旅限無(りょげむ)

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近所迷惑を考える 其の弐

2011-04-06 16:07:56 | チベットもの
■1945年に米国が人類初の核実験に成功してから2007年6月までに総計で2058回の核実験が行なわれたのだそうです。勿論、その9割以上は国連安保理の常任理事国が行なったもので、米国は1030回で広島・長崎の原爆使用を加えたら1032回、旧ソ連は715回で、第三位が今回の原発事故に最も熱心に取り組んでくれているフランスの210回。そして、英国と中国が同率4位で45回!最近になってインドが6回目の実験をして負けじと隣国のパキスタンも恐らくは6回、不気味な北朝鮮も1回成功しているかも?という状況でしたが、2回目と思われる振動が観測されたことがありましたなあ。

■さてさて、既に別項『核なき世界へ』でも紹介した札幌医科大学の高田純教授(核防護学)が調べたところ、中国政府が新疆ウイグル自治区で1996年までに行った核実験の回数はぴったり45回だそうですから、すべての核実験はウイグル自治区だけで行なったということです。有名な楼蘭の遺跡近くでは3回もメガトン級の核爆発に成功して強烈な放射線を出す「核の砂」が大量に発生して東京都の135倍の面積に撒き散らされた結果、19万人以上のウイグル人が急性死亡したと考えられるとか……。また同教授が得たデータによると甚大な健康被害を伴う急性症患者129万人のうち、深刻な影響を受けた胎児が3万5000人以上で、白血病も3700人以上、チェルノブイリ事故で原因が究明された甲状腺癌を発症したのは1万3000人以上に達するのだそうです。その129万人が今どうなっているのか?誰も知らない、知っては行けない事のようですが、おそらくほとんどは死亡してしまっただろうと高田教授は考えているそうです。

■今、日本中の人々が放射線について俄か勉強をしているところですから、「半減期」という専門用語も日常的に使われるようになっていることでしょう。ヨウ素は8日間だのセシウムは30年だのと並べられる半減期の中には1億年を軽く越えるツワモノも含まれておりますから、日本人にとって実に分かり易い東京五輪が開催された1964年の同年同月に最初の核実験に成功しているチャイナから、黄砂や塵に混じって長々と日本列島や周辺の海に放射性物質は降り続けているいるわけであります。全地球の大気循環の中には米国と旧ソ連が行なった桁違いに多い核実験の置き土産も大量に含まれて全世界に満遍なく薄く広く散らばり、今も何処かで微量になった放射線を発しているのでありましょう。

■ウイグルで集中的に繰り返された核実験やその後の核開発で出た危険な放射性廃棄物は何処に行ったのか?という恐ろしい問題が隠れているのですが、少なくともチベット自治区の急峻な岩山を刳り貫いて建設された堅牢無比の地下基地には核弾頭を載せたミサイルが置かれているのは確かなようです。世界の屋根と呼ばれるチベットの高原地帯に日本からの放射性物質が届くのにはもう少し時間がかかるのでしょうが、世界中にご迷惑を掛けるのは間違いないことなのに、菅アルイミ首相は官邸に籠もってばかりいて世界に向けて潔いメッセージを発信することなど考えてもいないようなので、隣国からの悪口雑言はどんどん増えて行くのでしょうなあ。


福島第1原発の事故を受け、中国政府は16日、温家宝首相が主宰する国務院(政府)常務会議を開き、新規の原発建設計画の承認を暫定的に停止することを決めたと発表した。中国政府当局者は東日本大震災後、国内の原発の安全性を強調し、原発増設計画を変更しない考えを強調してきたが、ドイツなど世界で原発政策を見直す動きが広がる中、対応を迫られた形だ。常務会議は「原子力は安全を第一に考える必要がある」と指摘。建設中の原発の安全性を点検し、「(現在策定中の)原子力安全計画が承認されるまでは、新規の原発計画は承認を暫定的に停止する」とした。(共同)
2011年3月16日 産経ニュース 

■世界一の原発大国になると決めた北京政府が、自己批判して政策を転換することは原理的に有り得ないでしょうし、経済成長を何が何でも続けねばならない宿命を負っているからには電力の供給量を幾何級数的に増加させねばならない切羽詰った理由もありますから、「暫定的に停止」するのは極短い間でありましょう。日本も売り込みを掛けようとかと思っていたでしょうが、折角商談がまとまったベトナムからも不安と躊躇する気持ちが伝えられているようですから、日本の替わりにチャイナ製の原発が「日本製より安全」と宣伝して売り込まれて行くのかも知れません。

近所迷惑を考える 其の壱

2011-04-06 16:01:50 | チベットもの
■放射性物質の拡散予測のデータを公表せずに仕舞い込んでいたり、事故を起こした原子炉の状況を示すデータも、誰かさんの都合の良いように取捨選択・加工・脚色などしていると思われている菅アルイミ内閣の仕事ぶりは、世界中で顰蹙を買い日本国民としては穴があったら入りたくなるほど低い評価が下されているようです。しかし、現内閣、民主党政権の支離滅裂さと信頼性の無さにつきましては、原発事故が起こるよりずっと前から日本国民は知っておりましたから、世界各国政府や国際機関から悪口雑言を浴びせられても、まったく驚きもしませんし悔しい思いにもなれないという事実は非常に悲しいことであります。

■今では自民党との大連立などという最強の延命装置まで手に入れられそうな菅アルイミ首相ですが、あの東日本大震災が国会議事堂を揺らしていた時を思い出せば、法律で禁じられている外国人からの政治献金を本格的に追及され始めており、自民党側は問責決議案を準備して「政治とカネ」問題の集中審議を仕掛ける直前だったくらいですから、同じ理由であっさり辞任した前原外相の後を追うのは確実で、問題は解散総選挙があるか無いかの一点でありましたが、不正政治献金問題など何処かに飛んで行ってしまい、内閣が最も苦しんでいたネジレ国会の状況もなし崩しに打開出来そうだと、菅アルイミ首相は自分の無能ゆえに苦しみを増している被災者の皆さんのことより、自分の政権の寿命がどんどん延びて行くのが嬉しくて堪らないような表情に見えるのは気のせいでしょうか?


東京電力が福島第一原子力発電所で行った低濃度の放射性物質の海への放出は、原子炉等規制法を根拠としている。ただ、同法には放射性物質の投棄を禁止する規定もあり、今回の放出はあくまで例外的な措置だ。一方、鹿野農相が、事前の連絡がなかったことに反発するなど、省庁間の連携の悪さも浮き彫りになっている。鹿野農相は5日の記者会見で、「水産業を所管する農水省に事前の連絡がなかった」と、不快感を示した。食品安全を所管する厚生労働省への連絡も発表の直前だったという。…… 

■挙国一致だの救国内閣だのと言っている民主党自身が党内でネチネチと小沢外しとグループに対する排除姿勢は相変わらずで、選挙区のある岩手県のみならず東北全体の復興を指揮する特命大臣にせよ!という外野からの声などまったく聞こえていないかのように、○○ちゃんが好き、××ちゃんは嫌い!と幼稚な喧嘩を続けているくらいですから、行政府の仕事が最悪の縦割り状態のままで空回りしてしまうのも当然なのでしょうなあ。こんな事を続けているから、日本の先行きに光が見えず、世界からも白い目で見られてしまうのでありましょう。


経済産業省原子力安全・保安院は、東京電力から福島第一原子力発電所の汚染水を放出する意向について4日午後3時に報告を受けた。保安院は原子力安全委員会の意見を聞いた上で、20分後に了承したとしている。ただ、放出は以前から東電と政府の対策統合本部で検討項目になっていた。副本部長の海江田経産相も「正式報告の前から聞いていた」と認めており、事前調整の時間的余裕はあったとみられる。
2011年4月6日 読売新聞 

■経済産業省原子力安全保安院・東京電力・原子力安全委員会は一つ穴の狢で、それに東電から莫大な資金を提供して貰っている学者と広告費で潤っていた大手マスコミを加えた「原子力村」は、そのカラクリが週刊誌などから次々と暴かれてしまって、最近は責任の擦り付け合いと内輪もめが絶えなくなっているそうであります。今回の法律を恣意的に拡大解釈して強行された汚染水の放出も、保安院の責任なのか?安全委員会の責任なのか?国民にはさっぱり分からないようにするために「20分」で即決されたようにも見えます。こんな重大な決断を下す場面でも菅アルイミ首相の影も形も見えないというのは問題であります。統一地方選で予測される惨敗の言い訳でも考えているのでしょうか?

