旅限無(りょげむ)

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文字の国の言論 其の伍

2009-01-26 21:24:10 | 外交・情勢(アジア)
■先の記事中にあった「08憲章」が発表されたのは昨年12月のことでした。

中国人学者や作家ら303人が共産党の一党独裁を批判し、人権擁護などを求めて署名した「08憲章」と題する声明が10日、インターネット上で発表された。世界人権宣言の採択60周年に合わせて出されたもので、中国で大勢が実名で公然と一党独裁を批判するのは異例。署名したのは、故趙紫陽元党総書記のブレーンだった鮑※(※=杉の木を丹に)氏、天安門事件で息子を亡くした丁子霖氏ら。
2008年12月10日 時事通信

■何かと周年が大好きなチャイナらしく「世界人権宣言」採択60周年という大義名分を見つけたのでしょうが、本音は北京五輪大会を開催した年だったからではないでしょうか?IOCと外国メディア向けに発表した民主化公約が、大会の終了と共にすっかり忘れ去られた頃に国内から「忘れていないぞ!」というメッセージを打ち出したかったのでしょう。それにしても世界を驚かせるニュースでした。同憲章はチャイナの現状レポートとしてもよく出来ているようです。機会があったら熟読してみたいと思いますが、これが蟻の一穴となってあちこちから独裁反対の声が漏れ出して来るのを誰も止められないでしょう。第二次天安門事件の時には、戦車を投入する目的地がはっきりしていましたが、ネット上のサイトとなりますと、戦車も兵隊も送り込めませんからなあ。正に「人の口には戸は立てられない」の諺通りであります。


……「08憲章」は23日、署名者が6191人となった。同憲章の起草者の一人で拘束された著名反体制作家、劉暁波氏を「救う」署名も8460に達した。インターネット上で見られる現況報告などによると、当局は署名者に対し署名の理由や背後関係についての調査を進めている。同憲章は今月10日に発表され、署名者は19日に5000人近くに達していた。……当局がネットに対する規制を強化……こうした措置に関係者は、署名のためのメール送信先を増設して対抗している。

■世界中が見ている目の前で、モグラ叩きやイタチごっこを演じるのは五輪大会開催国としての面子が丸潰れでありましょう。あの史上最大の「聖火リレー」は何だったのでしょう?通過国にも多大なる迷惑を掛けて強行された国威発揚の大イベントも、結局は史上最大のヤラセだったことを自白してるようなものですなあ。露骨な逮捕・拉致・監禁などの得意技が仕えない当局としては、さぞや切歯扼腕の思いでしょうが、断固とした措置が取れずに困っている時に、新たな「洗脳拒否」声明が登場したのですから、これは泣きっ面に蜂。


一方、フランス通信(AFP)によれば、サルマン・ラシュディ、ウンベルト・エーコ両氏を含む世界各国の著名作家や学者らが、劉暁波氏の即時釈放を求める書簡を胡錦濤国家主席に送った。
2008年12月23日 産経ニュース

■ラシュディさんの名前が登場!北京政府と仲良しのイランが死刑判決を出している作家ですが、イスラム世界では最も民主化されていると言われるイランとしては、宗教と関係のない話でラシュディさんの悪口を言うわけにも行かないでしょう。どこの国でも言論弾圧を賞讃するような時代ではないという事かも知れませんなあ。隣の北朝鮮あたりが「断固賛成!」などと言い出しそうですが、まったく助けにならない上に、後々、高く付きそうですからお呼びじゃないでしょう。


米政府系の自由アジア放送(RFA)は25日、中国共産党宣伝部がこのほど、国内メディアに対し、民主派の学者らが同党に人権擁護を要求した声明「08憲章」に関する取材禁止などを指示したと報じた。……宣伝部は「08憲章」署名者への取材のほか、署名者の原稿掲載を禁止。自ら署名した一部の記者は既に上司から「やり過ぎるな」と警告されたという。ただ、あるメディア関係者は「08憲章は支持者があまりに多く、完全に統制するのは不可能だ」と話している。2008年12月25日 時事通信

■共産党にとってはとんだクリスマスのプレゼントになったわけですなあ。日本ではビートたけしの「赤信号、皆で渡れば怖くない」という毒ガス川柳が有名ですが、チャイナの街角では無意識に実行されている現実の現象です。党批判も皆でやれば怖くないのかも?でも、天安門広場に集まった学生達も、最初は数の多さと支持者の声に自信を深めていたのですから、御用心、御用心。

文字の国の言論 其の四

2009-01-24 16:09:08 | 外交・情勢(アジア)
中央テレビ批判文書は、「洗脳」の主張に関して、ニュース番組を「ニュースではなく、宣伝放送だ」と断じた。「多くの突発的事件、集団抗議事件は報じないか、あいまいに処理して伝える」「国内報道では常に、喜ばしきを報じ、憂うべきを報じない」と、「選択的」報道を非難する。時代劇などの番組についても、「自由と民主化に向かう雰囲気を毒している」「歴史の歪曲(わいきょく)がある」と酷評した。

■夜7時の全国ニュースは、必ずトップが「今日の国家主席」と相場が決まっていて、聞いた事も無いような国からの訪問者と偉そうに握手する御姿が放送されていましたなあ。それが変更されるのは「法輪功」事件のような一党独裁を揺るがす可能性のあると判断されたニュースが取り上げられる時だけだったと実体験から言えます。自分が世界の中心で暮らしているような錯覚を起こす演出と編集技術は大したものです。

■歴史ドラマの捏造は毎度の事で、共産党を美化する映像をしこたま作り続けておりますから、権力闘争が起こったりすると聖人君子扱いの革命英雄が一夜にして悪漢に仕立て上げられます。大型テレビ・ドラマと銘打って、建国50周年を記念して制作された「毛沢東は偉かった」ドラマやら「共産党よ有難う」ドラマに並んで全国放送されたのがチベット解放(侵略)戦争をドキュメンタリー風に描いた『西蔵風雲』という全25話の超大作があります。ラサ市内でもロケが行われ本物のポタラ宮殿を我が物顔で自由に使った贅沢?な作品でしたが、内容はメチャクチャであまりの歪曲ぶりに最後まで観たチベット人はほとんど居ないという代物。まあ、今回の「洗脳抗議文」に署名した人の中には、このドラマに腹を立てた人は含まれていないのでしょうが……。


党機関紙・人民日報を読まない民衆も、中央テレビは見る。「最も重要な大衆宣伝機関」(党関係者)であり、同テレビ批判は党批判に等しい。一方、「低俗情報」排除を名目にネット統制を強める政権は8日からの3日間で、「わいせつ、低俗な内容を掲載し、関連規定に違反した」として計91サイトを閉鎖した。対象はポルノだけではない。自由主義的傾向が強く、08憲章を多数転載していたブログサイトも最近閉鎖された。

■性交サイトや児童ポルノ映像などより、党批判はずっと「低俗」なのでしょうなあ。この種の趣味を持っている人民にとっては傍迷惑な話でしょうが、児童ポルノなどの犯罪映像はまったく別の理由で厳しく取り締まらねばなりますまい。映像の影響力は凄まじいものがありますから、受け手は批判能力を働かせる機会を失って映像そのものを本物だと勘違いしてしまうものです。日本にも隣の隣に暮らして女性を簡単に「性奴隷」に仕立ててしまえると思い込む30男が現われるくらいですからなあ。

■旧ソ連を作り上げたレーニンは、映画の利用価値を逸早く見抜いていましたし、後継者のスターリンも映画製作が大好きでした。北朝鮮の将軍様も映画が大好きでしたなあ。ナチスの宣伝相ゲッペルスは「大きなウソほど大衆は信じ易い」「ウソも100回繰り返せば本当になる」と、宣伝の本質を喝破しておりますが、彼も映画を大いに利用したのでした。何事も人海戦術で解決しようとした毛沢東の時代は、重い映写機と発電機を担いだ宣伝部隊が呼ばれもしないのに山奥に分け入っては、党の宣伝映画を上映し続けたのだそうですなあ。


関連規定には、「国家の安全を危うくする情報」「デモ扇動」などの禁止も明記されており、社会主義的価値観を強調する政権にとって、民主化要求も「低俗」な違法情報と見なせる。あるブログサイト運営者は本紙に対し、「何が『低俗』か、実は誰にも分からない。だが、当局は、ネット業者が自律的にそれを削除することを望んでいる」と語った。「低俗情報」放置を当局に批判された業者は、続々と「謝罪文」を発表、「有害情報の徹底削除」など自己管理強化の方針を示している。中央テレビ批判も削除対象になる可能性が大きい。
1月13日 読売新聞

