旅限無(りょげむ)

歴史・外交・政治・書評・日記・映画

ちょっと北朝鮮 其の七

2006-04-11 12:26:43 | 書想(国際政治)
■中朝関係を見誤らないために、もう少し古田先生の発言を引用しておきます。

それから文化大革命。金日成が本格的な独裁体制に入るのは1967年ごろですが、これは言うなれば文化大革命に対する思想防衛戦でもあったのです。紅衛兵が金日成に批判を浴びせるなか、金日成は国内の中国と結託する親中勢力を壊滅させた。その過程で編み出されたのが「唯一思想体系」、すなわち金日成の言ったとおりに考え、行動しろ、というレベルアップした主体思想なのです。

■この頃の裏話は、黄長(ファン・ファンヨプ)さんの『金正日への宣戦布告』(文藝春秋)に詳しく書かれています。「主体思想」は世界中に同調者を生んで、日本でもファンが活動していまして、この本は東京の「主体思想国際研究所」の初代理事長は法政大学教授の安井郁(やすい・かおる)さんだったと平然と書いてあったり、主体思想の理論を完成させた大学者を自負する人らしく、内外の有名人が実名で出て来ます。「マルクス・レーニン主義」「右傾修正主義」「左傾冒険主義」「主体の唯物論」「主体の弁証法」などの古色蒼然たる専門用語が山盛りですが、ソ連・東欧や中国との交流経験の記録や北朝鮮中枢部の権力闘争を学者の目で見た証言など、価値の高い資料ですぞ。勿論、恨み骨髄の不肖の弟子である金正日が劣等生だった!という話が何度も出て来ます。


また北朝鮮の経済が崩壊したのも、中国によるダメージが非常に大きい。決定的だったのは、1990年にソ連がそれまでのバーター方式、一種の物々交換をやめて、(米ドルなどの)ハードカレンシー方式に貿易のやり方を変えたことで、支払能力のない北朝鮮の貿易量が激減しました。そのとき、中国は冷酷にも北朝鮮に対する石油の供給量を大幅に減らしたのです。中国からすれば、北朝鮮は生かさぬよう殺さぬようにしておきたい相手でしょう。

…中国と接して「大人」になるんだったら、北朝鮮はとうに「大人」になっているはずですよ(哀)。

…あれほど距離が近いにもかかわらず、北朝鮮の芸術にはほとんど中国の影響が見られません。おそらくは美意識が違うのでしょう。……歌などはむしろロシアの影響の方が強い。

…日本が忘れてはならないのは、東アジアは文化的にも歴史的にもバラバラのモザイクである、ということです。……中国、韓国、北朝鮮はそれぞれの「中華思想」を主張して、自分こそが主役だと譲らないし、日本は日本でまったく異質の社会、文化を築き上げてきた。『東アジア「反日」トライアングル』(文春新書)でも詳しく述べましたが、中国、韓国、北朝鮮が結び付くのは「反日」という一点に過ぎないのですから、その絆を断ち切りさえすればいい。そこの認識を誤ると、歴史の悲劇を繰り返すことにもなりかねない。

■唐の長安や元の大都など、東アジアの中心と思われる場所が出現したことも有りましたが、それは欧州の永遠の都ローマとは違いますし、イスラム教のメッカとも違う短期的な政治と文化の市場のようなものでした。つまり、東アジアは共有文化などは存在していないのです。文化的にズタズタに切り離されている事を忘れて、漢字や箸を使うだの、肌の色が同じだのと簡単に思って、目に見えない壁を乗り越えてヨン様ブームだの嫁不足の解消だのと安易な行動をすると、大きなしっぺ返しが来ますなあ。異文化間の深い交流や理解というのは、大変な努力と望外の幸運によって起こる「奇跡」なのですから、我も我もと押し寄せるバーゲン・セールの掘り出し物とは違うのですなあ。友情どころか、最悪の場合は不必要な誤解と憎悪や増すだけで、「やらなきゃ良かった」と後悔するのが関の山でしょうなあ。


(東アジア共同体は)歴史的にも、政治的にも虚構でしかないでしょうね。はじめから。経済的に言っても、丸の内のオフィス街の住人たちと、中国内陸部のヤオトンと呼ばれる穴ぐらに住む人々が、どうやって同じ金利で生活できるのでしょうか?……アジアにおける日本、そしてアメリカの影響を出来る限り削ぎ落とすための戦略でしょうね。

…現実問題として、日本という国なしには韓国は生きてはいけません。彼らの技術では、液晶用の平らなガラス一枚作れないのですから。だから、日本は焦ることは何もないのです。地道に、彼らの反日的反動を論理的に反駁していけばいい。

■古田教授は専門の研究者なので、朝鮮半島の言葉を使いこなしていますが、日本の国民全員が英語だのハングルだの北京語を習得する必要など無いのです。必要なのは、「歴史」に関する知識と教養です。それを学ぶための有益な本は、日本語で出版されて図書館や本屋にずらりと並んでいるのです。テレビで韓国製のメロ・ドラマを二つ三つ観て、大きな勘違いをするよりは、じっくりとアジアと日本の歴史を読み直さねばなりません。特に、マルクス主義やら主体思想の濃厚な臭いを中途半端に嗅いでしまった団塊の世代の皆さんは、これから立派な日本のオジイチャンやオバアチャンになるのですから、早めに学び直しをしておくべきでしょうなあ。勿論、教育の現場に立とうとしている若者や海外雄飛の夢を持っている青少年達も、日本とアジアの2000年の歴史を急いで学ばねばなりませんなあ。
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ちょっと北朝鮮 其の六

2006-04-11 12:26:17 | 書想(国際政治)
■ここで関川さんが一言。

韓国の10倍の民力を持つ西ドイツが、北朝鮮の30倍の国力の東ドイツを吸収してあれだけ苦しんでいる。

本気で「南北統一」などと考えているのなら、日本から巻き上げるつもりの1兆円ぐらいの資金では焼け石に水でしょうなあ。「難民爆弾」で強迫されて莫大な援助資金を搾り取られるのも、武装窃盗団が大挙して来日するのも御免被りたいですなあ。ほとんど読み書きも計算も出来ず、法律や契約を守る事をまったく知らない別世界で育った人々と、韓国の人々が仲良く暮らせるのなら奇跡でしょう。100年計画で北朝鮮を韓国の民度に近づけてからでないと、統一などは不可能でしょう。本当に北朝鮮と言う国は変な国ですからなあ。


北朝鮮は……「木を切るときに、今までよりもっと下の方まで切れ、その方が生産量が増える」、これを彼らは「実利主義」と言って……「独立採算制」……これは要するに「国は費用を負担できないから自弁しろ」と言っているだけ……「企業間物流市場の形成」といっても……資材商社員たちが車に資材を載せてグルグル回って不足の資材をやりとりしているだけ。……何でも大仰に言い立てるのですが、中身はあまり大したことはない。

韓国の知識人と話していても、「北朝鮮と統一したら、南北縦断列車で北朝鮮を旅して回りたい」と平気で言う。私は「どうぞ、お出かけください。ただし、線路を引いた翌日には、枕木も消えて無くなっていますよ」と答えることにしています。

後継の金正日にカリスマ性がなかったために、国全体を金日成を神とする宗教国家にして、息子の金正日をその司祭に就けた……導入したのが日本の国体思想です。「天皇が頭脳で内閣が中枢、臣民が手足」という図式を、そのまま金日成と朝鮮労働党に置き換えた。

マスゲームの起源も……1925年、明治神宮競技大会第2回大会でマスゲームをやったのが朝鮮半島に渡って、1927年の朝鮮神宮競技大会第3回大会からマスゲームが正式の大会種目として行なわれる。それが原型です。

■「マスゲーム」と言っても、金丸爺さんや米国のオルブライト国務長官を大感動させた世界一の人文字パフォーマンスはスポーツ競技とはまったく違うものです。1950年代に党に忠誠を誓わせる儀式として金日成が取り入れた「マスゲーム」は確かに団体スポーツの原型を持っていたようです。しかし、金正日が父親の神格化をすすめて後継者の階段を登り始める1970年代から、「マスゲーム」は一糸乱れぬ軍隊のような動きをする宗教儀式のような異様な雰囲気になって行ったようです。一説には、日本の創価学会が盛大に行なっていた祝祭儀式の映像を入手した金正日が映画マニアらしい霊感に打たれて真似させたとも言われていますなあ。二代目引田天功さんの映像を見て舞台をそっくり平壌に再現するような人ですから、真似は上手なのでしょうが、ドルや円の札を真似するのは止めて欲しいものです。


