旅限無(りょげむ)

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北京五輪の内と外 その弐百五拾弐

2008-06-26 13:40:41 | チベットもの
■四川省の大地震に続いて日本でも岩手・宮城内陸地震が発生して、日本のマスコミは「地震」の話題に集中して、報道の焦点を北京五輪からズラしてしまったような感があります。巧妙な連想ゲームのような気もしますなあ。五輪大会の話題と言えば、水泳競技の水着に執着したものが多くなって、聖火リレーについての報道はほとんど消えてしまったのは何故でしょう?その間にも五輪大会の開会式に何が何でも出席したい福田ホイホイ首相の御意向に沿うかのように、おそろしく前のめりの「領海」交渉が進められまして、肝腎の境界線問題は野放図に棚上げ先延ばし!合意の内容は単なる「投資話」になってしまったそうですなあ。こんな姑息な商売話を、日本の外務省が自画自賛してどうするのでしょう?

■長野市では大騒ぎだった傍迷惑な「聖火リレー」は、多くの日本人がすっかり忘れてしまった後も、紆余曲折を経ながらも基本的には当初の計画通りに続けられています。そして、とうとうチベット自治区のラサと、拙著『チベ坊』の舞台ともなった青海省でも計画通りに人民を動員してリレーは敢行されたようです。


23日午前、北京五輪の聖火リレーが中国最大の内陸湖である青海湖で行われた。……スタート式典の前には全員で四川大地震の犠牲者に1分間の黙祷を捧げ、午前10時50分、リレーが正式にスタートした。青海省医療チームの副隊長として四川大地震の被災地で救急活動を行ったダガ氏が最初のランナーを務め、青海湖の畔の全長6キロを合わせて162名のランナーが走った。
6月23日 サーチナ・中国情報局

■式典を行ったのは西寧駅前の広場でしょうか?自然破壊が進んで水質汚染と水位の低下が著しい可哀想な青海湖は、確かに今でも「中国最大」の塩水湖ではありますが、拙著にも記した通り、チベット語名とモンゴル語名を持ち、それを漢訳したのが青海湖という歴史的な経緯があるのですが、聖火リレーの走者いは意図的にチベット人やモンゴル人が目立たないような工夫が施されているような気もしますなあ。西寧市からの交通の便を考えますと、湖岸のリレーは南岸の道で行われたはずですが、沿道には漢族が作ったレストランが点在し、道を挟んだチベット人の牧畜地区が広がっている美しい風景が見られたことでしょう。今は草原が最も輝いてきれいに見える季節であります。


24日付中国新聞社電によると、北京五輪大会の青海省の省都、西寧市での聖火リレーが同日午前、始まった。第1ランナーは青海高原医学科学研究院の呉天一院長が務めた。呉院長はタジク族。青海省はチベット系、中央アジア系、モンゴル系など多くの民族が住む。タジク族はペルシャ系民族。
6月24日 サーチナ・中国情報局

■ダライ・ラマ法王が「チベット人は二級市民扱いされている!」と訴えましたが、それは他の少数民族も似たようなもので、中にはエライ人に出世している人も居るのですが、どんな組織も最終的な権力を独占しているのは漢族の共産党員と決まっていますから、こういう式典に引っ張り出されるカムフラージュ用のエライ人の誇らしげな笑顔には、なかなか複雑な背景があったりします。シルクロードの延長線、河西回廊での攻防の歴史が青海省には色濃く刻まれているのであります。誰が歴史を独占するか?という恐ろしい話になるわけですが、共産党が組み上げた「正しい歴史」以外の各民族が継承している歴史は全面的に禁止されてる現実にも、ちょっと目を向けておくべきでしょうなあ。
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北京五輪の内と外 その弐百五拾壱

2008-06-18 07:16:39 | チベットもの
■槍が降ろうと矢が降ろうと、地震が起きようとテロ攻撃を受けようと、何が何でも開催しなければならない社会主義国で二回目となる五輪大会ですから、開催日が近づくにつれてお祭ムードや「民主化期待」の気分が急速に後退して行くのは当然なのではありますが、開催地の決定をめぐる経緯から、長い間、猫をかぶっていた北京政府でしたが、そろそろカムフラージュの必要も無くなったと判断したのか、だんだん地金が露(あらわ)になりつつあるようです。

