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素人がやっては行けないこと 其の弐

2011-12-14 15:28:16 | 外交・世界情勢全般
■日本の次期主力戦闘機(FX)について、野田ドジョウ首相は来年早々に訪日予定のキャメロン英国首相と13日に電話で10分ほど話したそうです。次期主力戦闘機(FX)は「あらかじめ定められた選定手続きにのっとり公正かつ厳正に選定する」と言って欧州共同開発のユーロファイターを買うとも買わないとも言わなかったそうであります。「公正かつ厳正」の公正は遠い昔に政界を揺るがしたグラマン疑獄やロッキード事件を繰り返さないとの意味があるかも知れませんが、厳正の方は「あらかじめ定められて手続き」という名の責任の丸投げを意味しているようで心配です。防衛省内での選定案を取りまとめるはずの一川シビリアン大臣は舌禍事件と問責騒ぎで省内からも忌み嫌われているらしく、「今月に入ってFXの検討内容について一度も報告を受けていない」との報道があります。従って防衛大臣の頭の上を素通りして選定案は上へ上へと揚がって行くことになりましょうが、最終的に誰が決断を下すのかがさっぱり分かりません。

……米ロッキード・マーチン社製の最新鋭戦闘機F35が、金属疲労実験の結果、機体に多数の亀裂が生じるとの恐れが明らかになり、米国防総省が開発計画の見直しに乗り出した。オーストラリアやカナダではすでにF35導入計画見直しの動きが出ているほか、米国側からも日本のFX調達計画を懸念する声が出始めている。
「日本だけが(トランプのババ抜きで)ババを引く可能性があり、戦略的な過ちを犯しかねない」こう語るのは日本の防衛政策に詳しい米大手国防産業の幹部だ。オーストラリアはすでにF35の早期購入を断念し、米海軍の主力戦闘攻撃機FA18導入へシフト。F35の導入遅れで生じる“力の空白”を埋める方向にかじを切り始めた。
F35の共同開発国のカナダも「米財政削減に伴う国防費削減の行方を見極める必要がある」(マッケイ国防相)と慎重な姿勢に転じている。…… 

■自分が担当する沖縄問題に関しても「詳細は知らない」し、沖縄処分などの歴史も知らない一川シビリアン大臣のことですから、豪・加両国の動きなどまったく知らないのでしょうし、日本の防衛に必要とされる戦闘機の能力や適正価格についてどれほど勉強しているのか、はなはだ心細い限りなのであります。先代の菅アルイミ前首相はFXに関して唐突に「軍事に興味があるんだ」とか何とか言い出したことがありましたが、理系大学出身の首相でも第5世代戦闘機の使い方を理解するのは非常に困難だと思われますし、まして農林水産省出身の元官僚である一川シビリアン大臣には選定の仕事は無理というものでありましょうなあ。


「F35の生産計画を遅らせるべきだ」と主張した米海軍のベンレット中将は、国防総省で同機の開発計画を担当する。これまでも開発の遅れを懸念する声は米政府内にもあったが、直接の担当者の証言で、もはやF35の開発遅れは不可避の情勢だ。こうした中、米ゼネラル・エレクトリック(GE)と英ロールス・ロイスは2日、F35の代替エンジン自費開発を断念すると発表した。「F35の機体の開発、生産スケジュールが不確実で、自費開発による利益確保に影響を及ぼしかねない」からだ。…… 

■エンジンが無くなったら超音速どころか離陸さえ出来ませんぞ!注文主の米国政府が財政赤字で青息吐息なのですから、世界的な不況と経済危機への対応で必死の軍需産業も殿様商売はしていられない御時勢なのでしょう。米国が世界最強の戦闘機を作って維持していられない時代になる予兆のようにも思える大変な事態になったものであります。日本だけが忠義面して最終的な開発コストも分からない新製品を言い値で買って恩義を売ろうと誰かさんが卑屈に考えているのだとしたら、非常に危険なことになりそうです。


オバマ政権に影響力のある「新アメリカ安全保障センター」(CNAS)の上級顧問、パトリック・クローニン氏は2日、産経新聞に「日本がF35を選択すれば、日本と日米同盟に極端な危険を引き起こす」と述べた。米国内で生産計画を遅らせるべきだとの論議が起きている中、「日本が、F35の購入を決めても米国がもろ手を挙げて喜ぶわけではなく、導入が遅れて日本政府が批判されることになっても、米国はその責任を負おうとしない」(クローニン氏)とみられるからだ。こうした懸念について、ロッキード・マーチン社は2日、「試験飛行などの結果が示す通り、開発はきわめて順調で、安全面での問題も全くない」と反論している。
2011年12月13日 産経ニュース 

■虎の子の新製品をしぶとく売り込みたい気持は分かりますが、報道を見る限りはロッキード社の説明には説得力がまったくありません。日本の防衛官僚はこんな話を鵜呑みにして「公正で厳正な選定」作業を粛々と進めているのではありますまいな?!


米国防総省がF35の調達計画を2年延長させる見通しとなり、大詰めを迎えた航空自衛隊の次期主力戦闘機(FX)の選定作業の見直しが必至だ。米統合参謀本部副議長らがメンバーである国防調達委員会(DAB)の結果を見極めないまま、日本が年内に結論を出すことは「無計画のそしりを免れない」(日本の防衛産業関係者)ためだ。
DABは、国防予算を管理するナン・マッカーディ法の規定で設置が義務付けられており、連邦議会には当初予算比25%以上増額した計画を中止にできる権限がある。DABは来年1月の会議で、F35の2年間の開発延長を決める見通し。これを受け、国防総省が2月、統合執行運営会議を開くとともに、米空軍、海軍、海兵隊が初期運用能力を決定、実戦配備を進めていく段取りだ。こうした米国の運用見直しを待たずに日本政府がFXを選定するのは事実上不可能だ。…… 

■「当初予算比25%」という基準は日本の官僚が得意とする「小さく産んで大きく育てる」公共事業予算の扱い方とは雲泥の差の明確さを示しておりますなあ。日本の土木工事では2倍3倍は当たり前で10倍だの20倍などというトンデモない予算超過が認められていたのでした。米国製の兵器類を買う時に日本はまったく値切りもせず言い値で買ってくれる乗客だったという話もありますが、売主側の方が厳しいコスト基準を持っているというのも不思議な話ではあります。財務省の嫌がらせを避けるためだけに「清水の舞台から飛び降りる」無謀な選定などしてしまうと、同じ台詞で絶望的な大戦争を始めた大日本帝国の轍を踏みはせぬかと心配です。


米シンクタンク、新アメリカ安全保障センターのクローニン上級顧問は「米国側に不確定要素が増しており、日本のF35選定後、価格高騰や遅延が判明すれば、野田政権の選定責任が浮上する」と語っている。日本側には、仮にF35を選定する場合、
(1)DABの結果を見極めるためにFX選定を延期する
(2)F35を選定した上で、(3年間近く生じる)実戦配備までの力の空白を埋めるための措置をとる-という代替案としての“プランB”の策定が不可欠となってくる。
FX候補でもある米海軍の主力戦闘攻撃機FA18について、飛行隊長を務めたフィル・ミルズ氏は「第5世代というビジネス用語を戦闘機に持ち込むことから最新型のFA18に旧式という誤解が生じる」と指摘。欧州4カ国で共同開発したユーロファイターの英BAEシステムズは「制空能力に加え攻撃力もあり、F35に引けをとらない」と強調する。米軍はF35について「主力戦闘機として他に選択肢はない」(パネッタ国防長官)との立場。日本にも将来的な配備は不可欠だが、延期で生じる空白をどう埋めていくかが焦点だ。
2011年12月13日 産経新聞

■こんなに複雑で難しい選定作業を一川シビリアン大臣と野田ドジョウ首相が責任を負って正しく進められるのか?「誠心誠意」や「全力」ではとても足りない大仕事を今の民主党政権が出来るのか?トンデモない時にトンデモない政権と大臣が登場してしまったと、うっかり政権交代に手を貸してしまったことを後悔することが多いとはいえ、震災復興の遅滞遅延や原発事故対応の大失敗に更なる大きな汚点を憲政史上に残すことになりそうな実に嫌な予感がする師走であります。無理をせず、民主党には年内にでも政権を投げ出して欲しいのですが……。
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素人がやっては行けないこと 其の壱

2011-12-13 15:59:17 | 外交・世界情勢全般
■マスコミ各社が一斉に世論調査の結果を発表して年末商戦の様相を呈した週末だったようですが、今時、「固定電話」だけを使って掻き集めたデータにどれほど統計学的な資料価値があるのかないのか、少なくともこの20年ほどの間に爆発的に「個人」所有の携帯電話が普及している実態から類推して固定電話だけを利用している「世帯」だけを対称とした調査結果に世論動向の実態がくっきりと見えるとも思えないのですが……。それでも、参議院で問責決議が通った一川シビリアン防衛大臣に対して「早く辞任すべきだ」との回答が8割超も集まったと聞きますと、まだ旧式の世論調査にも一定の真実味が残っているような気もします。

■完全内向き「党内融和」に凝り固まっている野田ドジョウ首相にとっては世論の喧(かまびす)しい声など文字通りの馬耳東風で、世間の声より政権維持の命綱となる小沢グループの数と参院の輿石会長の御威光の方が遥かに重要なのでありましょう。そうしたドジョウ首相の胸の裡をよくよく分かっている一川シビリアン防衛大臣であるからこそ、「しっかりと私に与えられた任務を乗り越えていく中で、国民に防衛省、自衛隊ががんばっている姿を見せたい」などと臆面も無く言っていられるのでしょうなあ。少なくとも自衛隊が頑張っていることは大震災と原発事故で多くの国民が理解を深めておりますが、防衛省となりますと背広組の資質が低いのではないか?とあちこちから懸念の声が漏れております。そして何より防衛大臣には既に誰も何も期待していないのでしょうから、うっかり「与えられた任務を乗り越えて」日本の安全保障を危機に瀕するような素人仕事だけはしないで頂きたい!

