旅限無(りょげむ)

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雨の三日も降ればよい 其の四

2009-04-21 16:06:08 | 日本語
……日本漢字能力検定協会の大久保 昇前理事長(73)が、在任中にもかかわらず退職金およそ5,300万円を受け取っていたことがわかった。……およそ1年半前、在任中にもかかわらず理事会や評議員会に諮らないまま、退職金およそ5,300万円を受け取り、その後、分割払いで5,300万円全額を返済したという。……協会名義のクレジットカードで、飲食などをしていたことも明らかになった。協会名義のクレジットカード使用により生じた代金は、大久保前理事長が代表を務める協会の関係会社「オーク」が協会に支払っていたという。……
4月21日 FNNニュース

■記者会見の場では、「新しく就任した方が、これだけの組織を混乱なく運営できるかは懸念が多い。新執行部が軌道に乗るまで、お手伝いしたいと思う」と自分の影響力を最大限に残そうとする並々ならぬ決意を示していた大久保某でしたが、この騒動が起こるずっと前に「退職金」を受け取っていた!好き放題にカネを入れたり出したり、協会自体が便利なキャッシュ・カードみたいな物だったようです。勿論、最終的に支払い主は、いろいろな書籍を購入して一所懸命に勉強してくれる真面目な漢検の受検者の皆様なのでありました。

■その受検者が固唾を呑んで待っている合否判定の裏側にも、やっぱり生臭いゼニの臭いがぷんぷんしていたようです。


財団法人・日本漢字能力検定協会が、大久保昇前理事長らが代表を務める親族企業4社と巨額の取引を行っていた問題で、4社のうち大久保浩前副理事長が代表を務める採点業務などの請負会社「日本統計事務センター」が、採点や決済など検定業務のシステム開発に関し、委託料の半額以下で別会社に再委託していた疑いの高いことが21日、関係者の話でわかった。同センターがゲームソフト用の一部著作権料に関し、協会に対して業者から受け取った額の約1割しか支払っていなかったことも判明。不適切な利益取得の構図が浮かんだ。

■検定協会の名称にも「日本」の冠が付いていましたが、大久保父子はよほど「日本」という二文字が好きなようです。その上に「大」を付けなかったのがせめてもの遠慮だったのかも?ゲームソフトに目を付けて商売の幅を広げて行く経営感覚は大したものですが、それと検定の採点作業を平行させてしまうというのは、何とも人を喰った話のような気もします。捻り鉢巻で辞書や字典を片手に問題集に取り組むのは嫌だなあ、という受検者向けに「ゲーム感覚で漢検に合格!」とか何とか宣伝していたのでしょうか?所詮は漢字文化もゲーム感覚の領域ということのようです。


……協会は平成7年から同センターと取引を始め、検定試験の採点、検定料の決済業務や、これらの業務に絡むシステム開発などを委託。20年度までの14年間の取引総額は約99億3700万円にのぼるという。……このうち検定業務のシステム開発に絡み、17年10月~20年9月の3年間で、協会に対して約3億770万円を請求。センターは別の3社に再委託していたが、3社には約44%の約1億3540万円しか支払っていなかった。……このうち委託業務の一つの「新基幹システム構築費」について、協会への請求額が約9000万円だったのに対し、同センターの再委託先への支払額は2000万円だったと説明していることを取り上げ、「得ている利益が過大である疑念は払拭できない」と指摘している。

■6割近くもの中間搾取、これを「濡れ手に粟」の商売と言いいます。一度やったら止められない、実に気楽で美味しい商売です。否、これは商売とは呼べないかも知れません。受検者の数が右肩上がりで増え続ければ、この種のシステムはこれから先もどんどん規模を拡大しながらリニューアル作業が繰り返されますから、莫大な利益が約束されたも同然。


協会への請求書は同センター代表の浩副理事長が作成しており、協会の副理事長として取引に関して利害が相反する立場にあったが、関係者によると、第三者による承認は行われていなかった。……漢字検定問題などのデータ使用に関し、同センターが携帯ゲーム機用ソフトの製造・販売会社とライセンス契約を交わす一方、協会には同社からの著作権料の1割のみを収める契約を交わしていたことも判明。協会とセンターの契約書の押印者は、いずれも浩前副理事長だったという。……携帯電話サイトに関する別会社とのライセンス契約に関しては、センターは協会に著作権料を支払っておらず、2社が平成20年9月期までの2年間で支払った著作権料計約7600万円のうち、協会に渡ったのはわずか約700万円だったという。
2009年4月21日 産経ニュース

■こうした所業を漢字一文字で表わせば、「搾」「抜」「盗」のどれかになりそうです。搾られ、抜かれ、盗まれたのは受検料金や教材費だけではなく、漢字文化のそのものと日本文化の品位だったのかも知れませんなあ。それでも漢字検定を受け続ける人が残っているのが日本文化の良いところなのでしょうか?今のところ、漢字検定協会の上空には黒い雨雲が垂れ込めてはいても、長雨が降りそうな気配はなさそうですが……。
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雨の三日も降ればよい 其の参

2009-04-21 15:46:58 | 日本語
……文科省も改善指導で「取引全般の必要性が不明瞭」と指摘。協会は同社との取引解消を決めたが、10日に開かれた理事会・評議員会の提出議案では「広報業務のアウトソーシングは一般的に行われているもので、少なくともこれまでの取引には合理性があった」と説明し、両会で承認を得た。……ファミリー企業4社の直近決算期の売上高は計約約29億2400万円で、メディア社を除く3社も、うち77・9~82・9%を協会との取引に依存していた。
2009年4月20日 産経ニュース

■悪名高い天下り団体やら建設業界やら旧郵政省の話を手本にでもしたとしか思えない徹底した丸投げ・孫受けシステムがフル稼働しながら自己増殖し続けたというわけですなあ。


……協会は昭和50年に任意団体として同社が設立し平成4年に旧文部省の認可を得て財団法人となって独立。協会が理事会・評議員会に提示しないまま行った同社との取引額は、4~20年度の17年間で計約114億円にのぼり、うち漢字検定に関する書籍の製作・販売は約87億円……。取引量や額については大久保前理事長や長男の浩前副理事長が決定し、第三者による検証がなされていないことについて「財団法人としての協会の事業運営としては不適切」と批判。「オークの利益が大きく、仕入れ価格が不適正と評価される余地は否定できない」としている。……これに対し、協会は文部科学省に提出した改善報告書で、今月10日に開かれた理事会・評議員会でこれまでの取引について追認されたことから「合理性があったと認められた」と主張。さらに、協会は両会で、今年度も書籍関連で予定額約8億6700万円の取引の承認を求める議案を提出し、了承された。……
2009年4月19日 産経ニュース

■高い検定料を支払って受検するのだから不合格になったらカネが無駄になる!それより何より恥ずかしいし自分のプライドが許さない!と考えてしまう人情に付け込んで、教則本・過去問・予想問題などを売りつける。直接検定とは関係のない漢字に関する肩の凝らない「教養書」なども用意する受検者250万人!と豪語している協会ですから、飽くまでも強気の商売を続けられたのでしょうなあ。青息吐息の出版界でも、占い本と健康本と資格関連の書籍は売れ続けているそうですから……。

■「捨てる神あれば拾う神あり」と申しましょうか?「毒を喰らわば皿までも」という気持ちなのでしょうか?はやり、「盗っ人に追い銭」というのが最も適切かも?