■支持率がどれほど下がろうと、地方選挙で候補者がばたばた落選しても、「国難だ!国難だ!」と叫び続けている限りは大好きな総理大臣の椅子に座っていられると菅アルイミ首相は勘違いしているのかも知れませんが、漁業・農業だけでなく(無)計画停電に苦しんでいる工業界にまで風評被害が及んで来ますと、東日本全体から「菅ヤメロ!」の筵旗がにょきにょきと立って国会議事堂に押し寄せて包囲することになるかも知れませんぞ。安保改定問題で退陣した岸内閣の時代を学生として体験した菅アルイミ首相や仙谷ランボウ官房副長官が、今度は大規模なデモ隊に囲まれてしまうことになるかも?

■国内世論よりも先に国際社会からの圧力が先に高まって来ることも考えられます。フランスの哲学者ジャック・デリダという人が、最近、世界の迷惑になる日本の主権を侵害しても構わない!という物騒な論文を発表したそうであります。日本にも多くの読者がおりますが、こういう単刀直入に危機意識を見せ付けられますと、今、欧米の軍事介入を受けて逃げ回っているリビアのカダフィ大佐と我が国の菅アルイミ首相が同じ扱いを受けることになるのかいなあ?と妙に暢気に感じてしまうのであります。国際世論に退陣を迫られるという日本の歴史上初の最低最悪の総理大臣として日本ばかりでなく世界の歴史に恥ずかしい名前を残してしまう可能性さえありそうです。

■首相は自分の身分が安泰なことを喜び、国民は正確な情報不足に右往左往させられ、史上最悪の原発事故の先行きに怯えて暮らしている時に右手では援助、左手では拳骨で臨む隣国があることを忘れてはなりません。そんな困った隣人にさえ好き放題に嫌がらせを受けねばならないのは東京電力のせいなのか?原子力村全体のせいなのか?そんな気味の悪い癒着構造を放置して便乗さえしていた自民党政権が悪いのか?政権交代後に旧来のエネルギー政策の見直しもせずに温暖化ガス「25%削減!」などと軽々しく約束して原子力発電を能天気に信頼した民主党政権が悪いのか?と考えるのは時間の無駄で、皆がそれぞれ分担して悪かったのでしょうが、今回の原発事故も残念ながら民主党政権の最大の弱点だった外交政策に収斂して行くようだと、日本の復興も将来も明るくはなさそうでありますなあ。


中国環境保護省は1日、チベット自治区を除く全ての省、自治区、直轄市で同日、大気中から福島第1原発事故で放出されたとみられる極めて微量の放射性物質が検出されたことを明らかにした。中国中央テレビなどが2日伝えた。環境保護省は人体への影響はなく、いかなる防御措置も必要はないと説明している。
2011年4月2日 産経ニュース 

■東シナ海を越えて黄砂と逆コースで飛来した微量の放射性物質が「人体への影響」が重大だったら日本人は大量移住を始めているでしょう。現場で必死の作業を続けている人達の存在と、政権さえ変われば日本も何とかなるのではないか?という密かな夢を抱いて、日本人は列島内で踏ん張っているようなものですが、ほんの40年前までは日本列島に今の数百倍も強い放射能を降らせていた北京政府が、日本から飛来する放射性物質を心配するというのも不思議な話であります。

『チベ坊』の続編のような…… 其の六

2010-10-28 15:46:54 | チベットもの
チベット独立を支援する国際団体「自由チベット」(本部ロンドン)が22日明らかにしたところによると、中国青海省果洛チベット族自治州や同省海南チベット族自治州など4カ所で20~21日、中国語による教育を決めた教育改革に反発する高校生らが街頭で抗議行動を行った。……海南チベット族自治州共和県では20日、四つの学校の中高生約2千人が抗議デモを実施。生徒らは「チベット語を自由に使いたい」などと叫んだ。隣接の興海県でもデモが起きた。 21日未明には果洛チベット族自治州大武で生徒がデモ行進、武装警察に阻止された。また同日朝、黄南チベット族自治州双朋西でも約500人の中学生がデモ行進したという。
2010年10月22日 産経新聞 

■このように懐かしい地名が並びますと胸が熱くなります。海南チベット族自治州の中心地の共和県は、拙著の舞台で「四つの学校」と言いますと『坊ちゃん』の翻訳を4割ほど残して小生が去った直後に省都の4年制大学に吸収合併された我が母校も含まれている可能性が高く、見学や交流で訪れた民族中学や短期大学相当の民族学校も含まれているのでありましょう。個人的な知り合いは既に卒業してしまった後ですが、その後輩達が決起したと聞きますと感慨深いものがあります。それにデモの参加者の中には教師も含まれているとの報道に接しますと、厳しい経済状況の下で職を賭す決断の重さを考えると共に何人かの顔が浮かんで来ます。

■果洛(ゴロ)チベット族自治州の大武は現地名マチェンという標高3700m以上の高地にある町で、ゴロ州はチベット文化に興味の有る方には世界最長の未完の物語である『ケサル王伝奇』の舞台となった土地としてご記憶かも知れません。同州にはラジャ寺という真っ青な黄河源流に近い川の畔に建つ名刹もあります。


……青海省で19日から21日にかけて、授業で中国語の使用を強制する新政策に反発するチベット族の大学生や高校生らが3日連続で抗議デモを行った。……自由アジア放送(RFA)が22日、伝えた。……連日数千人がデモに参加。同仁県では数日以内に授業ボイコットも計画されているという。デモ参加者は「チベット語を返せ」と叫び、県庁前などを行進。20日の参加者は計8000人に達した。警察は各地の学校にデモを制止するよう要請したり、学生を学校に連れ戻したりしている。青海省教育庁の当局者はRFAに「状況を把握するため、職員を現地に派遣した」と述べた。中国メディアは一連のデモを一切報じていない。 
2010年10月22日 時事通信 

■留学生として現地に入り、後に正式に日本語教師として採用された身ですから、対応に追われている教育庁の中には世話になった人もおりますし、親しかったチベット人で警察関係に就職している者もおりますから、間違った政策が発端で無用な流血や不幸な事態が起こらないように祈るばかりであります。「愛国無罪」の反日デモを楽しんでいる?低地の漢族学生達は、デモに参加しないように週末特別授業を課されている由ですが、チベットで起こったデモはその学校の授業に問題があるのですから、全寮制の学校に押し込めるのは難しいでしょうなあ。


米政府系のラジオ自由アジア(RFA)によると、北京の中央民族大学で22日、チベット族の学生約400人がチベット語保護を訴えるデモを行った。中国青海省でチベット族高校生らが民族文化保護を求めるデモを行っていることに触発されたとみられる。学生らは「民族言語の保護を」などと書かれた横断幕を掲げ、約2時間にわたり校内を行進したという。……
2010年10月23日 読売新聞 

■数は少なくとも中央民族大学には青海省出身のチベット人学生が在籍していますから、現地からの極秘?情報は刻々と伝わっていることでしょう。北京動物園の北側に立地している中央民族大学では、時々、異文化に対する無理解や誤解から不幸な事件が起こるそうで、大学周囲の市民でさえ不思議なことに?チベット文化については何も知らずサフラン色の袈裟を着けた高僧が暴行されたり、チベット人学生が飲食店で絡まれた揚句に意識不明の重態になるまで殴られたなどという実話もあります。大学構内は異文化の融和・交流の雰囲気が漂っているのですが、常に政治的な緊張感はあるようで……。
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『チベ坊』の続編のような…… 其の伍

2010-10-28 15:46:14 | チベットもの
「其の四」の記事が続きます。
……英BBCによると、24日には黄南チベット族自治州尖扎県で民族学校の生徒に教師も加勢し、総勢千人以上が教育改革の撤回を求めてデモを強行、治安部隊が出動する事態に発展した。発端は9月下旬、青海省が省内の民族学校に、チベット語と英語以外の全教科で中国語(標準語)による授業を行うよう通達したことだった。教科書も中国語で表記する徹底ぶりで、小学校も対象という。当局の中国語教育の強化の背景には、中国語が話せないため職に就けないチベット族が少なくないという現状がある。就職難はチベット族と漢族の格差をさらに広げ、それがチベット族の当局に対する不満につながっているのも事実だ。しかし、2008年3月、チベット自治区ラサで発生したチベット仏教の僧侶らによる大規模騒乱が示すように、中央政府のチベット政策に対するチベット族の不満、漢族に向けられる嫌悪感は根強い。今回の教育改革も、チベット族学生の目には「漢族文化の押しつけ」「民族同化の強要」と映っているようだ。「自由チベット」は中国当局がチベット語の“抹殺”を図っていると主張している。…… 