■米国では12月12日の両院協議会で、12会計年度(11年10月~12年9月)の国防権限法案から在沖縄海兵隊のグアム移転経費を全額削除することが合意されてしまったそうです。米軍再編という大きな枠組みの中に世界一危険な普天間飛行場の移設問題が組み込まれているのですから、グアム移転が停滞したら計画の歯車は急停止するか逆回転してしまうかも?移設計画を根底からぶっ壊してしまった鳩山サセテイタダク元首相は、先に「辺野古以外の場所も考えろ」などと恥の上塗りでしかない妄言を吐いて、マスコミから悪い意味で注目されたことを勘違いしてしまったらしく、12月5日の講演で「首相を務めた人間として責任がある。(普天間問題には今後も)何らかの形で関わらないといけない」と御丁寧に民主党政権の安全保障政策に対する批判の火に油をかけて見せた由。「首相を務めた人間として」有りもしない影響力が残ってはいけないとの理由で政界引退を思い付きで口にしてしまい、後援会の数名に翻意を迫られたとて「やっぱり辞めるのを止めた」と自らの出処進退に関してもウソをついてしまった事も忘れて、何処からともなく吹き始めた解散風を感じて本気で自分の議席を守ろうとし始めたとしたら、世にも珍しい形で自分が作った政党から追い出される元首相の役を演じて歴史に名を残すことになるかも知れませんぞ。

■一川シビリアン防衛大臣は地雷を抱いて敵戦車のキャタピラーに襲い掛かった大日本帝国の軍人のように、「環境影響評価書」という爆弾を年内に沖縄県現地に持って行く気でいるから「乗り越えて」という表現を使ったものと考えられるのですが、これも沖縄問題の「詳細は知らない」からこそ可能な行動だと言えるでしょう。沖縄で大規模なデモや暴動が起こったら日米関係は取り返しがつかない大混乱になることを承知の上なのか、そうなった後始末は外務省に丸投げすれば済むと思っているのか、何も考えていない大臣の頭の中は誰にも分からないのかも知れませんなあ。


政府は13日、航空自衛隊の次期主力戦闘機(FX)に、米国主導で国際共同開発中の最新鋭ステルス戦闘機F35を選定する方針を固めた。16日に安全保障会議(議長・野田佳彦首相)で正式決定し、2012年度予算案に4機分の取得費を計上。最終的に約40機(2飛行隊分)を取得する。…… 

■公務員給与の削減法案も国会議員定数削減法案も先送りして国会を閉めてしまい、増税以外は何も決められないのかと思っていたら、今後20~30年間の日本の防衛力を決定する重大なことを野田ドジョウ内閣が事務的にスケジュール通りに決めてしまいましたぞ!野田ドジョウ首相に安全保障会議の議長など務まるのかいなあ?それ以上に一川シビリアン防衛大臣は次期主力戦闘機について「詳細を知って」いるのでしょうか?一体、誰が決めたんだ?


F35は候補の3機種のうち、レーダーに探知されにくいステルス性能を備えた唯一の次世代(第5世代)戦闘機で、最新のレーダーや僚機と情報共有する「データリンクシステム」を備えている。性能面で最有力視されたが、開発が遅れ、空自が求める16年度中の納入が不安視されていた。……安全保障面での対米重視を鮮明にした形だが、実際の配備までには曲折もありそうだ。FXは老朽化したF4戦闘機の後継機。政府は初年度分の4機は完成品を輸入し、その後は可能な限り国内企業を生産に関与させたい考えだ。
2011年12月13日 産経ニュース 

■問題の3機種というのが突如選定されたF35と、F/A-18E/F スーパーホーネット・ブロックIIという馬鹿長い名前の機体と欧州製のユーロファイターなのだそうですが、国民的な議論もなければ国会でもみっちり議論した形跡が無いまま自民党政権時代からの重要な懸案事項だった機種選定が、安全保障に疎い政権と名高い現政権があっさり決めてしまった大丈夫なのでしょうか?特に一川シビリアン防衛大臣に「与えられた任務」としては荷が勝ち過ぎているのではないか?

■どうやら拙速に見える選定の裏には鬼より怖い財務省と防衛省との間に暗闘があったようなのですが……。


防衛省は次期主力戦闘機(FX)選定でF35を本命視している。しかし、米国防総省のF35調達計画が2年延長され日本への導入が遅れれば、抑止力の「空白」が生まれかねない。慎重を期すには、選定時期の先送りが選択肢となるが、これが「FX不要論」につながる懸念もある。今後の手続きは、空自が(1)性能(2)経費(3)国内企業の参加形態(4)納入後の支援態勢-で候補機を採点し、一川保夫防衛相に上申。省内の「機種選定調整会議」への諮問と政務三役会議を経て、一川氏が導入機種を決める。16日にも安全保障会議で了承を得た後、来年度予算に関連経費を盛り込む。…… 

■一川シビリアン防衛相が恐ろしいほど重要な立場に置かれているのは当然のことですが、「防衛には素人、これが本当のシビリアン・コントロール」と自称した流儀で日本の運命を左右する戦闘機の(経費はともかく)性能・国内企業の参加形態・納入後の支援態勢を正しく評価採点など出来るのでしょうか?政務三役会議も安全保障会議も政治主導など夢のまた夢の構成メンバーですから、結局は省庁間の歪で陰気な力関係で拙速に次期主力戦闘機が決まることになりそうですなあ。


候補の3機種のうち、敵のレーダーに捕捉されにくいステルス性が特徴の第5世代戦闘機はF35だけ。中国が2017年に5世代機の実戦配備を目指していることを念頭に空自にはF35導入に期待感が高い。それだけに、「今さらF35以外を導入するための説明資料を作れない」(政府高官)との声もある。…… 

■世界最強の戦闘機であるとの評判が高いのは確かなようですが、その高性能故に同盟国の日本にさえも渡せない軍事機密が満載で早くから「日本には売らない」という声が米国側から聞こえていましたし、どうやら開発実験中に高性能ゆえの不具合が見付かって開発自体が予定通りに進んでいないという曰くつきの機種でもありますから、防衛官僚の声に引きずられて素人(シビリアン)判断が下されると日本の空に大きな穴が開いてしまう心配があります。


FXは平成21年度予算から調達経費を計上する予定だったが、3年にわたり計上を見送ってきた。すでに財務省は防衛費削減のターゲットとして「FX不要論」を唱え、さらなる先送りは不要論を勢いづかせる。実際に先送りすれば、F35に配慮したことになり、ほかの2機種のメーカーが不公平だとして訴訟を起こしかねない。…… 

■小泉政権の時代、今は国会議員になっている片山さつき女史はかつては財務官僚で防衛予算を担当して「潜水艦は、冷戦構造を前提とした時代遅れの兵器である。増やす事など認めない」とシビリアン発言をして防衛予算から「ひゅうが型護衛艦」と「そうりゅう型潜水艦」1隻ずつを削ってしまった実績?がありまして、小泉チルドレンの一員として国会議員になった後も防衛問題に関しては迂闊に物が言えない立場になってしまっているとかいないとか……。民主党政権内にも安全保障に関しては決して素人(シビリアン)ではない人材が居ないわけではないのですが閣僚級には見当たらないようです。財務省の傀儡政権だと名高い野田ドジョウ内閣ですから財政再建・大増税しか考えない財務省の出鼻を挫くためにも、大急ぎで機種選定を済まさねばならない事情も分からぬではないのですが、あまりにも唐突でありましたなあ。


「透明性を確保した方法で決まる」。野田佳彦首相は12日、英保守党のハワード前党首との会談でそう述べたが、現実は、問責決議を受けた一川氏に選定を丸投げ。一川氏が導入機種について明快な説明をできるかも疑問で、防衛省幹部は「今回の選定は清水の舞台から飛び降りるようなものだ」と話す。
2011年12月13日 産経ニュース 

■こうなりますと、本当に機種選定は素人(シビリアン)流に進められて行くしかなさそうです。「透明性を確保した方法」などという官僚作文を丸暗記して英国側に発信してしまう野田ドジョウ首相にも困ったもので、前と前の前の首相と同じく世界から嘘吐き呼ばわりされてしまわないことを祈るばかりであります。

和解と対立を考える 其の参

2011-03-11 11:47:48 | 外交・世界情勢全般
■前原外相の不正献金問題での辞任に比べれば土肥議員の「個人的」な宗教活動での迂闊な行動は政治家としての地位や影響力を考えれば、困ったことではあっても相対的に小さな問題ではないか、と思っておりましたが、民主党という政党に目立つ韓国・北朝鮮に対する奇妙な姿勢の裏側にトンデモない事実が隠されている可能性が出て来ますと、これは非常に根の深い戦後の政治史を書き換えるような大騒ぎになる予感も湧いて来ますなあ。

■土肥議員の暴走を入り口にして、もっと大きな問題を考えようと思っていたのですが、前原外相→土肥衆院政治倫理審査会会長に続いてとうとう同じ火種から菅アルイミ首相の足元にも飛び火してしまうと、もう少し土肥問題を考えねばなりますまい。


菅直人首相の資金管理団体が政治資金規正法で禁止されている外国人とみられる知人から献金を受けていたことが11日、明らかになった。首相は献金を認め、日時や金額、知人の国籍など詳細を調査する考えを示した上で、「外国人とは知らなかった」として続投を表明した。……首相は11日午前の参院決算委員会で「日本名で日本国籍と思い、外国籍とは承知していなかった。献金は事務所に確認したところ頂いている」と述べ、献金受領を認めた。さらに「日時や金額は調査している。外国人と確認されれば、全額返金したい」と述べた。
献金者に関しては「私が仲人した知人から数年前に、不動産関係の仕事をしている人として紹介された」と説明。「釣りに出掛けたこともあり、数回会食したこともある」と述べ、親交があることを明らかにした。……首相はこれに先立つ閣僚懇談会で「外国人とは本当に知らなかったので、これからも精いっぱい頑張っていきたい」と表明した。 
2011年3月11日 時事通信 

■既に選挙資金規正法がネット献金の時代に適合しない時代遅れの条項が含まれていると指摘する声も上がってはおりますが、「悪法もまた法也」で法治国家に暮らしている者は現行法に従わねばなりません。立法府の第一党の代表で行政府の最高責任者であれば尚更であります。前原外相の問題が発覚した時に、外国人からの献金を禁止する条項に「意図的に」という条件が挟み込まれている事が報道され、必死で慰留した菅アルイミ首相はこの一点で辞任せずに内閣崩壊の危機を乗り切ろうとしたようでしたなあ。その時に自分自身にも同じ不正献金があることを承知していたのかどうかは不明ですが、前原外相は辞任する必要は無い!という理屈を自分の進退問題にも適応して「頑張っていきたい」のでしょうが、それで話が済むかどうか?特に野党時代に「政治とカネ」を厳しく追求して、どんな重要法案があろうとも疑惑追及を最優先して舌鋒鋭く与党を攻撃していた過去がありますからなあ。

■さて土肥議員の話であります。外交とは何の関係もない役職を辞すことで幕引きとして、御自身は議員を続けるのだそうですが……。


民主党の土肥隆一衆院議員が、韓国で日本政府に竹島の領有権主張の中止を求める共同宣言に署名した問題で、土肥氏は10日午前、衆院政治倫理審査会会長を辞任する意向を固めた。同日午後に国会内で記者会見し、正式に表明する。土肥氏の行動には、野党だけでなく、政府・民主党内からも批判する声が相次いでおり、責任をとる判断を固めたとみられる。
2011年3月10日 産経ニュース 