太田市は4月から、英語、漢字検定試験の3級受検者に、受検費用の半額を補助する「各種検定助成制度」を始めた。資格試験への公的助成は珍しいという。漢検を巡っては、公益事業による過大な利益などが問題となっているが、市は「問題が早く収束し、公正な検定が行われるよう期待している」と予定通り制度を実施する方針だ。……補助の対象者は市内の中学3年生6049人。受検料は改定されるが、昨年の3級試験は英検が2300円、漢検が2000円だった。市は322万5000円を予算化……。昨年の中学生の英検3級取得者は552人(19・4%)、漢検3級は425人(14・9%)だった。……市教委は「今後は中学3年生の50%が英検、漢検の3級を取得できるようにしていきたい」と張り切っている。……
4月21日 毎日新聞

■最近、麻生コロコロ内閣が拙速に組み上げた緊急経済対策補正予算は「エコ」の二文字さえ入っていれば湯水の如くに予算が付けられたのだそうですが、「教育」の二文字さえ付ければ制度や政策の愚劣さや錯誤などはきれいに隠蔽されてしまうもののようです。それはちょうど入所者10人が焼死した無届け老人施設「静養ホームたまゆら」を経営していた、特定非営利活動法人(NPO法人)「彩経会」の高桑五郎理事長(84)さんが「福祉の理想郷」を今でも熱く語っているのを、誰も正面から否定したり罵倒したり出来ないのに似ています。「たまゆら」が建っていたのは太田市と同じ群馬県の渋川市でしたが、単なる偶然なのでしょうなあ。

■漢字検定を巨大な収奪マシンに成長させた大久保父子も同じことで、「漢字文化」の四文字を振り回せばすべての腐臭は掻き消えてしまいそうになります。相撲協会の「伝統」という二文字にも相当な魔力があるようですが……。

雨の三日も降ればよい 其の弐

2009-04-21 15:46:22 | 日本語
「漢字検定全員合格」を目指して毎回参加している同市内の別の学習塾は、今回も数十人の小中学生が受検する予定。同塾教室長(47)は「生徒がさらに上の級を目指して頑張ってきただけに、受検を取りやめるわけにはいかない。漢字検定の価値は変わっておらず、中止は何としても避けてほしい」と困惑ぎみに話した。

■検定問題に多くの問題を抱え込んでいる今までの漢字検定で、級が上がったからと言っても漢字能力が向上した証明にはなりません。まあ、既に高校や大学の受験に使えるツールにまで成長してしまった「漢検の級」ですから、受験産業としては実に困ったことなのでありましょうなあ。


同協会本部の地元・京都市内にある学習塾でも従来通り申し込みを受け付けているものの、担当者は「検定が実施されるか見守るしかない。いろいろケースを想定して対応を検討している」とうんざりした様子で話した。……個人の受検者を受け付けている大阪市内の書店では、申込件数は前回と大きく変わっていないものの、中止の場合に事務的な混乱が起こることを心配する。担当者は「中止になれば、預かった受検料の返還はどうするのか。店頭で一人ずつに返金するわけにもいかない」と困惑。6月の検定については「受検者の気持ちを考えると、協会の問題で一方的に取りやめるのはどうか。検定をやめるにしてもその次からにしては」と話した。

■あまりにも大きくなり過ぎた検定商売ですから、「今回が最後」ということにして幕引きするのが一番よいのかも知れません。こうした検定制度では、基本的に申し込みをキャンセルすることは不可能という規定になっているようですから、騒ぎが起こる前に申し込んでしまった人達の中には抗議の意を示すための「欠席」が続出するかも?


ジュンク堂書店大阪本店(大阪市)では、今年2月に行われた検定では100件前後の申し込みがあったが、今回は2、3割減少したという。ただし、漢字に関する書籍の売れ行きは好調で、担当者は「協会の問題とは別に、漢字を勉強したいという人が減ったわけではなく、意外と冷静に受け止めているのでは」と話した。
2009年4月21日 産経ニュース

■そろそろ、漢字も英語も変な検定試験に合格するために学ぶものではなさそうだ、と気が付いてもよいかも知れませんなあ。日本には諸橋轍次先生が完成させた親文字5万余字・熟語53万余語を収録した『大漢和辞典』全15巻(大修館書店)という世界最大の漢和辞典もありますし、白川静先生の漢字学三部作『字統』『字訓』『字通』という畢生の字典もあります。その他、無数の漢字文化に関連する名著があるのですから、こつこつと自分の興味の赴くままに気長に勉強を続けるのが最善の策でありましょう。

■それにしても漢字検定を思い付いた大久保某の銭ゲバぶりは凄まじい!


財団法人・日本漢字能力検定協会(京都市)が、大久保昇前理事長らが代表を務めるファミリー企業4社と巨額の取引を行ってきた問題で、うち広告会社「メディアボックス」の直近決算期の売上高は約3億2300万円で、ほぼ全額を協会の委託に依存していた……。協会の設置した調査委員会は、同社が請け負った業務の大半を別会社に再委託していると指摘し「取引の必要性自体がまったく認められない」と批判している。……協会は同社に機関誌の編集・印刷や、協会の年間プロモーション企画・進行管理業務にかかわる広報業務などを委託。平成9年度から取引が始まり、20年度までの11年間の取引総額は約36億3100万円……。昨年5月期の売上高は約3億2300万円で、調査委はほぼ全額が協会との取引だったと指摘。同社の同期の純利益は2600万円、純資産は1億3900万円だったという。……同社は再委託先からの請求額より高い額を協会に請求し、差額を抜き取る形で利益を上げていたとみられるという。

■最悪の「丸投げ商法」を展開していたようですなあ。

雨の三日も降ればよい 其の壱

2009-04-21 15:45:27 | 日本語
■漢字検定の問題が日々深刻化して行くようです。文科省が激怒したのは自省内からの天下りを受け入れなかったことへの意趣返しか逆恨みが原因か?などと勝手に想像しておりましたが、どうやら公益法人の漢検協会がやっている金儲けの凄まじさを相当程度まで把握した上でのことだったような気配が濃厚になって参りました。公益法人の不祥事と言えば、殺人事件に大麻事件、裁判には勝ったようですが噂が絶えない八百長疑惑など「再発防止」など悪い冗談にしか聞こえない相撲協会という横綱がおりますが、同じ文科省の管轄なのに漢字検定協会のように徹底的な攻撃対象にはなっていないのは、それこそ正に「伝統文化」の威光というものでしょうか?

■都都逸の中に「大工(土方)殺すにぁ~刃物は要らぬぅ~雨のぉ三日ぁも降ればいい~♪」というのがありました。『男はつらいよ』シリーズで寅さんがトラ屋の縁側で雨を見ながら口ずさんでもいましたが……。船頭殺すにぁ~10日も降ればいい~♪などの派生作品もあるようですなあ。何だか漢検にも当てはまりそうな気がしますなあ。


財団法人・日本漢字能力検定協会(京都市)が不適切な運営で文部科学省から指導を受けた問題をめぐり、受検希望者から申し込みを受け付ける学習塾や書店で困惑が広がっている。6月予定の次回検定について、文科省が協会に示唆した延期や中止が現実になれば、受検料の返還などの事務の混乱が起こるのを危惧しているのだ。「協会のもうけの片棒を担ぐのか」と保護者から批判されて、すでに受け付けを取りやめた学習塾も出始めており、関係者は検定の行方をやきもきしながら見守っている。

■理事に名前を連ねていたエイラ人達は素早くこっそりと辞任しているのに、受検する側の団体の方は奇妙なほど動きが鈍いようです。どこまで行っても文科省のお墨付きには絶対の信頼を置いているのか?単なる先例墨守の石頭ばかりが揃っているからなのか?『漢字という財産 其の六』で、高島俊男さんの言葉を借りて考えてみたように、既に漢字文化と漢字検定協会とはまったく無関係だという事は明らかになっているのですから、「別の指導方法を考える」の声が湧きあがって来ないのが不思議であります。


小・中学生を対象に漢字検定に力を入れている大阪市内の学習塾では、6月21日に予定されている21年度第1回検定について、40~50人の児童・生徒の受検を予定していたが、今回の問題を受けて参加を急遽取りやめた。保護者から「協会が利益を上げるのに加担するのか」との声も上がったといい、塾長(52)は「文科省の認可を受けながら、もうけばかり考えている協会は信頼できない。漢検に変わる手段があるか探している」と話す。

■こうしたニュースが流れ出す前に、「漢字検定ボイコット」を打ち出せば厳しい塾業界の中では大きな宣伝効果があったのでないでしょうか?漢字文化の保護と伝承などという大きな話ではなく、生徒達の漢字学習意欲を高めるためなら、手作りの教材やテスト問題を工夫するとか、専門の書店が編集してくれている既存の教材を吟味して選択するとか、漢字検定以外にも幾らでも方法はあるのですからなあ。寄らば大樹の陰とばかりに親方日の丸に擦り寄って、国家資格でも何でもない検定を受けて一喜一憂している人は、大久保親子にとってはネギを背負った鴨同然だったのですから、塾生の保護者が文句を言うのは当然のことでありましょう。

心優しい日本人?

