旅限無(りょげむ)

歴史・外交・政治・書評・日記・映画

遠いアフリカ その壱

2008-02-02 11:27:55 | 映画
■昨年度の映画収益は、残念ながら邦画が洋画に負けたのだそうです。テレビ局とタイアップしての集中豪雨のような宣伝戦略と、週刊誌などのマスコミを利用した強引な話題作りなどが神通力を失っているのかも?大体、テレビで煽り立てた「話題作!」を観た後で大いに満足する事は非常に少ないような気がします。監督や脚本家が力量不足なのか?映画会社の経営方針が悪いのか?いやいや、やっぱり魅力的な映画俳優が居なくなってしまった事が最大の原因のような気がしますなあ。

■本業が歌手やテレビ・タレントだと分かっている人が「主演」して作品が成立するはずもありませんから、変に期待する方が悪いのでしょうなあ。今の日本で「好きな映画俳優は?」と問われて50代以下の俳優名が口をついて出て来るような人はほとんど無いのではないでしょうか?晩年の黒沢明が時代劇映画を撮れない理由を問われて、「侍の顔が見当たらない」と言っていましたが、リメイク版の『椿三十郎』は未見ですが、『武士の一分』の無惨なチャンバラ場面に絶句させられたショックから立ち直れない状態で、万が一の代物を見せられたら再起不能になるかも?

■その点、今でも「映画俳優」が大活躍しているのが米国で、州知事になったり選挙戦に深く関与したり、政治的な活動も盛んですなあ。


1月下旬、スーダン西部ダルフール地方のエルファシェルを訪問した、国連平和大使で米俳優のジョージ・クルーニーさん……国連の平和維持活動(PKO)への関心を高めてもらうため、平和大使に任命された米人気俳優、ジョージ・クルーニーさん(46)が1月31日、国連本部で就任式に出席した。

■ユニセフ大使に黒柳徹子さんが任命されていますが、アフリカの貧困と悲劇を紹介するのに熱心な割には、その原因についてはほとんど語らないような印象が強いのは何故でしょう?黒柳徹子さんと仲良しだった渥美清さんは人知れずアフリカを何度も訪れていてその関連の映画を残していましたが、監督が変わった人でしたから……。日本のテレビは無闇矢鱈にアフリカが取り上げるのですが、何故か「動物」とピラミッドばかりのようです。その影響なのか、国際会議でアフリカ問題に関して日本代表が無知と無関心ぶりを露呈するような事あるようです。まあ、無理やりキリスト教と欧州語を押し付けて奴隷貿易で大儲けした欧米諸国がアフリカを忘れないのは当然なのでしょうが……。


会見でクルーニーさんはスーダン西部ダルフール地方やチャドなどに展開されているのPKO部隊の視察から戻ったばかりであることを明かし、「平和維持活動の展開にはその当事国と加盟国の支援、それを支える財源が必要だ」と述べ、現在部分展開にとどまっているアフリカ連合(AU)・国連合同部隊が全面展開できるようスーダン政府に協力を呼びかけた

■ジョージ・クルーニーは娯楽大作が人気ですが、強烈な政治的メッセージをぶつける秀作も残している「映画俳優」です。ワープロ変換するとややこしくなる『シリアナ』という題名の映画がありまして、鑑賞した後数日間は悪夢にうなされるほどの衝撃を受けますなあ。あの映画から「国連平和大使」就任までは一直線で結べそうです。


……スーダンの病院でレイプ被害にあった女性から「国連(部隊)を送ってほしい。米国でも中国でもロシアでもない。国連だけが希望だ」と告げられたことを明かし、この職務について「有名人はカメラマンを連れてくることができ、問題に目を向けさせることができる」と意義を語った。クルーニーさんはこれまでダルフール紛争の実態を紹介するドキュメンタリーを製作。4年以上にわたってダルフールの人道危機解決を訴え続けてきたことで知られている。
2008年2月1日 産経ニュース

シリアナ 特別版

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『ロード・オブ・ウォー』を観た後で 其の四

2006-09-04 12:27:37 | 映画


イラク駐留米軍が2006年中では最多の14万人に達したことが分かった。ロイター通信が米国防総省当局者の話として伝えた。宗派抗争が続く首都バグダッドの治安回復のため、7月末に一部兵力の駐留延長を決めたのが主な要因。今後数か月間は現在の兵力を維持する必要があるといい、年内の大幅な兵力削減はほぼ絶望的な見通しとなった。イラク駐留米軍は05年12月の国民議会選挙の際には16万人だったが、今年に入ってから徐々に減少し、6月には14戦闘旅団、12万5000人程度まで縮小した。しかし、バグダッドでは現在も、テロや殺人を含む暴力行為が1日平均56件発生しており、交代予定だった兵力4000人の駐留延長や、他地域に展開する部隊の首都への再配置で兵力を増強した結果、全体の兵力は18旅団、14万人に増えた。
読売新聞 9月2日

