旅限無(りょげむ)

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歓迎? 中国外交団様 其の弐

2007-03-30 18:07:52 | 外交・情勢(アジア)

……横流しされたのは同社の熊谷配工センター(埼玉県熊谷市)で昨年2月~今年1月に顧客から引き取ったテレビ、洗濯機、冷蔵庫計1594台。同センターが当時、不要家電の収集運搬を委託していた埼玉県内の貨物運送業者の関係者約10人が、顧客から徴収した1台2520~4830円のリサイクル料金などを着服したうえ、回収した不要家電を国内大手の中古品販売・輸出会社に売却していた。本来は、この業者などが回収した不要家電を同センターの集積場所に持ち込み、別の業者がメーカー指定の集積場所に運ぶ仕組みだった。

■すっかり「電気屋さん」の仕事から「修理」「修繕」の名前が無くなって、プロの技術や知識が消費者の身近から遠ざかってしまいました。買う→使う→捨てる、の間に「直す」という段階が消えてしまいました。「直すより買う方が安いですよ」と電気屋さんが言い出したはいつ頃のことだったでしょう?たった半として「中古品」になってしまう家電製品やコンピュータですから、何十年も使い続けるのは稀な話になってしまいましたなあ。でも、メイド・イン・ジャパンの「中古品」なら家電製品でも自動車でも、いくらでも買いたいと言う声は世界中に溢れているようです。日本では「廃車」なのに、同じ自動車が元気に走り回っている国が
割と近所にも有りますからなあ。


リサイクル状況に不審な点があったため、ヤマダ電機が今年1月に内部監査。顧客が家電購入の際に「不要家電がある」と答えながら、リサイクルに回っていないケースが2107件判明した。顧客への聞き取り調査の結果、このうち1594台は顧客が業者に不要家電を引き渡していた。顧客にリサイクル券を発行していた228台のほか、454台は業者が領収書を交付。残る912台も顧客が引き取り料を払ったとみられるという。

■この「リサイクル券」という代物を発行して監視?しているのが経済産業省が作った財団法人だそうです。日本中のリサイクル業者を監視することなど不可能ですから、得意の啓蒙パンフレット作りや誰も聞いてくれない広報活動などが主たる仕事ではないかと邪推もしたくなります。今回の事件も、ヤマダ電機が独自に内部調査した結果判明しているのですから、それも「聞き取り調査の結果」という限定付き!ならば、日本中のリサイクル業界の裏側はどうなっているのか?誰にも分からないのでしょうなあ。


ヤマダ電機は1594台すべてについて、リサイクル料金に相当する計約492万円を顧客に返還。経産、環境両省に横流しの事実を申告し、業者関係者を業務上横領などの容疑で告訴した。ヤマダ電機は「業者個人の小遣い稼ぎで、組織としての不正ではない。業者が不正に使ったリサイクル券の控えを廃棄していたため、把握できなかった」と釈明。リサイクル券の管理の徹底や業者の再教育など、再発防止策を講じたという。……
3月30日 毎日新聞

■IT技術が詰まった製品ともなれば、軍事的な意味も含めて外部への流出には神経を使わねばなりません。高性能の「無人ヘリコプター」も使いようで戦地での偵察から爆撃まで可能なのに、ほいほいと売ってしまう会社も有るのが日本で、輸送用のトレーラー・トラックを何処かの国に売ったら、引っ張っているのがミサイル発射装置だったとか、コンピュータの外付け装置となったら、各種の公文書の偽造やら偽札造りにも利用されているそうですからなあ。ご用心、ご用心。


海上自衛隊第1護衛隊群(神奈川県横須賀市)の護衛艦「しらね」乗組員の2等海曹が、護衛艦のレーダーのデータなどを記録したフロッピーディスクを自宅に持ち出していたことが29日、わかった。防衛省が秘密情報に指定している内容とみられる。秘密情報の持ち出しは禁じられている。……フロッピーディスクは、今年初め、神奈川県警が2等海曹の中国人の妻を入管難民法違反容疑で摘発し、自宅を捜索した際に発見、押収されたという。記録されていたのは、レーダーのデータや、通信関係の周波数などだったといい、同県警などで2等海曹からも事情を聞いている。
3月30日 読売新聞

■この種の事件に関して、日本のマスコミは扱いが概して小さくなってしまうのはどうしてでしょう?本当に平和憲法を守るのなら、
(仮想)敵国に侮られない努力を続けていなければなりません。平時でも情報戦は続いているのですから、ここで敗れ去れば、時到れば国益を増大させるために切羽詰った国は食い物に出来る国に手を出して来ますぞ!莫大な防衛予算を投じて装備を充実させ、将兵が訓練に励んでいるのも、相手に誤解を与えるような隙を見せないためでしょうに!軍事機密がぽろぽろ漏れ出ているような国ならば、さぞや実戦でもヘマを重ねるに違いない、と思われても仕方が有りません。まあ、相手の方が上だったというだけの事なのかも知れませんが……。「入管法で摘発された中国人の妻」というのが、何とも気になる話ですなあ。これには続報が有りました。


海上自衛隊第1護衛隊群(神奈川県横須賀市)の護衛艦「しらね」乗組員の2等海曹(33)が護衛艦情報などを持ち出した事件で、情報の中にイージス艦に関する記録が含まれていたことが30日、わかった。性能などにかかわる内容とみられる。日米相互防衛援助協定に基づいて米国から供与された武器の性能などは、防衛省が指定する秘密情報の中でも、最も秘匿性の高い「特別防衛秘密」に該当する。外部に漏えいすれば、同協定に伴う秘密保護法に抵触する可能性もあり、捜査当局で慎重に情報の分析を進めている。……今年1月、神奈川県警が2等海曹の中国人の妻に対する入管難民法違反容疑(不法残留)で、横須賀市内の自宅を捜索した際、護衛艦のレーダーのデータなどが入ったフロッピーディスクのほか、容量の大きいハードディスクが押収された。
3月30日 読売新聞

■入管法違反は、別件逮捕の可能性も有りますが、神奈川県警の1人仕事ならばお手柄でした。こういう場合は警視庁の外事課が動くのではないでしょうか?自衛隊内部には、「調査隊」から発展した「情報保全隊」が設置されているそうですが、今回の大事件には関わっていないのでしょうか?大容量のハード・ディスクにたっぷりとイージス艦の心臓部を解明する情報が満載されていたら、日本ばかりか米国の太平洋戦略が丸見えになりますぞ!これから、この2等海曹や「入管難民法違反容疑者」の中国人妻につていは、週刊誌が根掘り葉掘り調べ上げて報道するのでしょうが、大規模エンルギー政策交流団の皆様がお帰りになる前に報道して欲しいものですなあ。外交関係は良好であるに越した事はございませんが、願わくばフェアにやって貰いたいですからなあ。

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歓迎? 中国外交団様 其の壱

2007-03-30 18:07:25 | 外交・情勢(アジア)
■支持率がなかなか上がらない安倍政権は、刻々と近付く夏の参議院選挙を睨んで、官僚機構に手を突っ込んで掻き回し始めているようですが、元々、安倍総理に期待が集まったのは北朝鮮に対する強面(こわもて)ぶりが目立ったからでした。年齢の若さと政治家としては三代目、つまり、党の内外には父親の同僚がごろごろいる馴染みが深すぎる舞台に上ってしまったのですから、内政でリーダー・シップを発揮するのは難しいのでしょうなあ。「総理」と呼ぶより「晋ちゃん」の方が呼び易い、と言う年配議員がたくさん居ますから……。
 
■小泉総理がめちゃくちゃにしてしまった「米国以外」の国々との外交関係を修復しなければならなかった安倍新総理は、就任早々に韓国と中国を忙しく歴訪して、何とか玉虫色の姿勢で穏やかに関係の修復を図ろうとしています。答礼の意味も兼ねて、いよいよ日本に温家宝首相がやって来ますぞ!


日中両国はエネルギー協力を強化するため、温家宝首相が訪日中の4月12日午前、中国の石油・天然ガス・石炭、電力、再生可能エネルギーの各分野の53社・機関から110人を超えるエネルギー関連の首脳・幹部が、日本企業と初の「日中エネルギーセミナー」を都内で開くことで調整を進めている。複数の日中関係筋が29日明らかにした。

■ぞろぞろと企業人の大群を引き連れての来日と聞きますと、ブッシュ・パパが来日した時のことを思い出す人も多いのではないでしょうか?あれは日本がバブル経済を経験する前の事でした。次のクリントン政権が露骨に日本企業を標的にした訴訟やら、政府に対して「構造協議」を仕掛けて来たことを思えば、ブッシュ・パパ大統領の来日は、至極、真っ当な「売り込み」商談を求めるものだった事が分かります。さてさて、今回明らかになった温家宝さんが引き連れて来る陣容は、エネルギー分野に集中しています。これは尖閣諸島の領土・領海問題を、純粋なエネルギーの共同開発に衣替えさせてしまう深謀遠慮なのではないでしょうか?「セミナー」と銘打って開催される話し合いならば、絶対に対決姿勢を表沙汰には出来ません。儀礼上も「明るい未来」「相互信頼」「共存共栄」の発言が並ぶに決まっているのですから、「天然ガス」が議題になっても、領土問題とは別扱いになるでしょう。


温首相が訪日に合わせてエネルギー企業代表団を引き連れる形になり、同筋は「中国エネルギー企業首脳によるこれだけ大規模な訪日団は異例だ」としている。都内のホテルで開催される同セミナーと並行する形で、温首相に同行する馬凱・国家発展改革委員会主任が甘利明経済産業相と閣僚間の「エネルギー政策対話」を開催。同対話は甘利経産相が昨年12月に訪中した際に創設で合意したもので、温首相訪日を受けて官民のエネルギー協力が動きだすことになった。エネルギー分野が今後の日中経済協力の核になるのは確実だ。 
3月30日 時事通信

■巨大なエネルギー輸入国になってしまったチャイナと、この分野で協力するとなれば、日本側には売れるエネルギーはまったく無いのですから、技術供与と大規模なプラントの受注が主要議題になるのでしょう。大口の契約が取れると大企業は大喜びで、何が何でも「セミナー」を大成功させよう!と待ち構えていることでしょう。正当な商売として話がまとまるにしても、先端技術を不用意に譲り渡すような愚は慎まねばなりませんなあ。貿易額は年々大きくなって経済交流が進み、切っても切れない間柄になっているとは言っても、外交関係では一方的に押され続けている日本政府が、外務省を横に置いて経済産業省がしゃしゃり出てあれこれ安請け合いなどしないでしょうなあ?