■小沢斬り・小沢苛めの総本山みたいな政治倫理審査会の会長を辞めたところで、日本の領土問題に多大な禍根を刻み付けた政治責任を取ったことにはなりますまいなあ。「党員資格停止」を通告したものの、すぐにクラッシャー小沢から常識的な質問状を突きつけられて手も足も出ない審査会など、最初から張子の虎、有っても無くても大差のない飾り物同然。そんな組織の会長ならば閑職・名誉職と言われても仕方ないのではないでしょうか?しかし、記事にある「辞任会見」は無名の与党議員が党内の役職を辞したことを報告するだけでは済まなかったようです。

■拙ブログで指摘した疑問に注文通りに答えてくれたような長い記者会見の内容が詳しく報道されております。テレビやラジオではほんの一部しか流れませんでしたが、民主党のみならず「政権交代」という現象を考えるヒントをいろいろと探し出せるないようなので、丁寧に読み直してみたいと思います。第一報で竹島問題に関して「一概に日本の領土とは言えない」との土肥議員の政治家としての判断が流れていましたが、これは誤報だったのか?と困惑するような発言もありましたぞ。


「昨日から報道されているように……3・1独立宣言の、韓国では大変意味のある、意義深い、全国民が自分たちの民族の独立と平和とを願う民族として、原点として考えている『3・1集会』があり、そこへ私が招かれて参加した。その際、共同宣言を発しようということになり、それが問題になったということだ。それを本日、説明させていただきたい」 

■韓国の「3・1集会」に対してどれほど熱い思い入れを持っていようと、それは正に「個人的」な思想信条の問題であります。しかし、与党の政治家という身分で参加する限り、その行動と発言には否応も無く外交的な意味が付いて回ります。そうした前提で土肥議員の記者会見冒頭で語られた「まくら」には、最初から相手の掌で踊らされているような印象が強いと言えそうです。
 

……「2月27日の日曜日だったが、私は民主党の国対(国会対策委員会)の許可を得て、この3・1集会に参加させていただいた。その際に、日韓キリスト教議員連盟というのがあり、クリスチャンの国会議員が双方にいて、日本は7人か8人ぐらいしかおりませんが、韓国は100人から115人がいて、大変活発な活動をされている。……その際に、共同宣言を発しようということになり、今回の問題を生じさせたということだ」 

■「8対115」では日本側の意見など一切考慮されない事は最初から分かっているような組織で、日韓の連盟と呼ぶのは無理がありそうですなあ。

和解と対立を考える 其の弐

2011-03-10 15:33:22 | 外交・世界情勢全般
■『其の壱』のつづきです。

土肥氏によると、共同宣言は先月27日、韓国の植民地支配下の独立運動を記念した「3.1節」の関連行事の一つとして開催された、同議連の共同記者会見で発表された。土肥氏は日本側会長の立場で、日本から唯一出席。韓国には当日入り、式典の前に「この共同宣言を発表したい」と日本語訳が添付された宣言文案を渡され、内容を確認して了承、共同会見に臨んだという。……「共同宣言は外交交渉上有効になるようなものではない」と説明。「この議連は本来、キリスト教的精神で日韓問題を考えようという趣旨のもの。どちらか一方だけが悪いということにはならないはずだが、韓国では竹島、慰安婦、教科書、靖国に対する自国の主張を述べないと、日本と向き合ったことにならない」とも述べ、韓国側が作成した宣言文に理解を示した。…… 

■「キリスト教的精神」というのも難しいもので、宗教心は最も「個人的」な問題ですから異教徒の他人がとやかく批判はできないのは当然としても、政治家という御自分の立場を考えればどんな精神に基づこうとも「日韓問題」に責任がある厳粛な事実を忘れてはなりますまい。自分は外務大臣ではないからと言って、領土問題を弄んでもよいという事には金輪際なりません。特に宗教には排他性が付き物で、キリスト教も例外ではなく古代ローマ帝国の時代に行なわれて土着宗教への大規模な破壊、暗黒の中世、十字軍が行なった大量虐殺と略奪と破壊、大航海時代に始まるアフリカやアメリカ大陸を舞台とした奴隷商売、最近の戦争でも非キリスト教徒を相手に徹底的な攻撃を仕掛ける悪い癖は治っていないようです。勿論、キリスト教徒同士でも数々の戦争や虐殺が行なわれて来た歴史があります。どの宗教であれ、外交問題に宗教を持ち込むのは危険ではないでしょうか?「右の頬を打たれたら左の頬も……」の精神で領土問題を取り扱ったら、あっと言う間に主権を失ってしまうのが国際政治というものであります。


共同宣言は、韓国内では主要各紙が報道。会見した土肥氏らの写真も掲載された。土肥氏によると、同議連はキリスト教信者の両国の国会議員によって約11年前に発足。日本側は7人程度だが、韓国は国会議員の3分の2にあたる約150人が所属しているという。土肥氏は通称「菅グループ」と呼ばれる菅首相主宰の「国のかたち研究会」代表を務め、昨年9月の民主党代表選では菅首相の推薦人だった。 

■すると菅アルイミ首相が考える「国のかたち」には竹島は含まれていないのでしょうかな?少なくとも「こども手当て」はマニフェスト通り満額を支給するような「かたち」にはなっていないのでしょうが、農業や教育、あるいは社会保障制度についてグループ内では明確な合意形成が出来ているのでしょうか?単なる菅アルイミ議員を総理大臣に担ぎ上げるだけの権力闘争専用の烏合の衆だとしたら、自民党の派閥にも劣る恐ろしい権力亡者の集団だと言わねばなりますまい。


……拓殖大の下條正男教授は「政権与党幹部の一人が韓国側の主張に沿う共同宣言を公の場で共同発表したことは、韓国側には『日本政府が韓国の領有権主張を認めた』と解釈される。軽率すぎる行動で、領土問題の根幹をまったく理解していない」と指摘している。
2011年3月9日 産経ニュース 

■韓国側では大喜びでマスコミが報道していたようですから、既に実害は出ていると考えておくべきでしょう。米国の日本部長がオフレコの場とはいえ、とんでもない暴言を吐いたとて瞬く間に更迭されるという大事件が起こった時期に、満身創痍の菅アルイミ内閣にとっては泣きっ面に蜂でありましょう。どんなケジメを付けるのかと思っていたら……。


……自民党は10日午前、党外交部会・領土に関する特命委員会合同会議を開き、土肥氏に事実関係や真意をただす公開質問状を出す方針を決めた。質問状は石破茂政調会長名で、10日夕にも土肥氏側に届ける。国会審議でも徹底追及し、衆院政治倫理審査会長である土肥氏の解任を求めていく方針だ。……土肥氏に対し「政府・与党で首相を支える枢要な議員が日本政府の方針に真っ向から反対している」(新藤義孝衆院議員)などと非難が続出した。さらに「土肥氏の考えが民主党政権内では珍しい考えではない」(山本順三参院議員)、「民主党の体質そのものだ」(平沢勝栄衆院議員)といった民主党の外交姿勢に対する批判も相次いだ。…… 

■大騒ぎになった米国務省のメア日本部長の失言?も「米国の本音だ」と指摘する声が出ているようですから、「民主党の体質そのもの」が露呈したと考えることも出来そうです。仙谷ノーコメント前官房長官も韓国に対しては不思議なほど低姿勢で、歴史的図書の引渡しやら選挙権の拡大やら、妙なことに熱心であります。そういえば、土肥議員と仙谷ノーコメント前官房長官とは同じ社会党の釜の飯を食べていたのでしたなあ。二人とも1990年の第39回衆議院議員総選挙に日本社会党公認で立候補して初当選している同期で、離党したのも同じ時で民主党に紛れ込んだのもほぼ同じだったようです。旧社会党と今の民主党との関係は重大な謎であり問題なのですが、これがブラックボックスになったまま政権交代が実現してしまったのは日本の憲政史において最大の不幸だったのかも知れませんなあ。


石破氏は会合後、記者団に「竹島は日本固有の領土だと国会で決議し、確認している。その責任は一議員としても負わねばならない」と強調。ロシアのメドベージェフ大統領が北方領土に上陸するなど、近隣国が領土問題で圧力を高めていることを念頭に「それだけわが国の対応が揺らいでいるということだ」と指摘した。
2011年3月10日 産経ニュース 

■個人的な宗教感情で国の領土を他国に割譲されたら堪りませんし、外国の政治家と同じ穴の狢(むじな)になって相手の気に入る言動に徹して拍手喝采されたのを、自分が友好関係を作る仕事をしているなどと勘違いされるのはもっと困ります。土肥議員は社会人として手形の裏書や知人の借金の保証人になる承諾書などを押し付けられても、ほいほい署名捺印したりはしないはずです。韓国に到着したら既に出来上がった共同声明の文章を渡されて、日本語訳も確認してほいほい署名してしまうのは政治家として如何にも軽率でありました。こうした自覚を欠いた乱暴な行動が「和解と平和」ではなく、対立と相互不信の種になってしまう可能性がありますぞ。

■こんな事をしていると、前原外相が辞任した原因となった不正献金の問題と絡めて、韓国のキリスト教仲間から寄付や献金を受けているのではないか?などと痛くもない腹を探られるかも知れませんなあ。

和解と対立を考える 其の壱

2011-03-10 15:23:32 | 外交・世界情勢全般
■今年度予算の関連法案が成立する目途がまったく立たず、とうとう「子供」を人質に取って、マニフェストに掲げた「こども手当て」だけでも半年間の延長をお願いしたい!と野党に泣き落とし同然で懇願している菅アルイミ内閣の惨状は日々深刻化しておりまして、既にお笑いのネタになりつつあるようにも見えます。鳩山サセテイタダク前首相の発言よりも「国民の皆様が聞く耳を持ってくれない」のが今の菅アルイミ首相の空疎な言葉でありまして、どうやら自分が総理大臣の椅子に座っていることだけで妙な達成感と陶酔感を得られる特異体質を持っているのが原因ではないか?と思われます。特に嬉しいことがあるはずもないのに、カメラの前で意味もなくニヤニヤして見せるのも同じ心の病が原因かとも思われますなあ。

■そんな菅アルイミ内閣が前任者がぐちゃぐちゃにしてしまった日米関係を建て直し、国家百年の計を考えて戦略的な外交を展開することなど、誰も期待してはいないのでありますが、少なくとも自民党時代よりも国際関係を悪化させぬよう、前の内閣と同じ失敗だけはしないようにと民主党分裂・政界再編が起こるまでは祈っているしかないのでありますが……。


