来日している台湾の李登輝前総統(84)は7日午前10時ごろ、東京・九段の靖国神社に参拝した。関係者の話によると、本殿に上がり黙祷(もくとう)したという。李氏の兄は第2次大戦中、日本が植民地統治していた台湾から日本軍兵士として出征、戦死して、靖国神社にまつられている。李氏は「62年前に別れた兄に頭を下げる個人的行為だ」と説明した。
■「東京・九段」と戦争時代を思い出す枕詞を忘れないのは毎日新聞と同じです。「植民地統治」という重要な歴史用語を忘れないのは朝日新聞の特徴でしょう。李登輝さん御自身は、後藤新平を筆頭に大日本帝国による台湾杜内を絶賛し、感謝の意も表していることを、朝日新聞は書きませんなあ。
靖国神社には、李氏の実兄、故李登欽氏が「岩里武則」の日本名でまつられている。登欽氏は海軍兵士としてフィリピンで戦死したとされる。参拝時間は約40分。参拝形式について、神社側は「個人の参拝なので説明は控えたい」という。李氏はキリスト教徒。神社訪問直前、記者団に「政治的、歴史的(行為)と考えないでほしい」「父が兄の戦死を信じていなかったため、実家には位牌(いはい)もなく、(追悼も)何もしてこなかった」と語った。
■さすがは天下の大新聞朝日です。李登輝さんがキリスト教徒だとバラして?しまいましたなあ。旧社会党の委員長を務めたパチンコ文化人の土井たか子さんもキリスト教徒ですね。それはともかく、「~の日本名でまつられている」という一説は泣かせますなあ。漢字撲滅運動の先頭を走っている矜持(きょうじ)が輝いていますし、「台湾人は怒っているぞ!」というメッセージが香り立つ絶妙の名人芸!惚れ惚れしまうぞ。朝日新聞はくでなくて行けません。参拝時間もしっかり計っていますが、拍手を打ったかどうかは、残念ながら靖国神社が口を割らないので分からなかったようです。でも、「李氏はキリスト教徒」の一言で、神道式の参拝ではなかった可能性を極限まで追求しているかのようです。でも、肉親の死を悼む心情はちゃんと書いていますね。
李氏は副総統時代の85年に東京を訪問。今回の来日に際して「22年前は(兄がまつられていることを)知らなかった。今回行かないのは人情として忍びない」と述べていた。中国の反応については「問題ない」との認識を示していた。 「台湾は中国の一部」とする中国は、「日本植民地経験を持つ台湾は中国とは違う」という李氏の主張を「独立派の証し」と警戒。総統退任後の来日自体も「台湾独立をにらんだ動き」と一貫して批判してきた。
■限られた字数に、複雑な歴史を畳み込んでいるので並の読者には理解不能ではないでしょうか?朝日新聞が最も気に掛けている「中国の反応」について「問題ない」の言質を取っておけば、後で北京が激怒した時に、「ほら見たことか」と言えそうですなあ。「独立」が2回も出て来る段落は、なかなか濃い!
李氏は5月30日に「私人としての学術文化交流」を目的として来日。6日まで「日本文化を深く知るため」、東北地方の「奥の細道」ゆかりの地を回っていた。総統退任後は01年4月と04年12月に来日している。
2007年 朝日com
■日本政府が許可した入国の目的は「私人」と「学術文化交流」だと念を押すのは、北京政府向けのメッセージかも知れませんが、日本の読者に向かってのちょっとした工夫でしょう。「総統退任」と書けば、李登輝さんが過去の人という印象が強まりますし、6年も前に1回だけ訪問しただけだから、大した交流は無いというイメージに落ち着きそうです。最後は東京新聞です。
来日中の李登輝・台湾前総統(84)は七日午前、日本軍人として第二次世界大戦で戦没した実兄が祭られている靖国神社(東京都千代田区)を参拝した。A級戦犯も祭られる靖国神社について中国は、大陸侵略を正当化するものとして批判してきており、中国が「台湾独立派の代表」とみなす李氏の参拝は、日中間の新たな火種になる可能性をはらんでいる。
■「祀」を避けて意味の上でも間違っている「祭」を使って見せているのは強烈なメッセージを感じますなあ。東京新聞は漢字撲滅運動には同調しかけれど、「常用漢字」の範囲内で紙面を作っているという主張が聞こえて来ます。靖国神社が戊辰戦争後に創建された事を知っているのに、「A級戦犯」「大陸侵略」の歴史用語を後に続けて「独立派の代表」と書かねば落ち着かないようです。「新たな火種」という見慣れた表現も、東京新聞だけが使っているようです。
李氏は午前十時すぎに靖国神社に到着、本殿に昇殿し参拝した。境内には報道陣や日台の関係者ら計百人以上が集まったが、李氏は参拝後の質問などには答えなかった。参拝に先立って都内のホテルで記者会見した李氏は「兄に会いに来ることは私にとって当然であり個人的なこと。政治的なものではない」と涙ながらに心情を語った。李氏の実兄、李登欽氏は日本海軍の軍人として大戦中の一九四五年、フィリピン戦線で没し「岩里武則」の日本名で靖国神社に祭られている。李氏は靖国参拝を希望、一方、靖国側も昨年訪台した南部利昭宮司が、李氏に面会し参拝を直接要請したという経緯がある。
■もしかすると、昨年訪台した南部宮司が李登輝さんの兄上の件を伝えたのかも知れません。東京新聞は「参拝」について臨場感溢れる書き方をしてくれています。そして、「~の日本名で靖国神社に祭られている」と、朝日新聞と同じ書き方ですが、どこまでも常用漢字での表記に拘る姿勢が光ります!靖国神社で毎日「お祭り」をしいてるわけではないので、うっかり東京見物に来た人ががっかりしては行けませんから、御注意申し上げます。靖国神社は英霊を「祀」る宗教施設です。
先月三十日、李氏は日本に向かう機中で「最後の日本訪問になるかもしれない。六十年以上も兄貴に会いに行かないのは人情として弟として忍びない」と話していた。関係者によると当初、李氏を招いた国際教養大学の中嶋嶺雄学長が参拝に難色を示したが、最終的には了承したという。
2007年6月7日 東京新聞
■中嶋嶺雄さんまでが反対した!というのはスクープかも知れませんが、中嶋氏のスタンスから言って「難色」という表現は不穏当だ!とクレームが来るかも知れませんなあ。東京新聞の書き方では、中嶋氏が「北京が怒ると困るから…」と言ったかのような印象を受けますぞ。日本の大学、文科省から補助金を貰っている立場上、政府の外務省が困るような「参拝」を後押しするわけにも行かないし、かと言って断固として反対する理由も無いからこそ、「難色」を示したはずです。それも「関係者」からの伝聞記事ですから、これから何事かが起こるかも知れませんなあ。
■こうして並べてみると、李登輝さんの動きに託(かこつ)けて、奥歯に物が挟まったような表現で本音を隠しているのが分かります。国論が二分されている上に、憲法改正問題でその境界線上の大多数が動揺している時期でもありますから、読者に逃げられる事が何よりも心配な新聞社としては、「李登輝のバカ野郎!」とも書けませんし、「李登輝殿ありがとう」とういのもワザとらしい上に情けないでしょうから、客観報道の安全圏に逃げ込んで報道している姿勢がよく分かったような次第です。旅限無として一言、「李登輝さん、良かったですね。立派なお姿でしたよ」オシマイ
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