旅限無(りょげむ)

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選挙の争点は決まった! 其の伍

2007-05-24 07:35:55 | 政治
■意図的に時系列を遡っているわけではなく、気になる記事をストックしておいたらこうなったというだけの事です。しかし、毎日繰り返される残虐で悲しい事件に目と耳を奪われている間に、自分達が選んだ政治家が喋ったことをどんどん忘れるのは、悪い政治家の思うツボでしょうから、少しでも昔の発言を再確認して言質(げんち)を取ったことにしておかないと、大変なことになりますからなあ。まさか、夏の参議院選挙の全国区で、タイゾー君のクローン議員やら、幻で終わった「父親が2人いる」ホリエモン君の後釜が出て来ては、もう冗談では済みませんからなあ。

■そう言えば、「選手宣誓」みたいな事まで小泉総理にやらされた、まるで若手のエースみたいな扱いだったタイゾー君は、この忙しい選挙直前の時期に、ぱったりとマスコミから姿を隠しているのはどうしたわけでしょう?悪評高い議員宿舎には「公約を守って」さっさと入居しているとの報道は有ったようですが、春も浅い夕張で真っ赤な恥を掻いてからは、自民党の計算高い爺様連中からゴミクズみたいに捨てられてしまったようです。冷たく手の平を返すのはマスコミの性(さが)ではありますが、一切の政治的な意義の無い「取材」を競ったことを反省もせずに次の選挙に走り出すのは、どうなのでしょうなあ。


政府は13日、社保庁改革関連法案を閣議決定した。
(1)社保庁解体後の年金業務を引き継ぐ新組織「日本年金機構」は、職員身分が民間人である非公務員型の公法人
(2)公法人の業務は可能な限り民間委託
(3)悪質滞納者の強制徴収は国税庁に委任-
などが柱。

■ほらね!10日前に提出されて、間も無く成立してしまう「改革法案」には、社保庁の罪や失敗に学ぶ文言は一切無いのです。悪いのは「滞納者」なのです!鬼より怖い国税庁の権限を大きくする点では、民主党案と同じです。でも、鬼と言うより、時々、女(男)心や秋の空よりも心変わりが激しい国税庁に、発足以来、時の政治家と官僚達によてグチャグチャのテロテロのボロボロにされてしまった年金制度という仕組みを、国税庁に丸投げしてしまっても良いのでしょうか?少なくとも、厚生労働省の所管には生活保障制度や各種公的保険制度など、国民に向かって支払う業務が含まれていますが、国税庁は広報用の予算ぐらいしか民間にはベタ一文出さない役所ですぞ。

■民間から勘違いで飛び込んで来たウッカリ長官の命令を悪用して、非合法な手段で分母を減らして表面的な「実績」を上げて見せた社保庁が、後には「まだ可愛げが有ったなあ」などと懐かしまれるような時代になったらどうしましょう?


民間委託する業務範囲は、法案成立後に内閣官房に有識者による第三者機関を設置して決定する。新組織への移行は平成22年1月の予定。政府・与党は今国会中の成立を目指す。社保庁解体後の年金業務は、国の年金に対する財政責任や管理責任を明確にするため、厚生労働相が公法人の理事長や監事を任命して事業計画を提出させるほか、年金特別会計も厚労省に移す。公法人は年金支給額の決定や年金記録の保管業務を担当、一般的な保険料徴収や年金相談などが民間委託される見通しだ。

■グリーンピアが廃墟になり、郵政民営化も実現してしまったのですから、間も無く、厚労省の上層部は「夕張現象」が起こるのではないでしょうか?諸悪の根元である「公益法人」自体は消滅しない上に、同じ縄張りの中に留まるのですから、お手盛りサークルのメンバーは慌てることもないでしょうが、正式に天下り頼母子講には入っていない役人は、「最も得する」タイミングを見計らって一斉に退職・転職するのではないでしょうか?社保庁自体には、もう何の旨味も無いのですからなあ。まだ、「再建」だの「国民の信頼を取り戻す」だのと、妙に頑張っている人は、脳の構造か裏の人脈を疑われるかも知れませんなあ。


地方組織は現在、都道府県ごとに設置されている社会保険事務局を全国10カ所程度のブロック機関に再編し、各地域の社会保険事務所は「年金事務所」に改める。公法人の職員採用にあたっては、旧社保庁職員がそのまま移行とはならないよう第三者機関が審査。公法人職員と業務委託先企業の社員は年金業務への信頼性を保つため「みなし公務員」として守秘義務を課す。公法人が年金関連事業に使った年金保険料や税金は、使途内訳をホームページなどで公開する。

■大変な数の看板を「年金事務所」に変える費用は、一体、何処から出すのでしょう?「第三者機関」は何を審査するのでしょう?民間の年金制度の専門家に劣るダメ職員がごろごろしているという噂も有りますし、手書きの帳簿をまともに正確に読めないし、パソコン操作も出来ない職員をきっちり馘首にしてしまうのでしょうか?きれいに駆逐してしまえば、少しは年金事務の効率が上がるでしょうが、その人達に転職先など無いでしょうなあ。いい加減な年金事務をやって大穴を開けた人達が、今度は生活保障を受ける手続きをするのでしょうか?今度は「ホームページ」を活用するそうですが、人名と生年月日も正確に入力できない職員が運営するのでしょうか?公開される「使途内容」は、やっぱり「5万円以下」は非公開なのでしょうか?


≪社保庁改革関連法案の骨子≫

一、年金業務を「日本年金機構」に引き継ぐ

一、公法人の業務は可能な限り民間委託

一、公法人の理事長は厚生労働相が任命。役職員は刑法などの罰則の適用では「みなし公務員」

一、役職員には退職後も含め守秘義務。業務を受託した者も同様。違反には罰則を設定

一、悪質な滞納者に対する徴収を国税庁に委任

一、クレジットカードでの保険料納付を可能とする
3月13日 産経新聞

■「公」の字が目立つ骨子ですなあ。それにしましても、「悪質な滞納者」を強調しているのに、「悪質な職員・OB」については何のお咎(とが)めも無いようです。「みなし公務員」になる前に、大量の「みなし不在者」を偽造した人達が処罰もされず、新しい年金機構に横滑りし、役人の悪巧みを利用して自分の選挙区にグリーンピアを建てるような大臣が、「理事長」を任命すると言うのですから、省ぐるみで無駄遣いした事をまったく反省していない証拠なのでしょうなあ。ムック本の中に『厚生省、更正せず!』というのが有りましたなあ。

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選挙の争点は決まった! 其の四

2007-05-23 23:13:30 | 政治
■今の日本で「最も法律を厳しく守る男」と言われる?松岡勝利農水相も驚くほど、厚生省は年金の積立金を好き放題に無駄遣いできる「法律」を先に作ってから、思う存分に食い散らしたのです。松岡大臣も、「何とか間元帥水」まで遡って明細を公表するような法律は絶対に作られないことを知っているから、今も「法律遵守」を力説しているわけですが、社保庁が無駄遣いした積立金を補填する法律など、絶対に作れません。

■民間企業なら「背任・横領」で厳しく罰せられて、ちゃんと「賠償・補填」の裁きを受けるのですが、お役人は大丈夫です。そんな命令が出るのはポケット・マネーから渋々払える程度の場合だけです。羨ましいやら、情けないやら……。


社会保険庁を10年1月に廃止し、非公務員型の「日本年金機構」に改組することを柱とした社保庁改革法案の説明と質疑が8日の衆院本会議であり、同法案の審議がスタートした。自民党は今国会の重要法案の一つに数え、会期内に成立させる意向なのに対し、民主党は国民の年金不信に火をつけて成立を阻止する構え。両党ともに7月の参院選をにらんでいる。04年の年金改革審議を通じ、民主党は社保庁職員の保険料無駄遣いなどを取り上げ、直後の参院選で議席を伸ばした。今回もその再現を狙う。

■もう手遅れの段階なのに、「改組」しかやれないのは困りますなあ。別に政治家が無能で悪辣だからではありません。年金システム自体が、行け行けドンドンの高度成長期に設計され、今はすっかり消えてしまった「4人家族」を主力とする若夫婦の大群を基盤にしたまま、「そのうちきっと人口は増加する」と言い続けるうちに、手の施しようが無くなってしまったのです。誰が悪い?と問われても、名前は特定できないでしょう。歴代のエリート官僚の名簿を手に入れて、ねちねちと罪状を考えるのは、ほんの少しばかりのストレス解消になるかも知れませんが、今は廃墟になっているグリーン・ピアの建設地が、ほとんど歴代厚生大臣の選挙区内に一致するという恐ろしい話もありますし、年金制度の問題に関してマスコミが警鐘を鳴らすのが遅過ぎたし、不徹底でした。

■最も早く、強く、家庭の主婦の耳元まで出向いて「年金破綻」を説いて回ったのは、70年代の生保レディだったと言われています。年金は必ずパンクするから、積み立てするなら保険会社の方が断然有利で「確実だ!」と信じ込ませる見事なマニュアルが開発され、地道なセールス研修が重ねられていたとか……。80年代に入る前から、年金制度の空洞化が始まっていたということです。当時の生保が打ち出した「予言」は的中しつつあるようですが、その生保が国よりも酷い「不払い」をやっていたのですから、そもそも「保険」と名がつく制度とは何だろう?と考えねばならない、哲学的な季節が来ているのかも知れませんなあ。

 
具体的には基礎年金番号がなく、宙に浮く年金加入記録が5000万件に達する問題などに焦点を当てる考え。社保庁を国税庁に統合する歳入庁構想に加え、記録の全調査を社保庁に義務付ける法案なども今国会に提出した。8日の質疑で同党の長妻昭氏は記録の不備を突き、「850万人の年金額が減る可能性がある」と指摘。社保庁業務のでたらめぶりを印象付ける戦術に出た。一方、自民党や官邸は公明党の慎重論を押し切り、社保庁改革法案を労働3法案より優先する方針を決めた。不祥事続きの庁職員の非公務員化を訴えることが参院選でのアピールにつながり、民主党支持の社保庁労組をたたけば同党をもけん制できると読んでのことだ。

■前記の「旧ソ連も羨む」奇怪な社会主義制度を作り上げ、時代の変化を無視して既得権として死守しているのが、記事にある「社保庁労組」です。でも、年金制度が崩壊に危機を迎えているのが、労働組合が夢見がちに「税金による社会主義」を実現したことが原因なのか?と考えると、ちょっと違うような気がします。55年体制の時代から、与野党対立の中で労働組合という組織が何をしたのか?これは日本の現代史を解く重要なファクターです。ですから、役人天国と組合天国とが重なる部分も存在しているのは確かです。でも、この二つを綺麗に切り分けて歴史を解きほぐすのは不可能なのではないでしょうか?