■一説には小平存命の頃、世界最大規模の検索監視システムの構築をIBM社に発注したと言われていますし、最近もグーグルが特殊な注文を受けたと非難されたのも記憶に新しいところです。基本的には自由競争が認められた「特色ある社会主義」ですから、業者は利益を追求するのが当然ですが、何処までも「社会主義」の枠内という規定に従えば、「共産党よ有難う」の飾りが必要なのでしょうなあ。

■ロッキード事件が火を噴いていた時、日本中のマスコミが一斉に田中叩きを始めたのでしたが、水に落ちた犬扱いされた田中角栄さんは、自分が運輸大臣の時に一挙にテレビ局を増やした恩を忘れたテレビ局に、「あの時、免許を出さなければよかった」と腹を立てたという話は有名ですが、チャイナのテレビ事情に比べれば呑気な話のように思えますなあ。

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文字の国の言論 其の参

2009-01-24 16:08:18 | 外交・情勢(アジア)
■近代化を進めるためには、国民の識字率を引き上げ教育水準を向上させねばなりません。しかし、人間は機械ではないので権力者の注文通りに思考し続けることはありません。独裁政権が好まない知識が広まったり、どれほど操作しても「正しい情報」が伝わるのを永久に阻止するのは不可能です。共産党政権下のチャイナでも、党の宣伝材料を教科書にして識字率を上げる努力を重ねて来ましたが、思うように識字率は上がらず、その代わり党の宣伝だけは表面的には大成功?したことになっております。そんな薄っぺらな鍍金(めっき)は簡単に剥がれるのですが……。

■生産性を高めるために各種の技術を「改革」し、圧倒的に不足している産業資本を受け入れるために市場の「開放」を断行したのが小平時代ですが、旧ソ連の崩壊を他山の石として大いに研究したお蔭で、改革開放は徹頭徹尾、経済と生産現場に限定されていたはずなのですが……。まさかIT革命とグローバル化がこれほど世界を変えて行くとは誰も想像しなかったらしく、市場を「開放」したら党が好まない雑音が奔流となって流入し始めるわ、とうとう「改革」は一党独裁体制そのものを批判する気運を高めてしまいました。

■思えば北京五輪大会を開催するために濫発した民主化の空手形が、いつの間にやら本物扱いされて決済を求められるハメに陥ってしまったかのようです。今更、民主化の約束は五輪大会を誘致するためのウソ方便でした、とは国際信義上も言えない苦しい立場になってしまった胡錦濤政権であります。


中国共産党政権の報道、宣伝の主役・中国国営中央テレビに対し、「洗脳を拒絶する」として視聴ボイコットを宣言する文書が、12日、中国のインターネット上で公表された。国内の学者、弁護士ら22人が署名しており、民主化を求めた先月の「08憲章」に続く公開の党批判だ。公然たる反政府的言論に危機感を抱く政権は、ネットを強く締め付けている。

■共産党体制では「洗脳」を「教育」と呼び、「宣伝」を「報道」とも言いますなあ。党は永久不滅で絶対に間違わないという鋼鉄の大前提は不動ですから、一切の異議申し立ても疑問も許されません。昔から社会主義革命には印刷物によるアジテーションは欠かせないもので、小平もフランス研修時代にガリ版刷りの名手として大活躍したのは有名な話です。旧ソ連の第一世代も、宣伝ビラから大論文まで夥しい量の文書を書きまくったものです。レーニンの晩年に映画が登場し、フルシチョフ時代にはテレビが普及し始めますが、こうしたマスメディアの発展はそのまま党の独裁を強化する武器として大いに利用されたのでした。何しろ映画やテレビは識字率を上げなくても洗脳・宣伝に利用できるので当局は非常に重宝しておりました。

■大規模な施設を必要とするテレビ・ラジオの放送は国家の独占物にし易い上に、手作りの反政府ビラなどとは浸透力が格段に強いので、ソ連でもチャイナでもテレビ・ラジオの普及に努力したものです。衛星放送という国境を越える便利なテレビ技術が普及したばかりに、東欧諸国の社会主義政権はバタバタと連鎖崩壊したわけですが、チャイナのようにテレビと(家庭用ビデオを飛び越えて)VCDとコンピュータの普及がほぼ同時に進めねばならない場合、何とか映像ソフトの取り締まりは出来ても、「開放」されたネット空間を監視し続けるのは不可能であります。政府を批判する印刷物だけを取り締まっていればよかった昔が懐かしい?

オバマ大統領始動 其の七

2009-01-23 12:10:37 | 外交・情勢(アメリカ)
■当選した「176年ぶりの親子大統領」には、「176年ぶりの親子揃って再選失敗」という悪夢が付き纏っていたのでした。米国第二代大統領のジョン・アダムズと、第六代のジョン・Q・アダムズが親子二代の大統領であり、揃って再選されていないのです。名門ブッシュ家がアダムズ家と同じ轍を踏んで恥辱の歴史を刻むわけには行かなかった時に、天の配剤なのか「9・11」が起こり、何が何だか分からないうちに米国はイラクに攻め込んで「勝った!勝った!」のお祭騒ぎになってしまいます。きっと多くの米国人は「176年ぶりの親子大統領」には「176年ぶりに揃って再選失敗」という運命を与えるべきだった、と深く後悔していたのでしょう。そうでなければ、史上初のアフリカ系大統領など誕生するはずはないのですからなあ。

■父ブッシュ大統領の功績は「マルタ会談」、息子ブッシュ大統領の功績は「オバマ大統領の就任」という事になりそうです。


オバマ米大統領は21日、イラクから駐留米軍戦闘部隊の大半を16カ月以内に撤退させるとの公約について、現地司令官らとホワイトハウスで初めて協議した。終了後「『責任ある方法』での撤退を実行に移すため必要な計画を策定するよう軍幹部に指示した」とする声明を発表した。……当初この日に予定されていた米軍制服組トップのマレン統合参謀本部議長との協議は見送り、イラクを含む中東地域を統括するペトレイアス中央軍司令官、イラク駐留米軍のオディエルノ司令官、クロッカー駐イラク大使と会い、イラクの現状について説明を受けた。

■慣習に従った儀礼通りのスケジュールをあっさり変更するのも清新な感じがしますなあ。こういう話を聞きますと、日本の村山総理という人が未明に起こった阪神淡路大震災に対応したのが昼飯時だったという恐ろしくも恥ずかしい話を思い出します。あの日、時の総理大臣が未曾有の大災害を朝7時のNHKニュースで知り、朝飯から昼飯までの間は予定通りのスケジュールをこなしていたのでした。極最近まで、麻生コロコロ首相は何事か夜間に起こった場合、即応態勢に入れない危険がある生活を送っていたようです。きっと日本は何事も無く平和な日々が続くと思っていたのでしょう。恐ろしい話です。


イラク撤退に関しては、アクセルロッド大統領上級顧問が18日、米ABCテレビの番組で「オバマ氏が21日に米軍上層部に16カ月以内の撤退を指示する」と明言していた。だが、現場の米軍司令官らの間では、この日程通りの撤退はリスクが高いとの根強い懸念がある。このためオバマ氏は、まず軍上層部の意見を聴いてから慎重に計画をつくる形へ軌道修正を図ったものとみられる。……
1月22日 朝日新聞

■前任者がウソ情報に乗せられてうっかり戦争を始めてしまったような調子で、今度もうっかり「撤収」してしまったら大変な事になり兼ねません。先ずは現場から生の情報を取り、その後で複数の意見に耳を傾け、熟慮の後に果断な行動と事を運ぶ心算なのでしょうなあ。きっと戦争を始めた前任者とは違って、新大統領はイラク現地を何度も訪問することでしょう。


……オバマ大統領は21日、ホワイトハウスにゲーツ国防長官および米軍首脳を招き、イラクとアフガニスタンにおける戦争について協議する。オバマ大統領はこの会議で、イラク駐留米軍の撤退計画を準備するよう軍当局に指示する見通しで、「16カ月以内の駐留軍撤退」という公約履行へ重要な一歩を踏み出す。会議には、ゲーツ長官のほか、マレン統合参謀本部議長、中東・アフガニスタンを管轄するペトレアス中央軍司令官、オディエルノ・イラク駐留軍司令官が出席。新大統領の下での「戦争最高指導会議」となる。

■軍関係者もブッシュ前大統領を最高司令官として戴いているのに嫌気が差していたに違いありません。新大統領はアホな戦争を始めたりしないと思われますし、仮に始めても根拠も無く勝利宣言したり勝手に「作戦終了」を宣言したりはしないでしょう。何より副座式のジェット戦闘機に乗り込んで航空母艦に着艦するようなパフォーマンスはやらないでしょう。何だか前政権がひどく幼稚だった事が改めて思い出されますなあ。