2009-04-18 11:14:56 | 日本語
■漢字文化を食い物にした京都の商魂逞しい親子が文科省の逆鱗に触れて追い詰められているようです。就職難の時代には資格が物を言う!などという宣伝文句が氾濫している日本ですから、各種資格を取得するのを趣味とする資格マニアが現われたりしますが、特に就職に有利とも思えない「漢字能力検定」が巨大なビジネスへと無気味な急成長を遂げたのは、世に言う「サムライ商法」とは違った日本人に特有の感情につけ込めたからなのでしょうなあ。

■漢字の読み書き能力などというものは、短期決戦で何とかなる試験とは一味違って、長年の努力と知的な趣味や生活を続けていなければ維持も向上も望めないものでしょうから、何か究極のステータスを証明してくれそうなイメージにつながっているような気がするのでしょう。勿論、問題になっている財団法人が実施している検定試験のレベルと内容では、本当の漢字能力などを測る尺度にはならないことは専門家から指摘されている通りです。検定料金の安い初級検定を上手に利用して何かと褒めてもらいたがる子供たちの学習意欲を増進させるのは悪い事ではないでしょうが……。


財団法人日本漢字能力検定協会(京都市)がファミリー企業4社と巨額の取引をしていた問題で、大久保昇前理事長(73)、息子の浩前副理事長(45)=いずれも15日付で辞任=が不適正な支払いを続けて協会に損害を与えた疑いがあるとみて、京都地検が背任容疑での立件を視野に捜査を進めていることが17日、分かった。前理事長、前副理事長が代表を務める4社に対して協会が支払った委託料は、2007年度だけで約24億8000万円。支出総額の約4割を占めた。これまでに支払った総額は約250億円に上る。
2009年4月17日 時事通信

■向学心のある「自分を褒めてあげたい」人達から巻き上げた検定料金やら教材関連商品を売りまくった利益を、一滴も外に漏らさないようにグループ内企業に還流させれば、確かに面白いように大儲けできますなあ。最初は脱サラ塾経営者が始めた小さな「ニッチ商売」だった漢字能力検定が、あれよあれよと思う間に受験者を増やして社会的認知度を上げ、財団法人を設立して文科省のお墨付きを得る。それまでの努力と工夫は大したものだったようですが、最初から金儲け最優先で動機が不純だったのですから、当人たちは何が問題なのかさっぱり分からなかったようです。

■渋々役職を辞任したのも文科省に脅されたからで、決して漢字を食い物にしていい加減な検定問題で受験者を騙した罪を認めたからではありません。


財団法人「日本漢字能力検定協会」(京都市下京区)の今年度第1回日本漢字能力検定(6、7月)の受検者を、協会が例年の50%と試算していることが、内部資料で分かった。運営を支える団体受検者の10%が既に受検の見送りを決定しているといい、今年度の総受検者数は当初予測の3分の2の約200万人前後に落ち込むとしている。文部科学省から不適切な運営を指摘されたことが響いたとみられる。

■受験者が半減することよりも「200万人も受験する」ことの方が驚きです。大久保親子が悪いのではなく、検定協会という組織自体が詐欺同然の商売をするシステムになっていることが問題でしょうし、文科省が与えたお墨付きの威光が効いて日本中の教育機関や企業が組織的に大久保親子が構築した金儲けシステムの中に組み込まれてしまっている事はもっと大問題です。


協会の調査によると、昨年度の受検者約286万人の86%は学校単位などでの団体受検者。09年度も継続して受けることを決めたのは10%で、80%は「分からない」と答えたという。こうした状況から、第1回の受検者数を例年の50%と試算。回を重ねるごとに回復しても、年間で193万~223万人にとどまると予測した。

■何を根拠に「回を重ねるごとに回復」するなどという予測が出来るのでしょう?大久保親子だけに罪と責任を丸ごと押し付けてトカゲの尻尾切りをしておけば、心優しく忘れっぽい間抜けな日本人たちは再び漢字能力検定試験を受け続けるのは間違いない!とでも考えているのでしょうか?マスコミが報道する怪しげな動きをしていたカネは、元々、受験者が支払ったカネなのですから、それを承知で今年も200万人もの人が検定料金を支払うのでしょうか?大久保親子の悪事と「漢字文化」は別物だという都合の良い言い訳も考えられないことはありませんが、記者会見の様子を見ている限り、大久保親子が抜群の漢字能力を持っている人物とは思えません。

■検定協会の職員たちもどれほど漢字文化を尊重しているのかも怪しいものです。協会が名前を広告塔に利用した学者や有名人の中には、それなりの教養を持っている人もいるようですが……。


漢検の受検者数は、財団法人化した92年度以降は右肩上がり。今年度は当初297万人と見込んでいた。協会は06年度の250万人突破を機に「250万人の漢検」を掲げているが、250万人復帰は13年度になるとしている。協会のホームページによると、漢検資格を入試評価の基準の一つとしている大学・短大は全国490校、単位認定に活用している高校も多い。最新の事業計画書は「(こうした活用を)取りやめるなどの動きが出てきた場合は、さらに減少が進むと考えられる」と危機感を募らせている。
4月14日 毎日新聞

■今の総務大臣が文部大臣だった時に受験指導用の「業者テスト」が槍玉に挙げられたことがありましたなあ。最初は埼玉県内で塾帰りの女子生徒が事件に巻き込まれたのが切っ掛けだったはずです。塾業界の管轄は当時の通産省だったので、文部省は自分の縄張りの学校内から塾やテスト業者を締め出す方法を考えました。日本中の中学校では日曜日に業者の合格診断テストを実施していたのを問題視して、立派な情報データ産業に成長していたテスト業界自体を露骨に標的にするわけには行かず、学校の先生たちが業者テストの監督や採点のアルバイトをしている事を徹底的に糾弾したのでしたなあ。

■今回の漢字能力検定は、合格可能性を計算して進路指導に使うようなレベルではなく、入学試験の得点やら単位に化けて大学・短大の内部に侵入してしまっているわけであります。200億円以上もの怪しいカネを集金しているのが文科省が管轄する学校なのですから、お墨付きを与えたのは間違いだったと文科省自身が謝罪しない限り、この「集金システム」は壊れそうもありませんなあ。まあ、受験者がぱっと煙のように消えてしまえば話は簡単なのですが……。


文部科学省から公益法人として不適切な運営を改善指導されている財団法人「日本漢字能力検定協会」(京都市下京区)理事を務める明石康・元国連事務次長が8日、協会に辞任届を提出した。明石氏は01年5月に理事に就任。年2回の理事会は欠席気味で、一連の問題発覚後の2月に、2回開かれた理事会も続けて欠席した。評議員13人の中では、講談社の野間佐和子社長が既に辞意を表明している。
毎日新聞 2009年4月9日

■日本中のマスコミが「テポドン騒ぎ」をしている時に、ひっそりと理事を辞任するとは、さすがは明石さんですなあ。そもそも就任した経緯やら任期中に考えていたことなどを突きまわされたら大変なダメージを受けるでしょうから、こうして「理事会は欠席気味」というアリバイも用意して、ちょっとした被害者を演じてみせるところも上手ですなあ。

■さてさて、今年の受験者数はいか程になるのでしょう?
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漢字という財産 其の七

2009-03-13 18:39:03 | 日本語
■2003年から5回も「実地検査」を繰り返した文科省の姿は、毒ゴメ事件で共犯扱いまでされた農水省の出先機関を彷彿とさせますが、オウム真理教の最終的な管轄も文科省だったというのは因果な話であります。流石にオウム真理教には「天下り」役人は居なかったようですが、一説には日本漢字検定協会が文科省に付け狙われたのは「天下り」を拒否されたからだ!という身も蓋も無い話があります。文科省が正義の味方みたいに「公益のくせに儲け過ぎだ!」と義憤に駆られたようなことを言っているようですが、本音は「儲かったのは文科省の御蔭なのに天下りさせないとは怪しからん」という実に「さもしい」話。大儲けしている公益法人は他にもたくさん存在しているのに、しっかり天下り役人と儲けを山分けしているから安泰だとか……。

