旅限無(りょげむ)

歴史・外交・政治・書評・日記・映画

アニメの麻生 其の七 

2009-07-31 11:29:15 | 政治
■中断していたシリーズの再開です。解散したものの投票はずっとずっと先で、お盆休みを越えて小中学生ならば宿題やら日記の追い込みに冷や汗を流している夏休み明けになります。その間に何が起こるか分かったものではないとマスコミ関係の人達は、猛暑の中で体力の限界に挑まねばなりますまい。きっと、注目される政党もキーマンもころころ変わり続けるでしょうから、議席の1割が集中しているとは言っても東京だけに貼り付いているわけにも行かないでしょうなあ。

■選挙戦の序盤は民主党代表の「怪しい自己(故人)献金」スキャンダルとコロコロ首相の舌禍との泥仕合で幕を開けているようですが、クラッシャー小沢の西松問題が再燃するのも時間の問題でしょう。そして、マニュフェストが出揃えば重箱の隅の突き合いになって、ますます議論の焦点がボケて行きますから、あまりマスコミが掻き立てる騒音に惑わされない方が良さそうです。


麻生太郎首相は……25日午前、横浜市で開かれた日本青年会議所の会合で、「高齢者は働くことしか才能がない。80歳を過ぎて遊びを覚えても遅い」と述べた。……同日午後の仙台市内での講演で、発言の真意について、「私の意図が正しく伝わっていない。活力ある高齢者には社会参加してもらって働ける場を作る。それが明るい高齢化社会なんだ」と釈明したが、高齢者を揶揄したと受け止められかねない表現だったのは事実で、野党幹部は一斉に批判を開始。

■既に週末の各マスメディアがしつこく第一号の舌禍を繰り返し取り上げております。御本人は昭和53年1月から同年末まで会頭を務めた古巣の「社団法人日本青年会議所」での会合というので、身内の気軽さでジョークを疲労したつもりだったのでしょう。しかし、自分の「芸」の未熟さを知らない者は哀れであります。本物の芸人ならば師匠や同門の先輩が厳しく批評して指導してくれるものですが、世襲オボッチャン議員ともなりますと、周囲にはお追従しか言わない茶坊主や幇間しか居ないものらしく、ちやほやされている間に「芸」を磨く機会を失うのでしょうなあ。

■べらんめえ口調にすれば庶民に受ける?マンガをネタにすれば若者が喜ぶ?毒舌は言葉を選ばない?あの問題発言を何度聴き直しても「明るい高齢化社会」のビジョンなどはまったく見えて来ません。「働くしか能が無い」元気な老人を「いかに使うか」という明確な論旨がしっかり立っているのですから、鉄砲撃ったり、毎週週刊マンガ雑誌を山のように買い続け、毎晩葉巻を咥えてブランデーを舐めるような「趣味」を持てない「下々」の高齢者は、死ぬまで扱き使え!と後輩のエリート達に教えたやっているとしか思えません。勢い余って医療費削減に絡めて「病院に入っている暇があったら仕事をしろ!」などと言わなかったのは幸いでしたなあ。


民主党の鳩山由紀夫代表は同日、大阪府などの街頭演説で「一生懸命働いたあと楽しく人生を過ごしたいというのは高齢者の自由」と非難。共産党の志位和夫委員長もインタビューで、「高齢者を侮辱したような発言」と述べた。

■かつて小泉政権誕生に寄与したのに外相を更迭された田中真紀子さんが、周囲に人間を敵と味方と使用人にしか分類しないと批評されたことがありましたが、麻生コロコロ首相という人は、「使う人」と「使われる人」との二項対立で世界を見ているのかも知れません。少なくとも青年会議所に属している「遊びを覚えている」人達と、それ以外の「遊びを知らない」人達とをざっくりと分離して得意げに話していたのは確かです。その上、その分割が「使う者」と「使われる者」という封建時代さながらの身分差別を前提としているとか思えない時代錯誤の感性に裏打ちされているような気もしますなあ。

日本の最高学府 其の弐

2009-07-31 10:37:50 | 教育
……米国は1998年以降、大量破壊兵器の開発が懸念される国からの留学生に対してビザ発給を規制している。早稲田大学の山本武彦教授(安全保障論)は「米国では、リストに載った研究機関出身の留学生が入国することは考えられない。日本も法的な入国規制の仕組みが必要だ」と指摘する。これに対し、東北大量子エネルギー工学専攻の長谷川晃・専攻長は「留学生の研究課題は、核物質を使わないので問題がないと判断した」と話している。
7月31日 読売新聞

■知識や技術というものは、使いようによっては毒にも薬にもなるという基本的な認識が東北大学では希薄なのでしょうか?例えば、自分は生徒に「刃物の砥(と)ぎ方を教えただけで、刃物自体は渡していない」と言い張ったところで、留学生が帰国した所には打ち上がったばかりの名刀が待っているかも知れないのですから、後で抜群の切れ味の人切り包丁が出現した時には砥ぎ方を教えた者は責任を問われるのではないでしょうか?

■こういう問題が起こりますと、大学内部に何か問題が有るのではなかろうか?と勘繰りたくなるのが人情というもので……。あれは2箇月余り前のことでした。


東北大は(5月)13日、学術資源研究公開センターの男性准教授(52)が、指導していた大学院理学研究科博士課程に在籍する男性(当時29歳)による博士論文の受け取りを2年連続して拒否し、この男性が昨年8月に自殺していたとの調査結果を発表した。准教授の行為を「重大な過失」とし、自殺につながったと判断した。准教授は今月になって自主退職したが、同大は懲戒委員会で退職金減額などの処分を検討する。

■大学の閉鎖性と封建的な因習などが度々問題にされますが、なかなか改まらないようでありますなあ。博士課程まで学生生活を続けるというのは並大抵のことではないはずで、よほど富裕な親が援助して続けてくれるならともかくも、奨学金を受けていても生活を維持する苦労は大変なものだったのではないでしょうか?よほどの大失敗さえしなければ地位を失わないと言われる大学の先生方の中には、学生が背負っている経済的な苦労に鈍感な人がいるようです。


……男性は博士課程3年目の06年に准教授から論文提出の延期を指導され、07年12月には准教授に論文を提出したが、准教授は男性が07年度の提出予定者ではなかったことなどから受理しなかった。自殺の原因について報告書は「(不受理によって)将来に深い絶望感を抱いたことが自殺の直接のきっかけになった」としている。

■同じ東北大大学院でも、先のイラン人留学生に高度な分離技術を2年間で授けた「量子エネルギー工学専攻」部門と、この「理学研究科」とでは指導方針がまったく違っているように見えます。蛇の生殺しのような事をして学生を虐めることが趣味になっていたのなら、指導者として失格でしょうなあ。


調査は、男性の研究を「博士授与について審査を受けうる状態にあった」と判断する一方、准教授については「研究の進展状況を十分に把握しておらず、論文の具体的な改訂指示などの適切な研究指導を行ったとは認めがたい」とした。男性は昨年8月28日、研究の一環で訪れたことがある滋賀県内で自殺。翌月に父親から「指導教員の不適切な指導がなかったか調査してほしい」との手紙が届き、同大が調査委員会を設置していた
2009年5月13日 毎日新聞

■学生の研究内容を知らず、当然ながら「適切な指導」もしないからと言って、学生側が指導者を変更できる立場にはなかったのでしょう。専攻するテーマが狭く限定される専門的なものであれば、指導者は限定されて学生は運命を完全に握られてしまいます。感情的な問題でも起こったら、もうダメでしょう。大学のエライ先生にも幼稚な世間知らずが多いらしいですからなあ。

日本の最高学府 其の壱

2009-07-31 10:37:16 | 教育
■お隣のチャイナでは経済構造の変化を読み間違えたばかりに大学を作り過ぎ、「大学は出たけれど」の大集団が絶望的な就職活動をしているそうです。それなりに学力はあるので、カネとコネがあれば一時避難とキャリア・アップの一石二鳥を狙える海外留学を考える風潮も強まっているとか……。深刻な定員割れが続いている短大と大学が目白押しの日本には、補助金欲しさに怪しげな留学生で員数合わせを企む困った学校経営者も多いと聞きますから、あれこれと心配なことでありますなあ。

東北大学の原子力工学の研究室が、核兵器開発に関与する恐れがあるとして経済産業省の規制リストに載ったイランの研究所からの留学生に対し、使用済み核燃料の再処理に関連する研究を指導していたことが30日、わかった。国際社会が核拡散に神経をとがらせる中、日本の高度な技術の流出を防ぐ法規制の不備や、大学によるチェック機能の甘さが問題になりそうだ。