8日の答弁で安倍晋三首相は、加入記録の大部分は問題ないとの認識を示し、歳入庁構想を「公務員組織のまま温存する案だ」と切り捨てた。ただ「公務員たたき」を前面に出す戦略には、自民党内にも効果を疑問視する声が強い。若手議員の間には「年金制度の抜本改革を避ければ、かえって国民の不信を招く」との危機感もある。
 片や民主党の戦術も先行き不透明だ。加入記録の不備のうち社保庁に責任があり、給付に支障をきたすのは何件かといった肝心の点が不明なためで、仕掛けが不発に終わる可能性もある。
5月9日 毎日新聞

■何を言ってもやっても、悲しいほど印象が薄い安倍総理ですから、ほんの2週間前に「加入記録は大丈夫」と馬鹿な事を請合ってしまう大失態を演じているというのに、野党さえも追及していませんぞ!恥ずかしい姿でも、滑稽な背伸びも、何でも目立ってマスコミが報道せざるを得なくなる事ばかりをやり続けた小泉首相とは違う意味で、重大な失言をしても皆が聞いていないから、すぐに忘れてくれるというのも、安倍政権の寿命を延ばす原因にもなる得な体質かも知れませんなあ。


民主党は7日、政府の社会保険庁改革関連法案の対案となる「歳入庁設置法案」など3法案を衆院に提出した。歳入庁法案は、平成22年までに社保庁と国税庁を統廃合し、内閣府の外局として「歳入庁」を新設。国税庁の徴収ノウハウを活用し保険料納付率アップを目指すほか、一元化による徴収コスト削減も狙う。「国民年金法・厚生年金保険法改正案」は、福祉施設建設などへの保険料流用を防ぐ。「年金個人情報調査実施法案」は年金記録の全数調査を社保庁に義務付ける。
5月8日 産経新聞

■民主党案が万能の満点答案ではありませんが、少なくとも社保庁に与えるダメージは、自民党案よりはちょっとばかり大きいようです。

選挙の争点は決まった! 其の弐

2007-05-23 21:52:24 | 政治

社会保険庁が管理する厚生年金と国民年金(基礎年金)の記録のうち、支給開始年齢に達しているのに年金給付の対象となっていない80歳未満の保険料納付記録が約1900万件もあることが、社保庁の調べで明らかになった。厚生・国民年金では、本人が支給漏れに気づくなどして社保庁に年金額を訂正させた人数が、過去6年間で約22万人にのぼることが明らかになっている。今回の調査結果では、1人の受給者がいくつもの不明の記録の対象となっている可能性もあり、記録の件数より実際の支給漏れの人数は相当少ないと見られるものの、支給漏れにまだ気づかず、本来より年金額が少ない受給者が多数にのぼる可能性が強まった。
5月17日 読売新聞

■気休めのような言い訳が付け加えられていますが、「塵も積もれば山と成る」という諺を思い出しましょう。眩暈を起こすような莫大な「積立金」をゴミにしてしまったグリーン・ピアでさえ、その巨大な被害総額を加入者の数で割ったら、数万円レベルになってしまうのではないでしょうか?二束三文で売り払った後の維持管理はそれぞれの地方自治体が負担するのですから、赤字の補填には税金を注ぎ込むしか方法は無いのです。「年金と税金は別だ」などと言い放ったら、その政治家は次の選挙で議席を失いますぞ!


公的年金を一元管理する「基礎年金番号」に統合されていない年金加入記録約5000万件のうち、生年月日が間違っていたり記載そのものがないケースが、厚生、国民両年金を合わせ約30万件にのぼることが11日、厚生労働省が衆院厚生労働委員会に提出した資料で明らかになった。これとは別に、年金記録をコンピューター化した際の入力ミスも判明。社会保険庁のずさんな管理の実態が改めて浮き彫りになった。

■コンピュータ導入は案外と早く、80年代のことだそうです。でも、思い出してみましょう!まだワープロさえ新車並に高価だったのではありませんかな?徐々に手ごろな価格に落ち着く中で、やっとワープロは「印刷機」「清書機械」から徐々に「筆記用具」に変化して行ったのです。80年代半ば!?あの頃、キー・ボード操作に熟達した日本人がどれほど居たでしょう?さてさて、まだまだキー・ボード名人が珍しかった時代、つまり、パソコン自体がまだまだ容量が小さく、保存できるデータも表示できる漢字の種類も、今では想像も出来ないくらい少なかったのでした。下手をしたら、8ビットのCPUを搭載した機械を使っていた可能性さえ有りそうです。

■人材というソフトも不足、入力装置のハードも力不足、そんな時期にどうして社保庁はコンピュータ導入を断行したのでしょう?予算がたっぷりと余っていたからでしょうなあ。将来の支払いに使う年金積立金さえも、「予算」だと言い張れる法律をお手盛りで作り続けた役所ですからなあ。既に、導入当時から、毎年のように機械とソフトの入れ替えが必要だと言う事をよ~く知った上での断行だったのかも?膨大な数と量の機械や事務用品を納入する業者からは、一体、どんな見返りとプレゼントがあったのやら……。


生年月日の間違いは、厚生年金30万675件、国民年金1166件の計30万1841件。基礎年金番号に統合されず過去の年金記録と結びついていない5095万1103件(18年6月現在)を詳細に調査した結果、分かった。加入者本人が誤って記入したケースもあるとみられる。氏名や事業所名など他の項目でも相当数の誤りが存在するとみられるが、柳沢伯夫厚労相は同日の委員会で「手がかりのないものが皆無とは言い切れない」と述べ、基礎年金番号に統合できない年金加入記録がある可能性を認めた。

■80年代から90年代にかけては、出版関係だけでなく、すべての民間企業が事務処理用にパソコンを急速に導入した時期でしたなあ。各企業は大変なコストをかけて人材を育成し、「入力ミス」の発見と訂正の方法を必死で考えたものです。ところが、お役所という場所は奇妙なところで、逸早く、「テクノ・ストレス」の対策を熱心に研究したのだそうですなあ。機関銃のような入力テクニックを持っているわけでもない、五月雨式のタッチしか出来ない役立たずが、「腱鞘炎」と「眼精疲労」にならないように万全の対策が取られたと聞きましたぞ!小まめに休息を取り、昼休みはたっぷり、残業なんてトンでもない!休日は勿論、有給休暇も全部消化する。全盛期のソ連も羨む社会主義天国では、パソコンはまったく機能を発揮できなかったのです。当たり前だ!

選挙の争点は決まった! 其の壱

2007-05-23 21:07:43 | 政治
■5月22日の国会で、まだまだ迫力不足ながら、民主党がエース?の蓮ホウ議員を立てて「年金問題」、と言うより「社会保険庁」問題を追及したのですが、柳沢厚労相は官僚が見事に書き上げた「絶対に謝(誤)らない」作文を丸暗記して言い逃れたようです。その隣で、安倍総理は「不安を煽っては行けません」などと、大火災にコップ一杯の水を投げるような呆気に取られてしまうような答弁をしたそうですなあ。柳沢さんは、得意の「機械の比喩」でも披露してくれれば、官僚が必死で隠そうとしているカタストロフィが暴露されたでしょうが、最近は自慢の「例え話」は封印しているようです。何よりも大事な「選挙」の追い込み時期ですからなあ。
 
■「不安を煽るな」と、方向違いの慰めに走っている安倍総理にしても、国民の感心が『憲法改正』でもなければ、御伽噺みたいな『美しい日本』でもない事を本当はよく知っているでしょう。このまま応援演説の全国行脚になど出掛けたら、まだ記憶に生々しい純ちゃん人気の異様な風景と比べられて、人は集まらないわ、立ち止まる人もすぐに歩き出すわ、動員された連中も生あくびするやら……閑古鳥が鳴くような所も出て来るかも?奥さんの評判もだんだん怪しくなって来ているようですからなあ。

■ちょっと前なら、中国の軍事的脅威!を言い立てて、「憲法改正!」「集団的自衛権!」で少しは盛り上がったでしょうが、脅威は年金崩壊の方が切実で切迫していますぞ。オマケに、伝家の宝刀を抜いて、「悪辣な北朝鮮!」で支持率を一挙に上昇させようにも、被害者家族からも不信感を持たれているようですし、今の日本国民にとって「悪者」のナンバー1は「社会保険庁」ですからなあ。選挙協力しなければならない公明党にしても、「100年安心年金」とは絶対に言えない苦しい立場です。