家電量販最大手のヤマダ電機(本社・前橋市)で、顧客からリサイクル料金を徴収するなどして引き取った不要家電約1600台がリサイクルに回されず、収集運搬業者の関係者によって中古品販売・輸出会社に横流しされていたことがわかった。うち228台は、家電リサイクル法で定められたリサイクル券が顧客に発行されていたにもかかわらず、横流しされる悪質なケースだった。家電小売店は、回収した不要家電をメーカーなどへ引き渡すよう義務付けられており、経済産業省と環境省は同法違反の疑いで調査している。横流しは約1年間続けられており、同社の管理体制が問われそうだ。

■「リサイクル法」は環境省も一枚噛んでいるようですが、財団法人まで作って仕切っているのは経済産業省のはずですなあ。性善説の塊みたいな法令を作った国会の責任なのですが、実際に法令に従って仕事をしているのは役所です。廃棄される製品から貴重な資源を回収して再利用するという、実に結構な発想なのですが、メイド・イン・ジャパンのブランド力をまったく知らない能天気な法律です。

ペルシア湾の波高し

2007-03-29 18:17:25 | 外交・世界情勢全般
27日のニューヨーク・マーカンタイル取引所の原油先物相場は、夕方の時間外取引で「イランがペルシャ湾の米海軍を攻撃した」とのうわさが流れ、指標である米国産標準油種(WTI)の5月渡しは一時、日中の通常取引の終値より5.16ドルも高い1バレル=68.09ドルに急騰し、昨年9月以来、半年ぶりの高値をつけた。ただ、米海軍や米政府がうわさを否定したため、相場はひとまず落ち着き、夜には63ドル台での取引となった。

■何とも物騒な「流言飛語」でありますが、一体、いかにも有りそうな?こんな噂を誰が流したのでしょう?先物に投資している腹黒い人物が泡銭を儲けようとして流したのなら、犯罪行為ですなあ。それ以上に、この噂を真に受けて高値で石油を買い集めようとした人達が居たという事実の方が恐ろしい!


この日の通常取引の終値は前日比0.02ドル高の62.93ドルだったが、通常取引を終えた後の午後5時前にうわさが広がり、有力産油国のイランをめぐる国際情勢の緊迫化に神経をとがらせていた市場が一気に反応した。米海軍のペルシャ湾での大規模演習やイランによる英兵士連行で緊張が高まっていることが、うわさの背景とみられる。原油先物相場は最近、イラン情勢を懸念して、連日上昇しており、今後、事態が緊迫化するようであれば一段と騰勢を強める恐れがある。
3月28日 毎日新聞

■ブッシュ大統領のお友達の中には、この小さな騒動で大きな利益を得た人も居そうです。国連や欧州・ロシアの動きを利用してイランを追い詰めて、その庭先で大規模な演習を繰り広げ、「先に手を出させる」作戦ならば、何処かで聞いたことがある話ですなあ。英国海軍の兵士を拿捕したのが突発的な事故だったのなら、イランにとっては厄介な荷物を背負い込んだことになりそうですが、起こってしまったからには、精一杯利用しようとするでしょうが、もたもたしていると自慢の特殊部隊が送り込まれる可能性も出て来ますから、それを米軍が支援するという名目で更に大きな演習を実施するかも知れません。昔の「関東軍特別大演習」みたいで、心配な事です。


米国防総省などによると、中東に増派された米海軍の空母ジョン・ステニスが27日、ペルシャ湾に到着し、同海域にすでに派遣されている空母ドワイト・アイゼンハワーと共に03年3月のイラク戦争開戦以降、最大規模となる軍事演習を開始した。ペルシャ湾で米空母2隻が同時に活動するのは同開戦以来。核問題を巡り米国などと対立するイランへの軍事的圧力の意味がある。……ステニスとアイゼンハワーの合同演習には100機以上の航空機、1万人以上が参加。敵機や敵艦隊を攻撃し、潜水艦を追跡、機雷を発見する想定で実施された。

■イラン海軍は3隻の旧ソ連製の潜水艦を保持しているそうですが、米軍の敵ではないようです。ただ、機雷に関する技術は高く遠隔操作で爆破できる物まで開発しているとも言われ、ロシアと中国がどんな技術を売り渡しているか分かりませんから、米軍の演習に潜水艦による「機雷」設置を阻止する行動が入っているのは、相当に具体的なイメージを前提にしてことを証明しています。


国防総省発表によると、演習は「中東での安全と安定に米海軍が長期的に関与する」ために必要な訓練とされる。ロイター通信によると、訓練は数日間だが、展開期間は長期化する可能性がある。ペルシャ湾での空母2隻態勢についてゲーツ国防長官は「イランとの戦争計画はない」と説明しているが、イランけん制の狙いは明らかだ。空母ステニスのジョハンソン艦長はAP通信に「イランは事態をエスカレートさせる態度を取っている。(演習は)『脅しをかけるなら用心しな』という明確なメッセージだ」と語った。イラン海軍も22日から約1週間にわたる潜水艦などによる訓練を実施しており、米軍とイラン軍がにらみあう態勢になっている。

■狭いペルシア湾で双方が「演習」をして角突き合わせているのは、決して世界にとって嬉しい事態ではありません。


イランを巡っては国連安保理が24日に追加制裁決議を採択。23日にイラン当局が英海軍兵士15人を拘束した問題でブレア英首相は27日、兵士解放交渉が行き詰まれば「異なった段階」に進むとイランに警告、情勢は緊迫の度を深めている。
3月28日 毎日新聞

■イラクからの撤収を決めている英国は、アフガニスタンに対して今年の夏に1400人を増派して7700人にする事を決定済みです。フランスとドイツが増派を拒否してNATO内部に対立が起きていますが、米軍を中心に37カ国から送られた3万5000人が治安対策と対テロ戦争に従事しているわけですが、イランも火を噴けばアフガニスタンからイラクまでが一続きになって手が着けられない大規模な戦乱が起こることになります。


イラン・イラク国境の水域で英海軍水兵15人がイラン当局に拘束された事件で、イラン国営のアラビア語衛星放送アルアラムは28日、拘束中の英水兵らの映像を放映した。映像では、軍服を着た水兵数人がそろって食事をする様子に続き、唯一の女性兵士でイラン側が一両日中の解放を約束したフェイ・ターニー海軍一等兵(26)が独白する場面を紹介。ターニーさんはイスラム流にスカーフをかぶり、「私たちは明らかにイラン領海を侵犯しました」と述べたうえ、現在の処遇に感謝する言葉などを口にした。ただ、ターニーさんの声には抑揚がなく、傍らにいる第三者の視線を気にしながら語る様子がうかがえた。
3月29日 読売新聞

■イラク戦争でも、人質になった米兵がビデオ・カメラの前で命令通りに「声明文」を読まされた事が有りますが、こうした情報宣伝戦がエスカレートして行くと米軍が手を出さなくても英国が単独でも行動を開始する!などと宣言しないように、イランを誰かが説得しなければなりませんぞ。中露首脳会談でも、イラン問題が話し合われたと言われていますが、どうやら両国とイランとの距離が広がっているようなので、だんだんイランが孤立して行くのが心配ですなあ。

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植木等さん逝く 其の弐

2007-03-28 11:15:38 | 日記・雑学

「無責任男」のイメージが強かった植木さんだが、根はまじめだった。犬塚は「きまじめないい人だったよ。きちんとしているからあれだけいい仕事ができた。クレージーは仲が良く、仕事が終わっても楽屋に残ってわいわいと話をして楽しかった。中心にいつもいて、華やかな人だった」。

■谷啓さんが物資が乏しい時代にフランス製のポンコツ外車を手に入れて、植木さんが同乗している時に、急な坂道を下っている最中、とうとうブレーキが壊れて暴走した思い出を語った時には、本当に死ぬかと思った、と言う独特の表情が印象的でしたなあ。異様に明るい演技を続けながら、死に関しては透徹した覚悟が有ったように思えます。


植木さんは、70年代後半から性格俳優として活躍し、85年には黒沢明監督「乱」に出演。脇役で渋い演技をみせた。最後の仕事は昨年11月。金沢で1シーンだけ出演した映画「舞妓Haaaan!!!」(6月公開)。一昨年11月の渡辺プロ設立50周年パーティーでは、谷が歌い、犬塚がベース、桜井がピアノを演奏し、植木さんが「こりゃまた失礼いたしました~」とセリフを入れて「クレージー-」を再現した。「『また4人でドラマをしたいね』と話していた。やりたかったなあ」。かなわぬ夢に終わった。
3月28日 日刊スポーツ

■黒澤の『乱』に出演した植木さんは、1人だけのびのびと演じているようで違和感を覚えるほどでした。どす黒い人の心の闇を戦国時代を舞台に描き出した『リア王』の世界に、1人だけまともな神経を保って笑える心を持つ武将は、希望の象徴だったのかも知れません。偶然にも映画『乱』に織り込まれた救いのシンボルが阿弥陀如来の絵だったのも因縁でしょうか?