■奨学金やボーナス目当てに志願した貧困層の若者がどんどんイラクに送り込まれて悲惨な帰国をしている現実が、マスコミ操作の限界を越えて漏れ出しています。「貧乏人は兵隊になってイラクに行け!」というのは究極の格差社会でしょう。日本でも憲法の見直し、自衛隊の軍隊への昇格、集団的自衛権の復活と一見尤もらしい議論が始まっているようにも見えますが、政治家や金持ちの子供は除外されて、貧乏人だけが戦闘に放り込まれるような国にだけはなって欲しくないですなあ。先の負け戦でも、苦し紛れの徴兵制度を暴走させる中で、不思議に徴兵を免れた人達が居たわけですからなあ。ご用心、ご用心。


アフリカの新興産油国のチャドは30日、同国の石油生産を担う外資によるコンソーシアムの権益の一部を国有化するとした問題について、同国に権益を譲るパートナーとは、新たな取引に関する交渉を行う準備が整っているとの考えを明らかにした。……デビ大統領は数日前、同コンソーシアムに参加している米シェブロン<CVX.N>とマレーシア国営石油会社のペトロナス<PETR.UL>に対し、税金の支払いを拒否しているとして、営業停止と退去を命じている。また、同大統領29日には、外資による石油事業運営グループに参加し、石油生産の権益60%を確保したいと主張した。60%は、同国で石油生産を手掛けるシェブロンとペトロナス両社の権益に相当する。チャド政府は現在、石油生産について直接権益を持たず、ロイヤルティーや税金を徴収している。
ロイター  8月31日

■原油価格の暴騰で笑いが止まらない石油会社ですが、何よりも恐ろしいのはイランで起こったホメイニ革命の再現のような、利権剥奪でしょう。内戦で国内がめちゃくちゃになってしまったチャドが、本当に石油資金で復興するのなら救いも有りますが、既に死の商人が新製品のパンフレットを山のように持ち込んでいるのではないでしょうか?チャドに持ち込む前に、隣国に格安で高性能の新製品をサービスしてチャド側の危機感を煽り、頃合を見計らって大量注文を受けるつもりかも知れませんが……。


アフリカ中南部にあるザンビアでは今月下旬に総選挙が行われるが、野党の大統領候補が「私が当選したら中国資本を追い出す」と公約し、波紋が広がっている。9月1日付で新華社(英語版)などが伝えた。問題となっている発言を行ったのは、野党の愛国戦線(Patriotic Front)党首で、同党から大統領選に出馬したサタ候補。ザンビアでは今月28日に大統領選、国民議会選、地方議会選が実施される。サタ候補は8月26日に行った演説の中で中国を非難する発言を連発した。まず「我々は金を払って中国企業に鉄道や道路を建設してもらっているが、中国に借りを作るべきではない」「私が当選したら中国資本を追い出す」と主張。また「主権国家である台湾を悪く言う人がザンビアにいることは悲しいことだ」と台湾独立を容認する発言を行った。更に「これまでザンビアの人々が絶賛してきた『あの国』よりも、日本の方がわが国に貢献している」と中国を暗にけん制。「欧米諸国やインドはザンビアで多くの業績を達成してきた」と続けた。

■ザンビアも内戦で苦労している国です。このサタ候補に対して、台湾政府や日本の外務省が何を仕掛けたのか、是非知りたい所ですなあ。しかし、米国がさんざん世界中で行って来た悪さを見習って北京政府も同様の手口でアフリカに食い込もうとしているとしたら、ザンビアで内戦が再燃しそうですぞ。危ないですなあ。