古田 中国は北朝鮮のことを全然信じていませんし、出来れば力を弱めたいと常に思っている。北朝鮮は北朝鮮で、中国の支配下におさまるような生易しい人たちではありません。現に、核開発問題が起きた時、日本では「中国が北朝鮮を牽制してくれるのでは」という期待が高まりましたが、実際には何もできなかった。

■日本のマスコミのミス・リードと日本政府の判断ミスで、中国頼みによって南の尖閣諸島周辺を自由にさせてしまったり、拉致問題に関する圧力もぐっと弱まって米国議会の方が人権問題として熱心に被害者家族をサポートするような事になりましたなあ。


歴史的にみても、北朝鮮は中国に何度も何度もひどい目に遭わされてきています。まず1958年から始まった「大躍進」では、中国から飢えた農民が北朝鮮に大量に流れ込んで来ました。今とちょうど反対ですね。これを防ごうとする北朝鮮との間に、深刻な国境問題が生じています。

朝鮮半島とチャイナの間に近代的な国境線を引こうとする事自体が大間違いなのかも知れません。例の「高句麗問題」にしても、朝鮮側の勢力が強まると、半島の根本から大陸へと支配地が広がり、逆に押し返される時代も有って、どこに線を引いたら良いのやら分からないので、取り合えず自然の境界線として鴨緑江で一応は話は付いているわけですが、今の遼寧省などは朝鮮の歴史から考えれば、とても他国などとは思えない場所です。金日成自身が、吉林省で育っているのですからなあ。これは満洲帝国の正統問題にも直結する東アジアの歴史問題ですから、この先どうなるやら分かったものではありません。

ちょっと北朝鮮 其の五

2006-04-11 12:25:47 | 書想(国際政治)
■鼎談は「歴史認識」問題に移ります。

古田 我々日本人が韓国から「共通の歴史認識を持て」と言われたら、どうしたらよいか。対処法は実は簡単なんですよ。「まず韓国と北朝鮮で、歴史認識をすり合わせてから来て下さい」と言えばいい。……北朝鮮では、「抗日戦争を指揮して、革命運動を起したのは金日成ただ一人」です。あとは全部消去してしまった。これを称して北朝鮮では「革命伝統」という。ところが韓国は韓国で、「自分達が抗日を戦った」と言いたい。実際には、韓国側の抗日組織はほとんどが空中分解してしまって、日本軍とは戦ってすらいないのですが、韓国の教科書には……抗日レジスタンスの活躍が記されている。どっちも虚偽なんです。

■北朝鮮の建国史が露骨に偽造された話は、先日のNHKスペシャルでも、写真が改竄されたり虚偽で固めた宣伝映画が制作された事が映像で証明されていましたなあ。偽写真は南京虐殺話でも存分に活用されていますが、何かと肖像画やら歴史絵画を多用する個人崇拝体制の国では、露骨な偽造が罷り通ります。ご用心、ご用心。韓国と北朝鮮との間で共通の近代史を組み上げるのは不可能でしょうが、それに加えて朝鮮半島と中国政府との間で古代からの歴史をすり合わせたら、おそらく戦争を覚悟しなければならなくなるでしょうなあ。「高句麗は中国の一地方だった」などと言われたら、地理的に名指しされたも同然の北朝鮮は激怒するでしょうし、韓国だって黙ってなどいませんぞ。


関川 韓国の人たちと近代史の話をしていて違和感があるのは、「~された」という受身のかたちだけで歴史を語ることです。「朝鮮は日本に侵略された」「朝鮮半島は南北に分離された」と、必ず自分が被害者となる。……韓国は世界史において積極的な役割を一度も果たし得なかった。ちゃんとした戦争も、ちゃんとした革命もやらなかった。いわば「主体性」を持てなかった。そういうことが深い傷となって、いまなお苛立ち、悲しみ、悔しさとして続いている。……悲劇の原因を、すべて他者に求めようとするのです。

■こうした歴史を、自ら戦争を求めなかった高い道徳性を持った歴史と自画自賛したい人も多いでしょうなあ。豊臣秀吉の遠征軍を見事に撃退した李舜臣という名提督を憤死同然の戦死に追い込んだ歴史を見直す本が出たことを、拉致被害者の蓮池さんが翻訳して日本人に教えてくれたのですから、皮肉なものですなあ。因みに、日本海軍では李舜臣提督は大人気で、東郷平八郎提督を始めとして、きちんと参拝に行っているのだそうですなあ。今年の巨人軍で李(同じ宗族かどうかは知りません)選手が大活躍してくれれば、日韓関係が新しい段階に進むかも知れないのですが、問題は日本側よりも韓国側ではないでしょうか?

■さてさて、古田先生の発言の中から貴重な御意見を抜粋して終りにしましょう。


盧武鉉政権を調べて見ると、韓国語でタルリバンと言いますが、俗に韓国版「タリバン」と呼ばれる学生運動家出身の過激派が政権中枢に食い込んでいます。……与党ウリ党の議員には主体思想派が13人もいて、党全体のおよそ1割を占めていますし、その周辺には「開かれた空間30」という学生運動出身者の親睦団体がうごめいている。つまり、盧武鉉政権は元学生運動過激派が乗っ取ってしまった完全な左翼政権だといえます。

「民主化」によって……当局の監視が弱まったせいで北朝鮮の対南工作が大学生の間にあっという間に浸透していった……ソウル大学を中心として、大学の自治会が次々と主体思想派に乗っ取られ……。

盧武鉉政権は教育の崩壊も招いています。教育の現場にも過激な左派が入り込んで、まともな教育が受けられない。そこで、反米を唱えている知識人、ホワイトカラーですら、子弟をアメリカにどんどん留学させている。子供と母がアメリカに行ってしまって、父親だけが韓国に残りときどき子供に会いに行く……「雁の父」(キロギ・アッパ)という言葉があるくらいで、寂しさのあまり自殺が増加して社会問題化している。

2000年6月に金正日によって打ち込まれた「トロイの木馬」も効を奏し、「南北統一」は絶対正義として倫理化されてしまった。
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ちょっと北朝鮮 其の四

2006-04-11 12:25:31 | 書想(国際政治)
■しかし、少しは希望も出て来ているのだそうです。

古田 韓国は80年代を通じて、近代化を進め、史上初めて宗族の外に対する道徳を作り上げていった。あっちこっちに「芽吹く微笑み」とか「譲り合いは真心」といった垂れ幕が下がり、テレビでも「親切」キャンペーンが始終流れました。韓国はある程度は近代化に成功したと思いますが、いまだにある古層には宗族的メンタリティーが横たわっている。そして、基本的に自分の血族以外はどうでもよかった人々に、「国民」という近代的な理念を植えつけるのに利用されたのが「反日」でした。……80年代以降、近代化が進めば進むほど「反日」も強まっていきます。つまり、韓国にとって「反日」は近代化のための凝固剤だったのです。

■「自分の血族以外はどうでもよい」という話を読んでから、テレビのCMに有名な韓国の俳優が出て来て「セコムしてますか?」と長嶋さんと同じ宣伝をしているのを観ますと、ちょっと複雑な感想を持ちました。まだそのCMは流れているのでしょうが、4月6日には東京の西日暮里駅構内で、韓国の「武装スリ団」が大暴れしましたなあ。団体というのも嫌ですが、「武装」というところに日本のスリとは違う伝統を感じます。ご用心、ご用心。このスリは強盗にすぐ変身しますぞ!セコムの宣伝で稼ぐ韓国人も居れば、武装スリ団で稼ぐ韓国人も居るという事ですから、ちゃんと区別して付き合いたいもんです。でも、まだ日本製の武装スリ団は出て来ていないようですなあ。


関川 むしろ1960年代くらいまでは、日韓で共通の言語が持てたんですね。朴正煕大統領政権の前期ですか。その頃にはまだ、日本による統治を実際に体験し、どういうものだったかを知っている人たちが残っていた。反日であっても知日だった。知日であるから反日する根拠と自信があった。……古田さんは「なぜ昭和の陸軍は現実感を失った組織になってしまったのか」という問いに対して、「儒教化したからだ」と論じておられますね。私は、これは司馬遼太郎さんに聞かせたかったような卓見だと思います。

■この鼎談を読んで最も「得した!」と思ったのはこの下りでした。儒教と言っても長い歴史が有るので、何を儒教的だと呼ぶのかは常に問題になるのですが、この古田さんの指摘は使える!と思います。


古田 …よく「江戸時代は朱子学が体制教学だった」と言われますが、実は幕府には大学がなく、湯島聖堂は林家の私塾に過ぎなかった。明治23(1890)年に「教育勅語」が下賜されますが、このころ、朱子学が国家イデオロギーとして確立したとみていい。儒士にとって最も大切なものは名文であり、反対に、一番軽んじられるのが食糧などの兵站でした。この考え方では、とても近代戦は戦えません。したがって昭和の軍隊が非現実的な作戦を繰り返した思想的遠因は、儒教にあったと思われます。