■日本国内にもアメリカン・スクールや韓国人学校・朝鮮学校などが存在していますが、チャイナの「民族学校」というのは飽くまでも中華人民共和国の学校ですから、少々事情は異なってはいます。しかし、少数民族の文化を尊重して保護するという建前上、野蛮で可哀想な少数民族に北京語を教えてやる!という生々しい政治の本音は巧妙に隠されているようで、漢語教育は一種の外国語授業のような扱いで所定のコマ数の中に納まっていることになっております。就職や各種事情で最初から民族学校ではない漢族向けの学校に入る少数民族の子供のおりますし、逆に高校以上のレベルになると少数民族の特別枠を狙って偽者が紛れ込むという椿事も珍しくはないようです。

■北京語が下手だとマトモな就職口が無い!という現実そのものが問題で、古い話になりますが失脚した華国鋒の後を次いで国家主席に就任した胡耀邦さんが、1980年の5月にチベットを視察した時、それまでのチベット政策の失敗を認めて謝罪する有名な演説をしました。チベット復興のために投入された「莫大な資金は何処に消えたのだ?!」と言ってはいけない事まで口走って、チベット人は感動したものの、後に失脚する遠因になったとも言われております。チベット訪問時に「政治犯の釈放」「チベット語教育の解禁」と新機軸を打ち出し、その2年後には中国憲法に基づいて「信教の自由」を改めて保証し、解放戦争と文化大革命で略奪され無残に破壊された多くの僧院の再建も始められたのでしたが、「莫大な資金」を懐に入れて我が世の春を楽しんでいたに違いない悪い奴らは大いに腹を立てて、別の事件で胡耀邦さんが失脚すると全部丸ごと御破算になったという切ない歴史がありましたなあ。

■「西部大開発」を象徴する青蔵鉄道が鳴り物入りで開通して日本のNHKなども盛んに宣伝に強力したものですが、不思議なことに西部大開発によって経済格差がどんどん広がり、開発の資本を握っている特権階級が続々と乗り込んで来て肥え太って行くばかりというチベット人にとっては袋小路に追い込まれるような状況が深刻化しているようです。中には知恵と努力と幸運?で経済的に成功したチベット人も存在しますが、先日、そんな一人のチベット人が逮捕されて財産を没収されるという事件が起きましたなあ。

■今回の学生デモの発端となったカリキュラムの全面的な改定により、チベット人はチベット語を外国語のように学ばねばならなくなるわけで、多くの由緒有る寺院を爆破・破壊し僧侶を殺害した歴史に、世界的な仏教文化を写し取って保存しているチベット語を死滅させるのか?!という重大な問題として多くのチベット人を怒らせてしまったのは大失敗でしたなあ。


……同省共産党委員会の強衛書記は21日、黄南チベット族自治州で学生代表と座談会を開き、「学生たちの願いは十分尊重する」と約束した。中国当局が反日デモ同様、教育改革に対するチベット族の抗議デモが、体制批判に転じることについて懸念している状況をうかがわせる。
2010年10月24日 産経新聞 

■どのように願いを「尊重」するのか?青海省政府の名で決定された政策をあっさりと引っ込めるわけには行かないでしょうし、かと言って更に強行したら大規模な暴動に発展する可能性が高く、政権末期の胡錦濤国家主席としては出世の糸口を「ラサ暴動」でつかんだ身としては、絶対に「チベット暴動」で失脚するわけにも行きますまいから、最後の手段としては「青海省政府の暴走」として大きなトカゲの尻尾切りを断行するしかないかも知れませんなあ。
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『チベ坊』の続編のような…… 其の四

2010-10-27 16:12:56 | チベットもの
■11月の「ノーベル平和賞受賞者世界サミット」にダライ・ラマ法王が出席できるかどうか、尖閣衝突事件の処理方法を見てしまった後となりますと不安が募る一方でありますが、北京政府は来日すること自体に怒っているわけではないので、宗教家としての活動は行なわれるようであります。

東大寺(奈良市)は22日、11月に来日予定のチベット仏教最高指導者、ダライ・ラマ14世が同月8日、同寺で「縁起に基づき、平和と環境のためになすべきこと」と題して講演すると発表した。
2010年10月23日 産経新聞 

■第11回の「ノーベル平和賞受賞者世界サミット」は11月12日~14日に広島で開催されるそうですから、ダライ・ラマ法王は奈良から広島に向かわれるのでしょう。


……「ノーベル平和賞受賞者世界サミット」を歓迎しようと、広島市立基町小学校(同市中区)の児童ら約300人が6日、イラストレーターの黒田征太郎さん(71)と一緒に、サミット会場などに掲示するポスターを描いた。黒田さんはNGO「平和市長会議」(会長=秋葉忠利広島市長)が提唱する20年までの核兵器廃絶の道筋「ヒロシマ・ナガサキ議定書」に賛同し、解説本のイラストを描いた。広島の爆心地の北約900メートルにある同小は平和教育に熱心で、黒田さんの協力を得てポスターを描くことにした。隣接する幼稚園と保育園の園児も参加し、原爆ドームを薄く印刷した……紙にハトや虹など、平和をイメージした絵をクレヨンで描いた。……同サミットは11回目の今回「核兵器のない世界」をテーマに初めてアジアで開かれる。旧ソ連のゴルバチョフ元大統領やチベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世らが出席を予定し、秋葉市長らは、オバマ米大統領にも出席を呼びかけている。
毎日新聞 2010年10月6日 

■子供が大好きなダライ・ラマ法王ですから、一所懸命に歓迎準備をしてくれた子供達と親しく交流できれば良いですなあ。ところで駄目モトで今年の受賞者である劉暁波さんにも招待状を公式に送っては如何でしょう?会議のテーマは「人権」「民主化」「経済格差」などとは無縁の「核兵器のない世界」なのですし、被爆地の惨状を知って貰えれば天安門事件の惨劇と共鳴して劉氏の執筆活動にも資すると思うのですが……。まあ、無理でしょうなあ。

■ここで本題に戻ります。
 

反日デモが続く中国で、少数民族による政府への抗議デモも広がりをみせている。中国語による授業を義務づける教育改革に対しチベット族が反発し、青海省チベット族居住区で火がついた学生による抗議行動が首都北京にも飛び火した。民族同化をもくろむ当局のいき過ぎた教育改革が、漢族への不信感を増幅させている。チベット独立を支援する国際団体「自由チベット」(本部・ロンドン)によると、青海省黄南チベット族自治州同仁県で19日、民族学校の高校生ら5千人以上がデモ行進し、「民族、言語の平等」を訴えた。20日には同省海南チベット族自治州共和県で学生が街頭に繰り出し、「チベット語を使う自由」を要求。22日には、北京の中央民族大学でも学生がデモを敢行した。…… 

■20日水曜日にデモが行なわれた「海南チベット族自治州共和県」は、拙著『チベット語になった「坊ちゃん」』の舞台でありますので、地名を聞いただけで現地の風景と共に数多くの思い出が次々と湧き出します。19日に最初のデモが行なわれた同仁県にも北京の中央民族大学にも何度か足を踏み入れて、いろいろと見聞を広げる貴重な体験をしたことも思い出されます。北京の同大学にはチベットやウイグルなどの少数民族地域からの学生が集まっていますから、故郷からの情報は素早く伝わって学校内に広がります。「民族・言語の平等」は、チベットを併合する時に交わされた議定書にも明記されておりますし、その後に発表された政府の文書にも何度も謳われている事ですから、「分離・独立」を求めるデモのように武力で制圧するわけにも行きますまいなあ。

■拙著でも政治的な独立や経済問題よりも、まずは言語の衰亡を止めて伝統文化を守ることが重要ではなかろうか、と私見を述べておきましたが、当時は学校の教育現場における漢化政策は「少数民族の文化を尊重・保護する」という国際的な宣伝用の看板に反しないよう巧妙にじわじわと行なわれたいた印象がありましたが、政府の世代交代が進んで急進的な方針転換が必要になったのかも知れませんなあ。
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『チベ坊』の続編のような…… 其の参

2010-10-27 15:53:30 | チベットもの
■週末になる度にチャイナの各地で学生達が集まって騒いで公安当局も手を焼いているようですが、「愛国無罪」の看板も時には剥がれて落ちて下地の本音がちらちら見えるようになって来ているので北京政府も気が気ではありますまい。10月23日付けの新聞までは国際面の小さなベタ記事扱いだった青海省でのチベット人学生による抗議デモが、さすがに3日も連続して一本の導火線を辿るかのように主要な道路を伝って広がって行くのですから、大きな特集を組んだ新聞も現われましたなあ。目に見えない導火線はラサ市を目指しているような印象でありますが、ウイグル地域などにも飛び火するかも?