島根県が制定した「竹島の日」の(2月)22日、枝野幸男官房長官は記者会見で、竹島(島根県)を韓国が不法占拠している現状に対して、「わが国の立場は従来、明確に申しあげてきている。平和的解決のために有効な方策を不断に検討し、必要な施策を実施している。粘り強い外交努力を行っていく」と述べて、「不法占拠」という政府の立場を明言しなかった。……外務省がホームページで「国際法上何ら根拠がないまま行われている不法占拠」で、韓国の対応は「法的な正当性を有するものではない」と主張している。だが民主党政権は韓国側への配慮のため、記者会見などで「不法占拠」と明言することを封印してきた。これに対して民主党出身の西岡武夫参院議長は同日の記者会見で、枝野氏の姿勢を「事なかれ主義だ。政権としては許されない。23日の記者会見で政府の見解を言うべきだ」と批判。「政権の領土、外交防衛に対する考え方は厳しく批判したい」とも述べた。昨年4月には、岡田克也外相(当時)が衆院外務委員会で、不法占拠との明言を拒否し、自民党から「間違ったメッセージを韓国に与える」と批判されていた。
2011年2月22日 産経ニュース 

■元々、政党としての綱要を持たず政権交代を果たした時のマニフェストに安全保障・外交に関して実質的に何も書けなかった民主党ですから、党内から政府の外交方針を批判する声が飛び出すのも不思議ではなく、相手国に不快感を与えず決して怒らせない外交が「平和的解決」と同義ならば、こんな気楽で亡国的な政治は他にないでしょうなあ。骨の髄まで憲法前文と9条が浸み込んでしまった怠惰な政治姿勢を変えられない連中が政権中枢で仲良しサークルを作って、内閣改造でも党内人事でもポストを盥(たらい)回ししているだけですから、「難しい外交問題よりも生活が第一!」と素朴に期待して一票を投じた有権者達でも、連日報じられる外交上の大きな失点の連続にはだんだん不安と怒りを感じ始めているのではないでしょうかな?


……竹島について、衆院政治倫理審査会会長で菅直人首相が主宰する政策グループ代表の土肥隆一衆院議員(兵庫3区)が「日韓キリスト教議員連盟」の日本側会長として、日本政府に竹島の領有権主張中止などを求める同議連の日韓共同宣言に名を連ね、韓国の国会で共同記者会見していたことが9日、分かった。土肥氏は産経新聞の取材に「個人的には、竹島は日本の領土とは一概にはいえないのではと思っている」と話している。共同宣言文のタイトルは、「和解と平和を成す韓日両国の未来を開いていこう」。日本に対し「歴史教科書の歪曲と独島領有権主張を直ちに中止する」などの3項目を要求。議連の日本側会長の土肥氏ら3人の連名としている。 

■この第一報をネット・ニュースで目にした時に仰天したのですが、夜のニュースで始めて御本人の顔を見て二度びっくり。事の重大性をまったく理解せずに涼しい顔して「大したことじゃあない」などと全国ネットで放送されるインタヴューでしらっと喋っておりましたなあ。兵庫3区の皆さんは領土問題に関する土肥議員の「個人的」な見解を承知の上で支持しているのでしょうか?「一概には言えない」などと腰の引けた寝言を言っていると、竹島の次は尖閣→沖縄→南西諸島、北方領土→北海道→東北地方と歴史を播き戻して日本の領土を削り落として行くことになりはせんかいなあ?とひどく心配になります。菅アルイミ首相の「政策グループ」はこんな人物を代表にして、一体、どんな政策を練っているのでしょうなあ?「和解と平和」などと響きがよいだけで無内容で、扱いを間違えると一転して緊張と戦争に発展してしまう恐れのある三流政治家が好む文言に釣り上げられるような代表に担がれているようでは、菅アルイミ首相の末路は悲惨なものになりそうであります。

■そんな基本的な事など、東京神学大学大学院の修士課程を修了し、日本基督教団所属の牧師になった土肥議員ならば御存知のことなのでしょうが、1990年の初当選以来1995年まで社会党に属していた点には危惧を覚えます。2007年(平成19年)の8月14日に挙行された「2007釜山・板門店・平壌十字架大行進」というイベントに参加して、「日本人は天皇を現人神とする偶像崇拝の罪を犯し……神社や神宮を立て参拝を強要した。過去を振り返り、われわれ日本人が犯した罪を主の名の下に告白し、謝罪する」と発言したのが事実ならば、宗教者としての独善性が政治家としての責務より優先しているような印象を受けます。百歩譲って野党時代の「個人的」な言動として不問の附すこともできましょうが、党を挙げての宿願だった政権交代が実現したのですから、たとえローカルな議員であっても政権政党の一員だという自覚は持って欲しかったですなあ。

■この発言から2年後、政権交代が実現した2009年の第45回衆議院議員総選挙で102,350票もの支持を得て7回目の当選を果たしておられますが、民主党のマニフェストには日本をキリスト教化するとは書かれていませんでしたから、投票した人たちの多くはポスターの赤文字の「政権交代」にだけ期待していたのかも知れません。それにしましても、近代民主政治が多くの血を流して実現した政教分離の原則を土肥議員は無視しているようですから、「民主党」という名前の政党に属しているのは如何なものでしょうなあ?本当に民主党には多士済々――ではなくて雑多雑駁な人たちが寄り集まっているものだと、改めて驚いてしまいます。

脱出と商売 其の壱

2011-03-04 15:58:53 | 外交・世界情勢全般
■新聞やテレビ・ラジオが大学入試のカンニング事件?やニュージーランド地震、そして、本当にどうでもよい民主党の分裂抗争劇などの「合間」にリビア情勢を報道してくれるものですから、世界各国が在留邦人を続々と保護・救助している実態を知ることが出来ませんでした。偶々、リビア在住の日本人が少なく、内戦に巻き込る人もいなかったのは幸いでしたが、日本政府は他国の政府がてきぱきと同胞の救出に動いている仕事ぶりと比較されるのを嫌って、報道各社に圧力を掛けたり懇願していたのかと思えるほど、大手マスコミはまったく他国の対応を報じていなかったのは不思議な話であります。

……川崎市在住の会社員牧紀宏さん(48)。14日から社用でトリポリ中心部にあるホテルに滞在していた。……ホテルの朝食は日に日に品数が減った。パンが無くなり、トマトなどの野菜がなくなり、最後はコーンフレークだけになった。……23日、いったん空港に向かったが、予約した便には搭乗できなかった。「数千人の人々が殺到していて、搭乗手続きがまったく進まなかった」。日本大使館の職員が国旗を掲げて牧さんを誘導したが、無駄だった。人々が将棋倒しになり、血を流す場面にも遭遇。身の危険を感じてあきらめ、午後5時にはホテルに戻った。暗くなって銃撃が始まるのが怖かったからだ。……日本大使館からは23日夜、在留邦人に「24日中に国外退去してほしい。チャーター機を手配しているが、飛ばない可能性もある」とメールで連絡があったという。……「あいまいな(政府の)チャーター機に頼るより、自力での脱出を考えた方がよい」と判断。24日、現地スタッフと日本人社員5人で空港に向かった。1人はローマ行きの便、牧さんら4人はイタリア半島の南に位置するマルタ行きの便に搭乗できた。現地スタッフがアラビア語で航空会社と交渉したことが功を奏した。牧さんがマルタに到着したのは同日午後7時ごろ。……
2011年2月26日 朝日新聞 

■「政府に頼らない」という牧氏の英断は見事!ですが、日本政府の「あいまいな」対応には不信感と共に恐怖を覚えます。外国に暮す日本人は自分自身の安全は小泉政権が現われるずっと前から「自己責任」で、戦争やテロ犯罪に巻き込まれて被害を受ける危険があっても、すべて自分の責任で判断と決定をせねばなりません。いつでも外交特権を有する在外公館に逃げ込める訳ではありませんからなあ。さて、日本政府とは対照的に迅速な対応をして世界を驚かせたのが北京政府でありました。話は日本の牧氏などが脱出を試みた2月22日に遡ります。


リビアの最高指導者カダフィ大佐を40年以上にわたり支えてきたオベイディ公安書記(公安相)が22日夜、反体制派に合流するとして辞任を表明、軍に対しカダフィ氏への反乱を呼びかけた。反体制派は同国東部を制圧、リビア情勢は内戦の様相を呈しつつある。各国の自国民救出に向けた動きも拡大している。トルコ政府は23日、北東部ベンガジからトルコ人約3千人をフェリー2隻で脱出させた。海軍艦艇が護衛したという。フランスも約400人の自国民を軍用機で国外に運んだほか、米国のフェリーも首都のトリポリ沖に向かっている。……
2011年2月24日 産経新聞 

■こうして僅かに報道され始めた各国の救出劇でしたが、日本の報道機関がまったく捕捉できない速さで対応して見せたのが北京政府であります。あまり褒めるところのない政府ですが、良いことをした時はちゃんと認めて賞賛したいと思います。


……国政府が手配した民間チャーター機は、リビアの首都トリポリから233人を乗せて25日未明、北京に無事到着した。続いて同日午前、227人を乗せた2機目も帰還を果たしている。空港で彼らを出迎えた宋涛(中国外交部副部長は、すでに1万2000人がリビアを出国したことを明かした。23日夜にはエジプトに300人が、24日午前にはギリシャのクレタ島に4200人が到着したと報じられている。なお、リビアに在住する中国人は3万3000人と見られている。中国商務部によると、現地では27社の中国系企業が襲撃の被害に遭っている。経済損失は大きく、負傷者も出ているが、死者は出ていない。現地には中国系企業75社が投資しており、関連プロジェクト50件が稼働しているとの統計。なお、商務部は24日付で現地に向け、カップラーメンやビスケットなどの食品10トン、飲料水4.5トン、薬品などの救援物資を送り出している
2011年2月25日 Record China 

■即座に脱出可能な人々を飛行機と船で助け出すと同時に救援物資を送り届ける、その決断の早さと実施の速さには驚かされます。まさか、有事・戦時のシミュレーションを兼ねて軍部が後ろで大活躍しているようなことのないように祈るばかりですが……。何はともあれ、世界の度肝を抜いた北京政府による脱出劇はこうして始まったのでした。

チュニジアから 其の八

2011-03-02 07:27:23 | 外交・世界情勢全般
■リビアのトリポリに向かうデモ隊は、あちこちでカダフィ大佐の肖像画がポスターを見つけては赤いペンキを投げつけたり、踏んだり焼いたり破いたりして行ったようですが、日本の民主党内では菅アルイミ首相の奥さんが標的にされているそうな……。

