旅限無(りょげむ)

歴史・外交・政治・書評・日記・映画

バブルと呼ばないで! 其の参

2005-11-30 21:53:54 | 日記・雑学
其の弐の続き

■速い・安い・うまい、これで売った牛丼が、BSE問題で食べられなくなったのと、何だか似たような話です。高級品だった牛肉が、どうして食費を削るサラリーマンの主食になったのか?単に貿易交渉で関税が引き下げられただけでもなく、円高の効果だけでもなかったのでした。草食動物の牛に、肉骨粉を食べさせてドーピング効果で肥育していたのでしたなあ。

■マンションにしたところで、棟割長屋から狭苦しい文化住宅、それから公営住宅やニュータウン、運が良ければ統一規格の土地つき分譲住宅という流れとは別に、都心に聳える高級マンションは特殊な人達が暮らす建物でした。これがいつの間にか、ローンを組んで庶民でも買えないことはない商品になったのですが、バブル時代ならば余計なオマケまで付けて値段を上げても売れたのとは反対に、バブル崩壊後の長期間にわたったデフレの時代には、必要不可欠な物まで取り外して「速い・安い・危ない」名前だけはマンションだのホテルだのという建物が出現する可能性は高かったのです。放っておいても崩れるほど危険な建物を売りつけて、万一バレても「詐欺罪」ですし、巨大地震が襲って来れば、一緒に倒壊した古い建物と混ざった瓦礫の山になるか、火災で灰になるから大丈夫、と思う馬鹿者が出て来るのも予想は出来たでしょう。少なくとも、最終的な強度検査を民営化した当事者達は……。

■このニュースの続報を聴くたびに、米国で最高の売り上げを記録した伝説の自動車セールスマンの話を思い出します。彼は、いつもニコニコしていて、お客様のどんな無理な注文にも応じてしまう術を心得ていたのだそうです。彼が扱ったのは最高級車で、相手は皆大金持ち。どこの世界でも大金持ちは必ずケチですから、自動車の性能など危機もしないで、超有名ブランドの車を値切り倒して買おうとするのだそうです。「あと1000ドル負けろ!」「はい、はい」「それなら更に1000ドル負けられるだろう?」「はい、勿論でございます」「あははは、それならあと500ドル……オマケして200ドル……最後にもう100ドル負けろ」という業突く張りに、そのセールスマンは笑顔で応対しているのですが、途中で突然顔を強張らせるのだそうです。


「お客様!あと100ドル値引きしますと、エンジンも外さねばならなくなりますが、それでも宜しいのでしょうか?走りませんよ。まあ、その前にハンドルも座席も無くなっているんですがね……」

■値引きをすれば、自動車から必要な部品が一つずつ取り外されるという理屈です。こうしてこのセールスマンは、正価よりちょっぴり安い値段で最高級車を売ってしまうのだそうです。お客は値段の合理性を納得しているのですから、買い換える時にもこのセールスマンが呼ばれるというわけです。今回の不動産業界の連中は、自動車で言ったら、タイヤを一本外してウインカーやライトの電球を抜き取り、ワイパーブレードのゴムを取り外し、車体全体のネジ類を三本に一本は抜き取って売り飛ばしたようなものでしょう。

■それでも「自動車」だと言い張って立派なパンフレットを見せられて、外されたタイヤが死角になるような所から実物を見せられた客がうっかり買ってくれればシメタもの。安全に走れない自動車は、自動車ではないですし、いつ倒壊するか分からない住宅は住宅ではないでしょう。でも、寿司ネタやスーパーの鮮魚コーナーには、名前を偽った別の魚が出されているそうですから、日本は孔子様の教えを思い出して「名を正す」ところから再出発しなければならないようですなあ。

■姉歯さんのトボケた表情から判断すると、きっともっと悪質な業者がうようよ棲息していそうですから、バブル再来を喜んでいる銀行が出資している「不動産ファンド」が抱えている物件にも飛び火するでしょう。おそらく、米国のファンドはCIAのOBみたいなスタッフを投入して調べ上げているでしょうから、ヤバイ物件は早々に転売して、数十年は稼げる物件だけを管理しているのではないでしょうか?後からのこのこ付いて来た連中にはババをつかませるのが「情報戦争」の常識ですからなあ。国土交通省やら地方自治体の責任問題から、いよいよ金融庁の責任問題に飛び火するかも知れませんぞ!こんな貧乏ったらしい原因で、二度目の不動産バブルがはじけたら、日本はショックで立ち直れないのではないでしょうか?

■モンゴルやチベットの遊牧民のように、自分の手でテントやゲルを建てたり畳んだりしないと、安心して眠れないような国になるのでしょうか?『三匹の子豚』を日本の子供に読んで聞かせる時は、最後のオチを変えておかないとマズイかも知れませんなあ。国と地方自治体と業者が大急ぎで賠償責任を分け合って、大きな地震が来る前に、災難に遭ってしまった住民の皆さんが安全な住居に「無料で」移れることを祈るばかりです。しかし、この問題は、「失われた十年」とそれに続くデフレ時代という長い期間にわたって続いた犯罪から生じているようですから、どこまで被害が広まるのか、まったく予想が付きませんなあ。

おしまい
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バブルと呼ばないで! 其の弐

2005-11-30 21:52:45 | 日記・雑学
其の壱の続き

■政府による護送船団が崩壊してしまったから、今度は勝者となった米国企業の真似をしようと言うのは、芸の無い話です。


ファンドには、金融機関の資金も流れ込む。私募ファンドの調達資金に占める出資と融資の比率は3対7程度で、銀行借り入れの比率が高い。……国内銀行の不動産への新規貸出額は04年度だけで約8兆2千億円にのぼる。……大手信託銀行の5行の不動産関連収益も、80年代半ばの水準まで膨らんだ。04年度は前年度の約1.5倍の1319億円で、86年度の1440億円に迫る。05年度上期は前年同期を上回る700億円超の見込み。過去最高を更新する勢いだ。

■本当に「勢い」の良い書きっぷりです。バブル期は売買手数料を稼いだけれど、今回は不動産管理も請負って儲けが増えたのだそうです。そもそも、どうしてこんなに不動産投資が過熱し始めたのかと言うと、こんなカラクリが有るそうです。


企業の不良債権処理やリストラで、低価格の不動産が出回ったのも追い風になった。家賃を払えないテナントを多く抱えた物件でも、資金力があるファンドが買って外装や空調などの設備を改装し、優良テナントを集めれば、高い配当利回りを実現できたからだ。

■この記事の末尾が「できたからだ」という過去形になっている事を見落としては行けませんぞ!日本の証券会社や銀行が次々と破綻して、何とか税金を恵んで貰って生き残った銀行は、金融庁の指導の下で帳簿をごまかしながら血も涙も無い「貸し渋り」「貸し剥がし」をしていた時期に、米国のハゲタカが「第二の敗戦」で焼け野原となった日本の不動産業界を飛び回って、次々と優良物件を買い叩いては転売する商売でボロ儲けした時期が有りました。米国のハゲタカたちはある程度は満腹して、次はチャイナだと飛び去ったようです。バブルを膨らませて破裂寸前に売り逃げて、破綻と倒産の嵐が去ったら舞い戻り、ただ同然の値段であれこれ買い叩いては転売するつもりなのでしょう。そのまたオコボレを日本の銀行が漁りに行くのかも知れませんが、その前に今回のバブルで前回の二の舞を演じない用心が肝腎でしょうなあ。


国土交通省などの調査では、ファンドの購入対象となる家賃収入が見込める不動産は60兆円~70兆円で、実際にファンドなどが運用している物件は約20兆円。

■あのバブルの時にも旧通産省あたりが、東京は間も無く世界の金融センターになって世界中から人間が押し寄せるから、土地も建物も不足するぞ!という「調査結果」を発表して新聞がそれを丸写しして書き立てたのでしたなあ。裏では旧大蔵省の意向が動いていたのでしょうが、あのヨタ話の検証記事も反省文も新聞には載っていません。それでも、そのホラ話に乗って暴力団まで参加する「地上げ」騒動を起こしながらにょきにょきと建ったビルは、旧建設省が今話題の「構造計算書」を点検していたようですから、入居者が変わる悲劇だけで済んだようなものの、98年に法律が改正されて民間調査会社が建物の強度を保証する制度に変わっているのですから、ちょっと心配になりますなあ。

■メディアで顔と名前が売れに売れてしまって、日本一有名な一級建築士になってしまった姉歯さんは、どうやら業界では引っ張りだこの状態だったという事実が判明しつつありますぞ!11月20日の朝日新聞から抜粋して引用しますと、


耐震強度が偽りだったとされる首都圏の建物21物件の大半に、東京と熊本の特定の業者2社が建築主や設計・施工業者として関与していた。両社から設計業務を請け負った複数の会社が「姉歯建築設計事務所を使うよう建築主から頼まれた」と東京都の調査に証言している。

■注文主と請負業者とが指名していたのが、姉歯さんだけではなく、今回真っ赤な顔して「適正な仕事」をアッピールしていた検査会社も同じ穴の狢(むじな)だった可能性まで出て来たようです。ここに出て来る業者というのは、東京の「ヒューザー」と熊本の「木村建設」のことですが、木村建設が姉歯さんを愛用した理由が出ています。


都に対して姉歯を使った理由を「仕事が速いから」と説明。同社東京支店の社員によると、以前から同社で施工する工事の構造設計はすべて姉歯に依頼してきたという。

■「仕事が速い」というのは、姉歯さんの設計作業が速いという意味なのか、姉歯さんに頼むと、工事全体の「仕事が速い」のか、どちらの意味なのかが分かりませんなあ。わざと朝日新聞の記者はこんな書き方をしたのでしょうか?