こうしたサタ候補の発言を受けて、ムワナワサ大統領は8月31日、「中国人資本家は鉄道や道路の建設を通してわが国の発展に貢献している。『彼らを追い出す』と脅すのはひどい話だ」と強く批判。そして「正式に謝罪したい。我々は中国人の友情を大事に思っているし、今後も中国からの支援を大切にしていきたい」「中国人資本家は継続中のプロジェクトを中断しないでほしい」と述べた。なおザンビアは朱鎔基・元首相や李鵬・元全人代常務委員長が訪問したことがあるほか、中国有色金属建設股フェン有限公司(NFC)が銅鉱山の合弁事業を行うなど中国との関係が深い。
サーチナ・中国情報局  9月1日

■民生用の社会インフラ建設を支援するのは表向きの話で、もっと儲かる本来の商売は武器販売なのは世界の常識。素人にも分かり易いように、内戦や紛争の報道には、両陣営が使用している武器の製造元を知らせる工夫が必要でしょう。国連安保理事会の常任理事国か、EU加盟の某国の名前がぞろぞろと並ぶのは分かり切った事ですが、「正しい歴史認識」のためにもこうした情報は不可欠だと思います。先の大戦でも、日本軍が大陸で戦った国民党軍や共産党軍には武器の生産能力は皆無で、ドイツ・ソ連・米国から持ち込まれた武器で戦っていたのですからなあ。日本軍が敗退した後に残された武器を取り合って、国共内戦が起こったり……。武器商売の実情を少しでも知ってから、国連やら外交やらを語っても遅くは無いというわけです。

ロード・オブ・ウォー

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『ロード・オブ・ウォー』を観た後で 其の参

2006-09-04 12:27:08 | 映画


インタファクス通信は3日、中央アジア5カ国が域内での核兵器の生産、取得、保有などを禁止することをうたった中央アジア非核地帯化条約の締結を決め、8日に各国外相が署名すると報じた。調印式は旧ソ連の核実験場だったカザフスタンのセミパラチンスクで行われる。モスクワの外交軍事筋の話として伝えた。これにより中央アジアは、南極、カリブ海・中南米、南太平洋・オーストラリア、東南アジア、アフリカに続き世界で6番目の非核地帯となる。 
時事通信  9月3日

■ソ連時代には、核実験のメッカとなっていたセミパラチンスクで「非核地帯」の調印式とは、隔世の感が有ります。残留放射能は大丈夫でしょうか?目出度い事ではありますが、国境を跨げば中華人民共和国の新疆ウイグル地区で、そこもまた核実験のメッカなのですなあ。万一、朝鮮半島で核実験が行われると、ロシア・チャイナ・北朝鮮・米国の核が角を突き合わせる世界でも最も物騒な地域が出現します。日本の「非核三原則」が消し飛ぶか、大いなる光を放つか、正念場なのですが……。包括的な交渉という、要するに何もしない外交戦略しか持っていない日本は、黙って見ているしかないのでしょうなあ。悔しい!


アフガニスタン南部カンダハル州で2日、英軍機が墜落、乗っていた英軍兵士14人が死亡した。英軍兵士が所属する北大西洋条約機構(NATO)主体の国際治安支援部隊(ISAF)は、機体の故障による事故としている。墜落した英軍機は、ISAFとアフガン国軍が同日朝から同州パンジュワイ地区で開始した旧支配勢力タリバン掃討作戦に参加していたという。 読売新聞 9月3日

■本当に「故障」なのでしょうか?米国製のスティンガーかロシア製のRPGなどの肩撃ち式地対空ミサイルに撃墜されたのではないでしょうな?こういうニュースを読む度に、『ロード・オブ・ウォー』を思い出し続けそうです。


国連の薬物犯罪事務所は3日までに、アフガニスタンのアヘン栽培面積が昨年に比べ約6割も急増したとの報告を発表した。イスラム原理主義勢力タリバンが栽培を奨励、資金源にしているとみられ、生産量の急増はタリバンの活動をより活発化させる恐れがある。 
時事通信 - 9月3日

■アルカーイダにも軍資金が残されている上に、復活したタリバンもせっせと資金稼ぎをしているのならば、アフガニスタンは死の商人がお祭り騒ぎをしているに違い有りませんぞ。麻薬と戦争は多くの意味で切っても切れない間柄になってしまっていますなあ。隣の北朝鮮も麻薬商売で稼いだ金で、日本から機械と人材を買い込んで、とうとう核実験をやろうかなあ、という段階?思えば60年代の米国には、麻薬とロックを愛する平和愛好家が大量に居たのでしたなあ。今では麻薬愛好家は何処かの国の戦争に協力している事になります。『ロード・オブ・ウォー』でも、ヘロインが大事な小道具として登場しています。