……「松木ショック」で民主党のパンドラの箱が開いた。24日の代議士会は執行部批判が噴き出した。
「総支部に送付された政策ビラには(首相夫人の)伸子さんを使った漫画のビラもある。伸子さんを広告塔にすることを決めた覚えはない。これを配る人はほとんどいない!」1回生の大谷啓衆院議員が一気にまくし立てると多くの若手が「そうだ」と同調。その瞬間、岡田氏が血相を変えて立ち上がった。
「今、しゃべった人は立ってください。もう少し言い方を気をつけたらどうかね!」
岡田氏はヤジを飛ばした議員3人を前に呼び出したが、1人はなおも「突然送られたビラの内容がどうかと言っているんだ」と食ってかかった。完全に「学級崩壊」。小沢氏に近い山岡賢次代議士会長はニヤニヤしながら「活発なご議論をありがとうございます」と代議士会を締めくくった。…… 

■指導力不足の問題教師と個性だユトリだと自制心を培えずに育った生徒達、そんな風景に見えるから「学級崩壊」と言われるのでしょう。こんな事をやっている政党に文部行政は任せられませんわなあ。それにしても、どんな世論調査をして伸子夫人を漫画版パンフレットに登場させたのでしょう?間も無く総辞職に追い込まれる公算もある菅アルイミ首相ですから、余った分は「前総理婦人」の肖像として取り扱わねばなりませんし、人一倍目立ちたがり屋だった鳩山サセテイタダク前首相の御夫人も、やっかみ半分で問題の政策ビラを既に踏んで破いて焼き捨てているかも知れず、素直に命令に従う御亭主の尻を叩いて「菅オロシ」に邁進させ始めているかも知れませんなあ。


……小沢系衆院1回生の「北辰会」の黒田雄代表世話人は24日、「予算案も自動的に賛成するわけではないのか」と記者団に問われると「もちろんだ。(予算案も)マニフェストへの臨み方が違っている。国民との約束を本当に守れているのか疑問を感じている」と造反に含みを残した。…… 

■対外的には「マニフェストは守っている!破綻していない!嘘も言っていない!」と言い張っている菅アルイミ内閣ですが、身内から「見直し」「手直し」の声が上がり、「正直に出来ないと言いましょう」と選挙向けの提言をしている人もいるとか……。マニフェストを真ん中に置いて内ゲバ・権力闘争をやるために政党助成金を貰っているのではないことを肝に銘じると共に、国民の側からは双方に対して財源に関して「消費税か仕分けか、どっちなんだ?」と質問が出ているのですから、この点だけには早めに答えて欲しいものであります。


……首相は24日の衆院本会議で決定的といえる失言を犯した。子ども手当制度導入を党内で議論した当時、月2万6千円という支給額に「びっくりした」と発言。政権奪取の原動力となった目玉政策を否定するような発言に与党席は騒然となり「何を言ってるんだ!」とのヤジが飛んだ。首相の統治能力の欠如がもたらした党の惨状に政務三役の一人はこう語った。
「セーフ(政府)民主党ではなく、もうアウト民主党だな…」
2011年2月25日 産経ニュース 

■クラッシャー小沢に関して書かれた本を読むと、子供手当ても個別補償制度もずっと前から練られていた政策だったことが分かります。それを承知で自由党を吸収合併する形で新民主党が誕生したのですから、菅アルイミ首相の「びっくり」発言は政策軽視の政治姿勢を端無くも正直に吐露したものと判断できましょう。総理大臣になれるのなら、どこの政党でも、どんな政策でも、どうでも良かった人だとこの期に及んでよく分かりました。ですから、マニフェストを真面目に読んで淡い期待を持って民主党に投票した多くの有権者は、本気で怒ってよいでしょう。

■既に辻立ち演説をしている民主党議員が配るビラやパンフレットを目の前で破り捨てて踏み付ける人も出ているようですし、殴られてしまう可愛そうな議員もいるとか……。選挙用ポスターから「民主党」の文字を削ったり、閣僚と並んで撮った写真を差し替えている議員も出ているとも聞きますから、やはり、民主党はトリポリ状態と言ってよさそうですなあ。

チュニジアから 其の七

2011-03-01 09:56:16 | 外交・世界情勢全般
■お話はしばらくアフリカのリビアを離れて日本のことになります。国連や関係諸国から発せられる声明や決定に対してカダフィ大佐が返す支離滅裂な応答が大真面目に報道されている中、我が国ではそれに負けぬまったく噛み合わない恥ずかしくも稚拙な議論が衆議院予算委員会という最も言葉を正しく厳かに使わねばならない場所で飛び交っている様子がラジオからだらだらと流れておりますなあ。

民主党の輿石東参院議員会長は25日夜、大阪市内での会合で「大阪に来て『組織論を知らない民主党』だとしかられた。ご期待に応えられる民主党に生まれ変われなければという思いでいっぱいだ」と述べ、菅直人首相の政権運営や小沢一郎元代表への処分問題をきっかけにした党内の混乱に懸念を示した。……昨年議員を引退した高嶋良充民主党前参院幹事長も政権の現状について「八方ふさがり、四面楚歌とはこういう状況を指すのではないか」と指摘。さらに「ここまでくれば、大胆な転機を迎えるための状況をつくる必要がある。肉を切らせて骨を断つような背水の陣で臨まなければならない」とも述べ、首相退陣や衆院解散による局面転換が必要だとの考えを示唆した。
2011年2月25日 産経ニュース 

■こういう発言を聞きますとトリポリのカダフィ大統領と菅アルイミ首相が似たような立場にいるような気になります。米国のオバマ大統領も上下院のネジレ状態に苦しみつつも、割と上手に共和党と妥協して選挙中の公約を換骨奪胎・整理整頓して延命に成功しているようですが、市民運動家出身からなのか?左翼運動の残滓が発する独特の毒気が原因なのか?今の民主党政権には唯我独尊・真理は我に在り!という絶対の革命指導者を自認するカダフィ大佐にも通じる頑なさと、同時に革命(政権交代)のためなら嘘をついても許されるのだ!という恐ろしい開き直りの姿勢も見受けられます。

■関連法案を切り離して予算案だけを無理やり成立させようなどという暴挙しか残されていない状況で「生まれ変わる」暇など無さそうですし、頼みの衆議院でも必要な3分の2を確保しようにも、首相自身が恥も外聞も無くあちこちゴマを擂(す)って協力を求めて歩き回ってみたものの、消えて無くなりそうな社民党には好き放題に悪口を言われ、公明党には門前払いを喰らい、あまつさえ、小沢斬りの反動で身内から離反者が出る始末で、意気消沈していた自民党はもりもりと元気を回復して「解散しろ!」の大合唱を合言葉にして一致団結・箱弁当になりつつあるようです。ますます反政府デモ隊にトリポリ中心部を包囲されているカダフィ大佐の苦境に似て来ますなあ。


民主党執行部が所属全議員に対し、テレビやラジオに出演する際、番組名やテーマをあらかじめ届け出るよう求めた上で「野党を利するような発言には注意を」とくぎを刺す文書を配布していたことが27日、分かった。文書は岡田克也幹事長と馬淵澄夫広報委員長の連名で17日付で配布された。議員の出演を幹事長室で一括して集約する方針に理解を求めると同時に「4月の統一地方選を控え、メディア対応の重要性は申し上げるまでもない」と指摘。「事実に基づかない誹謗中傷には徹底的に反論をお願いする」と要請し、野党にくみするような発言に自重を求めている。…… 

■「反政府デモをしているのは少数だ!」だの「騒いでいる若者はアルカイダによって洗脳され薬物で汚染されている!」だのと訳の分からない妄言を吐き始めたのはカダフィ大佐ですが、「マニフェスト詐欺!」を筆頭に現政権の迷走と開き直りの酷さに呆れてしまった国民が発する怒りの声は、決して「事実に基づかない誹謗中傷」ではありませんし、「野党を利するような発言」を最も多くしているのは菅アルイミ首相御本人ではありますまいか?正月5日にテレビ朝日の『報道ステーション』に出演して通常平均視聴率を半減させて見せた菅アルイミ首相は、その後、どのテレビ番組にも登場しておりませんから、既に解散総選挙モードに入った目先の利く所属議員が我も我もと泥舟から逃げ出すのにメディアを利用するのを邪魔しているとしか思えません。


文書が配布された17日は、小沢氏に近い衆院比例代表16人の議員が会派離脱届を提出する動きがあった。今回の通達について、小沢氏支持派議員は「われわれに対する言論統制だ。執行部が党内をまとめきる自信がないことの表れだ」(中堅)と批判している。
2011年2月27日 産経ニュース 

■国民の多くは「こんな議員も居たのかいなあ?」と、固い表情で居並んだ16人の顔をぼんやりと眺めていたはずですが、民主党中枢では分党離脱の始まりかと戦々恐々としてのでしょう。他の政党に擦り寄らねばならない苦境に身内から造反者が出るような粛清劇を演じているのですから、浅間山荘の連合赤軍と同じだ!と警察官僚出身の亀井静香さんに嫌味を言われても仕方がありませんなあ。

■言論統制の文書が出されたのが2月17日なのに、10日後の27日・日曜日の朝には輿石参院議員会長がフジテレビのニュース・ショーにじっくりと出ておりましたぞ。あれも「番組名やテーマをあらかじめ届け出る」手続きをきちんと経ての出演だったのでしょうか?でも、こんな通達を出してしまうと、「野党を利する」首相や閣僚の国会答弁を何とかしろ!という怨嗟の声が党内に湧き上がりそうですし、「事実に基づかない」強弁を重ねていると統一地方選は大惨敗に終わり、ヤケクソ解散総選挙で一億玉砕ならぬ民主党候補玉砕になり兼ねない!との悲鳴も聞こえて来そうであります。

■もしも、選挙の応援演説に菅アルイミ首相が出掛けたら、きっと其の姿はバルコニーに現われて動員された支持者達に手を振っていたカダフィ大佐の姿とそっくりなのでしょうなあ。

チュニジアから 其の六

2011-03-01 09:56:01 | 外交・世界情勢全般
■以前、最近のカダフィ大佐の容貌が故人となった喜劇俳優・三木ノリ平さんに似て来たと書きましたが、カダフィ一家は一致団結して劇団でも結成したのか?と思えるような挙に出ているそうです。映画『サウンド・オブ・ミュージック』や『菩提樹』のモデルになったトラップ一家なら素敵な歌を聴かせてくれたのですが……。

……カダフィ氏と家族は、多くの都市を反政府デモに制圧された23日以降、一斉にテレビ出演や欧米メディアでの発信を始めた。共通しているのは、「自分たちに多数の死傷者が出た責任はない。リビアにとどまる」というメッセージだ。…… 

■「では、誰の責任なのだ?!」と即座に問い返したくなるような発言ですから、これは宣伝としては逆効果でしょうなあ。


長女で弁護士のアイシャ氏は23日、小型機で地中海の島国マルタに逃げようとして、着陸を認められず引き返したという中東衛星テレビ局アルジャジーラの報道を打ち消すため同日夜、国営テレビに登場。「事実無根」と笑顔を振りまいた。……国連開発計画(UNDP)の親善大使だったが、同日解任された。…… 

■もしも亡命に成功していたら、テレビには出られなかったのですから、そこで笑顔を振りまいている事自体が逃亡に失敗した証だ!と言われたら、さぞや困るでしょうなあ。それにしましても、独裁国家の「弁護士」というのは、一体、どんな仕事をするのでしょうなあ?