■「非核三原則」などという実に奇妙な政治基準を作って後生大事にしている日本には、この世にも珍しい内向きの自縄自縛原則がグローバル・スタダードにでもなっているかのような幻想や錯覚が広まっているような気がします。原子力に関する研究と開発は専(もっぱ)ら平和利用に限られるという極めて限定的なローカル基準を勝手に他国にも適応してしまうナイーブさは、『平和憲法』が産んだ多大なる教育効果なのかも知れません。

■これが原因で日米軍事同盟にヒビが入っても何の不思議も無いのですが、平和憲法を押し付け、飛行機開発を厳禁し、IAEAの予算の半分以上を注ぎ込んで核武装の芽を徹底的に監視して潰して来た米国が、最も警戒している仮想敵国のイランに日本から優秀な人材が供給される事態に驚くことになろうとは、これも歴史の皮肉と申せましょうなあ。


同省は、外国為替及び外国貿易法(外為法)に基づいて「外国ユーザーリスト」を2002年から作成、現在は大量破壊兵器の開発が疑われるイランや北朝鮮などの約250機関を掲載している。リストに載った研究機関から留学生を受け入れる際には、大量破壊兵器開発への関与の有無などを「判定」することが求められている。

■原爆の開発に使われた機材の9割は日本製とも言われる北朝鮮には、日本の国立大学やら研究機関から多くの優秀な人材が供給されていたという話もありますから、今頃になってリストを作って形ばかりの制限を加えたところで、時既に遅し、ということになりましょうなあ。本気で「非核三原則」を貫いて『平和憲法』を守りたいのなら、よくよく相手を選んで留学生を受け入れるべきでしょうし、いっそのこと「関連技術を持ち出させず」を加えて四原則にでもしたらどうでしょう?く


留学生は02年9月に来日し、同10月に東北大大学院の量子エネルギー工学専攻に入学した。04年3月になって、留学生が来日直前に所属していた「ジャッベル・イブン・ハヤーン研究所」がリストに載った。留学生の研究内容は、使用済み核燃料の再処理で発生する放射性廃液から銀などの有用金属を回収する技術。プルトニウム抽出には直結しないものの、核爆弾製造のために再処理システムを構築する際、重要な役割を果たす可能性がある。

■核の闇社会に君臨したパキスタンのカーン博士が欧州に留学した時には、単なる冶金技術の習得を目的とした国費留学生だったそうですから、受け入れ国や在籍した教育機関は責められることはなかったわけですが、今回の問題はあまりにも露骨なので責められても仕方がないかも知れませんなあ。


……外為法は自由な貿易や技術提供の確保を目指す法令で、来日から半年たった外国人を日本人と同等に扱う規定があるため、リスト掲載時には留学生は「判定」の対象外となっていた。留学生は研究を続け、2年半後の06年9月に博士号を取得して帰国した。経産省は「技術流出を防ぐ法の趣旨からは、04年のリスト公表後、大学は研究指導の是非を再確認する必要があった。東北大から事情を聞きたい」としている。

■少なくとも04年までは核関連技術の研究は対外的に野放し状態だったことは政治の怠慢でありましょう。北朝鮮が核弾頭の小型化に着手するまでに技術水準を引き上げてしまってから、慌てて法律を作ってみても政治判断の誤りは帳消しにはなりますまい。

火を噴くウイグル 其の参拾六

2009-07-27 14:31:18 | チベットもの
■表面的には沈静化したように取り繕っても、一度開いた地獄の釜の蓋はなかなか容易に閉まるものではなさそうです。北京五輪の時の聖火リレー騒動と同様に、傍迷惑なことに海外に飛び火して延焼して行く兆しさえ見えております。勿論、この種のチャイナ発の傍迷惑には付き物である八つ当たりというオマケつきであります。

……中国政府が新疆独立運動・テロの黒幕と非難を続けている、「世界ウイグル会議」のルビア・カーディル議長に、日本政府がビザを発給したことが分かった。カーディル議長は28日から5日間の日程で日本を滞在し、講演などを行う。

■もうすっかり忘れられている「外交の麻生」が復活して何か面白い動きを見せてくれるかも知れませんなあ。何せかつての宇野総理と同じく、どこの候補者からも応援演説の要請が来ていない麻生コロコロ首相は暇でしょうから、どうせ「政権交代」だろうとヤケになって次の政権与党への置き土産にしようと、チャイナが激怒するようなパフォーマンスを仕掛けるには絶好の機会かも?すかすかのスケジュール表に是非ともカーディル議長との会談を入れて、得意のつるつる滑るジョークで「北京政府は○○するしか能が無い」とでも放言したら、さぞや大きなニュースになるでしょうなあ。そんな開き直りが予想外の反響を呼んで瓢箪から駒が出るかも知れません。


……環球時報は、2009年初頭にインド政府が「中国政府との合意により、自国内での反中国活動は許さない」として入国を認めなかった事例を紹介し、中国外交学院アジア太平洋建久センターの蘇浩主任よる「中国政府に対する深刻な非友好的行為だ」、「日本自身が中国の勃興を抑えるためであり、西側追従に慣れているからでもある」、「両国関係に大きな障害をもたらす」との談話を掲載した。カーディル議長は来日中、記者クラブと一般向けの講演を行う。
7月27日 サーチナ

■ダライ・ラマ法王が来日しても成田近辺で軟禁状態にしてしまうような日本政府ですが、今のところまったく争点になっていない対チャイナ外交が焦点となれば、案外、政権交代の是非が別の角度から判断できる材料が得られるかも知れませんぞ。さてさて、立候補者の中から何処の政党の誰がカーディル議長との会談をセットするのでしょう?選挙後に党自体が存在しているかどうかが危惧される社民党などには逆転タイムリーを放つ絶好の機会でしょうし、共産党なども『蟹工船』ブームの次は中国共産党との違いを際立たせて追い風にするという手もありましょう。

■何はともあれ議長へのビザ発給に関して変な政治的圧力が無かったことは目出度いことであります。単に政治家の皆さんの頭の中が選挙でいっぱいになっていただけのことなのかも知れませんが……。さてさて、ウイグルの嵐は海を越えてオーストラリアにまで波風を立てているようです。インドと並んでチャイナの軍事力増強に警鐘を鳴らしているのがオーストラリアだというのも、偶然ではないのでしょう。


ウイグル問題のドキュメンタリー上映を予定しているオーストラリアのメルボルン国際映画祭のウェブサイトがサイバー攻撃を受け、中国国旗や中国への謝罪要求文などに書き換えられたことが分かった。……同映画祭には、「世界ウイグル会議」議長で米国在住のラビア・カーディルさんの活動を取り上げた豪ドキュメンタリー作品が出品されており、来月8日に上映される予定。これに合わせてラビアさんも招待する。

■公式サイトに五星紅旗が並んでいるのなら、日本国内を聖火が走りぬけた時の異様な風景を思い出してしまいます。どうして「謝罪」しなければならないのか、さっぱり理由が分かりませんが、チャイナの抗議は常に同じスタイルになってしまうようです。議長本人が現地を訪れたらサイト画面から五星紅旗の群が飛び出して、飛行場や会場に押し寄せる可能性がありますなあ。日本での講演活動が終わったら、その足でメルボルンの映画祭に参加することになりそうですが、カンヌだのアカデミーだの、意味も脈絡もなく唐突に騒ぐ日本のマスコミが、メルボルン映画祭に関しては等閑に付しているのは何故なのでしょう?この映画祭も含めて議長が来日したら、しっかりと取材して報道して欲しいものであります。何処かの放送局が講演会の様子を取材するとか、民放が大好きな「独占インタヴュー」を放送するとか……。


映画祭組織委員会は、今月初め、現地の中国総領事館からこの作品の上映をやめるよう要求されたが拒否。その後、参加予定だった中国の3監督が出品を取りやめたり、香港系のスポンサーが撤退するなどの事態に発展していた。ムーア組織委員長は、サイトへの攻撃は中国のIPアドレスからのものだったと述べたうえで、「中国政府に従わなかったことに対する組織的なキャンペーンだ」と非難。警察に届け出るとともに、保安上の懸念についても警察当局と協議していることを明らかにした。
7月26日 毎日新聞

■日本のような腰砕けにならないオーストラリア政府は、この種の犯罪に対して断固たる措置を採るものと思われます。これ見よがしに政府の大物が空港に出迎えに行くくらいのことはやりそうな気もしますぞ。讀賣新聞はもっと詳しく報道しております。
 
