旅限無(りょげむ)

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イラク内戦 其の伍

2007-01-31 23:23:58 | 外交・情勢(アメリカ)
■イラク情勢が沸騰して流動化していて、イランへと戦火が広がる可能性も高まる中で、内輪の政治日程だけで「訪米」を計画したりすると、小泉前首相が「イラク攻撃を全面的に支持」した後を受けて、「イラン攻撃も全面的に支持」と安倍首相が言わされることになるかも知れませんなあ。今のところ、イランの核武装疑惑に対して日本政府は明確な姿勢を示していないようですが、北朝鮮との関係が表沙汰になれば、「対話と圧力」がイランにまで延長される怖れも有るでしょう。

イラン国営通信(IRNA)によれば、イラン原子力庁の広報担当責任者であるHossein Simorgh氏は、同国が新たにウラン濃縮用の遠心分離機3000基の設置を開始したとの有力国会議員の発言を否定し、ナタンツにあるウラン濃縮施設にそのような新しい装置が設置された事実はない、と述べた。……これより先、イラン国会の外交・国家安全保障委員会のAlaeddin Boroujerdi委員長が、遠心分離機の設置が始まったと語ったことが報じられていた。

■「原子力庁」は無いと言い、「安全保障委員会」は有ると言う。アフマドネジャド大統領は「イスラエル消滅」を公言し、根拠を示さずに「米国は攻めて来ない」とも放言しています。1981年にイラクが建設していた原子炉を稼動直前に破壊したイスラエルの「バビロン作戦」の記憶が有る世界は、本当にイランが核開発に踏み切ればペルシア湾を越えてイスラエルの空軍機が襲い掛かるだろうと思っています。一説には米軍がペリシア湾に航空母艦を貼り付けている目的は、イスラエルの奇襲攻撃を抑止しているという話も有って、もしもそれが真実ならば、イランは米軍によって守られているという奇妙な睨み合いが起こっていることにもなります。

■米国としては、パパ・ブッシュが実施したクウェートからイラク軍を駆逐する湾岸戦争以来、対テロ戦争とイラク戦争まで増強された湾岸諸国の軍事設備を利用し続けたい。そのためには産油国・イスラム諸国を分断して味方に付けて置きたいわけで、万一、イスラエルが奇襲攻撃を実施した瞬間に、反イスラエルの一声でイスラム諸国は一枚岩になってしまいます。そうなれば、米軍の世界戦略は根底から崩壊するというわけです。


国連安全保障理事会は昨年12月23日に対イラン制裁決議を採択、ウラン濃縮活動を停止する期限として60日間の猶予を設定した。外交筋によれば、国際原子力機関(IAEA)の査察官は、イランは遠心分離機の設置に着手できる準備が整っているとの結論に達している。ただ、設置のタイミングは政治判断に委ねられる可能性が大きいとしている。

■その後、イランは査察を受け容れると発表したようですが、好き放題に査察しても良いとは言っていません。「ナタンツ」という地名が取り沙汰されていますが、その情報源が亡命イラン人なので、イラク戦争が始まった時に亡命イラク人が暗躍し、それを米国政府が最大限利用したことを思い出してしまいますなあ。少なくとも、イランは曲がりなりにも民主国家になっているので、保守派と改革派とが選挙で対立していますし、核開発に関しても国民の意見が分かれています。アフマディネジャド大統領は、かつてのサダム・フセインのような独裁的な権力を持っているわけではないようです。欧米のマスコミがその違いを無視して、両者のイメージを重ねるような操作を続けるとイラン攻撃が現実味を帯びて行きそうです。

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イラク内戦 其の四

2007-01-31 23:23:29 | 外交・情勢(アメリカ)

イラク治安筋などによると、この武装勢力は、シーア派最大の宗教行事アシュラが最高潮を迎える29日に、ナジャフの北にある聖地カルバラの宗教行事を攻撃し、シーア派宗教指導者たちの殺害を計画しており、米軍とイラク軍は事前に掃討作戦に踏み切った。しかし、武装勢力は対空砲など十分な武器を保有し、28日の戦闘には戦闘員約1000人が加わったもようだ。突然浮上したこの武装勢力の正体には謎が多く、死者の中にはスーダン人やアフガニスタン人が含まれているとの情報もある。
1月29日16時18分配信 産経新聞

■イスラム暦ムハッラム月10日の「アシュラ」が今年は1月29日で、これはイスラム教シーア派にとっては、最も悲しい日として聖別されているのは有名な話です。ムハンマドの孫で、シーア派3代目イマームだったホセインが殉教した日とされて、シーア派の男達がホセインの苦しみを共有しようと鎖や鉄棒で我が身を叩く様子は、テレビでもお馴染みのものです。シーア派本家のイランではあちこちで流血場面が見られるそうですなあ。殉教者の命日に攻撃を仕掛けられたら、宗教的な感情は極限まで高揚するでしょう。スーダンやらアフガニスタンからも参加しているということは、先の「4つの戦争」では「(4)国際テロ組織アルカーイダによる攻撃」の典型的な例と考えられます。しかし、「(2)首都バグダッドなどでの宗派間の暴力」の要素が下地として推測できますし、「(3)武装勢力による攻撃」も便乗して参加している可能性も捨て切れません。


■これほどスンナ派信仰を持つ広い範囲から参加している宗教集団を単純に「カルト」と呼んでしまってよいのかどうか、難しいところです。組織の規模も驚くべきものですが、装備している武器が本格的だったのが最も驚くべき点ですなあ。こんな武装集団がバグダッド市内にうろうろしていると言う事は、国境線が穴だらけだという事です。バグダッド陥落は、あの重要な地域が力の空白状態になったことを意味していましたし、それは中東に一種の真空状態を作り出す作用を及ぼしたのですなあ。光さえも吸い込むブラック・ホールとも言えるでしょう。こうした中東の力学関係をブッシュ大統領がどれほど理解していたのか怪しいものです。


ブッシュ米大統領は29日、公共ラジオ(NPR)とのインタビューで、イランがイラクで反米工作活動をエスカレートさせるなら「断固とした対応を取る」と警告した。大統領はイランに軍事進攻する意図はないとしながらも、「イランがイラク駐留米軍や罪のないイラク国民を害そうとするなら防衛策を講じる」と強調。イラン工作員が米軍を標的にした活動を行っているとして、工作員殺害を許可したことを正当化した。 
1月30日10時1分配信 時事通信


■テロリストが自由に出入りしているのなら、隣国から外交官や商売人に偽装した工作員が合法的に侵入するのは当然の事で、米国のCIAも愛用している方法です。ヨルダンからも、シリアからも幾らでも工作員は入っているでしょうし、クルド問題を抱えるトルコからも入っているはずです。その他の国からも好き放題に入り込んでいる工作員から、イランだけを取り立てて騒ぎ立てるから、イラク攻撃はイラン攻撃のために橋頭堡を造るのが目的だったのはないか?などと勘ぐられるのですぞ!でも、それが真相のような気がしますなあ。


米ホワイトハウスは29日、チェイニー副大統領が2月19日の週に日本とオーストラリアを訪問すると発表した。日米関係筋によると、訪日は20日から22日までで、天皇陛下との会見や安倍晋三首相との会談を予定。副大統領はイラク安定化に向け日本側に一層の協力を求めるほか、首相訪米についても調整が行われる見通しだ。

■やっぱり米国は日本を引っ張り込みにやって来ます。イラク攻撃の首謀者御自身がやって来ます。オーストラリアはインドネシアなどで自国民も犠牲者を出しているので、対テロ戦争に熱心に協力している国です。その国とセットで訪問されると、単純に日米同盟を賛美する歓迎儀礼で応えると、日本はちょっと苦しい立場に追い込まれるかも知れません。


ホワイトハウスは声明で、副大統領と安倍首相がアジアの安全保障や対テロ戦争などについて話し合うと説明。米側は、2万人超の増派を柱とするイラク新戦略への理解を求め、航空自衛隊による空輸支援の継続などを要請するとみられる。

■航空自衛隊が今も空輸業務を続けていることを国民がころりと忘れているようですが、「武器は運んでいない」の一点張りで特殊な地位を確保しているような気でいても、最新式の飛び道具を装備した武装勢力がしっかりと区別してくれるなどとは思わないことです。既に、米軍の軍用ヘリコプターが何機も撃墜されているのですから、イラクの空は決して安全ではありません。米国の増派計画に「支持」と「賛意」を示したりすると、日本の自衛隊の増派も要求されるかも知れませんし、初代防衛大臣が米軍批判を繰り返しているのをチェイニー副大統領が根に持っていたりすると、無理難題を押し付けて来るかも知れませんなあ。