■チベット地域で連続している抗議運動は愛国運動などとは無関係ですから尖閣問題やら日本の悪口などへの言及は皆無で、最初から北京政府の民族教育政策に対する真正面からの抗議だけという単純であるが故に先鋭化したものであります。漢族の学生が騒いでいる内陸部の都市では、劉氏のノーベル平和賞受賞も火種の一つになっているようですが、チベット人にとってはダライ・ラマ法王という同賞を受けて先輩格の存在がありますから、ノーベル賞を非難する北京政府の態度がチベット人達にとっては法王を悪人扱いし続けている政府のチベット政策に対する怒りと恨みを思い出させる効果があったのかも知れません。


インドのジャミア・ミリア・イスラミア国立大が22日までに、チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世に名誉博士号を授与したいとインド政府に提案したが、政府が却下していたことが分かった。……ダライ・ラマは海外の大学などから名誉博士号を授与されているが、インドの大学としてはこれまで例がなかった。インド政府筋は「インド政府はダライ・ラマを深く尊敬しているが、(ダライ・ラマを「国家分裂主義者」と批判する)中国との関係を悪化させたくない」と背景を説明した。中国政府は、中国が領有権を主張するインド北東部アルナチャルプラデシュ州をダライ・ラマが昨年訪問した際や、シン首相が今年、ダライ・ラマと会談した際にはインド政府に抗議した。
2010年10月22日 産経新聞 

■アルナチャルプラデシュ州をダライ・ラマ法王が昨年訪問した件に関しましては、『ダライ・ラマ法王が訪米 其の八』
で取り上げましたが、その後も日本が米国に続いてインドに接近しようとする動きに対応するかのように、チャイナはパキスタンとの関係をどんどん強化しておりますから、インド政府としては経済と軍事の両面で北京政府と対決する準備を整うまでは、チャイナ側の誇大妄想・針小棒大・我田引水・傍若無人な抗議のタネとなる問題は起こしたくはないのかも?1959年当時、世界が見捨てたチベットから逃れたダライ・ラマ一行を迎え入れて亡命政府の設立も認めたインドとダライ・ラマ法王との信頼関係は今のところ問題は無いようですから、学位の一つや二つ受けられなくても法王はいつもの調子でジョークで済ませることでありましょう。

■しかし、こうした情報は驚くほど早くチベット人の間に広まるもので、ダライ・ラマ法王の名誉が傷ついたと思って怒りを覚えた人達もいた可能性はありそうです。逆に独裁政権による厳しい報道規制が無いはずの日本では、以下のようなニュースが意図的に小さく扱われて問題の核心が見えにくくなる傾向があるような気がしますなあ。


11月予定のチベット仏教最高指導者、ダライ・ラマ14世の来日に対して、中国政府が日本側の招聘自体を取りやめるよう要求していることが(9月)22日、分かった。中国政府は従来、ダライ・ラマ来日では日本側に圧力をかけてきたが、会合への出席を止めようとするのは異例。沖縄・尖閣諸島周辺での漁船衝突事件を受け、中国側が強硬姿勢を取っている可能性がある。…… 

■尖閣衝突事故に関して、日本側の「柳腰」外交の真相などは既に隠しようもなく国民に見えてしまっているようなものですが、チャイナで展開されている権力闘争の暗部や軍と政府との関係など、日本のマスコミがつかみ切れていない謎が多いようです。しかし、9月22日という日付の重要性を忘れては行けません。前日には菅アルイミ首相は誰も聞いてくれない演説をするために米国に出発していまして、仙谷ノーコメント官房長官に対して「留守中に解決してね」と責任丸投げの指示?を残して行ったことが判明しております。

■エエカッコしいの前原国交大臣の指示によって公務執行妨害で酔っ払い船長を逮捕拘留したものの、手段を選ばぬ恫喝外交を展開する北京政府の態度に菅アルイミ素人内閣は震え上がって顔面蒼白、仙谷ノーコメント官房長官は何も知らない法務大臣を脅しつつ、外務省の担当課長を那覇地検に派遣したのが9月23日!「我が国の国民への影響と今後の日中関係を考慮」するという立派な?外交的理由で船長を拘置期限前に釈放したのは翌24日のことでした。従いまして9月22日の段階で北京政府は強行姿勢による外交的勝利を確信していたはずで、事のついでにもう一度仙谷ノーコメント官房長官に「柳腰外交」をして貰おうかと虫のいい皮算用をしていたのかも知れませんぞ。


ダライ・ラマが出席を予定しているのは、広島市で開催される「ノーベル平和賞受賞者世界サミット」(ローマの同サミット事務局主催)。ダライ・ラマのほかゴルバチョフ元ソ連大統領や、エルバラダイ元国際原子力機関(IAEA)事務局長ら歴代のノーベル平和賞受賞者9人が、「ヒロシマの遺産・核兵器のない世界」をテーマに議論する。……中国側は外交ルートを通じ「彼(ダライ・ラマ)はノーベル平和賞を受賞するような人物ではなく、招聘はしないほうがいい」などと指摘。ダライ・ラマを「分裂主義者」と見なす従来の主張を繰り返し、招聘を自粛するよう要請した。これに対し、開催地の広島市は「中国側から現時点で抗議は受けていない」(市平和推進課)として、予定通りダライ・ラマを招聘するという。…… 

■本来ならば菅アルイミ首相もそそくさと参加して、またぞろ「誰も聞いてくれない演説」をしに出掛けたくなるような民主党政権好みの国際会議なのに、この件に関して政府はまったく知らん顔でありますが、きっと「北京政府は怒っている」からなのでしょうなあ。


中国側はこれまでも、チベット問題に神経をとがらせてきた。平成17年4月に宗教団体の招きでダライ・ラマが訪日した際、日本政府が「宗教活動」として入国を認めたことに対して、駐中国大使館の日本公使を呼びつけて抗議。19年11月には、野党時代の鳩山由紀夫民主党幹事長がダライ・ラマと会談すると、駐日中国大使館が民主党を非難する声明を出した。政府関係者は「尖閣での事件にチベット人権問題が加わることで、中国国内が混乱することを中国指導部がおそれているのではないか」と分析している。
2010年9月23日 産経新聞 

■野党時代の鳩山サセテイタダク前首相は、自分の無知を一種の武器にしてこのような壮挙もしていたのですが、実際に政権を担当すると「匹夫の勇」を示す機会も無く意味不明の妄言を歴史に残して自任してしまったのでした。時にはトンデモない事をする危険があった鳩山サセテイタダク前首相が失脚して北京政府の思いをこまごまと忖度してくれる御用聞きみたいな官房長官が何も知らない菅アルイミ首相を操ってくれているので、こうした内政干渉も当然の権利と勘違いしてしまうのかも知れません。

『チベ坊』の続編のような…… 其の弐

2010-10-20 14:25:01 | チベットもの
■チベット関連の報道が悲しいほど少ない日本のマスコミには困ったもので、尖閣衝突事件に関連して以下のような動きがあったことは余り知られていないのではないでしょうか?AP通信が9月23日に伝えたニュースです。

11月予定のチベット仏教最高指導者、ダライ・ラマ14世の来日に対して、中国政府が日本側の招聘自体を取りやめるよう要求していることが22日、分かった。中国政府は従来、ダライ・ラマ来日では日本側に圧力をかけてきたが、会合への出席を止めようとするのは異例。沖縄・尖閣諸島周辺での漁船衝突事件を受け、中国側が強硬姿勢を取っている可能性がある。 

■どさくさに紛れて「柳腰」の日本に対して、言いたい放題にも程がある!と憤慨したくなる八つ当たりみたいな話であります。


ダライ・ラマが出席を予定しているのは、広島市で開催される「ノーベル平和賞受賞者世界サミット」(ローマの同サミット事務局主催)。ダライ・ラマのほかゴルバチョフ元ソ連大統領や、エルバラダイ元国際原子力機関(IAEA)事務局長ら歴代のノーベル平和賞受賞者9人が、「ヒロシマの遺産・核兵器のない世界」をテーマに議論する。……中国側は外交ルートを通じ「彼(ダライ・ラマ)はノーベル平和賞を受賞するような人物ではなく、招聘はしないほうがいい」などと指摘。ダライ・ラマを「分裂主義者」と見なす従来の主張を繰り返し、招聘を自粛するよう要請した。 