8月8日の北京五輪開会式で披露される大会テーマ曲について、五輪組織委が「一般公募作品から選ぶ」という公約を撤回し、国内のプロ作曲家に楽曲制作を依頼していたことが、16日分かった。公募には、世界中から約1700曲の作品が寄せられたが、「自分の作品を五輪で」という応募者の思いは無視されたことになる。関係者によると、組織委幹部と開閉会式総監督の張芸謀氏が新選定方式を決めたという。

■世界中から「1700曲」もの応募作が集まったということは、「公募」するという話は広く本気で受け取られていたのでしょう。そもそも、中国共産党とも中華民族?とも何の関係もない人物が作ったテーマ曲などというものが採用されるはずもないでしょうに!?プロの音楽家たちは、自分のキャリア・アップになると思って頑張って作曲したのかも知れませんが、世界中でボイコット話が出たり消えたりしている状況を考えれば、すべてを「身内」で賄って大成功を演出する方向に変わるのは時間の問題だったような気もしますなあ。

■世界的にチャイナ映画の名声を高めた映画監督の張芸謀を「楯」に使ってまで、敢えて公約破りを断行したというのですから、相当に高い所で決まったことなのでしょう。スピルバーグに蹴られた「総合監督」の座を押し付けられた張芸謀監督にしてみれば、重ね重ねの恥さらし役を演じさせられるのは面白くないのでしょうが、芸術であれ文化であれ、北京政府の役に立たないものには用は無い国ですから、この程度の約束違反は何でもないのでしょう。


テーマ曲は、「国際公募」をふれこみに4年前にスタート。映画スターのジャッキー・チェンさん、アンディ・ラウさんのほか、ロサンゼルス、ソウル両五輪テーマ曲のイタリア人作曲家ジョルジオ・モロダーさんらが作品を寄せたことで、国内では大きな話題になっていた。しかし、五輪開幕100日前に当たる4月30日の「北京オリンピックソング選考授賞式」では、「優秀作品」30曲が発表されたが、テーマ曲は発表されなかった。五輪組織委の担当部門は「テーマ曲は国家機密扱い。開会式まで発表されない」としていた。

■日本の映画界でも、宣伝用オーディションなどは日常茶飯事で、マスコミに取り上げて貰いやすい形で強引に注目を集めるイベントの一環として繰り返される手法ですから、北京五輪を盛り上げようと、誰かさんが同じ手法を採用したのでしょうなあ。それにしても踊らされた人達の名前が錚々たるものだっただけに、冗談では済まされない事態になりそうです。まさか、日本人の応募作品も多数含まれているのではないでしょうな?!


また、関係者は「テーマ曲は応募していない作曲家が新たに作ることになった。スローなテンポの曲になる」と話した。だが、テーマ曲が、公約に反する形で選ばれるとの情報は、中国音楽界に広まり、応募者からは「芸術家をぼうとくしている」と怒りの声が上がっている。
6月17日 読売新聞

■こういうのを「ダシに使われた!」と言うのでしょうなあ。日本でも聖火リレーに多くの「ダシ」が引っ張り出されて踊らされてしまったのですが……。『週刊新潮』の6月19日号に、突如として萩本欽一さんの「独白」「言い訳」記事が掲載されたのも、長野市の聖火リレーが残したシコリがあちこちに不快な影響を残している証拠かも知れません。欽チャンの記事では、母との泣かせる話が天皇皇后両陛下のお名前も織り込まれて延々と続き、結局、両陛下御臨席のもとに開催された長野冬季五輪の開会式で総合司会をしたことで、母との和解ができたという感動的な独白になっております。従って、「長野市」と「五輪」という二つのキーワードが結び付いたから、長野市内での聖火リレーには「母のためにも」是非とも参加したかったという個人的な理由を示しておかねばならない事情があったようですなあ。