 
……攻撃は25日に行われ、亡命ウイグル人組織「世界ウイグル会議」のラビア・カーディル議長を非難するスローガンや中国国旗にページが置き換えられた。攻撃の発信地を示すIPアドレスは中国・上海を示したという。映画祭には、豪州人監督が撮った、カーディル議長に関するドキュメンタリー映画「ザ・テン・コンディションズ・オブ・ラブ」(愛の10条件)が出品され、26日初公開された。同映画をめぐっては、中国政府が今月10日、「不適切な作品」として上映中止を要求したが、主催者側が拒否。これを受けて中国の映画監督3人が参加を辞退した。映画祭関係者には、これまでも匿名の嫌がらせの電子メールが殺到していたという。
7月26日 読売新聞

■南京「虐殺」に関する映画が何本か制作されてヒットしたそうですが、日本側からこの種の嫌がらせや抗議があったとは寡聞にして知りませんが、文化芸術作品に対して政治的に「不適切」だと決め付ける態度は、そろそろ改めないとマズイのではないでしょうか?宣伝用に作られた膨大な映画の中には非常に多くの「不適切な作品」が含まれているチャイナ製映画の問題を棚に上げて、他国の映画祭にまで介入するのは実に変な話であります。

■このニュースが大きな話題になれば、日本での公開も期待できるかも知れませんが、一部でも内容を紹介するマスコミが現われるのを待ちましょう。

火を噴くウイグル 其の参拾伍

2009-07-23 22:08:35 | チベットもの
一方、新華社や共産党機関紙の人民日報は19日、「今回の暴動は事前に細かく計画された暴動だ」と一斉に報じた。その根拠として、▲ウイグル族による攻撃が約50カ所で同時に行われた
▲デモに使われた石や長いナイフなどが数日前に搬入されていた
▲車のガソリンタンクのバルブを開けた上で火を放つなど訓練を積んだ形跡があり、組織的に行動した点
▲暴動発生後に米国とドイツのウイグル人団体が扇動した点
-などを上げた。
しかし、香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポストは、「一部のウイグル人が事前に計画した可能性はあるが、中国政府に90%の責任がある」と指摘。インターナショナル・ヘラルド・トリビューンも「今回の事態を経験し、政府の安全保障能力に対する中国人の信頼が崩れている」と報じた。
2009年7月21日 1朝鮮日報/朝鮮日報日本語版

■同じ様に英紙の記事を引用した日本のメディアもあるようですが、この韓国発の記事が出色のまとまりを見せていると思われます。
旅限無風に蟷螂の斧を小さく振り回してみますと……。
ウイグル地区の広さを考えたら、まず「50箇所」は少ない!そのほとんどがウルムチ市内だとすれば、紙や電波の公共?メディアが党によるヤラセと指示と学習目的で構成されているような場所では、何の証拠も残らない「口コミ」こそが最も信頼できるメディアになります。勿論、固定・携帯に関係なく電話はすべて盗聴・監視の対象ですし、手紙やメモなども冤罪の宝庫になる可能性が大であります。従いまして、「広東省の玩具工場で起こった撲殺犯罪はどうなったんだ?」というデモが同時に発生しても何の不思議もありませんし、大学生が主導したデモ行進が過剰な弾圧を受けたそうな!という重大情報は瞬く間に広範囲に広まってしまいますから、積もり積もった怒りが目に見えない導火線を伝って一斉に爆発したと解釈すべきでしょう。

■同じデモ行進に参加するにしても、中には「もしも」の事態を考えて絵になる武器を用意する者もいるでしょう。どんな巨大な石でも、日本の大学紛争で機動隊を殺傷したような狭い階段や建物の上方から巨大な石塊を投げ落とすのならば、「殺人未遂」の容疑も掛けられましょうが、大通りや広場で水平に石ころを投げたところで武装警察の強靭な楯・防弾チョッキ・特製ヘルメットの前では線香花火みたいなものでしょう。「長いナイフ」は民芸品や芸術品として多くの家庭に保管されているものですから、デモに備えて急いで備蓄された物とは思えません。チベット騒乱の時にも、魔除けの儀式用に長年使っている模造刀や法具を引っ張り出して物騒な「武器」だと言い張ったり、密教の護摩を焚く為の薬草や鉱石の粉末を「爆弾の材料」だと当局が断定したという話もありましたからなあ。

■「車のガソリンタンクの……」の話は噴飯物で、今時、こんな子供の悪戯みたいなテロ行為を教育している所は無いはずです。チャイナ国内に溢れ返っているハリウッド製の破壊・爆発映画の海賊版VCDを数枚手に入れれば、どんなに田舎の青年でも自動車のタンクを巨大なアルコールランプに見立てることなど簡単に理解できますぞ。タンクローリーを動く爆弾に仕立て上げることも、米国製の野蛮な映画をちらちら観ていれば簡単に習得できるテロ行為でしょう。そう考えますと、前のアホ大統領が本気で「テロとの戦い」を行うつもりだったのなら、CG映像山盛りの大爆発映画の製作を自粛させるのが最も効果的だったかも?

■チベットやウイグルの在外団体は常に情報を現地に向けて「還流」させる努力をしています。それは旧ソ連時代に人目を忍んで秘かに米国発のVOAの放送を命懸けで聴いていた頃とそっくりの情報統制が続いているからです。チューニングダイヤルを半田鏝で固定してしまう北朝鮮ほどではないにしろ、こうした事件が起こったら、妙に性能のよい受信機を持っていたりすると命取りになるようです。今回はインターネットを使った「煽動」が糾弾されていますが、西部大開発の対象となっている地域で、どれだけの人々が個人的にパソコン通信を利用しているというのでしょう?

■事前に計画されたのは、広東省で起こった撲殺事件の公正な裁きを求めるデモ行進で、それこそ共産党が掲げる「民族融和」「調和社会」の実現に一歩近づくための小さな抗議だったはずです。戦う意志も準備もないウイグル人に対して、文字通り「赤子の腕をひねる」ような大規模な弾圧をしたのは誰でしょう?

火を噴くウイグル 其の参拾参

2009-07-23 15:58:16 | チベットもの
其の参拾弐の続き……
もしも、漢族の代表が心ばかりの潔斎(けっさい)をしてモスクを訪ねて礼拝前にモスクの指導者と並んで穏やかな言葉を信者たちに送ったら、どれほど効果があったことでしょう。ここでも武装警察が我が物顔でイスラム教徒の共有財産たるモスクを「管理」している姿が現われますが、これは甚だしく印象を悪くしますぞ。


礼拝中止は、多数のウイグル族が集まり、再び騒動に発展することを懸念した当局側の措置とみられる。当局は「宗教は今回の暴動と無関係だ」と強調しているが、敬けんなイスラム教徒からは「宗教軽視」との批判も上がりそうだ。
2009年7月10日 時事通信

■「宗教軽視」ではなく「蔑視」でしょう。シャーマニズムからゾロアスター教、マニ教、仏教と常に宗教文化を取り入れて生きて来たのがウイグルの歴史で最後は大挙してイスラム化して現在に到っておりますが、それぞれの宗教文化がチャイナ各地に伝播したのはウイグルの御先祖様たちのご努力の賜物みたいなものですから、宗教心の篤さは折り紙つきであります。宗教活動は政治に関与せぬかぎりは通常通りとする、という英断を下せる太っ腹な人物が出て来ない限りチャイナの「民族融和」政策は失敗し続けるのでしょうなあ。

■何処も同じ「飴と鞭」とでも言いましょうか、何でも思い通りになることが多い独裁政権ともなりますと、飴も鞭も内容が露骨になってしまうようです。その点、変な民主主義が蔓延(はびこ)ってしまった日本では、久々の総選挙だというので全国的に「飴が土砂降り」状態のようですが……。

 
ウルムチ市政府は暴動犠牲者への慰安金給付案制定を急いでいることを明らかにした。また一時はモスクでの金曜礼拝禁止が決定され、現地住民と武装警官との緊張が高まっていたが、最終的にモスク開放が決まったという。……市政府はウイグル暴動の死者に20万元(約270万円)の慰安金と葬儀費用1万元(約13万5000円)を支給する方針を固めている。市公安部門によると、すでにDNA鑑定による死者の身元確認を進めているという。

■モスクの開放が「飴」だというならウイグル人の怒りはいよいよ心頭に発しましょうぞ。そして、「暴動の死者」というからには民族差別も落命事情の区別もないのでしょうな?!党が善悪を独断的に振り分けて、悪い奴には「鞭」しかやらない、というのでは問題はまったく解決しないでしょう。それにしましても身元確認に「DNA鑑定」が必要な遺体があるのですなあ。炭になるまで焼かれたか、ばらばらに切り刻まれてしまったのか?まだまだ暴動・鎮圧の真相は明らかになっていないようです。