其の参に続く

バブルと呼ばないで! 其の壱

2005-11-30 21:50:10 | 日記・雑学
■『なにわ金融道』などの厳しい漫画を描いて世間を騒がせた青木雄二さんが、生前、「土地バブルは必ず再来する」と予言していました。それが現実化しているようです。前回のバブル騒動で痛い目に遭った人達は、銀行に対する信用を回復したというわけではなく、「投資ファンド」という得体の知れないワン・クッションを通して投資金融機関にお金を預ける手法が好まれているようです。結果は同じではないかと思うのですが、「夢を再び、今度は失敗しない」と信じ始めている人が増えているのかも知れませんなあ。

■日本は、神の世時代からこの平地の少ない列島のままなので、農業をするにも工業を興すにも、とにかく「土地が足りない」のです。中山間地を上手に利用するライフ・スタイルが開発されれば良いのですが、平地の多い欧米を手本にして近代化を進めている限り、一定期間を置いて土地が暴騰しては値崩れを起こす繰り返しです。そもそも、自分の判断能力で投資先を見付ける気が無い日本の金融機関は、政府が保証してくれる投資先か土地にしか金を貸さないのですから、何度火傷をしても懲りないのでしょうなあ。前回の大火傷を治すのに莫大な税金を恵んで貰ったのも忘れて、またまた土地投機に向い始めているらしいので、ご用心、ご用心。

■今のところは立地条件の良いオフィス・ビルやマンションなどの建物を扱っているようですが、土地そのものに投資する悪い癖を出すのは時間の問題ではないでしょうか?既に「株の売買で大儲けした」というホラ話が週刊誌に掲載され始めたのですから、悪夢が蘇るのは時間の問題でしょうなあ。借金して投資するリスクを素人が負えるはずはないのは、パチンコ資金をサラ金から借りた人が良く知っています。株もパチンコも余り変わらない博打行為なので、余剰資金だけを使っていれば良いものを、ついつい、「元手が大きいと儲けも大きい」という恐ろしい原理に誘惑されて、借金した資金で博打を打ってしまうもののようですなあ。


投資ファンドを主役に活況の不動産売買では、先行した外資系に加え、国内勢でも巨大ファンドが登場してきた。大手信託銀行の不動産関連収益も約20年ぶりの高水準に達している。

■11月21日の朝日新聞が不動産投資の特集記事を掲載しました。朝日新聞の分析では、日本の超低金利が不動産投資を支えているというのですが、その金融政策が変更される危険に警鐘を鳴らしているつもりのようです。でも、書き方が腰砕けではあっても、なつかしいバブル時代の「マネー講座」だの「財テク指南」だのを連日掲載していた時代を彷彿とさせる文言もちらほらと混じり始めていますぞ。羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹くのも、そろそろ飽きて来た頃でしょうから、間も無く行け行けドンドンの記事が現われるかも知れません。


国内最大級の不動産ファンドを運営するダヴィンチ・アドバイザーズは新たな投資法人を設立、10月に不動産投資信託J-REITを初めて上場させた。複数の私募ファンドで運用してきた首都圏のオフィスビル22棟を新法人に組み込み、総資産規模は795億円にのぼる。同社は来年初めにも総額1兆円の新ファンドを立ち上げ、1棟100億円以上の大型物件購入に乗り出す方針だ。……「競争相手は米大手証券のゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーぐらい」(同社)という。

■随分と景気の良い話ですが、所詮は「投資」です。投げた物が戻って来る保証は有りません。それに、米大手証券に惨敗したのが「第二の敗戦」「マネー敗戦」と呼ばれるバブル崩壊の情けない物語だったのではないでしょうか?既にチャイナさえも草刈場にしてガメツク稼ぎまわっているような肉食型の米国金融と、今度はちゃんと互角に戦えると言い切れるような学習と成長を、日本の金融会社は済ませたのでしょうか?何だか、米国企業の食べ残しをあわてて漁り始めているだけのようにも思えますなあ。投資話というのは、誰もが知った時には旨みが無くなっているものなのではないでしょうか?

其の弐に続く

好対照の事件 其の五

2005-11-29 00:14:34 | 社会問題・事件
其の四の続き

■大学の名前や企業の名前がちょっと大きければ、個人の資質や能力や倫理性など誰も問題にしませんからなあ。卒業証書一枚有れば、在学中に何を学んだかは問われない。医師免許を取れば、誰でも「名医」だと思い込む。大企業の社員ならば……。この建築士がフテブテしい態度を取れるのは、日本全体に「責任」を丸投げしているからでしょう。押し寄せるマスコミにしたところで、数々の不祥事を起こしているではないか?と記者やカメラを舐めているようにも見えますなあ。


5年前に施行された住宅品質確保促進法によって、構造の主要な部分に10年間の保証が義務づけられ、購入者が売り主に損害賠償を求めやすくなった。とはいえ、売り主が倒産したりすれば、損害の回復は容易ではない。

■これも朝日新聞の社説です。低価格で全戸完売した企業は既に姿を消しているのではないでしょうか?10年間も商売し続けるつもりがない計画倒産の手法を取っている可能性も有りますぞ。訴える「権利」など何の価値も無いことになりそうです。

■成田空港で談合を繰り返して「税金」を食い物にしていたらしい企業が防衛施設庁でも談合をしていた事が露見したようです。


大手電機メーカーの平均落札率が99.2%にのぼることがわかった。防衛施設庁が18日公表した。特に03年度に落札された2件については、いずれも予定価格と同額(落札率100%)だった。

■これは入札の態をなしていません!防衛計画通りの人員がそろった事が無い自衛隊は、常に兵器や設備に莫大な予算を与えられています。奇怪な手当てが横行しているという報道も有りましたが、「戦争」が起きない事になっている日本国の軍隊は、戦死の心配は無いかわりに退職後の「天下り先」の心配が有ります。長年、憲法違反だの税金泥棒だのに、どこかの政党が焚き付けて国民が口真似した悪口を言われ続けた自衛隊は、仲間同士の助け合い精神を鍛えてきたのでしょう。「落札率100%」というのは、既に発注元と受注側が完全に一体化しているということです。つまり、自衛隊員とメーカーの社員は一心同体なのです。天下り前から同族になっているのです。自衛隊員としては、こうしておかないと退職後が心配で仕方がないのでしょうなあ。

■長年、軍人として最も重要な「名誉」を与えられなかった自衛隊ですから、これから週刊誌などが「天下り」リストなどを発表したりすると、ますます自衛隊に入る人は減るのではないでしょうか?在任中に各種資格を取れる事と除隊後の再就職支援が自衛隊の魅力だったのではないでしょうか?山崎豊子さんの小説に描かれるような上層部ではない多くの隊員が、除隊後の行き場を失うのは可哀想な気がしますなあ。責められるべきは談合を続ける一方で、数々の税金逃れの口実を与えて貰っている大企業の側でしょう。でも、そこにも過労死しても労災が認められないようなサラリーマンが必死になってサービス残業しているのですから、日本は変な国です。

おしまい。
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好対照の事件 其の四

2005-11-29 00:12:11 | 社会問題・事件
其の参の続き

■「耐震計算」偽造事件と、電機工事会社の談合事件の続報が有りました。前者の方が根深い社会問題に行き着く様相を呈して来たような気がします。


構造計算は、地震の外力と柱の太さなどをコンピューターに入力し、十分な耐震力があるかどうかの判定結果を出力させる。入力シートと出力シートには同じ番号がつく。だが、建築士は別のデータでつくった判定結果を提出したため、二つのシートの番号が違っていた。番号を確認すればすぐ偽造に気づく単純な手口である。それなのに、検査会社は見逃していたことになる。かつて建築確認の書類検査は自治体に限られていた。民間でも代行できるようになったのは98年からである。

■これは11月19日の朝日新聞が掲載した社説の一部です。既に問題の一級建築士は顔も家もテレビに晒してインタヴューに答えていますから、他人事のように軽薄な受け答えしている様子が全国に放送されています。多くの人命にかかわる大問題を起こした実感の無い48歳の男は全国的に反感を買っているようですが、本人の言い分はきっとこんな具合に組み立てられているのだと推測できます。

■自分は、高校入学の「試験」に合格し、大学入学「試験」に合格し、建築士の「試験」に次々と合格して、一級建築士の「試験」にも合格している。そして、今回の偽造書類は、建築確認申請の「審査」に合格している。自分は、常に被験者であって、合否を決定するのはそれぞれの試験担当者の仕事である。仮に、各種の資格試験で自分が不正行為をして合格し続けたとしても、試験時間中に十分な監視をせず、厳正な採点をしなかった側に「合格」の責任は存在する。世の中はそのように動いているではないか?