■劉暁波氏も「ノーベル平和賞を受賞するような人物ではない」ようなのですが、それなら誰が受賞に値する人物なのか、是非とも実名を挙げて教えて頂きたいものですなあ。この抗議を送り付けた時点では、まだ劉氏の平和賞受賞は決まっていなかったのですから、ノーベル平和賞に対しては一応の敬意を持っているようにも聞こえますが、今となっては平和賞自体を否定する可能性さえありそうです。でも、本当は「核兵器のない世界」という北京政府にとっては嬉しくないテーマの会議自体に反対なのではないでしょうかな?これから航空母艦と原子力潜水艦で太平洋の西半分を支配して軍事超大国の米国と対峙しようと本気で考えている誰かさん達は、いざとなったら躊躇せずに核兵器をバンバン使う心算でしょうからなあ。


これに対し、開催地の広島市は「中国側から現時点で抗議は受けていない」(市平和推進課)として、予定通りダライ・ラマを招聘するという。中国側はこれまでも、チベット問題に神経をとがらせてきた。平成17年4月に宗教団体の招きでダライ・ラマが訪日した際、日本政府が「宗教活動」として入国を認めたことに対して、駐中国大使館の日本公使を呼びつけて抗議。19年11月には、野党時代の鳩山由紀夫民主党幹事長がダライ・ラマと会談すると、駐日中国大使館が民主党を非難する声明を出した。政府関係者は「尖閣での事件にチベット人権問題が加わることで、中国国内が混乱することを中国指導部がおそれているのではないか」と分析している。
2010年9月23日 産経ニュース

■この「政府関係者」の悪い予感?が当たって、尖閣衝突事件にこじ付けて四川省の学生達が起こした本音を隠した「愛国無罪」暴動が、西のチベット地域に飛び火してしまったとしたら、今回の青海省同仁県での教育政策に対する抗議デモが小さな火種になって、広大なチベット地域の何処かに燃え広がるか、或いはウイグル地域でも共鳴作用が見られるかも?

■小平時代、チベットのラサ市で戒厳令を布いてデモを武力で鎮圧したことで権力の階段を駆け上がるチャンスを掴んでのし上がったのが胡錦濤国家主席ですが、後継者がほぼ決まり穏やかに権力を委譲して引退後の名誉と身の安全を計りたい時期に、再びチベット問題で火の粉を浴びることになるのでしょうか?

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『チベ坊』の続編のような…… 其の壱

2010-10-20 14:23:53 | チベットもの
■嗚呼、とうとう起こってしまったか、というニュースが飛び込んで参りました。拙著『チベット語になった「坊ちゃん」』をお読み下さっている皆さんには、是非とも注目して頂きたい動きであります。

チベット独立を支援する国際団体「自由チベット」(本部ロンドン)が20日明らかにしたところによると、中国青海省黄南チベット族自治州同仁県で19日朝、チベット民族学校の高校生ら数千人が中国語による教育押しつけに反発して街頭抗議を行った。六つの高校の生徒らが合流してデモ行進し、地元政府役場前に集まった。5千~9千人が抗議したとの目撃情報もある。「民族や文化の平等を要求する」などと叫んだという。…… 

■基本的な事項を確認しておきましょう。青海省はウイグル自治区とチベット自治区が(頼みもしないのに)占領・吸収されたことにより大きく西に膨らんだチャイナの地図では真ん中からちょっと西方にずれた位置になりまして、国内最大の淡水湖である青海湖があることから省の名前が付けられております。青海湖はチベット語でツォ・ゴンポ、蒙古語ではココ・ノール、どちらも「青い海」の意味ですから直訳して漢字を当てております。

■デモが起こった「黄南」チベット族自治州も、マチュ(黄河)のロ(南)を意味するマロというチベット語の呼称を直訳して漢字を当てております。ただし、チベット人が暮らしている土地を流れる黄河上流部は黄土大地で濁る前の青々とした川であります。さてさて、その黄河の支流ロンウォ河沿いに建立されたロンウォ寺を中心に発達したのがレプコン(同仁)の町なのですが、この一帯にはチベット仏教の各種宗派が健在で有名な寺院が点在しております上に、仏画などの仏教美術のメッカでもあります。日本でも公開された世界最長のチベットの歴史絵巻を完成させてしまったほどの人材とエネルギーに満ち溢れている所でありまして、個人的にも何度か彼の地を訪れまして、ツテを頼って学聖トンミ・サンポータ先生の肖像画を描いて頂いた思い出の土地でもございます。


最近の教育改革で、チベット語と英語を除くすべての教科を中国語で学ぶことになったのがきっかけで、生徒らが反発したという。民族学校の元教員は「漢族は文化大革命時代を思い起こさせるような改革を強要している」と語った。中国では2008年3月、チベット自治区でチベット仏教の僧侶ら数百人が中国政府のチベット政策に抗議し、大規模暴動に発展する事件が起きた。
2010年10月20日 産経ニュース 

■拙著の続編みたいなデモ騒動ですが、既に2004年頃にはこの種の圧力が高まりつつあったようです。小生がチベット語を学び、日本語を教え、そして『坊ちゃん』などの日本語作品を両言語の近似性に着目して翻訳した学校も、その後は実質的に消滅したも同然ですからなあ。2008年3月の騒乱事件の際にも、今回のデモが起こった場所で大規模な抗議運動が発生しました。その前にも北に数十キロ離れただけの町に残るダライ・ラマ法王の御実家に、法王御自身がお忍びで帰還するとの噂が流れて近隣ばかりでなく、遠方からも多くの信者が続々と集まって地元の公安当局が強権を発して暴力的に解散させる事件も起こりましたなあ。

■現地のチベット人知識人の中には、2000年頃から物理学や化学などの理数系の辞典類を地道にチベット語で出版する動きもありましたから、露骨に「すべての教科を中国語で」教え込もうとする政策には反発するのは当然とも言えましょう。チベットには医学・暦学・天文学・数学などの科学知識、建築・衣料・染色などの実学、そして美術と文学などの芸術と世界に冠たる優れた文化と伝統と歴史が厳然として存在しているのですから、それらを根絶やしにするような政府の動きに反発する人達がいるのも当然の話であります。

■9月に新学期が始まりますが、1ヶ月余は「軍事教練」やら共産党の指導に従う生活指導やら、補習授業などもあって忙しく時は過ぎ、10月の連休後から本格的な授業が始まることになっていますから、抗議デモが10月19日火曜日の朝に起こるというのも時期的に納得が出来そうです。それに加えて「愛国無罪」の学生暴動がご近所の四川省で起こった事にも刺激を受けての行動かも知れません。四川省の西半分はチベット人の居住地帯ですからなあ。

チベット蠢動? 其の六

2010-04-16 16:07:48 | チベットもの
■『蠢動』の名を冠して遅々として進まない連載ながらも、最近のチベット関連の動静を追っていましたが、大地が激震する天災が起こるとは思ってもみませんでした。かつて被災地を訪れた者として、深く御同情申し上げ、少しでも早い復興を願っております。断片的な映像が流れる度に、お世話になった方の顔を無意識に探してしまいますが、玉樹県はそれなりに大きな町ですから、数日間の滞在で知り合えたのは決して多くはありませんでしたが、あの険しくも美しい山道があちこちで寸断されているとの報道を耳にしますと、さもありなんと彼の地の風景を思い出して心が重くなります。

■拙著『チベット語になった坊ちゃん』の元原稿には、彼の地での体験も書かれていたのですが、分量の問題とテーマを絞り込む編集方針とで、涙を呑んで割愛した事情があります。チベット語の現状を考える上で実に貴重な体験をしたことは忘れられません。歴史的にも非常に重要な意味を持つ神聖なる交通の要衝で、現在でも軍事的な重要拠点でありますから、救助・救援・復興作業を何が何でも自力で遂行して、海外からの目や耳は可能な限り統制・制限する努力をすることでありましょう。

■「朝飯前」ならぬ夕食前の10分間に米国大統領と非公式会談を終えると、そそくさと帰国した我らの首相とは違い、胡錦濤国家主席は米国を発って南米等を歴訪する大外交戦略を始めた矢先だというのに、すぐに予定をすべてキャンセルして大急ぎで帰国するとか……。


……中井洽国家公安委員長(防災担当相兼務)は中国青海省で起きた地震で、日本政府が国際緊急援助隊の派遣を中国に打診したところ「今回は外国の援助は受けない」との返答があったと15日、明らかにした。国家公安委員会後の記者会見で述べた。
2010年4月15日 産経ニュース

■険しい峠道や断崖絶壁が崩落して道が寸断されているそうですが、崩落するのが情報統制の「壁」だったりすると広大なチベット地域で溜まりに溜まっている憤懣と怒りが一挙に噴出して、暴動騒ぎがあちこちで起きる危険がありますからなあ。チベット人にとっての玉樹県周辺に対する思いや歴史的な意味などを、少し考えてみようと思います。まずは第一報の聞いての覚書として記します。