都内で行われた第16回日本映画批評家大賞の授賞式に出席した萩本欽一(65)は、報道陣から植木さんの訃報(ふほう)を聞いて絶句した。過去の映画の功績に対するエメラルド大賞を受賞し「気持ちよく野球をやっていたのに、映画を思い出せって言われているようで、うれしいやら、怖いやら…」とユーモアを交えながらトーク。しかし式の途中に知らせを受けて、ぼう然とした表情。関係者に「芸能界の大先輩なので、うかつにコメントできない」と当初予定されていた囲み取材をキャンセルし、足早に会場を後にした。
3月28日 スポーツニッポン

■萩本欽一さんも、坂上二郎さんとのコンビで、クレージー・キャッツの跡を継ぐようにして喜劇映画を何本も作っています。二郎さんの芸達者ぶりが先行して、欽ちゃんの演技が下手くそに見えた記憶が有りますなあ。アドリブの天才ですから、脚本通りに喜劇を演じるのは苦手だったのかも知れませんなあ。その違いはテレビでもはっきり表れていたようで、クレージー・キャッツは脚本の有る喜劇を上手に演じ、欽ちゃんは即興の面白さを徹底的に追及して見せたものでした。とは言っても、テレビが生放送中心だった頃に「お呼び出ない?こりゃまた失礼しました」という名作ギャグを生んだのは植木等さんでした。出番を間違えて画面に飛び込んでしまった瞬間に、その場を取り繕ったのが切っ掛けだったそうですが、谷啓さんの「ガチョーン」と共に、テレビの面白さを歴史に刻んだ定番ギャグでしたなあ。合掌

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植木等さん逝く 其の壱

2007-03-28 11:15:06 | 日記・雑学
■何かの予感だったのか、ちょっと元気を貰おうとレンタルDVDで『ニッポン無責任時代』を借りて楽しんだばかりでした。クレージー・キャッツの映画は、ずっとゴジラ映画と併映されていたので、子供時代に楽しんだ者にとってはゴジラのオマケみたいな作品でした。クレージー・キャッツの映画は決して子供に分かるようなドタバタ喜劇ではなくて、痛烈な社会に対する風刺劇でしたから、子供を連れて満員の映画館に行った父親たちは、ゴジラ映画の方をオマケと思っていたかも知れませんなあ。60年代や昭和が見直され、もう一度東京でオリンピックを!などという話も出る昨今ですが、異様なエネルギーを発していた頃の日本を体現したのが植木等さんだったのは確かでしょうなあ。お疲れさまでした。

「クレージーキャッツ」のメンバーとして高度成長時代に爆発的な人気を博したコメディアンで俳優の植木等さんが27日午前10時41分、都内の病院で呼吸不全のため亡くなった。80歳。「お呼びでない?」のギャグや大ヒット曲「スーダラ節」、映画「無責任男シリーズ」で60年代の日本に笑いを振りまいた。……今年1月16日に食欲不振を訴え、都内の病院に検査入院。点滴・治療を行い、今月8日に自宅に一時帰宅した。しかし、翌9日に再入院し、中旬には容体が悪化し意識も混濁。その間、「クレージーキャッツ」の仲間だった谷啓(75)や桜井センリ(77)犬塚弘(78)が見舞いに訪れ、谷は17日、桜井は12日、犬塚は25日が最後の面会になった。

■生真面目な人だったと故人を偲ぶ言葉が散見されますが、御本人の発言からもそれが分かります。生前、人気を博した一連の『無責任』映画シリーズに出演していた頃を回想して、シナリオを読めば読むほど、あまりに荒唐無稽で不自然なストーリー展開と、自分が演じる主人公の精神状態が異様で、とても自分には出来ない!と悩んだのだそうです。監督から「これは異常な人物の異常な物語なんだ」と説明されて、あの疲れを知らない異常なエネルギーを発する作品が続々と作られたのだそうですなあ。当時、大人も子供の口ずさんで振りを真似た『スーダラ節』も、「音楽家の端くれ」だから譜面が読めてしまうのが禍し、手渡された楽譜を頭の中で演奏し歌ってみたら、「これは自分の歌じゃない」と突っ返そうと思ったのだそうです。しかし、相談を持ち込んだ浄土真宗の僧侶でもあった父上様が、歌詞を一読して「青島という男は天才だ!」と仰ったとか…。「分かっちゃいるけどやめられない」の一説は、人の業の深さを悩みぬいた「親鸞上人」の精神に直結する!との御判断だったのだそうですなあ。ですから、植木等さんは、あのトンデモない歌を『歎異抄』の代わりに唄っていたことになります。


亡くなった直後、40年前に付き人をした小松政夫(65)が駆けつけ号泣した。犬塚は「25日に見舞った時は呼吸が苦しそうだった。手を握ったら握り返してくれた気がした。2、3時間そばにいたけど、つらかった」としのんだ。植木さんは昨年12月の旧友の青島幸男さんの通夜に酸素吸入器をつけ、車イスに座って参列した。しかし、焼香の際には車イスから立ち上がり、毅然(きぜん)と焼香する姿に、関係者は「男の美学を感じた」という。植木さんは当時から死を覚悟していたのか、同11月には妻、マネジャーに「自分に何かあったら密葬にしてほしい」「延命措置などを行うのもやめてほしい」と遺言を残していた。

■小松政夫さんも味のある喜劇人です。彼が付き人をしていたのは植木等さんの人気が絶頂に達していた時で、仕事を依頼する電話を受けていた時、1日に2時間ぐらいしか眠れない売れっ子だった植木さんのスケジュール表を見ながら、その時間なら空いてます、とうっかり返答してしまったそうです。その時だけは背中に植木さんの飛び蹴りを喰らったとなつかしそうに話していましたなあ。唄って踊れて演技も上手なジャズギタリストですから、映画にテレビ、舞台に加えて地方回りも続いていたのに、記憶に残る植木さんは常に異様に元気で独特の笑い声を振り撒いていましたなあ。


実家は三重県の浄土真宗常念寺。住職の父が「平等」にちなみ「等」と名付けた。小学6年で僧りょ修行のため上京したが、音楽活動にのめり込み、57年「クレージーキャッツ」に参加。61年から日本テレビ系「シャボン玉ホリデー」に出演し「お呼びでない?」のヒットギャグを生み、故青島幸男さん作詞の「スーダラ節」も大ヒット。62年からの映画「無責任男シリーズ」で明るく調子のいいサラリーマンを演じ、同世代から圧倒的支持を受けた。

■父上様は、反戦坊主として有名な方でした。植木さんが志願兵になろうとした時には、「坊主が先に死んだら誰が引導を渡すんだ。坊主が兵隊になるのは最後で良い」と言って止めたという逸話が有るそうです。社会問題にも熱心に取り組むリベラルな僧侶だった父上様は、当時の日本には受け入れられずに追放同然に三重の地を出たのだそうですが、植木さんは晩年に里帰りして涙ながらに挨拶したのでした。志願はしなかったものの、学徒動員で北海道に送られて終戦を迎える体験をしているので、戦争については厳しい意見を持ち続けていたそうです。

容疑者逃走

2007-03-28 10:08:04 | 社会問題・事件
 ■「釣り落とした魚は大きい」という諺は、負け惜しみが強い人間の欲深さを皮肉った意味で使われますが、失敗したら取り返しの付かない大事な交渉事や試験などの場合は、被害の大きさを表現することもあります。本当に逃がしてはならない重要な容疑者を取り逃がしてしまった場合は、二次犯罪を誘発したり、犯人が真相を語らないまま命を絶ってしまう恐れが有りますから、空白の1日を挟んで公表された千葉県での奇怪な殺人事件の続報を聞くたびに、やはり「魚は大きかった」との思いを強めてしまいますなあ。

千葉県市川市のマンションベランダの浴槽で26日、英国籍の英会話講師リンゼイ・アン・ホーカーさん(22)の遺体が見つかった事件で、行徳署捜査本部が死体遺棄容疑で指名手配した知人の職業不詳市橋達也容疑者(28)がはだしで逃走していたことが28日、分かった。市橋容疑者は26日夜、このマンションを訪ねた捜査員数人の職務質問を振り切り逃走。追跡される途中、履いていた靴が脱げたが、そのまま逃げたという。……この部屋では遺体発見前日の25日夜から26日未明にかけて、金属をたたいたり、物を引きずるような音が聞こえたという。行徳署捜査本部は、この時間帯に市橋容疑者が浴槽を浴室からベランダに移し、死亡したホーカーさんを遺棄した可能性があるとみて調べを進めている。
2007年3月28日 中国新聞

■階下の住人が聞いていた深夜の「異音」を行徳署の署員は知らなかったのではないでしょうか?この事件の報道は、マンションのベランダに不自然に置かれた浴槽内に砂をかけられた女性の遺体が発見されたとの話でした。それから1日経過して、職務質問に訪れた署員の包囲を破って容疑者が逃走したという事実が、全国指名手配の続報と一緒に発表されるという流れだったようです。


26日午後10時ごろ、千葉県市川市…「新日本サンライズ行徳」4階の男性(28)方で、ベランダに置かれた砂が敷き詰められた浴槽内に女性の死体があるのを県警捜査員が発見した。男性と交友関係がある同県船橋市在住の英国人女性(22)が行方不明となっており、県警は遺体の身元確認を進めるとともに殺人・死体遺棄事件の可能性があるとみて27日午後にも捜査本部を設置する。……浴槽はマンション内の風呂場から取り外して運んだとみられる。砂は市販の園芸用で、浴槽一杯に入っていた。室内に女性の所持品とみられるバッグや身分証明書があった。

■別の報道では、犯人が逃走した後に室内を捜索し始めた署員が、「風呂場に浴槽が無い!」ことに気が付いてから、ベランダに置かれているのを発見したのだそうです。言っても詮無い後知恵でしょうが、テレビ・カメラが問題の浴槽を撮影しているのですから、外からでも事前に部屋の様子を伺う作業をしていれば、少なくともベランダに変な物が置かれている事には気が付いたでしょうし、近所の聴き込みをしていればベランダの浴槽が出現した時期や、「異音」のした場所から浴室での異変などにも気が付いたかも知れませんなあ。


男性方を訪れた捜査員が室内に入ろうとした際、いきなり玄関ドアが開き、男性が飛び出し捜査員の制止を無視して、走って逃げたという。県警は男性が事情を知っているとみて行方を追っている。女性は東京都内の英会話学校に勤務し、26日午後3時半ごろ学校職員から「25、26日に出勤してこない」と県警に相談があり捜索していた。女性は船橋市内のマンションに住んでおり、同居している女性が「25日午前9時ごろ室内から出ていく音を聞いている」と話しているという。室内には男性の名前や連絡先が記されたメモが残されていたという。
3月27日 毎日新聞

■逃走した容疑者は、駅前英会話学校の生徒ではなく、被害者と個別に契約した個人授業の生徒だったのだそうですが、両親が医者だとか定職には付いていないマンションでの1人暮らしとか、徐々に英国人元スチュワーデスのブラックマンさんの殺人事件に似た構図が浮かんで来るのかも知れません。米国人でなく英国人の女性が狙われるというのは、偶然ではないような気もしますが、英国内でもこの事件を大きく取り上げているそうですから、しっかりと容疑者の身柄を確保して原因の糾明をきっちりとして置かないと、別の外交問題やら歴史認識問題に飛火したりすると面倒ですぞ。