……低価格が売りものだった。「安かろう悪かろうでは困る」と心配したが、「設備を簡素にしました」などと説明を受けて信用した。

■これは被害に遭った59歳の会社員が朝日新聞の取材に語った言葉です。約4000万円で欠陥マンションの部屋を買い、頭金の1000万円は自分で工面して残りは息子の名義でローンを組んでいるようです。「設備を簡素にしました」とプロに言われて、「どこをどのように簡素にしたんだ?」と重ねて質問できる素人はいないでしょう。万一、にわか勉強で仕入れた質問をしても、相手は上手に言いくるめるマニュアルを用意していることでしょう。全ては、手抜き工事をして安値でマンションを売り抜けようとした施工主の企業が始めた犯罪です。耐震性を犠牲にしてでも「安く設計」させられた一級建築士は、板挟みを脱するために責任の丸投げを画策したのでしょうなあ。

■最初からぺこぺこ設計案を審査に出せば、検査会社からも依頼主からも張り倒されるでしょうから、自分の最低限度の「責任」として、アホでも分かる偽造工作をして見せる。これで依頼主には言い訳が立つ!「せっかく建築士さんが努力したのでしょうが、これでは審査は通りませんなあ。ハハハハハ」と連絡が来て、「ほらね、どうやったって、注文通りの手抜きマンションは建てられないですよ。他の設計士に頼んでも同じですよ」と彼は言うつもりだったのではないでしょか?

■それが、「合格」通知が届いてしまったので、彼は責任の所在が自分には無いと確信したのでしょうなあ。有ったにしても、最大で3分の1だけだ!資本力では施工主が圧倒的に強く、権力を考えれば検査会社が圧倒的だ、自分は単なる建築士でしかないのだから、万一バレても、責められるのは他の者になる理屈だ!と今でも思い込んでいるとしか思えません。試験にさえ合格すれば、後は野となれ山となれ、変な医者や変なNHK職員や、警察や役人や政治家や……「合格」「当選」さえ取れれば後はどうだって良いのですなあ。

其の五に続く

好対照の事件 其の参

2005-11-29 00:10:28 | 社会問題・事件
其の弐の続き

■予想がドンピシャに当たると世間の人は大喜びするもので、占いや予言が大流行していますが、意地の悪い人は有名な預言者や占い師が過去に公表した言葉を掘り起こして、「ぜんぜん当たらない」現実を指摘してくれたりします。ノストラダムスさんぐらいに、訳の分からない文章を書き並べるような技術を持っていないと、予想も予言も当たらないものです。競馬の必勝本だの、パチンコ必勝法だのが良い商売になるのは、裏を返せば、過去の本がほとんど当たらないからでしょう?宝くじの大当たりが出ると評判の売り場は、日本有数の販売数を持つ場所ですし、単なる偶然を大袈裟に宣伝に使う知恵者がいるので、つい買ってしまうのが人情です。

■しかし、麻雀やポーカーのように互いの手の内を隠し合って実施される入札で、相手の隠し持っていた金額の97%に当たる数値を的中させるなんて、それこそノストラダムスもビックリ仰天しますぞ!彼の予言が「外れない」のは、年号や人数などの数値を言わない事、具体的な地名や人名には言及しない事です。入札は、具体的な工事内容と工期が決っている上に、役所の技官が厳密に弾き出した秘密の数値がはっきりと決められているわけですから、これを読み切って97%で落札するには、ゴルゴ13なみの超人的な勘と技術が無ければ無理でしょうなあ。つまりは、漫画の世界の話なのです。いい年をしたオトッツァンたちが、しかつめらしい顔をして漫画を演じているというわけです。

■ここに並んだ企業名は、常に、大卒者が就職したいと思っている所ばかりのようです。日本の一流企業と言うのは、官製談合に参加できるかどうかで決るのです。これを「日本の特色ある社会主義」と呼ぶのです。略して「会社主義」


特捜部は旧公団時代の入札について、メーカー側から「配分表」とみられる文書を入手。関係者によると、その後、NAAからも「配分表」とみられる文書が見つかった。

■テレビ局が「ヤラセ」をしたと分かれば、数ヶ月間は叩かれ続けますし、ヤクザさんが博打場で八百長をすると、肉体の一部が切断されるのだそうです。同じ事を何度しても、有名企業の中で倒産した所はまったく無いのは不思議です。つまり、不況だ!デフレだ!と世の中が意気消沈して、地方にはシャッター商店街が増えるような時代でも、「公団」という場所には何故か資金が余っているのです。ここにストローを突っ込んでちゅうちゅうと吸える企業が、優良企業なのでしょうなあ。このカラクリを完備させて超え太らせたのは田中角栄さんらしいのですが、当時は、「御蔭さまで」落札させてもらえた企業は、ダイレクトに田中先生に献金していたものでしたが、最近は巧妙になって、「自由民主党様」宛に献金が届くのだそうです。

■自由民主党という政党相手に逮捕状は取れませんから、なかなか談合が贈収賄事件に発展することはないようです。「公団」とは関係のない歯医者さんなどが献金すると、すぐにバレるようですが、政党の有力者は高齢の方が多くて、上手に脳軟化症に罹って「記憶に無い」状態になるようです。個人が特定できなければ逮捕は不可能ですから、渡した愚か者が逮捕されて、受取人はヤミの中に消えてしまうようですなあ。

■国債発行高が減らない、増税は必至だ!と言うのは簡単ですが、じゃぶじゃぶと他人の金を撒き散らしで、自分の権力を楽しんでいる連中がいる限り、財政が健全化するはずは有りません。談合有る所に役人有り、役人有る所に天下り有り、天下り有る所には優良企業が有るのです。この鉄の輪を切るのは不可能だとも言われています。酒税が上がったら禁酒して、煙草税が上がったら禁煙、ガソリン税などが上がったらせっせと歩き、消費税が上がったら霞(かすみ)を喰って生きるしか抵抗策は無いようです。勿論、訳の分からない食品を食べ続けて、アスベストと排気ガスを吸い続けて病気になったら御仕舞いです。それにしても、政治家と位の高い役人さん達は、どうしてあんなに丈夫で長生きなのでしょうなあ。「政治家健康法」とか「天下り健康法」とか、誰か書かないのでしょうか?

其の四に続く

越前クラゲと手抜きマンション

2005-11-28 13:44:57 | 社会問題・事件
■変な組み合わせですが最近の日本を象徴する「危険の象徴」のような気がしています。『週刊新潮』12月1日号の43頁に、「「繁殖」初成功で始まる「エチゼンクラゲ」掃討」という記事が掲載されました。

……エチゼンクラゲを新江ノ島水族館が世界で初めて自然繁殖させたと報じられた。……広島大学の上真一教授。教授はすでに昨年、世界初のエチゼンクラゲの人工繁殖に成功している。「問題はもっと根深い。日本だけで解決できる問題ではないのです」(同)水産庁はワイヤーで編んだ網でクラゲを引きちぎる方策も実施しているが、「天文学的な数となったクラゲにそれほどの効果は望めません。元を絶つにも、海流に乗ってくるクラゲは日本で生まれるわけではないのです。経済成長で排水が富栄養化した。東シナ海や黄海、つまり中国、韓国で発生すると推測されます」……

■ここまでは誰もが知っている事です。しかし、中国が放置している公害ばかりを責めていても、逆に「もっと援助しろ!」と言われるのがオチでしょうなあ。それに、浄水施設を造る資金や技術をプレゼントしたぐらいでは問題は解決しないのだそうですぞ。


……「ただ、プランクトンを奪い合うはずの鯖(さば)、鯵(あじ)、鰯(いわし)などを乱獲したためにクラゲの天下となったのですから、日本にも責任はある」(同)……「スーパーには輸入された魚が並んでいますからね。国内産ではこの冬は寒ブリの姿が少なくなるでしょう。加えて世界の十カ所でクラゲの発生が確認されています。スケトウダラの捕れるベーリング海、エビの捕れるメキシコ湾北部など、日本が輸入しているところで確認されているのです。いずれはスーパーの魚にも影響が出てきます」(同)……被害総額は数百億円規模とも。「12月中旬に上海で、日中韓の研究者が集まり、情報交換が行なわれます。東アジアの協調を訴えます」