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チャイナの陸路と海路 其の参

2010-03-19 15:03:22 | チベットもの
■専門家の間ではインド洋に「真珠の首飾り」が出現したという言い方をするそうです。つまり、インドを除くインド洋諸国に平和に聞こえる「港湾正義」の名目で大金をばら撒いているチャイナが着々と海の軍事拠点を並べている現実があるという話です。「真珠」の粒は東からミャンマーのシットウエー、バングラデシュのチッタゴン、スリランカのハンバントタ、パキスタンのグアダールと連なり、インド亜大陸を完全に包囲して締め上げるように配置されているそうです。

■ミャンマーのシットウエー港からは雲南省の昆明を経て重慶に達する石油パイプラインの工事は既に始まっていて、それを西側から扼しながらインドを睨むのがチッタゴン港、グアダール港はホルムズ海峡の出入り口という戦略的に極めて重要な場所にあります。驚くことに「首飾り」は東にも延びてタイ南部のクラ地峡を掘り抜いて運河化しようという大計画が静かに進行中とか……。この計画は半世紀以上も前に、まだ広島・長崎の現実を米国が隠し、御用学者に「放射能の危険は無い」と言わせていた頃、冗談のような「原爆の平和利用」を目指す計画の中に含まれていたことがあったはずです。

■スエズやパナマを開削した苦労を原爆で一挙に解決できる!と馬鹿な学者が吹いたホラ話でしたが、真面目に明るい未来を語る啓蒙書にも載っていたのですから恐ろしい話であります。何でも大型化した原爆を5発だか10発並べて仕掛け花火みたいに爆発させると、驚くほど簡単にインド洋と太平洋がつながってしまうのだとか……。でも、実際には放射能汚染の恐ろしさが知れ渡ると同時にシンガポールやマレーシアなどのマラッカ海峡を米櫃にしている国々の大反対もあって立ち消えになった夢の原爆工事となったのでした。チャイナは何を使って開削する心算なのでしょう?

■うかうかしていると、チャイナにいちいち仁義を切って挨拶しないとインド洋を通れなくなるかも知れませんなあ。海賊被害が深刻化したら、インド洋から撤退した民主党政権はどうするのだろう?と考えれば冗談では済まない話でありましょう。友愛の旗を掲げても海賊たちは見逃してはくれないでしょうからなあ。
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チャイナの陸路と海路 其の弐

2010-03-19 15:02:52 | チベットもの
■今度はチャイナの海の道を考えますが、鳩山サセテイタダク首相が熱烈に提唱する「東アジア共同体」構想の圏外にまで延びる現代版「鄭和の大航海」が幕を開けているのであります。インド洋から強引に自衛隊を撤収させた民主党政権は、それを手放しでお祝いするのか?それとも遅ればせながら警戒して対抗手段を考えるのか?沖縄の吉問題にも直結する遠大な話なのですが……。

中国人民解放軍の将官は最近、メディアに頻繁に登場し、外交・安全保障政策について積極的に発言しており、国内外の注目を集めている。政府の立場より一歩踏み込み、対外強硬姿勢を示すことがほとんどで、愛国主義教育を受けた若者から支持を受けている。これまでは沈黙することが多かった“制服組”が、同じ時期に一斉に政策に口を出すことは異例だ。今年の国防費予算の伸び率が22年ぶりに一けたに抑えられたことを受け、軍備増強の必要性を強調し、軍の存在感をアピールする狙いがあるとみられる。

■戦前の日本でも軍縮予算を組んだ首相が何人も暗殺されるという暗い事件がありましたが、大日本帝国で軍事クーデターを最初に企てたのは5・15事件を起こした海軍の若手将校達だったことを忘れては行けません。チャイナの人民解放軍は毛沢東時代から陸軍中心で構成され発展して来た歴史がありますから、実際に軍功を立てた経験のない海軍の中には、一刻も早く大きな勲章が欲しい!と本気で焦っている輩が居ないとも限りませんぞ。


2010年の国防費が発表される前日の3日、政府の諮問機関、全国政治協商会議の委員を務める羅援少将は、北京紙、新京報などの取材に応じ「今年の国防費の伸び率は例年と比べ抑えられる」と言明。「台湾、チベットなどの独立問題を抱え、国家分裂の危険に直面している中国には、国防を増強しなければならない理由はいくらでもある」と述べた。この発言は、国防費の伸び率が09年の約14%から、今年は7・5%に抑えられたことに対する「軍の不満を表している」と解釈する香港記者もいる。

■軍備の増強を何年も続けると抑制が効かなくなり、軍部はもっともっと増額しないと「戦争に勝てないぞ!」と騒いで政治家を脅すことになります。日本では犬養毅と浜口雄幸が軍事予算を削減しようとして暗殺され、それ以降の内閣は軍部の圧力に屈してずるずると対米戦争に引きずり込まれて行った歴史があります。今のチャイナ軍は予算が削減されたわけではなく、伸び率が半分になっただけで「不満」を鳴らしているのですから贅沢なものであります。本気で世界一の軍事大国アメリカと力で対抗しようと真面目に考えている人物が居そうです。


これに先立ち、国防大学の朱成虎少将は、2月に発売された週刊誌「瞭望」で、米国による台湾への武器売却問題について「米国に『台湾関係法』などが存在していることが問題の本質だ」と指摘。外交交渉を通じ米国に、中国の国益に損害を与える法律を改めさせるべきだと主張した。……中国外務省の対米政策を「弱腰」と批判するネットユーザーの熱烈な支持を受けた。朱少将は05年夏、「米政府が台湾海峡での武力紛争に介入した場合、(中国は)核攻撃も辞さない」と発言したことで注目された。

■北京政府が最も嫌うのが自国への「内政干渉」なのに、この少将の発言は露骨な米国に対する内政干渉そのものです。今の胡錦濤政権では軍部を制御できない弱点があるようですなあ。人民の怒りが爆発しない程度の経済成長を維持するのに精一杯で、軍に対して無関心だと思われるともっと危ない事になりますから心配なことであります。日本の自衛隊では友愛首相の妄想をちょっと批判しただけで大目玉を食うというのに、チャイナの軍人は「核攻撃も辞さない」などと放言しても賞賛の声しか起らないようですなあ。


……海軍情報化専化諮訊委員会主任の尹卓少将は昨年末、「アデン湾(イエメン沖)での護衛任務をスムーズに行うため、中国はインド洋沿岸に補給基地を設ける必要がある」とメディアに語り、世界から注目された。しかし、中国国防省はその後、「海外に海軍基地を建設する計画はない」と釈明した。

■チャイナの特色ある文民統制のようにも見えますが、外交と軍が一体の国では茶番劇にしか見えません。実際に日本が手を引いたインド洋はあっと言う間にチャイナの海に様変わりしてしまったようですから、専用の軍港を持たずとも莫大な経済援助と引き換えに重要な港を自由に使えるようにしている実態を考えれば、国防省の言い訳は空疎に感じます。


軍将官による一連の発言は、10年の予算を審議する全国人民代表大会のみならず、現在策定中である次期5カ年計画の予算案を意識したものだ、という指摘もある。民族主義の観点に立った発言によって世論を味方につけ、予算をより多く獲得する思惑がありそうだ。中国のメディア関係者は「軍人から政府の方針と違う発言が飛び出すことは毛沢東、小平時代には考えられなかった。江沢民時代も少なかった。今の胡錦濤政権が軍を押さえられていないことを象徴しているかもしれない」と分析する。
2010年3月15日 産経ニュース

■民族主義を強調すると膨大な数の「少数民族」が怒りを感じる可能性がありますから、北京政府は苦々しく思っているのでしょうが、もしも大規模な暴動が起ったら、最後に頼れるのは軍隊だけですから、強きの発言を続ける軍部の方に分があることになります。欧米諸国がチャイナの急激な軍備拡張に何度も警鐘を鳴らしているのは決して杞憂ではありますまい。鳩山サセテイタダク首相の友愛外交にはまったく影響を与えていないのが奇妙ではあります。

チャイナの陸路と海路 其の壱

2010-03-18 15:50:21 | チベットもの
■環境問題や金融為替問題になると自国を世界最大の発展途上国だと言い張るのが北京政府の困った癖ではありますが、実際に社会インフラは十分に整備されていない広大な地域が残っております。日・米・欧の自動車会社が鵜の目鷹の目で商機を探し求めてチャイナに入り込もうと必死の努力が続いている一方で、道路網の整備は後追い状態である上に手抜き工事や予算の中抜きなど安心して運転出来ない話も聞かれます。急激な経済成長を支えるための物流は鉄道に大きく依存するのが大陸国家の宿命なのに、どうも安全管理が追い付いていないような心配があります。
 