日米関係はこのところ、イラク開戦判断や米軍普天間飛行場移設問題に関する久間章生防衛相の一連の発言をめぐりぎくしゃくしている。このため、両政府は副大統領の訪日を契機に緊密な同盟関係を再確認するとともに、4月下旬からの大型連休時の首相訪米に向けた地ならしを行いたい考えだ。 
1月30日 時事通信

イラク内戦 其の参

2007-01-31 21:49:11 | 外交・情勢(アメリカ)

イラクの首都バグダッド中心部のペット市場で26日、爆弾が爆発し、AFP通信によると、買い物客ら15人が死亡、35人が負傷した。この市場は、犬や猫、鳥などを販売するガズル市場で、毎週金曜日に開かれる。目撃者によれば、鳥を入れる箱の中に仕掛けられた爆弾だったという。市場のある商業地域バーブ・シャルジ地区では22日、中古品市場で88人が死亡する爆弾テロが発生。25日も別の商業地域のカラダ地区で80人が死傷する自爆テロが起きている。イラク政府は米軍増派を受け、不法武装勢力に対する圧力を強めている。……
1月26日 読売新聞

■これは「4つの戦争」の「(3)武装勢力による攻撃」のようですが、反政府活動の一環なのか、宗派間の対立が理由なのかは分かりません。それにしても、ペットの鳥を入れる箱に爆弾を詰めて持ち込まれては堪りませんなあ。


イラクの首都バグダッドで27日、2台の自動車爆弾が爆発し、合計で15人が死亡した。爆発があったのは、イスラム教シーア派住民が多く居住する地区。イラクではこのところ、買い物客で混み合う地域を狙った武装勢力による攻撃が相次いでいる。この日の爆発も、果物などを売る市場で週末の買い物客を狙ったものとみられる。……イラクのマリキ首相の事務所によると、ブッシュ米大統領は27日に同首相と電話会談し、治安確保に向けた計画を全面的に支援すると述べた。……
1月28日 ロイター

■バグダッド陥落直後から、ブッシュ大統領は何度「治安確保」と言ったでしょう?日本政府も他人事ではありません。特別に法律まで作って復興支援に出向いておきながら、お役御免となって無事に帰還してすべてが終わったような気になっていては行けないのでしょうなあ。ブッシュ大統領の大失敗だったのは明らかですが、それだからと言って人間らしい生活が送れない状態にしたままイラク国民を見殺しにして良いはずはありません。別におっ取り刀で武装勢力と戦いに行かなくても、長年の石油購入国として中東諸国に働き掛けて独自の国際会議を開けるくらいの外交力を示さなければならない時期ではないかと思います。アジアの外れで暢気な顔をしていたことが、こうして関係国が殺気立っている時には案外と毒気に当てられずに公平な立場で重要な役割を果たせるような気がするのですが、肝腎の人材が政界にも官界にも居ないのでしょうなあ。

■そんな感想を抱くのも、事態は既に「治安回復」などと言っている場合ではなくなって、立派な内戦状態に入っているからなのです。


イラク中部のイスラム教シーア派聖地ナジャフ近郊で28日、駐留米軍とイラク軍の合同部隊は、正体不明の武装勢力と激しい戦闘を展開、イラク治安当局者らによると、武装勢力側の死者は250人以上に上った。戦闘中に米軍のヘリ1機が撃墜され、乗員2人が死亡、イラク兵が少なくとも19人が死亡した。戦闘は、ナジャフの北約20キロの地域で同日朝に始まり、米軍は戦車や攻撃ヘリを投入、同日夜になっても戦闘が続いた。

■「正体不明の武装勢力」というのは無気味な表現ですが、宗教的な情熱に冷水をぶっかけるような政策を採っていたサダム・フセインが居なくなった後、一挙に宗教的な感情が純化されて噴き出すのは予想されたことで、新興宗教風の集団が林立するのも不思議ではないわけです。


ロイター通信がイラク警察筋などの話として伝えたところによると、武装勢力は「天国の戦士」と名乗り、シーア派の中心的教義ともいえるマフディー(救世主)の降臨が近いと唱えるアハマド・ハッサーニ・ヤマニという指導者が率いる終末論的なカルトの一群。ヤマニ師はナジャフに事務所を構えていたが、1月初めに当局により閉鎖を命じられたという。

■ブッシュ大統領自身が、挫折続きでアルコール依存症になっていた身を「神に救われた!」と公言しているのですから、イスラム教徒の信仰心を否定するわけには行きません。「カルト」というややこしい問題が「治安回復」に入り込んで来ると、宗教的な熱狂が逆に燃え上がって伝統的な集団にも引火する危険が高まります。

イラク内戦 其の弐

2007-01-31 21:48:22 | 外交・情勢(アメリカ)

……バグダッドの自動車爆弾は中心部ハラジの中古品市場で起きた。現場は、電化製品や衣類、薬品などを売買する人々で混みあう場所として知られ、爆発は断続的な銃撃戦の後で発生したという。周辺に駐車中の10台以上の車両も爆発によって燃え、黒煙が立ち上るほどの威力だった。イスラム教シーア派主導のマリキ政権は今月、宗派や政治的な所属を考慮することなく、不法な武装集団を壊滅させると宣言。ロイター通信によると、21日には3200人の米兵が新たにバグダッドに到着し、22日早朝には駐留米軍の支援を受けたイラク軍が、スンニ派住民が多く居住するバグダッド北部のアダミーヤ地区を封鎖するなど、武装勢力の封じ込めに全力を挙げていた。

■悪者扱いされるスンナ派が、大規模な封じ込めに怒って市の中心部で暴れたということなら、「4つの戦争」には含まれない「反政府活動」になりそうですなあ。イラク民主化の唯一の成果だったはずの新政府の樹立が、新たなテロの原因になってしまったら、ブッシュ大統領には弁解の余地が無くなってしまいますぞ。


バグダッドでは、今月16日にも大学での爆弾テロなどで95人が死亡したばかりだった。……22日には…イラク北部のタルアファルやモスルで道路脇の爆弾や自動車に仕掛けられた爆弾が爆発、警察官や兵士ら約20人が死傷した。
1月23日8時0分配信 産経新聞

■家の中に居たら米兵に逮捕されたり誤射される危険が有るし、市場に行けば自動車爆弾が炸裂するし、学校に行ったら自爆テロで、物騒な市内を出たら道路脇に仕掛けられた遠隔操作の爆弾が爆発します。朝日新聞の記事によると日本風に言う「無縁仏」がどんどん増えているのだそうですなあ。政権を取ったシーア派が力を持ってしまったので、市内の墓地もシーア派の縄張りになって、スンナ派の遺族は怖くて埋葬に行けず、誰かに頼んで宗派を明かさずに埋葬してもらうのだそうです。お葬式も挙げられない遺族の中からテロリスト志願者が出て来るのは仕方が無いような気もしますなあ。テロによる犠牲者の陰に隠れてしまいますが、フセイン時代には中東でも有数の設備を誇っていたバグダッド市内の病院群が、長年の空爆と電撃攻撃によってぼろぼろになってしまい、満足な治療が受けられないまま命を落とす患者がたくさん居るそうです。その内、バグダッド市は広大な墓地に囲まれてしまうかも知れません。

■イラクの陸上では戦闘が終結していますが、米軍は航空母艦を3隻もペリシア湾に並べて北のイランと南のソマリアに圧力を掛けているそうです。石油を運ぶタンカーが引っ切り無しに通過するペルシア湾の入り口がホルムズ海峡で、その外側にはイエメンという国が有って、米国海軍はアデンに軍港設備を持っているのですが、水上自爆テロで2000年10月に巡洋艦コールに大穴を開けれてから、ペルシア湾内に逃げ込んで?いるようです。ですから、アフリカ沿岸に用事が出来る度に、タンカーや貨物船の間を縫って出入りしているという実に迷惑な状態が続いているらしいのですなあ。

■そこで起こったのが日本のタンカーと米原潜との接触事故でした。日本時間9日午前4時頃、米ロサンゼルス級原子力潜水艦「ニューポート・ニューズ」と川崎汽船所有の大型タンカー「最上川」(16万トン)が接触した事故ですが、甚大な被害は出ず環境汚染の心配も無かったのですが、双方とも使い物にならなくなって修理にも時間が掛かるとの話でした。最近になって原潜の艦長が能力不足との理由で解任されてしまいましたが、そんな人が原潜を操って参加しているのが米国の対テロ戦争なのですぞ!