また10日、中国共産党中央政治局常務委員、中央政治法律委員会書記の周永康氏がウルムチ入りした。周書記は「民族の団結、祖国の統一を破壊しようとする国内外の敵対勢力を打倒しなければならない」とコメントした。
2009年7月11日 Record China

■「内外の敵対勢力」を打倒する手始めとして、中央からエライ人が乗り込んで来る前から、地元の「敵対勢力」に対する摘発がてきぱきと行われているようです。しかも、念を入れて多めに……。あの国で誤認逮捕を当局が後で謝罪したという話を聞いたことがないので心配なことであります。

何を今さら解散 其の伍

2009-07-23 14:47:27 | 政治
■株の世界では解散は既に織り込み済みだそうですが、民主党が掲げる公約に関連する銘柄が人気を集めているという話もあります。他に景気が上向く材料が無いからかも知れませんが、日本中が何の根拠も無く「政権交代」を既成事実のように受け入れ始めているようでもあります。

政府は21日、外務省北米1課長の山野内勘二氏を、同日付で内閣官房副長官補付の内閣官房内閣参事官に起用する人事を発表した。山野内氏は、民主党の鳩山由紀夫代表が細川内閣の官房副長官時に秘書官を務めていた。官邸関係者によると、人事は外務省の主導で行われ、「鳩山首相」の誕生を見越して行ったとの見方が強まっている。
7月21日 産経新聞

■まことに官僚達の嗅覚の鋭さには驚かされます。こうしてどんどん「入れ物」の方が先に準備されてしまったら、中身の方もそれに合わせて決まってしまいそうな気になってしまいます。何となく浮き足立っている民主党の足元を見ているようでもあり、官僚たちが鉄の団結を先回りして誇示しているかのようでもあります。お膳立てが整っているところに浮かれて入って行けば、飛んで火に入る夏の虫ということになりそうです。菅さんは厚生大臣時代に官僚と大喧嘩した経験がありますが、鳩山ユーアイ代表は喧嘩に弱そうですからなあ。間違っても選挙に勝って役人に負けるような腰砕けにはなって欲しくはないのですが……。

 
自民党は衆院選で、連立を組む公明党とあわせて過半数の241議席死守を目指す。……野党から「自民党の解散みたいな解散」(国民新党の亀井静香代表代行)と党解体を“予言”されるほどで、自民党内にも、大敗して昭和30年の結党以来初めて第一党の座を譲り渡すのではないか-との悲観論が広がっている。

■小泉劇場のクライマックスで仕掛けた郵政解散選挙でバカ勝ちしてしまった故の議席数は、時が経れば空気が抜けるように萎む運命にありました。特に比例区では候補者名簿の空欄を埋めるために名前を貸しただけなのに代議士になってしまった!などという信じられない話があるくらいですから、本業に戻れるから落選を心待ちにしているような御仁もいそうです。

■「自民党の解散」と言っても、党を割るような騒ぎになった郵政民営化議論でも小さな所帯の国民新党が生まれただけで、結局は出戻り議員が続出して元の鞘に収まってしまいました。党の公認を貰えないのは死ぬより辛いからだそうです。公認権と政党助成金に擦り寄るためには政治家としての信条などは簡単に投げ捨ててしまう政治家が増えましたなあ。割れそうで割れない自民党の候補者たちが何を訴えるのか、ちょっと楽しみではあります。


「自公(両党で)過半数だ」自民党の細田博之幹事長は21日午前の党役員連絡会の記者会見で、衆院選の勝敗ラインをこう設定した。大島理森国対委員長も同日夕、「政権を担わせてもらうことが与党の大目標。政権選択解散だ」と語った。解散時の自民党は303議席。衆院すべての委員会で過半数を占め、採決に委員長が加わることなく議決できる絶対安定多数(269議席)を優に超えていた。公明党の31議席を加え、与党は衆院で法案の再議決が可能な3分の2の議席(320議席)を上回っていた。……

■捻れ国会の生み出した参議院選挙での敗北、それから地方選挙での連敗と続いたからこそ、怖くて衆議院を解散できなかった自民党ですから、その後に状況は何の改善も見られないまま解散に突っ込めば郵政選挙で初当選した皆さんはお払い箱でしょうし、当選回数を重ねて来たベテランも「こんな日本に誰がしたんだ?」とあちこちで突き回されたら一たまりもないでしょう。従って政権維持という勝敗ラインは随分と贅沢で思い切ったものだと言えそうです。でも、そう言わないと選挙になりませんからなあ。


……FNNの18、19日の内閣支持率は15.9%、不支持率は71.4%。自民党支持率19.8%、民主党支持率32.8%だった。……自民党では早くも弱音を吐く議員もいる。ベテラン議員のひとりは、「郵政選挙の裏返しにならなければいいが」と天を仰ぎ、選挙区に向かう反麻生勢力の中心メンバーの中堅も「太平洋戦争の時に赤紙(召集令状)が来たときの心境だ。討ち死にに行くみたいなもんだよ」とつぶやいた。

■内閣支持率よりも自民党支持率の方が僅かに上回っているということは、麻生内閣でなければ支持するよ、という奇特な固定支持者が存在しているのでしょう。小泉人気が沸騰している時には自民党は嫌いだけどジュンちゃんは好き!という訳の分からない支持者が大増殖したようですから、一度冷めてしまった熱気が再び戻って来ることを念願していた自公両党の議員さん達は『守株』のウサギみたいなものでしたなあ。


……また自民党は「財務省などの官僚らは民主党詣でをしている」(幹部)と、霞が関の官僚らが自民党敗北に備えていると警戒感を示している。12回の衆院選を戦ってきたベテランの加藤紘一元幹事長は21日、「今までの解散では、自民党政権は大丈夫だと思っていたが、今度は変動がある。自民党にとって最後の勝負の選挙だ」と語った。
7月22日 産経新聞

■反小泉改革の旗を揚げている加藤紘一さんには、自民党が大敗した後の計画があるのかも知れません。その時に党を割って新党や別グループを作っても、「加藤の乱」などとは呼ばれないでしょう。そう言えば自民党の選挙対策を総攬していた古賀さんは、何処で何をしているのでしょうなあ?本番の選挙に負ける前に責任をとって辞めてしまうというのは、処世術としては最悪でしたぞ。地元に戻って昔の苦労話をして歩いているとの話もありますが、選挙前にマスコミを避けているようでは党全体の選挙情勢は悪くなる一方でしょう。皆が足並み揃えて党よりも自分の議席を守ろうと走り出した自民党は「一致団結」して自民党の悪口を言い出しそうです。「自民党をぶっ潰す」の絶叫一発で大勝した小泉劇場の幕はとうの昔に降りているというのに……。

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何を今さら解散 其の四

2009-07-23 14:47:13 | 政治
昨秋、突然の引退表明で国民を驚かせた小泉元首相。「議員生活最後の日」となる21日は、午後から開かれる衆院本会議を前に、神奈川県鎌倉市の円覚寺で講演を行った。……午前11時前から、数百人の聴衆を前に「思うようにいかないのが人生 だからorそれでも」の題で話した。……「今日は議員として最後の記念すべき講演」と切り出した。途中、鎌倉幕府を舞台にした将軍暗殺などの歴史をひもときながら、「今の権力闘争は甘っちょろい」と自民党内の混乱をチクリと刺す場面も。「午後は首を切られに国会に行きます」と冗談めかして約1時間の講演を締めくくった。その後、国会に向かったが、元首相の事務所によると、事故渋滞に巻き込まれ本会議には間に合わなかったという。

■何かと血生臭い歴史話が大好きな喧嘩屋の小泉元首相であります。オフレコの場では詰まらない下ネタ話が大好きだという話もありました。時々見せる狂気染みた鋭い目にただならぬ物を感じた人達が、信念やら覚悟やらを予感して支持したのかも知れませんが、郵政民営化が成功したのか失敗したのか?小泉改革とは何だったのか?そもそも小泉政権の時代とは何だったのか?それが解きほぐされる頃には小泉一家の政治家は子供か孫の代になっているのでしょうなあ。でも、横須賀市民が小泉家4代目を認めるか否か、まだ分かりません。

■鎌倉での講演会は1年も前から決まっていたそうですが、日本各地で水害が続出している日に「権力闘争」の話をしなければならない巡り合わせといい、最後の国会出席に間に合わなかったことといい、時代が小泉さんを追い抜いて転がっているような印象が残ります。


……表立った活動が少ない元首相だが、支援者には「議員は辞めても、政治活動は続ける」と伝えており、2年前に顧問に就任した政策研究機関「国際公共政策研究センター」を拠点に、今後も政策提言や講演活動を続けていくという。神奈川11区から後継として出馬予定の次男・進次郎氏(28)に対する直接の応援は“封印”している。また、今月9日に武部勤・自民党元幹事長の応援で訪れた北海道礼文町内での講演では、「『議員を辞めるのをやめたと言ってくれ』と言われたが、それはできない。今だって親バカと言われているから、そんなことやったら本当にバカになっちゃう」と語っていた。
7月21日 読売新聞

■万が一、次男坊が落選しても、自分とは関係のない話だ!と冷たく切り捨ててノーコメントで通しそうな小泉さんですが、もう小泉新党を立ち上げるようなエネルギーは残っていないと思われます。「腹が立つというより笑っちゃう」と麻生コロコロ首相の郵政改革本当は反対だった発言を軽く切り捨てた人ですから、麻生内閣が総選挙でボロボロに負けるのを残酷に笑うのか?それとも選挙戦の勢いで「本当は郵政改革には賛成だった」と懺悔演説するのを静かに待っているのか?

