旅限無(りょげむ)

歴史・外交・政治・書評・日記・映画

実(げ)に恐ろしきは縦割り 其の壱

2006-03-30 12:25:56 | 政治
■『韓非子』二柄篇に、お役人の役割分担を厳密に守る話が出ていて、とても有名です。役人は権力を分割して法律に則(のっと)って政治を行なう身分なので、勝手に他の権力を自分のものにしたり、法律を気儘に変更しては行けません。それはとても厳しいものなのは、今も昔も変わりません。

……昔者韓の昭侯酔うて寝(い)ね、典冠の者、君の寒きを見る。故に衣を君の上に加う。寝より覚めて説(よろこ)び、左右に問いて曰く、「誰ぞ衣を加えしは」と。左右対(こた)えて曰く「典冠なり」。君よって典衣と典冠とを兼ねて罪す。その典衣を罪せしは、もってその事を失うとなせばなり、その典冠を罪せしは、もってその職を超ゆとなせばなり。寒きを悪(にく)まざるにあらずして、おもえらく、官を侵すの害は寒きよりも甚だしと。……

要するに、王様が酔って転寝(うたたね)をしているのを見た冠係が、風邪を引いては行けないと気を利かせて上着を掛けた。それを知った王様は怒って、冠係は他の役人の仕事をしたという理由で罰し、服係は職務怠慢で罰した。という話です。

■王様は、風邪を引くのも困るけど、役人が自分の役割分担を無視して勝手に気を利かせて権力を振るう事の方が遥かに恐ろしい!と言ったそうですなあ。役割を厳格に分けて余計な仕事はさせず、やると約束した事は絶対に実行させる。こうしておけば役人は徒党を組んで国を亡ぼす事は無いのだそうです。


「業者を1社抱えれば、学校法人は何でもできる」浅井幹夫容疑者(57)の共犯として起訴された建設業者、酒出信二容疑者(36)は逮捕前、読売新聞の取材に語った。私学へのチェックの甘さは、それだけ見透かされていた。……計画段階で3社に見積もりを出させていたが、うち1社が浅井容疑者の親族が絡んだ業者……受注した別の業者が、工事を請け負える建設業法の許可を持っていなかった……耐震工事がきちんと行なわれたかどうか、完成状況を確認する現地調査を行なわず、書面審査で補助金交付を決めていた。

■韓非子が泣いて喜ぶようなお役人仕事ですなあ。国土交通省の役人だって耐震偽装を見破れないのですから、文科省の権限を厳密に守っている優秀な役人に見抜けるはずなど有りません!土木会社の裏側なども、文科省の役人にとっては領域外の別世界、一切知らなくても良いのです。こんな相手から3億円ぐらいの「ハシタガネ」を騙し取るのは簡単でしょうなあ。


補助金を担当する同省私学助成課は、課長以下十数人の小所帯だ。国からの「直接補助金」を扱う係官は3人に過ぎない。2004年度には、3人で約1400件を処理した。永山賀久課長は「全国の学校法人を現地調査して回るのは、物理的に不可能。制度自体が学校法人への信頼を前提にしている」と語る。

■オウム真理教に対して宗教法人の認可を下した東京都庁の事情と同じですなあ。あの時も、確か担当者は3人しか居ない上に、教育行政の係官なので、殺人宗教の教義などにはまったくチェック機能が働かなかったのでした。人数は少ないわ、審理能力は無いわ、それでも仕事をしていると胸を張れるぐらいの根性が無いと役人は勤まらないのですなあ。『韓非子』に出ていた、王様の冠だけを担当する役人みたいなものです。考えて見れば、実に情けない仕事なのですが、本人は大真面目に宮廷での大事なお役目だ!と思い込んでいたに違い有りませんから、自分に与えられる給料が税金の無駄遣いなどとは夢にも思わなかったでしょうなあ。

最新の画像もっと見る