米紙ワシントン・ポスト(電子版)は24日、米軍が22日、ソマリア南部で対地攻撃機AC130による第2波の攻撃を実施したと報じた。攻撃対象は国際テロ組織アルカイダ関係者とみられるが、作戦の成否は不明。作戦はエチオピア軍と合同で行われたという。米軍は今月上旬、98年のケニアとタンザニアの米大使館爆破テロの容疑者とされる3人のアルカイダ幹部を標的とした攻撃を実施したが、失敗したと言われる。米軍は空母1隻をソマリア沖に派遣し、ソマリアでの軍事作戦を支援している。
1月25日 毎日新聞

■このように米軍はアルカイダの残党を大仰に追い回しているのですが、莫大な戦費を使っても効果が上がりません。映画『ブラック・ホークダウン』に絵が描かれたように地上戦で大失敗をしてから、恐ろしくて陸軍部隊を送り込めないらしいのですが、神出鬼没のテロ集団を航空母艦から飛行機を出して追い回すというのは、随分と非効率なことです。イラクからの撤退を民主党が大統領選挙に利用して騒いでいますが、ソマリアに手を出して大恥を掻いたのは民主党のクリントン大統領ですから、イラク以外からの撤収などは民主党も考えていないはずです。


パキスタン内務省によると、首都イスラマバード中心部にある米国系高級ホテル「マリオット」のゲート付近で26日、男が自爆し、ホテルの警備員少なくとも1人が死亡、数人が負傷した。男も死亡した。当局者によれば、爆発物を身に着けた男が従業員専用のゲートから建物に近づこうとし、警備員に制止された際に自爆した。爆発の衝撃でホテルの建物の一部や駐車中の車が損壊した。 
1月26日 時事通信

■アフガニスタンにも兵を増派し、復興資金も積みまして拠出しているのですが、山岳地帯の国境を自由に出入りするテロリスト達は、パキスタンで時々騒ぎを起こします。米国も英国も「主戦場」が決められず困っているのでしょう。本来なら、イラクなんぞに手を出さずにアフガニスタンの復興に集中していれば良かったのでしたが、もう手遅れですなあ。

イラク内戦 其の壱

2007-01-31 21:47:53 | 外交・情勢(アメリカ)
■ブッシュ政権がイラクの首都バグダッドへの直接攻撃を予告した時、フセイン政権を崩壊させたら「1000人のビン・ラディンが生まれるぞ!」と無気味な予言をしたのがエジプトのムバラク大統領でした。最近、海外ニュースでも顔を見る機会がすっかり減ってしまいましたが、年明け早々に米国のライス国務長官が忙しく中東を歴訪した中で、1月15日にエジプト南部ルクソールで、ムバラク大統領と会談していました。同じ場所でアラブ連盟のムーサ事務局長とも会談していたようです。エジプトとしては米国の「イラク新政策」は支持したものの、イラクの憲法修正問題に懸念を示したそうです。スンナ派とシーア派の対立は、アラブとペリシアの民族対立とも重なりますから、イラクが憎いとは言え、米国が露骨にアラブ寄り=スンナ派寄りの外交を展開すると、逆効果になるのではないかなあ?と心配しておりましたが……。


ゲーツ米国防長官は12日、ブッシュ大統領が発表したイラク新政策をめぐる上院軍事委員会の公聴会で証言し、混迷を続けるイラクの現状について「4つの戦争が同時に進行している」との見方を示し、2万人以上の米軍増派決定への理解を求めた。

■「4つの戦争」というのは初耳でしたが、中身を聞いてみるとなかなか良く整理された話です。


4つの戦争は具体的には
(1)イスラム教シーア派同士の抗争
(2)首都バグダッドなどでの宗派間の暴力
(3)武装勢力による攻撃
(4)国際テロ組織アルカーイダによる攻撃。
武装勢力の活動は宗派対立を激化させようとの目的もあるとの見方も示した。「中東の悪い連中がみなイラクで活動している」としてアルカーイダ、イラン、シリアのほか、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラ(神の党)の存在を挙げた。

■ムバラク大統領が予言した「1000人のビン・ラディン」が本当にイラクに集結していると思われます。西はソマリアから東はパキスタンまで、米国はイラクに軸足を置きながら大忙しの毎日です。


ゲーツ長官は増派による治安回復が成功した場合は「年内に撤退を開始できるかもしれない」との見通しを示した。米国がイランに武力行使する可能性については「必然性はない」と否定した。
1月14日 産経新聞

■これが半月前の状況でした。「年内に撤退」などと悠長な事を言っていられる状態なのか?と訝(いぶか)しんでいたところ、その後、まるで血に酔った様に爆弾テロが続発しました。


イラクの首都バグダッド中心部の繁華街で22日、2発の自動車爆弾が爆発、ロイター通信によると88人が死亡、160人が負傷した。バグダッド北東のバアクーバ近郊でも自爆テロで50人以上が死傷するなど、各地で爆弾テロが相次いだ。米ブッシュ政権は今月10日、2万人の米兵増派を柱とする新政策を発表したが、テロが沈静化する兆しはなく、治安回復の実現が厳しいことを印象づけた。…

■この事件は「4つの戦争」の内のどのカテゴリーに入るのか分からないようです。記事を読んだ感じでは、「4つの戦争」のどれかのパターンで銃撃戦が始まって、それから次々と別の戦争の要素が混ざってしまっているかのようです。

アニータ!青森へ? 其の参

2007-01-31 18:18:07 | 社会問題・事件

県住宅供給公社……は31日午前10時40分、この職員の行為が業務上横領罪に当たるとして青森署と県警に刑事告訴した。公社のこれまでの内部調査で、この男性職員は、同公社の庶務・経理を担当する千田郁司(ゆうじ)主幹(44)…同公社の口座から引き出した現金総額は1994(平成6)年から2000年までに14億2600万円となることが判明した。本県史上前例がない巨額の横領事件は、司法の場に解決がゆだねられた。青森署と県警は告訴を受理、早急に捜査に着手する。

■警察よりも前に、税務署が告訴を受けて公社に調査に入っていたそうですが、公社が調査に踏み切ったのは政府からの不正送金調査による疑惑が発端だったというわけです。。


……仙台国税局が今月23日、税務調査のため公社に入り、金融出納帳、預金通帳、伝票と照合したところ、伝票のないものが判明。千田主幹本人へ聞き取り調査したが、説明できず、以後、出社しなくなったという。このため、同国税局が25日、公社に対し調査を指示。26日金融機関に出向き六例(1998年-2000年度)を抽出したところ、現金が不正に払い戻されていた事実が発覚。同主幹による14億円余もの巨額の使い込みが明らかになった。

■おそらく、この段階では公安関係の人々は本気で青森住宅公社からテロ資金が奪い取られたと思って必死で捜査していたかも知れませんなあ。


……内部調査では、同主幹が横領していたのは94年から今年(01年)までの間。…公社の銀行口座などから121回…引き出しを開始した94年度は1300万円。95、96年度は1000円台だったが、97年度に1億8400万円と億単位に跳ね上がり、2000年度には、一気に4億7000万円にまで膨らんだ。千田主幹はこの事実を隠すため、帳簿類も操作していたもようで、同公社、県サイドが不自然な疑いのある帳簿の状況を確認している。……
2001年10月31日 東奥日報

■9・11同時多発テロに近付くほど横領は大胆になり、何かに急かされるように高額になっています。資金が潤沢だったアルカーイダが、日本の田舎から簡単に足の着く公金を奪うはずなど無いのですが、万が一という事も有りますからなあ、実際には、すっかり味をしめた欲張りアニータが悪女の手練手管を使って千田さんから搾り取っていただけの事だったのですが……。


「金額に相当の変動があれば(不正を)確認できるが、支払いに支障を来さない程度のカネが残っていたので…」。県住宅供給公社は、不祥事の事実をつかめず14億円余まで被害が拡大した理由をこう説明、本来把握すべき資金の動きをつかんでいないという“どんぶり勘定”ぶりを露呈した。