関川 皇国史観も、万世一系の日本が世界で一番偉い、というのですから、これは日本版の「中華思想」だったのでしょう。

■明治期のイデオロギーとして皇国史観が有名なのですが、これが生み出されるまでの日本の思想界と政界との戦いはなかなか複雑で、天皇中心で行くのだから、指導的なイデオローグは江戸時代以来の国学者達だっと思ったら大間違いで、明治政府は「神仏分離令」を出して凄まじい廃仏棄釈をやりながら、国学者達も切り捨てて行ったのです。それでは、明治政府が定めた王政復古の天皇親政とは何だろう?と考えると、ドイツ皇帝をモデルとした近代的な統治方法に何かを混ぜ込んだアマルガムだったらしい、とまでは分かって来たのですが、それがあっさりと「儒教だ」と断言されたのを聞いたのは初めてでしたなあ。確かに、『教育勅語』やら『軍人勅諭』などにちらちらと嵌め込まれているのは儒教概念です。儒教で戦争をやっては行けません。

■日本陸軍は強烈なドイツ信仰を持っていて優秀な人材を留学させて、最後はヒトラー信奉者を大量に出してしまうのですが、補給や兵站に細心の注意を払っていたドイツ軍を間近で見ていながら、苦し紛れの「現地調達」作戦ばかり命令していたのはどうしてなのか?この問題を解くのが「儒教」だとしたら、話は簡単になりますなあ。

ちょっと北朝鮮 其の参

2006-04-10 12:28:11 | 書想(国際政治)
■月刊『諸君!』2006年4月号「韓流「自己絶対正義」の心理構造」から抜粋しておきましょう。論者は櫻井よしこさんと関川夏央さん、そして古田博司さんです。鼎談は櫻井さんが反日論者の金両基さんと対談した事から始まります。

関川 …金さんはご自分があまり知識がないテーマ、たとえば19世紀末ロシアの膨張圧力、日露戦争の原因や評価……ことさら激烈な口調になられるみたいです。

櫻井 …都合の悪いところ、自分にとって弱いところを突かれると、韓国の人たちは答えようとしない。そして、まったく別のところに話題をポンと変えて、また怒り出す。

関川 そうして、自分で自分を徐々に激昂させながら、涙と汗の反日に話を運んでいく傾向……

■出だしから暗澹たる気分にさせられる内容ですが、仲良く喧嘩をするには相手の流儀に精通しておかねばなりません。呉善花さんの助言も加えて、三か条。


①相手より大きな声と尊大な態度
②相手より大袈裟な形容詞と身振り手振りで非難
③相手の話は聞いてはいけない

分かるような気がしますが、何だかとても疲れそうな相手なのだと胆に銘じておきましょう。


古田 韓国語に「声討」という言葉があるんですよ。声で討つ。……日韓歴史共同研究委員会も……日本側の研究者が「史料をご覧になってください」と言うと、韓国側は立ち上がって、「韓国に対する愛情はないのかーっ!」と怒鳴る。(哀)……さらに「資料を見てくれ」と言い返すと、「資料はそうだけれど」とぶつぶつ呟(つぶや)いて、再び「研究者としての良心はあるのーっ!」と始まるのです。

■政治家や役人は、「日韓友好」だの「東アジア共同体」だのと酔っ払っていても勤まるのでしょうが、共通の歴史を作れ!などとムチャな命令を受けた現場の方々の御苦労が偲ばれますなあ。


関川 …韓国の知識人と話していて強く感じるのは、強烈な早飲み込みなんですね。頭もいいんでしょうが、何か日本についての話題をふると、ほとんど瞬間的に「分かった」と言う。その典型が『縮み思考の日本人』で有名な李御寧さんご本人とその著作でしたね。……断章取義なんですね。

古田 民族的感情を満足させるストーリーがまずあって、それに都合のいい資料を貼り付けてくるだけなんですね。……韓国の伝統的な論争の流儀であり、思考パターンなのですね。李朝時代の両班の儒教論争も、みなこれですから。要するに「自分が正しい」というところからすべてが始まる。……この思想が突出したものが、北朝鮮の主体思想にほかなりません。……この「自己絶対正義」の論理をたどっていくと、彼らの社会構造の根幹を成す「宗族」に行き着く。…文献上で遡れる自分の祖先に連なる一族のことで、要するに「血族」です。彼らの言う「道徳」とは、この宗族の中だけの道徳であり、正義ですから、宗族以外の人間には何をしても構わない。他の宗族との墓争いをすると、相手の墓を暴き、遺骨から何から焼き尽くして、その上に自分の一族の墓を平気で建てる。

櫻井 靖国参拝に関する論議のおおもとにも、そうした他者に対する倫理観の違いがありますね。

■この宗教感覚の根っこに触れる箇所は面白いと思います。靖国神社には、台湾や半島の出身者も神として祀られているわけですが、その遺族は自国で弾圧されてしまう悲劇の理由が明らかになっていますなあ。きちんと手厚く弔って貰っているかどうかではなく、「正しく」弔わねばならないのは面倒ですし、時の流れによって感謝されたり文句を言われたりすることになります。

ちょっと北朝鮮 其の弐

2006-04-10 12:27:51 | 書想(国際政治)
■この一節を読んだ時、個人的な中国体験を生々しく思い出してしまいました。チベット人地域に留学していた2000年頃、合法的に旧満洲の親族を訪問した帰りと思われる異様な一団を北京国際空港で目撃した時の衝撃は凄まじいものでした。他の乗客との接触を避けているのか、午前6時の開場直後にロビーに入って来た一団は、昭和20年代の日本からタイムスリップして来たような錯覚を呼ぶ姿でしたなあ。現代の中国でも最貧省の第2位と3位を争っている青海省に暮らしていた者の目からしても「貧しい」のですから、それは本物です。肥料が入っていた袋を加工したリュックサックのような物を背負って、ツギだらけの衣服を着た「旅行者」の団体は落成したばかりの北京空港には不似合いでしたなあ。そして押し競饅頭をするように集まって周りに鋭い視線を投げている様子には鬼気迫るものがありました。

■その北京空港から鉄路で青海省の西寧を往復していた通学路で、北朝鮮のガイドさんと同じ事を行った中国女性に会ったことも有りましたなあ。彼女はまだ若くて北京で観光客相手に土産屋をやっているのだそうで、独学で英会話を身に付けチベット文化圏に買出しに行った帰りでしたなあ。英語が使える相手を見つけて大ハシャギでしたが、長時間の乗車ですっかり打ち解けた時、「どうして私の国はこんなに貧しいのかしらねえ」と窓の外を見詰めながら英語で何度も言っていましたなあ。因みに彼女は黒龍江省の出身ではありません。さて、古田教授の投稿に戻ります。


思えば切ない歴史ばかりこの民族は刻んできた。ところが、朝鮮研究の進歩により、その感慨に浸ることも現今では許されない。

■ここからが面白いところで、最近の歴史研究の動向が見事に整理されていますぞ。


日韓併合は日本が強制したと言いたい。しかし、当時の大韓帝国皇帝・高宗が推進したことが、第2次日韓協約の史料から出て来てしまった。……日本は植民地時代に悪いことばかりしてきた。と彼らは言いたい。ところが、アメリカの学者がそれでは戦後の韓国の企業家たちがなぜ育ったのかわからないと異議を唱え、植民地経営下に近代化が一定程度成し遂げられたことが実証された。

「韓国併合」と言いながら「植民地経営」と呼ぶのは違和感が有りますが、それは置いておきましょう。古田教授は、こうした研究成果に対して韓国の学者は「無視と怒号」で打ち消しにかかっている事を残念に思いつつ、情報が遮断されている北朝鮮の人々を心配します。


公平な歴史認識が拒絶される空間で、日本植民地時代に朝鮮から締め出され、戦後帰国した独立運動家たちが作った恨みの歴史観が正史としてひたすら肥大化していった。アメリカに対する認識も同様である。……

■この「恨みの歴史観」については、月刊『諸君』に面白い鼎談が掲載されていたことを思い出して調べて見ましたら、櫻井よしこ・関川夏央の両氏を相手に専門的なコメントを連発していたのは古田教授御本人でした!後でこの対談から幾つか抜書きして置きますが、対米感情についての話です。


朝鮮戦争は北が南進し、スターリンが許可を与えたという機密文書が、零戦が終結したことで出てきてしまった。にもかかわらず、南が北に攻め入り、「アメリカ帝国主義」がそれを後押ししたという侵略の歴史が広く南北で流布されている。