政府・与党は23日、社会保険庁が年金納付記録を紛失するなどして、受け取る年金額が少なくなる「支給漏れ」について、現行法では「時効」となる5年超の過去分の支給漏れ年金も、国が補償できるようにする時効年金救済法案(仮称)を作成する方針を固めた。早ければ、今国会に議員立法で法案を提出する方向で調整している。安倍首相は23日の衆院予算委員会で、支給漏れ年金について「国民の不安を解消させるための工夫を行いながら、厚生労働省に努力させたい」と述べた。

■こういうのを「電光石火」と呼ぶのでしょうなあ。こんな事ならずっと前に改正できたのに……何故、今なのでしょう?国民をバカにしているとしか言いようが有りません。


救済法案は、〈1〉社保庁による納付記録の紛失など国の責任が明確な支給漏れについては、時効を適用せず全額補償する〈2〉受給者の申し立てがあれば、支給漏れの調査期間中は時効を停止する――などが骨格となる見通しだ。
5月23日 読売新聞

■「社保庁の責任が明確な」と聞けば、社保庁に厳罰を加えた上で解体し、無駄遣いした犯人を追及して法的にも処分をする!と文章が続くかと思えば、「時効を適用せず」とお上の温情を示す話になっています。その上、どこかでも加入者の「自己責任」を言い立てる決意は固く「申し立て」が大前提です。勿論、体が不自由な方が「申し立て」をしようと思ったら、電話一本で社保庁の係員が枕元まですっ飛んで来る、などと言うことは金輪際ありません。

■最近、学校の先生ばかりでなく、お巡りさんが暴行される事件が増えているとの報道が有りましたが、近い将来、社保庁の建物内や保険事務所の窓口などで「不法拳銃」が火を噴かないことを祈るばかりです。「福利厚生」を名目として購入した、ゴルフ用品や高級マッサージ椅子に続いて、今度は正真正銘の「健康(長生き)」を目的とする防弾チョッキ・大盾・防弾ヘルメットの三点セットを購入するのでしょうか?今のところは悪い冗談でしかないのですが……。

異文化理解は寛容に 其の壱

2007-05-22 15:07:26 | 外交・情勢(アジア)
■数日前に取り上げたチャイナの「新幹線」に関する、ちょっとした異変に関する話を産経新聞が改めて取り上げています。でも、面白おかしく揶揄しているだけのように印象が強くて感心しません。チャイナの実情を考えると報道されている事象には、大きな問題は有りません。もっと重大な問題は書かれていないようですなあ。

日本やフランスなど各国の技術を導入したのに「国産」と宣伝している中国版新幹線が早くもピンチだ。4月18日から各地で時速200キロ以上の高速運転が始まったが、乗客による車内の備品持ち去りが後を絶たない。来年の北京五輪に向け、どうすればマナーが向上するのか中国指導部も頭が痛い。

■一般的なマナーを「精神文明」と言うので、全国津々浦々にポスターやペンキ文字やら横断幕などでこの四文字が溢れ返っているのですが、誰も読まない。この産経新聞の記事でも、題名に「ぼろぼろ」という書き方をしているのですが、取り合えずはちゃんと時速200キロで新型列車が走っているのは祝うべきことです。たとえ、それがどれほど行儀が悪かろうと、泥棒が横行していようと……。


「社会公民の恥。中国人のイメージに悪影響を与える。五輪に向けこうした非文明的行動は注意しなくてはならない」。国営新華社通信(電子版)は乗客のマナーに疑問を投げかけ、処罰が有効策と指摘している。新華社によると、河南省鄭州市の検査場で検査員約100人は車内を点検して嘆いた。手洗い場のセンサー式蛇口、手洗いや排水の備品が消え、飲みかけのジュースが座席に放置されていた。

■誠に失礼ながら、この鄭州市の検査員100名が、何処かの備品を一度も盗んだことがないのか?飲みかけ食べかけの物を人の迷惑考えずに放置したり投棄したことがなかったか?そこがチャイナの「文明的」問題なのです。


中国各紙によると、信じられないほど備品が持ち去られている。トイレットペーパーに緊急脱出用のハンマー、便座の温度調節用つまみ、トイレットペーパーホルダーの軸など。センサー式蛇口のように持ち去っても何に使うのか想像もつかないものも含まれている。

■「センサー式」であろうと手動式であろうと、蛇口である限りは金属製でしょう?それならば売り払って幾許(いくばく)かの現金を手に入れる方法は有るでしょう。日本の各地で門扉から始まって側溝の蓋、とうとう公園の遊具まで、金属製品が次々に盗まれているのと理屈は同じです。(日本の窃盗犯の多くは日本人…)それに加えて珍しい物、或いは簡単に取り外せる物は取り合えず奪ってみる。それは数千年間に亘って培われた貧困に対する唯一の方法だったはずです。


座席の物入れ網が破かれたり、トイレで喫煙したり、通風孔へのごみ投入、緊急用ボタンへのいたずら、トイレの水を流さない-など悪質なマナー違反も目につく。

■最後に出ている「水を流さない」というのは、「悪質なマナー違反」ではない可能性が高いでしょう。トイレ自体が無い地域、瓶のような物を埋めて囲いさえ無いトイレもたくさん有りますし、腰までの高さの仕切りだけで、長い溝を共有するスタイルの公衆トイレは無数にあります。北京市内だった汲み取り式のトイレがあちこちに有ります。確かに新しい高層建築の中には水洗トイレが設置されてはいます。しかし、広大な地域の全体が水洗式になるにはまだまだ時間が掛かります。日本だって水洗化率がまだ100%ではありませんぞ。

■ゴミに対する意識は、ちょっと理解に苦しむことが多い国ですが、盗賊や強盗、何より掠奪専門の兵隊に2千年以上も苦しめられたチャイナの住宅には、頑強な壁や丈夫な扉、そしてしつこいくらいの錠前が付いているもので、その外はまったくの別世界と思われているようです。自分の住居から一歩外に出たら、そこがどれほど汚れて散らかっていても、まったく気にしない人が無数に居るというわけです。


さらには大声を出したり床にたんを吐くなど傍若無人に振る舞う、足を前の座席に投げ出して足のにおいを発散させるなど周囲の迷惑を省みない行動もあるという。

■それでも、改革開放政策によって海外から情報と人がたくさん入って来たので、随分と行儀の悪い伝統は改善されつつあるように見えます。日本の列車内にも、相当に「傍若無人」に振舞う人が皆無というわけではありません。先日も新幹線の中で信じられない強姦事件が起きたばかりです。


日本の新幹線車両をベースにしたCRH2など高速列車の愛称は「和諧(わかい=調和)」号。名前は立派だが、車内の様子は公共精神の欠如を物語っている。
5月21日 産経新聞

■北京五輪という喫緊の大テーマがあるので政府は大騒ぎをして見せて教育効果を上げようとしているのではないでしょうか?特に大会開催中に北京市内にどっと流れ込む危険人物に対する警戒を強めているメッセージにもなるでしょうし、海外からの見物客とのトラブルを予防する効果を狙っているかも知れませんなあ。五輪大会から万博に掛けて、どれほど「精神文明」が改善されるのかは大いに興味の有るところです。それには何よりも貧困と格差の大問題を解決する必要が有るのですが……。

五輪後のチベットは? 其の参

2007-05-22 09:39:11 | チベットもの
「新段階中国国土資源大調査」の実施過程で、大量の石油・天然ガス資源が埋蔵されていることが判明したチベット高原羌塘盆地は、青蔵(青海・チベット)高原海相盆地石油探査で最も見通しの明るい地区となり、わが国の石油・天然ガス工業の新たな発展地域となる可能性が高くなった。国土資源部による「新段階中国国土資源大調査」は、1999年に組織、実施を開始しており、調査開始後の5年間に石油・天然ガス資源戦略調査面で一連の段階的成果を収めている。

■何だか、今のイラクで大騒ぎになっている「クルド人の油田」を連想する「わが国の石油・天然ガス」という言葉です。青海省は北京政府から見上げれば、大変な高地なのですが、チベット自治区から見ると「低地」なのです。標高2000メートルや3000メートルは、チベットでは低い場所。


この十数年、わが国の地質学者はチベット羌塘盆地に対する大規模な全方位的探査、評価、研究業務を行い、盆地の構造の進展変化、地層層理、石油・天然ガス埋蔵条件に対する認識を深め、盆地石
油・天然ガス資源の潜在力を評価している。 地質学者はすでに羌塘盆地南部で約100kmの古いオイル埋蔵帯を発見しており、この事実は青蔵高原ではかつて大規模に石油・天然ガス生成され、集中したことを物語っている。

■何処かの国から資金と技術を引っ張って来て、深々とパイプを打ち込んだら蘭州や成都にパイプ・ラインが伸びて行くのでしょうなあ。青海省にはレア・メタルや金鉱があちこちに有って、まさに地下資源の宝庫なのです。チベット語が通じる広大な地域を切り刻んで、青海省やら四川省やら甘粛省やら、それらしい名前を付けられると、チベット人とは何の関係も無い場所のような印象が強くなります。「わが国の地質学者」だけでなく、さまざまな目的で漢民族が山に上って来ます。地下資源を大規模に開発するようになれば、それはますます加速するでしょう。アラブの産油国のように鉱区の利用料金などはまったく払わないで済むのですから、草原だろうと畑だろうと何処でも掘り放題です。


専門家によると、チベットの石油・天然ガス資源戦略調査は大きな進展を見せており、わが国エネルギー戦略予備地域を確保できる可能性が大きく、国家経済建設の安定した持続可能な発展に対する保障を強力にサポートするため、さらなるチベット石油・天然ガス資源の研究、調査、探査、開発業務を推し進めることが肝要であると言われている。
2004年10月29日 チャイナ・ネット