■漢検の受験者が急増したのは財団法人の威光ばかりでなく、大久保昇氏の息子で協会副理事長になっている浩氏が電話営業などの積極策を推し進めたからだいう話が『週刊朝日』に出ていますから、不動産業者が始めた怪しげな漢字検定に文科省が目を付け、そこに有名人やら学校関係者も群がって時ならぬ「漢字ブーム」が起こったという事なのでしょうなあ。でも、漢検用の教材などに手を出さなくても、自分の漢字力や言語能力を高めるのに役立つ良い本は山ほどあるのですから、役人が喜ぶだけの資格を取得しようと目の色を変える必要はないでしょう。

■試みに立派な理念でも掲げてあるかと、日本漢字検定協会のHPを覗いてみましたら、以下の文章くらいか見つかりませんでした。宣伝めいた「漢検のメリット」をくどくどと説明するコーナーや、漢検資格を単位認定に使っている学校名を羅列したページ、そしてお決まりの「合格者の声」などが載っているだけでした。


……近年では生涯学習が叫ばれていることからこのように様々な年齢層の方々に受検されています。これは漢字能力検定の魅力のひとつといえます。また、ワープロの普及によってワープロを効率よく、正確に、かつスピードをあげて打つには最低限度の漢字の知識が必要になることから漢検合格を目標として学習する方も増えてきており、企業の中には、漢検合格のための特訓講座をもうけるところまででてきています。さらに、漢検取得者を入試で評価する大学・短大の増加や、大学・高校での単位認定校の増加により、漢検の重要性が認められています。

■何故、今、漢字なのか?ボケ防止とワープロ入力の効率化に本当に漢検が必要なのか?もう一つ漢字検定の文化的教育的意義が明確になっていません。でも、高校・大学・企業へと浸透し続ける漢検の「魅力」は懇切丁寧に説明されていますぞ。こういう営業用の宣伝文句にうまうまと乗せられるようでは、あまり文化教養のレベルは高くないと判定されてしまいそうですなあ。漢検に関する寂しい話はこれくらいにしておきましょう。

漢字という財産 其の六

2009-03-13 18:38:46 | 日本語
■高島俊男さんの御指摘によりますと、「準1級、1級」の問題という代物は、

漢和辞典や漢字漢文の本から、なるべくむずかしげな、自分でもわからない字やことばを拾って問題にするのだろうが、その問題がまったく無系統で断片的……

なのだそうですから、教則本・練習問題・予想問題などなど、いくらでも濫造できることになります。もう少し、高島俊男さんの言葉を引用しますと、漢検に合格することは「無知、あるいは浅薄な知識をすすめ、もしくは品性低劣をすすめることになる」のだそうで、実際に出題された内容には「言語のバランスを失した文章がぞろぞろ出てくる」のだそうです。そんな問題を銭を貰って作っている「問題の作者は、現代口語文について常識がない」と切り捨てられてしまいます。出題者は「無知の極み、救いようがない」とまで断言されますと、何処かに今も暮らしている「出題者」がちょっと可哀想になりますなあ。

■悪口雑言のようにも思えますが、高島俊男さんが選び抜いた?珍問・愚問・大間違いの実例は『文藝春秋』4月号で御確認ください。虎の威を借るように高島俊男さんの言葉を引用してしまいましたが、実は旅限無も漢検2級の認定を受けております。以前に勤務していた某学習塾の指導方針に従って受験したまでの事ですが、勿論、人を喰ったような教則本や問題集の類はまったく購入しなかったのは不幸中の幸い?塾生の保護者の皆さんも熱心に受験していた姿を思い出しますと、あの後、大久保商法に載せられてしまったのでは?と少し心配にもなりますが……。

■大久保昇氏の立身出世?の概要が新聞記事に掲載されていますので、手元にある『週刊朝日』2月13日号などを参考にして一部手を加えて引用します。


1971年 大手家電メーカーを退社した大久保昇氏が不動産会社「オーク」を設立。

1975年 オークの事業として任意団体「日本漢字能力検定協会」を設立。第1回試験の受験者は672人。

1992年 財団法人となって漢検は文部省認定の技能資格になる。

1995年 受験者は40万人。

1997年 年間受検者100万人を突破

2002年 年間受検者200万人を突破

2003年 文科省が実地検査。
2004年 文科省が実地検査。
2006年 文科省が実地検査。収支均衡対策を兼ね漢検9、10級新設。
2007年 1級と準1級の受検料を値下げ。受験者は272万人。
2008年 文科省が実地検査を実施し「もうけすぎ」を指摘
2009年 文科省が異例の5度目の実地検査

2009年3月10日 毎日新聞

■ざっと見渡しますと、何だかオウム真理教と同時期に旗揚げして急成長しているような印象を受けますなあ。オウムが地下鉄サリン事件のテロを仕掛けて暴発した年を挟んで、大久保商法は文部省の認定を受けて100万人も信者ならぬ受験者を掻き集めていたことになりますなあ。旅限無が受験したのはオウム真理教の恐怖が日本中に充満していた96年頃だったはずです。オウム真理教の教祖様は偽薬の販売で摘発された前科を持つ自称救世主でしたが、大久保昇氏の本業は不動産業だったそうですから、80年代から京都市内の不動産を買い漁ったというのも無理からぬ話かも?

漢字という財産 其の伍

2009-03-12 19:19:16 | 日本語
協会本部はこの日、約20人の報道陣に「誠意を持って対応していく」など3行のコメントを書いた紙1枚を配布。女性広報担当者が「このコメントがすべて。今後お伝えすることがあればホームページで」と話した。今後の対応などについて、大久保昇理事長(73)ら協会トップによる説明を求められても「理事長と副理事長はこのビルにはいない」「理事長と連絡を取れる上司は出張中」「私には分からない」と繰り返すだけだった。

■漢検1級レベルの見事な文章を発表するかと思いきや、たった3行のコメントだけ!?しかも「誠意」という熟語を分解してみると、「誠」小学校6年生、「意」は小学校3年生の学習漢字ですから、前者は漢検5級で後者は8級のレベルということになります。6000字を自由自在に使いこなして故事成語も各種熟語にも精通している1級レベルの文書を発表する義務があるのではないでしょうか?集まった20人の報道陣が思わず赤面するようなインパクトが欲しかったですなあ。

■蒼褪めているのは文科省のお墨付きを信じ切って漢検資格を生徒や受験生に強要して結局は銭ゲバ・大久保一族の手先になってしまった日本中の学校の先生方は大変です。


09年度、漢検取得を評価基準の一つにしている大学や短大は全国で490校。京都の立命館大などは「特に見直しなどは検討していない」としているが、ユニーク選抜で点数加算している大阪市立大経済学部は「受験にかかわる問題なので」と回答を避けた。

■恐怖の「全入時代」に突入している日本の大学は、少しでもマトモな生徒を獲得しようと、最低限度の読み書き能力を調べる尺度になるとて、直ぐに跳び付いたのでしょうが……。漢検制度(商売)自体の怪しさは読み解けなかった模様です。


2級以上に合格すると国語の2単位として認定する千葉県の公立高の教頭は「今のところ見直す予定はないが、漢検の社会的信用や価値が下がってくればどうなるか分からない」。漢検に合格すれば推薦入試に出願できる栃木県のある高校の入試担当者は「検定そのものに不正があったわけじゃないし、今までの実績もあるので」と困惑。同様の北海道の私立高の担当者も「事態の推移を見て判断するしかない」とする。

■この栃木県の高校教師には、最新号の『文藝春秋』4月号212頁に掲載されている高島俊男さんの『ああ、漢字検定のアホらしさ』を熟読することを強くお薦めしておきましょう。流石は高島俊男さん!……「漢字検定とはどういうものか。ちょっとのぞいてみた」と、トボケて見せてから「アヤシゲな」団体が作り続けた「アヤシゲな」問題を次々と俎上に載せて腕の良い板前さんの如く、或いは快刀乱麻を断つ如く、これでもか!と「アホらしさ」を山盛りで実証して下さっておりますぞ。『文藝春秋』の記事を読んで声を出して笑ってしまったのは初めての経験かも?