……不況脱却に向けた景気対策会議も招集。景気立て直しへの努力をアピールする。オバマ大統領は、キューバ・グアンタナモ米軍基地のテロ容疑者収容所閉鎖問題でも早速動いた。……グアンタナモ軍事法廷の検察部門は20日、オバマ大統領の命令に基づき、係争中の戦犯裁判を120日間凍結するよう要請。軍事法廷判事団は21日、凍結の手続きを開始し、ブッシュ前政権の人権軽視の象徴ともなった同収容所の閉鎖に向けた環境整備が一歩前進した。 
1月22日 時事通信社

■ブッシュ息子政権が発足する前から、政策は「何でもかんでも非クリントン」を基本にして作られることになっていたそうですが、オバマ新大統領は一夜にして2期8年のブッシュ時代の痕跡を消し去ってしまったかのようです。失政が残した難問の山は4年の任期ぐらいでは解消されないと言われていますが、少なくとも前政権のような失政に失政を重ねる場当たり的なことはなさそうだ、と1日で思わせるだけでも大したものです。日本の総理大臣は100日過ぎても何がどうなるのか伝わって来ませんなあ。

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オバマ大統領始動 其の六

2009-01-23 12:10:09 | 外交・情勢(アメリカ)
■経済も外交もメチャクチャにしたままホワイト・ハウスから石もて追われるように去ったブッシュ前大統領は、これからは読書をするそうですから、学生時代にサボっていた勉強をやり直すのでしょう。何だか順番が逆なのですが……。オバマ大統領の演説に溢れる教養に米国民が狂喜したのは、前の大統領に無かった物を発見したからでしょうなあ。さてさて、『三国志』の諸葛孔明は、自分が死体になってからも軍師として有能だったとかで、「死せる孔明、生ける仲達を走らす」と讃えられておりますが、オバマ新大統領は就任するだけでイスラエルに矛を収めさせ、大慌てでガザから撤収させてしまう神通力?を発揮しましたなあ。ここまでは幸先が良いのですが……。

オバマ米大統領はホワイトハウスでの仕事始めとなった21日、イスラエル、パレスチナ自治政府、エジプト、ヨルダンの4首脳と相次いで電話会談し、中東和平に積極的に関与する意思を表明した。……各首脳に対し、パレスチナ自治区ガザでのイスラム過激派ハマスとイスラエルの紛争の余波の中、ブッシュ前政権が示した武器密輸防止協力の約束を引き継ぎ、「停戦の条件整備に協力する」との決意を強調した。

■イスラエル側は「当初の目的を達成した」と言うし、ハマス側は「実質的な勝利」を宣言しております。どちらも「負けた」とは口が裂けても言えない苦しい立場ですから、両方の言い分は単なる感情論みたいなものです。イスラエルにとってはガザ西端に2000本も有ると言われるトンネルは武器弾薬の密輸ルートにしか見えない、でもガザの住民にとっては生活必需品を入手するための命の綱、本来はトンネルなど掘らずに正規の搬入ルートを使えばよいだけなのですが、イスラエルと喧嘩するのが専門職みたいなハマスとしては、イランなどからの寄付金を貰い続けるためにも、ちょっかいを出し続けねばなりません。

■問題は「武器密輸」であるのは明らかなのですが、ブッシュ政権の中東政策が破綻したばかりにハマスが台頭してガザを乗っ取るまでに事態が悪化してしまったので、ブッシュ以前の状態に戻すには、ハマスの「本職」を変更させるか、ガザの支配権を暫定政府と再統合するか、二つの選択肢しかありません。現状は、イスラエル側の一方的な停戦によって小康状態にはなりましたが、ハマスは早速トンネルを掘り直しています。イスラエルはオバマ大統領の就任を祝うかのように「白リン弾」の使用を公式に認めました。さて、ハマスがトンネルを何に使うのかが焦点となります。


ガザで3週間以上続いてきた紛争は、オバマ政権発足のタイミングに間に合わせる形で、イスラエル軍が撤退を完了した。このためオバマ氏は、大統領就任直後から戦禍への対応に追われる事態には直面せずに済んでいる。 しかし、前任のブッシュ氏が政権初期に中東和平にかかわろうとしなかったことが事態の泥沼化を招いた、との批判が根強い。ガザ紛争に関して、オバマ氏はこれまで就任前で積極的な発言を控えてきた事情もあり、今後の姿勢をアピールするねらいで会談を設定したとみられる。
2009年1月22日 朝日新聞

■ブッシュ前大統領にとって、何よりも大統領に当選する事、そして再選されて2期務める事、それが目的であり使命だったのでした。民主党のゴア候補を破った時に掲げた「思い遣りのある保守主義」とは何だったのか?などと今の米国民は考えたくもないでしょうが、当選したブッシュ前大統領にとっても、その意味などどうでも良かったのではないでしょうか?父ブッシュが再選に失敗した時の選挙対策の責任者だった不肖の息子は、名門大学に入るにもテキサス知事を務めるにも、ブッシュ家当主のパパ・ブッシュの力に頼りっ放しでしたから、一族の名誉を挽回するには当選・再選が必要だったのでした。

■戦後の米国で再選出来なかった大統領は、フォード、カーター、父ブッシュの3人だけ!フォード大統領はウォーターゲート事件で辞任したニクソン大統領の副大統領から格上げされたので、正確には一度も選挙で勝てなかったので、正式に当選して再選されなかったのはカーターと父ブッシュ、共和党だけなら父ブッシュ1人だけ!名門ブッシュ家は何が何でも「再選」で汚名を雪がねばなりませんでしたから、それには先ず当選しなければなりません。「176年ぶり」となった親子二代の大統領の誕生は、残念ながら一般投票数で負けて獲得選挙人数で勝つという「112年ぶりの椿事」によって達成されました。しかも弟が知事を務めるフロリダ州の開票が実に怪しいもので、最終的には父ブッシュの仲良しが並ぶ最高裁で決着するという最初から最後までブッシュ家総がかりの選挙になりました。

オバマ大統領始動 其の伍

2009-01-23 12:09:40 | 外交・情勢(アメリカ)
……政府職員の倫理改革に関する大統領令で、政治家とのパイプで採用されることが少なくない政府職員について「本人の能力や経験で決める」と定め、信頼される政府を目指した。

■気持ちの悪いコネが蔓延(はびこ)れば、政府は利権の草刈場になり、不要な戦争を起こしたり、歪んだ法律を濫造したりします。俗に言う「お手盛り」が人事と政策に満ち溢れ、国家は方向性を見失って漂流してしまいます。巨艦のような米国が漂流し始めると、それに引っ張られている筏(いかだ)のような日本国政府は酷い目に遭います。日米関係が良好なのは結構な話でしょうが、仲良く漂流しているのを「蜜月関係」などと呼ぶのは愚かなことでしょう。史上最悪の大統領と特別によい関係を作った小泉プレスリー首相に関する評価も、そろそろ客観的に始めた方が良いかも知れませんなあ。


米国の情報公開制度を調査してきた米市民団体「オープン・ガバメント・ドットオーグ」(本部ワシントン)のマクダーモット代表は取材に対し「オバマ大統領は情報を国民に『与える』ことを危険視せず、『共有する』ことで国民の意見も集めながらより効果的な政府を作ろうとしている」と期待を寄せた。
2009年1月22日 毎日新

■国民の「とてつもない」潜在力を引き出そうとする手法は、麻生コロコロ首相と同じものだと御本人が言っているそうです。しかし、未来に対する希望も無く、現状は不安と不信だらけでは、誰も潜在力を発揮しようなどとは思わないでしょうし、麻生政権になってから政治が官僚主導に逆戻りしたと身内からも嘆きの声が漏れるようでは、優秀な若者たちは年金の心配も無く「天下り」「渡り」の甘い汁も期待できるエライ官僚になるくらいしか潜在能力を発揮する場が無くなってしまいますぞ。日本の官僚も世襲が増えて、このままでは平安時代の貴族社会みたいになってしまう怖れもあるとか……。政治家と官僚が世襲になり、大企業の経営者も世襲が増えれば日本は既得権益の塊になってしまいますから、隣の大きな国と同じ問題を抱え込むことになるのでしょうなあ。


オバマ米大統領は21日、政権高官に対してロビイストから金品を受け取ることを禁じる大統領令に署名した。……ホワイトハウスで上級職員の宣誓に立ち会ったオバマ大統領は「経済危機の中で、国民はベルトをきつくしめている。ワシントンもそうあるべきだ」と説明した。初の大統領令は、高官の倫理規定に関する内容。ロビイストからの金品受け取り禁止のほか、過去2年以内にロビー活動に従事した人物を同一分野の政府部門に任用することを排除するなどとしている。
1月22日 産経新聞