■こんな弛緩した管理体制が、後々、県議会まで巻き込んだ責任の擦り付け合い、泥仕合を演じる原因となります。


……千田主幹は、同公社の原価見返勘定と原価未清算勘定を管理している口座から現金のほとんどを引き下ろしていた。いずれも分譲事業などのために内部的にプールした資金。日常の業務で、取引相手とのやりとりにこの資金を使うことはない。……外部からの指摘で不正が発覚する可能性は低く、そこを経理に精通した千田主幹に突かれた格好だ。また同公社は、毎年の監査も「伝票の枚数が莫大(ばくだい)に多く、すべてを突き合わせるのは物理的に難しい」との理由から、実際の現金の流れと伝票を照合する作業を一切行っていなかった。1982年4月の入社以来、千田主幹が経理担当を離れたのはわずか2年間だけ。経理業務をほぼ一任し、行うべきチェックを怠ってきた同公社のずさんさが、巨額の被害を生み出した。
2001年11月1日 東奥日報

■公社の責任者は、理由にもならない泣き言を並べるしか無かったのは、自業自得というべきでしょう。こうして続々と公金を扱っている自覚に欠ける公社の実態が全国に知れ渡って行きました。

アニータ!青森へ? 其の弐

2007-01-31 18:17:16 | 社会問題・事件


青森県住宅供給公社の巨額横領事件で服役中の千田郁司受刑者のチリ人妻アニータ・アルバラードさん(34)が31日、チリのテレビ局の番組収録のため、日航機で成田空港に到着した。アニータさんは「夫と会う」と話しており、滞在中に千田受刑者との面会を試みるとみられる。 
1月31日 時事通信

■本当に来た!JALで乗り込んできましたぞ!到着はしたものの、売春目的の人身売買騒ぎを起こした人ですから、すんなり入獄管理局が通してくれるかどうかは分かりません。こちらは風化しかけた事件を追い掛けますぞ。


横領の舞台となった青森県住宅供給公社というのがどのような機構なのか、東奥日報が詳しく書いています。

快適住宅の提供を目的に、県と県内八市が出資して1966(昭和41)年に設立した。事業の柱である青森市・戸山などの宅地分譲や、県営住宅などの維持管理事業は97-2000年度販売実績が計370戸。1997年度に策定した中長期経営計画を4年とも下回り、達成率は62%にとどまる。……

■まともにバブル崩壊の影響を受けて、経営状態が悪化していたようです。具体的な数値を同紙面から抜粋します。


98年度が4187万円の欠損金を計上。
99年度は過去の儲け(原価未精算勘定)で4385万円補填して
23万円余の黒字。
00年度は3951万円を穴埋めして4万円余の剰余金を計上。

■帳簿上で穴埋め作業を重ねて「黒字」決算を続けていた事が分かります。どうやら、この作業は予想以上に複雑なものだったらしく、その操作の専門家として千田さんは頼りになる存在だったというのが、横領事件の温床となったもののようです。


…赤字を埋めるためにとを取り崩し、単年度黒字を維持している。また、民間との競合事業が目立つため、県公社等経営委員会から事業の縮小・廃止など抜本的見直しを求められている。県は来年4月に同公社と県道路公社、県土地開発公社の管理部門を一本化する方針。

■正常な「一本化」が始まれば、14億円もの大穴が発見されないはずは有りませんから、犯人は逃げ切るために海外逃亡を計画していた可能性が有るわけですなあ。


県住宅供給公社で30日に発覚した総額約14億円にも上る不祥事。渦中の男性職員(43)は、問題発覚後の先週末ごろから職場には出勤しておらず、現在は所在がつかめないとされる。「何が起きたのか」「そんな大金の使い道など見当がつかない」-。ごく普通に生活していたように見えた男性職員による突然降ってわいたような巨額使い込み事件に、公社の関係者たちは困惑するとともに大きな衝撃を受けている。……公社関係者によると、この男性職員は大学卒業後、公社入りし、経理事務などを長く務めてきた。職場へは自転車で通勤し、酒やギャンブルなどといったうわさもなかったという。

■大体、巨大な犯罪が発覚した当初は、「信じられない」「普通の人だった」という証言があちこちから拾われるものですが、決まって事件の全貌が見えて来ると、まったく逆の証言が次々と報道されるのはどうしたわけでしょう?この千田さんも、実際には地元でも荒っぽい金の使い方をしていたり、好待遇の公務員にしても贅沢な長期海外旅行を繰り返していた事実が広く知られていたようです。


ある職員は「(男性職員は)先週末ごろから職場を休んでいるが、特に変わった様子には見えなかった。趣味の釣りを楽しむなど、派手さはないごく普通の生活態度だった」と語る。男性職員は数日前までは自宅にいたが、現在は連絡が取れなくなっているという。……
2001年10月31日 東奥日報

■自分の保身のために、身内を庇うような証言が並んでいるのを観ますと、それ自体が犯罪の原因となった組織の体質を浮かび上がらせているようなものです。「趣味は釣り、派手さは無い」、こんな発言をしていた同僚は、千田さんが何を釣っていたのか?何度も地球の裏側にある南米某国に頻繁に旅行していた事を、本当に知らなかったのでしょうか?何も知らなかったとしたら、随分と不思議な職場ですなあ。


木村守男知事は31日午前9時55分、県庁に到着。今回明らかになった県住宅供給公社の不祥事について「正式に真相の報告を受けて、県民の前にできるだけのことを公表する。専門家の方々の協力をいただいて事実関係を確認し、責任体制を考えていきたい」と険しい表情で述べるとともに「大変申し訳なく思っています」と繰り返して、知事室に消えた。また、同11時すぎ、知事室から出た知事は使い込みの金額について「驚いた」と語った。
2001年10月31日 東奥日報

■ここまでが、事件が発覚した日の記事です。金額の大きさしか報道のネタは有りませんから、まさかこれが外務省まで巻き込んだ国際問題に発展するとは、誰も想像しなかったのでした。

アニータ!青森へ? 其の壱

2007-01-31 13:00:55 | 社会問題・事件
■青森県民の皆さんにとって、思い出したくも無い名前が再び現れました。第一報なので真偽のほどは不明ですが、報道が事実ならば青森の雪景色が血で染まるのではないか?と心配になるような、日本と青森を舐めきった話ですぞ!

青森県住宅供給公社の巨額横領事件で服役中の千田郁司受刑者のチリ人妻アニータ・アルバラードさん(34)が29日、地元テレビ局チリビシオンの番組収録のためチリを出国し、日本へ向かった。同局によると、この番組は有名人に密着取材し、隠れた素顔を伝えるという内容で、アニータさんは初回のゲスト。31日午後に成田に着き、青森に向かう。アニータさんは「日本に行き、夫と会う」としており、滞在中に千田受刑者と面会を試みるとみられる。
1月31日 時事通信

■何だか日本のテレビ局が垂れ流している番組をそのままパクッたような企画のようですが、南米の毒気は相当なものですなあ。この悪趣味の極地のようなテレビ・クルーを日本中のテレビ局が追い回して見せるのでしょうか?その取材の狂態を逆に取材されてチリのテレビ番組で放送されるという、悪趣味の相乗効果を両国のテレビ界が競うのでしょうか?早めに無視を決め込んだ方が宜しいでしょうなあ。それにしましても、この信じられない横領事件は、まだ完全には決着していないようなので、改めて振り返ってみたくなりました。公的資金を投入した住宅事業は今でも日本中で進められていて、横領事件にならなくても無駄遣いと役得疑惑が渦巻いているのですから、青森県の醜聞として切り捨てては行けないようです。発覚したのは2001年の10月末でしたなあ。地元の東奥日報が連日、全力で取材し続けていた記録がネット上に公開されているので、それを参考にして事件を振り返ります。


住宅団地の用地買収や住宅の建設、分譲を行っている県住宅供給公社(理事長・山口柾義副知事)の経理担当の男性職員(43)が、同公社の会計から1994-2001年にわたり総額約14億円の使い込みをしていたことが30日までに、仙台国税局による査察や同公社の内部調査で明らかになった。県は31日にも、県警に対し刑事告訴をする方針だ。……口座などから現金が引き下ろされ、さらに帳簿類も操作されていた疑いが判明。経理を担当していた男性職員に直接事情を問いただしたところ、あいまいな受け答えが続き、使い込みの疑いが発覚した。

■これが第一報で、後に全国的な有名人になってしまうアニータの名前も、千田さんの名前も有りませんでした。でも、初めから「14億円」という驚天動地の被害額は判明していたのでした。この前代未聞の横領犯罪が発覚したのは、同年に起こった9・11同時多発テロに関連したテロ活動に流用されそうな不正な海外送金を精査している最中の事だったそうです。青森県民にとっては立派なテロ攻撃みたいなものですが……。


……当初は引き出し額が少額だったが、1997年あたりからは年間2-3億円にも膨らんでいた、という。この男性職員は青森市内に住んでいるが30日現在、連絡が取れていない状態だという。……山口理事長は「連絡があったのは23、24日ごろ。内部資料と銀行の数字を付き合わせた結果、被害が分かった」としたものの「きょうの段階では金額など詳しい内容は話せない」とした。……関係者の話では、この職員は2、3人いる経理担当の中心。97年度には、いったん他の担当部署に異動となったが、複雑な経理事務をこなせるのはこの職員しかいないため、年度途中からまた経理を任されていた。98年度には「やめたい」という意向を漏らしたが、慰留されている。

■第一報の段階で、事件の全貌に迫る骨格を見事に押さえている記事であります。この時から、千田さん探しが1ヶ月も続くとは、誰も想像しなかったのではないでしょうか?それ以上に横領された金の使い道など、誰が想像したでしょう?

