅は札幌市中央区の高級住宅街。鉄筋コンクリート2階建て約350平方メートル……1670万色の発光ダイオードの室内特殊照明、高級ジェットバス、エアコン・床暖房完備の犬小屋……学園が公務に使う法人名義のカードは、約1億円が女性用の鞄や靴、高級スーツ、高級腕時計の物品購入などに消費さた。多い時で6人の家政婦がいた。……過去4年間に受けた補助金は20億6000万円。道内2位の4億6500万円を大きく引き離す……「職員1人雇っても、学生1人入学させても補助金が出る。学校経営ほどおいしいものはない」「カネがないなら授業料を上げろ」……イエスマンの幹部たちが暴走を支えていた。

■ヒューザーの小嶋社長が聞いたら泣いて悔しがるような話ですなあ。こんなアホ教育者にじゃぶじゃぶ税金をくれてやるなら、俺にも130億円くらいくれたって良いじゃないか!と叫んでいる声が聞こえそうですぞ。この他にも、仙台市の東北文化学園大が、日本私立学校振興・共済事業団から5億6000万円も騙し取ったり、埼玉県の佐藤栄学園が、7億円もの税金を誤魔化していたり、税金は天下り役人と無能な役人と、それを知り尽くしている悪い奴らに食い荒らされているのですなあ。毎年、1000件以上も交付される補助金が、何処で何に使われているのか、誰も知らないのですから、恐ろしい事です。「教育者=善人」と誰が決めたのかは知りませんが、教育者は善人であるべきだ!というのが正しい考え方で、悪人が紛れ込んだら徹底的に罰して排除しないとトンデモない事になりますぞ!


……1975年の私学振興助成法施行以来、80年代の2年を除き減ったことはない。私学を重視する政府与党の意向が大きいという。……3月23日 讀賣新聞より

■教育は国家百年の計ではありますが、こうした「偽装学校」は教育とは無縁の設備でしょうなあ。欧米の有名大学などは、文字通りの「私学の自治」を死守する為に卒業生や企業などから自前で寄付金を集めて運営していると聞きますが、日本は税金を沢山取ってくる政治家を卒業生から出すのに熱心なようです。自民党の中にも私学の学閥が有るようですし、公明党となれば立派な私学を経営している団体に支えられているのですから、誰も私学に対して厳しい意見は言えないのでしょうなあ。自衛隊の設備を巡る長年の談合体質が暴露されましたが、最も巨額の談合疑惑を持たれているのが文科省なのですから、教育の美名を利用して税金を無駄にしているシステムをこそ「構造改革」しなければならないでしょう。

■でも、マンションやホテルの偽装を見抜けなかった国土交通省に助っ人を頼んでも役に立ちそうもないし、何よりもそれは『韓非子』の教えに反するのですから困ったものです。本当は生徒の事などまったく心配していない奴に限って、悪事がバレると、「生徒が可哀想です」などと、人質に取って開き直ったり泣き落としに出るのですから始末に負えません。しかし、盗人学校に入学したのは不運と諦めて貰うしかないでしょうなあ。大体、義務教育の施設に対して大学と名の付く施設が多過ぎるのです。「皆が高校生」では飽き足らずに「皆が大学生」と主張して、自分の生徒愛に陶酔するような愚か者があちこちに居る内は、文科省から税金は垂れ流されるのでしょうなあ。

実(げ)に恐ろしきは縦割り 其の壱

2006-03-30 12:25:56 | 政治
■『韓非子』二柄篇に、お役人の役割分担を厳密に守る話が出ていて、とても有名です。役人は権力を分割して法律に則(のっと)って政治を行なう身分なので、勝手に他の権力を自分のものにしたり、法律を気儘に変更しては行けません。それはとても厳しいものなのは、今も昔も変わりません。

……昔者韓の昭侯酔うて寝(い)ね、典冠の者、君の寒きを見る。故に衣を君の上に加う。寝より覚めて説(よろこ)び、左右に問いて曰く、「誰ぞ衣を加えしは」と。左右対(こた)えて曰く「典冠なり」。君よって典衣と典冠とを兼ねて罪す。その典衣を罪せしは、もってその事を失うとなせばなり、その典冠を罪せしは、もってその職を超ゆとなせばなり。寒きを悪(にく)まざるにあらずして、おもえらく、官を侵すの害は寒きよりも甚だしと。……

要するに、王様が酔って転寝(うたたね)をしているのを見た冠係が、風邪を引いては行けないと気を利かせて上着を掛けた。それを知った王様は怒って、冠係は他の役人の仕事をしたという理由で罰し、服係は職務怠慢で罰した。という話です。

■王様は、風邪を引くのも困るけど、役人が自分の役割分担を無視して勝手に気を利かせて権力を振るう事の方が遥かに恐ろしい!と言ったそうですなあ。役割を厳格に分けて余計な仕事はさせず、やると約束した事は絶対に実行させる。こうしておけば役人は徒党を組んで国を亡ぼす事は無いのだそうです。


「業者を1社抱えれば、学校法人は何でもできる」浅井幹夫容疑者(57)の共犯として起訴された建設業者、酒出信二容疑者(36)は逮捕前、読売新聞の取材に語った。私学へのチェックの甘さは、それだけ見透かされていた。……計画段階で3社に見積もりを出させていたが、うち1社が浅井容疑者の親族が絡んだ業者……受注した別の業者が、工事を請け負える建設業法の許可を持っていなかった……耐震工事がきちんと行なわれたかどうか、完成状況を確認する現地調査を行なわず、書面審査で補助金交付を決めていた。

■韓非子が泣いて喜ぶようなお役人仕事ですなあ。国土交通省の役人だって耐震偽装を見破れないのですから、文科省の権限を厳密に守っている優秀な役人に見抜けるはずなど有りません!土木会社の裏側なども、文科省の役人にとっては領域外の別世界、一切知らなくても良いのです。こんな相手から3億円ぐらいの「ハシタガネ」を騙し取るのは簡単でしょうなあ。


補助金を担当する同省私学助成課は、課長以下十数人の小所帯だ。国からの「直接補助金」を扱う係官は3人に過ぎない。2004年度には、3人で約1400件を処理した。永山賀久課長は「全国の学校法人を現地調査して回るのは、物理的に不可能。制度自体が学校法人への信頼を前提にしている」と語る。

■オウム真理教に対して宗教法人の認可を下した東京都庁の事情と同じですなあ。あの時も、確か担当者は3人しか居ない上に、教育行政の係官なので、殺人宗教の教義などにはまったくチェック機能が働かなかったのでした。人数は少ないわ、審理能力は無いわ、それでも仕事をしていると胸を張れるぐらいの根性が無いと役人は勤まらないのですなあ。『韓非子』に出ていた、王様の冠だけを担当する役人みたいなものです。考えて見れば、実に情けない仕事なのですが、本人は大真面目に宮廷での大事なお役目だ!と思い込んでいたに違い有りませんから、自分に与えられる給料が税金の無駄遣いなどとは夢にも思わなかったでしょうなあ。