■何とも歯切れの良い、実に分かり易い「倫理規定」であります。前政権が何をやっていたのか、本当によく分かる大統領令で、無責任で強欲な亡者が送り込むロビイストが蠢いている光景が思い浮かびます。石油会社・軍需産業・製薬会社・建設会社などの大企業を経営している片手間に政治をやっているような人物が、前の大統領の周囲を取り巻いていたようですから、高級官僚はロビイストから賄賂を受け取り、大統領の側近は我田引水の政策を作って我が世の春を楽しんでいたのでしょう。イラク戦争で大儲けした人も、サブプライム・ローンで莫大なボーナスを受け取った人も、ブッシュ政権の中枢に居ましたからなあ。

■オバマ大統領が言う「ベルトをきつく締める」という表現は文学的な比喩でもありましょうが、世界には国民に対して比喩ではなく「ベルトの穴2つ分締めろ!」と命令した将軍様が居ましたぞ。御本人は立派な太鼓腹をしているのですから、その矛盾した号令は如実に国情を表わしてしまったのですが、国民を飢餓線上に放置して人材と資金を集中させたお蔭で、親子二代の悲願だった「核保有国」になれました。でも、本当の功労者はイラクに攻め込んで泥沼にはまった間抜けな米国前大統領でしょうし、次の功労者は6カ国協議でも2国間協議でも何の業績も残せなかった担当官のヒル・ジョニルさんでしょう。

オバマ大統領始動 其の四

2009-01-23 10:36:30 | 外交・情勢(アメリカ)
オバマ米大統領は21日、透明性の高い情報公開を実践し、利益団体を代表するロビイストが関連分野で公職に就くことを禁じる計5本の大統領令と通達に署名し、「開かれた政権」の発足を宣言した。いずれも選挙中にオバマ大統領が訴えていた「ワシントン改革」の一環。執務初日から公約「実現」をアピールすることで、オバマカラーを打ち出した。

■就任前に公約通りの立派な「大統領令」が完成していたのですなあ。どこかの国の「公約」と「膏薬」の区別も付かない政治家とは違うようです。議院内閣制と大統領制との違いも大きいのでしょうが、「最後のお1人まで!」だの「すぐに解散総選挙を!」だの、揚句の果ては「そんな事言ったかなあ?」などと有権者を馬鹿にした発言が繰り返されると、選挙そのものが意味を失って行くのでしょうなあ。日本の民主党は、何か大きな勘違いをしているらしく、同じ政党名だから同じくらいに国民から支持されると思い込んでいるらしいですぞ。名前の誼(よしみ)で福井県の小浜市が仲良くしようと思うのは素朴な感情として理解も出来ますが、米国の民主党とは政治的に何の関係も類似性も無い日本の雑居集団の民主党が、オバマ人気に悪乗りするのは見苦しい限りであります。


オバマ大統領は21日の訓示で、ワシントンでは「過剰な秘密主義が続いてきた」と指摘。「この政権は、(情報公開請求者に対し)情報を隠そうとする職員ではなく、公開しようとする職員を支持する」と述べた。具体的には、情報公開に関する通達で、政府の情報公開全般を統括する司法長官に対し、公開性を高める新ガイドラインを120日以内に発行するよう指示した。またこれとは別に、公文書は原則公開で、必要な場合に限り非公開とする方針を定めた「政府公開(オープン・ガバメント)命令」の120日以内の策定を命じる通達にも署名した。

■これは大ニュース!そもそも官は民に対して「依らしむべし、知らしむべからず」が基本姿勢。重要な情報は官僚が独占し、公開される情報は都合よく切り貼り加工されて真実は分からないように工夫されているものです。そこで民主国家の場合はジャーナリストの活躍が求められるというわけです。不思議なことに日本には「記者クラブ」制度という悪名高い遺物があって、官と民が情報を共有して共存共栄を図ることになっております。記者クラブの弊害について記者クラブ自身が報道するはずもありませんから、一般国民には実害が感じられません。

■相撲協会に不祥事が続発した事例でも、協会内部に取り込まれているお友達記者や映像の提供を受けている大手マスコミと、協会との対決をも辞さない週刊誌やフリーのジャーナリストたちという二極化が浮かび上がりましたから、同じ事件や問題も決して客観的に報道されているわけではないのだなあ、と多くの国民には分かったのではないでしょうか?これが政治となると、記者クラブに所属している記者たちは、それぞれ特定の政党や派閥との特殊な関係を持っている場合が多いようですから、政局の読み方も政策の解釈も、決して客観的ではありません。情報は必ず操作されるものだと覚悟していなければなりません。

■「今太閤」と持ち上げられていた田中角栄さんが、一夜にして天下の大悪人に仕立て上げられ、没後には再び業績を評価されるようになったりするのも、情報を切り貼りして出すべき事を隠し、どうでもよい瑣末な話を殊更に重大事として報道するような操作が行われていた証なのでしょうなあ。ちょっと前の「小泉人気」は何だったのでしょう?

■現代史を解明するのに欠かせない重要な資料は、その多くは常に米国の公文書館から出て来ます。日本人自身が知らない日本の戦中・戦後の歴史が米国に保存されているようなものです。資料の保存と公開に関する法律が、無きに等しい日本とは比べ物にならないくらい整っている米国で、新大統領が「もっと情報を公開しろ」と号令を掛けているのです。情報を公開すれば国民・有権者の責任はぐんと重くなります。最終的な政治決断は大統領が下すにしても、国民の支持が無ければ民主国家の政治は成り立ちませんから、正確な情報を官と民が共有し、政治的な責任も共有する仕組みを構築しようとする試みは正に画期的!


歴代大統領の所有した記録の公開範囲を拡大する大統領令も発令した。公開範囲を極端に狭めたブッシュ前大統領の方針を見直した。年収10万ドル(約890万円)以上のホワイトハウス高官の昇給を凍結する通達では、世界恐慌以来の経済不振にあえぐ国民と「痛み」を共有する政府をアピールした。

■就任演説で米国だけでなく世界中に災厄を撒き散らした連中を、「強欲」「無責任」と罵倒したオバマ大統領ですから、大きな政府でも小さな政府でもなく、清廉で誠実で質素な政府に変えて行くつもりなのでしょう。史上最悪の大統領には、史上最悪のスタッフが付いていたはずで。お手盛り人事で政府の中枢にお友達を集めて能力と懸け離れた高給を払っていたのでは、就任演説がウソになってしまいますからなあ。

オバマ大統領始動 其の参

2009-01-22 16:43:42 | 外交・情勢(アメリカ)
■就任演説を取り上げたNHKの特集番組で聞きましたが、オバマ陣営は1200万人分のメール・アドレスを持っているとか……。携帯電話の中毒者と言われるほど高機能携帯を使いこなしているオバマ新大統領は、情報管理上の問題でホワイトハウス内での使用を御遠慮願いたいとセキュリティ・スタッフに言われたのを頑なに拒否して使用を認めさせたらしいですなあ。日本のテレビ局は地上波デジタル放送の利点として「双方向性」を売り物にしているようですが、今のところ本当にその機能を活かし切れると思わせてくれる番組を見た事がないので、結局は既存の電話・ファックス・メールで代用可能なテレビ・ショッピング関連の番組しか制作出来ないかも?などと思っていたら、オバマ新政権は本格的に有権者との「双方向性」を現実の物にしてしまう可能性が出ているそうです。投票数で勝って選挙人獲得で惜敗し、フロリダ州に完敗した民主党のゴアさんが推進して完成させた情報ハイウェイが、同じ民主党のオバマ新大統領によって本領を発揮するというのも、ちょっと皮肉な巡り合わせではあります。

■ブッシュ政権の時代には、反対派による手作りアニメで言い間違いを茶化されたり、政策の失敗を揶揄する替え歌などがネット上に流れていたようですが、ブッシュ大統領本人はネットを活用していたとは言えなかったようです。まあ、それでも日本の政治家が公開してるHPよりは立派な使い方をしていたのは確かでしょうが……。

■動画共有サービスの「YouTube」が協力して開設されたホワイトハウスの公式チャンネルでは、もう大統領の就任式映像などが視聴できるのだそうです。対象は米国内だけでなく世界中の人々だそうですから、気宇壮大と申しましょうか、イリノイ州のシカゴで始めた小さなコミュニティ活動がグローバル化したと言うべきでしょうか?リンカーン大統領の故事に因んで行われた列車でのワシントン入りの映像も公開中だそうですし、コンテンツの一部は英語とスペイン語の字幕付きで、YouTubeの自動翻訳機能を使えば日本語字幕が出て来るようです。自動翻訳の技術も日進月歩でありますなあ。

■就任演説の中でも「イスラム世界の人々よ」と呼び掛けていたのですから、アラビア語の字幕も必要になるでしょうし、利用者数を考えれば北京語の需要も有るでしょうが、チャイナ国内では検閲によるタイム・ラグが起きるでしょうし、内容によっては接続不能にされるかも?ロシア語版や北朝鮮向けの特殊な映像まで手を広げられたら、さぞや面白い事になるでしょうなあ。北朝鮮の将軍様の長男坊はIT技術に通じているそうですから……。