2倍になります! 其の参

2007-01-31 11:48:47 | 社会問題・事件

……リッチランドは全国の会員約1万3000人から537億円を集めていた。01~05年にかけ、ホテルなど計127カ所で延べ353回の説明会を行ったという。合同捜査本部は30日、詐欺容疑でさらに1人を逮捕。逮捕者は17人になった。
1月31日3時4分配信 毎日新聞

■「説明会」が盛況だったのが、ジー・オー疑惑に注目が集まって逮捕に到る時期と同じだというのですから、詐欺師の腕がよほど良かったのでしょうなあ。大神被告は塀の中で、「537億円」という数字を知ったら自分の罪の小ささに詐欺師として後悔しているのか、新たな闘志を燃やしているのか?詐欺罪というのは、立証が難しい上にどれ程巨大な被害が出ても、絶対に死刑になどにはなりませんし、実刑判決を受けても刑務所を学習の場にして新たな仲間も作って出所して来るものだそうですなあ。


架空の投資話で500億円以上を集めた健康食品会社「リッチランド」(東京都北区)の詐欺事件で、同社に新規の投資家を紹介して紹介料を受け取っていた「販社」と呼ばれる出資者が、資金不足の高齢者や女性らに、消費者金融から借りた資金で、同社に投資するよう勧誘を繰り返していたことがわかった。

■「販社」というのは新しい用語です。漢字の並びだけではまったく意味を成さない奇怪な言葉ですが、マルチの子や孫を指す専門用語のようです。詐欺に引っ掛からないためには、多少の漢籍の教養も必要になりそうです。


ほかに収入のない高齢者に、年金を担保に借金をさせた悪質なケースもあったという。……同社の幹部の一部はこうした手口を了承したうえで、出資金を受け取っていた疑いが強いとみて調べている。同社は1999年秋ごろから、全国の一流ホテルなどで説明会を開催。同社会長の佐伯万寿夫容疑者(61)ら幹部とともに、新規の出資者を勧誘して出資金の2~10%を同社から受け取っていた古参の出資者が、高額の配当を受け取った経験談を披露して投資を呼びかけていた。
月31日8時39分配信 読売新聞

■典型的なマルチ催眠商法ですが、ジーオー詐欺事件に遅れること3年、こんな見え透いた別口の詐欺が始まっていたのかと思うと、詐欺業界?の人材の豊富さとエネルギーには脱帽であります。


……逮捕者の中には、1997年に摘発された「和牛預託商法」で有罪判決を受けた元会社社長らが含まれており、捜査本部は、この元社長らが中心になって被害を拡大させたとみている。逮捕されたのは、リッチランド会長の佐伯万寿夫容疑者(61)、同社相談役の深山正規(みやま・まさのり)容疑者(62)など。深山容疑者は、高配当や元本保証をうたって和牛オーナーを募集した会社の元社長で、97年12月、和牛預託商法の主犯格として、出資法違反容疑で静岡県警に逮捕され、その後、執行猶予付きの有罪判決が確定していた。また、リッチランドから多額の紹介料をもらい、新規の出資者集めに協力した出資者も逮捕された。
1月30日14時43分配信 読売新聞

■こうして詐欺犯罪の予備軍と業界人がどんどん増えて行くわけです。今回逮捕された人達の全員が、自分の罪を反省して二度と詐欺を働かないと誓う可能性よりも、次回はもっと上手くやろう!と決意を新たにする可能性の方がずっと高いと思われます。


……会員に配当金を支払わないまま、別の投資話を勧め、資金集めを強引に続けていたことが31日、関係者の話で分かった。配当金と新たな投資計画への申込金を相殺する形を装い、配当を先延ばししていたという。……1年間の「ショートプログラム」を申し込み、50万円を払った。03年に配当金35万円を含む85万円を受け取るとの契約だった。受け取り時期が近づくと、会社側から配当金と相殺して別の投資プログラムに申し込むよう勧められ、さらに50万円を払って契約。配当金相当額の「償還金」35万円だけ振り込みを受け、差し引き65万円を渡した形となった。佐伯容疑者らは説明会で「相殺をしないと税金をどかんと取られる」などと話し、「相殺」方式を強く勧めたという。 
1月31日5時30分配信 時事通信

■「ショートプログラム」などと、フィギュア・スケートじゃあるまいし、妙な名前を付けるものです。先延ばしの口実に「税金」を利用するというのは、決して新しい手口ではありません。表の金融機関や証券会社では、「手数料」を言い訳に使って解約を阻止する工夫をしていますから、この種のトリックには誰でも引っ掛かってしまうでしょう。少なくとも、「自分にだけは濡れ手に粟の儲け話は来ないだろう」と思っている事と、胡散臭い団体の奇妙な名前を耳にした時に吹く出して大笑いできる言語感覚を磨いて置く心構えは必要でしょうなあ。ご用心、ご用心。

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2倍になります! 其の弐

2007-01-31 11:48:19 | 社会問題・事件
■順調に詐欺商法が軌道に乗ったと思った大神容疑者は、本性を表わして自分が主演する映画『ブレード・オブ・ザ・サン』を制作します。大金を投じた自己陶酔型の趣味なので、観るに堪えないアホみたいな作品だったそうですが、5億円で制作した貧乏臭いアクション映画を全世界で公開して180億円の興行収入を得るつもりだったそうですから、自己愛の強さは相当なものだったのでしょうなあ。世界市場を相手にした映画を製作しながら、本格的に金融市場にも打って出ようと銀行を買収して見せます。

■2001年9月に、やっぱりフィリピンを舞台にした買収劇で、マニラ首都圏に展開していたユニトラスト・ディベロップメント・バンクという矢鱈に長い名前の銀行を13億円で買収したそうですが、随分と安い銀行ですなあ。詐欺師は中身よりも名前が好きなので、早速、銀行名をバンク・オブ・オーガミ(大神銀行)に変えます。調子に乗ってカモに「高金利」を約束して預金を勧誘などしたのもで、表の世界から叱られてしまいます。フィリピン中央銀行が買収自体を違法と判断して不認可。翌年には何もせぬまま破綻します。大神銀行の豪華なパンフレットは、何とシティ・バンクのコピーだったと言いますから、世間をナメ切っていたのでしょうなあ。

■「ジャパンジー・オーグループインターナショナル」「ジー・コスモス・ジャパン」「みなもと債権回収」「ジー・オー・フィルムインターナショナル」「大義新聞社」など、グループ会社の名前も大仰で趣味の悪いものが並んでいます。「インターナショナル」と「ジャパン」が好きだったようですが、元々、自分の名前のイニシャルを冠にしてグループを立ち上げているのですから、一種の個人崇拝を基礎とするカルト集団を夢想したのかも知れませんなあ。

■裁判所に出廷した大神容疑者は、見るも無残に落ちぶれた姿を晒していたそうですが、「ジー・オー」が終わったら、今度は「リッチ・ランド」騒動です。今回もテレビ局が先回りして詐欺師を映像に収めていらので、鬼の首を取ったように酔っ払った詐欺師のホラ話をしつこく使い回しているようです。詐欺師はお喋りが大好きですから、テレビの被写体としては最適です。最近、恐ろしい事件の容疑者が逮捕直前まで平然とインタヴューを受けている映像が頻繁に登場しているようですが、実に気味の悪いことですなあ。テレビ局もそろそろ考えないと、特に詐欺事件の場合は共犯を疑われるようなことにもなり兼ねませんぞ!