■ちょっと古いニュースですが、この開発計画は何の変更もなく進められています。鳴り物入りで開通した「青海鉄道」も、土地の収用や営業運転による大小の被害が出ていますが、地下資源の開発となれば一本の鉄道路線とは比べ物にならない影響が出て来るでしょうなあ。鉄道の開通に併行して道路網の整備も進んでいるので、人と物の「一方的な」流れはどんどん増えます。あまり目出度いことにはならないような気がする今日この頃。


2007年5月19日、山東省済南市に自称「山東省接待用たばこ」が登場し、議論を呼んでいる。東方早報が報じた。このタバコは山東将軍煙草グループが製造した高級タバコで、1カートン500元(約7500円)の高値で販売されている。問題はこのタバコの図柄に同省の公文書が堂々と印刷されており、あたかも省政府の「御用達」に見える点だ。広告のポスターにもでかでかと「接待用」の文字が踊り、さらにはご丁寧に公印まで押された同省委員会発行の「この商品を接待用タバコと認める」文書まで印刷されている。政府の名を借りた販売促進は宣伝効果も絶大かと思われるが、逆に役人とメーカーの不適切な関係を臭わす結果となっている。

■この種の「賄賂たばこ」に関しても、拙著に書きました。漱石の『坊っちゃん』に、旅館に泊まって支払う「茶代」を翻訳する苦労話で、「心づけ」と「賄賂」とはどう違うのか?という実にややこしい事を説明した体験談です。奥地の小さな町のタバコ屋にさえ、この記事に書かれている高級たばこの2倍の値段の商品が置かれていて、それは決して人目を避けて隠されているのではなく、言うなれば店の「上座」に当たるような目立つ場所に、専用のディスプレー方法で高級感を出しているのでした。値段票は無いのに、現地の人達は何故かその値段を知っているのが無気味でしたなあ。


ここ数年、国の地方産業保護政策により地方政府の公的活動では極力、地元商品を使ったり、地元レストランやホテルを利用するよう指導されている。この動きを逆手に取ったのが抜け目のない経営者たちで、政府とのつながりができるが早いか「政府御用達」の看板を掲げ、今ではどこを見ても「御用達」で溢れかえる。役人側は、「御用達」に何の基準もないため規制のしようがないと開き直るが、実のところメーカーとの関係を明らかにできない事情があるに違いないと憶測を呼ぶばかりだ
5月21日 Record China

■「御用達」の偽物が氾濫しているという乱暴な話ですが、「文字の国」を自負している人達は、字の形にはうるさくても、書かれている内容には無頓着です。そんなものを本気にする奴が悪い!ということのようです。高級タバコの話にしても、普通の愛煙家では絶対に買えない値段なのに、否、だからこそ買わねばならない人が居るというのが実態で、バカ高い値段は商品の品質とは何の関係も無い、というのも怖いところです。賄賂タバコは封も切られずに、貨幣のようにあちこち移動している可能性も高いのですが、政府の高官が惜しげもなく吸っている現場を目撃したりすると、自分で買ったのかな?と思ってしまうのは間抜けな日本人だけで、現地の人には分かりきっている話のようです。こういう国にビジネス・チャンスが有る!などと笛や太鼓で囃し立てるのは、あまり感心しませんなあ。ご用心、ご用心。

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チベット語になった『坊っちゃん』書評や関連記事

五輪後のチベットは? 其の弐

2007-05-22 09:38:42 | チベットもの
■サキャ寺は決して文化的な価値が低い御寺ではありません。吐蕃王朝が滅んだ後、チベット仏教の基礎を固めた時期に、非常に重要な役目を果たしたサキャ・パンディタという大学僧を生んだことで有名ですし、その甥っ子がパクパという僧です。叔父に負けない立派な学僧になって元朝の皇帝フビライの精神的な教師「帝師」になって、有名なパクパ文字を考案した人が出ています。モンゴルを征服者ではなく、中華五千年の歴代皇帝に取り込もうとする動きが目に付く昨今なので、モンゴルとチベットの両方を中華世界に呑み込むのに、サキャ寺は最適だ!と思い付いた頭の良い人が居るのかも知れません。

■現在の北京市街とその中心に立つ故宮は、元朝のフビライが基礎を造り、それを横取りした明王朝が改装し、またそれを受け継いだ女真族の清王朝が終わる頃には、随分と荒れ果てていたそうです。辛亥革命によって皇帝一族が追放されてからは空き家になり、歴史的な建造物や残っていた宝物などは国民の財産となりまして、今でも国の内外からやって来る観光客を集めているというわけです。でも価値の高い故宮の宝物は蒋介石の命令で南京から台湾へと移って、原爆が落ちても大丈夫!とも言われる防空壕型博物館に収蔵されているのですが……。建物自体が文化遺産で、数多い部屋は博物館の展示室になっているのですが、歩き回っているうちに、すべてが終わった過去の遺跡なんだとしみじみと理解できる施設でもあります。ラサのポタラ宮も、北京の故宮とよく似た雰囲気を醸し出しているとか……。


5月9日、チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世(71)が9日、数年以内の引退を考えていることを明らかにした。ラマ氏が、当地のスミス・カレッジで学生や教員など約5000人を前に行った講演で語った。ラマ氏は、自身は現在半隠居状態だとした上で、「数年以内には完全に隠居するつもりだ」と述べた。ラマ氏は、1959年以降インド北部のダラムサラを拠点にチベット亡命政府の樹立を目指す運動を続けており、1989年にはノーベル平和賞に輝いた。
5月10日 ロイター

■国連と並んでノーベル賞が大好きな日本人なのに、ダライ・ラマ法王と接見した首相は居ませんし、天皇陛下もお会いになったことがありません。国の要人が何処の誰に会おうと、他国にとやかく言われる筋合いではないはずなのですが、日本政府は誰に遠慮しているのか、頑なに接触を拒んでいます。ノーベル賞仲間の大江健三郎さんには是非会って欲しいものですなあ。

■チベット仏教の高僧は、死に際してその慈悲の心と徳を残して「中有」の時期を過ごし、ほぼ49日後に転生することになっています。今の14世が逝去されれば、次は15世が表われるはずなのですが、14世猊下は以前から、自分が最後のダライ・ラマでも構わない、と発言しているようです。この制度が封建的で悪しき伝統を持っているから、などという北京政府が昔繰り広げた宣伝とは別の問題が有るからです。チベット仏教(ゲルク派)の宗教上の指導者は、ダライ・ラマとパンチェン・ラマのお二人ということになっているのですが、何故か今のパンチェン・ラマは二人存在して居ます。どちらかが偽物なのですが……。拙著に書いた学校は、先代パンチェン・ラマが開いたものでした。

■おそらく、ダライ・ラマ法王は、現状のまま御自分の寿命が尽きた場合、ダライ・ラマまで二人になってしまう恐れがあると心配なさっていると想像できます。教義の上から解釈すれば、14代と15代の間に何十年かの空白が生じても問題は無いと思われます。勘違いしている人も居るようですが、歴代ダライ・ラマの間にはまったく血縁関係は有りません。日本とは違って?戒律を厳しく守るチベット仏教ゲルク派は、飲酒喫煙は勿論、女性との接触は厳しく禁じられているので僧侶は全員、完全な独身者です。ですから、肉親間の連続する地位の継承などとはまったく違うのです。転生せずに御経に出て来る「三十三天」の何処かで待機して、時期を見て降臨しても大丈夫だと思うのですが……。

五輪後のチベットは? 其の壱

2007-05-22 09:38:09 | チベットもの
■四国松山にチベット人生徒と一緒にお邪魔してから、早いもので2箇月が過ぎました。拙著『チベット語になった「坊っちゃん」』を出版したのを御縁に、いろいろな人達との出会いが有りましたなあ。日本では「中国奥地」の一言で括られる広大な西部地区と呼ばれる多民族地域を舞台とする、言語と宗教文化に関するドキュメンタリーですから、ちょっと読み辛いと仰る読者もいらっしゃるのも事実です。でも、今の中国、今のチベット人社会がどうなっているのか?と興味を持っている方には喜んで頂けているようです。
 
■以前は、底抜けに明るい意味で「アジアの時代」などと言われ、それに類した名前の本も随分たくさん出版されたものですが、ソ連が崩壊して中央アジアに独立国が誕生したり、アジアの代表的な宗教であるイスラム教に関係する大きな変化が起こったり、そして、神秘のベールに包まれているのを良いことに、底抜けの阿諛追従(あゆついしょう)の提灯記事を誰かさんが書き散らしていた朝鮮民主主義人民共和国(NHKでも北朝鮮と略称するようになりました)の実情が、日本人拉致犯罪という最も不幸な形で暴露されてから、アジアの広さと多様性を多くの日本人が再認識、或いは「発見」したようです。
 
■今も一つの国家として存在している多民族国家の中華人民共和国に対しても、過去からの行き掛かりを引き摺っている人がマスコミ関係や大学に残っているせいか、どうも混乱したイメージが整理もされずに行き交っているようです。最近の話題は、偽物ディズニー・ランドに端を発したチャイナ名物の偽物に関するトピックスで、その前はもっぱらチベット民族自治区のラサまで開通した「青海鉄道」が取り上げられましたなあ。これからは環境問題と食の安全に関する厳しい報道が増えて行くでしょうが、偽物商品にしろ水不足にしろ、大気や水の汚染にしろ、昨日や今日に始まった事ではありません。