■野球の星野監督にしろ、他の有名人にしろ、その後のコメントは出ていないようですから、各界の著名人たちが北京五輪に対してどんな感想を持っているのかは不明です。

パンダ大震災 其の壱拾四

2008-06-18 06:45:46 | 外交・情勢(アジア)
■このところ、ワケの分からない事件が続発している日本で、とうとう大きな地震が起きました。それまでニュースの中心だった四川省の地震報道はあっと言う間に脇に押しのけられて、被害の大小ではなく身近な災難に重心が移ってしまったのは、報道の時間と文字数の制限が理由なのでしょうが、ちょっと極端すぎる印象もありますなあ。被災した皆さんには、余震に注意して頂き、一日も早い復旧ができますようにお祈り申し上げる次第です。週末に起こった大地震でしたから、行楽に出かけた人達が犠牲になってしまいました。

■震源地が人口密集地を離れていたこともあり、死傷者の数はパンダ大震災を大きく下回ったのは不幸中の幸いかも知れません。秋葉原を襲ったイジケた派遣労働者に運悪く出っくわした被害者の方が多いという話の方は、決して「不幸中の幸い」とは申せませんが……。どうやら、日本の「学校」はチャイナとは違って大きな地震にも耐えられるだけの構造を維持していることが分かって、ちょっと安心しましたが、耐震性が不足する校舎がまだまだ残っているそうですから、いざという時の非難施設となることを考えて、大急ぎで補強工事を行って欲しいものであります。

■チャイナでは救援活動に向かった軍用ヘリが悪天候が原因なのか?1機が墜落して乗員が死亡しておりますが、日本では、自衛隊や警察のヘリコプターは無事に救出活動を続けている由。気象条件も地形も違いますが、整備や操縦の技術など、いろいろと違いがあるのかも知れませんなあ。国柄によって似たような災害が起こっても、いろいろと違いが出るもののようです。


2008年6月17日、四川大地震の混乱に乗じて被災地で窃盗などを働いた犯罪者に対し、四川省北川チャン族自治県公安局は、公開処罰を行った。……被災民避難所近くの空き地で行われ、兵士60人が厳重に警戒する中、数百名の住民が見物に訪れた。現地公安局の幹部によると、18人のうち13人は震災の混乱に乗じて倒壊した住宅や商店、企業などに侵入して窃盗に及んだほか、震災犠牲者の遺体からも身に着けていた金品を奪ったという。窃盗犯は地元のほか、遠く山東省や江西省から入ってきた者も含まれており、その1人1人の氏名と罪状が公衆の面前で読み上げられた。およそ20分後、「公開処罰」は幕を閉じた。
6月17日 Record China

■チャイナの「公開処刑」と聞きますと、一瞬、残酷な「銃殺刑」かとドキッとしてしまいますが、どうやら「さらし者の刑」だけで済んだようです。髪を短く切られて罪状と氏名を大書した札を首から下げさせられ、半強制的に呼び集められた人民大衆の面前で徹底的に非難されるという御馴染みのイベントであります。建国の時期に、次々と「解放」されて行った都市や村には、必ず「広場」が作られたそうで、さまざまな国家的な祝いの儀式と共に、党や国家に逆らう者を断固として排除する鉄の意志を示す恐ろしいイベントにも使われるものです。今でも年に数回、犯罪撲滅キャンペーンなどで集中的に開催される「公開処刑」には、特に学生諸君が強制的に参加動員させられているようですから、これも人民に「学習」させる重要な儀式なのでしょうなあ。でも、さっぱり効果は上がっていないのは皮肉なことです。

■大規模災害が起こった時に、何か手助けは出来ないかなあ?と考える人間と、何か盗めないかなあ?と考える人間との違いは何処から生まれるのやら……。一刻も早く、水・食糧・医薬品を届けねばならないはずの被災地に、政府のエライ人が乗りこんで宣伝パフォーマンスを先に始めるような国なら、人民の中にボランティア精神は生まれにくいという事なのでしょうか?