健康食品販売会社「リッチランド」の巨額詐欺事件で逮捕された会長の佐伯万寿夫容疑者(61)らが、架空の投資話に出資した会員らに「沈没船から引き揚げた」とする金貨を送ったり、不動産投資先とされる東欧の「現地視察ツアー」を組んだりして信用させていたことが30日、分かった。警視庁などの合同捜査本部は、次々と打ち出される虚偽の「仕掛け」が被害を拡大させたとみて、だましの手口の解明を進めている。 
1月30日20時1分配信 時事通信

■名称が「リッチ・ランド」で、健康食品・不動産投資と続いて、味付けとして「沈没船」が加わった詐欺事件のようです。海底の泥の中に宝物を満載した沈没船が9隻も重なっているのを発見したそうです。どうやって見つけたのか?と問えば、必ず詐欺師はシメタ!と得意になって「極秘」情報を小出しにしてカモを引っ張り込もうとします。まるでCM直前に思わせぶりな「予告」をするテレビ番組のように……。


健康食品販売会社「リッチランド」(東京都北区)の詐欺事件で、同社は出資を募る際、出資額の1割程度しか価値のない物品を出資者に提供し、商品売買の形をとっていたことが分かった。事業形態の違法性を認識していた同社が、出資法などでの摘発を逃れるため、売買を装っていたとみられ、警視庁と福岡、静岡両県警の合同捜査本部は実態をさらに調べる。……同社はホテルなどで行う説明会や、会員に勧誘させるマルチ商法を通じて経営を展開。「5年で2倍以上の配当が得られる」とうたい、50万~750万円の出資を募っていた。しかし同社は、出資金を「商品代」と称し、出資者に物品を渡していたという。

■違法な出資金集めではなく、真っ当な商品販売と装ったマルチ商法というわけですから、騙された人を責めるのは酷でしょう。太陽熱温水器やら泡風呂機械やら、テレビや雑誌が詐欺商法の片棒を担がされた事例も有りますからなあ。まして、扱う商品がテレビ局も愛用する健康食品なのですから、少なくともテレビ・メディアが説教調で被害者を罵るのは筋違いではないでしょうか?買わされた方は、最悪の場合でも自分が使用すれば損はしない、と思うように話が仕組まれているのですからなあ。


物品はローヤルゼリー、みそ、天然水、せっけん、米、デジタルカメラ、じゅうたんなど約50種類。750万円の出資に対してローヤルゼリー15キロなど、金額に応じた数量で販売されたが、商品価値は出資額の10分の1程度だったという。出資法は、銀行など金融機関を除く業者が不特定多数から金銭を預かることを禁止している。出資を勧誘する説明会で同社は「お金だけの取引は一切していない」と説明し、商品の販売を強調していた。

■詐欺犯罪は常に進化し続けますから、先に摘発された事例を徹底的に研究して抜け道を見つけては新手の詐欺を考案し続けます。ローヤル・ゼリーの人気は衰えていないようですが、デジタルカメラが加わったのが新しい傾向でしょうか?

2倍になります! 其の壱

2007-01-31 11:47:50 | 社会問題・事件
■世の中には詐欺・横領のタネは尽きないもののようで、仕掛ける方は「絶対にバレない」工夫を重ね、騙される方は「自分だけは騙されない」と変な自信を持っていて、「此処だけ、今だけ、貴方だけ」の殺し文句で催眠術に掛けられてしまうのは避けられない、これは言葉を持ってしまった人の宿命みたいなものなのでしょうなあ。

「ジー・オーグループ」の巨額詐欺事件で、組織犯罪処罰法違反などに問われたグループ元名誉会長、大神源太被告(44)に対し、検察側は22日の東京地裁公判で懲役18年を求刑した。検察側は「犯罪史上まれに見る広域、多額詐欺事件で、10億円を超す不正利益を獲得、利欲目的の動機に酌量の余地は皆無」と指弾した。
1月22日19時58分配信 毎日新聞

■2002年9月に、テレビ・カメラに囲まれて警視庁に詐欺罪で逮捕された大神容疑者でしたが、利殖会社を自称していた企業体は、2005年9月に破産して跡形も無くなっているそうですなあ。検察が「史上稀に見る広域、多額詐欺事件」と表現した事件ですが、疑惑が広がり始めてマスコミが追い回して記録した映像や発言からは、チャンバラごっこが好きな間抜けなホラ吹きのイメージしか伝わりませんでした。詐欺会社というものは、変な名称を好む面白い習性が有るようですが、それもカモを研究し抜いた結果なのでしょうなあ。詐欺師が語る出資金が「倍になる」計算方法などは、素人には絶対に見破れない仕掛けになっていますから、豪華な会場で開かれる尤もらしい「説明会」に参加した段階で、詐欺師の術中に落ちていることになります。多少の経理や帳簿の知識を持っているくらいでは、詐欺師が編み出した「奇跡の方程式」を見破ることなど不可能なので、自分の算数力を頼りにしていたらカモにされますぞ。

■名称の胡散臭さに敏感に反応する国語力を鍛えておく方が簡単ではないでしょうか?読解力は論理を構成する知力と連動しているので、多少難解な文章で鍛えておくのも良いでしょうなあ。ところが、世の中は「簡単な言葉」「一言で!」が溢れていますから、何の根拠も無い第一印象が幅を利かして詐欺の被害に遭い易い風潮を広げているようです。充分な討論術を持っていれば、詐欺師が怒り出すまで追及する事も可能ですが、第一印象で取り込まれてしまったら詐欺師のホラ話に酔わされてしまいます。

■相当に胡散臭かった「ジー・オー」事件も、その実態は案外と地道な詐欺をこつこつと気長にやろうとしていたようです。最初のキー・ワードは「在宅ワーク」だったようで、1996年頃から広告代理会社ジー・コスモス・ジャパンという名称で、求人情報誌や新聞折り込み広告を使って在宅ワークの求人広告を行なうという詐欺の王道?を歩み出しています。時はバブル崩壊後の「失われた10年」のど真ん中でしたから、「求人広告」は詐欺師の狩猟場みたいなものだったでしょう。広告を見て資料を請求してきた人には「ジーシステムの手引き」という冊子を送付して罠に嵌(は)めるわけですが、こういう道具立てを地道に揃えて置くのも詐欺師の常道ですし、得てして不必要に豪華な印刷と鮮やかなグラビア写真をふんだんに掲載している割には、文章は陳腐でやたらとカタカナ用語が目立つ特徴が有ります。

■この「ジーシステム」というのが案外と地味なもので、要するに通信販売に出資すれば売り上げに応じて配当を貰えるというだけの話だったようです。登録料だの会費だの手数料だのと、矢鱈に出費が嵩(かさ)む投資話でしたから、「売れなければ出資金を失う」と誰でも分かる仕組みでした。そんな商売なら、ちゃんとした通販会社の勧誘員になって歩合制でも時間給でも稼いだ方が確実でしょう。そこで詐欺師は考えたようです。どうせウソをつくなら大きなウソをつこうと思ったらしく、「元本保証!」「高配当!」「利益率120%!」などと、思い付く限りのウソを並べてみたら、不思議なことに地味なウソ宣伝をやっていた頃とは打って変わって、カモがたくさん寄って来たのだそうです。

■大神容疑者が逮捕された後、いくら調べても通信販売をしていた形跡がまったく無いというのですから、徹底した詐欺ですなあ。それでも資金が潤沢になり始めると、真っ当な通販会社と同様に自社製品の開発を始めるフリをしたそうですが、その舞台が自分の奥さんの出身地のフィリピンで、「バナバ」などという聞いた事も無い葉っぱを使った「ユニバG」というお茶を開発?して、これまた「生活習慣病予防に役立つ」などと、何処かのテレビ局が荒稼ぎした詐欺番組と同じ宣伝をしたそうです。テレビCMやパンフレットには、当時は人気が有ったB級アクション映画の俳優ジャン=クロード・ヴァン・ダムを起用した辺りは、詐欺師としては勝負に出た!ということなのでしょう。

衛星破壊の波紋 其の八

2007-01-31 09:28:28 | 外交・情勢(アジア)