■「国際公共政策研究センター」からは極端な親米政策の提言が出て来そうな予感がしますが、まさかこの研究機関を拠点にして新人政治家を養成して闇将軍になってやろうなどとは考えていますまいな?!自民党が野党に転落してしまえば、元首相の御威光もぐっと目減りしてしまいますから、やはり、小泉改革の仕上げを目論んで新党結成へと動き出すのでしょうか?このまま自民党が選挙専用の「一致団結」の細い細い糸を切らずに40日間の選挙戦に耐えられるかどうか、辛抱堪らずに脱党・分党の空中分解が始まるのか、国民は比例区では「政党」を選ばねばならないのですが……。

火を噴くウイグル 其の参拾弐

2009-07-23 14:46:59 | チベットもの
……新疆ウイグル族自治区は2000年から内地の各高校にクラスを設け、中学を卒業した生徒を選んで内地の高校で教育を受けさせている。このクラスの多くは、東部沿海の省と直轄市の28カ所に設けられている。2004年に最初に内地の高校に通った学生が卒業し、6500人が大学入試を受け、その90%が大学に入学した。

■有り難くて涙が出るような話?ではありません。広大な貧困地域でマトモに「中学を卒業」できる生徒は決して多くはありませんし、豊かな沿岸地域の高校に行ける生徒となると皆無に等しいのが現実です。少数民族に対しては「一人っ子政策」が適用されないとか、進学時には下駄を履かせて有利にするなどの特典があるのも事実です。しかし、小平時代に始まった学校の独立採算制によって学費や食費が払えない生徒は教育を受ける機会を失っております。中央政府は教育に莫大な予算を投入していると言いますが、国家の予算であろうと外国からの寄付金であろうと半分以上が何処かに消えてなくなってしまうのも現実です。この件に関しましては、拙著『チベ坊』にも実際に見聞した記録がありますので、ご興味のある方は一読して下されば参考になるでしょう。

■おそらく無償の国内留学に「選ばれる」生徒というのも問題で、単に成績が優秀なだけではダメなはずです。時には通常教科の成績よりも重視されるのが「政治」で、共産党が作った膨大な歴史や思想文書を丸暗記して革命に忠誠を誓わねば良い生徒とは言えませんからなあ。それに漢族主体の高校に進学するにはウイグル語よりも北京語の方が得意になっていなければなりません。なかなかバイリンガルにはなれないもので、結局は自分が所属する文化を一つ選択せざるを得なくなります。

■大学進学90%というのも、最初から少数民族枠を設けているエスカレーターに乗ったということですから、その行く着く先は大体見当はつきますから、趙先生を助けてくれた「まったく言葉が通じない」人達の中にはこうした制度を苦々しく思っている人も多いわけです。


……新疆から来た学生が帰省するときや再び内地に戻る時は、所在高校の教師の責任で、その時には家庭訪問も行われる。10年にわたって教師をしてきた趙氏は新疆クラスを2年間、受け持ったことがあるが、学生をウルムチまで送り届けるのはこれが初めてだった。ウルムチで暴徒に襲われた趙氏は最後にこう話す。「来年はまたこのクラスの学生を新疆まで送り届けます。これは教師としての責任です」
7月10日 サーチナ

■まことに趙先生は教師の鑑であるかのような感動的な御話です。しかし、2年間もクラス担任をしていて今回がウイグル訪問が初めてだったというのは解せませんなあ。年に二回は寄宿制の学校から実家に生徒達は戻っているはずですから、これまでに4回は引率して家庭訪問をしているはずなのですが……。別の先生が引率してくれたのでしょうか?こういう国策事業に携わる高校教師も立派な共産党員でしょうから、家庭訪問には政治的な意味があるでしょうし、学校に戻る前には周辺に聞き込みをして故郷で気が緩んだ生徒の言動をチェックしている可能性もあります。趙先生の職務は、生徒達を立派なウイグル人に育てることではないというところが悲しいのであります。生徒達は暴動が鎮圧される様子をどんな気持ちで眺めているのやら……。
 
 
……ウルムチの主要モスク(イスラム礼拝所)で(7月)10日、イスラム教徒のウイグル族にとって重要な「金曜礼拝」が中止された。「当局が禁止を呼び掛けた」と嘆く信者もおり、当局への反発が漢族との新たな民族対立につながる可能性もある。多くのモスクは「今は安全が第一。礼拝日は自宅で祈りをささげてほしい」などと信者に事前通知したり、張り紙で告知したりした。普段の金曜日なら道路まで信者があふれるという各モスクは、門が閉ざされ、警備に当たる武装警察や治安当局者が人を寄せ付けなかった。

■シーア派とスンナ派が血の抗争事件を繰り返している場所でもないのですから、今のウイグルでは金曜のモスクほど「安全」な場所はないはずです。勿論、豚肉をたらふく食べて『コーラン』の内容をまったく知らないような野蛮な偶像崇拝者にとってはちょっと危険かも……。
其の参拾参につづく

火を噴くウイグル 其の参拾壱

2009-07-23 14:46:41 | チベットもの
■今回の暴動でも武装警察が大活躍?したことをさり気無く織り込んだ「美談」らしきものが報道されております。 
 
上海市南匯中学(高校も含む)で高校の教師をしている趙敏東氏は、夏休みで帰省する新疆クラスの学生たちを引率して7月2日にウルムチに着いた。……趙氏は5日の夜、タクシーでウルムチの「大巴扎」という観光名所に向かっていた。団結路に来た時、多くの暴徒たちが棒や石を持って駆け来るのが見え、タクシーの運転手はすぐに窓を閉じるよう趙氏に言い、車を降りないように注意した。「人の群れは一斉に突き進んできて、バスに向かう人もいればタクシーに向かう人もいた。そのうちの8人ほどが私の乗っていたタクシーを囲み、全ての窓を叩き割り、煉瓦や棒を中に投げ込んだ」

■このように話を途中から始めると、まるで突如としてウイグル人の大群が暴れ始めたような印象を受けますが、可哀想な趙先生が災難に遭ったのは「5日の夜」のことですから、玩具工場での撲殺事件の処理に関する抗議デモが始まって一方的に鎮圧されてしまったという発端は語られません。


趙氏が殴られているのを見たウイグル族の運転手は、車を降りて暴徒たちにもう殴らないように言ってくれたが、暴徒たちは車をひっくり返し、趙氏を外に引っ張り出して殴り続けた。その時にそばを通りかかった女性は、暴徒を引きずり趙氏を引っ張って道の脇に連れて行った。趙氏は歩道まで急いで走っていったが、思いもよらないことに別の仲間が追いかけて来て、趙氏を地面に殴り倒す。だが再びあるウイグル族の住民に助けられ、包囲攻撃から近くの住民が住む地域に逃げることができたという。

■趙先生はよほど頑強な肉体を持っているのか?証言の通りだとしたら驚くほど長い間、殴られ続けていたのに女性に救い出されるとすぐに「急いで走って」逃げられる体力が残っていた!何より不思議なのはタクシーの窓を破壊する時にはレンガや棒を使っていた暴徒たちは、趙先生に対しては素手で殴り続けていることであります。


逃げ込んだ住宅地で地元のウイグル族に会うが、全く言葉が通じない。趙氏は帰省している学生たちに電話をかけ通訳してもらうことにした。事情を理解したその住民は、すぐに趙氏を自分の家に連れて行きかくまってくれた。その後は武装警察が趙氏を病院に運んだ。