北京五輪の内と外 その弐百五拾

2008-06-03 23:47:53 | チベットもの
■四川省で発生した「パンダ大震災」の被災者は800万人だとか……。「外交の福田!」で支持率を急上昇させて政権を維持しようと思っていたらしい?福田ホイホイ首相は、いつの間にやら「環境の福田!」「食糧問題の福田!」へと脱皮して欧州あたりで生命線の「環境サミット」の前哨戦とてイタリアはローマで開催される「食糧サミット」に全精力を傾けているとか……。だったら、日本から大量に食糧を四川省に送って上げれば良いのに!と思うのですが、送りたくても経費が掛かるとの理由で備蓄食糧をバンバン減らしていたのが日本ですから、食糧危機に対処する大演説を用意して出掛けても、相変わらずの下手くそな原稿読みを披露するばかりのようです。読み方も酷いのですが、内容が空っぽなのを御本人は認識不能のようで……。

■日中関係を「パンダ」と「ピンポン」で発展させようとした目論見は当然の如くに破綻しまして、未曾有の大震災が起こったというのに日本からの援助は決して有効に行われたとは言えない結果になっております。はて?これでは「暖かい春」を迎えられないことになりそうですが、欧州に飛んで行ったホイホイ首相は何を考えているのでしょう?諦めが良いと言うべきか?「人の嫌がることはしない」外交政策が、結局は「人を喜ばせる」方法を持ち合わせていないという悲しい現実の裏返しだったのかも?だとしたら、胡錦濤主席は可哀想ですなあ。

■具体的な種目に詳しいスポーツふ・ファンでもなければ、何だか北京五輪大会は「聖火リレー」が通過した時点で終了してしまったような感覚を持ってしまっているのではないでしょうか?でも、あと2箇月ほどで本当に開幕してしまいそうなのですぞ!800万人の被災者と、おそらくは10万人を越えると心配される死者の数を考えると、平和の祭典を開催している場合なのか?と真面目に悩んでしまうのですが……。


2008年6月2日、北京五輪公式ウェブサイトは「五輪開催期間の外国人出入国およびその滞在期間に関する法律指南」を発表した。……外国人選手、スタッフ、記者などを対象に、五輪開催に関連した中国の法律をまとめたもの。内容は8種類57項目あり、出入国、試合観戦、観光、宿泊、交通、飲食、娯楽など各方面に及ぶ。……開催会場などスポーツ施設での「侮辱的標語」、宗教・政治・民族関連のスローガンなどが書かれた横断幕や物の掲示のほか、競技場に物を投げ入れることなどが禁じられている。

■内と外、後ろと前、裏と表が混ざり合って、理解するのが困難な内容になっているので、これを選り分けておかないと、うっかり現地に出向いて観戦しようと簡単に考えると、トンデモない事件に巻き込まれそうですなあ。北京五輪大会を見物するために、初めて北京を訪れようと、期待に胸を膨らませて予約を入れたり観戦ツアーの資料などを読んでいる方たちは、少しばかり面食らう場面に出遭ってしまう覚悟も必要かも知れませんなあ。

■天下の五輪大会に、どうして「侮辱的標語」が書き殴られた横断幕やポスターが出現するのか?「宗教」「政治」「民族」の垣根を越えて開催されるのが近代五輪大会だったはずなのに……。これらは国内向けと国外向けの両方で考えられた「法律指南」と思われますが、わざわざ「競技場に物を投げ込むな!」という法律を書き加えたのは、どう考えても過度の愛国教育が効き過ぎたらしく、殴っても絶対に殴り返さないとタカを括れる相手(日本)に対しては、空き放題のフーリガンごっこが頻発することを、経験として知ってしまった北京政府が恥も外聞もなく認めた証拠なのでしょうなあ。

■能天気な日本のスポーツ・マスコミは、恐れを知らずに「金メダル!」の皮算用に・宣伝に熱心なようですが、仮に前宣伝の半分でも世界一の称号を手に入れてしまった場合、メダルの授与式が行われる会場がスポーツマン・シップに満たされていると、一体、誰が保証出来るのでしょうなあ?


また、公共の場で故意に中国国旗や国章を燃やす、汚す、踏みつける、破損するなどして侮辱した者には法に基づき刑事責任を追及することが明記されている。
6月3日 Record China

■当たり前のこと?なのでしょうが、チャイナの五星紅旗以外の旗が焼かれたり踏まれたり唾を吐きかけられたり……、そのような事は刑事罰には当たらないと推論できそうです。これまでの経緯から考えますと、既に多数の「焼却用」の日の丸が何処かで製造されて備蓄されているような、実に嫌な予感がありますなあ。国内にも「日の丸嫌い!五星紅旗はスキ」という変な趣味の持ち主が存在しているようですから、欧米諸国のように「国旗を焼かれた!戦争だ!」と国論が盛り上がる可能性が非常に低い日本である事はバレバレ?