■新聞報道では、捜索願を受けて行方不明の外国人女性を探しているだけで、凶悪犯罪に巻き込まれているとは思いもしない警察官が、メモにあった容疑者の部屋を「足取り」捜査の一環として訪ねたような書き方ですが、マンションの出入り口や周辺に相当数の署員を配置してドアを開けさせたようですから、何らかの予感は有ったのでしょう。また、「いきなり玄関ドアが開き」裸足で飛び出した容疑者は、背中に数日分の着替えを詰め込んだザックを背負っていたのだそうですなあ。1人の署員が追いついて、そのザックをつかんだものの、トカゲが尻尾を切って逃げるように犯人はザックを署員に奪われたまま走り去ったということです。別の目撃証言では、容疑者と警官とが競走している場所に自転車が通り掛ったとも言われています。それを拝借して追跡しようとはしなかった事を不審に思う人も居るようです。

■元プロボクサーを警察官に採用する話が有りますが、こうした残念な取り逃がしの失態を聞きますと、元陸上選手や元競輪選手など、警察に必要な人材が世の中にはたくさん居るような気がしますなあ。とかく警察官の採用には、地縁血縁、地元の名士からの圧力など、ややこしい噂が絶えませんが、採用という一種の「魚釣り」の段階でも、大きな魚を釣り落としているのかも知れませんなあ。

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チャイナは脱皮で大忙し 其の弐

2007-03-27 18:10:34 | チベットもの

中国共産党は上海、天津両市と浙江、陝西両省などのトップに当たる党委員会書記を刷新したが、これらの新書記が「わたしは断固として中央の決定に服従し、胡錦濤同志を総書記とする党中央の指導の下、新任務の履行を決心した」(習近平上海市党委書記)と表明するなど、胡総書記(国家主席)やその政策に忠誠を誓ったことが26日までに分かった。地方が中央の指示を聞かず、腐敗や職権乱用、過熱投資などの問題が深刻化する中、胡氏は今年秋の党大会に向け、自分に従う地方指導者を抜てきして、権力基盤を着実に固めていく方針だ。 
3月26日 時事通信

■日本のメディアでも、前総書記の江沢民さんが隠然たる力を保持している上海閥についてはいろいろと書き立てていますが、生きて引退生活を安穏に遅れるだけでも奇跡のような、凄まじい権力闘争が続いて来た北京政府の奥の院ですから、汚職だ!密輸だ!横領だ!と次々に目ぼしい手駒を摘発されて、政治的には過去の人となった江沢民さんは、自分の権力基盤の上海で開催される万国博覧会を、どんな身分で見物するのやら、しないのやら……。中央に登場した頃の胡錦濤さんは、第2次天安門事件で「瓢箪から駒」の権力が転がり込んだような江沢民さん以上に、頼りない長老に対する単なるイエス・マンのように見えたものですが、伝統に従ってやる事はしっかりやっていたという事でしょうなあ。


25日の新華社通信によると、中国共産党中央は陝西省トップの党委員会書記に趙楽際・青海省党委書記(49)を任命した。また、直轄市である天津市の党委書記に張高麗・山東省党委書記(60)を充てる。胡錦濤指導部は今年秋の第17回共産党大会に向けて地方の幹部人事を加速させ、権力基盤の強化を図る。
3月25日 毎日新聞

■胡錦濤さん自身が、貴州省とチベット自治区という最貧省競争をしているような地方政府で苦労した後に、ラサ暴動と天安門暴動が連続するという幸運?に恵まれて、まだ元気だった小平さんの目に止まったという異例の出世を体現している人ですから、青海省から陝西省という、ちょっと渋い出世コースの階段を用意して、地方でぎらぎらした出世意欲て自爆寸前の鬱屈した気分を味わう若手を、上手に小まめに丁寧に小刻みに出世させて、全土に忠誠心を植え付けてしまう工夫なのでしょうなあ。内モンゴル自治区・新疆ウイグル自治区・チベット自治区が北から西に並び、東には陝西省と四川省が接している青海省という場所は、中華人民共和国の地理的な「重心」に位置することは地図を見れば容易に理解出来ます。その位置に相応しく、チベット・モンゴル・ウイグル・カザフなど、複雑な民族構成を持っているのも青海省の特徴です。単なるチャイナの貧しい田舎などと思っていると、大きな間違いを犯すかも?


中国共産党中央は上海市トップの党委員会書記として、浙江省の習近平・党委書記(53)を任命した。24日の国営新華社通信を通じ発表した。昨年9月に社会保障基金をめぐる汚職事件で解任された陳良宇・前上海市党委書記の後任で、秋の党大会では政治局(現在24人)入りが確実となった。習氏は、副首相などを歴任した故習仲勲氏の長男で、同じ党長老子息の曾慶紅国家副主席や薄煕来商務相らと近いとされる。高級幹部の子弟を意味するグループ「太子党」の代表格の一人でもあり、アモイ市長、福建省長などを経て2002年から浙江省党委書記に就任した。文化大革命中、陝西省に下放されて農業に従事した経験もあるため、農村対策に熱心なことで知られる。胡錦濤指導部が今回、清廉実直とのイメージをもつ習氏を、汚職にまみれた最大都市のトップに据えたことは、官僚の汚職に対する胡総書記の毅然とした姿勢を示す狙いもあるようだ。

■汚職追放キャンペーンが、いつも通りの看板だけなのか、少しは本気で権力闘争とは別に政治の近代化を目指す動きなのか?外国のメディア以上に、現地で暮らしている人民が見守っているのでしょう。しかし、それが蜃気楼や妄想の類だということを一番知っているのも彼らですからなあ。最近の北京政府が発表する文書は、国内向けには精神論と道徳論を多目に混ぜ込んだ希望的観測に基づく目標が並ぶ傾向が強く、それと対照的に外交と軍事に関しては一切の甘さを排除した現実的な動きが目立っているような気がしますなあ。北京に継ぐ、実質的には最大の経済力を誇る上海を、誰に抑えさせるのか?と世界の経済界や政治家が注目していた人事です。


上海市の書記人事について、これまで、香港などのメディアは胡総書記の側近で共産主義青年団出身者の劉延東・党統一戦線工作部長や李源潮・江蘇省党委書記らの就任を報じてきた。だが、胡錦濤指導部は今回、江沢民前総書記が率いる上海閥とも関係が良好とされる習氏を抜擢した。この人事には、江氏に配慮しながら政権の安定も重視し、今後の中央人事を円滑に実施したいとの胡政権の狙いがあるとみられる。53歳の若い習氏が、今年秋に党中枢である政治局入りを果たせば、李克強・遼寧省党委書記らと並び、ポスト胡錦濤の一人として名乗りを挙げる。
3月25日 産経新聞

■共産党青年団は、胡錦濤さん自身の出身でもあり、権力基盤の頼みとしていた巨大な組織です。旧ソ連の「ピオネール」組織に習って作られたようですが、秀才学生の多くがメンバーに選ばれることを願って止まない特殊なエリート集団に成長し定着して居ます。胡錦濤政権が誕生してから、この組織が最大のコネを独占するかとも思われましたが、無理に背伸びして足を払われるような危ないことを胡錦濤さんは慎重に避けているという事なのでしょうなあ。まあ、これだけ細心の注意を払って広大な領土に自分の権力を根付かせる工夫を続けられなければ、明日にも失脚する危険が常に有るお国柄には変わりはないのでしょう。せっかく日本でも若い総理大臣が生まれたのに、組織した内閣の大臣の方が総理よりも迫力が有って勝手な事を言ったりやったりしている情けない話とは、とても比較できないのが残念至極であります。

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チャイナは脱皮で大忙し 其の壱

2007-03-27 18:09:34 | チベットもの
■北朝鮮がマカオに貯め込んだ怪しい資金を、最初はビタ一文タダでは返さぬ!と威勢の良かったブッシュ政権でしたが、たった1回の地下核実験で腰が砕け、じりじりと押されて蟻地獄にころころと転がり落ちるように妥協に継ぐ妥協の揚句、一時は「合法的に北朝鮮を締め上げる」英雄扱いされた米国財務省のグレーザー財務次官補代理(テロ資金・金融犯罪担当)が北京に飛んで来て、ややこしい交渉をしています。6カ国協議の米首席代表を務めるヒル国務次官補(東アジア・太平洋担当)はワシントン市に居るそうで、北朝鮮への返金問題は「2、3日以内に解決できると信じている」などと記者会見で暢気な事を言っているそうです。同じ場で、「予想もしなかった事務的な問題」の存在を言い訳に持ち出したとか……。
 
■いかにも頼りない表情が印象的で、その存在の軽さを周囲に撒き散らしてしまうヒルさんは、いかにもブッシュ政権を象徴しているかのようで、この人と組まされている日本の佐々江代表などは、本当は裏で荒れ狂っているのではないでしょうか?米国の情報収集とその解析能力の無さを露呈して余りある6箇国協議の頓挫劇ですが、「よきに計らえ」と涼しい顔でロシアに乗り込んだのが胡錦濤さんです。ロシアが企画した「中国年」イベントに華を添えるという表の役向きを利用して、到着早々にプーチンさんとの秘密会談に臨んで、米国が失敗したらしい北朝鮮問題とイラン問題のリンケージ戦略についてあれこれと相談したとか……。


新華社は26日、中国政府がチベット関連の事業に1000億元(129億ドル)を投入すると報じた。新華社によると、2010年までに180のプロジェクトに投資する計画。そのなかには、空港施設の改善、遊牧民居住地域までの飲料水、電気、電話の普及拡大、チベットの首都ラサから第2の都市シガツェまでの青海チベット鉄道(青蔵鉄道)延伸などが含まれている。しかし、事業の恩恵を受けるのは大半がチベットの漢民族で、事業はチベットの環境や伝統を脅かすと批判する声も出ている。
2007年3月27日 ロイター

■多くを語る必要も無い話ではありますが、変な本を書いてしまった身としては、こうしたニュースを聞き流すわけにも行きませんなあ。チベット仏教史に即して言えば、ラサは観音菩薩の化身とされるダライ・ラマの居住地で、シガツェは阿弥陀如来の化身とされるパンチェン・ラマの居住地で……というような話は拙著『チベ坊』に割と要領よくまとめて書いて有ります。ラサまで鉄路が達したら、その南にはヒマラヤ山脈を挟んで東からブータン、シッキム(インド領)、ネパールが並んでいます。余り話題にはなりませんが、ブータンの東側にはそのブータンの国土の2倍に当たる空白領地が存在します。ずっと西で注目を集めるカシュミール問題と同じく、インドと中国との国境争いの舞台になっています。清朝末期、大英帝国が放り出した置き土産の一つです。