■心優しいウイグル人達との交流、そこに颯爽と現われる武装警察!絵になりますなあ。でも、誰が恐ろしい武装警察に通報したのでしょう?建国から60年にもなるのに「まったく言葉が通じない」人民がたくさん存在しているという事実を忘れては行けません。生活の必要に迫られて耳で覚えた北京語を話している人達の中には読み書きがまったく出来ない人もたくさんおります。そういう「可哀想な」人達を教育して上げるのが趙先生たちのお仕事なのでありますなあ。


「私を襲ったのは8人です。しかし私を助けてくれた人は数十人。本当に感謝します。どの民族でもその多くは善良で、危険にさらされている時に助けてくれた人には感謝でいっぱいです。そして私を助けた人の多くはウイグル族だったのです」と、趙氏は何度も感謝の言葉を述べ、「どの民族であってもみんな家族です」と固く信じていると話す。

■もうすぐ趙先生の言葉は印刷物となって「教育」現場に配布されることでしょう。それにしても生命の危機に晒されながらも正確に殴った人数を「8人」と認識しているのは大したものです。どうやって数えたのでしょうなあ?それに比べて感謝すべき「家族」のウイグル人の数は大雑把なのがちょっと気になります。

火を噴くウイグル 其の参拾

2009-07-22 13:15:17 | チベットもの
■日本では馴染みの薄い「武装警察」についての記事がありました。 
 
ウルムチ暴動に武装警察官の部隊が出動したことが伝えられている。現地の高官が敵対心をあおるような言動を行った一方で武警の権限と職責を定めた明確な法律が存在しないことが分かった。市民への不当な拘留や暴力的な取り調べを排して武警の暴走を防ぐためにも早急な法整備が望まれる。

■思わず「おいおい」と言いたくなる様な恐ろしい話です。チャイナで生活した経験があれば緑色系の軍服とも警察官とも違う制服を着た目つきの鋭い武装警察の姿は何度も見たことがあるはずです。特に建国50周年の節目を記念してか、2000年10月からは警察官の制服が黒っぽい(ナチスの親衛隊みたいな)デザインにがらりと変わったので、ますますモスグリーン系の武装警察の制服が目立つようになったような印象がありましたなあ。これがいざとなったらグリーンのヘルメットに防弾チョッキ付きの迷彩服になって「任務」に就くのであります。

■警棒や楯ばかりでなく、相当の殺傷力を持つ武器も備えている怖い組織であることは知っていても、権限と職責を定める法律が存在していなかったとは驚きであります。まるで絵空事の時代劇に出て来る「切捨て御免」みたいな話ですからなあ。


……武警は人民解放軍と同様に中国共産党の指導を受ける国家武装力。国務院と中央軍事委員会の2重支配を受けている。……「武警の基本的任務は国家の安全と社会的安定を維持すること、国家の重要な目標を守ること、人民の生命・財産を保護すること、戦時には人民解放軍と協調して防衛作戦を展開すること」……また反乱や騒乱といった社会秩序を揺るがす事案への対応も担当することになっている。

■人民解放軍と警察との中間に位置しているようなものですが、軍隊とよりも身軽で警察よりも強力な暴力装置というのは、「人民の生命・財産」よりも「国家の重要な目標」の方を優先してしまうのでしょう。つまり、人民の日常生活の場に即座に介入する軍隊組織ということになりますから、チャイナの「社会秩序」は力によって維持されているわけであります。


……武警の王建平参謀長が今年1月に中国系雑誌の取材に応じて「『法治国家』でありながら法律による裏づけがないなんて先進的な武器を保有していないことよりも遥かに恐ろしい」と語った。このため王氏は「人民武装警察法」の立法作業を進めていく強い意向を示した。

■組織の中枢部に「参謀長」がいる!国内で活動しているというのに、一体、どんな軍事作戦を立てるのでしょうなあ?しかも、この参謀長の発言は法律が無いのは「先進的な武器を所有している」ことより恐ろしい、ではなくて武器が無いより恐ろしいと言っているのですから、本当に恐ろしい組織なのでしょうなあ。


……4月に行われた全国人民代表大会常務委員会では「人民武装警察法」草案への審議が始まり武警の呉双戦司令員が説明を行った。同草案では現場指揮官の同意を経て犯罪の容疑者に対して職務質問を行った上で身分証明書の提示を求めることができることなどが盛り込まれた。……明確な権限と職責が定められていない状態では市民への不当な拘留や暴力的な取り調べに歯止めが利かないことになる。武警の暴走を食い止めるべく早急な法整備が望まれる。
7月10日 サーチナ

■初めての法律草案に「職務質問ができる」規定が盛り込まれているからと言って、現状では職務質問が出来ないというわけではありません。と言うよりも身分証の提示を求めたり職務質問をする前に逮捕拘束に及ぶことも多いと聞きますぞ。取調べと「拷問」との区別も無いようですし、こんな組織がうろうろしている五輪大会をよくぞ開催したものです。IOCはこうした現状を知らなかったのでしょうか?どうせ法律を制定するのなら五輪大会の開催招致を始める前にしておくべきでしょう。きっとIOCとしては、人権問題よりもテロ行為を完全に防いでくれる強力な組織の存在の方が重要だったのでしょうなあ。

何を今さら解散 其の参

2009-07-22 13:12:55 | 政治
衆院解散を21日に控え、次期衆院選への不出馬や政界引退を決めた国会議員は19日現在、小泉純一郎元首相や河野洋平衆院議長ら24人を数える。多くはベテラン議員で「世代交代」を理由に挙げるが、2005年の郵政選挙で初当選した「小泉チルドレン」ら若手もいる。

■「後進に跡を譲る」と言えば潔い話ですが、「泥船と一緒に沈むのは嫌だ」と言えば身勝手です。小泉さん「燃え尽きた」と明日のジョーみたいな格好よい事を言ってた裏では次男坊への世襲を決めていたのがバレて晩節を汚してしまったようです。本当に「自民党をぶっ壊して」しまったのですから、長居は無用と喧嘩上手の元首相は鋭い野生の勘で分かっていたのでしょう。哀れなのは郵政民営化法案を通すための員数合わせだけのために当選してしまった?小泉チルドレン議員であります。かつての社会党が「動いた」マドンナ旋風議員と同じ使い捨ての道を歩むしかありますまいなあ。


……自民党17人、民主党3人、無所属2人で、公明、共産両党が各1人。自民党が突出して多いのは、郵政選挙で大勝して議員数が膨れ上がったことの影響もあるようだ。最高齢の一人は1929年10月生まれの野呂田芳成元防衛庁長官の79歳。郵政造反組として自民党から除名され、以後無所属を通した。30年1月生まれの津島雄二元厚相も野呂田氏と同じ79歳で、解散直前に政界引退を決意した。

■行き場を失った野呂田さんは政治家としての信念を通して因縁のある参院選で落選した金田勝年さんを後継指名しての引退ですから文句はありませんが、津島さんの慌しい引退は疑問がいっぱいであります。東大法学部在学中に司法試験に合格した大蔵省官僚、海外経験も豊富な秀才であることは間違いはないのですが、政治家としては宏池会に属していながら紆余曲折があって旧竹下派の親分になってしまった変な経歴を持っています。何より自民党でも税制に通じていることで有名で、その上、1990年2月に第2次海部内閣で厚生大臣に就任し、2000年7月に第2次森内閣でも厚生大臣を務めた年金制度エキスパートが津島さんだったはずです。

■どうせ引退するのなら、舛添厚労相が消えた年金問題で追及されて「こんなに酷いとは思わなかった」と開き直った時に、「年金制度は大丈夫です」と言い続けた責任を取って辞職していれば、きっと歴史に名前が残ったでしょうに!舛添さんが袋叩きに遭い始めてからは、年金制度に関しては何も語らなくなったのを不信に思っていたら、いよいよ自民党大敗が現実味を帯びて来た潮目を読んでの引退?自分のエリート人生に「落選」の二文字が書かれることを拒んだだけのこととしか思えません。旧田中派を割って生まれた旧竹下派も橋本派、小渕派と歴代総理を輩出した時代が終わり、宿敵だった宏池会と縁の深い出戻り議員を親分に担がねばならなくなった時点で自民党は終わっていたのかも知れませんなあ。年金制度も同じ運命では困るのですが……。