■莫大な金額で放送権を買っている日本のテレビ局などは、そのような危ない場面は「クレーマー対策」上も必死に削除する工夫をすのでしょうなあ。後々、そのような国辱的な事件が起こったことが判明しても、生中継で高視聴率を稼いだ後ならば、知らぬ存ぜぬで通してしまうのがテレビ局の商法のようですから、真面目にテレビ観戦していた視聴者だけが馬鹿をみるような事にもなり兼ねません。やっぱり、地上デジタル放送への切り替えを見据えて、テレビとの縁切りを今回の五輪大会で決意するのが「正しい歴史認識」かも知れませんなあ。仮にテレビ向けの「大事件」が起こったにしても、リアル・タイムで「目撃」するより、後々、裏話や専門家の分析や解説を交えてじっくりと印刷物を通して考えた方が良さそうですからなあ。

■同じ情報源で外国人向けの「指南」内容が公表されております。


2008年6月2日、北京五輪公式HPが「五輪開催期間の外国人出入国およびその滞在期間に関する法律指南」を発表、北京を訪れる外国人アスリートやそのスタッフなど関係者、取材するメディア関係者らに中国の関係法律を遵守するよう促した。……五輪開催期間に中国を訪れる外国人に関連すると列挙された法律・法規は合計57項目に及び、その内容は出入国、競技観戦、観光、宿泊、飲食、娯楽などに関わるものだという。例えば、外国人が中国人の家に宿泊する場合は、到着24時間以内に本人のパスポートと受け入れ先の戸籍簿を公安機関に申請しなければならない、空港や駅、埠頭、路上、公園などで野宿してはならないなど、細かな規定が列記されている。
6月3日 Record China

■インターネット時代、グローバル化時代、既に死語になって久しい「ペンパル」を根気よく探す時代ではありません。まだ死語にはなっていない「バックパッカー」文化を継承している人達なら、旅行や留学で知り合ったチャイナの友人宅に世話になって、共に五輪大会を祝いたい!と望んでいる人は多いはずです。そのような「国際交流」にも鬼より怖い「公安」が管理する!無気味なほど広い駅前での「野宿」も禁止となれば、安上がりに「草の根」交流の延長で北京五輪を楽しむのは不可能になります。徹底的な公安による管理の下に五輪大会が開催されるとすれば、あまり楽しい気分にはなれそうにありませんなあ。

■そんな息苦しい大会を、わざわざテレビの生中継時間に合わせて、寝不足になってまで付き合う必要も無さそうです。末広がりの「8月8日」の開催とのことですが、夏の猛暑が四川省の被災地にどのような恐るべき悪影響を与えるか?と想像してみれば、競技の生中継よりも大震災の復興状況の方が気になるのではないでしょうか?

パンダ大震災 其の壱拾参

2008-06-02 01:21:28 | 外交・情勢(アジア)
■レスキュー隊員の制服と自衛隊の装備との区別が付かないチャイナの軍人達は、救援活動の現場となった被災地で日本の救助隊に対して露骨に罵声を浴びせたという話まで伝わっているようです。何もかも「日本が悪い!」という非常に便利な原理で組み立てられた愛国教育の影響は根深く残っているということでしょう。皆様のNHKを筆頭に、何故かほとんどのマスメディアが「大歓迎」と「感謝」の声ばかりを報道していたのが気になっていましたが、まさか政治家や防衛省の役人までが、そんな底の浅い取材報道を真に受けていたとは!

自衛隊機の受け入れはこれに続くものだが、中国側は「救援活動で輸送機が不足し窮しているわけではない」(軍関係者)という。また、「反日感情」や体面から、人民解放軍には自衛隊機の受け入れに対する反対論があるとみられる。日本の救助隊は、山奥の生存者が極めて低い場所での活動を指定され、十分に能力を発揮できなかったが、その裏には災害現場を管轄する軍の意向が働いていたとの指摘がある。被災現場で兵士の一部は、日本の救助隊に対する批判と反発を口にしていた。救助隊に対してすらそうした状況で、自衛隊ともなると、軍を含む対日強硬派の反発は容易に想像できる。