■ネパールがこの数年間、がたがたしている裏側にインドが居るのか北京政府が動いているのか?「マオイスト」などというややこしい名称を使う武装勢力が物騒な動きを続けているので、裏を読めばインドの策謀と読めますが、裏の裏を深読みすればインドとの国境に波風が立っていた方が都合が良いと考える北京政府の策謀も考えられるようです。そこに米国の世界戦略も絡み付いたりすると、何が何だか分からないことになりますなあ。

■北京政府としては対インド、カシュミール問題への圧力などを考えると、莫大な資金を(何処かの国からの援助を利用して?)投じて完成させた「青海鉄道」を、徹底的に利用しない手は有りません。地形を見ればラサから東へ鉄路を伸ばすのは費用対効果を考えれば得策ではないでしょう。既に、チベットの東側で四川省・雲南省からメコン川沿いに南下して、ラオスとタイとの貿易を強化しているのですから、ラサから西へ鉄路を伸ばす方が合理的でしょうなあ。西の副都シガツェまで路線を延ばすのなら、途中にギャンツェという重要な町が有るのですから、ここを迂回するはずは有りません。そうなりますと、チベット自治区内の3大都市が北京や上海と鉄道で結ばれる事になります。

■四川省の西半分に広がっている恐るべき山岳地帯を知らない人は、北の青海省を通ってラサに向かう鉄道路線に違和感を覚えるでしょうが、北緯30度上に並んでいる四川省の成都とチベットのラサとを高規格道路や高速鉄道で結ぶなどと言うのは、秘かに誰かさんが研究しているヒマラヤ山脈貫通トンネルを完成させるよりも遥かに難しい事なのです。もしも、ラサと成都を最短距離で結ぶ鉄道が完成したら、ディズニーランドの1万倍も楽しい?世界最大のジェット・コースターになるでしょうなあ。それは悪い冗談としても、既存の鉄道の高速化に加えて、新たな鉄道網を整備しなければならない場所がたっぷりと残っているのが今のチャイナですから、鉄道に関するビジネス・チャンスがごろごろ転がっていることは間違い有りません。後先考えずに虎の子の技術だけプレゼントするような愚かな事を、日本の企業がしないことを願うばかりです。

EUが50歳 其の参

2007-03-26 17:46:41 | 歴史
■EUは屋上に屋を乗せた新たな官僚組織を持っていますから、地域全体に納税者と官僚組織との対立が二重になっているという事実が有ります。こうして議長の大演説みたいな寄稿を読むと、各国の官僚群の上に立つ超官僚群の影を見る思いもします。従来の国家官僚組織をどこまで削減し、主権をどこまでEU議会に譲渡できるのか?既に豊かな国からの供出金が貧しい地域に分配される仕組みに苛立つ声が高まっているようですから、議長が「支持と参加」を文末で強く求める気持ちも分かりますなあ。最初に企図された経済の統合は比較的容易でしたし、軍事的な同盟も冷戦時代から進んでいました。しかし、文化や習慣を直接扱う政治的な統合となると大変です。

■EU委員会の「公用語」は11カ国語で、一応、中心的な言語は英語とフランス語になっているので、それ以外の9カ国の言葉は、一言も漏らさずに英仏両国語に一旦は翻訳され、それが残り9ヶ国語に再度翻訳されて伝えられるのだそうです。議場での同時通訳ならば兎も角、お役所仕事の本分である「書類仕事」を想像すれば、書類作成の事務処理量が単純に計算しても11倍!、英仏両語の文書を必ず添付していたらその処理に要する作業量と紙の量は膨大な物になります。果たして、そんなお役所仕事に必要なコストを地域内住民がいつまでも認めて居られるのでしょうか?更に続くと思われるEU拡大は、更なる言語を取り込んで、もっと多くの役人が必要になりますぞ!ドイツ語が、いつまでも「主要言語」の外で大人しくしているかどうかも分かりませんなあ。


欧州連合(EU)は2004年以来、東欧など12カ国にも「統合の翼」を広げたことで、その性格を変えつつある。「(15カ国時代に比べて文化、宗教、経済面で)『異質』な者同士の集まりとなり、アイデンティティーの危機にすら直面している」(ドイツのシンクタンクCAPのベティーナ・タールマイヤー研究員)のが実情だ。EUが冷戦終結後、ソ連のくびきから解き放たれた東欧諸国を組み入れたことは、欧州の政治的安定や経済発展といった観点から意味があった。だが、ポーランドが04年に欧州憲法条約に「キリスト教の伝統」をうたうよう唱えて政教分離の国々と対立したことでも明らかなように、価値観をめぐる“温度差”が徐々に表面化しつつある。

■EUを「キリスト教徒」による神聖同盟にしたいなら、トルコの加盟は不可能ですし、域内に暮らす異教徒や無宗教の者は不快でしょう。更に同じ根を持つキリスト教同士で1000年間も殺し合いを続けた場所ですからなあ。胸の前で切る十字の作法が違うだの、儀式の内容が違うだの、あれこれと争いの種が多い宗教文化が取り沙汰されると、頭に血が上ってエイライことになってしまいますぞ。


経済面でも、新・旧加盟国の違いは歴然としている。EUの経済成長率に占める新規加盟国の貢献度はわずか5%に過ぎず、巨額の補助金がこれらの国に流れることへの不満もくすぶっている。1月に加盟したルーマニアとブルガリアは国内の機構改革に追われ、EUに今後の戦略を提示できる状況にはない。外から見れば強力な組織に見えるEUもこうした国々を抱え、「内部は弱体化しつつある」(政治専門家)との見方もある。加盟当時、約40年ぶりの「欧州回帰」に沸いた東欧諸国の側にも不満は募る。域内での自由労働が認められないなど、加盟の恩恵を十分、感じることができないためだ。

■日本国内でもチャイナでも、地域間格差が出身地や血縁関係にまで広がると、夢と希望を失って不満ばかりが膨らんでしまう人々が増えます。犯罪に走る者、社会保障を悪用する者、中には組織を作って暴動やらテロやら、物騒な事を始める者も出て来ます。かと言って、無制限に安い労働力を自由に移動させれば、銭ゲバ経営者は大喜びしますが、地元の労働者は路頭に迷い、新参者を憎むようになりますなあ。


冷戦後、やっとソ連の下から独り立ちした東欧諸国は、内政への「ブリュッセル」からの横やりに困惑気味だという。独ブランデンブルク応用科学大のウルリヒ・ブラッシェ政治学教授は、「東欧では『モスクワからブリュッセルの独裁主義に変わっただけだ』との声も出ている」と話す。「これ以上の拡大は、『EUの顔』の問題にかかわる」(ミヒャエル・クライレ独フンボルト大教授)との指摘もあるように、EUは「拡大」よりも「深化」に重きを置いていく可能性が高い。
3月24日 産経新聞

■「拡大」か「深化」か、これは難しい選択です。成長政策か緊縮財政か、大きな政府か小さな政府か、福祉の充実か自立強化か、こうした何処の国も悩む問題に、歴史と民族の怨念やら逆恨みやら、ややこしい要素も混じりますから、どこかで線引きするにしても容易ではありません。ソ連に対抗する時代が終わって東欧を奪還したのは嬉しかったのでしょうが、まさか、これほど衰退していたとは知らなかった!と天を仰いだのはドイツ人達だったはずです。東ドイツとの統一の苦労を遠くから見ていた大韓民国が「明日は我が身だ!」とせっせと北朝鮮に自立支援を始めたのだとも言われていますからなあ。それに、もしもトルコがEUに加盟すれば、旧フランス植民地だったアルジェリアを筆頭にアフリカ諸国の中にも加盟を希望するような国も現れる可能性が有ります。「アフリカは別だ」と主張するには、改めて「欧州とは何か」を定義しなければ済まなくなっているわけです。


欧州経済共同体(EEC)設立を決めたローマ条約調印50年を記念して、25日にベルリンで式典が開催されるが、ここで採択される「ベルリン宣言」には、2009年までに欧州連合(EU)の組織構造を抜本的に見直すとの内容が盛り込まれる。ロイターが入手した宣言の最終草案には「ローマ条約調印から50年を経て、われわれは2009年の欧州議会選挙までにEUの新たな共同基盤を構築するとの目標で合意する」と明記している。……
3月23日 ロイター

■EUも、いよいよ「行政改革」を断行しないと、拡大どころか統一の維持も難しくなっているという事でしょう。日本でも、やっと公務員の削減が始まりましたが、EU組織の役人という身分が、貧しい国の秀才達にとっては垂涎の的だとも聞きますから、機構改革に「公務員の削減」などが盛り込まれると、貧しい国からは「特別採用枠」の要求が出るのは間違いないでしょう。何処のお役人も既得権益を守るためなら、何でもしますからなあ。あと2年で行政改革なんか出来るのでしょうか?