オバマ米大統領は21日朝、ホワイトハウスの大統領執務室に入った後、たった1人で10分間過ごし、ブッシュ前大統領の書き残したメモを読んだ。……メモは「ナンバー43から44へ」と書かれた封筒に入れられていた。……
2009年1月22日 時事通信

■「前政権の批判はお手柔らかにお願い申し上げます」とでも書き添えてあったのかしらむ?就任式に列席したブッシュ前大統領が着席する時に群集から大きなブーイングが湧き起こったそうですから、式典の後で軍のヘリコプターに乗り込む姿が、何だか逃げるような感じで痛々しさが漂っていましたなあ。あちこちに前政権に対する辛辣な批判を含意したフレーズが散りばめられていた就任演説が好評だったのですから、大量の靴が演台に向かって投げつけられなかっただけでも目出度し目出度し、というところでしょう。ワシントンに集まったのは180万人で、何と厳重な警備陣に逮捕された者が1人も居なかったという驚くべき報道がありました!輸送能力の限界に達していた公共交通手段を利用する人々の波が、不思議なほど楽しげで譲り合っている風景がテレビのニュースで流れていましたが、あれはヤラセではなかったのですなあ。

オバマ大統領始動 其の弐

2009-01-22 15:14:56 | 外交・情勢(アメリカ)
20日、オバマ米新大統領就任と同時にホワイトハウスのホームページ(HP)も一新され、2005年に南部を襲った超大型ハリケーン「カトリーナ」へのブッシュ前政権の対応を厳しく批判する内容が掲載された。
 ホワイトハウスのHPは、20日正午(日本時間21日午前2時)の大統領交代まで、ブッシュ政権の実績を誇示する内容だった。
1月21日 時事通信

■就任演説の前に、ブッシュ前大統領に対して意地悪く解釈すれば皮肉とも取れる労(ねがいら)いの言葉を掛けたオバマ新大統領でしたが、実務となれば話は違います。2005年8月末に米国南東部を襲った超大型のハリケーンがカトリーナで、1800人以上が死亡して700人以上が行方不明という大惨事ですが、ブッシュ大統領は毎度のことながら「休暇中」で対応の混乱ぶりは世界中の顰蹙と失笑を買いまして、米国の凋落ぶりを知ったのでした。メキシコ湾岸に並ぶ石油コンビナートが壊れて復旧に手間取って世界の原油価格が暴騰するわ、世界一の穀物集散地のニューオリンズが水没して穀物相場が跳ね上がるわ、学校も病院も警察も機能が麻痺するわ、最初は天災だったのが叙jに人災の様相を呈して行きました。

■候補者時代からイラク派兵を批判していたオバマ新大統領としては、州兵の多くがイラクに送られていた事で治安が乱れ救助作業も滞り、復旧作業が大幅に遅れた事実は見逃せないでしょう。そして何よりも最大の被害を受けたのがアフリカ系の貧困層だったのですから、僅かな額の献金に復興の願いを込めた被災地域で今も苦しむ支持者達の事を思えば、前政権の失政をきちんと批判することで新政権の決意を伝えようとするのは理解できます。何しろ、州兵が足りない!と悲痛な叫びが被災地から上がっているのに、「十分な州兵が残っている」と支離滅裂な返答をしたのがブッシュ前大統領でしたからなあ。

■更に当時のブッシュ大統領はテレビのインタビューで、「米国は自分の面倒は自分でみられる」と啖呵を切ったのも失敗でした。結局は20箇国以の支援表明を有り難く受けて、「あらゆる支援を受け入れるます」と前言を撤回したのでした。もっと悪かったのはブッシュ大統領が指名していた連邦緊急事態管理庁(FEMA)のマイケル・ブラウン局長という大バカ者がこの大惨事に対する現地の最高責任者だった事です。あまりに無能でオバカなので、「解任しろ!」の大合唱が起こり、庇い切れなくなった政府は怒りが沸点に達している現地から呼び戻して「ワシントンで組織全体の指揮に戻す」と言い繕っていましたなあ。でも結局は解任されてしまいました。

■ブラウン局長の恥の上塗りは凄まじく、解任直後には自分は「よい仕事をしたんだ」と言い張り、悪いのは全部ニューオリンズの市長だった!とまで言い出したから大変な騒ぎになり、続いて下院での調査委員会が掻き集めた通信メールの中からこの人物を象徴するような馬鹿メールが出て来ました。カトリーナが上陸した当日に責任者としてテレビに出演したのが嬉しかったらしく、部下から服装を褒める御追従メールを真に受けて、「デパートで買ったんだ」などと能天気な自慢をしていたり、地獄の苦しみが始まっていた現地で「もう(被災対応を)やめて家に帰っていいか?」などと最悪の冗談メールまで見つけ出されたのでした。元々、ブラウンさんは種付け馬の仕入れ業が本職だったはずです。テキサス人脈に食い込んで世界に冠たる連邦緊急事態管理庁(FEMA)の重責を知らずに名誉職か何かと勘違いして就任したものと思われます。

■あの時、堤防が決壊しても逃げる自動車を持っていない膨大な数の貧困世帯が、自動車文化の発祥地である米国に存在することを知ったのでした。ビッグ3が倒産するのも無理はないかも?

オバマ大統領始動 其の壱

2009-01-22 15:13:25 | 外交・情勢(アメリカ)
■讀賣新聞の朝刊に、オバマ新大統領の就任演説が全文英日対訳形式で掲載されているのには驚きましたぞ!誰かさんがDVDを発売して一儲けしようとするのを邪魔する目的ではないと思いますが、日本の大手新聞に英文で演説の全文が載るとは、否が応でも英語に対する需要が日本国内で高まっている実情を思い知ります。録画予約をしておきながら、ついつい実況生中継の時間にはテレビの前に座ってしまった人も多かったのではないでしょうか?時差の大きな遠い国で開催される五輪大会のライブ中継とは違って、歴史的な瞬間となりますとリアルタイムで見たくなるものなのですなあ。

■じっくりと演説内容を読み直しながら、あれこれと考えてみようと思っていましたのに、お祝い行事がぎっしり詰まった1日の疲れなど何処吹く風のオバマ新大統領は、一夜が明ける前から新政府を起動させていたようです。冷え切ったエンジンを始動させて、いきなりアクセルを踏み込むのは機械の寿命を縮めるものですが、オバマ大統領が動かすマシンは余程丈夫なのか巨大なのでしょう。今のところは世界中が驚くほど快調に走り出したようです。

■意外なほど厳粛な印象を残した就任演説でしたが、個人的に印象に残った言葉は「犠牲」でした。支持者や国民に向かって覚悟と「犠牲」を求められるのは優れた政治家である証拠です。少しばかり消費税を上げるのにも右往左往して政権政党が分裂するかも?などと騒いでいる国の政府とは違いますなあ。


バラク・オバマ(Barack Obama)米大統領が21日、異例の「就任宣誓やり直し」をした。前日の就任式典での宣誓で、ジョン・ロバーツ(John Roberts)連邦最高裁長官が憲法に規定された文言の順番を間違えてしまったため。2度目の宣誓は、ホワイトハウス(White House)のマップルーム(Map Room)で行われた。

■雄弁で鳴らしたオバマ新大統領が、リンカーン愛用の聖書まで持ち出して臨んだ就任式でしたが、さすがのオバマ氏も群集の多さに度肝を抜かれたか?それとも左後ろでしょぼくれて座っていた前任者が残した難題の山を実感して頭の中が真っ白になってしまったのか?などと思った御愛嬌の「言い淀み」でしたが、先導役が大切な宣誓文を間違えていたのですなあ。つまり、うっと詰まったように見えたオバマ新大統領は、しっかり宣誓文を暗記しており、原稿を持たずに先導役を務めたロバーツ長官の方が言い間違えたのに気が付いて、「おいおい」と微笑む余裕を見せながら、一瞬は躊躇したものの次の瞬間にはロバーツ長官の面子と立場を考え、同時に宣誓式の合法性と有効性を的確に判断して先導役の間違った通りに宣誓したというのが真相のようです。正に当意即妙と申せましょう。 


ロバーツ長官が「準備はいいですか?」と尋ねると、オバマ大統領は「はい、ゆっくりやりましょう」と答え、25秒掛けて完璧に宣誓を終えた。グレッグ・クレイグ大統領顧問(法律担当)は宣誓のやり直しについて、「昨日の就任宣誓は適切に行われたが、宣誓(の文言)は憲法で定められており、十分注意したにもかかわらず1語だけ語順が間違っていたため、やり直すことになった」と説明した。
1月22日 AFP