1950年6月25日に奇襲を受けて大パニックになった世代がまだ元気なはずなのに、韓国側にもこんなデマが生き残っているのは由々しき事なのですが、朝鮮戦争を描いた『ブラザーフッド』という映画は大ヒットしたと宣伝されていたのはウソだったのでしょうか?あの映画は北からの奇襲をきちんと描いていたはずですなあ。とは言っても、ソ連崩壊までは日本の歴史教科書やら専門書の中にも米帝国主義の「北進」話が載っていたのですから、他山の石としなければなりませんぞ。


アメリカは悪いことばかりしてきた、我々は常に被害者だと言いたい。しかし、戦後の韓国の経済発展がアメリカの援助なしに成し遂げられたとはどうしても考えにくい。

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ちょっと北朝鮮 其の壱

2006-04-10 12:27:27 | 書想(国際政治)
■NHKが4月の頭に3夜連続で北朝鮮に関するスペシャルを放送しました。建国期の謎、世襲の裏側、核開発秘史、そんな3部構成になっていましたが、特に第1回で取り上げた金日成誕生をめぐる歴史の改竄(かいざん)に関する取材は、旧ソ連や旧東ドイツにまで及んで貴重な証言を残した取材直後に死去した人が居るほどの、消え去りつつある歴史の発掘になっていました。1992年3月に出版されている『金日成調書 北朝鮮の支配者――その罪と罰』黄民基著(光文社)という本には、旧ソ連領内に暮らしているキーパーソンからの証言が記録されていましたが、テレビでこうした発言が放送されたのは始めてではないでしょうか?

■この本にはさまざまな理由で建国後に北朝鮮を去って旧ソ連に暮らす人々の証言が残されています。モスクワ共産青年大学教授でソ連生まれの韓国人三世の韓マクスさん、元金日成主席補佐官の李文一さん、元人民最高司令部副総参謀長の李相朝さん、元金日成大学副総長の朴一さん、などの生々しい歴史的証言が有りますから、NHKスペシャルで再確認したり、逆にテレビでは時間的制約で取り上げられなかったはずの事実を補うこともできるでしょう。また、金日成1993年4月に出版された、「英雄伝説[1912年~1945年]を踏査する」という副題の付いた恵谷治さんの『金日成の真実』(毎日新聞社)では、ソ連崩壊直後に北朝鮮建国に関わった人達を訪ね歩いて集めた貴重な証言が保存されています。

■NHKスペシャルの第2部と第3部に関連した本は沢山有りますが、1995年に出版されてから版を重ねた康明道著『北朝鮮の最高機密』(文藝春秋)などが資料として高い価値を持っているように思えますなあ。著者は金日成の母方の従兄弟の娘婿、人民軍大佐、人民武力部直属の保衛大学研究室長、主席宮経理部指導員兼ダミー会社のヌンナ貿易副社長という経歴を持つ脱北者だそうですから、地名も人名も詳細で最後には核開発用の巨大な地下施設の目撃談まで出て来ますぞ。NHKスペシャルが「これからどうなるのでしょう?」という余韻を残して番組を締めくくりましたが、その先を考えたい時には、『防衛庁教官の北朝鮮深層分析』(KKベストセラーズ)が参考になるかも知れません。著者の武貞秀士さんは慶応の大学院から防衛庁防衛研究所の教官になった人で、1998年に書いたこの本が単独執筆の最初なのだそうです。

■あとがきにも書かれていますが、「北朝鮮の耐久力を過小評価してはいけない。韓国の安定性を過大評価してはいけない」という視点は、現在も有効でしょうなあ。この本が出版されてから、2000年の金大中大統領の平壌訪問という大事件が起こり、2003年には今のちょっと変わった大統領が就任したのですから、「韓国の安定性を過大評価し」ていたら大きな間違いを犯すでしょうなあ。半島を分断しておいた方が良い、と取り囲んでいる米ロ中が考えている間は、今の枠組みは壊れませんし、当事者の韓国と北朝鮮が「統一」を叫んでも、どちらがどちらの身元引受人になるのか決まっていないような話なので、うっかり日本がしゃしゃり出たら、『日朝平壌宣言』のような恥を掻き続けるだけでしょう。案外と、10年前に大量に出版された北朝鮮関連の本の中に、今でも読む価値の有る本が有る理由もこの辺に有るような気がします。「東アジア共同体」などと夢見がちな人達が外交を弄繰り回すと危ないよ、というメッセージがあちこちに見つかります。

■4月6日の讀賣新聞に、「北朝鮮の論理」という投稿論文が掲載されました。書いたのは筑波大大学院教授の古田博司さんです。専攻は東アジア政治思想と朝鮮思想史だそうで、『東アジア・イデオロギーを越えて』という本で第5回読売・吉野作造賞を受けています。この本はちょっと結論が先取り出来そうなので未読ですが、今回の投稿を読むと、一読の価値は有りそうですなあ。


……北朝鮮にはある一貫した自己憐憫の論理とでもいうべきものが認められる……

■これがテーマになっています。2002年5月に訪朝して帰国に手間取って幸運にも?港湾都市の清津(チョンジン)に連れて行って貰えたのだそうです。そこで耕されない石ころだらけの段々畑を目撃してしまった体験が紹介されています。


…見てはいけないものを見てしまった私に、ガイド兼監視員は「先生、わが国はどうしてこんなことになってしまったのでしょうか」と正直につぶやいた。…


書想・地球は丸いんだよ

2005-06-06 06:56:24 | 書想(国際政治)
『ザ・グレート・ゲーム』宮崎正弘著 小学館文庫

■「中間線」か「大陸棚」か、尖閣諸島周辺の海底に眠っているガスや原油の取り合いが新聞紙上にも毎日のように載っています。拙ブログの『園田直を知っていますか?』で書いた通り、この境界線問題はたった一人のウッカリ者と、その人物の背中に「日中友好パンダ・ブーム」の風を送った日本のマスコミが生み出したものです。今頃になって、日本の国境線を守れ!と言っても、既に手遅れなのではないのか?と疑っています。国境線(領土)問題は、囲碁と同じです。週末にNHK教育で囲碁や将棋の勝負を放送していますが、一局が終るたびに、「勝負を決めた一手」を指摘してくれます。

■素人の縁台将棋では「待った」も御愛嬌ですが、プロの勝負では絶対に認められないのは常識です。ところが、どうも日本政府は、「待った」も言わずに三十年近く互いに置き続けた碁石の並びを御破算にしようとしているように見えて仕方がありません。一手ごとに全身が緊張する「この一局」では、ここに石を置くべきだが、あちらにも打って置かねば禍根(かこん)を残す。さて、一度に二つの石は打てない……どちらに打つべきか?勝負の分かれ目になる、こういう場面に視聴者は呼吸も瞬(まばた)きも忘れて見入ってしまうようですなあ。

■想像してみましょう。囲碁の大勝負の会場で、相手が必死の形相で定石(じょうせき)さえも破って陣取りを挑んでいる時に、鼻毛でも抜きながら、「あれ?アタシの番ですか?まあ、いいや、お先にどうぞ。一回休みでいいやあ」などと言うヤツがいたらどうでしょう?NHKや囲碁協会に苦情が殺到するに違いないのは誰にも分かりますよね?ところが、日本政府が尖閣諸島に対して取った態度は、まさにこの間抜けで、不真面目で、愚かな碁打ちとまったく同じだったのですぞ!マスコミも日中友好ブームに酔っ払っていたのです。「竹島問題」などは、それ以下ののんびり対応をしていましたから、御話になりません。

■「国際法」は慣習法の寄せ集めだという、常識が日本人には分かっていないような気がします。畏れ多い天皇やマッカーサーから憲法を貰ったことしかないので、法律も人間が作るかなりいい加減なものだという事が理解し難いのかも知れませんなあ。「国際法の父」と呼ばれているグロチウスさんが書いた大著『戦争と平和の法』という有名だけれど、誰も読まない本がありまして、これはギリシア・ローマ時代の出来事の羅列みたいな本なのです。いつ・どこで・何が起こって・どう決着したか、それだけが延々と書かれている欧州史の大事典みたいな内容です。

■更に、国際法を持ち出して交渉する時に、最も重視されれるのが「既成事実」です。そうでなければ、大きな犠牲が出てしまうからです。竹島の現状を、面倒臭いから放って置いた外務省と政府、同じく取材ヘリコプターの一機も飛ばさなかったマスコミ、今更、韓国の軍事施設を撤去させようとしても、実力で奪還する覚悟もないのならば、税金と電波の無駄遣いになる可能性が大ですなあ。デモ行進やらワイド・ショー騒ぎで決着した国際問題など一つも無いのです。大勢の素人が騒ぎ出すというのは、外交的にも軍事的にも勝負が決っている証拠でもあります。