受検者の側は、子供3人が漢検を取得している大津市の主婦(52)は「勉強の励みになり、キャリアにもなると思って勧めていた。一体受検料を何に使っていたのか。いかがわしい感じがする」とまゆをひそめた。準2級を取得している同志社大社会学部3年の男子学生(21)は「特に資格を持っていないので、就職活動のエントリーシートには仕方なく『漢字検定』と書いている。それほどもうかる事業とは思いもしなかった。完全に営利企業ですね」と驚いていた。

■何の役に立つのか分からない、否、何の役にも立たないことが文化的な価値なのだ!と自分に言い聞かせて学齢を過ぎても漢字検定の級を一つでも上げようと頑張っていた人も多いかも知れませんが、多少のボッタクリはあったにしても、合格の「紙切れ」一枚で天にも昇る達成感や充実感が得られたのなら諦めもつきそうです。しかし!英検を手本にして際限もなく「教則本」だの「過去問」だのを買わされ続けた人は怒り心頭に発してしまいますなあ。

漢字という財産 其の四

2009-03-12 19:18:35 | 日本語
其の参を書いたのが昨年の10月17日ですから、ちょっと間を空け過ぎてしまいました。1000年以上もの歴史を積み上げて来た漢字文化の話ですから、そんなに急ぐこともなかろう、などと思っていた時には、まさか「漢字能力検定」を巡るおぞましい疑惑が湧きあがるなどとは想像もしておりませんでした。あまり楽しい話でもないし、漢字文化に対する理解が深まるような話でもないのですが、今の日本で漢字がどんな扱いを受けているのかを知る手掛かりくらいにはなるでしょうし、「漢字という財産」を食い物にした寂しい欲張り爺さんが出現したという恥ずかしい現実を再確認するのも、何がしかの意義があるかも知れません。

■大久保某という欲ボケ老人が、漢字文化を商売道具にしようと考えて文科省という呑気な役所からお墨付きを貰って財団法人格まで手に入れて、怪しげな商売を「公益事業」に仕立て上げたのだそうですが……


文部科学省から(3月)10日、抜本的な運営見直しを求められた日本漢字能力検定協会。京都市下京区にある協会本部は、詰めかけた報道陣にコメントを紙で配布しただけ。受検者270万人の「マンモス検定」は今後、どうなるのか。検定を活用している学校や漢検取得者の間に、戸惑いや怒りが広がった。

■多くの日本人が弱点とする「資格」コンプレックスに付け込む悪質な詐欺商売が何度も問題になりましたが、一つの言語の表記文字を個人的な商売道具にしてしまったのですから、並大抵の商魂ではなさそうです。「鰯の頭も信心から」というレベルで始まる新興宗教も多いようですが、信仰に近い神経症的な英語コンプレックスも今の日本では良い商売のネタになっておりましたなあ。しかし、何処まで行っても外国語商売には集客力に限界があるらしく、「駅前留学」なる奇妙な宣伝文句で荒稼ぎしていた英会話学校が倒産したのは昨年の事だったはず。

■おそらくは漢字検定協会が手本としたと思われる英語検定の方は、さすがに長い歴史があるだけに受験者数の累計は7500万人にも及んでいるそうです。しかし、グローバル(アメリカ)化の時代になると「TOEIC」という強力なライバルが出現しあて大ブームを起こし、地味ながら「国連英語」という資格もちょっと人気になったようで、1999年度に約350万人もいた英検の年間受験者は、あれよあれよと思う間に250万人程度に減ったとか……。もともと中学生をターゲットにしていた英検ですから、大学受験とリンクさせて高校生を巻き込んでも、その以上の年齢層にはそっぽを向かれていたようなものですから、少子高齢化の波に飲み込まれたとも言えそうです。

■高校受験や大学受験でポイント換算して貰える!と宣伝している一方で、あまりにも手を広げてしまったばかりに「問題漏洩」事件が何度も起こり、真面目に試験に取り組んでいた若者の不信感を増してしまったのも受験者減少の一因かも知れませんなあ。

漢字と演説 

2009-01-22 02:08:20 | 日本語
■たった19分間の演説なのに、極寒のワシントンに120万もの人々が足を運び、世界中のマスコミが取材し特集を組む。それは「腐っても鯛」ならぬ「ブッシュの後でもアメリカはアメリカ」である現実を誰もが認めざるを得ないからでしょう。別にオバマ大統領の一家がホワイトハウスに入居するのに合わせたわけでもないのでしょうが、日本の麻生コロコロ首相も就任してから118日も経過した1月19日に、首相官邸に引っ越したのだそうです。奥様と東京大学3年生の長女も同居するとの事なので、早速、口の悪い人から「娘に漢字を教えてもらえば良い」などと言われているとかいないとか……。

■その麻生首相はオバマ米大統領の就任演説を聞いた後、感想を聞かれまして、「今、世界における経済危機についての認識は一致している。国民の潜在力を引き出すという(解決のための)手法も同じだ。こういう感じであれば、世界1位、2位の経済大国が手を握っていけるなと確信した」と記者の質問に答えたのだそうです。日本国首相としての矜持(きょうじ)なのか、単なる強がりなのかは判断しませんが、「世界2位の経済大国」だと胸を張ってみても外国のメディアはまったく取り上げないでしょうし、日本国民でさえ誰も感動しないでしょうなあ。同じ「引越し」でも世界1位と2位とではメディアの扱い方は雲泥の差で、何よりも首脳の交代に関する報道の量と質が全然違います。

■世界的なスポーツ大会ならば、1位と2位、金メダルと銀メダルとの差は僅かなものなのでしょうが、国際政治の場合は1位の地位は図抜けております。米国の一極支配は間も無く終わると言う人もいるようですが、今回の金融危機には勝者となった国は無いのですから、今の米国が塩をかけられたナメクジみたいにみるみる縮んで行くとも思えませんし、軍事力でも米国に対抗できる国はなかなか現われないでしょうから、米国を中心とした世界の構造はもう暫くは続くと思った方が良いのでしょう。

■古い皮を脱ぎ捨てる大蛇か、自ら炎の中に飛び込んで復活する不死鳥のように、4年に1度か8年に1度、米国は熱狂的に節目を迎えます。それを象徴するのが大統領就任演説であります。2期8年務めたブッシュ大統領は珍妙な発言で大いに楽しませてくれた人でしたから、詩人か預言者のような演説の名手であるオバマ大統領の「演説」は、米国にとっては干天の慈雨か砂漠のオアシスみたいな物だったでしょうなあ。そんな感動的な「言葉」を世界中が待っていた1月20日、日本の議院予算委員会では、民主党の石井一副代表が世界第2位の経済大国の首相を相手に、漢字の小テストをしたのだそうです。嗚呼。

■石井さんは、月刊誌「文芸春秋」に掲載された麻生首相の手記をテキストにして「就中(なかんずく)」など12個の漢字熟語を並べたボードまで用意して議場に持ち込み、御丁寧に問題用紙を事前に渡しておいて、「先に渡してあるから今なら読めるだろう」と喧嘩を売ったとか……。それに対して「多分、みなさんが読みにくいのは『窶し(やつし)』ぐらいではないか。後の漢字は普通、みなさん読める」と麻生首相は真面目に応対したとのことです。石井さんは「ゴーストライター」による代筆ではないか?と追い詰める予定だったらしく、すっかり有名になった未曾有を「みぞうゆう」踏襲を『ふしゅう』と誤読した事を状況証拠にして麻生首相を吊るし上げたそうな。

■麻生首相の漢字力を大喜びしてネタにして楽しんだ日本のマスコミですから、石井副代表の意地悪テストを政治ニュースとして取り上げるのも不思議ではありません。しかし、この時の質問は消費税の引き上げに関する質問と、何よりも公明党と創価学会との癒着関係を指摘して政教分離の議論に持ち込もうとするのが眼目だったのでした。テレビも新聞も、その場面については無気味な沈黙を守っているようですし、その箇所を議事録から削除しろ!と切り替えした公明党議員の発言も無視しているようです。国会の議論には記事にする価値のある部分があまりにも少ないので、場外乱闘みたいな政局話ばかりが取り上げられ、情報源を明かさない「噂」を仕入れて来るのが政治記者の主要な仕事になっているのも情ない話です。

■オバマ大統領が行った19分の演説は、単に新聞記事になるだけでなく、無数の出版物に引用され音声や映像のソフトとなって出回るのは確実です。既に自伝やエッセイは米国だけでなく他の国でもベストセラーになり、数ヶ国語に翻訳されているくらいの大人気。日本の首相が書いて売れたのは田中角栄さんが子飼いの官僚達を集めて書かせた『日本列島改造論』くらいなもので、安倍さんの『美しい国』や麻生さんの『とてつもない国』では太刀打ち出来ません。小泉さんの郵政民営化に関連した本も、一時の話題で終わりまして、パロディ集団の「ニュースペーパー」の方が人気は長続きしそうです。