最年少は29歳の杉村太蔵氏。前回、南関東ブロックの自民党比例名簿の35位に登載されながら、議席を得た小泉チルドレン。北海道1区の公認争いに敗れ、今回は出馬を断念した。小泉氏の地盤の神奈川11区は次男が引き継ぐ。千葉1区でも臼井日出男元法相が引退し、長男が出馬する予定。……民主党では、小沢一郎代表代行に近い党最高顧問の藤井裕久氏や、岩國哲人氏らがバッジを外す。藤井氏は前回落選時に引退を表明したが、比例代表で当選した同党議員の参院転出に伴い、繰り上げ当選していた。 
7月19日 時事通信

■政治家として筋を通す人もいれば、横車を押す人もいるようです。一時は「無所属で立候補するぞ!」と鼻息が荒かったタイゾー君も、すっかり青菜に塩の状態で、一度知ってしまった国会議員生活の旨味が忘れられず、何の政策もビジョンも無いのに議席にしがみ着こうとした根性だけは大したものでしたが……。下手な短編マンガみたいな議員生活でしたなあ。小泉劇場で演じられた大仕掛けのオペラの幕間で、素人コントを披露したようなものでした。「次の機会」とでも言い含めて誰かさんが空手形を切ったのかも知れませんが、自民党が解体消滅してしまったらタイゾー君の戻る家は無くなってしまうのですが……。

何を今さら解散 其の弐

2009-07-22 11:21:53 | 政治
首相が解散を真剣に考えたことは08年9月の就任以来、少なくとも3回あった。最初は「08年10月初旬解散-11月2日投票」。総裁選で高まった「麻生人気」を武器に衆院選で勝利し、長期政権を狙う算段だった。

■「麻生人気」などというものは、何処かの新聞社の主筆あたりが中心になって偽造したようなもので、「秋葉原にお集まりのオタクの皆さん!」ぐらいしか印象に残っている言葉も無いような政治家が、どうして国民的な人気など得られるでしょう?こんな無責任な空気に押し上げられた麻生さんにも責任はあるのでしょうが、ちょっと可哀相でもありました。


しかし、政権発足直後の毎日新聞の世論調査で内閣支持率は45%と期待したほど上がらず、党の情勢調査も厳しい数字だったため断念した。次いで「10月末解散-11月30日投票」を検討したが、首相に近い中川昭一財務・金融担当相(当時)、菅義偉選対副委員長らが選挙情勢の悪化を理由に先送りを主張。細田博之幹事長らは解散を求めたが、首相は中川氏らの意見を受け入れた。

■この段階で支持率が急に上がって「選挙情勢」が改善する見込みや算段があったのか?解散を止めた中川バッカス大臣や菅ゾンビ副委員長などを側近にしていた麻生さんが悪いのか?総理総裁になるための子飼いの手勢やブレインを持っていないのを承知で総裁に祭り上げたうっかり者たちが悪いのか?


9月に米証券大手リーマン・ブラザーズの経営が破綻し、世界的な経済危機に発展。首相は解散先送りの理由に「経済対策優先」を掲げたが、その後も経済と支持率の低迷に苦しみ、「選挙の顔」は迷走を続けた。

■リーマンショックは日本経済にとって「蜂に刺された程度」と判定したのは政策通・経済通?の与謝野さんでしたなあ。後で「蜂にもいろいろいる」などと小泉元総理の口真似をして失笑を買っていました。バブル崩壊後に注入された公的資金をせっせと返済するの
が精一杯だった日本の金融機関は、米国で生まれた金融工学を悪用した証券化商品の開発に出遅れていたのは確かですが、米国の需要が冷え込むのは誰にでも予想できたのに、与謝野さんを筆頭に麻生内閣の閣僚は気付かなかったのでした。解散総選挙向けに並べた「顔」には脳ミソが欠けていたのかも知れませんなあ。


3度目に検討したのが、6月末から7月初旬にかけて党役員人事・内閣改造後に解散し、8月2日ないし8日、9日を投票日とする案。これは党内だけでなく公明党の強い反発もあって不発に終わり、首相が最後に選んだのが7月12日の東京都議選惨敗後の解散だった。解散を先送りすれば「麻生降ろし」に火がつきかねないため、先手を打って解散するしかないと判断した。結果的に党内の「反麻生」勢力を抑え込むことには成功したが、自民党内には分裂の火種が残り、こうした混乱が党への不信感をさらに増幅させた。首相の遅すぎた決断により、自民党は最悪の状況で解散・総選挙に突入することになった。
7月21日 毎日新聞

■自分で考えずに誰かの意見に従って「よきに計らえ」と言っていれば済むのなら、それこそぽっと出の宮崎県知事を総裁に担いでも大丈夫でしょう。解散を先送りして行けば公明党が命を懸けている都議選にバッティングするのは最初から分かっていました。人事も行えず連立政党に振り回される姿を晒し続けていれば支持率は奈落の底まで落ちて行くに決まっています。都議選直後から「麻生では戦えない!」と騒ぎ出した連中も、今まで気が付かなかったのか?と笑われただけでした。

何を今さら解散 其の壱

2009-07-22 11:06:21 | 政治
■とうとう日本の衆議院が解散しました。何故かその日は局地的な大雨で、安倍前総理に所縁のある山口県で本当に「100年に1度」と言えるような「未曾有」の被害が出ました。その前日には但馬空港に向かっていたヘリコプターが「視界不良」で行方不明になり、竜巻が発生した所もありましたなあ。その数日前には北海道で「集団遭難」の騒ぎがあり、解散の翌日は月が太陽を隠す皆既日食が起こるとてマスコミが不自然にはしゃいでおります。卑弥呼の時代じゃあるまいし……とも思うのですが、どんなに科学が進んでも人間の心は大昔のままなのかも知れません。「権力闘争」もその表われなのでしょうなあ。

■それにしましても、任期満了ぎりぎりまで引っ張って前代未聞の真夏の8月を跨ぐ長期戦となる「解散」というのは、老衰で天寿を全うするはずの人を俗に言うスパゲティ状態にして延命させる昨今の変な治療法を思い出させるような、何とも歯切れの悪い政治ショーになってしまいましたなあ。


……麻生太郎首相は今回の衆院選について「安心社会実現選挙」と命名。民主党の鳩山由紀夫代表は「『政権交代解散』しかない」と強調した。「後がない解散」と名付けたのは自民党の伊吹文明元幹事長。新党に含みを持たせる鳩山邦夫前総務相は「『やけっぱち解散』ともいえるし、『乾坤一擲解散』ともいえる」。麻生首相と距離を置く加藤紘一元幹事長は「『最後の解散』。……共産党の志位和夫委員長は「新しい歴史の扉を開く解散」。社民党の福島瑞穂党首は「自民党政治サヨナラ解散」と名付けた。新党日本の田中康夫代表は「最後まで国民不在の『ミーイズム解散』だ」と述べた。
7月22日 毎日新聞

■自民党内には自分の気持ちを直截に吐き出して「ヤケクソ解散」と名付けた議員もいたそうですが、麻生コロコロ首相としては尤もらしい名前をマンガも読まずに考えたご様子です。就任当初から「コロコロ」のミドル・ネームを進呈していた旅限無としましては、失言と前言撤回を繰り返して右往左往した揚句の解散ですから、「コロコロ解散」とでも呼びたいところではありますが、麻生さんとしては「今度こそブレないぞ!解散」と言いたかったかも?

■それなら、どうして今までコロコロとブレ続けたんだ?!と突っ込まれてしまいますから「安心社会実現選挙」と厳(いかめ)しいけれど面白くも可笑しくもない名前しか付けられないのでしょうが、では、どうして今の今まで「安心社会」が実現していないのでしょう?御本人は「選挙の顔」として担ぎ出された宿命に素直に殉じているつもりで、初めての所信表明演説からずっと民主党の悪口ばかり言っていた野党の党首みたいな総理大臣でありました。肝腎の解散がどんどん先送りされてしまったので、ずっと民主党に勝つという使命を果たそうとしている姿はどんどん滑稽になり、空気が読めない!時局が分かっていない!と身内からも批判されるようになってしまったのは可哀相でした。でも、本人も「サミットに行きてぇなあ」だの「ローマ法王に会いてぇなあ」などと言っていたそうですから、確かに空気がまったく読めなかったのでしょう。

■どうもサミットというのが日本の首相にとっては鬼門のようで、国内でもマスコミに叩かれ身内からも皮肉られ、自己嫌悪に陥りそうになっているような首相でも、サミット会場に我が身を置くと海外の「有名人」と同じテーブルに着いて喋ったり飲み食いしてしまうと、「俺って案外凄いんじゃない?」と手前味噌の幻想に囚われてしまうのだそうです。歴代総理の中にはサミット参加を挟んで人格が変わったかのように解散総選挙を画策して内外からの反発を呼んで自滅してしまった例が多いとか……。