■さて、問題の尖閣諸島と並んで重大なはずの樺太問題を取り上げるマスコミはほとんど無いので、この『ザ・グレート・ゲーム』のような本が大切になります。日本の茶の間から見ていると、長い日本列島の南と北の外れにチョコンと顔を出している二つの地名のようにしか思えませんが、これがチャイナとロシアを視野に入れると、中央アジアでリンクしている事が分かります。日本の歴史教育が、明治以来の「欧州史=世界史」感覚と、「チャイナ=天下」意識との混合状態で続けられているので、「中央アジア」などと言われても、まったくピンと来ませんなあ。

■中央アジアの白地図を出されて、アフガニスタン・ウズベキスタン・タジキスタン・キルギス・トルクメニスタン・カザフスタンの国名を記入しなさい。と言われて、さらさらと書ける日本人がどれほどいるでしょう?東大の赤門前で調べようと、郊外のコンビニ前にしゃがみ込んでいる蛾のようなニイチャン達に聞こうと、結果はあまり変わらないのではないでしょうか?世界の強国は、この中央アジアとコーカサス地域を支配しようと権謀術数の限りを尽くしている様子が、通勤電車の中でも読み通せる分量で書かれているのが、この本です。

■最大の公共事業となるオリンピック誘致に失敗した愛知県が、取って付けた様に始めた『愛・地球博』に感動している程度の国際感覚では、日々の電気や水を安心して使う資格は無いかも知れませんぞ!シベリアから掘り出されたマンモスなんぞに感心している暇があったら、シベリアから極東に広がっている巨大なガス田の名前の一つでも覚えた方が宜しいと思いますなあ。すっかり官僚化してしまった日本のマスコミが、中央アジアやアフガニスタンの「今」を伝えないので、米国が何をやろうとしているのかを知る機会も無いのが日本人の現状でしょう。

■尖閣諸島のガス田は、遥かカスピ海沿岸やイランからのパイプ・ライン計画の東南端の小競り合いでしかないのが北京政府のエネルギー戦略です。日本は、うっかりミスばかり起こして運転される、危なっかしい原子力発電の後始末も決められず、原油の8割を依存するイスラム地域との付き合いも考えずに、ブッシュ息子の「テロとの戦い」に諸手を挙げて協力しています。本当に「テロとの戦い」ならば大義も有りますが、「イスラムとの戦い」やら「エネルギー支配の戦い」に参加しているとしたら、自分のエネルギーは自分で調達してしまう海千山千の腹黒い国々の中で、最終的には孤立して馬鹿を見るのは日本だけ、という可能性も考えておかねばなりませんぞ。

■一見ややこしい、互いに遠く離れた場所で起こっている事件を、石油・ガスのエネルギー争奪の「グレート・ゲーム」として見渡すと、丸い地球が一つに繋がっていることが、とても良く分かります。歴史好きの方なら、「グレート・ゲーム」と聞けば、ロシア帝国と大英帝国との中央アジア分割競争を思い出すでしょうが、新しいゲームには米国とチャイナが入っているので、とても複雑です。乱暴に言ってしまえば、囲碁対決が麻雀大会になったようなものです。尖閣諸島の問題に興味を持ったら、「上海シックス」にも注意を向けねばなりません。このグループの正式名称は「上海協力機構」で、ロシア・チャイナ・カザフスタン・キルギス・ウズベキスタン・タジキスタンがそれぞれの思惑で、唐突に結成したものです。

■チャイナが米国追い出し目的で打ち上げている「東アジア共同体」なんぞに浮かれていると、日本はエネルギーの日干しにされてしまいますぞ!チャイナは、アフガニスタン攻撃を口実にして自国の西側に軍事拠点を並べている米国が嫌いです。それを許しているロシアはもっと嫌いなのに、大急ぎで国境線問題を折半にして解決しているのは何故なのか?インド・パキスタンと続いた核実験の連鎖が、イランには許されないのは何故なのか?どの国も今世紀の日本にとって重要な国々です。米国の肩越しに眺めていると、ぱっと米国が身をかわしたら、日本は馬鹿面を晒して棒立ちになってしまいます。この本の著者も、巻末に、


国連中心外交を展開してきた日本は国際枠組みを無視して国益を守れることが可能か?(急いでいたらしく、時々文章が乱れます。守ることが……)また日本は、今後も国際問題をカネだけで解決しようとして果たして良いのか?いつまでそういう事態に甘んじるつもりなのか。イラク戦争の教訓を日本が活かすのは、国益中心、主権尊重という国の根幹に関わることを改め直すところから始めなければならない。

と結んでいます。それを考える情報が満載で、値段の割には地図や図表も多いので、気楽に読んで、ゾーッとできる本です。

■こんな楽しい?話も載っていますよ。


「石油は79年、天然ガスは106年しかもたない」
「日本の石油備蓄は69日分しかない」


石油公団の国家備蓄90日分と石油精製業者の民間備蓄70日分を目標にしているけれど、この目標を達成したの昔の話で、それもこの数値は1987年当時の需給見通しを元にして算出されている。毎年増える電気製品の数、自動車の数、季節知らずのハウス栽培の綺麗な野菜……、石油の需要は決して減ってはいないでしょう。それでも、69日分の備蓄を持っているのだから、一定も備蓄を持たないチャイナに比べれば多少は余裕が有るだろうと、思ってはいけないそうです。

■IEA(国際エネルギー機関)にはCERM(協調的緊急時対応措置)という取り決めが有りまして、産油国地帯で紛争が起きたりしたら、世界規模の石油危機を避ける為に、加盟国は協調して備蓄原油を率先して放出して価格高騰を防ぐ義務が有るのです。それならば、拉致やらミサイルやらで好き放題している嫌な隣国にも、虎の子の備蓄原油をプレゼントしなければならなくなる可能性が有るということです。「あいつは嫌いだから、渡さない」などと子供みたいなことを言えば孤立してしまいますなあ。四半世紀も拉致被害者を放置していたツケが、こんな場合にも影響して来るのです。いろいろと、刺激的に勉強できる本というわけです。
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書想 『金正日 朝鮮統一の日』其の五

2005-05-29 09:54:18 | 書想(国際政治)
其の四の続き

■歴史上のトピックスを羅列しておきましょう。

1945年11月~49年9月の中国共産党と国民党の内戦で、米国の支援を受けた蒋介石軍に包囲された共産党軍が敗北の危機に直面した時、支援要請を受けた金日成は10万人の義勇兵を送って共産党の勝利に貢献。

1962年12月の朝鮮労働党中央委員会第四期五回全体会議で、経済建設と軍事建設を併進して国防を固める四項目の軍事政策を採択。①全国民武装化 ②全国要塞化 ③全軍幹部化 ④全軍近代化(②は1990年代初頭に完了して重要な軍事施設は地下トンネルに格納)

1968年1月23日プエブロ号拿捕(だほ)事件。米海軍の電子情報収集船プエブロ号が領海侵犯すると北朝鮮海軍はこれを拿捕。横須賀の第七艦隊の主力部隊を朝鮮海域に派遣。日本海に原子力空母エンタープライズ・空母レインジャー・対潜空母ヨークタウンを中心とした米軍艦艇が大挙集結。水爆搭載可能のB52戦略爆撃機・F4・F105戦闘機が数百機、韓国の空軍基地に飛来。ソ連と中国は傍観。しかし、米空軍司令部は空襲を強行すれば80%が撃墜されると試算して12月23日、領海侵犯を認めて謝罪するに至る。82名の米兵捕虜は236日間の拘留後に釈放される。
※ヴェトナム戦争中、北朝鮮の対空ミサイル要員が米軍機多数を撃墜。

1969年4月15日、EC121撃墜事件発生。金日成の誕生日に米軍電子偵察機EC121が北朝鮮の領空を侵犯し、迎撃に飛び立ったミグ21のミサイルで撃墜される。ニクソン大統領は、原子力空母エンタープライズ・空母タイコンデロガ・空母レインジャー・対潜空母ホーネット・戦艦ニュージャージーを朝鮮海峡に急派し、爆撃機・戦闘機が数百機、韓国に飛来。しかし、レアド国防長官とロジャーズ国務長官が米軍が甚大な被害を受けると言って攻撃に強く反対し、報復攻撃を断念。

1970年3月31日、「よど号」事件発生。平壌に到着した「よど号」が帰国する際に、日本の専門家は北朝鮮にはジェット旅客機のエンジン・スターターは無いから日本から急いで空輸しなければならない、と心配していたが、朝鮮人民軍の技術将校が簡単に「よど号」のジェット・エンジンを起動させてしまった。