欧州憲法起草委員長のジスカールデスタン元仏大統領(81)が、欧州連合設立への第一歩となったローマ条約調印50周年(25日)を前に毎日新聞との単独会見に応じた。元大統領は凍結中の欧州憲法について「すでに過半数の加盟国が批准した」と指摘し、反対国のEU脱退を考慮してでも年内に発効させるべきだと語った。
3月25日 毎日新聞

■市民革命を起こしては憲法を書き上げて来た本場ですから、欧州が組織を作ったら憲法が必要になります。しかし、文書をまとめると政治家と官僚は重箱の隅をつつき合って、ああでもないこうでもないと会議を重ねるのが仕事みたいなものですからなあ。EU結成は血生臭い暴力革命のような熱狂は有りませんでしたから、勢いで革命委員会が憲法を起草してしまうことも有りませんでした。

■欧州憲法条約の発効には、全加盟国の批准を必要とするそうで、今のところはEUの総人口の過半数に当たる2億5,100万人が憲法条約を批准していて、加盟国で言うと15カ国(ベルギー、ドイツ、エストニア、ギリシャ、スペイン、イタリア、キプロス、ラトヴィア、リトアニア、ルクセンブルグ、ハンガリー、マルタ、 オーストリア、スロヴェニア、スロヴァキア)が批准済みなのだそうです。記事に出ているジスカールデスタンさんの祖国であるフランスが含まれていませんぞ!それでも「批准しない国は除名だ」と大鉈を振るって見せれば、しぶしぶとフランスは同調すると読んでいるのかも知れません。

■オランダや北欧諸国なども名前が見えませんなあ。はっきり言って批准している国々の多くは貧しい国ばかりのようです。そして、通貨統合問題でも独自の主張を続けるイギリスの名前も有りません。ジスカールデスタンさんの念頭には、イギリスの首根っこを抑えてドイツと仲良くさせる計画が有るのかも知れません。1992年に起こったデンマークによる「マーストリヒト条約批准拒否」の椿事も有りますから、加盟国は何度でも国民投票を実施して批准を急ぐことになるのでしょう。現在のところ、「EU崩壊」を予言する人は居ないようですが、加盟国の負っている民主主義の歴史が違うように、EUの存在意義に関する考え方も一様では無いはずです。世界最大の民主主義国家と呼ばれるインドの、人口で3分の1でしかないEUですが、これからも民主主義の可能性に挑戦する人類の歴史の最先端を進んでいると思われます。但し、50年後まで存続しているかどうかは、誰にも分かりません。

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EUが50歳 其の弐

2007-03-26 17:46:12 | 歴史
■ネオ・ナチの台頭に神経を尖らせているはずのEU議長国ドイツのシュタインマイヤー外相が、「EUが50歳に」と題する評論を毎日新聞に寄稿したそうです。

EU50の誕生日は比類なき成功物語である「欧州統合」を振り返る機会となる。この50年に欧州の人々が達成した成果は私たち皆が誇りにできるものだ。平和、豊かさ、安定は最大の成果であり、人々に具体的な恩恵をもたらした。欧州の東西分裂が克服されたことは極めて重要だ。新規加盟国が加わり、民主主義と「法の支配」の定着が大きく進んだからだ。自由を希求する中・東欧の人々の意思がなければ分裂の克服は実現しなかった。

■目出度い気分に水を差す気はさらさら無いのですが、「中欧」という概念はEUを考えると非常に重要であることを確認して置きましょう。欧州の東西分裂は、ドイツが繰り返した「中・東欧の統一」という歴史的な執念を根絶やしにする保険としての機能を果たしていたとも言われます。ベルリンの壁が崩壊する様子を世界中の人々が感動を持って見守ったものですが、その後に発表された「東西ドイツ統合案」には、英国が即座に懸念を表明しフランスと共に反対しようと動きました。うっかりするとEU自体がドイツ帝国の再生を促す役割を果たしたら大変だあ!というわけです。そういう歴史的不安を良く知っているドイツは、「EU内で大人しくしています」という約束を大きな声で発表して、多数決原理に従ってEU全体の同意を得たのでした。


もう一つの成果は世界に類例のない「協力のあり方」が発展したことだ。EUは民主主義と「法の支配」を基盤とし、域内協力は加盟国間における権利と義務の平等、透明性と補完性という原理を旨とする。他地域での協力のあり方の範となり得る。欧州の土台を成すのは共通の価値観だ。すなわち人間の尊厳、自由と責任、連帯、多様性と寛容、他者への敬意である。EUは共通経済圏にとどまらず、価値観を共有する価値共同体だ。共通の価値観によって立つからこそ欧州は政治単位として機能し得る。

■こうして情熱的に並べられる言葉の一つ一つが、ナチズムを完全に否定している事をしつこくアピールしているのが分かります。ヒトラーが構想した第三帝国は、この段落に述べられている内容を全て否定して、架空のアーリア民族による絶対的支配を目論んだのでしたなあ。それに感動したのが大日本帝国の軍人と一部の官僚でした。


多大な成果にもかかわらず、ここ数年、EUに対する市民の信頼が低下した。「欧州統合に対する支持の拡大」は、ドイツがEU議長国を務める今年前半の目標の中心にすえられた。EUは21世紀の課題に対処できることを実証していかなければならない。どの加盟国ももはや一国だけでは豊かさと安全を維持できない。ましてや、グローバリズムのあり方に積極的に働きかけていくのは到底無理だ。今月8、9の両日開かれた首脳会議でEUは市民にとって重要度の高い分野で政治的意思を形作る力を発揮できることを証明した。温暖化防止とエネルギー政策は人々の将来にかかわる極めて重要な分野であり、温暖化の危機は私たちが一致協力することなしには解決できない問題の一つだ。

■世界地図を見れば欧州が案外と小さな地域だという事はすぐに分かります。従って、生活に欠かせない水・土・空気の量は限定的です。農業国もたくさん含まれているので、気性変動による食料不足は歴史を巻き戻して掠奪と虐殺の再現となる原因になりますし、温暖化によって環境が激変すれば、EU内での大規模な人口移動も簡単に発生してしまいます。貧しい加盟国からの「出稼ぎ」だけでも大問題になっているのですから、本格的な人口移動ともなればエライことになりますからなあ。


欧州共通外交・安全保障政策の拡大にも期待が集まっている。欧州外交は平和と正義、自然環境の保護を一貫して追求するものでなければならない。内務・司法分野ではテロ・犯罪の防止に向けた共同の取り組みと、人権・公民権の尊重との均衡を図る。不法移民問題も共通の解決策が必要だ。欧州を一つにまとめているものは何か。25日にはこの観点を中心にすえ、欧州の結束と一体感を発信する。直面する課題に力を合わせて対処し解決していこうという明確なメッセージだ。

■EUも国境を前提とした政治組織ですから、内側に向かっては平等やら寛容やら、対立を避けて統一を促進する言葉が発せられますが、外に向かっては「不法移民」「テロ」が排除の対象となります。ドイツには第1次大戦からのトルコとの関係で、非常に多くの移民が入って定着していますが、現実的には深刻な差別や格差が大問題となっています。そのトルコがEUに加盟したら、ドイツが抱える問題を他の国も考えねばならなくなります。ロシアとトルコ、どちらも歴史的にドイツとの因縁が深い場所ですから、その加盟問題に関してもドイツの発言力はますます強くなるでしょうなあ。


欧州は自信を持ってしかるべきだ。力を合わせれば自らの将来を自律的に方向付け、積極的につくり上げていくことができる。そのために市民の支持と参加が必要だ。力を合わせて欧州の成功を可能にしたい。
3月24日 毎日新聞

EUが50歳 其の壱

2007-03-26 17:45:45 | 歴史
■世の中は、予言や運命学が流行しているやに聞きますが、第二次大戦後の世界を正確に予想し得た者は皆無だったとか……。中でも冷戦による東西両陣営の対立は国際連合を構想した人々にとっては予想もしなかった事でしたし、国際連盟の最大の欠点だった国際紛争を抑止・調停する武力行使の能力を、国連軍の創設によって補ったものの、その初陣が米ソ代理戦争が勃発した朝鮮半島となるとは、これまた誰も予想しなかったそうです。ソ連が考案した「民族解放闘争」という新しい軍事思想が、旧植民地の独立戦争を後押しすれば、米国は「自由を守る正義」の旗を振りかざしてソ連との対決色を強め続けて40年。ソ連の崩壊が20世紀中に起こると60年代に想像した者は無く、全面核戦争が起こる可能性が高いと心配した人は多かったようです。

■第一次大戦中に、世界の海軍は大英帝国海軍を先頭に、石炭を放棄して石油に切り替えたのに合わせて、米国発の自動車社会が急速に世界中に広まりました。そして、石油化学製品が万能の文明として20世紀を支配しましたなあ。1958年に発足した欧州経済共同体(EEC)が、今のEUの母体ですが、これに先行して結成されていたのは欧州石炭鉄鋼共同体という20世紀を象徴する戦略的工業集団だったのも、時代を繁栄していたのでした。石油の次に世界のエネルギーとして注目されたのが、原子爆弾を開発した技術から導き出された原子力発電でした。これまた、欧州の未来には欠かせない技術と認められて、欧州原子力共同体が結成されます。石油と鉄と原子力を基幹とする経済共同体という発想が生まれるのに時間は掛からず、1967年には欧州共同体(EC)に発展統合されたのでしたなあ。

■時は冷戦の真っ只中!欧州はチャーチルが名付けた「鉄のカーテン」でぴっちりと東西に分断され、国家自体が分割されたドイツの首都ベルリンはイデオロギーの海の孤島となって浮かんでいました。ソ連の衛星国にされたチャコスロバキアやハンガリーでは大規模な暴動が起こりましたし、80年代には小型核兵器が実用化されて欧州を戦場とした中距離核ミサイルの限定的核戦争が準備される騒動が起きましたなあ。ソ連でも米国でもない「欧州」という歴史的な意識が勃興して来た契機は、米ソの代理戦争が最終的には欧州を滅ぼそうとしていると多くの人々が知った事に有ったようです。それなら、欧州分割の主体となっているソ連を崩壊させるのが早道と分かって、ポーランド出身のローマ法王まで利用してのソ連包囲網が強化され、レーガン米国大統領の強硬路線と米中接近の大戦略でソ連は国力をすり減らして自滅したのでした。

■90年前後は「ポスト冷戦」時代を占う言論が大流行でしたが、その中には日本を過大評価する物も多く、それを真に受けてバブルに踊って国富を蕩尽して世界に恥を晒したのが日本でしたなあ。日本を異質で特殊な経済大国だ!と米国が目の敵にして数々の謀略を仕掛けて来たのはその頃の事で、大企業は莫大な分けの分からないカネを支払わされ、日本政府は後先考えずに「内需拡大」を安請け合いしたのでした。その切り札が「800兆円を越える公共事業」で、その残骸が夕張市に転がっています。米国の言いなりにてきぱきと妥協案を丸呑みしていた頃の自民党幹事長が、今は最大野党の代表になっているのですから、政界の先を占うのは至難の業であります。

■米国が日本に無理難題を押し付けて八つ当たりしていた頃、1993年にマーストリヒト条約が発効してEUが誕生します。世界で唯一の軍事超大国になろうと無茶を続けた米国は、武器と映画しか売れる物が無い国になってしまいましたが、EUはNATOをフィルターに使って米国による欧州への介入を最低限度に抑えて軍事も経済も、米国からの影響力を極力小さくしてしまう事に、一応は成功しました。加盟国はEEC時代の6カ国から、新生EUの15カ国に拡大して、全身のベネルクス3国の協同組合を完全に脱して立派な国際組織に成長しておりましたなあ。中世以来の独・仏・英の対立を抱え込んでいるとは言え、米国や日本と渡り合える数と富を集約するという大目標では一致しているようです。