■そんな歪な構造を持った国が核保有国なのですから、破滅的な核戦争が起らなくても、平時に起る事故が心配になるのは当然の話で、旧ソ連時代の、1957年9月29日にウラル地方チェリャビンスク州で放射性廃棄物が大爆発する事故が起きていた事を思い出しますが、チャイナも無理な原爆開発を進めるために大量の核廃棄物や廃材などをチベットやウイグル地区に不法投棄していたという話もありますからなあ。


……「中国の核弾頭の貯蔵と操作システム」と題する同報告は、ワシントン地区に本部をおく「プロジェクト2049研究所」(所長・ランディ・シュライバー元国防次官補代理)により作成された。同研究所では、核兵器の安全管理には透明性と責任体制が最重要との観点から、秘密の多い中国の核戦略、とくに核弾頭の扱いに光をあてたという。……中国は合計約450発(うち250発が大陸間弾道弾などの戦略核)と推定される核弾頭の大部分を、平時は秦嶺山脈の太白山を中心とする地下トンネル網に保管している。この管理基地は「二十二基地」と呼ばれ、陜西省太白県に所在する。同基地は党中央軍事委員会(胡錦濤主席)の指揮下にあり、核弾頭の安全管理から移動、実射までの権限を有する。人民解放軍では核ミサイルは戦略ミサイル部隊(第二砲兵)の管轄下にあるが、同部隊も「二十二基地」の指令に従うという。

■秦嶺山脈は西安の南側を東西に走っておりまして、標高3767メートルの太白山は宝鶏市の南に位置します。つまり、鄭州・洛陽・西安・蘭州を結ぶ最も重要な交通の大動脈を見下ろすような場所に大量の核弾頭が保管されているわけです。「通学路」として足掛け4年も同地を往復していた身としてはぞっとする話でありますなあ。250発の戦略核を保有すると同時に既に有人宇宙飛行にも成功しているほどのロケット大国を相手に、鳩山流の友愛外交で太刀打ち出来るかどうか甚だ心配であります。


同報告は中国のこの集中的な核弾頭管理は日ごろの貯蔵や隔離という点での安全性や責任の度合いが高いと評価している。一方……核ミサイルの発射基地として瀋陽、洛陽、黄山、西寧、懐化、昆明の6基地を機能させ、平時からそれぞれにごく少数の核弾頭をおいているが、情勢に合わせて「二十二基地」からの核弾頭を常時、出入りさせている。この頻繁な移動は中国が核の先制不使用を宣言し、先に核攻撃を受けてもなお十分な報復のできる核戦力を保つ戦略を取っているため、防御の弱いミサイル発射基地におく核弾頭を最小限としていることに原因するという。

■瀋陽は遼寧省、洛陽は河南省、黄山は安徽省、西寧は青海省、懐化は湖南省、そして昆明は雲南省。地図の上に印を付けてみると、瀋陽と洛陽は等距離で北京を挟み、西寧と洛陽を結ぶ直線と昆明・懐化・黄山を結ぶ直線が共に上海を指向しているのが分かります。更に後者は三段構えで台湾を狙っているようにも見えます。要するに伝統的な交通網を十分に考慮して核兵器を配置しているというわけです。従って核弾頭を移動する場合、物流一般・観光・通学などの目的で走る列車や自動車と同じ場所を通過していることになります。


……頻繁な核弾頭の移動に一般にも使用される鉄道と高速道路を使うと指摘する一方、「二十二基地」自体が一部の弾頭を攻撃回避の確実な保存のため、夜間、特別な列車に乗せ、長時間、移動させ続けることも多いとして、「一般の鉄道や道路への高い依存のために交通網の破綻からの危険への懸念がある」と強調している。……実例として(1)2008年5月の四川大地震の際、「二十二基地」弾頭移動駅の近くの鉄道トンネルで列車が脱線し、危険物質が露出された可能性が高い(2)同年2月に秦嶺山脈内の道路凍結で、大型車両がスリップして多重衝突し、弾頭関連の輸送に危険が生じた可能性が高い-と述べ、中国の核弾頭管理の危険を指摘した。……
2010年3月17日 産経ニュース

■チベットやウイグルの騒乱・暴動は武力で捻じ伏せて厳重に蓋をした上に十重二十重の監視と規制の囲いをするのが北京政府のやり方ですから、(1)の危険物質の露出などという重大な事故は無かったことにするくらいは簡単なことでしょうし、(2)のような事故は日常茶飯事の扱いで無数の交通事故に紛れ込ませて有耶無耶にしてお仕舞いでしょう。旧ソ連時代に発生した核物質による各種の汚染事故が明るみ出たのはゴルバチョフ政権がグラスノスチ(情報公開)に踏み切るまで現地の住民にさえ知らされなかったのでしたから、変な交通事故や列車事故が起こっても、北京政府は絶対に外部には洩れないようにてきぱきと手馴れたやり方で隠蔽してしまうのではないでしょうか?旅行や仕事でチャイナを移動する時にはくれぐれも御用心、御用心。

チベット蠢動? 其の伍

2010-03-17 10:27:08 | チベットもの
■チベット自治区での人事異動は、先日閉会した北京での全人代への布石でもあったようです。

香港の人権団体、中国人権民主化運動情報センターは(1月)22日、中国共産党が今月18日から20日までの間、北京で、チベット政策の基本方針を話し合う第5回チベット工作座談会を開催したと伝えた。……第4回の2001年6月以来で、08年3月のチベット暴動後初めて。中国の主要メディアは開催を伝えておらず、同センターは「秘密で開かれており、重要な新政策が出た可能性がある」と指摘している。
同センターによると、座談会には胡錦濤国家主席ら共産党の最高指導部、政治局常務委員会のメンバー9人全員が出席。チベット自治区や四川省、青海省などのチベット族自治州の幹部ら約400人が参加したという。
2010年1月22日 産経新聞

■秘密会議というのは不気味な感じがしますが、まさかナチス時代の「ワンゼー湖会議」みたいな恐ろしい話し合いでなかったことを願うばかりです。この報道が事実ならば、第4回と第5回との間に北京五輪が挟まれていることになります。それも悪評高かった「聖火リレー」の騒動で世界中にチャイナの現実を御披露してしまってから1年半という時期に当たります。何でも水に流して忘れてしまいがちの日本人にとっては、あの聖火リレーの騒動は遠い昔の事なのでしょうが、実際に日本も騒動に巻き込まれていたのですから、そう簡単に忘れてしまっては行けません。

■2009年の3月26日に、国際オリンピック委員会(IOC)は五輪聖火リレーの国際ルートを廃止する!と正式に決定しておりますから、あの騒動は相当深刻なショックだったのは確かです。現時点でパラリンピックが開催されているバンクーバー冬季五輪大会で、ぱったり聖火リレーの話題が消えてしまったことに違和感を持たなかったのは、日本のマスコミが意図的にこの件を取り上げなかったからかも知れません。聖火リレーの中止が決まったのは米国コロラド州デンバーで開かれた会議の場で、IOCのジルベール・フェリ五輪執行局長という人が「バンクーバー五輪(冬季五輪)から国際ルートを廃止する」と発表していたのです。

■正式に廃止されるのは2016年度からということになっているようですが、先のアテネ大会で始まった聖火の国際リレーは北京五輪で終わったのであります。そもそも、近代五輪を政治・軍事的に利用したヒトラーがベルリン大会を開催するに際して、ギリシアの聖地で点火したトーチをバルカン半島を北上して後に占領することになる中欧地域を通ってベルリン会場までリレーさせたのが最初ですから、妙に国威発揚に熱心な国で開催するとなればロクな事にならないのは分かっていたはずなのですが……。北京五輪では頼みもしないのにエベレストにまでトーチを運び上げたりチベット各地をこれ見よがしにリレーしたのでしたなあ。


北京で開催中の全国人民代表大会(全人代=国会)に合わせ、新疆ウイグル自治区のヌル・ベクリ主席が(3月)7日、北京で記者会見した。同自治区では昨年7月にウルムチで起きた大規模暴動の後、住民のインターネット接続が制限され、今も厳しい情報管制下にあるが、主席はネット規制について「事件沈静化に大きな役割を果たした。民衆の理解と支持を得ている」と正当化した。この日はチベット自治区のバイマ・チリン主席も会見。チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世の後継者問題について、「ダライはまだ生きている。死んでから話そう」と答えた。さらに「ダライは(後継者を)国外からでも、男女どちらでもいいと言うなど何が基準なのか分からない」と非難した。
2010年3月7日 毎日新聞