三男で同国サッカー協会会長のサーディ氏は24日付英紙フィナンシャル・タイムズの電話取材で「どんな体制になろうと、カダフィ氏は偉大な父として国の助言者であり続ける」と発言。「一連の流血騒動は必要な改革に向けて通過すべき大変革だ」と強弁し、「全土の85%は平穏で、首都の住民の過半数はいつも通り働いている」と主張した。…… 

■親孝行の三男は、命懸けの反政府デモから武力衝突にまで発展した一連の動きを「偉大な父」のための改革運動だと言いたいようです。この「通過すべき大変革」の途中で自分達が排除されるとは考えず、再び権力と利権を一手に握ることになると本気で考えているようなら、悲惨な末路が待っているかも?


有力後継者の次男セイフ・アルイスラム氏は23日、スタジオらしい場所から国営テレビに出演。「我々は空爆や大量殺りくなど許可していない。メディアに門戸を開くので、実情を見てくれ」などとまくしたてた。カダフィ派が制圧している首都トリポリの「平穏ぶり」を報道させようという意図がうかがえる。…… 

■イラク戦争の際に、陥落中のバグダッド市内でサッハーフ情報大臣が「平穏」を宣伝している後ろを米軍の戦車が通過するという歴史的な出来事が起こりまして、すぐにサッハーフ大臣を笑い者にする商品が米国で発売されたことがありましたなあ。残念ながら次男が言う平穏な「85%」というのは海岸から離れた無人の砂漠地帯のことかも知れません。


……カダフィ氏自身。24日、国営テレビで約20分間、「(国際テロ組織)アルカイダが若者を薬物中毒にした。殺し合いがしたいなら勝手にしろ。私に公的な権力はなく、象徴的な権威しかない」などと述べ立てた。大量殺りくは、外国の差し金で勝手に争っているもので、自分には関係ないという身勝手な理屈だ。電話だけで「出演」したのは、反政府勢力の攻勢を恐れて、居場所を知られたくない用心だったのかもしれない。
毎日新聞 2011年2月26日 

■「殺し合い」という表現は見事です。政府側で盾となって命を落としている傭兵や軍人も、「勝手に殺しあって」いることになりますから、常に自分は特別な一段高い場所に立っていると思い込んでいる発言は、やはり、異様なものに聞こえます。そんな独善的な人物が国家の指導者になっているのか?!と唖然としてしまいますが、案外、今の日本の政権与党にも似たような思考回路を持っている人が多いかも知れませんぞ。

チュニジアから 其の伍

2011-02-28 16:01:23 | 外交・世界情勢全般
■リビアで市民を虐殺しているのは周辺諸国から雇われた傭兵だともっぱらの噂。フランスの外人部隊をそのまま真似たわけでもないのでしょうが、チュニジアで仏外相が大失態を演じているくらいですから、悪い事なら模倣する関係にあるとも考えられます。とは言っても、いざとなったら忽ち略奪・強姦・放火・殺人集団に変貌する雇われ兵などというものは、欧州諸国が苦労の末に編み出した国際法の体系によって何とか根絶されたことになっていたのですが、こうして現代世界にひょっこり顔を出すようだとアフリカの将来はますます暗いものになりそうです。

■部族間の複雑な敵対関係を利用して反目させて第二勢力の芽を摘み、独裁体制を守るためには国内の部族関係とは何の関係も無い他国から兵隊を雇い入れるというのは理に適っている面もありそうですが、実際に反政府運動が盛り上がったら収拾が着かなくなります。サダム・フセインが養成した親衛隊は精鋭を以って聞こえておりましたが、メイド・イン・アメリカの精密兵器の標的にされて呆気なく全滅したくらいですから、内戦が激化した場合にカダフィ自慢の傭兵による親衛隊も悲惨な目に遭いそうですし、東西南からトリポリが包囲されたら海にでも逃げない限り石や棍棒や包丁の類で嬲り殺しに遭うかも知れません。「ルワンダ化」が心配される由縁。

■カダフィ大佐は「諸悪の根源は米国帝国主義だ!」と一面の真理を突く率直な意見を持っていた指導者ですが、経済制裁に耐え切れずに欧米諸国に詫びを入れて表面上は和解して、カネの亡者を呼び込んで国家存亡の危機を脱したものの、三つ子の魂は百までの譬えに漏れず、国連総会の場で安保理を「テロ会議だ!」とこれまた一面の真理を突いて見せていたものでした。日本に対しても「戦後体制を卒業しろ!」との趣旨の貴重な?メッセージを送ってくれたこともありました。

■しかし、自分の独裁体制を崩壊させるのが、本来ならば自分を指導者と仰ぎ、父と慕い、友として信頼するはずの自国民だという単純な事実は認められず、傭兵のリクルートをしていた地域に根を張ったアルカイダ系の組織が「諸悪の根源だ!」と言い出すようでは、自分自身が犯した罪の影に怯える老いた独裁者になり果てたということでしょうなあ。


アルカイダの北アフリカ組織は、リビアのカダフィ大佐を糾弾し、大佐の支配に反抗するデモ隊との連帯を表明した。テロ組織を監視するSITEインテリジェンスグループが24日伝えた。……北アフリカで展開するアルカイダ・イン・ザ・イスラミック・マグレブ(AQIM)は声明で、カダフィ大佐がアフリカの傭兵を雇い、軍用機にデモ隊への攻撃を命じたとして大佐を非難した。AQIMはまた、イスラム聖職者、思想家、ジャーナリストに対し、リビアの民衆蜂起を支持するよう求めた。…… 

■リビアの南には西のギニアと東のソマリアに挟まれたイスラム教徒と土着宗教とが混在する国が並んでおりまして、そうした国の一つであるスーダンはとうとう分離独立へと向かい始めています。そんなややこしい地域は深刻な貧困地域でもありますから、オイル・マネーで傭兵を募集するには打って付けでもありましょうし、仮に異教徒を選抜していたりするとイスラム原理主義組織が激怒するような事が起こり得ることになります。


AQIMの声明は「われわれは、カダフィ氏の圧制を終わらせようとしたにすぎない市民や非武装のイスラム教徒に対し、同氏が行った卑劣な殺りく行為を腹立たしく思っている」とし、「われわれはリビアのイスラム教徒に対し、確固たる信念を持って耐えることを呼び掛ける。われわれは彼らが戦いと変革を継続し、犯罪者である暴君の追放に至るよう、彼らを鼓舞する」としている。AQIMはアルジェリア北部で治安部隊から圧力を受けており、ニジェール、マリ、アルジェリア、モーリタニアにまたがる砂漠地帯に一部の拠点を移している。
2011年2月24日 ロイター 

■こうした現地の情報は、残念ながら日本の一般的な新聞や雑誌、あるいはテレビやラジオを情報源にしている限り接することは出来ません。AQIMという組織の真意は不明ながら、欧米諸国と和解したことに加えて自国のイスラム教徒を虐殺している点を問題視して、単なる反米テロ組織ではない面を誇示したいのかも知れませんなあ。ただ、イスラム原理主義組織に狙われる指導者の中には近代化を目指して政教分離に踏み切った人物も多く含まれますから、仮にAQIMが推奨するような人物が次のリビアの指導者になったりすると、それはそれで困ったことになりそうです。

チュニジアから 其の四

2011-02-28 10:32:48 | 外交・世界情勢全般
■「ジャマーヒリーヤ」政治思想には独裁者の存在は許されていないそうで、カダフィ大佐は公職から身を引いて純粋に「革命の指導者」として暮らしていたことになっていましたが、一族郎党が利権を独占してやりたい放題に独裁体制を利用して甘い汁をたらふく吸っていた事実が暴露されております。

……25日夜から26日にかけ、カダフィ派による反体制派の弾圧とみられる銃撃作戦が首都トリポリの複数地区で行われた。ロイター通信は住民の話として、反体制派とみられる25人が殺害されたと伝えた。……体制存続に背水の陣を敷くカダフィ氏は26日、支持派に武器を配ったり、検問所を設置するなどして態勢を増強し、市街戦に備えている模様だ。…… 

■先の大戦でサイパン島や沖縄でも戦時国際法を無視して一般住民に武器を渡して悲惨な結果を招いたことがありますが、既に内戦状態になった以上は勝敗の決着がつくまでは大小の悲劇が起こり続けることになりそうです。しかし、多勢に無勢でさっさと武器を捨てて投降して脅迫された身の上を切々と訴えれば反政府側に生きて寝返ることが許される可能性は残っているので、カダフィ大佐の最後はルーマニアのチャウシェスクに酷似したものになるかも知れませんなあ。


……26日の汎アラブ紙アッシャルクルアウサトによると、首都で籠城するカダフィ氏は出身地シルテの部族に軍事支援を緊急要請。部族は機関銃を積み込んだ車両30台を首都へ送ったが、途中で反体制派に遮られ、シルテに戻ったという。また、同紙は、先に辞任したアラブ連盟のアブドルモネム・フーニ前大使の話として、カダフィ大佐が反乱の扇動者と主張する国際テロ組織アル・カーイダとの戦闘強化と引き換えに「体制存続を保証してほしい」と米欧に水面下で働きかけたと伝えた。……
2011年2月27日 読売新聞

■「敵の敵は味方」という究極の選択はあり得ましょうが、それも時と場合に因りますますから、この「体制存続の保証」を求めたという情報が本当だとしても、悪い冗談としか思われないでしょうなあ。まあ、カダフィを見棄てて反乱側に加わった前大使の話ですから、自分の危うい立場を補強するために流した大法螺だある可能性はありますが……。


フランスのミシェル・アリヨマリ外相が、抗議デモの吹き荒れるチュニジアで冬休みを過ごしていた問題で、サルコジ大統領は外相の更迭を決めた。……外相は休暇中、抗議デモで国を追われたベンアリ前大統領と極めて親しい実業家が保有する私有ジェット機を提供された。デモが起きると「フランスには治安維持のノウハウがあり、チュニジアに提供してもいい」などと発言。デモの最中にベンアリ前大統領と電話で連絡し合っていたことも暴露され、野党が一斉に「仏外交の信用性を失墜させた」として大統領に罷免を求めていた。サルコジ大統領は当初、外相を守る構えだった。……
2月27日 読売新聞 