■「著しい経済発展を続ける」という枕詞が付いた報道が続いていましたが、いよいよ北京五輪大会が近付いて来ると、ちょっと待てよ、という気分が強くなって来た模様です。貿易額の大きさを理由として「密接な関係」が強調されますが、それに関しても、何処かで見たことがある土地と株のバブルの顕著な現象が気になり始めた人達も増えて、一昔前の「薔薇色の未来」とは別の日中関係が語られ始めてもいるようです。まあ、以前からチャイナに対する警戒を呼び掛ける声は有ったのですが……。


西蔵(チベット)自治区の布達拉宮(ポタラ宮)と羅布林カ(ノルブリンカ)、薩迦(サキャ)寺の三大重点文化財の保護・補修工事は順調に進んでおり、ポタラ宮の古建築・雪城の補修工事も間もなく竣工し、今年のメーデー休暇(5月1~7日)に一般公開が可能となる。入場券の価格は確定していない。 春からはチベット旅行の人気が高まっていく。ポタラ宮では今のところ、主要部分の土台補強と、紅宮、白宮など17の古建築の補修工事はほぼ終了している。湖心宮や新宮など6エリアの古建築と塀の補修も終了し、壁画の保護作業も終わっている。
「人民網日本語版」2007年4月19日

■「歴史的遺物」の取り扱いだけは、優秀な人材も多い上に中央政府が民族融和と観光開発に熱心ですから、何処かの国の文化庁みたいに、貴重な遺産をカビだらけにして台無しにしたりはしないのがチャイナです。人民が戦乱の中を逃げ回わり、飢餓と掠奪に泣いている時でも、時の権力者は歴代皇帝が蓄積した故宮の宝物を大切に輸送するお国柄ですからなあ。記事中に出て来る「三大重要文化財」というのは、なかなか面白いライン・ナップになっていますなあ。ポタラ宮)は、居住者を失って完全なる空き家のままですが、言わずと知れた歴代ダライ・ラマ法王の住居・執務政庁・修行場所などに加えて先代法王の霊廟が祀られている、チベット人にとっては掛け替えの無い国家の中心です。(正確には、でした)ノルブ・リンカ(夏宮)は同じ市内にある別荘みたいなもので、1959年のチベット動乱が始まったのはこの門前でしたなあ。

■元の所有者がインドで健在というのも不思議な話で、住んでいる人を追い出しておいて、勝手に観光用の補修工事を進めているというのも、まことに変な話です。御本尊を失った寺院や、御神体が消えた神社の建物に、どれほどの価値があるのでしょう?北京市内の故宮みたいにしてしまおう、という計画が透けて見えますなあ。「三大重要文化財」の二つは分かるのですが、三番目にサキャ寺が入る理由が分かりません。ポタラ宮とノルブ・リンカが有るラサ市内には、大招寺を筆頭に市内を見下ろす周囲の山にはセラ寺などの大寺院が有るのに、どうしてラサからずっと離れたサキャ(灰色の土地の意)の御寺が選ばれたのでしょう?

■それに、ラサ市の郊外にはガンデン寺という歴代ダライ・ラマにとっては偉大なるお師匠様にあたるツォンカ・パ大師が開いたチベット最大の総合仏教大学が有りますし、その外にも歴史的に重要な遺跡がごろごろしています。サキャ寺が加えられた理由を推測すれば、解放戦争と文化大革命の大破壊の時期にも、あまり被害を受けていない事と、反乱と弾圧の騒動が起こらなかった場所だからかも知れません。ガンデン寺は、核戦争が終わった世界を映画化するには最適のような、壮大な廃墟になっていますからなあ。

絶対に真似しては行けません!

2007-05-22 07:49:32 | マスメディア
■新聞の国際面を熟読しても、米国の表面と中東の遠景ぐらいは追えますが、ぐっと寄って根掘り葉掘り細かい事象を見つけ出してくれるのは、ネット上のニュースに限ります。でも、速報性や見た目の印象に引き摺られて面白ければ何でも良い、というわけには行きません。怪しげな痩(や)せ薬や育毛剤などが話題になったことにもなった中華五千年のチャイナ商売に騙されて、日本でも被害が出ているのを忘れたような不思議な「話題」も垂れ流されるので注意が必要ですぞ!

カメラマンの目の前で、カエルを生きたままのみ込む蒋老人。これが健康の秘訣なのだとか。40年間こうやってます、ゴックン。

■こんなリードの記事を見つけて苦笑したのですが、アクセス状況を見たら、案外と読みに行っている人が多いので驚いた次第。ここで注意しなければならない点は、「40年間」というところです。今年が2007年なのですから、40年を引くとどうなるか?1967年という年号が出てきますね?これは文化大革命が燎原の火のように広がり始めた時期でもあり、「大躍進」の大失敗でチャイナ全土に深刻な飢餓が広がって手の施しようがなかった時期でもあります。毛沢東が自己批判を求められ、ウンコだのオナラだの、非常に下品な言葉を並べて開き直ったのは、1959年7月の廬山会議でした。1958年から1962年の間に5000万人が餓死したとさえ言われています。

■国家主席を辞任した毛沢東は、政権を渡した劉少奇・小平に対する残忍な巻き返しを画策し初めて、1966年5月に『プロレタリア大革命についての決定16か条』が発表されたのでした。もう、こうなったら紅衛兵が暴れ周り全土がテロと内戦の大混乱!1976年に終息宣言が出されるまで、生き残った人達にとっては思い出したくも無い地獄絵図が何処にでも見られたのでした。こういう基本的な「年号」を抑えないまま、妙な「健康法」を面白がっては行けません!


2007年5月19日、江西省のある村で、一人のおじいさんがカエルを1匹、生きたまま口に放り込み、そのままゴックンと飲み込むという、衝撃的な場面をキャッチした。おじいさんの名前は、蒋木生(ジアン・ムーション)さん。市政府の常務委員で、今年66歳。蒋さんは、26歳のときからカエルやネズミを生きたまま食べるようになったという。

■「今年66歳」で「26歳のときから」との証言が40年前の「1967年」という年号の裏付けになります。「生きたまま食べる」のは、文革の地獄を生き延びるために、人間らしい食糧も燃料も無い環境に耐えるために身に付けた恐ろしい習慣だったはずです。今でも弟分の北朝鮮の政治犯収容所では「常食」となっているそうですが、兄貴分の旧ソ連でも木の皮や泥などを食べた記録が残っています。勿論、人の肉などは高級食材だったそうで……。


カエルは日光浴中に捕ったもの、ネズミは生まれて間もないのがお好みだそう。この「珍味」を食べるようになって以来、蒋さんは病気ひとつしないとても丈夫な体になったそうだ。たまに風邪をひくことがあっても1日ほどでケロッと治ってしまうのだとか。蒋さんいわく、「もうすぐ70になるが、毎日元気に働けるし、食事も若い人に負けないくらい、たくさん食べる。カエルやネズミは栄養補給だな」。世の中は広い。いろんな健康法があるものだ。
5月21日 Record China

■この爺様の身分は「市政府の常務委員」と、さり気無く紹介されている点も見過ごしては行けません。じわじわと毛沢東に対する個人崇拝が復活しているという噂が出ているのが気になるところで、文化大革命の「見直しの見直し」でも始まると、このまま経済格差が拡大し続けると、地方の貧困地域では食糧・燃料・水の不足が深刻になるでしょう。その時には何を食べれば良いか?沿岸部ではグルメ三昧の成金が増える一方で、地方では文革の地獄を生き延びた方法が復活するかも?

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専守防衛と集団的自衛 其の参

2007-05-21 10:29:42 | 社会問題・事件

北朝鮮が先月25日の朝鮮人民軍創建75周年の軍事パレードで公開した新型中距離ミサイル「ムスダン」について、射程が3200キロメートル以上との推測が出ている。米国防総省ミサイル防衛局(MDA)のサンダース副局長補が17日、……北朝鮮は2000年代初めから新ミサイル開発に拍車をかけており、ムスダンは北朝鮮のミサイル開発能力が向上した証拠だとした。まだベールに覆われている北朝鮮の新型ミサイルの射程に関し、米高官が公式に言及するのはこれが初めてだ。

■突如として発表されたこの情報にどれほどの信憑性が有るのか、少し慎重に考えておいた方が良いかもしれません。これが第二の「大量破壊兵器」となって、北朝鮮各施設への限定的空爆を始める口実に利用される可能性が有るからです。核兵器の闇の拡散を阻止するための口実に、ミサイルの高性能化が使えるのか?という常識的な質問を受け付けない米国ですからなあ。勿論、本当の脅威は電力も食糧も不足して苦しんでいる北朝鮮などではなく、朝鮮半島で何事かが起こったら西太平洋に進出して米艦隊を牽制し、台湾侵攻を始めるチャイナが脅威だと考えているでしょう。


これに先立ち、ワシントンの軍事消息筋は聯合ニュースの電話取材に対し、「北朝鮮が公開した新型ミサイルは旧ソ連が潜水艦発射用に開発したSSN6モデルを改良したもので、射程2500~4000キロメートルに達する」と話している。一方、北朝鮮がイランでこのミサイルの発射実験を実施したかについて、サンダース副局長補は「北朝鮮が代わりの国を通じミサイル実験を何度も行ったという観測が多いが、ムスダンミサイルについては具体的な情報がない」と答えた。
5月18日 YONHAP NEWS

■在韓米軍を無力化するだけなら、38度線沿いに配備している長距離榴弾砲と中距離ミサイル群だけで充分だと言われていますから、沖縄とグアムの米軍基地を射程内に収める信頼性と命中率がぐっと向上した新型ミサイルは、米中間の西太平洋における軍事バランスを微妙に変えることになりそうです。数発のミサイルが飛び米国が撃ち落とし損なった分が軍事基地を破壊、米軍が報復攻撃に動き出せば、危機の拡大を防ぐという予防的な理由でロシアとチャイナが北朝鮮の海岸に上陸しようと動き、米軍の主力が北上したのを見届けると同時に海峡を越えてミサイルが打ち込まれ、人民解放軍が台湾を包囲……。既に、ミサイルの雨を降らせたところで軍事的な決着など望めない事は米軍が自ら世界中に証明してしまっていますから、米軍の動きを止める部隊と台湾の政変を求める圧力部隊とは別行動を取り、反軍反民的手法で台湾を奪取……。