1973年の第四次中東戦争で総勢1500人の軍事顧問団・パイロットをエジプトに派遣。カイロの防空網構築には北朝鮮要員300名が配置され、イスラエル軍のミラージュ戦闘機を撃墜。10月6日、劣勢を挽回するために第三次中東戦争時にイスラエルが採った電撃作戦を逆用するように北朝鮮顧問団は進言し、サダト大統領はこれを承認。北朝鮮パイロットに率いられたエジプト空軍特別攻撃隊数百機が、イスラエルの防空網を避けて北上して地中海に出てから、イスラエルの戦略拠点を奇襲空爆。これを切っ掛けにエジプト軍はイスラエル軍をシナイ半島から押し返した。イスラエルのダヤン国防大臣は「エジプト軍のパイロットが朝鮮語を話している」と発表したが、北朝鮮は即座に否定。

1976年、エジプトから返礼としてソ連製のスカッド・ミサイル数基を入手。ソ連に拒否されたミサイル技術供与を補って自主開発

1976年8月18日、ポプラ伐採事件発生。共同警備区域のポプラの木が監視の邪魔になると言って事前通告せずに将校二人が兵卒30名を引き連れて斧で切り倒すのを見た北朝鮮の警備兵4名は、激怒して素手で突入。驚いた米軍将校が斧を投げ付けると、北朝鮮兵士はこれを素手で受けて投げ返し、米軍将校は落命。多くの米兵も格闘術の餌食となって重軽傷を負う。一方的な勝負だったが、北朝鮮側は米軍の面子を立てて「我が軍にも負傷者二名」との嘘情報を発表して痛み分けを演出。

1984年4月に改良型スカッドBミサイル発射実験に成功し生産開始。

1987年末、イランにスカッド・ミサイルを供与。翌年、イランは数百発のミサイルをイラクに発射。

1990年代に入ると、38度戦沿いの前線地下サイロ陣地が完備され、13000門の長距離砲と多連装ロケット砲に加え、秘密兵器の前線敵陣地破壊用長距離砲の「自主砲」も配備。

1991年9月27日、ブッシュ(父)大統領は韓国から戦術核兵器の撤収を宣言。76年から毎年実施していた核攻撃想定軍事演習「チーム・スピリット」も中止。

1993年2月25日、IAEAは北朝鮮に対して前例の無い特別査察を要求。3月9日、クリントン大統領は「チーム・スピリット」を再開したが、その前日に朝鮮人民軍は準戦時体制に入る命令を受けて、在韓米軍を含む米軍兵力に対する攻撃準備を整えた。

1993年3月12日、北朝鮮は核拡散防止条約からの脱退を宣言。(60日後に有効となる)

1993年3月16日、米国の軍事偵察衛星が写真撮影可能な時間に軍事演習を実施。4日後、驚愕したクリントン大統領は直接交渉を提案。

1993年5月29日、米国に事前通告した上で、多段式ミサイル三発の試射に成功。一発は能登半島沖、二発は3000キロ離れたハワイ沖とグアム沖に着弾。

1993年6月2日~11日、ニューヨークで第一回米朝会談が開かれ、米国は北朝鮮の政治体制の尊重と、南北平和統一支持を表明せざるを得なかった。7月14日からジュネーブで第二回会談が開かれる。

1994年7月8日、ジュネーブで第3回米朝会談、その結果10月21日に「米朝核合意」が発表されて、軽水炉2基と必要な重油を手に入れられる事になったが、米国の政権交代で中断。

1994年12月、38度線を不法に越えた米軍ヘリコプターを独自開発した携帯用地対空ミサイル「火昇(ファスン)」が一発で撃墜。

1996年、大陸間弾道弾の開発に成功。

1998年4月6日、パキスタンが射程1500キロの中距離弾道ミサイル「ガウリ」発射実験に成功。中国の遅い技術援助を捨てて北朝鮮から供与されたミサイルのコピーと言われる。北朝鮮は、イラン・エジプト・シリア・リビアなどに数百発前後、合計一千発以上のミサイルを輸出している。

1998年7月22日、イランは中距離ミサイル「シェハブ3」の発射実験に成功。

1998年8月31日、多段式ロケット打ち上げに成功して人工衛星を軌道に乗せる。ロシアと米国は実験成功を確認。

■まあ、これくらいの歴史を知ってから、拉致事件の解決法や日本独自の外交方針をぼちぼちと考えるしかないのですが、民主党や自民党の若手の中から「対米従属の外交姿勢を克服して、日本独自の戦略を持って……」などという寝言が時々出て来ますが、本当に東アジアで独立を保って米国と対峙するには、断片的な北朝鮮情報をワイド・ショーでドラや太鼓で煽っているような段階を卒業しないとどうしようも無いのでしょうなあ。軍事的にも外交的にも、始めから日本は北朝鮮に対して位負けしているのです。「あれこれ言わずにさっさと1兆円の金を払って仲良くしようよ」と言っている人達は、案外、日本の立場を良く理解しているのかも知れませんなあ。

■しかし、日本の独立を研究するべき学者や国防と内政に最終的な責任を負っている政治家が、こんな発言をするのは許されないと思います。さっさと職を辞して、気楽なワイド・ショーのコメンテイターに転職した方が良いでしょう。いろいろと日本人にとっては耳の痛い話が満載の本だという事はお分かりになったと思います。全面的に著者の意見に同意する必要などありませんが、少しだけ大人になった気分になれる本だとは思います。ご参考までに。『金正日 朝鮮統一の日』シリーズ、オシマイ。

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書想 『金正日 朝鮮統一の日』其の四

2005-05-29 09:47:07 | 書想(国際政治)
其の参の続き

■朝鮮戦争でも、実質的に北朝鮮が勝ったのだ、と判定する著者は、日本の上空を我が物顔で飛びまわっていたB29が、朝鮮戦争中にはばたばたと撃墜された事実に続けて、米巡洋艦バルチモアを北の魚雷艇が撃沈、駆逐艦を大破させ、敷設した機雷によって多数の米艦船が撃沈されている事実を並べます。地上戦でも、砲撃戦・戦車戦・白兵戦において北朝鮮軍は一歩も引かずに米軍の消耗をじっと待っていられて事も付け加えます。一気に釜山を包囲してしまった北朝鮮が防戦に廻ったのは、米軍との直接対決を恐れたソ連が、軍事援助を減らして武器弾薬を供給しなくなったからでした。ですから、北はソ連を信用していませんし、義勇軍を送ってくれた中国の装備のお粗末さを見てからは、頼りにもしていないのです。金正日が到達した軍事思想は、


①戦争の帰趨(きすう)は、経済力・国土の大きさ・兵士の練度・武器や装備の優劣によって決るから、物量的・技術的優位が前提となり、敵兵力の10%~30%を戦闘不能とするか敵の兵站(へいたん)拠点を破壊すれば勝てる。
②外国の侵略者を撃退する戦争では、ヒーローとなる人物の存在が、国力・兵の練度・ハードウェアの格差を十分に補う。
③空軍力や海軍力だけでは、戦争の勝敗はかならずしも決定しない。(その証拠に地上部隊をケチッタ米軍は、朝鮮戦争・ヴェトナム戦争に敗れ、今もイラクで犬死している)
④一定のハイテク武器があれば、小国でも大国との戦争に負けない。(朝鮮戦争・ヴェトナム戦争・中東戦争・フォークランド戦争・アフガン戦争・湾岸戦争の教訓である)
⑤核兵器は無用の長物である。(広島と長崎の原爆投下は戦局とは無関係な実験だった。戦後の軍事衝突を核兵器が抑止した事は無かった)
⑥戦争は戦わずとも勝てる。核戦争および通常戦争に対する万全の準備をしていれば、あとは心理戦、外交戦だけで戦わずして勝てる。


■特に⑥に新しい証拠を与えているのが日本でしょう。日本からは在日朝鮮人の皆さんの寄付金に国家的な援助資金も上乗せして受け取り、ハイテク技術もたっぷりと導入してしまったのですから、今頃になって政府が「拉致問題」で右往左往しているのは滑稽千万な話なのです。被害者の皆さんは「日本人であること」を呪っているのではないでしょうか?お掛けする言葉も有りません。

■ヴェトナム戦争が拡大された時期に、米日韓が北朝鮮に攻め入る危険性が高まった。その状況をこんな風に描いています。


北朝鮮オオカミは、韓国に登場したオオカミのようなイヌが、日本サルと米国ライオンとの後押しで北の山に攻め入ることを恐れた。仕方なくモスクワでシベリア「クマ」と1961年7月6日に同盟を結び、7月11日には北京で中国ドラゴンと同盟を結んだ。こおに、米国ライオン・日本サル・韓国イヌ同盟に対抗して、朝鮮オオカミ・シベリア「ヒグマ」・中国ドラゴン同盟が結成されたのである。


六カ国協議の基本構造はここに有ります。ヒグマは瀕死の重傷を負って腹ペコですから、ただ椅子に座っているだけですから、協議の主役はライオンとドラゴンです。イヌとサルは両方の顔色を窺(うかが)っておろおろしているというわけですなあ。

其の五に続く。
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書想 『金正日 朝鮮統一の日』其の参

2005-05-29 09:46:07 | 書想(国際政治)
其の弐の続き

■『ジャパン・アズ・ナンバーワン』を書いたCIAのアジア担当分析官上がりのエズラ・ボーゲルと著者が対談した時の話が紹介されていまして、ボーゲルさんが北朝鮮の立場を分かり易く説明してくれ、と所望したそうです。そこで、こんな比喩を使ったのでした。米国は巨大なら「ライオン」で朝鮮族はライオンに挑み続ける「オオカミ」、オオカミの一部が投降して山を下りて米国の「イヌ」になった。イヌは韓国だと言うのですなあ。


ぬくぬくと太っているがアメリカの首輪をつけ、ロープにつながれている「イヌ」と、腹をすかしてはいるが自由に走り回っている「オオカミ」とどちらがよいか?