衛星破壊実験を明確に禁じる国際的な枠組みは今のところない。中国も批准している宇宙条約は、自国の宇宙活動や実験が他国に「有害な干渉」を与える恐れがあるときは事前の協議を行うとしているが、違反しても制裁措置はない。ただ「中国はジュネーブ軍縮会議で、米国のMDを念頭に置いて、衛星攻撃能力を持つ宇宙物体の禁止条約を制定しようと主張してきた。しかし衛星破壊実験は自らが非難してきたことを自ら冒す行動であり、信義誠実の原則に反する」と慶応大学の青木節子教授(国際法・宇宙法)は批判する。

■「信義誠実の原則」などとこんな場面で持ち出すのは如何なものでしょう?こと軍事となれば、核兵器を筆頭に先に持ってしまった者の勝ちなのですから、口先でどれほど文句を言おうと、自分が持ってしまうまでの方便でしかありません。核兵器を開発した時にも、「平和目的」としか言わなかった国ですぞ。それを見習って北朝鮮も同じ事を主張したのですが、誰も認めてくれておりません。まあ、軍事問題と言うのはそのようなものでしょう。


ところで衛星を使えなくすることは、敵対勢力の軍事力をそぐ有効な方法だが、実は物理的に破壊する必要まではない。衛星の電子的な機能を喪失させればいいから、地上からレーザーを照射する方式もある。これならデブリが放出されない利点がある。中国は昨年、米国の衛星に向け、レーザーを当てた破壊実験を行ったとみられている。米国は衛星破壊実験を85年でやめたとされるが、デブリを出さないレーザー照射方式まで放棄したわけではなく、97年に2回、空軍の実験衛星をレーザー照射によって破壊を試みたことが分かっている。米空軍が2004年にまとめた「対宇宙戦略」報告書では、戦争になった場合、民間の人工衛星や中立国の衛星でも「敵対勢力を利するものなら破壊する」とはっきりと記されている。

■こうした技術はレーガン大統領の置き土産みたいな物です。ロシアを経済的に破綻させるために仕掛けた謀略だという噂もあったSDI戦略は、「スター・ウォーズ計画」とも呼ばれたものでした。売れないハリウッド俳優出身の大統領でしたから、専門家の間からも嘲笑されたような大風呂敷で、当時のIT技術では実現不可能とも言われたものです。しかし、技術が空想的な計画に追い付いたということなのでしょうなあ。


米国はこれまで宇宙の軍事利用を制限する条約の制定には反対してきたが、それは自分に足かせをはめたくないというエゴからだった。ASATを抑制する枠組みをつくらなければ、「中国が口火を切る形で、宇宙戦争の時代に突入する」(江畑氏)というおぞましい現実を見ることになる。一方、青木教授はこの実験が、むしろ米国や国際社会の関心を宇宙の平和利用に向かわせることに期待をかける。「軍事衛星に深く依存する米国の兵器体系は、世界で最も衛星破壊攻撃に対して脆弱になってしまった。それが今回の実験であらためて意識された。米国が進むべき道は、自らが宇宙の覇権を握っているうちに軍備管理政策を推進し、宇宙兵器禁止条約をつくることだ。ブッシュ政権の力が弱まっている中、その方向に進む可能性はあると思う」

■確かに、IT技術を産業と社会生活の中に急速に浸透させてしまった米国は、ハッキングやウィルスなどの新しい敵を生み出し育て増やしてしまい、常に経済界や軍関係者はその対応に追われる多大なコストを支払っています。便利な機能を満載した高性能コンピュータを配置したら、それが破壊されないように必死で守らねばならないのと同様に、「神の目」とも言われるほどの情報収集力を持つ衛星群を持った米国は、今度は膨大な数の衛星を守らねばならないというわけですなあ。


<デスクメモ> 15世紀中ごろに始まる大航海時代。欧州列強は地球分割に血道を上げ、北米大陸に到達すると、今度は植民者たちが「早い者勝ち」の論理で土地の分捕り合戦を展開した。今は宇宙空間の占有競争だ。米国は新興勢力の台頭を許さないだろう。見上げてごらん、夜の星を。騎兵隊の雄たけびが聞こえるから。
2007年1月29日 東京新聞

■こんな茶化した終わり方で良いのでしょうか?事はもっと重大で深刻でしょう。あと数十年先には、大昔、大和朝廷が遣隋使や遣唐使を送って身分保障して貰った時代が再来するかも知れないのですから、日本も「援助」などと暢気な気分で技術を献上するような愚かな事は止めた方が良いでしょうなあ。北朝鮮には日本から随分と物騒な技術が表からも裏からも渡っている事が徐々に解明されつつありますが、中国に対しても技術の流出や漏洩に神経を使って来なかったアホな政府の過ちを、大急ぎで検証しなければなりません。そう言えば、新幹線の技術をごっそりと渡して最初の列車が走行を開始したとの報道が有りましたなあ。メディアによっては目出度い事のように報道していて、「将来は国産を目指す」などという恐ろしい話も我が事のように嬉しそうに報道しているところも有ったようです。商売上も軍事上も、中核となる技術は「ブラック・ボックス」にして取引するようにしないと、後で取り返しの付かない事態を招く事になりますぞ!既に、アホな経営者が馬鹿の一つ覚えで「リストラ」をだらだらと続けた結果、「第二の人生」を送ろうと優秀な技術者がごっそりと海を渡ってしまったという恐ろしい現実が有りますなあ。

■実に不思議なことに、チャイナの繁栄を我が事のように喜ぶ日本人が案外と多いのです。しかし、日本の繁栄を我が事のように喜んでくれる人はチャイナには居ませんぞ。このアンバランスは何とかならないものでしょうか?北朝鮮を「地上の楽園」と持ち上げた人は吊るし上げに遭っているのですが……。

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衛星破壊の波紋 其の七

2007-01-31 09:28:05 | 外交・情勢(アジア)

米議会の超党派議員らで構成する政策諮問機関「米中経済・安保調査委員会」は、米政府が衛星破壊実験を確認した翌日の19日、緊急の報告書を公表した。報告書は80ページにわたり、「多くのウオッチャーは中国を平和国家であり、衛星攻撃兵器に関心をもたないと誤って主張してきた」としたうえで、「米国の衛星が攻撃された場合、米軍だけでなく米経済にも破滅的な影響が及ぶ」と深刻な懸念を表明している。中国研究機関、財団法人霞山会(かざんかい)の阿部純一主席研究員は、この報告書があまりにも早いタイミングで出てきたことに注目する。「80ページの報告書が1日でできるはずはなく、米国はかなり前から、中国の衛星攻撃能力に警戒感を持っていたことがうかがえる」米国防総省が出している「中国の軍事力」年次報告書では、すでに90年代から中国が衛星攻撃能力を持つ可能性について警鐘を鳴らし続けてきた。

■その種の報告書を読んだ記憶も有りますが、少々誇大妄想気味の内容で、軍需産業からの圧力を予想させるものだった記憶が有りました。しかし、本当に850キロ上空の小さな標的を見事に撃ち抜いたのですから、米国の懸念は決して水増しされてはいなかった事になりますなあ。


中国側から言えば、衛星破壊実験は50年代以来推進してきた核兵器とその関連兵器開発の延長線上にあると捉(とら)えられる。拓殖大学の茅原郁生教授(中国軍事)は、「中国には『宇宙を制するものが将来戦を制す』という考え方がある。宇宙空間を使った現代の情報戦では、たとえ相手よりも物理的な力で劣っていても、相手の宇宙能力の中枢を遮断してしまえば対抗することができる。ASATもそこに狙いがある」と分析する。中国が過去3回、同種の実験を失敗していたとする米CNNテレビの報道が正しいとすれば、すでに長期にわたって衛星攻撃能力を追求してきたことになる。

■「過去3回失敗」などという情報がCNNに入っているというのも驚きですが、「宇宙制覇」という絵空事としか思えない大計画を、中国が本気で実現しようとしているとすれば、その背景に有る「2050年までに米国を圧する」大国化計画も現実性を帯びて来ます。


この時期に実験を行った理由について茅原教授は「宇宙開発で突出する米国に対し、中国も宇宙大国を目指していることを誇示し、侮るなという姿勢を示すとともに、人民解放軍内部の士気高揚を狙ったのではないか」とみる。では衛星破壊の技術的なレベルとはどの程度のものか。軍事評論家の江畑謙介氏は「軌道上にある衛星を攻撃する技術は、弾道ミサイルを撃ち落とすMDほどではないが、それでも800キロ先の衛星にミサイルを命中させたとすれば、相当な誘導能力を得たとみなければいけない」と解説する。