■五輪大会前に、そんな物騒な事が起これば平和の祭典は吹き飛びますから、実際の軍事行動は起こさないとも思われますが、北朝鮮を咬ませ犬に仕立てて予告通りに台湾を奪う気構えを示すだけで、台湾国内は動揺するでしょう。そこが狙い目かも?新型ミサイルの情報を公にすることで、米国は日本政府に対する圧力を強めることが出来ますし、同時に北朝鮮に対して正確なメッセージも送れるという一石二鳥を狙っているとも考えられますなあ。


久間章生防衛相は18日の衆院安全保障委員会で、日本がある国から武力攻撃を受けて防衛出動を発令し、その国が日本に続いて米国に向け弾道ミサイルを発射した場合は、「個別的自衛権の行使」としてそのミサイルを迎撃できるとの認識を示した。久間氏の発言は「従来の政府解釈を発展させたもの」(防衛省筋)だ。民主党の前原誠司前代表が「(ある国が)日本を先に攻撃する。日本が防衛出動を発令して、米国に撃たれたミサイルを迎撃するのは集団的自衛権ではないか」と質問。これに対し久間氏は、「日本を援護してくれる米国がつぶれたら日本も危ない。個別的自衛権の延長だ」と答弁した。 
5月18日 時事通信

■自分の軽率な発言に加えてイージス艦の機密漏洩に関して「謝罪」と「反省」の訪米をした久間さんは、みっちりと「学習」させられてとも報じられていますから、安倍首相の訪米土産の「集団的自衛権」の研究会とも連携しての発言でしょう。万が一、米軍による先制攻撃が、「拉致問題を最も確実に解決する手段だ」という理由も加えて実施された場合、それだけを看板にして首相に就任した安倍総理としては躊躇して見せる理由が有りません。「北朝鮮は米軍に任せて、日本は台湾周辺に向かえ!」などと注文されたらどうするのでしょう?

■米国から北朝鮮の新型ミサイルの情報が流れ出した翌日に、こんな久間発言が飛び出すというのは、なかなか手際の良いシナリオですなあ。元ヤクザの乱射に対しては、発砲しない日本が北朝鮮から飛ぶミサイルは撃ち落すそうです。ついでに、米国を狙った分も撃ち落すと言うのなら、同じ理屈で長久手の現場でも警察内の「集団的自衛」作戦が実施されても良い理屈なのですが、国内の警察活動と国家として動く軍事行動とは、まったく違う理屈で動いているということなのでしょうか?

■『憲法』論議にしろ、防衛問題にしろ、平和とリベラレルを売り物にして来たマスコミの中には、警察活動と軍事行動とを重ねて、武器を携帯している凶悪犯の人権を過剰に擁護する傾向が有りましたが、今回の籠城事件では警察側の犠牲が大き過ぎたからか、能天気な犯人擁護の発言は出て来ないようです。犯罪の凶暴化や銃器の氾濫の責任は、警察の厳しい動きを何やかやと責めて縛って得意になっていたマスコミに有るとも言えそうです。かつては中曽根元総理が「風見鶏」と揶揄されたものですが、マスコミが振り回す尤もらしい主張の方に、その名前は付け替えた方が良さそうです。テレビも新聞も、机上の空論・畳の上の水練では間に合わなくなった現実の変化に、最近は自信を喪失しているようにも見えます。一夜にして主張を引っくり返すようなヘマはしないでしょうが、視聴者や読者に気付かれないように、時間を掛けて徐々に向きを変えることは充分に考えられますから、ご用心、ご用心。

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専守防衛と集団的自衛 其の弐

2007-05-21 09:34:22 | 社会問題・事件

……大林容疑者は籠城後、取り囲む警察官に、「近づくと倒れている警察官を殺す」などと威嚇を続けていた。しかし、人質の森三智子さん(50)が籠城から約23時間後の18日午後2時50分ごろ、自力で脱出してからは、徐々に態度を軟化させ、投降の意思を示し始めたという。
5月21日 読売新聞

■銃撃で傷付いて動けない者を「殺す!」と言ったのですから、その段階で「射殺」が計画されて準備が始まっていなければ変です。その準備が整って、人質の元妻が自力で脱出して来たのですから、その身柄を確保して安全な場所に移動させた瞬間に、「作戦開始」とならなければウソでしょう。誰かが躊躇したのでしょうが、その人物は1人で林警部(殉職二階級特進)の死を背負わねばなりません。犠牲者が1人だったのは、決して優柔不断のネゴシエーションを続けた成果ではないでしょう。それは単なる偶然、一種の奇跡です。そんなものを警察首脳部が頼りにしているとしたら、日本の治安はめちゃくちゃになります。

■今のところ、どんな展開になったら発砲することになっていたのか、一切のコメントが出ていないので、あと何人の犠牲者が出たら?などという恐ろしくも情けない問いに答えは得られません。安全を保つのに奇跡を恃(たの)まねばならないのなら、警察などさっさと解散して御札や呪(まじな)いグッズを全国民に配布すべきでしょう。そんな事では何も解決しないからこそ、巨大な警察機構が存在しているはずです!

■現場に派遣された警察官に皆さんは、アホな指揮官のお蔭で危うく犬死させられそうになったのですから、これからの士気はがた落ちになる心配があります。


愛知県警愛知署の特捜本部は20日、大林久人容疑者(50)が立てこもった自宅別棟などから8発の実弾を発見したと発表した。押収した拳銃の弾倉にあった6発と発射した8発を合わせ、大林容疑者は計22発の実弾を隠し持っていた。県警は拳銃の入手ルートの特定を急ぐ。また、大林容疑者を殺人未遂と公務執行妨害の疑いで名古屋地検に送検した。……実弾は自宅別棟から4発、玄関先で3発、大林容疑者のズボンのポケットから1発が見つかった。すでに押収された実弾と同じ9ミリ弾だった。県警はまた、大林容疑者が投降の際、手に持っていたビニール袋には、タオルと音楽CD、家族の写真も入っていたとしている。
5月20日 読売新聞

■やっぱり、「弾は100発有る!」というのはハッタリでした。22発しか無かったのですから、4倍以上もサバを読んでいたわけです。弾丸の値段も高いでしょうからなあ。但し、現場の隊員を指揮している人物は、犯人が「100発」と言っているのですから、「ウソかも?」などと考えては行けません。「100発以上」を乱射する可能性を前提にして作戦指導をしれくれないと困ります。後になって「ウソでした」と犯人が言ったにしても、そんな寝言を聞く必要など有りません!

■「顔で飯を食う」と言われるヤクザさん達は、必死で虚勢を張って相手を威圧し威嚇する技術に磨きを掛けるものだ、と喝破したのは『マルタイの女』を監督した伊丹十三氏でした。今回の大林容疑者のように、立て籠もりを初めて直ぐに「小心者」と見破られるようでは三流でしょう。全国的に「元暴力団員」と報道されてしまったので、間も無く週刊誌などが「出身組織」の名前を特定してしまうでしょう。現役の親分さんや組員にとってはひどい営業妨害?になるかも知れません。

■「神の水」と一緒に持っていたのが、清潔好きで音楽と家族をこよなく愛する元ヤクザの姿では締まらない話です。まあ、残酷な独裁者の多くも、芸術と家族に愛情を注ぐものですが……。かの国の将軍様も映画芸術が大好きで音楽にも造形が深いとか…。


県警愛知署の特捜本部は、籠城していた自宅別棟などを捜索し、回転式拳銃1丁と実弾を押収。入手ルートや動機をさらに追及する。……駆け付けた愛知署・長久手交番の木本明史巡査部長(54)を撃ち、籠城したが、県警の説得に、「近づいたら、倒れている警察官を殺す」などと言って、木本巡査部長に危害を加えるかのように脅していたという。銃撃した理由については、「警察官が敷地内に勝手に入ってきたので撃った」と供述していることがわかった。
5月20日 読売新聞

■まるで米国人のような発言ですなあ。ならば、ますます警察側もそれに合わせて米国流で対応しないとエライことになります。御近所の皆さんが犠牲にならずにこれまで過ごせたのは、本当に御同慶の至りであります。警察官でも容赦しないのですから、一般人が騒音などの苦情を言いに行っていたら……。ああ、恐ろしい。こういう感覚を持っている相手に、本当に「専守防衛」が適応されるべきなのか?銃器や元暴力団員の動向を執拗に追跡してくれる警察を、何となく期待していた国民は、落胆すると共に「自己防衛」を真剣に考え始めるかも知れませんし、何らかの「集団的自衛」方法も検討せざるを得ないかも?でも、警察が頼りにならないからと言って、別の暴力団に用心棒を頼んだりすると、骨までしゃぶられるでしょうし、警備会社と契約しても、日本の警備会社は「非武装」ですから対抗手段としては力不足です。