■こういう現象は「EUボケ」とでも呼ぶのでしょうか?フランスの外交戦略も地に墜ちてしまいましたなあ。本気でカダフィ大佐に「フランスの治安維持のノウハウ」を提供する心算だったのでしょうか?現在のリビアは1911年から大戦後までイタリアの植民地で、戦後は英仏の共同統治の下に置かれた歴史がありますから、フランス外相は元は自国の植民地だという危険な錯覚があったのかも知れません。でも、地中海対岸のアルジェリアからサハラ砂漠を越えてアフリカ中央部に広がっていた旧フランス植民地に当たる国々にとっては見過ごせない言動と受け取られるでしょうなあ。独裁政権の利権に食い込んで荒稼ぎしている人物とべたべた付き合っている時点で外務大臣の資格は無いのでしょうが……。日本の政治かも御近所の独裁国家に関連する組織とのお付き合いには十分にご注意願いたいものであります。

チュニジアから 其の参

2011-02-28 10:32:28 | 外交・世界情勢全般
■今にして思えば、よくぞこれまで40年以上も独裁体制を維持できたものだと、感心するやら呆れるやらのカダフィ政治の内幕が徐々に暴露されておりますが、御本人は支離滅裂な演説を繰り返して断末魔の悲劇を演じているようです。思えば政権交代の後、鳩山、菅と迷走しながらもよくぞ2年間も寄り合い所帯内閣が存続したものだ、とも言えそうですが、寄木細工の接着剤が劣化して小さい順?にぽろぽろと脱落し始めた民主党は、いよいよ「数の論理」によって予算関連法案の成立が絶望視される段階に至って周辺・身内・側近からも菅アルイミ首相の辞任が囁かれ始めていると聞けば、劇的に孤立して行くカダフィ政権の断末魔と重なって見えないこともないような……。

内戦状態に陥りつつあるリビアで、同国東部を支配下に置いた反体制派の軍部隊は同日までに指揮系統を統一、西部の制圧を進めている。……最高指導者カダフィ氏を拘束するため、首都トリポリの反体制派を支援するとしており、首都で本格的な戦闘が起きる可能性が出ている。……主要製油所がある北部ラスラヌフも反体制派が制圧したと伝えた。……カダフィ氏は同日、国営テレビでザーウィヤ市民に向けたとする演説を行い、「(国際テロ組織)アルカーイダにそそのかされるな。冷静さを取り戻せ」などと呼びかけた。……隣国アルジェリアを拠点とするイスラム過激派組織「イスラム・マグレブ諸国のアルカーイダ組織」は同日、ウェブサイト上で声明を出し、リビアの反体制派への支援を表明した。…… 

■「アルカイダ黒幕説」はあながち真っ赤な嘘とも言えないようですが、広大なアラブ地域の中でカダフィ大佐を全面的に支持してくれる政治的な勢力は何処にも見当たらないのが現状ですから、反カダフィの動きに細かい網の目で構成されているアルカイダの組織が便乗したところで、何の不思議もありませんなあ。「アラブの大義」だの「イスラム同胞」だの、中東地域で振られていた大きな旗があっさり降ろされてしまう事も多いようですから、独裁者の仲良しクラブが崩壊し始めた今となっては裸の王様カダフィ大佐は世にも滑稽な孤軍奮闘に努めねばなりますまいなあ。


……中東の衛星テレビ局アルジャジーラは23日、カダフィ大佐の長女アイーシャ氏らを乗せたとみられる飛行機が地中海のマルタで着陸を拒否され、リビアに引き返したと報じた。カダフィ氏は新たに外国人傭兵を募るなど反体制派に対する弾圧を強めているが、同時に家族の脱出も図っていたことが明らかになった格好だ。中東の衛星テレビ局アルアラビーヤなどは23日、カダフィ氏の七男ハミース氏の部隊でも命令拒否が相次ぎ兵士十数人が処刑されたと報じた。
2011年2月25日 産経ニュース 

■自分は「最後の血の一滴まで戦う!」と叫んで見せて、裏では一族を国外に逃がしているのが本当だとしたら、動員されて演説を聞かされ旗を振らされている支持者達はいい面の皮であります。日本の隣近所でも似たような事態になったら、あちこちで同じ悲惨な茶番劇が演じられそうで想像するだけでも実に不愉快であります。玩具の兵隊達を束ねてクーデターを起こした1969年は、「アフリカの年」と呼ばれた1960年の熱気が濃厚に残っていましたし、社会主義陣営の宣伝にも乗って「民族解放」の大ブームが続いていましたから、日本の大手マスコミでも英雄扱いだったようです。

■折も折、チャイナでは徹底的な情報封鎖の中で文化大革命が進行していた1973年から、イスラームとアラブ民族主義と社会主義という驚天動地のハチャメチャな組み合わせで「ジャマーヒリーヤ」思想を捻り出してリビア版の文化大革命を始めてしまいます。『毛沢東語録』を手本にしたかどうかは定かではありませんが本家の文革が惨憺たる結果に終わった1976年に『緑の書』という聖典?を国民に押し付けて、先日も断末魔の演説をしている時に御本人が振り回しておりましたなあ。

■「ジャマーヒリーヤ」は「イスラム社会主義」と訳されているようですが、どうやら語源を分析すると直接民主主義・アラブ民族主義・社会主義という当時、大流行していた理想的な政治思想を並べてイスラーム教を接木するという盛り沢山である一方で矛盾だらけの政治思想と言えそうです。リビアは略称で日本語の正式国名は「大リビア・アラブ社会主義人民ジャマーヒリーヤ国」と、隣の将軍様の国に似て長い名前になってしまうのは旧ソ連の影響があったと考えられましょう。そのソ連にはスターリンという世界で最も民主的な憲法を作って公布し、それを一度も守らなかったという偉大な先輩がおりますから、その弟子筋に当たる独裁国は同じ運命を辿るのかも知れません。

チュニジアから 其の弐

2011-02-27 16:14:53 | 外交・世界情勢全般
■1月上旬に始まったチュニジアの反政府動乱は、ほんの些細な?一人の若者の焼身自殺が切っ掛けだったのでした。モハメド・ブアジジ君という26歳の若者が細々と街頭で果物と野菜を売って糊口を凌ごうと思ったら、お決まりの悪徳警官が現われて露骨に賄賂を要求したのが事の発端で、日本のマンネリ時代劇では定番のシーンそのままに、商品と計量用の天秤を没収された哀れな若者が抗議をすると衆人環視の中でビンタを張られて「商売物と道具を返して欲しければカネを出せ!」と無理難題を押し付けられたとか……。

■おそらくは仕入れの元手も商売道具も借り物だったのでしょうなあ。袖の下を強要されても無い袖は振れず、絶望した若者は焼身自殺を図り、独裁国家らのマスコミは小さな日常茶飯事とばかりにいつも通りに無視……とここまでならば、日本の隣近所の国々でも頻発している恥ずかしくも情けない独裁政権の日常風景なのですが、ここに一躍有名になったフェイスブックとツィッターが参戦!して事態は急変して行ったのでした。

■チュニジアでベンアリ大統領が国外脱出劇を演じると、反政府ネット運動は文字通り燎原の火のように砂漠を飛び越えてあちこちに飛び火して広がり、中東和平の要石となっているエジプトでも大統領を追い落とすことに成功したのでありますが、それを受けて2月12日に菅アルイミ首相は首相公邸前で記者団に「エジプト国民の平和的に政権交代を求める活動が新しい展開を示していることに敬意を表し、民主的に新たな政権が誕生することを期待したい」と述べたのだそうです。

■自分の政権が画像投稿サイトのユーチューブを舞台にした「国家機密漏洩」事件で大きく揺らぎ始めたことをすっかりお忘れの御様子。そして、ムバラク大統領を追い出したのはエジプト国軍だったことと、仙谷ノーコメント前官房長官の「柳腰外交」で海上保安庁と自衛隊が政府に不信感を募らせていることに不気味な共通性がありはせぬか?ともお考えにはならない御様子。特に自衛隊には沖縄の基地移設問題に関して日米同盟関係に亀裂が入ってから、現政権に対して静かな怒りが渦巻き始めているような気配があるのも気になるところであります。

■リビアでは部族間対立が表面化してカダフィ後の混乱と内戦が心配されておりますが、日本でも地方自治体の政治的な反乱があちこちで起こり、事は菅アルイミ首相自身が「びっくりした」と言う子供手当ての財源を巡っての対立に留まりそうにありませんぞ。悲しいことに「地方分権」も紙くず同然となった民主党の選挙用マニフェストに書かれているのですから、これも前言撤回の一つに加わる可能性が高いのですから、統一地方選は民主的かつ平和的な反政府運動になるかも知れませんなあ。

■テレビ東京が毎週土曜日に放送している『田勢康弘の週刊ニュース新書』という番組で、菅アルイミ政権が発足した時に田勢さんが、いみじくも「かつての三木政権の誕生を思い出します」と語っていたのでしたが、確かにクラッシャー小沢との代表選で自分が初当選したのは「ロッキード選挙」だったなどと不吉な?思い出話を持ち出して、相手に致命傷を負わせる一矢を報いたような得意げな表情を見せていましたから、政治ジャーナリストの田勢氏としては、あのバカバカしい「三木おろし」騒動を即座に思い出していたのかも知れません。

■その予感はほぼ的中して、どうやら仙谷ノーコメント前官房長官が主導する「政治とカネ」の問題という通りのいい包装紙で包んで陰湿な小沢斬りの粛清劇がねちねちと進行しているのであります。「三木おろし」というのは、椎名裁定の「青天の霹靂」で誕生した三木武夫政権の76年5月に、最大派閥の田中派・第二派閥の福田派・田中角栄の盟友だった大平派が党内に「挙党協」なる組織を作って半年以上も熾烈な首相追い落としを仕掛け、対する三木総理総裁の方は粘り粘って同年12月5日のロッキード総選挙まで居座ったという自民党史に輝く?派閥抗争のことであります。菅アルイミ首相が初当選を果たした「ロッキード総選挙」が忘れられないのでしょうが、自分が日本の首相になっている事を時々忘れてしまうのは困ったものであります。

チュニジアから 其の壱

2011-02-27 14:48:20 | 外交・世界情勢全般
■チュニジアに始まって中東・北アフリカ地域に飛び火して、大国エジプトのムバラク政権が崩壊、そして、そのエジプトの英雄ナセル故大統領に影響され「アラブの狂犬」として暴れ続けたリビアのカダフィ大佐が裸の王様になって虚しい遠吠えを響かせております。こうした一連の反政府運動の動きを「ドミノ現象」と呼ぶようですが、チュニジアからリビアへと広がった動きを地図上で辿ってみますと、ドミノというより「オセロ」に似ているような気がします。テレビ局や新聞社が提供してくれるアフリカ北部から中東を含んだ地図では、泥沼化して分裂状態が続くイラクが一種の空白地域のような印象を与えてしまいますが、ブッシュ政権が仕掛けたフセイン退治の戦争が今回の大変動に小さからぬ影響を与えていた可能性も考えてみるべきかも知れません。

