旅限無(りょげむ)

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そもそも、教育とは何だろう? 其の弐

2006-03-04 12:57:36 | 教育


同校幹部は「3年生が軽率なことをしてしまった。生徒の処分も含め3日の職員会議で今後の対応を協議したい」と話している。同校は1964年創立の仏教系私立共学校。甲子園には、春2回、夏5回の出場経験がある。昨夏の甲子園では57年ぶりの連覇を成し遂げたが、直後に前野球部長による3年生部員への暴力問題が発覚。日本学生野球協会は前部長に対し謹慎1年、野球部に対し警告の処分を下している。毎日新聞 - 3月3日

■高校野球大会を主催している毎日新聞と朝日新聞は、特にこういう報道の仕方をしなければならないのでしょうが、問題は「高校球児の飲酒」なのではなく、未成年者の飲酒喫煙なのではないでしょうか?どうせ報道するのなら、特段マスコミに注目された事などない生徒達が起こす不祥事を細かく取り上げた方が、青少年の育成に資することになるのではないでしょうか?頼みもしないのに、甲子園に出場したというだけで、あちこちの新聞がわざとらしく大きく取り上げる「商売」をしておいて、この種の不祥事が起こる度に大事件にしてしまうのは感心しませんなあ。大正時代からの伝統が有るのは分かりますが、既にサッカー人口の方が野球少年の数を上回っていますし、今回のトリノの冬季オリンピックでメダルが一個だった事実も根は同じでしょう。

■国のスポーツ政策にビジョンが無く、地方自治体には土地に合った種目に集中的に予算を投下する権限が与えられていないのですから、夏のオリンピックになれば「運動場が足りない」、冬のオリンピックが終わったら「スケート場が足りない」と騒いでも無駄でしょうなあ。子供達が走り回れる場所を数十年かけて潰しておいて、子供の運動能力が落ちている!と騒ぐのと同じです。野球もサッカーも水泳もスケートも、西欧から入って来た遊戯文化ですから、どれを中心にするかを決められないのが日本です。しかも、学生野球だけを特別扱いするようになったのは、優れて新聞社の思惑によっていたので、別に日本の国を挙げて維持発展させねばならない理由は有りません。

■テレビ局では野球中継が商売にならない事が分かっているので、放送時間をどんどん減らしているのではないでしょうか?都市部の公園に「キャッチボール禁止」の立て札を立てて、野球の将来を心配しているのは笑止ですなあ。猫も杓子もゴルフにカネを掛けて、日本中の里山を荒らしておいて、若い娘さんがプロとして人気を博しているのも、マスコミを挙げてそれを報道するのもイカガなものでしょう?学生スポーツを教育の一環だと言いながら、本音では就職活動の一部となっているのは問題です。欧米大学では、学生スポーツの花形選手でも、進級試験が甘くなる事など考えられないと言います。日本は「スポーツ推薦」だの、「スポーツ特待生」だのと奇怪な制度を認めて推奨しているのは変です。高校も大学も、勉学をする場所ですから、その本文を投げ捨ててサーカス団の動物のように「芸を仕込んで」使い捨てるような商売をしては行けません。

■スポーツ進学をして体を壊した学生の末路は哀れを誘います。「自分の名前が漢字で書ければ良い」という極端な冗談が実しやかに囁かれるような貧しい学習環境に若者を放置している教育行政は、スポーツ界に決して一流の人物を送り出すことは出来ないでしょう。学生野球の不祥事を書き立てるのなら、プロの有名選手達に大規模なアンケート調査をすべきです。「鉄拳指導は是か非か」「最初に喫煙・飲酒した年齢」「進学時に裏金は貰ったか」「学力試験に不正は無かったか」等、調べておくべきテーマは山ほど有ります。それを避けて、高校球児を追い掛け回すのは問題を陰湿化させるだけでしょうなあ。


青山学院大は22日、18日に実施した国際政治経済学部の一般入試A方式の日本史に出題ミスがあったと発表した。選択解答式の問題の中で、休戦状態の朝鮮戦争を「終わった」と記したためで、この設問について受験した957人全員を正解とした。受験生からの指摘で分かったという。合格発表は24日。毎日新聞 - 2月22日

■たしか、青山学院大学は、去年も英語の問題で沖縄の語り部さんに関するユニークな問題を出したのではなかったでしょうか?高等学部の方でしたか?沖縄からクレームが付いて平身低頭している報道が有りましたなあ。出題内容全体を見ると、出題された英文の極一部を切り取ってクレームの材料にされた事が分かりましたし、なかなかユニークな文章だった印象が有ります。今回の「朝鮮戦争」に関する問題も、何か含むところが有ったのでしょうか?もう、北朝鮮の命運は尽きているとか……。本当に歴史担当の教員が無知を晒しただけならば、ここでも教員の資質が厳しく問われねばなりませんなあ。