専守防衛と集団的自衛 其の壱

2007-05-21 09:33:50 | 社会問題・事件
■平成の「長久手の戦い」は、何を怖れて心配しているのか分からない上層部が撃たれても撃たない日本独特の「専守防衛」に拘(こだわ)ったこと、そして、愛知県警・警視庁・2種類の特殊部隊の混成「集団」が連携して作戦行動が取れなかったことが問題でしょう。これはもっともっと大きな問題と密接な連関を考えることが出来そうです。銃刀法違反、迷惑条例違反、脅迫罪、傷害罪、殺人未遂、殺人……ヤクザさんがやるべき事は全部やって、それも白昼の住宅地のど真ん中、大学や中学校も近く、アパートや民家が密集している場所での話。日本の隣にも、悪い事なら何でもやって平気な顔をしている国が存在しているのですから、そんな国との「国交正常化」を考える時の損得勘定は、今回の馬鹿馬鹿しい事件が参考になるような気がします。すき放題のやられ放題にやられても、全てを水に流して許すのか?外務省はそのつもりで、莫大な「追い銭」も払う予定だったようですが……。

■逮捕された大林容疑者の周辺情報が続々と明らかになっています。最初から、物騒な「家族会議」を人里離れた山小屋を会場にして開いてくれて居れば、300メートル圏内の日常生活を破壊する必要も有りませんでした。テレビは無いけど鉄砲は有るというユニークな家庭で、神の水を飲みながら高級外車を取っ替え引っ換え乗り回していたとの話も有るようです。稼業の不動産業が不振だったとも報道されましたから、受信料を節約するために律儀にテレビを取り外したのか?水道料金を払わないように何処かから汲んで来た湧き水を飲んでいたのか?一体、何処から車を買い替えたり、鉄砲と実弾を買う資金が出ていたのか?非常に興味のあるところです。

■御近所では深夜でも早朝でも、怒鳴り声を聴かされていたので、「きっと悪い薬を使っているのだろう」と思って近寄らなかったという話も出ています。単純に結び付ければ、暴力団を破門されてからも覚醒剤を売り捌いて脱税したカネで凌いでいたと考えれば、納得も出来ます。警察の地道な捜査と取調べに俟つしかありませんが……。それは暴力・密輸・麻薬・脱税を続けている国を相手にする場合にも参考になる情報になりそうですからなあ。


愛知県長久手町の住宅街で元暴力団組員の大林久人容疑者(50)が籠城し、拳銃を発砲して林一歩(かずほ)警部(23)、木本明史巡査部長(54)ら4人を死傷させた事件で、大林容疑者は人質の元妻が脱出した後、強気だった態度を急変し、「撃たないでくれ」などと命ごいする110番通報を計4回にわたってしていたことが20日、わかった。……

■「窮鳥懐に入れば猟師も殺さず」と申しますから、ついさっきまで世界一凶暴な男を演じていた鉄砲を乱射していた元ヤクザさんでも、恥も外聞も(もともと無い人のようですが…)なく、情けない声を出したら、許してやらねばならないのが、人としての情というものなのでしょう。喧嘩とイジメの違いはここに有ります。喧嘩は「参った」の後で仲直りに到りますが、イジメは窮鳥を絞め殺すような行為。ヤクザであろうと堅気(かたぎ)であろうと、卑怯な奴にはほとほと手を焼きますから、通常は誰も相手にしないように工夫します。大林容疑者は、社会から相手にされず、暴力団でも相手にされず、子供と妻からも相手にされず、頼りは水に宿る「神様」だったようです。どうして自分が誰にも相手にされないのか?とは一度も考えたことがない人なのかも知れませんなあ。

■たとえ仲間が傷付き5時間も苦痛に呻(うめ)いていても、別の仲間が殺害されても、「許してくれ!助けてくれぇ」と言われたら、警察としては「勘弁できん!」バッキューン、というわけには行きません。でも、「4回」も命乞いの110番通報をしていたのなら、「何を今更!この野郎!」と3回までは無視したのかも?だんだん悪質な冗談になってしまいますが、そのまま100回でも200回でも「命乞い」させて、それを全部録音して後で公表したら、その情けなさに暴力団に行こうと思う若者の数人が思い止まるかも知れませんし、銃を隠し持っている人の中から内緒で処分する人が出て来るかも知れませんぞ。でも、これも人権と個人情報保護法で無理でしょうなあ。

筑紫さんの留守中に 其の伍

2007-05-20 11:49:32 | マスメディア
■ついでに、筑紫さんのニュースでは取り上げない話題を検証しましょう。

中国軍が、台湾有事をにらんで米空母攻撃用の対艦弾道ミサイルの開発に着手するとともに、ロシアから超音速長距離爆撃機も導入し、対米軍戦術を修正していることが15日、明らかになった。米軍や自衛隊の迎撃兵器の射程外からの攻撃に力点を置くことで、台湾有事に際して米空母機動艦隊来援を阻止する目的とみられる。日台軍事筋が明らかにした。

■日本には世界一とも言われる高性能の「対艦ミサイル」が有ります。しかし、「対艦弾道ミサイル」は一発も有りません。「弾道ミサイル」は飛距離も地球レベルですし、核弾頭を搭載するのが前提で設計されています。太平洋を抑える米国の第7艦隊の中央に浮かぶ航空母艦を狙って核を撃ち込めば、瞬時に艦隊が消滅します。勿論、「集団的自衛権」が認められていようといまいと、「後方支援」に付いている日本の自衛官も一緒に消滅するが、強烈な熱線と放射能を大量に浴びることになるでしょう。「超音速長距離爆撃機」にしても、日本には「長距離」と名の付く飛行機は有りませんから、超音速・超高空で侵入されたら手も足も出ないでしょうなあ。迎撃ミサイルが届けばよいのですが……。


……中国軍が改良に着手したのは、射程1500~2500キロの準中距離弾道ミサイルである「東風21」。動く目標を赤外線で探知する装置を取り付けることで、米空母攻撃も可能となる。東風21は核弾頭の搭載が可能で、100基近くが既に配備されている。今年1月、衛星の攻撃実験に使用されたのは東風21の派生型で、改良が進んでいる。また、早ければ年内にロシアから10~20機の超音速長距離爆撃機バックファイアー(Tu-22M)が売却またはライセンス生産契約される見通しだ。同爆撃機は、戦闘行動半径約4000キロで、射程500キロのAS-4空対艦ミサイルを3基まで搭載できる。米本土も爆撃可能なため、第2次戦略兵器制限交渉(SALTⅡ)で、保有を認める代わりに空中給油装置撤去を条件としたほど、米側が恐れた兵器だ。

■ソ連は米国との軍拡競争に敗れて自壊したけれど、自分達は絶対にその轍を踏まない決意の中国人民解放軍ですが、旧ソ連しかお手本が無いので、核・大陸間弾道弾・宇宙ロケットと歪(いびつ)に活動範囲を広げて来ました。人工衛星を撃ち落せるのに、大陸間弾道弾の迎撃はできない。巨大な陸軍を持っているが台湾島に上陸部隊を送れない。原子力潜水艦を保有しているのに米軍が東太平洋に設けている壁を突破できない。海軍を持っているのに海戦はできない。まして、日米がどんどん軍事的連携を強めて行けば、台湾周辺・朝鮮半島沿岸・南沙諸島海域での活動が不可能になります。日本が単独で対処しなければならない尖閣諸島周辺なら、好き勝手なことも出来るのですが……。


米軍は対艦弾道ミサイルやAS-4への迎撃手段を有しているが、万全ではない。機動艦隊の防御兵器であるイージス・システムも「対艦弾道ミサイルやAS-4を大量に同時発射されれば、すべてを迎撃できる可能性は大きく低下する」(日台軍事筋)からだ。被弾の恐れがあれば機動艦隊も容易に台湾海峡に近づけない。一方、自衛隊保有の対空ミサイルも、Tu-22Mは射程外となる可能性が極めて高い。海上自衛隊のイージス艦も中国大陸に近づけば被害を受ける可能性があり、防衛省は新たな迎撃手段の開発・配備を含む戦術の再構築を迫られそうだ。
5月16日 産経新聞

■その切り札になる「イージス艦」の心臓部と頭脳の中身を、スケベ映像と一緒にコピーして閲覧していた困った海上自衛隊の隊員が摘発され、それも違法に入国した怪しげなチャイニーズ妻と同居していたのですから、米国は眩暈を起こしているに違い有りません。


…中国人妻をもつ海上自衛隊員は300人いると言われるが……

『週刊文春』5月17日号に気になる事が書かれています。33歳の二等海曹の実名入りで掲載された深層スクープ「イージス艦機密と共に洩れた無修正ワイセツ画像」という記事です。どうやら同い年の中国人妻は単なる不法入国者で諜報活動とは無縁らしいのですが、田舎の農家で嫁不足が深刻で、地方自治体が後押しして国際結婚が盛んだというのは衆知の事実ですが、自衛官の世界でも同じことが起こっているとは!これも『平和憲法』を持ち上げるあまり、自衛官に対する謂れ無き差別や反感をばらまいた誰かさん達の業績なのでしょうなあ。

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チベット語になった『坊っちゃん』書評や関連記事

筑紫さんの留守中に 其の四

2007-05-20 11:49:01 | マスメディア

「…少なくとも中国だけでも5億世帯にテレビがあり、DVDでこの映画を観る人達の数も多いだろう。中国中央テレビ(CCTV)はすでにこの映画の国内での放映権を買ってくれた。また、諸外国には合計6500万人もの中国系住民がいて、きっとこの映画のDVDを買ったり、インターネットで鑑賞してくれるはずだてん。さらには私達にとってこの映画を突破口として今後のビジネスでの中国市場への参入が容易になるだろう」……

■これが謎の半分です。「リベラル」などはまったく関係が無いのです。共産党の情報部門に組み込まれている中央テレビと結び付いたという事は、AOLグループに対して北京政府が特別待遇を認めたことを意味します。米国のインターネット屋が、トンデモ本と承知の上で、映画化したら大喜びする客(国)が存在しているというだけの理由でカネを出したのです。では、残る謎の半分は何なのか?話はもう多くの日本人が忘れてしまった小さなデモ報道から始まります。