麻生太郎首相は内閣支持率の低迷と自民党内の「麻生降ろし」に苦しみながらも、最後まで自らの手による衆院解散にこだわった。「選挙の顔として総裁に選ばれたのに、ここで辞任すれば自民党はさらに窮地に陥る」(首相周辺)との思いからだ。しかし、解散当日の21日、党両院議員懇談会で、東京都議選など地方選の敗北について頭を下げ、結束を訴えなければならなくなった首相に「選挙の顔」の面影はない。

■郵政民営化に反対だったから、部分的に反対で総論賛成だったへ、早期解散から政局より政策へ、財政再建から赤字国債の積み増しへ、どれもこれもロクに説明もせず、御本人は「ブレてない」の一点張り。最後の最後に、都議選は国政とは無関係だと言いながら歴代首相の中でも最も熱心に選挙区を回ってワンパターンの応援をするし、「逃げない」と言いながら都議選の惨敗を総括する議員総会は開かず、非公開の懇談会なら開いてもよいよ、に変わったかと思ったら当日になって公開すると言い出す。マスコミが殺到するのは承知の上で自民党本部ビルの9階大ホールではなく8階の狭い部屋での開催予定は変えず。そして解散直前に反麻生陣営の親分と涙の握手?


副総理格の与謝野馨財務・金融担当相から両院議員総会の開催を求められた翌日の16日、首相は河村建夫官房長官に「経済はまだ立ち直っていない。与謝野を一番大事にしてきた。経済政策を二人三脚でやってきたのに」と語り、ショックを隠しきれない様子だった。祖父・吉田茂元首相は、閣内ナンバー2の緒方竹虎副総理ら多くの閣僚、与党幹部から解散に反対され、1954年12月、内閣総辞職に追い込まれた。祖父と同じ轍を踏むまいと考えたのか、首相は折れなかった。「政策は間違っていない。胸を張っていいと思っている」。与謝野氏とたもとを分かっても、経済対策に取り組んだ実績を掲げて衆院選を戦う決意の表れだった。

■勿論、ここで麻生コロコロ首相が「胸を張って」いる政策には国営アニメ館が含まれておりますし、大渋滞と事故と温暖化ガスが増える週末の高速料金割引なども……。元々、何処かの誰かさんが「国民に人気が有る」と勘違いしてマンガ好きで面白そうなキャラクターの麻生さんを自民党総裁にしよう!と画策した時、誰も麻生さんの政治家としての見識や温めている政策などに注目しなかったのですから、100年に1度の未曾有の経済危機に臨んで打ち出すべき政策など最初からありませんでした。経済効果を望める事業規模だけを決めて各省庁に「欲しい物」を注文させたのですから、これではボンボン息子が悪友を引き連れて寿司のカウンターに並んで「好きな物を食っていいぞ」と見栄を張っているようなものです。店の主人には親からくすねて来た大きな財布を渡してバカ侍の真似。

■親は国民で財布の中身は税金です!悪友たちは高いネタばかりを腹に詰め込み、中にはちゃっかり折り詰め(基金)を注文して持ち帰る奴もいたりして……。そんな様子を眺めて悦に入っているバカ息子では、国の総理大臣は務まりません。

火を噴くウイグル 其の弐拾九

2009-07-21 15:46:51 | チベットもの
……複雑な政治的な背景がある。それは国内外の「三つの勢力」(テロリズム、分裂主義、宗教極端主義)が操り、組織した由々しい暴力犯罪である。……地元の社会秩序と安定をもゆゆしくぶちこわした。地元の政府は死者の遺族、負傷者、財産を失った人々を見舞い、必要な援助を提供する。

■犠牲者のほとんどが漢族だと伝えられているのですから、手厚い見舞いと援助を受けられるのも漢族に限られるという話になります。暴動の責任は一方的にウイグル人側に押し付ければ、犠牲者は漢族に集中してしまう理屈になり、仮にウイグル側で死者や負傷者が出ていても自業自得の愚か者という位置付けになりそうです。渋々認めた12人の射殺も決して犠牲者扱いではありませんから、今のところはウイグル人が見舞いや援助の対象にはなっていないようです。「西部大開発」の大号令で莫大な資金が投下されているのだから、文句を言う前に感謝しろよ!というのが当局の本音なのでしょうなあ。


7月5日……死者は156人、負傷者は1080人にのぼった。新疆の情勢を考慮した上で、胡錦濤総書記は8日、ヨーロッパへの公式訪問を繰り上げて終えて帰国した。……
7月10日 サーチナ

■既にチャイナ側が発表した数字は誰も信じていないようですが、北京政府は尤もらしく犠牲者の数をじわじわと上乗せし続けております。負傷者の中には瀕死の重傷者も含まれているでしょうから、治療の甲斐なく死亡する人が出るというのはあり得ます。しかし、内外の信頼が得られないことを懸念して、しらっと数字を操作してしまうのは頂けません。まあ、胡錦濤主席が急遽帰国してしまったのですから、犠牲者がゼロでは辻褄が合いませんわなあ。
 

……香港商報は9日、未確認情報として、同国人民武装警察が8日、新疆ウイグル自治区のウルムチに送り込んだ増派部隊は3万人に達したと報じた。一方、香港紙・明報は、江蘇省無錫市に駐屯する第181機動師団など武装警察部隊約1万人と全国各地の警官約5000人が新疆に派遣されたと伝えた。多くの部隊が一斉に空輸されたため、上海や深センなどで民間航空機のフライトが遅れたり、キャンセルになったりしたという。 
7月9日 時事通信

■暴動の鎮圧には早い段階から人民解放軍が投入されたという報道がありますから、他の地域から助っ人が呼び集められても何の不思議もありません。それも江蘇省の無錫市などという上海の隣から、民間航空の迷惑も顧みずに遠路遥々武装警察を大量に空輸するとは、あの第二次天安門事件で残虐な武力鎮圧を命じられたのが北京市内に縁者がいない遠隔地の部隊だったという話がありますが、今回の相手は独自の文化や歴史など大概の漢族は何も知らないウイグル人ですから、何処から部隊を抽出しようと大した違いは無さそうです。胡錦濤政権を支える共産党青年同盟の勢力が上海閥を押しのけて利権漁りをしているという噂を信じれば、現政権に忠誠心を示して旧勢力からの乗り換えを見事に演出できるという現地部隊の事情があるとも考えられそうです。

■何処から武力を掻き集めたかという問題よりも、その規模の方がずっと重大な意味がありそうです。因みに面積65万平方キロのアフガニスタンに駐留している米軍の現有兵力は約5万7000人だそうですが、それではとても足りないというのでオバマ大統領はイラクから撤収する代わりに1万1000人を今年末まで増派することになっております。その規模と人数を面積は166万平方キロの新疆ウイグル自治区に3万人を「増派」するというのは凄まじい話ではないでしょうか?何しろ現地のウイグル自治区には、「新疆軍区生産建設兵団」という奇怪な大集団が根を張っているのですからなあ。

■簡単に言えば国境を守る「屯田兵」として動員された10万人の軍隊でしたが、1956年12月には全軍を挙げて軍籍を離れてしまったので話が非常にややこしくなってしまいました。まあ狼が羊の皮をかぶったと申せばよろしいのでしょうが、この奇妙な大組織は党と軍の宣伝に努めて自己増殖を続けたそうで、今では何と総数254万人という日本なら一つの県を形成するような大組織に成長!正規の軍隊でもないのに14個師団、185連隊という「兵力」を誇っているというのはどういう事でしょう?屯田兵は自給自足が信条ではありますが、11社の上場企業と2つの大学と複数の研究所を経営しているというのは行き過ぎた軍閥の姿と言ってよいでしょう。2004年には「創設50周年」を祝ったのだそうですが、現地のウイグル人はどんな気持ちで拍手していたのでしょうなあ?

■米国のオバマ大統領は決して米兵を屯田兵にしてアフガニスタンを米国領に組み入れようなどとは思っていないからこそ、総員7万人くらいの兵力で65万平方キロの治安を確保しようと頑張っているのでしょう。それと166万平方キロに254万人の実質的には軍隊と変わらない組織が根を張っていて、勿論、正規の警察と現地の武装警察も配置されているところに、現役バリバリの3万人を「増派」するのですから、自爆テロを繰り返すタリバンよりデモ行進しているウイグル人の方が危険だということになりますなあ。そんなに危険な場所に「日食を見たい!」などと呑気なことを言って日本からも大勢の見物人が押し寄せたことがあったそうな……。