■進学競争もスポーツ教育の幻想も、そろそろ再検討の時期に来ているようですが、そもそも、教育とは何だろう?と考えていると、こんな記事が見つかりましたぞ。


埼玉県吉川市で金型加工業を営む島崎博さん(64)が3月3日、10代の同級生らと一緒に県立吉川高定時制を卒業する。3人の孫を持つ最年長の卒業生だ。家庭の事情で中学を中退した島崎さんにとって、高校卒業は半世紀にわたる夢。卒業式では、普段通り仕事用のトラックで登校する島崎さんに皆勤賞と県教育長賞が贈られる。島崎さんは、父親の病気のため中学2年で同市内の中学を中退。東京都内や同市内のプレス加工工場で働き、30代で独立した後も高校進学の夢を持ち続けた。知人の中学校長らのアドバイスで01年に国の中学校卒業程度認定試験、02年2月に吉川高校に合格した。

■人として生まれて、学ぶ喜びを知るのは大切な事だと改めて教えられる話です。卒業証書さえ手に入れば良い、という不毛な学歴信仰とは無縁の「学ぶ心」が滅びてはいない事の証左でもある話ですなあ。


仕事の後、トラックで約10分かけて同校に通った。渋滞する時間帯など道路事情を熟知する島崎さんは3通りの通学路を使い分け、4年間を無遅刻・無欠席・無早退で通した。76単位を取り、成績も上位。日本史が好きで教室でよく質問した。総合学習の時間は人生経験豊かな島崎さんの独壇場だった。使われずに自宅に眠っていたみこしをクラスメート15人と協力して修復し、地元の祭りで練り歩いた。ホタルの飼育やベイゴマなどでは先生役。同級生の井野根健太さん(20)と佐々木直人さん(19)の2人は「教えてもらうことが多く、いい思い出になった」と喜ぶ。増田貞男校長は「島崎さんの頑張りは、若い同級生の大きな励みだった」と話す。島崎さんは「長い道のりを経て、ようやく高校卒業の夢がかなった。周囲の皆さんのおかげです。学ぶことの大切さを忘れず、高校生活を心の糧として歩んで生きたい」と力強く話している。毎日新聞 - 2月22日

■美談仕立てのわざとらしさも有りますが、並べられた事実だけを見ると、人それぞれの生き方の中に「学ぶ喜び」がきちんと定位しているのが分かります。「不登校児」「引き籠もり」などと、一斉登校・一斉授業に拘って異常者扱いするよりも、学びたい時に学べば良い、という大きな前提を用意した方が良いでしょうなあ。但し、記事に出ている島崎さんも中学2年生までに培った読み書き能力が社会生活でも、今回の高校卒業にも大きく役立っている事を再確認しておくべきでしょう。規定の年齢で小中学校を卒業しても、漢字が使えないだの、割り算が出来ないの分数は勘弁してくれなどという、それこそ「異常な」生徒を輩出するような学校制度は見直すべきでしょうなあ。

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そもそも、教育とは何だろう? 其の壱

2006-03-04 12:56:57 | 教育
■入学試験に関する不祥事が日本各地で起きているようです。しかし、教科書をどんどん薄くして、どうやって新しい問題を作れば良いのでしょう?特に数学や理科などは、数値を入れ替えれば、別の問題と考えるのか同じ種類の問題だと判定するのか?現場を知らない無責任な糾弾はますます学校の先生方を追い詰めるばかりで、より公正で公平な問題を作り出そうとする意欲を削ぐことになるのではないでしょうか?

静岡県立清水東高校(静岡市清水区秋吉町、清水尚彦校長、生徒数853人)で先月実施した前期入試の理科の問題の一部が、04年度福島県立高入試問題からの盗作だったことが2日分かった。同高が盗作の事実を認めた。過去の入試問題は塾の教材に使用される可能性が高く、事前に学習した受験生に有利だった可能性がある。問題は数学と理科の知識を問う「総合問題(理系)」全9題中の1題で、配点は35点満点中6点。物理の「力の合成分解」の分野のうち、傾斜のある台上の台車にかかる力などを問うもので、04年度に福島県が実施した「県立高校入学者選抜学力検査問題」の数学・理科の問題9題中の第8問と全く同じだった。

■不平等とする理由が、「塾の教材」に使われている場合に、通塾している生徒が有利になるのが怪しからん!というのはイカガなものでしょう?一般の書店に並んでいる問題集や模擬試験本にまったく同じ問題が出ていた場合はどうなのでしょう?塾に通う経済的な余裕が有る生徒と貧しい家庭の生徒との間に、学習内容に格差が発生するのを許さないというのなら、高額で雇った腕の良い家庭教師はどうなのか?或いは学校内に熱心な担任教師が居て、そのクラスだけが多数の過去問題を扱っていた場合はどうするのか?「塾教材」だけと取り立てて騒ぐのは、いつぞやの鳩山弟文部大臣が埼玉県の役人と一緒になって、「業者テスト禁止!」などと命令して現場を大混乱させた大失敗を繰り返すことになるような気がします。

■事前に入試問題その物を裏から購入しているような場合は、一切問題を読む事も考える事も無いままに、正解を書き込んでしまいますから、不公正な試験となるでしょうが、膨大な過去問題をせっせと解いては記憶する努力をしている生徒と、ぼんやり教科書を眺めていただけの生徒の間に格差が生まれるのは当然過ぎる話です。