■このように産経新聞はネガティブな現状をある程度は把握して報道していたのでした。しかし、何故かそこから始まる推論には楽観的な気分が多分に含まれていたようです。


にもかかわらず自衛隊機を受け入れるのは、
(1)現実の問題としてテントなどの物資を大量に必要としている
(2)国際協調重視の姿勢を国内外に示す
(3)国民の対日感情をさらに好転させる効果を生む-という理由からだろう。とりわけ日中の良好な関係構築は胡主席にとり、なお影響力をもつ対日強硬派の江沢民前国家主席の存在を考えれば、政権基盤の強化につながる。被災現場の視察などを報じる国営テレビの宣伝もあって、胡主席と温家宝首相の株が急上昇。一方、「党中央人事などへの発言力を誇示した江沢民氏の影はかすみがちだ」(中国筋)との指摘もあるなかで、自衛隊機に“政治的な効果”も期待しているようだ。
5月28日 産経新聞

■これでは胡錦濤主席が日本のレスキュー隊と医療チームを出汁に使って本命の自衛隊を利用して江沢民の影響力を根絶やしにする道具にしているとしか思えない構図になってしまいます。こういう穿った話が飛び交えば、胡錦濤政権は大慌てで打ち消しに回るでしょうし、人民解放軍も黙っては居ないでしょうなあ。産経新聞が列挙した三つの可能性にしても、不思議なくらいに楽観的な気がしますなあ。

■建国以来、人民の生命・財産よりも党の存続と支配力を強化することに腐心して来た北京政府ですから、(1)が想定している「名を捨てて実を採る」などという事は有り得ないでしょうし、(2)日本の自衛隊に救援物資を運んで貰ったくらいで、聖火リレー騒動で火が着いて燃え広がった人権問題に対する国際的な糾弾運動が鎮静化するとは到底思えませんから、(3)も余り現実的な推理とは言えないでしょう。

■こうした甘い夢を見ているような報道は産経新聞だけではなく、何故か日本中の主要メディアが一斉に同じような調子で「春の夢」を描いていたのでした。


中国・四川大地震の被災地・四川省内で日本政府の「草の根無償資金協力」により建設した学校は一切倒壊していないことが28日、分かった。大地震では校舎が大量に倒壊し、多くの児童・生徒が犠牲となる中、関係者は胸をなで下ろしている。地震後、北京の日本大使館などが支援先の学校や病院の被害状況を調査。その結果、四川省や隣の甘粛省などにある計約30施設では倒壊・損壊の事例はなかった。学校は地元業者により建設されたという。……役人が業者と癒着し、コストを抑え手抜きする「おから工事」の可能性が指摘され、保護者が抗議。日本が資金援助した学校は、北川県など甚大な被害が生じた地域にはないが、同大使館は「『手抜き工事はなかった』と言えるのではないか」との見方を示す。
5月29日 時事通信

■倒壊しなかったから「手抜き工事」も「賄賂資金の抜き取り」も無かったと即断するのは如何なものでしょうなあ?要求された通りの常識外れな資金をたかられていれば、「賄賂8割」とも言われる現地の相場通りに抜き取られても、今回の地震に耐えられるだけの鉄筋を使える資金が残ったとも考えられますぞ。緊急レスキュー隊が無念の帰国をした後に、こうした報道が流されるとついつい甘ったるい夢を見たくもなりますなあ。

パンダ大震災 其の壱拾弐

2008-06-02 01:20:47 | 外交・情勢(アジア)
■被災者に対する救援活動がなかなか進まず、谷の崩落によって出来て自然のダムにたまった水は確実に増え続け、感染症の広がりも心配されているという危機的な状況だというのに、被災者とは何の関係もない日本政府と北京政府との間で、実に馬鹿馬鹿しい「ボタンの掛け違い」が起こったとかで、せっかくの救助隊と医療チームが見せてくれた大活躍が台無しになってしまいそうな風向きであります。

■日本の外務省が勘違いしたのか?不祥事続きの防衛省が外交問題を考えずに暴走したのか?どちらにしてもホイホイ首相が職責に見合う重みと能力を持っていない事は確かなのでしょうなあ。どうやら、この騒動の原因はメディアの扱い方に関して、チャイナと日本との違いが水と油のように混ざり合えない、双方向性などまったくない事実にあるようです。考えてみれば、それほど「情報」の扱い方が違っている相手国を「取材」したと言っては映像や活字にして流し続ける日本のメディアというものは、随分と危なっかしいものですなあ。時には罪深い「情報操作」に加担してしまうこともありそうですから、御用心、御用心。