ロイター通信によると、アナン国連事務総長は2日、イランを訪問し、同国のモッタキ外相と会談した。国連報道官は、モッタキ外相が会談で、レバノンの停戦維持に関して「完全に協力する」と表明したことを明らかにした。米国とイスラエルは、イランがレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラ(神の党)に武器供与などの支援を行っていると非難している。アナン氏は同日、イランの核交渉責任者、ラリジャニ最高安全保障委員会事務局長らとも協議、3日にはアフマディネジャド大統領と会談し、イランに対してウラン濃縮停止を要請する。(カイロ 村上大介)
産経新聞 9月3日

■イランやシリアを歴訪して、「ヒズボラに武器をプレゼントしないでね」「うん、分かったよ」などという馬鹿馬鹿しい会談を重ねているアナンさんも、本当は武器を動かしている死の商人達の仕事ぶりは百も承知なのでしょうなあ。『ロード・オブ・ウォー』でも、インタポールの捜査官にとうとう摘発逮捕された主人公が、あっさりと釈放される仰天の展開を見せます。武器の闇商人は便利な「必要悪」なのだそうです。


レバノン紛争でイスラエル軍がイスラム教シーア派民兵組織ヒズボラ攻撃のためにレバノン南部で使用したクラスター(集束)爆弾などの不発弾が復興への障害になっている。国連人道問題調整事務所(OCHA)によると、レバノン南部には推定で約12万発の不発弾が残されており、その8割以上がクラスター爆弾の子爆弾と見られている。8月14日の停戦発効後、同月29日までに不発弾の爆発で13人が死亡、46人が負傷した。国連レバノン暫定軍(UNIFIL)やレバノン軍などが処理作業を始めているが、処理には何年もかかることが予想されるという。国連のシェアラー・レバノン担当人道問題調整官は1日、ジュネーブで記者会見し、「クラスター爆弾の子爆弾は非常に小さく、極めて不安定だ。子供や農民などに対する大きな脅威となっている」と訴えた。

■クラスター爆弾はメイド・イン・USAですから、製造者責任を追及できれば米国が糾弾されるはずなのですが、武器にはPL法は適用されませんから、アフガニスタンやらインドシナ半島に今も埋められている大量の地雷を作って供給したロシアもチャイナも知らん振りです。それなのに、旧満州帝国に埋まっているらしい爆弾の処理は、製造元やら処理責任やらは不明のまま日本がやらねばならないのだそうですなあ。まあ、アフガニスタンでもカンボジアでも、最終的には地雷除去作業に必要な資金も日本が出す事になっておりわけです。実に良い国です。間抜けとも陰口を叩かれていますが…。


国連地雷除去センター(UNMAC)によると、クラスター爆弾の約9割が停戦の直前に使用されたという。AP通信によると、イゲランド国連事務次長(人道問題担当)は駆け込み的な使用を「不道徳」と非難。これに対して、イスラエル政府報道官は「使用する兵器に関して国際法違反は犯していない」と反論している。
毎日新聞 9月3日

■ヒズボラ壊滅を断念した腹癒せに、イスラエル軍がばら撒いたのでしょうが、少しでもヒズボラが復活する時期を遅らせる苦肉の策にしても、これは実質的な敗北を喧伝するようなものですから、イスラエルの勇み足、失策でしょう。憎まれても自国の生存が最優先されるという国是は分かりますが、もう一度だけ国連を信頼する、ぐらいの勇断が欲しかったですなあ。それに値する国連であって欲しいのは勿論の事ですが……。

『ロード・オブ・ウォー』を観た後で 其の弐

2006-09-04 12:26:32 | 映画


来年12月の大統領選を控え、韓国では早くも有力候補者が活動を本格化させている。失点を重ねる盧武鉉大統領に対する国民の不満が高まる中、野党系候補が勢いを強めているほか、与党の開かれたウリ党でも、大統領と距離を置く動きが出てきている。 
時事通信  9月3日

■まさか、漢江から現れて人間を食い殺して歩く怪物は盧武鉉政権の影から生まれたのではないでしょうな?!与党政権を妥当するキャンペーン映画に怪獣を使うのは感心しませんぞ。でも、そんな見方も出来るのかも……。