■太古の昔から続けて来た、沿岸漁業と沿岸捕鯨の伝統が途絶えて、世界一の造船技術に物を言わせて遠洋漁業で世界の海を漁場にし、とうとう「空飛ぶ漁師」が出現して地球の裏側などの遠い漁場に飛行機で通う人が活躍する時代になりました。その後は強い円を存分に生かして、世界中の漁師から好き放題に買い付けて空輸している現在です。昨年でしたか、マイワシが獲れずに高級魚になりそうだという信じられないニュースが報道されましたが、一説には海流の蛇行が原因だから、鰯は日本沿岸に周期的に戻って来るから大丈夫だ、とも言われました。どちらにしても、日本沿岸の魚影が薄くなっているのは間違いないようです。

■養殖技術などを発達させて、自然を完全に制御して人間が好む高く売れる生物だけを大量に「生産」する事に熱中している間に、巨大な自然のシステムがそんな人間の浅知恵に逆襲しているような気がしますなあ。漁業は自然を相手にする営みだったのに、いつの間にか工業の一種になってしまったようです。それは丁度、一種類の鉱物資源を求めて人類が大地に大穴を開けてしまうのと同様に、世界の海洋にぽこぽこと穴が開いてしまったようなものなのではなかろうか?目に見えない微生物から巨大なシロナガスクジラまで、世界の海はたゆまぬ食物連鎖の舞台になっているのに、人間がその階層の所々に介入して、連環を断ち切りすき間や大穴を開けているのでしょうなあ。

■昔の漁師さんは、魚が減ったら陸に上がって神様の怒りを鎮めようとあれこれと儀式を行なって漁自体を休んでいたようです。冷凍技術も無かった時代は、取り過ぎても魚を腐らせるだけでしたし、干物や塩漬けにしたところで、人口は少なかったし輸送技術も発達していなかったから、船が沈むほどの大漁を喜ぶような間抜けな乱獲はしなかったのでしょうなあ。必要な分だけ取って、それが満たされたら神様に感謝してお祭し、海のシステムを壊さないような仕組みになっていたのでしょう。つまり、あの魚が食いたい、この魚は食いたくない、と好き勝手な事をやっている内に、あの魚を食べ尽くしたら、今度はこの魚も減ったり、思いもしない魚が大量発生してしまう。それに人間が翻弄される時代になっているという事でしょう。

■漁業が工業になってしまって困ったなあと思ったら、今度は建築業が映画や舞台の大道具さんになっていたようです。つまり、「はりぼて」マンションが東京を中心にした首都圏に建っているのだそうです。地震に弱いどころか、人間が家具を運び込んで生活しているだけで崩れるのだそうですなあ。それは「家屋」とは呼ばないでしょう。落語にある、

「ちょっとあんた!不便だから台所に棚を吊っておくれよ」
「面倒臭えなあ。そんなら、ちょいと作ってやろうか」
「早いところやっておくれよ」……
「あんた!あんたが作ってくれた棚が落ちちゃったじゃないか!」
「何だって?おい!まさか、何か物を載せたんじゃないだろうな?」

■という「棚」ではない「棚」の小話とまったく同じ馬鹿馬鹿しい話です。建設会社という看板を上げているから、住める家を造ってくれると思ってはいけません。設計士という資格を持っている人が、安全な家を設計するとは限りません。マンション販売会社の仕事は住宅供給ではなく、お人よしから金を巻き上げる事のようです。クラゲはぶよぶよした体で海の中をふらふらと流れている生き物で、都市部に立ち並んでいるマンション群は頑丈で動かない物だとばかり思っていたのですが、最近は、地震が来ればふらふらと動き、見掛けと違ってぶよぶよしているようです。ですから、告発ニュースの画面に繰り返し映し出される空からの映像を観ている内に、以前に観たクラゲの大群を思い出したのも偶然ではないようです。

■エチゼンクラゲは食べられないし、大き過ぎて取り扱いに困るそうです。毒まで持っているから処置なしとも言いますなあ。鉄筋をケチった高層マンションも、住んでいられないし、大き過ぎて取り壊すのも大変です。そんなところも似ています。事件が発覚したばかりの頃に、ちょっと不謹慎かと思いつつ、「地震が近い」と聞いて手抜きマンションを「売り抜け」て、本当に震災で崩れて焼失してしまえば証拠も隠滅できるぞ!と馬鹿者が考えたのではなかろうか?と書いてしまったのですが、妙に支離滅裂な演説をぶつのが好きなヒューザー社長という人は、本当にそんな事を発言していたそうですぞ!エチゼンクラゲよりも猛毒を持っている人間が大漁発生しているようです。ご用心、ご用心。

※なお、新潟県の皆さんが、迷惑なクラゲを「エチゼンクラゲ」と呼ばないで欲しい、と希望しているそうです。「オオクラゲ」と呼んで欲しいのだそうです。そうですなあ。別に原産地でもないのですから、「東シナ海クラゲ」を省略して「シナクラゲ」なんかはどうでしょう?それもちょっと毒が強過ぎるでしょうか?

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好対照の事件 其の弐

2005-11-26 07:28:50 | 社会問題・事件
其の壱の続き

■プロでも騙されるような話ですから、綺麗なモデル・ルームと豪華なパンフレットと巧妙なセールス・トークの裏を素人が見破れるはずなどありません。半年ほど前にぼろぼろと露見した、民間の監査法人と同じ事を、今回は「建築関連検査会社」がやっていたわけです。監査や検査が、「お手盛り」ならば不動産を購入する素人や株式投資を考えている素人など、全部まとめてカモにされてしまいますなあ。役所に負けずに、この検査会社も電光石火で会見を開いて、自分達も「被害者」の立場にいることを主張してようです。なかなかの規模の会社のようですから、膨大な数の「検査」をしていたのでしょう。それを全部再検査するとしたら、一体、誰がこの「検査の検査」という馬鹿馬鹿しい仕事を請け負うのでしょう?そのまた検査が不要だと誰が保証するのでしょう?


……この建築士は91年に1級建築士の資格を取得。千葉県の調べに対し、ホテルを除くマンション20棟での偽造を認めた。ほかに1棟についても偽造をしたとしているという。過去5年間で他に約90棟の構造計算を請け負っており、被害はさらに広がる可能性がある。

■一時期、「資格」の大ブームが有りましたが、その時に持て囃されたのは、ちょっとした講習を受けると取れる官製の詐欺みたいな「資格」でした。それらが屁のツッパリにもならないと分かってから、資格マニアは激減したそうです。医師・公認会計士・上級国家公務員・弁護士・1級建築士などの、圧倒的な力を発揮する本物の「資格」は、おいそれとは取得できないからこそ、社会的信用が高く、高収入も望めるわけです。「士」の付く資格というので、「サムライ商法」詐欺というのが、社会を騒がせた時代も終ったようですが、今度は「介護士」に人気が集中し始めて、あちこちで経営者の「不正受給」と過酷な労働条件などが社会問題化しつつあるようです。つまり、「資格」には常に詐欺犯罪のタネが潜んでいるという事なのでしょうなあ。

■「1級建築士」というのは、建物の設計施工に関する最高の権威のはずなのですが、世の中が不景気になれば、施工主の注文どおりの恐ろしい建物を平気で作る商売でもあることが今回分かったわけです。ちょっと珍しい苗字の人のようですが、この人だけが唯一特殊な建築士だとは到底思えません。医師の診療ミス、会計士の不正、公務員の裏金と収賄、今度は建築士の「手抜き」ですから、世の中はどんよりとした疑心暗鬼の空気に包まれているようです。

■この記事の下に掲載されたのは、夏の雑草のように逞(たくま)しく生き残る「談合」の根っこに関する記事でした。舞台は日本の玄関です。


成田国際空港会社(NAA)が民営化(04年)前の旧「新東京国際空港公団」時代に発注した電機設備工事の入札で受注調整が行なわれていた疑いが強まったとして、東京地検特捜部は17日、競売入札妨害の疑いで電機メーカーを家宅捜索した。……受注調整は旧公団側の主導で行なわれた「官製談合」だった疑いが強まっている。特捜部は防衛施設庁発注の工事についても事情を聴いていおり……東芝、三菱電機、富士電機システムの3社が創作を受けたことを認めている。……公団が03年11月7日に実施した「南部貨物上屋ビルの第2期受変電設備工事」の指名競争入札。

■ここでも「03年」が出て来ます。当時は、社民党に始まった秘書給与詐欺事件で国家は大騒動でしたが、道路公団の民営化のすったもんだも始まっていたのではないでしょうか?道路公団の談合の一部が露見して逮捕騒ぎになったのは今年ですが、まだまだ疑惑は多く残っていると言われています。今回の成田空港で行なわれた談合は、あの広大な施設の中のほんの小さな工事に関するものです。