……イラク北部バイジにある同国最大級の石油精製所で26日、爆弾テロとみられる爆発があり、操業が全面停止、従業員4人が死亡した。この精製所の処理能力は1日約15万バレル。当局側は1週間分の国内需要をまかなうだけの備蓄はあるとしているものの、施設の完全復旧には早くとも数週間はかかる見通しで石油製品供給に影響が出るのは必至だ。イラクでは電力不足やインフラの不備などに対する不満が高まっている。25日には、マリキ首相の不参加呼びかけにもかかわらず、首都バグダッドや北部キルクーク、南部バスラなど少なくとも17都市で大規模な反政府デモが発生、各地で治安部隊との衝突があり、計15人が死亡した。今回の精製所爆破により燃料不足がさらに深刻化すれば、国民の不満に拍車がかかる可能性が高い。
2月27日 産経新聞

■サダム・フセインさえ排除すれば、米軍を中心とする同盟軍は歓呼の声で迎えられ、手品のように民主主義の芽が出て魔法のように根が生えて全国土を覆い尽くして目出度し目出度しの解放物語が完結する、などと当時のブッシュ政権の中枢では考えてたのかも知れませんが、民族対立と宗派間の対立が複雑に絡み合っている現地の歴史と現状を理解していれば、フセイン独裁政権の崩壊後にトンデモない混乱が起こることなど簡単に分かったはずですし、先住民との惨たらしい殺し合いやら史上最大規模の内戦だった南北戦争の歴史を少しは真面目に勉強していれば、能天気なフセイン退治など考えないだろうに、と思っても後の祭りであります。

■石油と武器とのバーター取り引きを基本として独裁政治を容認するダブル・スタンダードが米国の中東戦略でしたが、武器を売りつけてもまだ余るオイル・マネーも吸い上げてマネー・ゲームに誘い込むようになってからは、独裁政権下の産油国では国内格差が途方も無く大きくなり、その一方でIT産業が乗り込んで情報機器を大量に販売し続けて結果が、手製爆弾の氾濫と反政府運動の急展開という大混乱。憎しみ合っている敵方に渡るなら石油など不要だ!と唯一の売り物の原油を自らの手で売れなくしてしまう困った輩が続々と現われますと、一望千里の砂漠に伸びるパイプ・ラインは恰好の標的になりましょうなあ。実際に石油の富をまったく配分されない貧困層の中には、こうした絶望的な爆破テロに走る動機を持った若者が多いのでしょうから……。

■ムバラク政権が崩壊したエジプトでも同様のテロ事件が起こっておりました。反政府デモの伝播拡散よりも、こうした破壊工作の方が直接的な影響を日本に及ぼす可能性が高いのに、不思議なくらいに扱いが小さかったのでした。


エジプト国営テレビは5日、シナイ半島にある同国産天然ガスのパイプラインが複数箇所でテロ攻撃を受けて爆破され、火災が発生したと伝えた。同テレビは「外国勢力による攻撃」としている。エジプト当局は現場一帯で「非常事態」を宣言、安全措置としてイスラエルやヨルダン向けの供給を停止した。パレスチナ自治区ガザに近いアリーシュで、シナイ半島を通ってヨルダンへ向かうパイプラインが標的にされた。一部のイスラム原理主義武装勢力は「イスラエル向けパイプラインを爆破せよ」と呼びかけていた。…… 

■これはムバラク政権が崩壊する僅か6日前の小さな?出来事でしたが、何が起こっても不思議ではないと言われる中東という地域では、平和ボケ日本からは想像もできない奇怪な事が起こるという現実を教えてくれる貴重な情報でもあります。


ムバラク大統領退陣を求める反政府勢力の間では、延命を図る大統領周辺が、「原理主義の脅威」を印象づけるため爆破を自作自演したのではないかとの見方も出ている。反政府デモで存在感を増す原理主義組織ムスリム同胞団に対する国民の不信感をあおるのに好都合だからだ。ガザ地区に近いエジプトのラファでも5日、キリスト教会が何者かに爆破された。教会は事件当時は無人で、死傷者はいない模様だ。
2011年2月5日 読売新聞 

■もしも「自作自演」ならば政権末期のムバラク大統領が仕掛けた、断末魔の謀略ということになりますし、パイプ・ラインが爆破された同日に「無人の教会」を爆破するというのも、確かに芝居がかったものを感じますなあ。リビアでも追い詰められたカダフィ大佐が国内の石油関連設備を「爆破しろ!」と命じたという報道があったようですし、湾岸戦争の折にはサダム・フセインが油井を爆破炎上させたことがありました。本当に石油しかない国の独裁政権が崩壊するというのは大変なことなのであります。 

気が重い年明け 其の四

2010-01-12 10:18:23 | 外交・世界情勢全般
■ノーベル平和賞を受ける際に行なったオバマ大統領のスピーチは欧州諸国では不評だったようですが、もしかしたら、何らかのテロ情報を聞いたばかりだった大統領が核兵器の削減と対テロ戦争とを区別しておかねばならなかったのかも知れません。 
オバマ米大統領は7日、昨年末のデルタ航空機爆破未遂事件を受け、テロ監視体制の改善策を発表し、関係10機関に指示した。情報分析の強化や航空機への搭乗拒否リストの拡充などが柱。大統領はテロ防止体制の機能不全に関し「最終的な責任は私にある」と語った。改善策として大統領は
(1)特定の情報当局に優先度が高いテロ情報の追跡を主導させる
(2)情報分析リポートを迅速、広範囲に配布する
(3)テロリスト監視リストに登録する基準を緩和する-などを挙げた。

■9・11テロが発生した時に米国の諜報機関がまったく機能していなかったことが暴露され、ブッシュ息子大統領が大慌てで「屋上屋を架す」の見本みたいな組織統合をやってしまったばかりに、犬猿の仲だったFBIとCIAとの確執が更に陰湿で根深いものになったようです。


大統領の発表に先立ち、ホワイトハウスは事件の最終的な調査報告書を公表。情報当局がテロ計画や実行犯に関する断片的な情報を過小評価し、綿密な分析をしなかったことが、未然にテロを防げなかった要因だと結論づけた。報告書のうち、機密扱いの指定を受けた部分は公表されなかった。

■本当は「機密扱い」の中身の方が興味深いのですが、きっと国民が聞いたら絶望したり激怒したりするような恥ずかしい事実もたくさん含まれているのでしょうなあ。


……米中枢同時テロのあと、2004年の組織再編などによって強化されてきた情報共有体制がなお「再建途上」にあることを印象づけた。事件で情報機関は、イエメンを拠点とするテロ組織「アラビア半島のアルカーイダ」(AQAP)を過小評価し、実行犯の名前を誤って登録するという初歩的なミスを犯し、情報収集が阻害されたことも判明した。「構成員を実際に米本土に送り出せるほど、AQAPが成長していたとは思わなかった」7日、記者会見したブレナン大統領補佐官(国土安全保障担当)は、認識不足への悔しさをにじませ、AQAPは「もっとも危険で、憂慮に値するテロ組織の一つだ」と強調した。

■9・11同時多発テロの後にも似たような報告が出されていました。飛行学校で離陸方法だけ学ぶ生徒、欧州のアルカーイダの拠点と米国の間を頻繁に往復している若者、そんな不自然な人物達の動きを見過ごした結果が貿易センターの崩壊でした。当時、ジョン・オニールというFBIのテロ担当主任だった人物だけは、大規模テロの発生が近いことを察知していたというのは有名な話で、ドキュメンタリーがテレビ放送されたり映画化もされました。今回の旅客機爆破未遂事件では同様の人物は居なかったようですから、米国の面子は丸つぶれであります。


報告書によると、複数の米情報機関は昨年10月中旬から12月にかけ、AQAPが米本土でテロを計画している可能性を把握し、イスラム過激主義に傾倒していた実行犯のアブドルムタラブ被告(23)とみられる男がイエメンへの渡航を計画していたことをつかんでいた。だが、切迫したものではないとの認識から真剣に検討せず、テロを水際で防ぐことができなかった。

■別の報道によると、実行犯の父親が逸早く息子の変化に気が付いて関係機関に情報を提供していたとのことですから、米国の情報のプロたちは致命的なミスを犯してしまったことになります。あらゆる手段を使って集められる現場からの情報を、あまりにも現場を知らないデスクワークと組織内政治にばかり熱心な上層部が情報の価値を見誤り、事態を悪化させてしまう話は多くの映画作品でも描かれているところでありますが、それが現実の話となると米国本土は再び大規模テロに襲われて、またまた相手を間違えて新たな戦争を始めてしまうかも知れませんなあ。


政府が共有する情報では当初、アブドルムタラブ被告の名前のつづりが間違っていた。このため、国務省は同容疑者が米国のビザを所有していないと認識していた。だが、実際にはビザを取得しており、合法的にデルタ機に搭乗していた。……米中枢同時テロ後、主に中央情報局(CIA)と連邦捜査局(FBI)は、官僚的な「縦割り主義」がテロ情報の共有を妨げたとの厳しい批判にさらされた。このため04年には機構を改革し、CIAなど16機関を統括する国家情報長官を新設して情報共有の効率化を図ってきた。調査報告を受けたオバマ米大統領は、情報機関は「情報共有に失敗したわけではなく、すでに得ている情報を関連づけて理解することができなかった」と指摘した。だが、情報の共有が逆に、各情報機関に使命感の低下をもたらし、他人任せとなって核心情報を逃すという「新たな官僚主義が出現した」との指摘も、出始めている。……
1月9日 産経新聞 

■「官僚主義」「縦割り」、そこに税金の無駄遣いやら天下りを加えたら、日本の問題に早変わりしてしまうような話であります。オバマ大統領も怒り心頭に発しているのでしょう。遠回しの表現を使っていますが、要するに図体ばかり大きくて膨大な予算を喰っているばかりで、肝腎の脳味噌が足りないんだ!と言いたいようです。「国家情報長官」を全組織のトップに据えてみたところで、膨大な情報が各組織のフィルターを通して上がって来る間に、官僚的な思い込みで誤った選択と解釈が加えられてしまえば、長官の机の上にはゴミしか載らないことになりましょうなあ。米国でも情報機関に対して「税金の無駄遣い!」論議が起こるかも知れませんから、その時は鳩山サセテイタダク首相が空(す)かさず参上して必殺!仕分け人の業績などを御披露しますかな?
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