韓国の聯合ニュースは3日、政府消息筋の話として、北朝鮮が7月5日にミサイルを発射した同国南部の江原道安辺郡旗対嶺付近で最近、大型車両数台が動いているのを米韓情報当局が捕捉し、7月5日に続いてミサイルを再発射する可能性があると報じた。大型車両にミサイル発射台が装着されているかどうかは確認されていないものの、その可能性があるという。…「情報当局はノドンやスカッド・ミサイルの発射準備の一環である可能性を排除していない」と述べた。北朝鮮は先のミサイル発射の際、同国北東部・咸鏡北道花台郡大浦洞(現名称・舞水端里)の基地から発射した長距離弾道ミサイル「テポドン2号」の1発を除き、ノドンなど計6発を旗対嶺から発射している。読売新聞  9月3日

■ミサイルで攪乱しておいて、その隙に「地下核実験」という手もあります。韓国に湧き上がっている危機感が、川底から現れる怪物ではなく、空から降り注ぐミサイルや砲弾にならない事を希望しますが、北朝鮮は頼みの「裏稼業」が次々と摘発されて八方破れになりそうですから、心配ですなあ。


……聯合ニュースは匿名の政府関係筋の話として、韓国および米国の情報当局が、北朝鮮の旗対嶺にあるミサイル基地で、複数の不審な大型車両の動きを探知したと伝えた。一方、防衛関係に詳しい匿名の韓国政府高官はロイターに電話で「我々が知る限り、その地域で新たな車両の動きはない」と指摘。今回の動きは、すでに7月から同基地にあった車両によるものだとの見方を示し「北朝鮮の新たなミサイル実験の可能性だとするのは飛躍し過ぎではないか」と語った。また聯合ニュースは韓国と中国の外交筋の話として、中国が今週、北朝鮮との関係改善のため、金正日総書記を招待する可能性があるとも報じている。
ロイター  9月3日

■米国相手の恫喝パフォーマンスが、とうとう北京政府に対する嫌がらせになったとも考えられるようです。実際に訪中したのは総書記自身でではなく、総書記の義弟で朝鮮労働党組織指導部第1副部長の張成沢さんだとか、朝鮮人民軍の朴在慶大将だとか、情報は錯綜しているようですが、何らかの「呼び出し」が有ったのは確かなようです。6カ国協議も何処に行ってしまったのか分からなくなっていますから、議長国の面子を潰された北京政府は心中穏やかではないに決まっていますからなあ。


米国防総省ミサイル防衛局は1日、陸上発射型のミサイル防衛実験を太平洋上で実施し、模擬弾道ミサイルの迎撃に成功したと発表した。北朝鮮の長距離弾道ミサイル・テポドン2号などを想定したもので、ミサイル防衛の整備に向け、「大きな前進となった」(オベリング局長)と成果を強調している。アラスカ州コディアクから標的となる模擬弾頭が打ち上げられ、バンデンバーグ空軍基地(カリフォルニア州)から発射された迎撃ミサイルが、大気圏外で撃ち落とした。同基地での迎撃実験は初めて。

■設備の配置の問題なのでしょうが、アラスカから北朝鮮に向けて模擬弾道が発射され、それを太平洋上で迎撃して見せるのですから、露骨ですなあ。


また、北朝鮮が7月4日に行った弾道ミサイル発射実験に備え、カリフォルニアとアラスカの両州に配備している地上発射型迎撃ミサイルを、「試験モード」から「実戦モード」に切り替えて以来、初めての実験ともなった。実験成功後、記者会見したオベリング局長は、北朝鮮のテポドン2号のような長距離弾道ミサイルが米本土に飛行してきた場合の迎撃できる可能性を聞かれると、「十分可能性はある」と答えた。……今回の実験は総額約8千万ドル(約93億円)の費用をかけて実施。地上発射型の迎撃ミサイルは米国のミサイル防衛システムの一つで、6月には日本の自衛隊も参加し、ハワイ沖で海上からの弾道ミサイル迎撃実験に成功した。
産経新聞  9月3日

■二度は出し抜かれないように、日米が協力して意地でも打ち落としてやる!と言っているようなものですが、とんだ藪蛇になってしまった北朝鮮はどんどん追い込まれて行くようです。残されているのは「核実験」しか無いとも言われているので、北京政府は核兵器の拡散を許して間抜けな親分になる気はさらさら無いでしょうから、だんだん見栄も外聞も忘れて断固たる措置をチラつかせ始めるのも時間の問題でしょうなあ。