中国では災害や大事故が発生した場合、共産党、政府、軍などの努力が報道で大きく取り上げられるのが通例。日本の一部メディアでは、チベット族など少数民族が多く居住する地域が大きな被害を受けたため、政府などへの好感度を増すために、救援活動を強調したのではとの観測もあったが、2008年1-2月に中国中・南部で発生した雪害の際にも、同様の報道姿勢が目立った。
5月13日 サーチナ・中国情報局

■共産党による建国神話をごてごてと飾り立てるのに膨大な労力をせっせと費やした政府ですから、在任中の首脳に向かって「ホイホイ首相」などと発言することなど絶対に許されないわけでして、常に現役の指導者に対しては最大限の賛辞を惜しんでは行けません。被災地に側近軍団を引き連れて来訪するエライ人に対して「救援活動の邪魔だ!」などという暴言を吐く事なども、決して許されないのであります。宣伝用の映像を撮影するために、救命救助の作業が止められるのは当然のことですからなあ。

■そういう体質の政府が、苦し紛れに「緊急援助」を求めて来たからとて、「困った時にはお互い様」などと素朴な感情であれこれと世話を焼くと、「親切が無にされた!」と腹を立てることになったり、「宣伝に利用されただけだった」などという失望感を味わうことにもなり兼ねないわけであります。建国の英雄伝説を今でも伝統として体現している「ことになっている」人民解放軍が、曲がりなりにも被災地に入っているのですから、その横で素人目にも優れた設備と技術が光り輝くような救援活動などされたら、建国神話にまでヒビが入っていまう危険がありますからなあ。

■5月の最終週が明けると同時に、降って湧いたような話で日本政府が盛り上がってしまったのは何故でしょう?主な報道記事を時系列に並べて検証してみましょう。まずは28日の月曜日から……。


四川大地震で自衛隊機を受け入れるとの中国政府の決断は、日中関係に大きな転換をもたらす可能性を秘めている。胡錦濤国家主席の訪日に続き、日本の国際緊急援助隊の救助活動などにより対日感情が好転しているこの機に、自衛隊機をも受け入れることで、軍など対日強硬派を抑え対日重視の姿勢を示す狙いもありそうだ。

■これは28日の産経新聞の記事冒頭です。人民解放軍を抑え込んで震災の禍を福に転じるほどの実力が胡錦濤政権が確立しているという前提が無ければ書けない文章のような気がしますが、何か根拠となる情報が有ったのでしょうか?


中国では、一党独裁体制を敷く中国共産党の成り立ち自体が抗日戦争にあり、旧日本軍の残虐さを含む抗日教育が強化され、「反日感情」と「愛国主義」を生んできた。「日の丸」も、過去の「対中侵略」の歴史をほうふつさせる象徴となってきた。しかし、先の胡主席の訪日は「暖春の旅」と称された。その後に発生した四川大地震では、日本の援助隊が外国としては一番乗りで被災地に到着。現地で「生命をかけてひたむきに努力」(中国紙)した事実は中国メディアに大きく報じられ、医療隊の活動とともに、高く評価され感謝されている。

■三度の失脚から蘇った小平であればこそ、米中関係を発展させる戦略に日本を組み込んでしまうような思い切った奇策を実行できのでしょうが、第二次天安門事件を切っ掛けにのし上った後継者の江沢民の場合は軍部を取り込むためには強硬な対米・対日戦略を打ち出さなければなりませんでした。そのまた後を継いだ胡錦濤政権としては、経済成長を推し進めるためには対日関係を大急ぎで改善しておかなければならない宿命を背負っております。日中間に「春が来た!」と花咲か爺さんのような演出をして歩いた割には、聖火リレーに対する反感・違和感・嫌悪感の影響で、思ったほどの効果は上げられずに帰国。そこに起こったのが大震災だったのですから、隣国の日本から世界最高の救援隊が駆け付ける!という図は、訪日活動が確実に実を結んでいる事を実証するのに持って来いの宣伝になるはずでしたが……。