欧州主要国市民の3分の1以上が、50年後には、ロシアが欧州連合(EU)に加盟していると予想していることが、23日付のインターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙に掲載された世論調査結果で明らかになった。……イタリア人の50%、スペイン人の49%が、2057年までにEU圏がロシアまで広がると回答。英仏独3カ国でも3分の1以上が50年以内のロシア加盟を予想している。加盟交渉が難航しているトルコについても、イタリア人の58%が50年以内のEU加盟を予測。他の4カ国でも3分の1以上が50年後には加盟していると答えた。 
3月24日 時事通信

■何事にも楽天的な?イタリア人とスペイン人らしいラテン系の発想のようにも思えますが、EU内ではお荷物扱いされている我が身を顧みずに、明るい未来を夢想しているようにも思えますなあ。欧州を捨てて出て行った人達の子孫が米国ですから、欧州の仲間入りをするのならキリスト教の関連も有るロシアが念頭に浮かぶのは当然かも知れません。でも、50年後にロシアにツァーリが再生していないと誰が断言できるでしょう?アンケート調査に答えた人達は、「50年後」の世界に直接的な責任を持たない世代とも言えますから、世論調査の中に隠れているネオ・ナチほどではなくても、EU自体に反対して古き良き時代の民族国家に郷愁を覚える若い世代も居る事を忘れては行けないでしょうなあ。

石川県の大地震 其の弐

2007-03-26 14:41:24 | 社会問題・事件
……1892年の地震では、2日後にごく近くでほぼ同規模の地震が起きた。地震予知連絡会会長の大竹政和・東北大名誉教授(同)は「地質学的には『つい最近』。同様の余震があるかもしれず、十分注意して欲しい」と指摘する。プレートの沈み込み帯で起こる大地震との関連を指摘する声もある。京都大防災研究所の梅田康弘教授(同)は「(四国付近で起こる)南海地震の発生が近づいていて、阪神大震災以降、西日本は地震の活動期に入っている。今回の地震もその一環で、内陸部の大都市下でも、いつ大地震が起きても不思議ではない。きちんとした備えが必要だ」と語る。……

■大きな地震が連続するのは、同じプレートの別の部分でも蓄積されていたエネルギーが解放されるからです。関東平野の真下では三つのプレートが押し合っていますが、西日本はユーラシア・プレートの上に載っていますから一枚岩のようなものだそうです。長野県を縦断するフォッサ・マグナで日本列島は背骨を折られるように、東西に別れて弓なりに曲がっている構造なので西日本の日本海側は海溝型の大地震とは無縁だと思われていたのも不思議ではありません。


地震の揺れに詳しい入倉孝次郎・京都大名誉教授(強震動地震学)は「震源が浅く、小刻みに素早く動く周期1秒程度の短周期地震動が強く出たため、古い建物や小規模構造物に被害が集中したのだろう」と説明する。短周期地震動が顕著だったことについて、地震予知連絡会会長の大竹政和・東北大名誉教授(地震学)は「世界的にもプレート内部で起きる地震は、急激に断層がずれるため、短周期地震動が強く表れることが多い」と話す。周期1秒程度の短周期地震動が強く表れる点で、阪神大震災(M7.3)の揺れに近いタイプという。

■震源が浅いと分厚い地層の重し効果が無くなりますから、地表が激しく動くことになります。今回の地震では津波の警報が短時間で解除されましたが、震源が海岸に近い海底下だったからでした。


気象庁は今回の地震について「横ずれを伴った逆断層型の地震」と分析した。国土地理院(茨城県つくば市)も、地殻変動の観測から、断層面の向きはほぼ北東―南西方向で長さ約21キロ、幅約14キロ。北西から南東に傾き下がる右横ずれを伴う逆断層と推定。南東側の地塊が北西側に乗り上げるように約1.4メートルずれたとみている。震源が海底下にあり、海底面が上下に揺すられたために津波も起きた。
3月26日 毎日新聞

■「北西から南東に傾き下がる右横ずれ」などと、専門家が発表したままを書き写したような表現ですが、要するに能登半島の西海岸近くに北東から南西に向かって未知の断層が有って、その断面が押し合って、今回、陸地側の岩盤が海側の岩盤に横にズレながら押し上げられた、という事のようです。三次元の動きなので分かり易い文章にするのは難しいですなあ。しかし、能登半島の東側を抉(えぐ)るよう広がっている七尾湾を挟むような位置関係に有る、南の志賀町の地面が「南西方向」に25センチ動き、北の穴水町が「北西方向」に13センチ動いたという報道も有りますから、断層は複雑に走っているのかも知れません。


北陸地方を中心とした25日の地震で、震源地に近い志賀原発(石川県志賀町)では、原子炉を緊急停止させる基準値を上回る226ガルの加速度を記録した。全2基が停止中で、大きな影響はなかった。柏崎刈羽原発(新潟県柏崎市、刈羽村)は加速度が緊急停止値を下回り、通常運転を継続した。 
3月25日 時事通信

■何かと問題が起き続けている原発ですが、選りに選って制御棒落下事故を隠蔽していたことが発覚した志賀町原発が震源地の近くだったというのは意味深な話です。何もバレていなかったら、刈羽原発と話を合わせて強引に通常運転を続行したかも?などと言うのは考え過ぎでしょうか?


北陸電力は25日、運転停止中の志賀原発1号機(石川県志賀町)の原子炉建屋にある使用済み燃料プールから、放射能を帯びた水約45リットルが屋内に飛び散ったと発表した。地震の揺れによるものとみられる。外部環境への影響はないという。北陸電力によると、同プールは原子炉で使用した後の核燃料を貯蔵するためのもので、水で満たされている。普段は上部にふたがあるが、地震発生時には作業のため外されていた。
3月25日 時事通信

■蓋をしていない屋内プールの水が飛び散ったことまで即座に「公表」するのは、隠蔽問題が骨身に沁みたからなのでしょうなあ。外部に漏れ出ない限りは、放射能汚染の心配は無いでしょう。それにしても、地震に対する原発の設備はしっかりした物が揃っているようですから、やはり問題は「人」なのでしょうなあ。


……石川県などには地震発生直後から「ボランティアに行きたい」との申し出が数十件相次いだが、県は受け入れ態勢が整っていないことを理由にホームページ上などで「あと1~2日程度待ってほしい」と呼びかけている。義援金などの受付窓口は26日中にも開設する予定。また、輪島市にはコンビニエンスチェーンの「ローソン」「ファミリーマート」の2社から、おにぎりなどの物資提供の申し出があり、26日朝におにぎり計5000個、水1000本、カップめん4000個などが避難所へ届けられるという。
3月25日 毎日新聞

■即座にボランティアを申し込む人が増えているのは、阪神淡路の大震災やら日本海でのタンカー沈没油濁事故などの学習効果なのでしょう。ボランティアの受け入れ態勢が間に合わないと言うのは、役所の危機管理に若干の問題が有ることを意味するでしょうなあ。

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石川県の大地震 其の壱

2007-03-26 09:37:24 | 社会問題・事件
■全国的に天気が悪かった日曜の午前9時42分。被害状況を生々しく伝える映像が届き始めますと、犠牲者の少なさに驚くような惨状です。現地で不安な時を過ごしておられる皆様には、お見舞いを申し上げたいと思います。休日の昼前、火を使っている世帯が少なかったようで、地震の発生時に最も恐ろしい火災が起こらなかったのはせめても救いでした。明治時代に消失して神奈川県に移るまで、曹洞宗総本山・總持寺が有ったことをその名に残す門前町が、2006年に合併して大きくなった輪島市でも、人口は3万4000人ほどだそうです。人口の少なさも災害時には被害を小さくする原因になる場合が有るようですが、石川県内で19人が重傷、156人が軽傷、富山・新潟両県でも計16人が重軽傷を負ったそうですから、きっと恐ろしい思いをした人がたくさんいらっしゃる事でしょう。非難生活を強いられたのが2千人強に留まったというのも、人口が少なかったことが大きいと思われます。
 
■大地が激しく動くことは、人の心に大きな衝撃と不安を与えるととも、昔から宗教的な大いなる存在の力を考えさせて来ました。どうして大地が動くのか?それは地球物理学の進歩でプレートテクトニクス理論が考案されてほぼ解決しましたが、「どうして自分が?」という問いには、「単なる偶然」としか科学は答えてくれません。でも、今回大きく横にずれた断層は、専門の研究者も知らない新しいものだったそうですから、石川県が大きな地震に襲われたのは、大地が繰り返して来た悠久の変動の中の一つなのでしょう。石川県の前には福岡県の島嶼部が揺れ、その前は新潟県の山間部が揺れました。石川県が順番の最後というわけでもなく、日本中が「明日は我が身」と考えねばなりません。

■兼六園の美しい「雪吊り」が取り外された温かい春だったのも不幸中の幸いだったのではないでしょうか?しばらくは余震に注意しながらの集団非難生活が続きますが、寒さや豪雪に対処する苦労だけは無いのですから、復旧作業や救援作業も比較的うまく進む事を祈るばかりです。石川県での住宅全壊は52棟で、92棟が半壊との事なので町並みが蘇るのも早いのではないでしょうか?