今の韓国大統領は、オオカミの皮を被ったイヌになったのかも知れませんなあ。大統領の苦学生時代は美談になっていますが、密かに北朝鮮のエージェントが経済的な援助を与えながら洗脳していた、という噂もあるようですが、この比喩を使えば、「お前もオオカミなのだ」と言われ続けた結果が、危険な暴言放言外交に結実しているとも考えられます。

■朝鮮民族の「正統」を問題とする著者は、米国の支配下にある韓国には半島統一の正統性を認めません。苦難の歴史を知っていれば、確かに韓国には半島統一の大義名分は無いことは明らかで、日米の援助によって得た経済的な繁栄だけが唯一の財産ですが、97年の通貨危機が示したように、所詮は米国資本のオモチャでしかないのですから、手段を選ばず軍備に必要な資金と物資を着実に入手している北朝鮮の逞(たくま)しさの方が有効なようにも思えて来ますなあ。


……韓国はもともと「イヌ」である。イヌはオオカミになれない。オオカミ族の中にはイヌになりたいという者もいるのではないか、と指摘するかもしれない。北朝鮮の人口は2200万人だから、100万ぐらい山を降りてイヌになる者もいるかもしれない。しかし構わない。亡命を阻止する理由もない。食料がないからちょうどいい厄介払いである。アメリカのイヌになって丸々太ったら、後にオオカミの格好の獲物になるのである。


「イヌ」「イヌ」と言われると、それは日本のことではないのか?と思えて来ませんか?歯を食いしばってパチンコ業界を成長させながら、祖国に闇献金を続けた在日朝鮮人と、「パチンコ文化人」などという取って付けた様な称号をもらって喜んでいる野党第一党リーダーのいる日本では勝負になりません。与党は与党で、日本の土建屋さんが欲しがっている塩気の無い川砂の利権を求めて何度も訪朝してハシャイでいたのですからなあ。今頃になって「経済制裁だ!」などと言っても、絵に描いたような「想定済み」の話でしょう。

■この本の真骨頂は、「米国は北朝鮮を攻撃出来ない」ことを膨大なデータを使って論証しているところです。


ただし朝鮮人民軍が、在韓米軍を、朝鮮に隣接する海外米軍基地を、また米本土の一部都市を殲滅(せんめつ)できるだけの軍事能力を保有していることは、紛れもない事実である。かつての朝鮮戦争では北朝鮮は海外にある米軍の発進基地に対して報復攻撃を加える能力をもっていなかった。ところが、現在、朝鮮人民軍は地球上のいかなる場所にいる敵に対しても、壊滅的打撃を加える事が出来る。相手が先制攻撃を準備していると見れば、たとえばアメリカが朝鮮周辺で1991年の湾岸戦争の水準まで兵力増強するならば、それを座視することはなく、機先を制し「外科手術的攻撃」を相手に加えることは十分にあり得る。


正規の軍事教育を受けていない金親子ですが、抗日武装闘争と朝鮮戦争という激烈な体験を下敷きにして、戦後世界に起こった140回以上の軍事衝突と有史以来1400回以上起こった戦争を分析して得られた軍事思想は強靭(きょうじん)で狡猾(こうかつ)極まりないものになっていると著者は断言して、大日本帝国の稚拙な戦争と比較しています。

其の四に続く。
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書想 『金正日 朝鮮統一の日』其の弐

2005-05-29 09:45:18 | 書想(国際政治)
其の壱の続き。

■この本の著者は、米国で活動している軍事・外交評論家です。米国の有力紙にも一定の評価を受けているようですし、1995年に発表した論文はクリントン大統領が読んだという話も有ります。米国の軍事施設を実際に訪ねる一方で、北朝鮮を情報源とする太いパイプを持っているとも言われているようです。


金正日は、新羅統一説を、朝鮮民族第一主義・「恨(ハン)」の立場から否定し、高麗統一説を主張している。金正日は、新羅が唐の力を借りて高句麗と百済を滅ぼし、領土を拡大したのは反民族的行為であり、領有した版図は朝鮮の北部地域を含まない、と指摘。旧高句麗の地に渤海が成立し、渤海・新羅の南北朝時代が始まったに過ぎない、と強調している。(金正日が1960年10月29日に発表した論文『三国統一問題を再検討するについて』)
韓国の歴史学者の中には、高麗統一説を主張する者がいるのも事実である。これに対し、韓国の歴代独裁者は新羅統一説を唱えたが、それは外勢アメリカの保護国という立場を正当化するものであった。


■本屋で何気無く立ち読みしていて、この一節が目に飛び込んで来た瞬間に購入を決めました。こんな大切な話を、それまでに聞いたことも読んだこともなかったからです。世界中が否応も無く近代化の流れに乗って「国民国家」を建国しなければならない歴史状況の中で、古代の民族国家は最も重要な歴史的基盤となります。歴史の教養を持たない国民が増えると国家は間違いなく衰退して、維持しなければならない歴史的境界線を意識しないまま領土を侵蝕されて、やがて滅亡します。ここで問題となっている古代朝鮮民族国家の始まりは、日本にとっても他人事ではないのです。

■新羅(57~935)が最初の統一国家だとすると、それは668年のことになり、領土は平壌を流れる大同江から南となって、高句麗・満洲を含まないので、現在の北朝鮮のほとんども捨てられてしまいます。唐の支配を受けた新羅の統一事業は、白村江で大和朝廷の軍隊を大敗させたことで達成されたのです。もしも、高麗(918~1392)を最初の統一国家とすれば、新羅を降伏させた936年がその時ということになります。日本は平将門と藤原純友が暴れた承平・天慶の乱の頃です。京の都には920年に最後の渤海使が来ましたし、929年には新羅が使いをよこして、困ったことに「朝貢してくれ」と言ったそうです。素直に「助けて下さい」と言えば良かったのに、民族性なのでしょうなあ。勿論、日本の朝廷は拒否して追い返してしまいました。チャイナは五代十国の大動乱で、かつての唐のような力は無いので、孤立無援となった新羅は高麗に降りました。

■この二つの古代史の節目をよくよく考えると、今の東アジア情勢と重なって見えて来ませんか?

其の参に続く。
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書想 『金正日 朝鮮統一の日』其の壱

2005-05-29 09:44:42 | 書想(国際政治)

キム・ミョンチョル著 光人社NF文庫 『金正日 朝鮮統一の日』

■朝鮮問題関連の記事を書かねばならないなあ、と思いつつも、どこから書き始めれば良いのか、いろいろと逡巡(しゅんじゅん)している内に、とうとうプルトニウムを抽出して長崎型原爆を作るだの、いよいよ地下核実験だのと物騒な「宣伝」が始まってしまいました。書店に行けば、脱北者の証言を中心にして、悪口雑言を並べた(他人事ゆえに)ちょっと痛快な本が並んでいますし、小生の乏しい蔵書の中にもついつい増えてしまった朝鮮・韓国関連の本も増えてしまいました。折角、「旅限無」が紹介するのですから、ユニークな視点のものが良いだろう、と考えました。そこで最初に取り上げるのが、この一冊です。ちょっと「北」寄り過ぎないか?とも思えるのですが、多くの発見が有ります。「敵を知り己を知れば……」ということですな。