■衛星破壊には、標的の近くで自爆して広範囲に弾丸となる破片を撒き散らす物と、弾頭がそのまま標的を貫通する物が有るはずですが、今回の実験に使われたのはどちらのタイプなのかは分からないようです。爆発物を命中させた事も考えられますなあ。まあ、広範囲に亘って電子機器を破壊してしまう核弾頭ではなかったのは幸いですが……。


中国の軍事ハイテク化の飛躍的な向上を示すこんなエピソードがある。昨年夏にイスラエル軍がレバノンに侵攻した際、レバノンのイスラム教シーア派民兵組織ヒズボラが、イスラエルの駆逐艦に中国製のC802対艦ミサイルで攻撃を加え、命中させた。この駆逐艦は存在を外部に漏らさないステルス機能をもつだけに、中国製ミサイルの命中は世界の軍事関係者を驚愕(きょうがく)させた。「中国は90年代以降、ロシアを中心に外国から軍事技術の導入に努めてきた。それが今になって実を結んでいる」と江畑氏は話す。

■ヒズボラの後ろにはイランがいて、その又後ろには中国が控えているというのが常識ですから、イランが支援している軍事組織に中国製の武器が提供されるのは驚くには当たりませんが、世界最大の武器見本市と言われる中東で、中国製の武器が注目を集めるというのは非常に危険な事でありますなあ。

衛星破壊の波紋 其の六

2007-01-31 09:27:39 | 外交・情勢(アジア)
■東京新聞でも、力の入った特集記事を書いています。特に米国側が受けた衝撃を中心にした分析なので、これを読んでみましょう。

中国が老朽化した自国の人工衛星の破壊実験を行ったことが、国際的に波紋を広げている。とりわけ米国を慌てさせた。米国は軍事面で衛星に依存する兵器体系を構築しており、衛星を攻撃されたら途端に脆弱(ぜいじゃく)さをさらけ出してしまうからだ。中国が衛星攻撃能力を獲得することは、それに対抗する米国との間で、果てしない宇宙戦争を引き起こす危険をも孕(はら)んでいる。

■こうした書き出しで記事を書いたのは浅井正智さんです。指摘されている通りに米国は他国の追随を許さない技術を独占的に発達させて、宇宙からの情報収集を続けています。ハリウッド映画でも、多少の誇張が有るにしてもスパイ衛星の高性能ぶりが描かれていますなあ。映像解析能力を飛躍的に向上させて、走行中の自動車から歩行者の動きぐらいなら易々と識別できるようですし、移動している個々人の位置を特定できるのですから、ミサイルと連動させれば究極のピン・ポイント攻撃も可能となります。


米航空専門誌「エビエーション・ウイーク・アンド・スペース・テクノロジー」(電子版)によると、実験は今月11日夕(米東部時間)に行われた。中国四川省の上空付近、高度850キロの宇宙空間で、弾道ミサイルに搭載した弾頭で自国の気象衛星「風雲1号C」を破壊した。米政府は18日、この情報を確認したが、中国政府は23日になって、ようやく外務省報道官が衛星破壊実験を公式に確認した。もっとも実験の様子について具体的な説明は一切なく、ただ「中国は一貫して宇宙の平和利用を主張しており、宇宙兵器の軍備競争には参加しない」と事態の沈静化に躍起だった。

■こうした素っ気無い対応が、軍部の独走ではないか?との疑念を生むことになるのですが、たとえ標的が気象観測用の静止衛星であっても、周到な準備が無ければ実行不可能な破壊実験ですから、中央政府がまったく知らなかったでは済まない話です。


衛星破壊は冷戦時代に米ソ両国がしのぎを削っていたが、破壊によってスペースデブリ(宇宙のごみ)と呼ばれるおびただしい数の残骸(ざんがい)が宇宙空間に放出され、自国の衛星にも被害が出る恐れが生じたことから、米国も1985年で実験を中止した。今世紀初めてとなるこの衛星破壊実験に、米国は最も敏感に反応した。「この実験が米国の衛星を想定して行われたのは明らかだ」と中国軍事研究者の平松茂雄氏は断言する。

■自国の衛星技術が仮想敵国よりも劣っている場合、黙って覗き放題に覗かれているよりは、こちらから攻撃を仕掛けて相手国の衛星を無力化してしまえば、少なくとも情報戦においては五分五分で勝負できる勘定にはなります。現在の中国にとって情報戦の仮想敵が米国なのかどうかは即断し兼ねますが、その可能性は大でしょう。太平洋の覇権を求める国家意志を、既に隠さなくなっている中国ですから、海軍に遅れを取りたくない空軍が宇宙へと戦場を広げようとするのは当然の事でしょうなあ。


「中国が衛星攻撃兵器(ASAT)を持ったら、イラク戦争で威力を発揮した精密誘導ミサイルや日本と共同開発を進めるミサイル防衛(MD)など衛星に依存した米国のハイテク軍事システムが無力化されてしまう。米国としては強い危機感を持たざるを得ない」

■バグダッドへの電撃侵攻を可能にした、米国のピン・ポイント爆撃は世界の度肝を抜いたものですが、実際には陸軍の兵士1人1人が衛星からの生情報を共有して作戦に参加できるようになっているとも聞きますから、もしも作戦中に情報源と通信機能を与えてくれる衛星が頭上から消失したら、世界最強のハイテク軍団がただの間抜けな案山子になってしまいます。それは海上での戦闘行動でも同じ事でしょうから、米国軍の編成思想を根本から揺るがすことになりますなあ。

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フラット化する世界? 其の四

2007-01-31 09:26:50 | 外交・世界情勢全般

タス通信によると、イランの最高指導者ハメネイ師は28日、テヘランを訪問したロシア安全保障会議のイーゴリ・イワノフ書記と会談し、石油輸出国機構(OPEC)型の天然ガス供給国協力組織の創設を提案した。ハメネイ師は会談で「世界の天然ガス埋蔵量の半分はロシアとイランにある。両国は互いに助け合い、OPECに似たガス分野の協力組織を創設することができる」と述べた。同通信は、イワノフ書記がハメネイ師の発言にどのように応じたかについて伝えていない。

■二酸化炭素の発生量を抑え、燃料電池の原料にもなる天然ガスは近未来の主要エネルギーです。その埋蔵量の半分が、ロシアとイランに有る!石油一家の息子でもあるブッシュ大統領でさえ、しぶしぶ節エネルギー政策を口にしなければならなくなった米国も例外ではありません。天然ガスを人質にとって米国を締め上げようとするのなら、米国は黙って居ないでしょうなあ。ロシアが軽率な返答をしなかったのは、既に欧州が警戒感を強めているからでしょう。悪夢のような2度の「石油ショック」を経験している世界は、OPECの動向を凝視し続けていますが、幸か不幸か話し合いがまとまらない体質を持っている組織なので少しは安心もしていられます。しかし、たった2カ国で取り引きの半分を支配してしまったら、これは世界を支配したようなものですから大変です。


英フィナンシャル・タイムズ紙は昨年11月、北大西洋条約機構(NATO)が同月に「ロシアがアルジェリア、カタール、リビア、中央アジア諸国、イランなどとOPECのようなガス・カルテルをつくる可能性がある」との極秘報告書をまとめたと報道。ロシア大統領府はガス・カルテル創設の情報を否定している。イワノフ書記のイラン訪問に先立ち、フリステンコ露産業エネルギー相が今月19日、アルジェリアを公式訪問して資源分野の関係強化を確認しており、世界最大の天然ガス輸出国ロシアの動向を欧米は注視している。
1月29日10時31分配信 毎日新聞

■イランとロシアが組んで、そこに中央アジアが加われば「上海機構」と同じ組織になってしまいます。そこにアルジェリアとカタールとリビアを取り込むのは簡単でしょうし、埋蔵量の半分を握っているイランとロシアが権力を握るのは明らかですから、国際社会に対する恐るべき影響力を持つことになりますなあ。かつてのヒトラーが目指したのが、問題の埋蔵地でした。EUがその歴史を繰り返さないことを祈るばかりですが、核開発疑惑に天然ガス・カルテル計画が絡み合うと、EUは米国と連携して圧力を掛けるでしょうから、米国がその動きをイランが「悪の枢軸」の首魁である証拠だ!などと言い出したら、イラン攻撃を黙認する国が続出する心配も有ります。

■グローバル化が進めば、国際平和が実現して人類全体が豊かになって幸せな世界が出現する、そんな楽観的な話が有るようですが、こうして水やエネルギーが偏在している現状を考えると、世界が「フラット化」されるとは思えなくなりますなあ。

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