自民、公明両党の衆参両院国対委員長は21日、国会内で会談し、野党が2008年度第2次補正予算案の週内採決に応じない方針を決めたことへの対応を協議した。その結果、麻生太郎首相の施政方針演説など政府4演説を23日に衆院で行うことも辞さない方針で一致した。ただ、野党の反発は必至で、与党は民主党などの出方を見極めながら最終判断する方針。
1月21日 時事通信

■ 「政府4演説」というのは、首相の施政方針演説、財務相の財政演説、外相の外交演説、経済財政担当相の経済演説を総称して言うのだそうですが、どうせ役人の作文を切り貼りして棒読みするだけの事ですから、施政方針演説1本だけでも、議場では居眠り、携帯電話遊び、落書き、私語が目に付きます。野党側からは下品な野次が飛びますが、与党席や傍聴席でスタンディングオベージョンが起こって拍手の音で演説が中断するような光景にはとんと遭ったことがありません。それを1日に4本も連続して聞かされるのでは、野党席での居眠りが続出しそうですなあ。

■本当に日本は米国と同じように「100年に1度」の危機に直面しているのでしょうか?

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日本語学習教材から透けて見えるもの 

2008-12-31 11:07:16 | 日本語
■北京五輪で活躍した選手の中で、ほんの数人が今でもマスコミの玩具にされているようです。CMや特別番組に顔を出す人もいますし、柔道の石井クンのようにちょっとアザトいパフォーマンスを繰り返し過ぎて、本業が何だか分からなくなりそうな人も居ます。野球の星野監督のように「自業自得」という道理が理解できずに恥の上塗りを重ねている人もいますが……。多くの人は、平和の祭典と呼ばれる五輪大会が開催されたはずなのに、まったくその実感が無いなあ、と思っているのではないでしょうか?

■「あなたとは違う」福田ホイホイ首相が、あれほど気を使って協力し、日本のマスコミは挙(こぞ)って友好ムードを盛り上げたというのに、日中関係は相変わらず芳(かんば)しくないままで、新年がそこまで来ているような時期に、来年もよい変化は望めそうもないニュースが入って来ました。


日本のNPO法人が編集した日本語教材が中国で今秋出版されたが、原本に史実として収録されていた「旧日本軍医が多くの中国人を助けた」との内容に対し、中国側が「問題がある」として削除していたことが29日までにわかった。中国では愛国主義教育の一環として、日本軍の残虐さを誇張して描写した書籍が大量に出版されており、こうした日本軍のイメージと矛盾しているため中国側が難色を示したとみられている。

■歴史の正誤判断は北京政府の独占事項ですから、この程度の介入があっても不思議ではありません。恐るべき検閲制度を持っている国を相手にする場合は、当方の善意が想像を絶する曲解を受けるのは覚悟しておかねばなりません。拙著『チベ坊』にもチャイナの奥地で日本語を教えた体験を書きましたが、使用する教材には細心の注意が必要でした。芥川龍之介の『蜘蛛の糸』に始まって夏目漱石の『坊っちゃん』に到ったチベット語翻訳実習も、信頼出来る複数の人に依頼して、取り上げる作品の内容を事前に吟味して貰ったものでした。


この日本語教材は、北京の大手出版社「外語教学と研究出版社」が9月に出版した「日語読庫」で、日本のNPO法人、日本語多読研究会(本部、東京)が外国人向けに編集した「日本語多読ライブラリー」(アスク出版)を原本にしている。日中の両出版社は当初、同じ内容の掲載を前提に話を進めていた。ところが、中国側が突然、変更を求めてきたという。

■副読本として使える教材の多くは、日本の文化や習慣を紹介したり、ちょっとした観光名所の説明をする程度の当たり障りの無い物が多かったと記憶しますが、新しい日本人作家の文学作品が人気を博したりするような時代になってからは、こうした一歩踏み込んだ「日中友好」を考える企画も出て来るのでしょうなあ。でも、歴史に関係する内容に手を出すのは、特に現代史などは誰かさんの逆鱗に触れる危険がありますから、よほど慎重に事を運ばねばなりませんぞ。


この教材にはもともと、「雪女」「走れメロス」など日本のおとぎ話や短編小説、伝記など5つの文章が収録されていたが、中国側が問題視したのは「永井隆、原爆の地 長崎に生きて」という文章だった。長崎に原爆が投下された後、自分も被爆しながら、多くのけが人を治療した医者、永井隆氏の生涯をつづった文章で、1937年に永井氏は軍医として中国に赴き、日本人だけではなく、病気や負傷をした中国人を多数治療したことも紹介されている。そのうち、「1939年には1年間で4000人の中国の人々を助けた」などの部分について、中国の出版社が「記述に問題がある」として日本側に手直しを求めてきた。

■この記事を読んでいて、ずっと気になっていた正体不明の映画の事が急に気になり始めまして、あちこち検索してやっと発見しましたぞ!何せチベット語を学びに行った青海省で偶然にテレビで観た作品なので北京語に吹き替えられていた上に、途中からの鑑賞なので題名も分からず、画面から判断するに日中戦争当時の大陸を舞台とした苦労話らしいのですが、のべつ幕無しに放映されている「共産党よ有難う!」を教え込むための宣伝映画とは雰囲気が違うし、主演が個性的な顔をしたドナルド・サザーランドだったので、頭の中は大混乱したのでありました。

■題名は『黄土の英雄 -軍医ベシューンの生涯-』というのだそうです。いろいろ検索して廻ってeiga.comで目出度く発見!1990年のアメリカ映画とありますから、あの撮影はチャイナの現地ではないのかも知れません。要するにカナダ人医師が日中戦争の最中にチャイナに来て、「病院のずさんな衛生状態に激怒、医療レベルの向上に乗り出す。そして多くの人命を救いながら、医師や看護婦の育成をし、中国人に医学を教えていく。そんな彼も患者の傷から伝染病に感染。ついに息を引き取る。中国人たちの手によって行われた葬儀は盛大なものであった」という実話を基にした映画のようです。

■先日も米国空軍が秘かに蒋介石を助けるために派遣していた「フライング・タイガー」部隊が日本の主要都市を専制爆撃する計画があったという秘話をテレビ朝日が探り出すドキュメンタリーが放送されましたが、日本は真珠湾を攻撃する前から連合国と戦っていたのは歴史上の事実でありますから、カナダ人医師が軍医となって大活躍するのは当たり前でしょう。そして、感謝の意を込めて全国向けのテレビ番組として放送するのも当然なのでしょうなあ。

■朝鮮戦争当時の移動野戦外科病院(M☆A☆S☆H)をそのまま題名にした1970年公開の名作でも軍医役を演じたサザーランドが、コメディではなくシリアスな軍医役を演じているのも何かの縁なのかも知れません。しかし、同じような軍医の行動が出身国によって受け取り方がまったく違ってしまうようでは困りますなあ。そう言えば、北京五輪直前に発生した四川省のパンダ大震災でも、日本から駆けつけた救援隊に対して、何かと邪魔が入って活躍出来ないように仕向けるような動きが目立ちましたなあ。


日本側は、執筆の際に参考にした「永井隆全集」など多くの史料を中国側に送り、説得しようとしたが、結局「永井隆」の部分はすべて削除して出版された。アスクの担当者は産経新聞の取材に対し、「この教材は外国人向けの読み物であり、日本人の中には永井隆博士のように素晴らしい人物がいることを、ぜひ中国の皆さんに知ってもらいたかった」と述べた。中国側と何度も交渉したこの担当者は「削除は中国側の出版社の現場の意見ではなく、上の方の判断」との印象を受けたという。中国の外語教学と研究出版はこの件について「ノーコメント」としている。同教材は2007年10月に韓国で出版され、来春は台湾でも出版される予定だが、いずれも原本のままで、内容については問題視されていない。
2008年12月29日 産経ニュース

■日本には立派な人物など居ないんだ!と言いたくて仕方がない人物が「上の方」で頑張っているということです。北京五輪の聖火リレーの騒動、大会中の行儀の悪い観客の姿、なかなか付き合い易い国になるのには、まだまだ長い時間が必要なようであります。