■憲法とは、儀式とは、といろいろと考えさせられるエピソードであります。これでロバーツ長官のトチリ映像には歴史的なプレミアが付くことでしょうなあ。因みに副詞の、faithfully(誠実に)」という単語を入れる場所を間違えて語順が若干狂ったというだけの話ですから、史上に名高い英国製の欽定『姦淫聖書』みたいな恥ずかしい話ではありません。英語でも副詞の置き場所は融通が効きますから、逆に「不誠実に」だの「守らない」にならなかったのですから、オバマ新大統領にとっては微笑ましさと厳格さをアッピールできた楽しいエピソードとなることでしょう。

文字の国の言論 其の弐

2009-01-22 11:10:34 | 外交・世界情勢全般
「肌の色によらず、信じる神によらず、アメリカでは誰もが夢を実現できるんだ。オバマの大統領就任は、われわれにこのことを伝えてくれた。過去には起こりえなかったことが、いま現実に起こっている。次はアジア系、あるいは女性大統領の誕生を期待する」「オバマのように民衆を感動させる演説を聴いたことがない。彼ならば、アメリカを変えることができるだろう」サンフランシスコ在住の中国系住民らは、有色人種の出身でありながら大きな夢を実現した新大統領に、感動をあらわにした。

■太平洋に面しているサンフランシスコには、米国最古とも言われるチャイナ・タウンが存在していましたなあ。インタヴューに答えている人物が言う「アジア系」というのはチャイナ系のことで、日系や韓国系のことではないでしょう。今のところ、オバマ新大統領の顔には神通力がありますから、再び夢を追える国に変われるという「夢」を多くの国民に与えていられそうです。しかし、ワシントンに参集した120万人の中に「アジア系」の顔が非常に少なかったのが気になっていたのです。


オバマ新大統領の就任式は全米に大きな感銘を与えたものの、記事は、きわめて現実的な中国人らしい冷静な論調を伝える。「在米華人にとって、誰が大統領になろうと、日々の生活は変わることなく続く。今日の太陽が昨日の太陽より、より輝いているわけではない」―そんな低調な書き出しで、苦難多き現実と新大統領就任による具体的な生活改善を訴える。

■アメリカは単なる身の置き所で、餓えないこと、稼げること、その最低限度の条件が整ったら、学歴を高めること、資本金を作ること、という次の段階に進み、土着のコミュニティーの中で認められ、本国に残る実家や本家などの親戚への仕送り、最終的には(急に増えた)親戚たちをアメリカに呼び寄せる、という彼らなりの成功物語のストーリーがあるようですから、無邪気に涙を流して感動しているオバマ支持者と手を取り合って「アメリカの夢」を分かち合うような暇は無いのかも知れません。

■既に米国以上に深刻な金融危機に陥っている欧州では、がっちり稼いで貯め込んでいると思われる不運なチャイニーズが凶悪犯罪の標的になっているという報道もありますから、オバマ新大統領が訴える「助け合い」や「譲り合い」などの聞き慣れない話に耳を傾けるような心の余裕は無い人も多いでしょう。


「寛容な移民政策など、民主党の政策はアジア系住民にとって歓迎すべきもの。しかし現在の金融危機下、すべては経済問題にとってかわられた。米社会の主流に決して入り込んではいない在米華人の関心は、仕事が安定しているか?住宅ローンは払えるか?医療保険・教育機会は安心か?などに向いている。政治は遠い世界の話に過ぎないのだ」と、興奮もすでに醒め、現実を見つめるスタンスをとっている。
2009年1月21日  Record China

■お祭騒ぎに熱狂している多くの米国人が聞いたら激怒するような冷めた話でありますなあ。閉鎖的なコミュニティーを作って外部との交流を好まず、周囲に対しては無愛想な表情で警戒の視線を送っていると、間も無く頻発するようになると思われる暴動騒ぎの時には標的にされてしまいますぞ。ジョン・ウィリアムズが作曲した四重奏曲を楽しそうに演奏していたチェロ奏者のヨー・ヨー・マが、「アジア系」の代表として笑顔を見せたのですから、祝賀ムードに水を差すのは宜しくありません。

文字の国の言論 其の壱

2009-01-22 11:09:18 | 外交・世界情勢全般
■甲骨文字から発展した漢字文化を継承しているチャイナですから、文字と言論に関しては無数の逸話が残っています。秦の始皇帝が行った隷書体への統一には焚書坑儒がセットになっていましたから、その後も書体の改変が繰り返されるのと歩調を合わせるように、使用文字を限定する文字の獄やら言論弾圧の事件は数知れず起こりました。20世紀になって魯迅を先頭に漢字文化に対する厳しい批判が展開されて、最終的には膨大な漢字体系を放棄して、一挙にローマ字表記まで突き進もうと考えたのが今の共産党政権だそうで、手始めに始皇帝みたいに文字の歴史を完全に無視した簡体字を考案して、党が独占する教育と報道(宣伝)の現場に投入して流布させようと第一次の簡体字の群を放ったものでした。

■書道家や歴史研究家からの静かな大ブーイングは常に正しい(はずの)共産党の指導を珍しく揺るがし、簡体字の第二次発表は見送られたまま、きっと宙に浮いたまま忘れ去られてしまうのだろうと言われているようです。そして、最終目標だった全面的なローマ字表記への移行という計画も、日本語の振り仮名と同じ役目を果たす併音(ピンイン)が細々と生き延びているだけで、こちらも風前の灯(ともしび)みたいなものだとか……。

■IT時代に突入してからは文字の改変統一はますます難しくなって行きますが、言論弾圧の方はますます盛んになって行くようであります。


中国の主要ニュースサイトは21日、オバマ米大統領の就任演説全文を中国語で速報したが、共産主義をファシズムと並べて批判的に述べた部分では「共産主義」を削除した。……大統領が「先の世代がファシズムや共産主義と対決したのはミサイルや戦車の力だけではなく、確固たる同盟関係と信念であったことを思い起こしてほしい」と述べたくだり。国営通信、新華社の「新華網」やニュースサイト「新浪網」「捜狐」などは「共産主義」の1語だけを、「網易」は段落ごと削除していた。英字紙チャイナ・デーリーのサイトでは演説全文が英文で掲載され、削除はされていない。 
2009年1月21日 産経ニュース

■現行の教育試験制度であれば、英語を自在に読める能力を身に付けている「階級」ならば反政府的な思想を持っている可能性は限りなく小さいので、英文サイトは監視や弾圧の対象にはなっていないのでしょう。こんな事を続けていれば、政府の教育行政方針が変わるよりも前に、少なくともネット上では英語が共通語になってしまいかも知れませんなあ。紙に印刷された活字は検閲と宣伝バイアスによって生み出されている事は周知の事実ですが、それが漢字で書かれているのはウソばかり、という話に進んだら大変でしょう。


2009年1月20日正午(現地時間)、米民主党のバラク・オバマ氏が、首都・ワシントンの連邦議会議事堂前で第44代大統領への就任を宣誓、史上初のアフリカ系米大統領が誕生した。中国新聞社は、現地在住の中国系住民の反応を伝えた。……

■クリントン夫妻はチャイナ・ロビーから莫大な献金を受けていたのは有名な話で、その恩を着たまま国務大臣になった奥さんのヒラリーさんは、就任前の公聴会で吊るし上げられるのが心配で厚化粧でも隠せないほど憔悴した顔で登場し、引きつった作り笑いで余裕ある態度を演出するのに必死だったとか……。チャイナから米国への移民と言えば、大陸横断鉄道を建設した時の苦力(クーリー)と呼ばれた労働者の群が有名ですが、いつの間にやらハリウッドの犯罪映画には、本家のイタリアを差し置いてチャイニーズ・マフィアが登場するようになりましたなあ。勿論、悪い事ばかりでなく芸術・学問の分野でも経済界でも活躍するチャイニーズは数多いのも事実でありますが……。

漢字と演説 

2009-01-22 02:08:20 | 日本語
■たった19分間の演説なのに、極寒のワシントンに120万もの人々が足を運び、世界中のマスコミが取材し特集を組む。それは「腐っても鯛」ならぬ「ブッシュの後でもアメリカはアメリカ」である現実を誰もが認めざるを得ないからでしょう。別にオバマ大統領の一家がホワイトハウスに入居するのに合わせたわけでもないのでしょうが、日本の麻生コロコロ首相も就任してから118日も経過した1月19日に、首相官邸に引っ越したのだそうです。奥様と東京大学3年生の長女も同居するとの事なので、早速、口の悪い人から「娘に漢字を教えてもらえば良い」などと言われているとかいないとか……。