東芝、三菱電機、富士電機システムズのほか、日立製作所、明電舎、日新電機の計6社が参加し、日新電機が1億9500万円で落札した。……落札率は97.8%と極めて高率だった。……

其の参に続く

好対照の事件 其の壱

2005-11-26 07:27:44 | 社会問題・事件
■11月18日の朝日新聞一面に、ネガとポジの対称のような記事が並びました。どちらも2003年に起こった事件ですが、両方とも、今回発覚したのは「氷山の一角」だろうと誰もが思うような事件です。2003年と聞くと、何だか随分と昔の話のような気がしますが、まだ2年も経っていないのです。この年の3月、日本の国債発行残高が500兆円を突破しました。4月には日本郵政公社が発足し、産業再生機構も発足、11月には足利銀行が破綻したのです。7月には国民年金保険料未納率が過去最悪の37%を超えましたし、11月には第43回総選挙が行なわれて、何と自民党が過半数割れを起こして237議席!公明党の37議席を合わせて何とか絶対安定多数を維持する一方で、民主党が177議席と大躍進したのでした。やはり、何だか遠い昔の事のようですなあ。

■今回、朝日の一面に並んだ事件は、片方は不景気デフレが進んで、妙に安いマンションが都内に増え出したなあ、と話題になって、無責任なエコノミストの中には「今が買い時です!」などと雑誌に書き散らしていましたなあ。その一方で、大規模再開発の波を受けて外人向け超豪華マンションもにょきにょきと建ち始めていた事を思い出します。民間は本格的な二極化現象が露(あらわ)になり、行政は「改革(民営化)なくして成長なし」のワン・フレーズで、民間に丸投げすれば良いという発想が強化された年です。正規社員の首切りの嵐が終りかけ、そろそろ「ニート」などという外来語が英国から取り込まれ出した頃でもありました。

■そんな時代に生き残るには、やはり、手段は二つしかないようです。


国土交通省は17日、千葉県市川市の建築設計事務所が、マンションなどの設計に必要な、耐震性にかかわる構造計算書を偽造していたと発表した。……東京、千葉、神奈川のマンション20棟とホテル1棟。……マンション2棟は震度6強~7程度の地震に耐える基準を満たさず、震度5強程度で倒壊するおそれがあるという。

■妙に立地条件が良い「お手頃価格」のマンションが増えて、自分が住む為ではなく、投資目的で購入して大家さんになって定期収入を得ましょう!と銭ゲバ雑誌などがさんざん煽っていたのを思い出しますなあ。土地さえ有れば、設計・施工・入居者募集・管理の一切を引き受けます!という業者も盛んに宣伝していた記憶も有ります。テレビCMにも、そんな広告が有ったくらいですから、「お手頃価格」のアパートやマンションの中には、怪しい理由でその価格になっていた物件が紛れ込んでいる可能性は、最初から高かったわけです。

■しかし、ローンを組んで5000万だの6000万だのの大借金を背負って、銀行だけが大儲けする仕掛けだとは知りながらも、元金と利息を合わせて最終的には2倍近い金額を払い続ける契約ですから、入居して頑張っている人たちも、定期収入を当て込んでいた大家さんたちも、資産価値がゼロどころかマイナスになってしまうと、大変です。明日にも起こる直下型地震も恐ろしいのですが、もしも、奇跡的に地震がずっと起きずにローン満期まで関東平野が大人しくしていたとしても、買い替えも出来ない資産を抱えてしまうことになります。手抜き工事でちまちまと稼ぐような業者が、全額返金など出来るわけはないのですから、公的資金の補助が不可欠になります。

■ところが、手回しの良いことに、国土交通省は早々に「ワシャ知らんぞ!」とケツまマクってしまったようです。こんな時だけは決断と実行力を見せ付ける政府ですなあ。公害騒ぎが起これば、しつこく裁判を引き伸ばして最後まで責任省庁の過失を認めなかったり、川や海を滅ぼす開発をころころと目的を書き換えながらも続行するような気長な人達かとばかり思っていると、今回の「民間と民間の問題だ」と民事不介入の警察みたいなことを言っているようです。間抜けで欲深い銀行が借金の取立てに失敗すれば、迷わずに税金を放り込み、既に10兆円は返済不能が確定しているそうですが、あらゆる詐欺犯罪の被害者は「自己責任」の一言で切って捨てるお手並みは大したものです。


……この事務所は03年から今年10月にかけて、設計事務所7社からマンションなどの構造計算書の作成を請け負った際、耐震性について建築基準法の基準を下回る力で計算しながら、基準を満たしているように装って、設計事務所に書類を提出した。計算書は、市役所などに代わって建設確認の手続きをする都内の建築関連検査会社に提出されたが、偽造が分からないまま、認められていた

其の弐に続く

帰ってきたムネオ(マン)

2005-11-26 07:26:37 | 政治
■週刊新潮11月24日号で、5回連載した鈴木ムネオさんの『外務省の犯罪を暴く! 実名告発手記』が最終回を迎えました。

私もマスコミに叩かれたときの辛さは、家族ともども骨身に染みている。しかし、選挙によって選ばれた政治家として、国益のために、時には非常にならなくてはと自分に言い聞かせている。(了)

■と泣かせる文句で連載を終えました。この連載は余程評判が良かったらしく、同じ週の『週刊文春』では佐藤・ラスプーチン・優さんとムネオさんとの対談を企画しています。何でも、佐藤さんを怪しい外務省の役人として書き立てた最初が週刊文春だったのだそうです。その記事は「鈴木宗男の運転手までする……」という題名だったそうです。マスコミの玩具にされた宗男さんを、国会で指差して「疑惑の総合商社だ!」と何日も考えて来たらしいマスコミが大喜びする意味不明のレッテルを叫んだ社民党の辻元議員は、その後自分が「疑惑のパートタイマー」だった事がバレて、誰にも指差されることもなく、記者会見場で議員バッヂを外すという、伝説となっている山口百恵さんの引退場面をパクッたような芝居がかった止め方をしたものでした。

■大阪の選挙民はなかなかユニークで、今回の小泉さんの解散総選挙で復活したそうですなあ。面白い議員さんが出る所には面白い市長さんが出るものなのか、その逆なのかは分かりませんが、当選したのですから、オメデトウと言わねばなりません。さてさて、問題の週刊新潮の連載は、第一回目から抱腹絶倒の内容でしたから、熟読させて貰いましたぞ!編集も頑張って、毎回、続々と登場する外務省のお役人様の実名には、必ず当時の役職と現在の役職名を書き加える心遣いが有り難く、お蔭で、ムネオ騒動の後でそれぞれの皆さんがどんな保身術を駆使したのかが実に良く分かる仕組みになっているのです。

■サービスはそれだけではなく、毎回、話題の中心人物となるお役人の微笑んでいるような写真を題字の下に載せてくれましたから、「ほほー、この方かいなあ」としげしげと見られました。悪事が一つ指摘される度に、この写真を見直すと、怒りがどんどん増して来る効果は抜群でしたなあ。連載を読み通して、証人喚問と称して「疑惑の総合商社!」と人気取りの絶叫をしていた議員の愚かさが良く分かりました。「疑惑」の大本は全部、外務省内の出世レースの参加者達だったことが如実に分かります。ムネオさんは、彼らを利用して政治権力を強化しようとして張り切っていたのですが、お役人の組織力にはまったく太刀打ち出来ずに、佐藤さんと一緒に葬り去られたという事です。

■自民党の議員がこんな事をやっている時に、野党がしっかりと内部調査して、糸を引いているお役人を証人席に引っ張り出して糾弾しないで、一体、誰が官僚を制御するのでしょう?ムネオさんをマスコミと一緒になって攻撃しても、アホな外務省はそのままで次の操り人形を探して来て取り替えるだけでしょうに!ロッキード事件の大騒ぎの時も、当時の社会党議員は、テレビ・カメラを意識してばかりいましたなあ。税金と時間を浪費して、何一つ新しい事実も重要な証言も取り出せないのに、偉そうにしていましたっけ。そんな人達が、実は「平壌良いとこ」ツアーに参加していたと分かって、拉致事件発覚後には国民からソッポを向かれたのでした。

■この週刊新潮の連載は、大幅な加筆の上で刊行されるのでしょうか?詳細な解説は佐藤優さんが担当したら、きっと売れるでしょうなあ。登場する外務省のお役人の連絡先を乗せるようなサービス過剰にはご注意願いたいものです。あれこれと鬱屈している日本人の中から、妙に張り切った人が出て来ないとも限りませんからなあ。まあ、個人情報保護法が出来て、一番喜んでいるのはこうした危ないお役人かも知れませんが……。告発記事の中に出て来る、日時、金額、人名の細かさは実に貴重な価値を持っています。ロッキード疑惑の時と同じで、大手の新聞社で政治記者をしている人達は「そんなことなら知っていたぞ」と、また同じ事を言うのでしょうなあ。