■チベット自治区の新主席の思い切った発言にも驚きますが、ウイグル自治区の主席も「事件沈静化」が出世の必須条件になっていることを語っております。因みに観音菩薩の化身であるダライ・ラマ法王の転生者を選定するに当たっての基準は明確で、ただ北京政府が介入し辛い基準になっているはずです。清朝時代の話をこじつける向きもあるようですが、清朝の皇帝はチベット仏教の大檀越であり熱心な信徒でもありましたから、今の北京政府が清朝時代の先例を踏襲するのは無理がありましょうなあ。

チベット蠢動? 其の四

2010-03-16 16:02:55 | チベットもの
■『其の参』の続きです。

……人権活動家や弁護士が相次いで嫌がらせを受けているとし、特に民主活動家の劉暁波氏と弁護士の高智晟氏の名をあげて憂慮を表明した。劉氏は中国共産党の一党独裁体制廃止を求める文書「08憲章」を起草したとして国家政権転覆扇動罪に問われ、懲役11年などの判決が確定した。人権派弁護士として著名な高氏は09年2月ごろから行方不明で、中国当局に拘束されている可能性が高いとされる。
中国のネット規制にも言及しており、特に天安門事件20年やチベット動乱50年、中国の建国60年などの際にネット規制が強化され、特定の国内外サイトやニュースなどの閲覧が不可能になったという。

■グーグルが撤退するのは最初から無理があったからで、経営トップもずっと懸念していたそうですから、ネット規制の締め付けが厳しさを増す度に後悔の念が募って行ったのでしょう。一党独裁体制下では情報は党の自己弁護と宣伝のためだけに使われるのが常で、本当の情報は徹底的に封じ込められて都合の悪いことは「無かったこと」にされてしまいますから、玉石混交の状態でネット上を飛び交う情報の中に生の真実が紛れ込むのは不都合千万であります。それに対してネット商売をしている方は、自由放任の原則で不特定多数の利用者からのアクセスは大歓迎、或る程度は匿名性も確保される「何でもあり」の開かれた仮想空間を提供するのが存在理由なのですから、雁字搦めの規制が横行している体制下では窒息してしまいます。


また、報告書では北朝鮮の人権状況も「嘆かわしい状態」と批判し、情報統制を通じて国家全体に強固な支配体制が確立されているなどと指摘した。昨年同様に拉致問題にも言及し、「北朝鮮は08年の日本政府との対話後に合意した再調査について何の進展や結果も発表しなかった」などとしている。報告書ではこのほか、イランやキューバ、ロシア、スーダンなどの人権状況も批判している。
20140年3月12日 産経新聞

■テロも密輸も偽造商品も、革命のためなら何でも許される無法国家が社会主義の幻想が敗れ去った後にも生き残っているだけでなく、新手の圧制国家が次々に生まれてしまったのは甚だ残念なことではありますが、それが現実なのですから目を背けて知らん振りしているわけにも行きません。日本には国連神話がしぶとく生き残っていますが、この報告書を作って発表している米国は国連の場で諸々の問題を解決しようなどと思っていません。最後に事を決するのは武力だと信じて疑わないのは米国だけでないのが困ったことで、危うい友愛精神を掲げて登場した日本の新首相は武力が使えない国をどんどん苦境に押しやっているのが気懸かりではあります。

■武力を持たないチベット亡命政府の代表者として、精力的に世界を巡っているダライ・ラマ法王は笑顔で語り続けているのですが、仏像の中には激しい憤怒の形相をしている各種明王や武装姿の天部諸尊もおられることを忘れてはなりますまいぞ。話は数ヶ月遡ります。
 
 
……(1月)15日に閉幕したチベット自治区の人民代表大会(議会)は、自治区政府の新しい主席にバイマ・チリン氏(58)を選出した。辞任したジアンパ・ピンツオ前主席(62)は、同大会の主任(議長)に選ばれた。……バイマ・チリン新主席は、18歳の時に中国人民解放軍に入隊、1986年から同自治区政府に転じ、秘書長、副主席などを歴任した。中国当局は昨年末から、チベット独立の動きを厳しく取り締まる方針を確認する一方、空港建設など経済新興策を発表した。今回の人事はこうした少数民族政策を強化する動きの一環とみられ、中国当局は新主席のもとでアメとムチを使い分けながら、チベット統治を加速させそうだ。
2010年1月15日 産経新聞

■チベット解放戦争以降、チベット人の考え方は大きく揺れ動き続けて来ました。初期には毛沢東の空手形を本気で信じて共産党に未来を託した人も多かったようですし、その後も背に腹は変えられず面従腹背で職を得るために苦渋の決断をした人も数多いのが現実ですから、人民解放軍に入って出世するチベット人が存在しても何の不思議もありません。選出された新主席の胸の内は、今の小康状態の中では誰にも分からないというのが実情でしょうが、経済振興策に一縷の望みを懸けて流血の惨事を避けつつチベットの発展に努力するという職責に専心する日々が続きます。

チベット蠢動? 其の参

2010-03-15 16:04:12 | チベットもの
■ちょっと「枕」の話が長くなってしまいました。そろそろ本題に入ろうかと気は急くのですが、ちょっと面白いニュースが目に付きましたので取り上げておきます。

国境なき記者団(RSF)は3月12日、インターネットの言論の自由を脅かす「インターネットの敵」リストの最新版を発表した。今年ネットの敵として挙げられたのは、ミャンマー、中国、キューバ、エジプト、イラン、北朝鮮、サウジアラビア、シリア、チュニジア、トルクメニスタン、ウズベキスタン、ベトナムの12カ国。いずれもネットコンテンツの検閲や、政府に批判的な発言をしたWebユーザーを投獄するなど、Webにおける言論統制を行っているという。特に中国は最近、ネット検閲をめぐってGoogleと対立していることが話題になった。

■経済復興が著しいと注目もされるベトナムが入っているのは意外ですが、社会主義共和国を名乗っている限りは監視や統制が無くなることはないのかも知れません。トルクメニスタンやウズベキスタンはソ連崩壊後に独立したとは言っても、社会制度は旧態依然のソ連型を流用して凌いでいるようです。特にトルクメニスタンはスターリンを髣髴とさせる独裁者が君臨していましたからリストに載るのは当然でありましょう。ずらりと並んだ国の名前を見ますと、あまり住んでみたいとは思わない場所が多く、仕事の関係で已む無く滞在するにしても短期で切り上げたい所ですが、実際には多くの日本人が頑張っている国も含まれております。その筆頭がチャイナということになります。


RSFによると、2009年には約60カ国が何らかの形でWeb検閲を行った。2008年と比べると2倍に増えたという。Webユーザーが標的にされるケースも増えており、オンラインで自由に意見を述べたことで投獄されたブロガーやネットユーザーは過去最高の120人近くに上った。中でも中国が最も多く、72人を拘留したという。
2010年3月15日 産経新聞

■投獄された者の半数以上がチャイナのユーザーとは予想通りとは言いながら、何とも恐ろしい話です。拘留されなくても脅迫を受けたり何らかの圧力を掛けられた人の数は遥かに多いはずです。今年の全人代でも地方への経済援助を強化するという宣言が出されているようですから、インターネットや携帯電話がどんどん奥地に広がって行くことでしょう。同時に監視体制も強化されて行くわけですが……。


米国務省は(3月)11日、世界194カ国の人権状況に関する報告書(2009年版)を発表し、中国に関して新疆ウイグル自治区での少数民族の抑圧や人権派弁護士の拘束、インターネット規制の強化などを取り上げ、人権状況は「劣ったままであり、いくつかの地域ではさらに悪化している」と総括した。……中国政府が新疆ウイグル自治区の少数民族に対して「文化、宗教面での抑圧を拡大させている」と指摘。チベット自治区も政府の厳重な管理下にあるとして少数民族の抑圧に懸念を示した。

■日本政府の外務省は「危険情報」くらいは出しますが、この種の報告書を作って発表したことは無いはずです。波風立てずに八方美人を通すのが戦後の国是みたいなものですから、他国を批判するような文書は御法度なのでしょうが、その結果として相手に物が言えなくなって日本が何を考えているのかさっぱり分からないと言われてしまいます。自民党時代には当選回数で大臣ポストを割り振り、時には素人同然の外務大臣がうろうろすることもあったのですから、世界に向って発言するような仕事をする気も無かったのでした。せっかく政権交代したのですから岡田外相にはちょっと期待していたのですが……。