■その麻生首相はオバマ米大統領の就任演説を聞いた後、感想を聞かれまして、「今、世界における経済危機についての認識は一致している。国民の潜在力を引き出すという(解決のための)手法も同じだ。こういう感じであれば、世界1位、2位の経済大国が手を握っていけるなと確信した」と記者の質問に答えたのだそうです。日本国首相としての矜持(きょうじ)なのか、単なる強がりなのかは判断しませんが、「世界2位の経済大国」だと胸を張ってみても外国のメディアはまったく取り上げないでしょうし、日本国民でさえ誰も感動しないでしょうなあ。同じ「引越し」でも世界1位と2位とではメディアの扱い方は雲泥の差で、何よりも首脳の交代に関する報道の量と質が全然違います。

■世界的なスポーツ大会ならば、1位と2位、金メダルと銀メダルとの差は僅かなものなのでしょうが、国際政治の場合は1位の地位は図抜けております。米国の一極支配は間も無く終わると言う人もいるようですが、今回の金融危機には勝者となった国は無いのですから、今の米国が塩をかけられたナメクジみたいにみるみる縮んで行くとも思えませんし、軍事力でも米国に対抗できる国はなかなか現われないでしょうから、米国を中心とした世界の構造はもう暫くは続くと思った方が良いのでしょう。

■古い皮を脱ぎ捨てる大蛇か、自ら炎の中に飛び込んで復活する不死鳥のように、4年に1度か8年に1度、米国は熱狂的に節目を迎えます。それを象徴するのが大統領就任演説であります。2期8年務めたブッシュ大統領は珍妙な発言で大いに楽しませてくれた人でしたから、詩人か預言者のような演説の名手であるオバマ大統領の「演説」は、米国にとっては干天の慈雨か砂漠のオアシスみたいな物だったでしょうなあ。そんな感動的な「言葉」を世界中が待っていた1月20日、日本の議院予算委員会では、民主党の石井一副代表が世界第2位の経済大国の首相を相手に、漢字の小テストをしたのだそうです。嗚呼。

■石井さんは、月刊誌「文芸春秋」に掲載された麻生首相の手記をテキストにして「就中(なかんずく)」など12個の漢字熟語を並べたボードまで用意して議場に持ち込み、御丁寧に問題用紙を事前に渡しておいて、「先に渡してあるから今なら読めるだろう」と喧嘩を売ったとか……。それに対して「多分、みなさんが読みにくいのは『窶し(やつし)』ぐらいではないか。後の漢字は普通、みなさん読める」と麻生首相は真面目に応対したとのことです。石井さんは「ゴーストライター」による代筆ではないか?と追い詰める予定だったらしく、すっかり有名になった未曾有を「みぞうゆう」踏襲を『ふしゅう』と誤読した事を状況証拠にして麻生首相を吊るし上げたそうな。

■麻生首相の漢字力を大喜びしてネタにして楽しんだ日本のマスコミですから、石井副代表の意地悪テストを政治ニュースとして取り上げるのも不思議ではありません。しかし、この時の質問は消費税の引き上げに関する質問と、何よりも公明党と創価学会との癒着関係を指摘して政教分離の議論に持ち込もうとするのが眼目だったのでした。テレビも新聞も、その場面については無気味な沈黙を守っているようですし、その箇所を議事録から削除しろ!と切り替えした公明党議員の発言も無視しているようです。国会の議論には記事にする価値のある部分があまりにも少ないので、場外乱闘みたいな政局話ばかりが取り上げられ、情報源を明かさない「噂」を仕入れて来るのが政治記者の主要な仕事になっているのも情ない話です。

■オバマ大統領が行った19分の演説は、単に新聞記事になるだけでなく、無数の出版物に引用され音声や映像のソフトとなって出回るのは確実です。既に自伝やエッセイは米国だけでなく他の国でもベストセラーになり、数ヶ国語に翻訳されているくらいの大人気。日本の首相が書いて売れたのは田中角栄さんが子飼いの官僚達を集めて書かせた『日本列島改造論』くらいなもので、安倍さんの『美しい国』や麻生さんの『とてつもない国』では太刀打ち出来ません。小泉さんの郵政民営化に関連した本も、一時の話題で終わりまして、パロディ集団の「ニュースペーパー」の方が人気は長続きしそうです。


自民、公明両党の衆参両院国対委員長は21日、国会内で会談し、野党が2008年度第2次補正予算案の週内採決に応じない方針を決めたことへの対応を協議した。その結果、麻生太郎首相の施政方針演説など政府4演説を23日に衆院で行うことも辞さない方針で一致した。ただ、野党の反発は必至で、与党は民主党などの出方を見極めながら最終判断する方針。
1月21日 時事通信

■ 「政府4演説」というのは、首相の施政方針演説、財務相の財政演説、外相の外交演説、経済財政担当相の経済演説を総称して言うのだそうですが、どうせ役人の作文を切り貼りして棒読みするだけの事ですから、施政方針演説1本だけでも、議場では居眠り、携帯電話遊び、落書き、私語が目に付きます。野党側からは下品な野次が飛びますが、与党席や傍聴席でスタンディングオベージョンが起こって拍手の音で演説が中断するような光景にはとんと遭ったことがありません。それを1日に4本も連続して聞かされるのでは、野党席での居眠りが続出しそうですなあ。

■本当に日本は米国と同じように「100年に1度」の危機に直面しているのでしょうか?

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公金の責任 其の壱

2009-01-21 15:00:28 | 政治
■「生活給付金」は総額2兆円だそうですが、国会での議論を聴いても給付の目的も方法も「配ってみなければ分からない」ようであります。どうせ2兆円もの予算を使うのなら、医療や社会保障に回したらどうか?と国民の間からも政策に対する不信感が日に日に増しておりますし、専門家の間からは「100年に1度」の危機に相応しく、霞ヶ関の埋蔵金を20兆か30兆ぐらい掘り出した上に2兆円を上乗せして、単年度の超大型緊急経済対策を実施すべきだ、という意見も出ているようです。

■政局よりも景気対策が重要だと言って解散の時期を逸した麻生内閣は、二次補正予算を成立させねば解散は出来ないと言い張っている間に時が過ぎ、今度は来年度予算を通過させないと解散出来ないという大義名分が罷り通り始めております。確かに予算を作って関連法案を成立させるのが国会の仕事なのですが、国民から託された税金や各種の公共料金、そして何種類もある公的保険の料金など、どれも民から官が集める「公金」です。どうも、その公金の使われ方に無駄が多い!と国民は一斉に腹を立てております。特殊法人などの天下り機関の統廃合は進まず、勿論、ボロボロになった年金制度の補修も改革もまったく手付かずの状態なのですから、国民から半強制的に取り立てる「公金」を大切に扱うようにする改革は無理なのかも知れません。それなのに「財政破綻」に到る試算となると、呆れるほど素早く出来てしまうのであります。その結論は「消費税を上げる」というものです。

■来年度の予算案を作る時季ともなりますと、霞ヶ関と永田町には「予算が足りない」の大合唱が響き渡り、前年度の予算が正しく無駄なく使われたかどうかを検証しようという声はまったく聞こえません。会計検査院という不思議な役所がありまして、細々とした「無駄遣い」が指摘されるものの、誰が叱られるわけでもないので誰も責任を取りません。従って無駄遣いは一向に無くならないのであります。


外務省が途上国支援などのため国連に拠出している基金のうち、既に閉鎖されたり、活動を停止したりした10基金の残余金計約8億1600円が、2~8年間にわたり放置されていたことが分かった。国連側から返還通知を受けたにもかかわらず受け取り手続きを怠るなど、同省のずさんな対応が原因で、事務態勢の在り方が問われそうだ。

■8億円もの「予算」がゾンザイに拠出され、行き場を失って宙に浮いているところは我が国の年金によく似ておりますが、社会保険庁みたいに辺鄙な山奥にグリーンピアを建てて腐らせたり、職員の福利厚生を名目に下劣な無駄遣いなどせずに、ちゃんと耳を揃えて「余りましたよ」と報告してくれるのですから、国連の事務方は偉い!そんな通知は日本の官僚たちは出したことも受け取ったこともないのでしょうなあ。伝統を墨守しての単年度予算編成に安住しているので、多めに分捕った予算を無理やり使い切るのが至上命題で、誰も「無駄遣い」などとは考えずに年度末にはラスとスパートの大盤振る舞い!それでも余ってしまった予算は帳簿上は「使い切り」にして裏金として積み立てられるのだそうですなあ。役所のヘソクリみたいな物でしょうが、これまで一度も国民とために取り崩されたことは無いそうです。


外務省が衆院外務委員会に提出した資料などで明らかになった。拠出金の問題は昨年11月、会計検査院の指摘で約3億9750万円分が表面化。同省がさらに全体の調査を進めた結果、会計検査院の指摘を上回る額が判明した。……東ティモールの選挙監視団支援のために資金拠出した「東ティモールの平和的解決のための信託基金」の活動は、少なくとも2002年に停止されているが、残余金4億1200万円がそのままになっていた。同基金が停止された事実も、08年まで把握していなかったという。