■「ポスト小泉」など占っている暇が有ったら、こういう情報を紙面を使って流すべきなのです。政治面の下の方に、小さく「人事」を載せて仕事をしているつもりなら、「官報」の記者になれば良いのです。月刊文藝春秋には「霞ヶ関コンフィデンシャル」という連載コラムが有りまして、月に一回なのにお役人の動向が分かる内容になっています。それでも、今回のムネオさんの告発記事ほどの詳細なデータは提供できませんでしたなあ。どうやら、政治家は「帰って来た」人でなければダメなようです。10回以上も連続当選している与党議員などでは、官僚と対決など不可能なのでしょうなあ。すっかり仲良くなった頃に、「お世話になります」などと言って大臣室に入るのでしょうから、官僚には頭が上がりませんね。

■官僚も同様で、佐藤優さんのような泥水を飲んだ人でないと、国民のためになる仕事はなかなか出来ないのかも知れません。執筆や講演活動で大忙しのようですが、優秀な外交官になりたいと希望を持っている若者達の希望の星になれるように頑張って欲しいものです。万一、アホな上司と衝突しても、こういう活動が出来るのだ!と分かれば、少しは上質な外交官が出る可能性も有るのではないでしょうか?

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あの国の2人は巨大な数ですぞ 其の弐

2005-11-24 23:39:06 | 外交・情勢(アジア)
其の壱の続き

■貧富の格差が拡大しているのは衆知の事ですが、それはそのまま医療設備の格差にもなっています。内陸部の医療設備は凄まじいものです。人から人への感染が恥じまらない限り、ろくな治療も受けられない死亡者は全部「風邪」か「肺炎」と判定されるでしょうなあ。権力者は既に家族を避難させ始めているのではないでしょうか?公用や留学など、書類をちょいちょいと作れば、何でも出来る人達がいます。まあ、愛知万博が終っていて良かったようなものです。


中国衛生省は16日、湖南省の9歳の男児と安徽省の女性(24)の2人が、鳥インフルエンザに感染したことを確認したほか、男児の姉(12)も感染の疑いがあると発表した。女性2人はすでに死亡している。中国で人への感染が当局によって確認されたのは初めて。

■この朝日新聞の書き方は不親切です。既に死亡している2人の女性の死因はまったく調べられていないのです。ですから、この記事のポイントは「当局によって確認されたのは初めて」の一文です。SARSを見事に封じ込めたベトナムは自信を深めているのでしょう。感染者92名のうち、死亡者は42名と明らかにしています。これでも、地方の村に原因不明の風邪で死亡した人が他にも居る可能性は高いのですが、ベトナムは情報公開に熱心です。タイも21人感染で死亡は13名。インドネシアは9名中7人が死亡。カンボジアは4人感染で全員が死亡です。こうした情報の流れに乗るように、中国の2人感染、1人死亡という数値が発表されたのです。

■香港型と呼ばれるように、インフルエンザの故郷は中国南部だと分かっているのですから、欧州やロシアでも感染した鳥が発見されて大騒ぎになっている中、無関係の振りもしていられないという事情が有ったとしか考えられませんなあ。大本営発表だと思っておかないと、トンデモないことになるかも知れませんぞ!チャイナの内陸部を旅してみると、バスや列車の窓から、「この辺の人は病気になったらどうするのかなあ?」と心配になる風景が当たり前のように続いているものです。そんな人里離れた場所でも、渡り鳥たちは平気で飛んで来ますし、商売熱心な人達は生きた家禽類を売り買いしています。病院など遥か彼方にしかない寒村で、奇妙な咳と発熱で死亡した場合、どうなるかを想像して見れば、今回の発表の大きさが分かるというものです。

■情報公開の順番が、地球を一周してチャイナに回って来ただけではないでしょうかな?周りを見渡してから「じゃあ、我が国は2人」という具合です。無数の島で構成されるインドネシアなども、全土を監視下に置いているとも思えませんし、タイやビルマも心配です。朝日新聞が掲載した『インフルエンザ(H5N1)の発生国と地域』という地図では、北朝鮮とフィリピンが空白になっているのです!これは感染者が居ないという意味ではないでしょうなあ。


厚生労働省は日本で流行した場合、4人に1人に当たる約3200万人が感染し、最大その2%、64万人が死亡すると推計している。

■チャイナの人口は日本の10倍ですから、この推計を単順に当て嵌めれば640万人が死亡する勘定です。日本の県が二つか三つ無人になるという規模です。衛生状態と人口の過密度から考えれば、この数倍の被害が出ると思われます。鳥と豚と一緒に暮らしている南部の人達は逞しく免疫体質を手に入れて平気な顔していられるかも知れませんが、北に向って被害は広がるのでしょうなあ。沿岸部の大都市で大流行の連鎖が起きた時、津波どころの騒ぎではなくなりそうです。

■チャイナには正直な情報公開を求めたいところですが、本当は国際監視団を結成してあちこちを調査すべきでしょう。それ以上に、党中央の要人達の移動状況と地方政府の高官達の移動先をモニターする方が先かも知れませんなあ。かつて、番号付きのハゲを直す特効薬で大儲けしたチャイナの商人がいましたから、今回も偽薬が大流行しそうです。インターネットで「中華4千年の秘薬」などを見つけて命を縮める慌て者が出ないように監視するのも大切でしょうなあ。ご用心、ご用心。うがいと手洗いを忘れずに!

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parisさんへの御返事 11月22日の日記

2005-11-24 23:35:31 | 日記・雑学
■「出稼ぎ」とは、重たい響きの言葉です。慣れない環境は、それだけで大きなストレスの原因になりますから、さぞやお疲れになったでしょう。ゆっくり休養をお取りになれるますように願っております。日本は南北に細長く大きな高度差も抱えて、実に多様な自然と風土の舞台ですから、住みなれた場所を少しばかり離れた場所は、何もかも違う生活環境になります。コメントを頂いた「日本の道路」についてもう少し考えて見ます。

■そんな変化に富んだ日本の国土に道路網を整備するのですから、どこにも手本は有りません。大昔に唐の長安を手本にして都を建設しましたが、その時は不必要とも思えるような広い道路を作ったようですが、その後は身の程を知って丁度良い道路整備をこつこつ続けていたようです。レンガで新国家を作ろうとした明治政府は重要な歴史的使命を負いましたが、貧乏なくせに富国強兵政策を採らざるを得ず、鉄道と工業と軍備に予算が集中して道路は後回しにされました。その中に後藤新平というユニークな人物が埋もれてしまいました。

■それが昭和の軍隊に悪影響を及ぼして、モータリゼーションを忘れた「歩く軍隊」を巨大化させて大陸に送り込むような暴挙を実行させてしまいました。先の大戦は「失敗の宝庫」なのですが、輸送力を軽視した精神主義はその最たるものです。戦争に敗れて焦土と化した国土を復興する時にも、道路の重要性を知悉していた人材には恵まれませんでした。焼け跡のバラックをそのまま木造家屋に変えたような町並みが出現するのを放置して、自動車が走れる道など誰も考えませんでした。名古屋など、特別な都市計画を持った場所では、絨毯爆撃の跡を逆手に取って広い道を建設したようですが、東京は大失敗だったようですなあ。21世紀になっても主要な環状道路が完成していないのですから、世界中に優秀な自動車を売りまくっている国とは思えない現状です。

■世界の自動車レースで優勝するよりも、ドイツに負けない道路網を造る方が大事だったのではないか、と思うのですが、戦後の復興期にも高度成長期にも、駐車場の無い住宅をどんどん建てる一方で、自動車の販売台数は常に前年を上回らねばならなかったのですから、道が車で溢れるのは当然だったのです。自動車立国を決意したのかしないのか、それも分からないまま、一生懸命に自動車を生産し続けたのが戦後の日本です。東名高速道路にしたところで、増え続ける自動車の数を予測し損なって、第二東名高速道路などをしこしこと建設していますなあ。「第二首都高」の方が先なのでしょうが、東京には道路を作る場所は無く、駐車場もバス専用道路も足りず、自転車専用道路も無いのに、信号機と道路標識だけは世界一多いという迷路のような都市になってしまいました。

■こうしたムチャな環境を改善するよりも、その「苦難」に耐えて名人芸を見せるのがプロだ!と言い出す感覚が、どうも職人好きの日本人の中に生き続けているようです。通勤時間の鉄道事情にも、この感性が遺憾なく発揮されまして、とても人間の乗り物とも思えない状態になっております。ぎゅうぎゅう詰めの車輌に、乗り込むというよりも、客は飛び込み、駅員が押し込む、それが繁栄の風景だと思いこめるのも日本人です。それはインフラの貧しさと都市計画の失敗の証拠なのに……。次々と飛び乗る客を無視してでも時間通りに発車して、加速中に遅れを取り戻して次ぎの駅に滑り込むのですから、これで大事故が起きないのは運転手と利用者との暗黙の協力関係が成立しているという事なのでしょう。その点だけは、日本人は立派なのかも知れません。