2月7日に実施した同高の前期選抜試験は300人が受験し、同15日に96人の合格者を発表した。同高は独自に試験問題を作成しているが、担当した40代の男性教諭は内部調査に対し、「忙しさのあまりやってしまった」と話しているという。清水校長は「100%同じ内容と認めざるを得ない。弁解の余地はなく誠に遺憾」と陳謝した。静岡市内の教育関係者は「機会均等の観点から見て、明らかに問題がある。練習問題なら、やった人、やっていない人の間に差が出るのは当然だが、問題がそのまま盗用されれば、受験の公平性は損なわれる」と指摘している。毎日新聞 - 3月3日

■裏から手を回して「福島県の過去問が出る」という情報を得ていない限り、全国の数年分の高校入試を研究して記憶し、出題された内容が何年前の○○県で出題された問題と同じだ!と言い当てる生徒が居たとしますと、この生徒は見上げた受験者根性を持っていると褒められこそすれ、糾弾される謂(いわ)れは無いでしょうし、地元の塾講師が当該県の入試傾向を分析して、他県の過去問から予想問題を割り出したとしたら、この塾講師の資質の高さは称賛されるべきでしょう。「塾教材」だけと取り立てて不平等の源に仕立て上げるのは根拠の無い思い込みから発している愚かな主張のように思えます。一見、生徒の負担を軽くするような「ゆとり教育」が将来の学習能力を奪い去る残酷な所業だとは思わない愚かさに通じる勘違い教育論と言えるでしょう。


私立仙台育英学園高校(仙台市宮城野区)が1日実施した2006年度入試の英語問題の一部に、過去の国立高等専門学校の入試問題(全国55校共通)から流用があったことが21日、分かった。仙台育英の記者会見によると、酷似の問題が出題されたのは特別進学コースと外国語コースの「コース別独自問題」。3問のうち2問が、03年度の国立高専の入試で出題された問題文とほぼ同じで、設問の選択肢もほとんど同じだった。保護者からの指摘で判明。仙台育英は「問題を作成した男性教諭が安易に流用したようだ。教諭は大変なことをした。申し訳ないと話している」と説明した。両コースで計約2600人が受験し、2問を除いて採点し直したが、合否結果は同じだったという。共同通信 - 2月21日

■「3問中2問」と「選択肢もほとんど同じ」という点は問題ですが、それは教師が無能だと言うことが問題なのであって、試験が不公正なものだったとは言えないでしょう。有能な教員を養成できない大学の教育学部などのカリキュラムや指導方法と各都道府県で行なわれている採用方法や待遇などを検証するべきでしょうなあ。更に、馬鹿馬鹿しい書類書きばかりを教員に強要するアホな教育行政こそ、即刻やめるべきなのです。勿論、制度を改正して時間を作って貰っても、パチンコ屋に入り浸ったり遊び呆けているような教員を採用しては行けません。繰り返しますが、過去問まで手を伸ばして学習してその成果を得ている生徒と、教科書の内容さえも頭に入れる努力をしない生徒とが同じ点数が取れる問題を前提にしているのなら、こういう記事を書くマスコミ各社は採用試験を即刻止めて、くじ引きにでもするべきでしょうなあ。試験につき物の、「ヤマをかける」行為もどう扱うか、ヤマが的中した生徒は自己申告して解答を辞退すべきなのでしょうか?


第78回選抜高校野球大会(毎日新聞社、日本高校野球連盟主催)に出場が決まっている北海道苫小牧市の駒大苫小牧高(篠原勝昌校長)の3年生の野球部員10人が1日の卒業式の後、同市内の飲食店で飲酒、喫煙し、道警苫小牧署員に補導されていたことが2日、分かった。学校側もこの事実を認めている。高野連は週明けに事実関係の報告を受け、近く開く審議委員会で同校への対応を決める。同校や同署によると、10人が飲酒、喫煙していたのは1日深夜。店にいたのは、全国優勝した昨夏のベンチ入りメンバー5人、それ以外の3年部員5人で、他の部活動の部員もいた。選抜大会に登録している現在の1、2年部員はいなかった。2日、知らせを受けた学校幹部が10人に確認したところ、事実を認めたという。

■「飲食店」などというアヤフヤな表現は好い加減に止めた方が良いでしょう。それが居酒屋なのか、ファミリー・レストランなのかによって事件の印象が随分違いますし、まさか綺麗なオネエちゃんを侍らせて高級酒を酌させていたのではないでしょうな?!実質的にはまだ高校生同然の若造が、生意気に隣に付いたオネエちゃんに煙草の火を点けて貰っている図には激しい違和感が有りますなあ。おそらくは俗に言う「追い出しコンパ」を企画した周旋家がいて、店と交渉して安上がりの飲み会を開催したのでしょう。となれば、その交渉に乗っていた店の経営者が責められるべきでしょうなあ。万一、生徒達が常連だったりしたら、その店は営業停止でしょう。所詮は地域社会のモラルが低ければ、教育委員会や警察がポスターをべたべた貼っても効果は有りませんからなあ。(其の弐に続きます)