……「南京事件を描いたハリウッド映画がクリント・イーストウッド監督、メリル・ストリープ主演で製作される」というデマが広範囲に流され……2006年1月、このデマが読売新聞が上海発で報道して、日本国内に最初に伝わり、ざわめきを起こした。

■このデマ報道の後始末もしないまま、読売新聞のナベツネさんが朝日新聞と「歴史的和解」のパフォーマンスをやったのは記憶に新しいところです。一体、何があったのでしょう?古森氏はこのデマ情報に触れて直ぐにイーストウッドのマネージャーに電話して「まったくのウソ」という証言を得ています。このデマは拙ブログでも馬鹿馬鹿しい話と取り上げましたし、イーストウッドが作ったのは南京ではなく『硫黄島』2部作だったのは世界中の映画ファンが知っています。デマというものは、尻尾をつかまれない限りは言った方が勝ちなのですが、古森氏は尻尾をつかみます。


…デマのそもそもの出所はアメリカに組織をはりめぐらせる中国系の政治活動組織『第二次大戦アジア史保存連盟(ALPHA)』だったことが判明した。……ALPHAの本部はロスアンジェルスだとされている。この組織と姉妹のような共同歩調で活動する同種の団体に『南京虐殺賠償請求連合(RNRC)』というのが存在する。本部をサンフランシスコ……2003年10月にサンフランシスコで「天皇ヒロヒトの反人道的犯罪に対する青年会議と模擬裁判」という集いを主催し、日本非難の気勢をあげた。……もう一つの姉妹団体は『中日戦争真実保存同盟(APTSJW)』である。この団体もサンフランシスコ地区に本部を置き、……ALPHA、RNRC、APTSJWといったアメリカで活動する団体がみな中国当局と一体に近い『世界抗日戦争史実維護連合会』という国際規模の組織の傘下に置かれている……中国の国営の新華社通信とリンクされた中国語ウェブサイトを有し、中国国内の上海などで国際会議を開いている。……

■まさか、NHKのETV特集で放送した「天皇死刑裁判ごっこ」も、こんな謀略組織の日本支部が既に活動を始めていることを証明しているのではないでしょうな?安倍さんや中川さんが「圧力」を加えたの加えないの、そんな詰まらない事よりも、米国で活発なロビー活動とプロパガンダ謀略を展開する反日的な組織と連動するイベントを、朝日新聞出身の人物が主催し、皆様のNHKが公共電波に乗せていた!という事実の方が遥かに重大です。この番組の「再放送」をずっと熱望しているのですが、まだ実現してませんなあ。

■古森氏のレポートには、ALPHAが運営するウェブサイト上に、米連邦議会下院に提出された、いわゆる「慰安婦」非難決議案やその審議の詳報を掲載し、決議案の提出者のマイク・ホンダ議員をヒーロー扱いする書き込みが盛大に踊っている事が出ています。勿論、マイク・ホンダ氏は日系3世の下院議員で、その選挙区はカリフォルニア!日系議員という誤解を招き易い表現と、テレビから流れる容貌から、何だか日本人のような親近感を持つ人も居るやに聞きますが、ホンダ議員は立派な米国人ですし、他の国の議員と同様に自分の選挙区での人気取りのためなら何でもする人です。

■筑紫さんが休んでいた番組の中でも言及されていましたが、映画『レイプ・オブ・南京』はサンダンス映画祭の受賞作品です。しかし、この映画祭は有名俳優のロバート・レッドフォードが、米国の独立系中小プロダクションが製作している映画にも光を当てよう!という思いで始めたものです。まあ、夕張映画祭よりは大規模でしょうが、アカデミー賞やカンヌ映画祭などとはまったく違うものです。『レイプ~』はドキュメンタリー部門に出品され、800本以上の応募作品の中で「編集賞」を受けたというのが事実です。それを承知で筑紫学級の生徒は「米国の○○映画祭で受賞」という無知な日本人の耳に残りそうな表現をしていたのが気になりましたなあ。

■最近は、「環境問題」に力点を置いていた筑紫先生でしたが、「スロー・ライフ」「エネルギー問題」など、深夜のテレビ放送を止めれば相当に効果が上がるに決まっている問題を取り上げる時も、得意の「沖縄」「憲法9条」「自衛隊」を取り上げる時も、どうしても「私は何でも知っている。常に正しい」という態度で、上から教えを垂れようとする印象が強いので、好きな人には大人気、そうでもない人には「もういいよ」と言われてしまいます。

筑紫さんの留守中に 其の参

2007-05-20 11:48:08 | マスメディア
南京事件については中国当局が事件70周年の今年、「虐殺糾弾」の記念行事を多数、計画しているほか、米国でも事件についてのドキュメンタリー映画が複数、制作されている。そうした動きのなかで北村教授の英語の書は日本側の主張の数少ない英文資料として議論の正常化に寄与することが期待されている。なお同教授は同書の内容について4月2日、東京の外国特派員協会で講演をする予定だという。
3月11日 産経新聞

■「70周年」に向かって何が起こっているのか?「ドキュメンタリー映画が複数」作られている裏で誰が動いているのか?日本側からはやっと1冊の英語で書かれた本が発表されたのに比べて、「30万人虐殺」派の動きは大規模で早いのです。そういう怪しげな動きに関して、筑紫学級の生徒達は一切コメントをしませんでしたし、何よりも「こちらが原作の『レイプ・オブ・ナンキン』という本です」と手に持って数秒間のアップ映像!どんな本なのか、に関しても一言の説明も無かったのは、本当に驚きましたなあ。ここから『文藝春秋』4月号の記事を検討します。


…「2年ほど前、自分のヨットでカリブ海を航海中、『ザ・レイプ・オブ・南京』の著者アイリス・チャン女史の死亡記事をやや古い記事で読み、その本に興味を抱いて読了した。その書の内容に引き込まれ、映画を作ることを思いついた。……だがその物語はまさ一般には伝えられていないと思った」……

■筆者の古森義久氏は特別な解説を加えていない箇所ですが、月刊『文藝春秋』4月号に掲載された『「ザ・レイプ・オブ・南京」映画の罠』というレポートの核心は、この発言だと思われます。これは昨年7月下旬の「ワシントン・ポスト」に掲載されたAOL副会長のテッド・レオンシスさんのインタヴュー記事に出ているものだそうです。


…いま50歳のレオンシス氏自身はAOLを発展させた実績…娯楽やスポーツ分野の経営…北米プロアイスホッケーの人気チーム「ワシントン・キャピタルズ」などのオーナー…リベラル志向のビジネスマンとしてこの種の政治メッセージのにじむ芸能、芸術の活動にも関わってきた……216頁

■インターネット・ビジネス界では有名な成功者ですから、「自分のヨットでカリブ海」を遊び回れる大金持ちなのです。先に引用した核心と判定した発言の核心は、「やや古い記事」の一言です!古森氏は自他共に『レイプ・オブ~』という本に関して最も多く取材し記事にしたと認める人で、原作者のアイリス・チャン女史とも接触しています。


…チャン氏とは少人数の記者会見で顔を合わせ、何回も質疑応答を交わしたこともあった。…29歳のいわゆるフリーのライターだった。…落ち着きのない早口で熱気をこめて話し続けるのだが、私が、「日本の若者たちは南京虐殺を誰も知らない、などというあなたの記述は明らかに事実と異なるが」と、やや詰問調に質問すると、言葉少なにうつむいて、ほとんどなにも答えなかったのが意外だった。……216頁

■このチャン女史が2004年11月に「謎の自殺」を遂げているという重大な事実に関しても、筑紫学級では言及しては行けない「校則」でもあるらしく、まったく触れていませんでしたなあ。本のアップ画面が流れていた無言の数秒間に、一言する時間的余裕は有ったのですから、意図的な沈黙であったことは間違いなし!1997年に出版されると同時に、物書きとしては羨ましいこと夥(おびただ)しいことに、あれよあれよと思う間に10万部、20万部とベスト・セラー街道を驀進(ばくしん)したものです。どうして20代の女性フリー・ライター、それも日本に来たこともなく、戦争の歴史に関する充分な知識が有るかどうかも怪しい人物が発表した本が、そんなに売れまくったのか?その謎解きは後回し。

■まもなく『ザ・レイプ・オブ・南京』には事実のまちがいや歪曲が多数あることがアメリカ側の学者やジャーナリストによって指摘されるようになった。……


■古森氏自身が著名な学者にインタヴューして記録した発言が列挙されているのですが、錚々たるメンバーの名前と的を射たコメントを読むと、俄(にわ)かベストセラー作家になって一夜にして有名人として祭り上げられると同時に、名前しか知らない高名な専門家からの集中砲火を浴びたチャン女史の心中を想像すると、何だか可哀想になって来ます。要は、彼女自身の強い意志と使命感によって書き上げられたドキュメンタリーではなかったという悲劇だったとしか思われないわけです。

■さて、トンデモ映画の製作費を出したレオンシス氏の発言に戻ります。彼がチャン女史の自殺を知ったのは2005年です。それが年の始めだったにしても、自殺から数ヶ月以上経過している勘定です。自家用ヨット(中型客船みたいなもの)でカリブ海を遊び歩く大金持ちが、どうして「やや古い新聞」を積み込んでいたのか?自分が乗船前に探し出して持ち込んだのか、誰かが特別な条件を付けて送って来た資料の中に含まれていたのか?リベラルなビジネスマンという場合、注意すべきは「リベラル」と「ビジネス」が相反する局面になったら一瞬の迷いもなく「ビジネス」を選ぶということです。