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最も身近な知的遺産 其の参

2008-11-09 17:51:59 | 日本語
関東地方のある図書館。半年ほど前、館内を巡回中の男性職員は、料理雑誌を持ち歩いている中高年の女性が、出て行こうとしているのを見つけた。館外で呼び止めると、女性は「本が勝手に落ちてバッグに入った」。そして、「盗んだという証拠はどこにある」と怒り出し、職員が謝罪すると、ようやく雑誌を返した。この職員は「持ち出しを指摘されても、平気で居直るケースが増えてきた」と困惑を隠さない。

■スーパーマーケットでの万引きは、捕まえてみれば中高年の女性が多いという話もありましたなあ。ここに出て来る盗み方はスーパーでの万引きとそっくりなのは単なる偶然なのでしょうか?盗んだ本を見ながら、盗んだ食材で作った料理がたまらなく美味しいのなら、こんなに悲しい食生活はありませんなあ。罵声を浴びせられた図書館員の方は警察官でもないのに収蔵物の警備をしなければならないとは、実にご苦労様なことであります。


東京都港区や鳥取市、福岡市などは、貸し出し手続きをしていない本が通過すると警報が鳴る防犯ゲートを導入。宇都宮市の図書館では2004年度に年間6900冊の本が行方不明になったが、05年度に防犯ゲートを設置すると、被害は減り始め、昨年度は1424冊にまで減少した。ただ、同図書館の職員は「市の予算が、新しい本の購入ではなく、防犯費用に回ってしまうのは非常に残念」とつぶやく。

■防犯ゲートを導入しても盗み出す馬鹿者がいるのなら、国際空港並の厳戒体制を敷かねばなりませんなあ。稀少本を図書館から盗み出してネット上で売っているような人物も居そうな気がしますし、ベストセラーの新刊本を抜き出して新古書店に持ち込んで小遣い稼ぎしているような人も居そうですなあ。


雑誌の最新号が持ち去りのターゲットにされやすいため、都内のある区立図書館は昨年秋以降、若い女性向けのファッション雑誌の最新号を書架に置かず、カウンターで管理している。持参してきたカバンに本を入れて持ち出せないよう、手荷物の持ち込みを禁止した図書館も。しかし、関東の図書館の館長は「手荷物を禁止すると、赤ちゃんのいる利用者はおむつを持ち込めなくなる」とためらいもみせ、「自分さえ良ければという考えが、多くの利用者の自由を奪っている」と指摘している。
2008年11月9日 読売新聞

■「若い女性向け」という所が気になりますなあ。先に出ていたのは中高年の婦人で、今度は若い女性ですか?最新号のファッション雑誌を買い揃える義務が図書館にあるのかどうか、これも考え直して方が良いかも知れませんぞ。本屋の棚に並ぶ雑誌類の多さを考えれば、あれもこれもと目を引かれる思いに駆られるのも分かりますし、グラビア頁が多い雑誌となれば値段も高い!毎月まとめて買っていたら出費が嵩むし読み終わった後の始末も大変だ!それが無料で利用できる図書館に並んでいれば……。

■「世界遺産」なるものが指定されるようになりまして、観光産業やテレビ界では大喜びしている模様で、関連する出版物も出回っているようです。しかし、「遺産」の意味も分からず押し寄せては「遺産」を傷つけたりゴミを散らかしたりする困った人が多いとも聞きます。歴史的価値が分からない人を呼び寄せるだけなら「世界遺産」などはさっさと廃止した方が良さそうです。身近にあって便利な公共施設にも世界遺産と同じような文化的な価値がある事を学び直さねばならないようです。しかし、小中学生ならば授業で教えられますが、中高年には誰が教えたらよいのやら……。補充が不可能な貴重な本を盗む罪を思い知って貰うには、やっぱり警察沙汰にして一罰百戒の効果を狙うしかないのでしょうか?公共図書館にも防犯カメラが並ぶ日も近いのかも知れません。しかし、それはとても恥ずかしい事であります。
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五劫の切れ端(ごこうのきれはし)仏教の支流と源流のつまみ食い

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最も身近な知的遺産 其の弐

2008-11-09 17:51:34 | 日本語
……複数の自治体で、カバーや表紙から本の中身が引きはがされて持ち去られる「中抜け被害」が確認された。都内のある図書館では3年ほど前から目立ち始め、多い時で月に2~3件被害がある。旅行のガイドブックや写真集、写真付きの実用書などが狙われやすいという。本の表紙やカバーは書架に残されているため、年に1回行われる蔵書の一斉点検まで気が付かないことも多い。被害にあった図書館の司書は、「防犯対策が遅れがちになる」と話す。

■図書館と出版社との間で『ハリー・ポッター』騒ぎが起こったことがありましたなあ。どんどん流行の周期が短くなっている上に出版不況の世の中ですから、本物のベストセラーが出現したら出版業界と書店にとっては干天の慈雨!となるはずが、そのベストセラー本を求める購入希望カードが各地の図書館に集中豪雨のように寄せられ、利用者の意向に沿うべく5冊も10冊も購入することになると、本を売る側からしますと「売れたはずの本」が売れなくなることになりますから、営業妨害だ!と訴訟問題に発展しそうだったとか……。

■被害に遭っているガイド本や写真集などは、公共図書館が収蔵するのが相応しいかどうか?少々、疑問に思えないこともありませんなあ。どんな種類の写真集かは存じませんが、気に入った写真なら身近に置いておきたくなるでしょうし、ガイド本となればもっともっと身近に置かねばならないでしょう。図書館としては利用者が借り出してコピーを取る事を前提にしているのだとしたら、これはこれで肖像権や知的所有権の問題になりそうです。出版物なら何でも、利用者が求める物なら何でも収蔵しようとするのが良いのか?図書館なりの考えと姿勢に基づいて運営して行くべきなのか?漫画大好きの麻生総理が登場したり、アニメ文化の評価も高まる時代ですから、コミックやアニメの類も収蔵するようになるのでしょうか?

■新しい物と古い物とが調和して整えられているのが図書館の理想なのでしょうから、末永く読み継がれていく本は大事にしたいものです。


……関東の図書館では、近くの商店の前の路上に、約80冊が入った段ボール箱2箱が放置されていた。東北の図書館では周辺のコンビニエンスストアのゴミ箱に、四国の図書館では駅のゴミ箱に、それぞれ蔵書が捨てられているのが清掃員らによって発見された。昨年6月には九州の公園内で半分焼けこげになった図書も……九州の図書館の夜間返却箱に昨年末、貸し出し手続きがされていない約400冊が戻されたこともあった。そのうち100冊はほこりまみれで傷みが激しかったという。

■愚か者の万引き犯罪で町の本屋さんが廃業に追い込まれる御時勢ですから、返すだけマシと考えるべきなのか?拙著『チベ坊』も全国の300以上の公共図書館と大学図書館に収めて頂いておりまして、時々、ネット上で貸し出し状況や所蔵状態を確認しておりますので、こうして行方不明になってしまう可哀想な蔵書の中に、少なくとも3冊の拙著が含まれている事を確認しております。借りて頂いて何度も読み返そうと心ならずも盗んでしまったのか?内容が気に入らないと判断した強硬派が勝手に廃棄処分にしてしまったのかは分かりませんが、気に入って頂けたのなら御購入して貰いたいのが著者としての願いですし、勝手に廃棄などされたら補充しようにも予算のやり繰りに苦労している各図書館では大きな負担になってしまうでしょう。残念な事であります。


……館内の巡回を強化したり、防犯ゲートを設置したりしたところもあった。ただ、予算や人員に限りがあり、防犯対策をとることができずにいる自治体も多かった。……防犯対策を余儀なくされる自治体からは、「警報装置付きのゲートを設置する金があれば、本を買いたい」「警戒を強めるほど、図書館が市民にとって居心地の悪い場所になる」といった声も上がっている。

■盗っ人の番をしなければならない図書館というのも滑稽で悲しいものですなあ。名作の中には『怪盗ルパン』に始まる泥棒小説なども有りますが、その本を図書館から盗んでは行けません。人生の悩みに答えるような本ならば、きっと「善行」を勧める内容が書かれているはずです。多くの人に読んで貰おうと書き手は必死に努力しておりますし、図書館も同じ気持ちで本を選んで管理しているのですから、そうした多くの善意がつながっている場所である事を考えて、愚かな犯罪は止めて欲しいものです。