マグニチュード(M)6.9の地震が25日発生した能登半島沖は近年、死者を出すような大地震が観測されていない地域だった。しかも、未知の断層が震源だったため、発生場所の事前予測が立てにくかった。95年の阪神大震災以降、地震の活動期に入ったとされる日本。周辺にはプレート(岩板)が集まり、今回のような地震はいつ、どこで起きても不思議ではない。

■世界でももっとも複雑にプレートが集まって押し合っている場所に日本列島が浮かんでいるのですから、世界でもっとも地震の研究が盛んでなければ間に合いませんし、地震特有の防災技術とと復旧の方策も工夫されねばなりません。ユーラシア大陸のプレートの東の外れの下に、太平洋プレート毎年数センチずつ潜り込み続け、そこに南からフィリピン海プレートが突き刺すように割り込んでいるのですから、それぞれの切っ先が折れたり曲がったりするたびに大事は震えます。


……阿部勝征・東京大教授(地震学)は「日本海沿岸は太平洋側に比べ、大地震が起こる確率は低い。だが、プレート内部の傷がどこにあるかは事前に予測できず、起きてみなければ分からない」と指摘する。今回の震源付近では、1892年にM6.4、1933年にM6.0の地震が起きたが、いずれも今回の地震を起こした断層とは無関係だった。いずれも、死傷者や家屋の倒壊などの被害を出していた。能登半島では、ごく小さな断層は数多く見つかっている。しかし、震源付近では、今回のように規模の大きな地震を引き起こすような連続した断層は知られていない。島崎邦彦・同大教授(同)は「この種の地震は、内陸部でも起こりうる。潜在的な地震の可能性を示す、自然からの警告ととらえるべきだ」と話す。

■新潟県の山古志村を崩壊させた大地震の時も、山間部に走っていた長い断層が続いていたことを誰も知りませんでしたなあ。陸上の亀裂でさえも余りにも古いものは見つけ難いそうですし、海底となると調査はもっと難しいのでしょう。

ペット・フードの問題か? 其の弐

2007-03-25 15:24:35 | 健康
同社は先週末に北米で、缶詰など6000万個以上を対象にした回収・無償交換を開始した。同社製ペットフードを食べた猫や犬が腎不全を起こし、少なくとも16匹の死亡が確認された。同社はペットフードの有力メーカーで、全米のスーパーで商品が販売されている。さらに、競合各社のペットフードも手広く受託製造している実態が判明し、愛犬家や愛猫家に「どのペットフードを買ったらいいか分からない」とパニックが広がった。同社に対する訴訟も起こされた。
3月24日 時事通信

■「たった16匹」なのか、「16匹も!」なのかは、個人的な感情によって違うでしょうが、犬猫が食べる量と人間ががつがつ食べる小麦の量を考えると、やはり、油断のならない数値と思われます。日本に輸入される小麦は米国・カナダ・オーストリアからのものがほとんどで、今のところはメイド・イン・チャイナは入って来ていない模様ですが、冷凍食品などの形で輸入されている可能性は有りますなあ。いつの間にやら穀物の大輸入国になってしまったチャイナですが、農村部の現金収入を伸ばすには積極的に高品質な商品を作って輸出しなければならぬ!と、日本からの技術援助も有って、野菜だけでなく小麦の輸出にも力を入れているようです。


中国で暖冬が続いている。北京市では5日、2月としては1840年以来最高の摂氏16度を記録。その他、4日から7日にかけて、上海市では最高気温が21度、浙江省杭州市で24度、湖南省長沙市で23度に達した。2006年12月~07年1月の平均気温は過去30年の平均より0.5度高くなっているが、この暖冬が冬小麦の収穫量に悪影響を与えるとの見方が出ている。……冬の気温が高いと小麦が必要以上に伸び、春以降の成長力が逆に低下。その結果、収穫量が落ち込んでしまう。そのため、一帯の農民は小麦の根元に「凍水」と呼ばれる水をかけ、生育を抑え込んでいる。また冬期に高い気温が続くと地面からの水分蒸発量が増え、春播き作物の発芽率が低下する。暖冬のため害虫の越冬率が大幅に増加しており、専門家は春以降に大発生する可能性を指摘している。また、作物の耐寒性が落ちているため、3~4月の「寒の戻し」で大打撃を受ける可能性も出ている
2007年2月7日 中国情報局

■病害虫に加えて旱魃や長雨、そして気温の変化、農業が直面する難題はたくさん有ります。農学者達の研究と化学製品や温室などの技術によって生産量と品質が安定するようになったと言うものの、天候に左右される農業の本質は変わらないようです。自然の力に逆らわずに順応すると同時に、時には人為的な対応策を採らねばならない農業は、安全性と収量と経済性とのバランスを取るのが難しい局面が常に出て来ます。その代表が農薬汚染の問題でしょうなあ。


国家発展・改革委員会(発改委)と中国生物工程学会によると、2010年までに中国での甘味剤、ソルビン酸、乳化剤などの食品添加物の需要が480万トンになる見通しとなった。仕出し業者などが急増するとみられるため。現在、中国で食品添加物を製造している業者は1500社で、年間生産量は325万トン、生産額は35億元に上る。26日付で新華社が伝えた。
2007年2月26日 中国情報局

■チャイナの経済成長と言えば、北京や上海の高層ビル群や証券取引所の賑わいなどを思い浮かびますが、劇的に変わりつつある食生活を支える国内農業と食料生産業が、各種の便利な薬品を利用するようになるのは当然の流れです。但し、使用方法をきちんと守るかどうかは別の問題ですが……。


北京市政府食品安全弁公室の張志寛主任は2月28日に行った会議の席上、北京市が2007年、食品添加物の生産と使用製品に関する検査を厳格化すると述べたことが5日までに明らかになった。すべての食品添加物生産企業に認可の取得を義務付け、使用企業に対しては添加物の種類と使用量などに関する検査を行う。また07年前半までに農作物の配送管理制度を確立し、農薬・畜薬の管理も強化していく。
2007年3月5日 中国情報局

■「それでは今までは野放しだったのか?」と強く問い詰めたくなるような記事ですが、農薬や添加剤をふんだんに使える資金力が最近まで無かったのですから、規制や検査も必要なかったというのが実情でしょうなあ。遊牧文化を持っている地域を除くと、贅沢品だった肉製品が、普通の食材になって行く時代ですから、飼料作物の消費量は凄まじい勢いで増加し輸入農作物のほとんどが家畜の餌だとも言われています。バイオエネルギーの原料としても注目されているトウモロコシの生産も盛んですが、収量の多い新種を栽培すると猛烈に地力を奪うとも言われていますから、肉だ!エネルギーだ!と熱心に栽培し続けると、気が付いたら広大な畑が砂漠になっていた、などという恐ろしい事が起こるのではないか?と心配する声も有るようです。

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ペット・フードの問題か? 其の壱

2007-03-25 15:23:58 | 健康
■世界的な暖冬の中、日本では桜の開花が早いの遅いのと、馬鹿馬鹿しいことで騒いでいるようですが、降雪量の減少が春からの農業にどれほどの影響を及ぼすのか、そして、例年になく越冬してしまう害虫や病原菌への対処など、農林水産庁の動向に注目しなければならないはずなのですが……。国内農業が衰亡しても、せっせと輸出で外貨を稼ぎ、世界中からカネに飽かして食べきれないほどの食糧を輸入して、世界一多い残飯をゴミにして捨てていれば良い、と思っていられる時代がいつまで続くのでしょう?
 
■世界有数の農業大国であるオーストラリアが大旱魃に襲われているのは衆知の事実ですが、世界一の人口を抱えるチャイナが「100年に1度の旱魃」に襲われていることを危惧するような報道が少ないような気がしますなあ。


四川省は、昨年に引き続き今年も厳しい干ばつに襲われており、生活や農業などに重大な影響が出ている。四川省全体ではすでに112万人の飲料水が不足している。……この冬は四川省の大部分の地区で気温が例年よりも高く、全省の131の地区のうち、74地区で降水量が例年以下だった。特に2月は四川盆地の大部分で降水量が5ミリにも満たなかった。干ばつの被害は、南充・遂寧・広安・達州・資陽・徳陽・広元・巴中などの市に集中しているが、これらの市はすべて昨年の干ばつの被害が最も深刻だった地区であり、2年連続の干ばつである。四川省内の主な河川の2月の平均流量は、例年同時期と比べ20%以上も少ない。特に沱江の流量は例年同時期の4~6割にすぎない。……つまり、去年に引き続き今年も100年に一度の干ばつの到来と言える。

■「蜀の犬は青天の太陽に驚いて吠える」と言われるほど、曇天と降雨で有名な四川省は、『三国志』の時代でも自然の要害に守られた穀倉地帯として有名です。チベット地域の高地から流れ落ちる河川に加えて、広大な盆地を囲む山々に降った雨を集めて流れる無数の川に恵まれ、さらに東に位置する地域にとっては水瓶ともなっている四川省がからからに乾いている!


四川省政府救災事務所の最新の統計によれば、四川省全体で112万人、147万頭の家畜の飲用水が不足している。被害が特に深刻な地区には水を輸送しているという。農業の被害も深刻だ。現在、冬作物の収穫前の時期であり、また春作物の苗を育てる大事な時期である。全省の農作物は44万ヘクタールが影響を受け、うち13万ヘクタールは深刻な被害を受けている。
2007年3月24日 レコード・チャイナ

■農作物の端境期に旱魃が襲えば、その影響は決して一過性のものでは終わりません。水を運んでやっと育てた作物ならば、何が何でも収量を減らすまい!と消毒剤や殺虫剤を多めに使いたくなるのが人情でしょうなあ。


カナダのペットフード大手メニュー・フーズ社製ペットフードを食べた犬や猫が相次ぎ死亡した問題で、ニューヨーク州当局は23日、同社商品を調べた結果、ネズミ駆除用の毒物が検出されたと発表した。米メディアによると、この毒物は米国ではネズミ駆除用としては認可されておらず、当局筋は、中国から輸入した小麦粉にネズミ駆除剤が残留していた可能性を示唆したという。

■ペットの犬や猫が急に腎機能が落ちて謎の死を遂げる気味の悪い事件が連続していた北米大陸でしたが、未知の病原体やら動物虐待に快感を覚えるような変質者による犯行ではなく、原料の農作物が原因と分かったというわけです。しかし、中国から輸入される小麦が、人間用と家畜ペット用に分けて生産されているわけでもないでしょうから、この騒動はなかなか収まらないかも知れませんなあ。チャイナは、殺人事件に使われる毒物として殺鼠剤はありふれた土地柄ですし、簡単に猛毒の猫イラズが入手できる所ですから、穀物を食い荒らすネズミを駆除して収穫量を減らさない努力をしている農家も多いと思われます。農産物の輸出には「ポスト・ハーヴェスト」と呼ばれる強力な薬剤で商品価値が下がらないように消毒するのが常識ですから、もしかすると輸送船に住み着いているネズミを駆除するために、船倉に詰め込んだ小麦に猛毒の殺鼠剤を商売熱心のあまり、たっぷりと散布した者が居たのか?

■否、コスト優先でカナダの企業がメイド・イン・チャイナの犬猫餌を現地生産してラベルだけ英(フランス)語表記にして販売していたと考えた方が良いのでしょうか?いくつかの続報を覗いてみると、どうやらメニュー・フーズ社が輸入していた原料の小麦粉から殺鼠成分のAminopterin(アミノプテリン)という毒物が発見されたそうですから、農産物の大輸出国のカナダが、何故かわざわざメイド・イン・チャイナを輸入していたことになりますなあ。そこにこそ、恐ろしい謎が隠されているのかも?