■この本を紹介するには、四半世紀も放っておかれた「拉致被害者」の皆様と共有する怒りと悲しみと、何より情け無い思いには触れないこととします。拉致問題は、「国際問題」としてあれこれ発言する以前に、選(すぐ)れて日本の「国内問題」だと考えます。相手はずっと戦争を続けている国なのです。こちらは勝手に平和憲法をお守り札にして、血生臭い国際情勢から目を背(そむ)け、耳を塞いで金稼ぎに勤(いそ)しんでいたのですから、対等の外国交渉などが出来るわけは無いのです。異常なほどの国連大好きになるような国民教育をしておいて、この一大事に何の役にも立たない事が判明しましたし、ちょっと前まで「地上の楽園」だの「社会主義礼賛」を新聞が書き散らしていたのですから、今度は「この世の地獄」だの「悪魔の国」だのと言われても、その両極端の間に正解を探さねばならない国民は大変です。

■かつての「地上の楽園」組は、相手の言い分も良く聞きましょう組になって平然としていますし、「悪魔の国」組は今にも戦争を仕掛けそうな勢いです。どちらも極端で、両者が前提としている情報と思想に信頼が置けません。強力な情報統制と相互監視制度が整った国の実情など、優秀なスパイを数百人単位で送り込まない限り何も分かりません。この本にこんな事が書いてあるのです。


「横田めぐみ事件」や「大韓航空機爆破事件」では北朝鮮が関与している証拠として挙げられているのが、「金正日政治・軍事大学」の存在である。ここでよく考えてほしい。北朝鮮には現在、金正日という名称をもった公共物は存在しない。金日成という名称を持つものは多い。また、政治・軍事大学という名称を持つ大学もない。つまり、この事件を創作者・演出家・監督や俳優も、この事実を知らない。もう少し勉強すればいいのに。欧米のマスコミはまともに相手をしないし、アメリカ政府でさえ言っている。「亡命者の言うことは信用できない」。日本の外務省高官も同じことを言っている。しかし、韓国という愛人の悪あがきをそのまま報道しているのが、日本のマスコミである。日本のマスコミは本質的に、江戸時代のカワラ版と変わらない。ある意味では、芸能番組、ワイドショー番組と同じレベルなのである。 p.231


■とてもじゃないけれど、正確な報道とは呼べないヨタ話をさんざん読まされて来た身としましては、こうした指摘をされると、どきりとします。確かに「拉致事件」は北朝鮮によって計画され、実行されたのでしょうが、その後のマスコミが示した狂乱の反動劇は目に余るものがありました。NHKを筆頭に、あれほど「北朝鮮・朝鮮民主主義人民共和国」と早口言葉を放送していたのに、見事に放送原稿を書き換えて、今ではどこの放送局も「北朝鮮」だけになりました。変更した理由をきちんと説明したのを聞いた事が有りません。そして、政治家や経済界の要人がぞろぞろと訪朝していたのに、どこのニュース番組でもインタヴューをしませんなあ。外務省らしい外務省も無く、有効なマスコミも無いとしたら、日本人は何を材料に物事を考えれば良いのでしょうか?

其の弐に続く。
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昭和の防人②―斎藤昭彦さんに関連する書想『ゴルゴ13』シリーズ

2005-05-28 02:19:06 | 書想(国際政治)
「昭和の防人①」の続き。

■齋藤昭彦さんの経歴


1976年、千葉市内県立高校に入学。
1977年6月末、一身上の都合により退学。
1979年1月、陸上自衛隊に入隊し、北海道の第6普通科連隊に配属。
1980年、千葉県習志野の第1空挺団普通科群第2中隊に配属。
1981年1月、任期満了で除隊。
(5月11日の朝日新聞より)


これ以外の情報としては、油絵を描き原稿用紙に文章を書き溜めていたこと。20歳の時に外国に渡ったこと。10年前に一時帰国した時から家族とは音信普通状態であったこと。2003年11月に母親が急死したが、その三ヶ月前にワインやチョコレートが手紙も住所記載も無く届いたこと。などが新聞に載っているだけである。

■フランスに急行したテレビ局のカメラは、外人部隊の元同僚やアパートの大家さんのコメントを集めて放送したけれど、特に人物像がくっきりと浮かび上がるような内容ではなかった。外人部隊時代に撮影された訓練中の表情が何度もニュースに使われたが、そこからも目付きの鋭さと鍛えられた肉体という、傭兵としては当然の情報しか得られなかった。彼が何を考え、「日本を捨てたのか?」という大問題に、敢えて触れようとしたマスコミは今のところ見当たらないようだ。記者会見に引き出された三人兄弟の末っ子、博信さんは言葉少なに「外務省、国民の方にご心配、ご迷惑をおかけして大変申し訳ありません。……」と語るだけで、兄の内面を語る言葉は持ち合わせていないようであった。72歳という父親の正蔵さんは、一切取材に応じないのか、マスコミ側が自粛しているのかは分からないが、父子関係も不明のままである。

■「傭兵(ようへい)」「フランス外人部隊」「民間軍事会社」などの耳慣れない言葉に、日本のマスコミは明らかに拒絶反応を示した。しかし、『ゴルゴ13』を愛読している人達の目には、マスコミ界の平和ボケの深刻さばかりが印象に残ったのではなかろうか?


第235話 「ワイルドギース」SPコミック第74巻(1986年度作品)冒頭に、「中世の英国では、王侯貴族が私兵を蓄えた。雇われ兵は求めに応じて王侯らの間を渡り歩いたところから、“渡り鳥の雁(がん)”=ワイルド・ギースと呼ばれた。転じて、傭兵をワイルド・ギースと呼ぶようになった……」

ニュージーランドのオークランド港で、フランスが準備していたムルロア環礁での核実験に反対する環境保護団体グリーンピース(作中ではグリーンベルト)の船が爆破されたが、それは傭兵業者のホートン大佐が請け負った仕事だった。現場で逮捕されたスイス人パスポートを所持していた男女は、DGSE(フランス対外治安総局)の連絡員で、傭兵部隊の仕事ぶりを監視していたのを怪しまれただけである。毎年、米国のラスベガスで開催されるスタッド・ポーカー大会の常連でもあるホートン大佐が、現地に入って賭博仲間とホテルのプールサイドで会話する。


「私の組織は、国際的な名声を博しており、そのサービスはきわめて幅広い範囲にわたっている……」
「たとえば、どんな?」
「情報、破戒工作、反乱鎮圧、敵性地域からの個人救出、または逮捕……」
「反乱を鎮圧する目的で、敵性地域へ侵入し、指導者を倒すとする、その場合はいくらになる……?」
「それは派遣部隊の人員と稼動日数によって違うぜ……週400ドルの給料で、250人の兵を4週間なら……」


■週に400ドル=8万円(当時の為替相場)ならば、日給は12000円弱になる。齋藤昭彦さんが所属していた英国のハート社では、日給2万円~6万円などという金額が報道されているから、米国はこの業界にとっては福の神に違いない。御丁寧にも、副大統領のチェイニーさんが経営参加している会社も受注しているらしい。イラクを壊して軍需産業が大儲けし、再建事業でも石油業でも大儲け、正規の陸軍を削減した穴を埋める傭兵請負業でも儲ける人たちがホワイト・ハウスに集まっている。勘定書きの多くが日本に回される。

■ホートン大佐が経営する派遣会社の見積もりは、8000万円になるが、ゴルゴ13ならば単独で同じ任務をこなしてほぼ同額を受け取っている。最近では米ドルが安くなっているので、円換算で1億ドルを越える仕事も増えているようだが、イラクで受注している傭兵会社の方が稼いでいることになる。今の世界情勢を予見する台詞が、作中に出て来る。


「ゴルゴ13は、われわれの最大の“商売仇”だ!……彼がいなくなれば傭兵の仕事は、飛躍的にふえる!」


賭博仲間の一人が、ホートン大佐の傭兵部隊よりも、ゴルゴ13一人の方が強いと言い張って、10万ドルの賭けをすることになる。ホートン大佐は知り合いのCIA(米中央情報局)職員に、ウガンダの軍事評議会議長の暗殺依頼をさせる一方で、現地の新軍事政権に雇われながらゴルゴ13を殺害する計画を立てる。上手く行けば、軍事政権からの正規の報酬と掛け金の10万ドル、そして商売敵も抹殺するという一石三鳥の作戦。

■米国南部のアラバマ州に置かれている、ワイルドギース・センターで訓練している精鋭部隊をウガンダに投入して、反政府軍の制圧をしながらゴルゴ13を待っていると……。後は読んでのお楽しみ。
尚、フランス外人部隊が登場する作品として、第60話『砂漠の逆光』SPコミック第14巻。除隊した軍人が特殊技術を活かして他国の指導教官になる話は、第250話『バトル・オブ・サンズ』SP第75巻、第274話『北の暗殺教官』SPコミック第94巻などが有る。

昭和の防人③に続く。

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