最も身近な知的遺産 其の壱

2008-11-09 17:51:00 | 日本語
■統計によりますと、毎日、日本の何処かで引ったくり犯罪が150件は起きているそうです。スクーターなどで歩行者の手提げ鞄や自転車の籠が狙われるそうですが、置き引きや万引きなども加えれば数百件になるのでしょう。悪事を働く馬鹿者の心根と謂れの無い不幸に見舞われる被害者のショックと悲しみと悔しさは、被害額の大小に関わらず一生忘れられないほどのものでしょう。悪事の中でも最大規模の被害額になるのが詐欺犯罪でしょうが、便利な携帯電話やエクスパックを悪用する「振り込め詐欺」が盗み取る金額は小室哲也クンの生涯所得の何倍にもなっているようですから、人の物を盗むことを楽しむ輩が恐ろしい勢いで増えているのは間違いありません。ご用心、ご用心。

2007年度に全国主要都市の公立図書館で行方不明となった本が計約28万4000冊にのぼり、被害額は約4億1000万円と試算されることが読売新聞の調査で分かった。大半が無断で持ち出されたとみられ、本の表紙だけ残して中身を抜き取る手口が目立つ。警報装置付きの防犯ゲートを設置した図書館もあるが、多くの自治体が「財政事情が厳しく、有効な対策をとれない」と訴えている。

■昔の「貸し本屋」からレコード、ビデオ、CD、DVDへとレンタル産業は目覚ましい発展をし続ける一方で、無料で利用できる公共施設の図書館も教育と文化生活のために頑張ってくれているのは心強い限りであります。しかし、公共図書館はすぐれて地方自治体の管理下に運営されている施設なので、それぞれの図書館の実態を見れば、所管の自治体がどの程度の文化・教養レベルにあるのかが分かってしまう面もありまして、国から交付される図書費が好き勝手に抜き取られてハコ物に化けてしまう悲しい所も多いとか……。その反対に幼児から高齢者までを対象とした様々なイベント企画にも熱心で、地元の皆さんに教養と情報を提供すべく努力を重ねて教育行政の一翼を担っている立派な図書館もあるというわけで、こうした地域間格差の方が、結果を公開するかどうかで空疎な論争を起こしている学力テストなどよりも遥かに重大な問題だと思うのですが……。


道府県庁所在地と政令市、東京都と23区の計74都市区を対象に、公立の図書館(計約570館)で07年度に行方不明となった本の冊数や被害金額などを尋ねた。……69都市区から回答があり、計28万4421冊。都内4区と横浜市や川崎市、名古屋市の計7市区では、それぞれ年間1万冊以上の行方がわからなくなっており、大都市圏の被害が顕著だった。回答のあった都内22区を合計すると計14万1221冊で、全体の半分近くを占めた。

■日本国民の1割が東京都民だそうですから、消えた図書の5割が集中するというのは多過ぎるでしょうなあ。公共交通が発達している上に人口も密集しているためにネットワーク化された多くの分館を配置している都内の図書館ですから、徒歩や自転車で気軽に立ち寄れるのですから、分母となる利用者の数が圧倒的に多いのでしょう。そこに一定比率の不心得者が紛れ込めば、人口比率の5倍に当たる図書が紛失してしまうのも理解はできます。多くの地方都市では図書館に出向くのに1日がかりになってしまうような所も多いでしょうし、下手をしたら日帰りは難しい!などという恐ろしい地域もありそうです。専用自動車での巡回サービスは有るでしょうが、それがどれほどの利便性を確保しているのかは分かりません。


被害金額については64都市区から回答があり、本を購入した際の価格などから試算した結果、計4億1071万円に達した。年間1000万円以上の被害があった自治体は12市区。

■日本中から書店が消えつつある大きな原因が「万引き」による被害だという話があります。商売物を平気で盗んで行くような不心得物なら、無料で利用できる公共図書館から同様の手口で本を盗み出すのは簡単なことなのでしょう。所有権も公共心も有ったものではありませんなあ。

漢字という財産 其の参

2008-10-17 15:55:07 | 日本語
■前置きと余談が長くなってしまいました。ここから「其の壱」の続きです。

……遠い昔から漢字で書き残され伝えられてきた膨大な知識と情報の蓄積は圧倒的で、その先人たちから学び更に次の世代に渡さねばならないとすれば、漢字を撲滅させてしまうのは実に惜しい話だと思います。日本はなかなか上手に使いづらい漢字を利用して来た文化の伝統がありますから尚さらです。但し、うっかりすると本家?のチャイナが今も苦しんでいる問題を日本も背負い込むことになる危険性は常にありますし、逆に長い漢字文化の歴史を軽く見ると漢字の持つ効用を捨ててしまうことにもなりますから、この問題は乱暴に扱ったら大変なことになるでしょうなあ。


2007年9月4日、国家言語文字委員会副主任、教育部言語文字情報管理課課長の李宇明氏は、近年大学生の漢字応用力が低下していることを明かした。今年、上海市・天津市・河北省で大学生を対象に中国語応用レベル試験を行って、判明したもの。パソコンの普及に伴い、ペンや鉛筆で文字を書く機会が減ったのが原因と見られる。李副主任は漢字・書道といえば中国の誇るべき伝統文化で、パソコンが普及したとはいえ、忘れてはならないものだとして、今後、新たな漢字教育プログラムを学校教育に導入したり、大学のレポートを手書き限定にするなどの対策を検討すると話した。
2007年9月5日 Record China

■チベット語留学をしていた時に、あるチベット人教師と言語問題を語り合った時のこと、当時のチャイナは既に日本語学習熱がすっかり冷めて、奥地の書店でさえも英語教材が山積みになっていたので、ついつい、「100年後のチャイナは英語が共通語になってい可能性がある」などと無責任な印象論を語ってしまった思い出があります。北京語が必修のチベット人学生にとって、母国語が表音文字で政府が強いる漢字が象形・表意文字なのですから、両方を学ぶのは大変な負担になっています。チベット語は文法的には日本語に非常に似ていることは拙著『チベ坊』に詳しく書いた通りですが、北京語の文法(らしいもの)は英語に近いところがあるので、チベット語と北京語と英語を勉強すると頭の中は大混乱になるようです。

■欧米言語の清書用に開発されたタイプライターから発展したパソコンのキーボードですから、これを多用常用していたら表意文字の漢字を忘れるのは当たり前の話で、キーボード嫌いの人向けに開発されたペン入力装置はまだまだ中途半端な地位しか得ていないようです。やはり、漢字を習得する時期には、従来の筆記用具を使って紙に書いて訓練する必要があるわけです。いい年をしてからも、たまにはキーボードを離れて書道や習字とまでは行かなくても、手紙や日記で手書き技術を回復させる努力も必要でしょうなあ。

■さてさて、それでは日本の漢字はどうなのかと思ったら、誰も知らないうちに常用漢字表の改訂が進められているのであります。まずは7月のニュース記事から。


情報化時代に対応する漢字政策について、文部科学相の諮問により審議を続けてきた文化審議会漢字小委員会が、字種に関する検討結果を公表した。新常用漢字表に盛られる字種がこれでほぼ固まった。賛否のあった「俺」を本表に入れることが決まったほかは6月に発表された第2次字種候補案と変わらず、旧常用漢字表から5字種を除き、新たに188字種を取り入れる。これにより全部で2128字種の漢字表となる。……

■「情報化時代」が昨日始まったような話ですなあ。漢字制限については明治維新政府の「英語公用語化」案や戦後の混乱期に小説の神様・志賀直哉が虚脱感に満たされて発表した「フランス語公用語化」案、他にも梅棹忠夫さんの「ローマ字化から英語公用語へ」などの極端な脱・日本語論の流れを含めて、非常に複雑で深い問題が積み上げられております。作家で参議院議員でもあった山本有三さんの「振り仮名廃止論」というもありましたなあ。

■隣のチャイナで巻き起こった「簡体字」運動の影響もあったようですが、漢字の本家?の方では簡体字政策は途中で放棄され、最終目標とされたローマ字表記も挫折した模様です。