■国際平和と日本の国益のために拠出した公金なのでしょうが、役所には費用対効果の観念も無ければ、最終的な収支決算も眼中に無いのでしょう。これで無駄遣いをしないで済むのなら奇跡でしょう。2002年から6年間も4億円という大金が「余っていた」わけですが、外務省には「余っている」という意味が分からなかったのでしょうなあ。何とも恐ろしい役所であります。在外公館での大名生活も有名ですし、公金で購入した物品を私物化するバカ者も居るとも言いますなあ。きっと外務省にとっては「4億円」などとハナクソみたいなはした金なのでしょう。


カンボジア人道支援のための「カンボジア信託基金」は00年以降活動が停止しているが、08年7月に国連から照会を受けるまで残余金約6390万円を放置。ニカラグア武装勢力の帰還や定住促進に向けた「国際支援検証委員会活動のための信託基金」も、05年4月に国連事務局から返還小切手(約97万円)を受け取るよう通知されたが、3年以上もそのままにしていた。外務省では「内部のチェック態勢が不十分だった」としている。同省は昨年12月末までに、残余金の大半について、返還手続きをとったり、他の国連基金へ回したりし、残りの対応も急いでいる。
1月19日 読売新聞

■「人道援助」の美名さえ付ければ、それが現地で何に使われようと、余ってしまおうと外務省はまったく「内部のチェック」を行っていない事が判明したわけです。今の外相は中曽根大勲位の息子さんでしたなあ。

新装開店準備中? 其の七

2009-01-21 14:57:23 | 外交・情勢(アジア)
……韓国の聯合ニュースは15日、「金正日総書記が三男、正雲氏を後継者に指名し、決定を党組織指導部に伝えた」と報じた。……ある情報筋」の話として伝えたところによると、金総書記が今月8日ごろ、正雲氏の後継者決定を示し、李済剛組織指導部第1副部長(党中央担当)が課長級以上の幹部を緊急召集し、決定を伝えたとされる。聯合電は、「情報が急速に広まり、幹部も驚いている」との情報筋の話を報じた上で、「昨年、脳疾患で倒れた金総書記の焦燥感によるもの」と分析している。

■これが週末の日本を騒がせた第一報でした。「ある情報筋」というのが曲者で、張成沢氏を中心とする党の経済官僚と軍部の両方に勢力争いが起こっているのなら、異例の軍部発表がテレビで放送されたという話も、軍内部にガス抜きが必要となるほど不安定な状況が生まれている可能性があります。長男か三男か?肖像写真も公開されない三男が話題になるという所が、今の将軍様が世襲した時と似通った印象を与えますから、情報源の人物はその効果を狙っていると想像できます。


韓国紙によると、正雲氏は、90年代に兄の正男、正哲両氏同様にスイスのインターナショナルスクールに留学。帰国後は、金総書記の軍の視察に同行することもあった。体形や性格まで自分に似ていることから金総書記が最も愛情を注ぎ、「(正雲には)リーダーシップがある」と評したとされるが、逆に「根っからの遊び人でダメだ」と評したとも伝えられている。3人の息子の中では謎の部分が最も多い。

■スイスに留学しているのにスナップ写真の一枚すら公開されていないのですから、御学友にされてしまった人達には硬軟取り混ぜた根回しと圧力が掛かっているのでしょうなあ。そんな「謎の部分が最も多い」人物だからこそ、ガセネタの種にもなるのでしょう。社会主義革命だの主体哲学の実現だのと言いながら、専門家筋が常に靴にするのは「儒教の伝統」を理由にした長男による世襲説。でも、日本人なら誰でも覚えている「東京ディズニーランドに行きそびれた事件」での強制送還される情けない姿が重なってしまう長男の正男さんでは日朝国交正常化交渉など笑い話になってしまうでしょうし、欧州でロック歌手の追っかけに熱心だと報道された次男の方も、ほっそりしていた少年体型時代の写真と最近の肥満気味のスナップ写真とを比較してしまうほど、妙に身近な存在になっていますから、もしも跡継ぎになっても新聞の政治面よりも女性週刊誌の記事にされる恐れがありそうです。

■そこで、瓢箪から駒が転がり出るなら、謎の三男坊に注目が集まるという仕掛けなのでしょうが……。


……金総書記が昨年9月9日の建国60周年式典に姿を現さず、「金総書記が脳卒中で倒れた」との情報が世界中を駆けめぐった数日後に、韓国の中央日報が「金総書記が倒れたのは、正雲氏が重体に陥ったと聞き、ショックを受けたため」と報じたのをはじめ、韓国では、正雲氏が不治の病にかかったとの情報が浮上。専門家の間では「正雲氏の後継者化の可能性は消えた」との見方も出た。

■重病説や死亡説が乱れ飛ぶのは御国柄なのでしょうが、どれも「情報」とも呼べない「噂」レベルの話ばかりです。将軍様に関しては、複数の暗殺未遂事件があったという話も実しやかに流れていますし、暴飲暴食の限りを尽くし、洗脳女性を取ったひっ替えして弄んでいるという話もありましたから、早々に成人病や生活習慣病になっても何の不思議もないことになります。診断したフランス人医師が居るのですから、将軍様の健康状態に異変があったのは事実でしょうし、意地になって静止画像を公表し続けるのも傍証となりますから、状況証拠としては世襲が近い!と騒ぎたくなるのも無理はありますまい。


……儒教の影響から長子相続の伝統が根強い北朝鮮では、世襲とすれば、3代目は正男氏とみられてきたが、強制退去以降、「正男氏は後継レースから脱落した」という分析が広まった。その時期から韓国紙を中心に頻繁に報じられたのが次男、正哲氏の後継路線だ。「中国の胡錦濤国家主席の訪朝晩餐会で正哲氏が紹介された」「金日成主席、金正日総書記とともに正哲氏の写真が党幹部の執務室に掲げられた」…。母親の高夫人を「尊敬する母上」と偶像化する内部文書が確認されたこともあったが、正男氏後継に反発する軍強硬派が独断で文書化した可能性が高く、韓国メディアは、“お家騒動”を嫌った金総書記が幹部らに後継問題への言及を一切禁じたと伝えていた。

■誰が跡継ぎになっても、今の将軍様と同じ様に権力を完全に掌握するまでには、時代遅れの血生臭い権力闘争が繰り返されるのは容易に想像できますから、大物の亡命騒動くらいなら我慢も出来ても内乱・内戦などは傍迷惑な話で、軍部が暴発して第二次朝鮮戦争などは絶対に困ります。将軍様が後継者問題を封印したのが本当なら、内戦や暴発戦争の危険が現実に存在しているのでしょうなあ。


金総書記自身、「70歳まで後継者を指名しない」と語っていたとされる。だが、李教授は「金総書記の病気がいつ再発するか分からない事態に後継準備作業に入らざるを得なくなったのではないか」と分析する。聯合ニュースが正雲氏の後継指名を伝えたとする李済剛氏は、正男氏の「後見人」とされる張成沢氏と同じ組織指導部第1副部長の要職にある。このため、正男、正雲両氏の後継候補への浮上は、正男氏を推す張氏のグループと、その動きを牽制し高夫人の息子を推挙する李氏ら軍部との権力争いに伴う「熾烈な情報戦」が行われているとの見方もできる。

■こうした動きも米国の大統領が交代する事と関連が有るのでしょうが、大統領の就任式に使者を送ろうとして断られているところを見ると、オバマ新政権が掲げる「対話路線」外交は、予想以上にタフな性格を隠し持っているのかも知れません。人権問題に強いこだわりを見せるに違いない新政権の目に、将軍様の「地上の楽園」がどのように映っているのやら……。


……元旦付けの朝鮮労働党の機関誌「労働新聞」など3紙共同社説には、こんな表現も登場した。「われわれには新たな進軍を生むための駿馬が準備されている」「駿馬」は何を指すのだろう。各国情報機関の情報精査・分析も活発化する。
2009年1月17日 産経ニュース

■それは隠されている「核爆弾」か、北米大陸まで到達する新型ミサイルのことなのではないでしょうか?先代は「千里馬」運動という無謀な無計画経済政策を強引に進めて、先輩チャイナの大躍進と同様の大失敗に終わったことがありましたから、「馬」という表現は、こき使われる国民か道具類にしか使わないでしょう。誰「地上の楽園」を継承するにせよ、就任祝いに核弾頭付きのミサイルなどを盛大に打ち上げないことを切に祈るばかりです。間違っても、軍事方面で大当たりの「フィーバー」などが起ったら、日本は憲法も関連法も改正している暇などありませんから、海上自衛隊と海上保安庁の艦船が領海内を走り廻るくらいの事しか出来ません。

■日本側でも「新装開店」の準備と計画くらいは急いだ方が良いかも知れませんぞ。
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