■戦後の政治家の中に、立派な都市計画を持って立候補した人は一人も居ないのではないでしょうか?官僚群は縦割りですから、道路専門、住宅専門、水道専門、鉄道専門、学校専門、商店専門……これらが勝手に予算を奪い合って競争して作った物を寄せ集めたのが、今の東京でしょう。可笑しいのは、日本で画家になろうと思った若者が、欧州に出掛けて都市の風景画を熱心に描いている事です。欧州の有名な都市を歩くと、あちこちで画家の卵やプロがイーゼルを立てて絵を描いているのを見かけますが、東京にはそんな名所が有りますかな?江戸時代にはすばらしい風景画が描かれたのに……。

■交通事故の年間死亡者が1万人を割ると大ニュースになるという異常事態にも慣れてしまいましたし、大酒飲んで人を轢き殺すような犯罪にも、大してショックを受けなくなってしまいましたなあ。高速道路では複数の車が巻き込まれる凄まじい玉突き衝突事故が毎週起こっていますが、これは異常だ!と騒ぎ出す人もいないようです。昭和40年代には「交通戦争」という言葉が新聞に載っていましたが、それが解決されたのではなく、単に飽きて慣れてしまっただけなのでしょう。二年に一度は自動車を買い替えるようにテレビは朝から晩まで新車の宣伝していますが、画面に出て来る風景は日本ではありませんぞ!東京の首都高を舞台にしたCMが作られるのは何時のことでしょう?

■のべつ幕無しに放映される米国アクション・ドラマの刷り込み効果で、パトカーとのカー・チェイスをしたがる愚か者が増えたのも最近の傾向です。違反や事故を起こしても、逃げ切ってバレなければ良い、と思ってしまうのは、米国映画と石原プロダクションが作り続けた暴走シーンの学習効果としか思えません。公道を使った自動車レースの漫画やテレビ・ゲームも有るようですから、空想と現実が混同されているのかも知れません。

■渋滞情報は天気予報ほどの注意を喚起しませんし、「事故情報」も大した驚きではなくなっています。そんな状態の道路を、「配達時間指定サービス」の職人ドライバーが走り回っているのですから、宅配便が届く事自体が奇跡ではないでしょうか?それで人員削減とコスト削減も同時進行しているのですから、冗談やパロディではなく、本当に「24時間走る」ことになりますなあ。わざわざ、フランスのルマンに行かなくても、日本中の主要道路では24時間耐久レースが毎日開催中というわけです。休息するのも走行中、仮眠もちょっと一杯も、時間が無いから走行中に押し込まれてしまうのでしょうなあ。

■法律が改正されて、日本人が大好きなドリンク剤がコンビにでも駅のキオスクでも売られるようになって、製造会社は笑いが止まらないのでしょうが、数年前にタモリという人が、にやにやしながら、


「疲れたら、イッポーン」


と訳の分からない宣伝をしていましたが、偶にそのCMを見る度に、「疲れたら、休むんだよ!」と画面に向って反論していたものです。ドリンク剤はアルコールで抽出した成分を水に溶かした物ですから、肝臓を傷めますし、疲れが一瞬取れたと感じるのは、アルコールとカフェインの作用だと言われています。それ以上に、テレビ宣伝の催眠効果が大きいのでしょうが、そんな生活を続けていたら「成人病」「生活習慣病」の患者で病院はいっぱいになるのは当たり前なのです。そこでも薬を大量に処方されるのですから、何が何だか分かりません。

■「休む者は非国民だ!」と言い出した奴がいて、そうだ、そうだと唱和した者がいたのでしょうが、長年の無理が祟って体を壊し、毎日のように病院に通って「食間」「食前」「食後」に飲む薬を貰って来ては、「メシは何時食べれば良いかなあ」と考えているような御老人が、「若い頃は寝ないで働いたもんだ!」などと威勢の良い事を言うのは変です。確かに戦後の日本を復興させるのは大変でしたが、復興させ過ぎたかも知れないし、間違った復興をしてしまったのかも知れないのです。数年後に、ごっそりと会社から追い出される団塊の世代の皆さんが、どんな健康状態になるのか、非常に興味が有ります。

■定年になったらゆっくり休んで、趣味を楽しんで、健康的に暮らすんだ、などと言う人もいるようですが、休み方も趣味も、急には出来ない事を知っておいた方が良いでしょうし、仕事に追われている生活が終ったら、何をして良いのか分からず、心身共に不調になるには時間は掛かりません。誰かが、「そろそろ休もうニッポン!」と言い出さないと行けませんなあ。ちょうど、『昔、革命的だったお父さんたちへ』(平凡社新書)を数時間で読み終えたばかりなので、こんな事を書いてしまいました。

あの国の2人は巨大な数ですぞ 其の壱

2005-11-23 21:39:54 | 外交・情勢(アジア)
■いよいよ、チャイナに鳥インフルエンザの犠牲者が出ました。正確には、「初めて報道された」のです。

鳥インフルエンザ感染で初の死者が確認された中国政府は、「情報隠蔽」と国際社会から非難を浴びた新型肺炎SARSでの失敗を教訓に、迅速な情報公開や防止対策に懸命だ。しかし、全土に140億羽以上の家禽を抱え、地方から中央への報告も滞りがち。周辺国への一層の感染拡大が懸念されている。

■北京贔屓の朝日新聞でも、こう書き出さねばならない事態です。SARS騒動の時は、北京から江沢民総書記の姿が消えた!と言われたものでしたが、今のブッシュ大統領が牛肉を食べていない!という話に似ている権力者の不老長寿妄念の強さを表現する面白い話です。胡錦濤さんが、このところ外遊に大忙しなのは、北京にいたくないからではないのでしょうが……。中華3000年の歴史と言ってもそのほとんどは黄河流域の話で、揚子江流域から南半分は長い間、恐ろしい野蛮な土地とされていました。北方民族の侵入に耐え切れずに南に逃げ出した南宋の時代までは、漢民族たちも怖がって南下などしなかったのです。三国志の諸葛孔明が南の蛮族を征伐に行く物語の様子を見れば、「南の病気」をどれほど恐れていたかが分かります。

■明の時代に、チベットの高僧やダライ・ラマが北京の皇帝から丁重な招待を受けても断ったという事が何度も有ります。その理由は「チャイナが嫌い!」ではありませんでした。「伝染病が怖い」からでした。その典型的な例が有ります。ダライ・ラマ8世の時代のことです。清は乾隆帝の絶頂期でした。乾隆帝は熱心な仏教信徒でしたから、自分の避暑地、熱河(今の承徳)にダライ・ラマの居城であるポタラ宮と、パンチェン・ラマのタシルンポ寺を模した僧院を造ると言い出します。(このミニ・ポタラは、今も残っていて観光資源になっています)丁度、乾隆帝がモンゴル人を追い出すような事をしていたので、ダライ・ラマ8世は乾隆帝の建設計画を援助するかわりに、モンゴル人を追い回さないことを決意させまして、チベット人建築家と高僧を派遣して、立派な僧院を建てました。

■乾隆帝は大いに満足したのですが、1779年6月にダライ・ラマ宛に親書を送って来ます。立派な僧院が出来たから、パンチェン・ラマを招いて有り難い法話を聞きたいという希望が書かれていたそうです。こういう場合、お坊さんとしては張り切って出掛けて行かねばなりません。しかし、当時のダイラ・ラマ政権の内閣には、大反対の声が満ちたのでした。チベットには清で天然痘が大流行しているという情報が届いていたからです。しかし、乾隆帝の機嫌を損ねるのは得策ではないし、仏教の布教という意味でも行かねばならないと判断して、パンチェン・ラマは出発します。

■ラサから真東に進んで四川省から山を下る道も有りますし、青海省から西安に下る道も有ります。しかし、パンチェン・ラマ一行は、迷わず北上したのです!モンゴルの草原を通って迂回路を取ったのです。理由は簡単で、そこが最も衛生的だったからでした。内モンゴルから北京の北東に位置する熱河に無事に到着したのは翌1780年の7月22日だったそうです。かつての順治帝がダライ・ラマ5世の為に北京に建立した寺に招かれたパンチェン・ラマは、乾隆帝と政治的な懸案事項を話し合って成果を上げますが、予想通りに天然痘に罹って同年11月27日に北京で死亡してしまいます。細心の注意を払っていても、最高位の僧侶が死亡するのですから、恐ろしい話です。記録の日付は陰暦ですから、死亡したのは今の10月ぐらいです。夏の酷暑で体力を奪われた後、天然痘に感染したのでしょう。

■清朝ばかりでなく、元朝時代にも皇帝は夏の間は北に非難していて、北京には居なかったのです。理由は、不衛生だからでした。元朝の本当の都は北に有った上都で、大都と呼ばれた北京は暑くない季節の出張所みたいなものでした。ですから、SARS騒動の最中に江沢民さんが北京から消えるのは当然なのです。でも、人民には逃げ場が有りません。


中国農業省は17日、衛生省との連携強化や地方政府から中央政府への速やかな報告を求める予防措置を通達した。感染の疑いがある家禽1千万羽以上を処分し、ワクチン接種も急ぐ。11月初めには対策費20億元(約280億円)の投入を決めた。しかし、地方政府の担当者が責任の追求や投資の減少などを恐れ、不都合な報告をしないケースもあるという。

其の弐に続く

良い社説 其の参

2005-11-23 21:30:51 | マスメディア
其の弐の続き

■この期間に、有名な吉本興業は東京に攻め込んで、すっかりテレビ業界を占有するまでになったのですなあ。東大阪の中小企業群は元気だと報道されていましたが、そんなに頑張って稼いだ人たちが納めた税金をドブに捨て続けたとうわけです。アホらしうてヤッテラレヘンワ、と他の土地に移住する人は居なかったのでしょうが、これから大移動が始まるのかも知れませんなあ。職員御一同様が、ここまで根性が座っているのなら、国営自治体一番乗りをしてしまった方がすっきりしそうですが、行政サービスが極限まで落とされる住民の皆さんは大変です。


大阪市ではさらに市側と職員組合、市議会との根深い癒着があった。歴代5人の大阪市長は、いずれも助役出身だ。市長選ではいくつかの政党が相乗りし、職員組合が支援する。そんな構図が続いてきた。関氏もその一人である。

■ここが一番分かり辛いところです。政党の相乗りと組合とで選挙が支配され続ける。無党派層が半数を超えている日本で、どうして歴代5人の市長がまったく同じ選挙構造の中で当選し続けられたのか?それ以外の候補の出馬を徹底的に潰して来たという事なのでしょうか?始めから優れた候補が望めない場所なのでしょうか?そんな事も無いでしょうに……


大阪市民も市政への感心が低かった。政治権力をお笑いのネタにはするが、政治と向き合い、参加する人が少なかった。その結果、税金が食い物にされ、手痛いしっぺ返しを受けている。

■元々、大阪出身の朝日新聞社がここまで書くのですから、傷は深いのでしょうなあ。しかし、政治に何の影響も及ぼさない「お笑い」というのは決定的ではないでしょうか?欧米のジョークや笑いには痛烈な政治性が有って、最終的な政治バランスを生み出す原動力になっている側面が有ります。日本にも明治以来、そんな伝統は有ったはずなのに、政治とは無関係な場所にお笑いの客を求めた結果かも知れません。テレビも楽しめる芸能番組はすっかり消えて、ゲイニンたちが食ったりジャレたりするバラエティー番組ばかりになりました。昔、東日本でも見られた吉本の喜劇は、上手な社会風刺の技を持っていたような記憶が有ります。


関氏は、専門家らの協力で市政の改革案をまとめた。予算や職員数を大幅に削る。職員組合との不透明な話し合いはやめる。それらが柱だ。改革に消極的とみられた市幹部も辞めさせた。なのに突然、「改革案を民意に問う」と、市長を辞任した。労組とたもとを分かち、「市民運動型の選挙」で再選されれば改革に挑むと明言した。職員組合とは決別したが、自民、公明両党の支援は受ける。市民運動型とはほど遠い従来型で選挙に臨む。選挙公約に赤字が予想される「地下鉄延伸計画の凍結」を掲げながら、さっそく自民党などの反対で「『見直し』にする」と変心した。……全国有数の自治体、大阪市が自力で再生できなければ、分権の流れへのブレーキになりかねない。

■関市長は、小泉総理の解散総選挙と、辻元議員の選挙運動を真似て「言ってみただけ」なのではないでしょうか?何だかとても「気の良い人」のようですなあ。大借金を返すには、小泉さんよりも早く、大きな「増税」を決意するしかないのは、小学生でも分かる話です。変なゴミ処理場を建てて、今度は地下鉄を伸ばすのですなあ。こんなにころころ変わる市長さんが選ばれるのか、絶望に狂って冗談のような共産党市政に変えて笑いを取るのか、何を言い出すか分からない民主党市長に賭けるのか?どんな結果になっても、同情したくなります。民主主義にとって最も危険な「棄権」しかマトモな選択肢は残されていないような気になりますが、日本全体の将来を見せられているような気もしますなあ。

おしまい
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良い社説 其の弐

2005-11-23 21:28:48 | マスメディア
其の壱の続き

■国民年金資金がじゃぶじゃぶ集まって来て、大喜びした社会保険庁の親分の発言が記録に残っているのですが、それは自分達の天下り先を次々に作る資金にして「福利厚生」名目でどんどん使うという宣言でした。今回の酒屋さん達が預けた年金資金の流用は、福利厚生と言うよりも「生き残り」を懸けた買収工作資金として使われたようです。組合費を多めに徴収するとか、比較的大きな商売をしている組合員から資金提供を受けるとか、他の方法は無かったのかとも考えますが、年金加入者の皆さんがまだまだ御元気でばりばり働いている時期には、徴収と給付のアンバランスが極端ですから、「金が余っている」と錯覚するのが人情なのでしょうなあ。

■年金制度と言うのは一種の博打だと理解している人が少ないようで、利率の良い積立預金のように思っている人もいるようですなあ。給付年齢になる前に天に召されたら払い損ですし、給付年齢まで生き残ってもその後、20年30年と頑張っていき続けないと、収支は赤字のままになります。分かり易く「給付は120歳から」と決めれば、誰も支払わないでしょう。「平均年齢が80歳近い!」としつこく広報されていますが、「平均」という小学校で習う概念が分からない人も多いようです。「年金は助け合い」とお役人が言うのは、払い損を前提にしているのです。つまり、20歳から60歳までぴっちりと払い込んで貰って、満期の翌日に……して貰えるのが一番良いのです。そうなれば、資金はじゃぶじゃぶと余りますなあ。


……造り酒屋には、古くから名望家として地域のまとめ役を担ってきた人が多い。議員になった人も大勢いる。そうした親近感から、小売の酒屋さんもつい政治力に頼ろうとしたのだろうか。

■良いところを抉(えぐ)っています。地方の名家は、造り酒屋、味噌醤油屋、大山主と相場は決っていて、横溝正史の推理小説でもお馴染みです。今回の事件には、天下り役人が介在しているようですから、地方が政治家と役人に食い物にされたという構図です。マスコミに登場するむしられた方の人物は、人の良い騙され易い顔をしているような気がしますなあ。

■さて二本目の社説は、拙ブログでも何度か登場願った、大阪市長さんに関するものです。


「第三セクターの墓場」「職員厚遇のデパート」そんな陰口をたたかれるほど、どん底に落ちた大阪市のかじ取りを、だれに託すのか。関淳一前市長の辞任に伴う出直し市長選が13日に告示される。自民、公明両党が推薦する関氏と、共産党推薦で前大阪市議の姫野浄氏、民主党を離党し、市民団体の支援を受ける前民主党衆院議員の辻恵氏。事実上、この3人の戦いになりそうだ。

■こんな陰口が有ったのですなあ。こんな事を言われる自治体ならば、史上最低の投票率になるのではないでしょうか?投票率が20%を切ったら自動的に自治権剥奪、そんな法律が必要かも知れません。でも、大阪市が積み上げた天文学的な借金を国税で穴埋めするのは嫌ですなあ。


三セク破綻に代表される深刻な財政難をどうやって立て直し、元気な大阪を取り戻すのか。ヤミ退職金・年金やカラ残業といった常識外れの職員厚遇を続けてきた市役所の体質を、どう帰るのか。これが選挙の争点だ。

■本当にこれが争点なら、大阪の選挙民の皆さんは茫然自失、投票棄権しか選択できないのではないでしょうか?選挙道楽の共産党は勝手に楽しむでしょうが、民主党出身の候補が組合と大喧嘩など出来るはずはないでしょうし、関さんに何も期待出来ないとなれば、芸人の名前でも書いて怒りの表現をするのでしょうか?それも悲しいですなあ。


バブル経済がはじけたあとも開発路線をひた走った大阪市に残ったのは借金の山だ。このままでは数年後には財政再建団体に転落してしまう。企業でいえば倒産である。鉛筆1本買うにも国の許可が必要になる。それでも職員自身の厚遇は温存してきた。右肩上がりの経済を前提にした財政運営、縦割りの組織、情報公開の不徹底。何一つ時代の変化に合わせて改革することなく今日に至ったのだ。

其の参に続く