『ロード・オブ・ウォー』を観た後で 其の壱

2006-09-04 12:25:56 | 映画
■遺伝子SFの『ガタカ(1997)、仮想現実映画の『トゥルーマン・ショー』(1998)、CG女優映画の『シモーヌ』(2002)と、マニアックなSF映画を監督し、続いて国籍消失映画『ターミナル』(2004)を製作した後、自作の脚本を映画化したアンドリュー・ニコル監督の一本、『ロード・オブ・ウォー』(2005)を観ましたぞ。主演のニコラス・ケイジは、アクション映画でもシリアス恋愛物でも、何処まで本気なのか冗談なのか分からない無気味さが魅力ですが、この作品ではその魅力が存分に発揮されていますなあ。始めからニコラス・ケイジを想定して脚本が書かれていたとしか思えません。物語では、ウクライナを脱出して米国移住を果たすためだけに、似非ユダヤ人になりすました一家の長男という、何とも人を食った設定で、東西冷戦が終わって宗教対立・資源争奪・部族間憎悪、理由は何であれ親分を失って勝手気ままに殺し合いを始めた狂った世界で、手っ取り早く金儲けするなら闇の武器商人が一番だ!

■そんな観も蓋も無い現実をぶちまけておいて、ニコラス・ケイジのトボケた表情とブラックな口調で「一人一丁の武装社会」実現を目指してます。米国移民社会の貧困層から脱出する切っ掛けが、移民目的で成りすましただけのユダヤ教を、何故か本気で信仰してしまう父親に便乗して入り込んだシナゴーグで渡りを付けて手に入れたイスラエル製サブ・マシンガンの傑作ウジ軽機関銃という巣食いようのない導入部……。あとは殺し合いのある所なら何処へでも出向き、冷戦時代に備蓄された今となっては始末に負えない粗大ゴミ同然の某国の武器を横流し、「米軍が駐留した後には膨大な武器が放置されている」とサラリと世の中の裏側を語って、一体、どうやって撮影したのかM16アサルト・ライフルの山!某国では地平線まで続いているように見える戦車の列!

■富と美女を手に入れて、幸せな家族生活を実現するニコラス・ケイジのつかみどころの無い表情には、「和平交渉」という心配が付きまとっているのですなあ。限りなく事実に近いフィクションを練り上げたアンドリュー・ニコル監督の執念と、既に喜劇の域に突入してしまった現実世界のおぞましさを見事に映像化した職人芸に感動してしまいましたぞ。アフリカを始めとして、現実の国名がぞろぞろ出て来るのが小気味良いくらいですなあ。そして、映画の基本である「追いかけっこ」と映像の華となるラブ・シーンを、共演のイーサン・ホークとブリジット・モイナハンがしっかり演じています。本来なら、重苦しい告発ドキュメントのテーマにすべきものを、ちゃんと娯楽作品にしてしまうのですから、畏れ入ってしまいます。

■「(武器密売は)自動車や煙草を売るより罪が軽いんだ」などというすっ呆けた台詞も、ニコラス・ケイジが言うと、余り抵抗無く聞こえてしまうのも恐ろしく、観客は映画の冒頭に現れる「一発の銃弾」と同じように、世界の裏側を連れ回されて、ファースト・シーンに大写しにされる薬莢に埋め尽くされた廃墟となった街角に戻って来るという悪趣味な世界旅行のような作品です。余り青少年向けとは言えませんが、気安く「国際平和」「人類愛」を口にするウソ臭さを解消するには良い一本ではないでしょうか?尚、『ロード・オブ・ウォー』の「ロード」は(road)ではなく、(lord)なのでお間違えの内容に願います。

■怪作の余韻を楽しんでいると、何やら現実世界の近隣に怪しい動きが見えるのが気になりますなあ。


韓国メディアによれば、同国で公開中の怪獣パニック映画「グエムル 漢江の怪物」が3日までに、「王の男」が持つ韓国最多観客動員記録(1230万人)を更新した。夏休み向けの娯楽作品としての宣伝戦略が当たり、7月末の封切り以来わずか38日での記録達成。単純計算すれば国民の4人に1人が鑑賞したことになる。
 グエムルはソウルを流れる漢江を舞台に、突然変異で生まれた怪物(韓国語でグエムル)に娘をさらわれた家族が、怪物に立ち向かうというストーリー。韓国初の本格的な特撮映画として話題になり、ソン・ガンホさんら人気俳優が出演している。日本でも現在公開中。
時事通信  9月3日

■朝鮮民主主義人民共和国には、『プルガサリ』という日朝合作?の怪獣映画が有りますが、とうとう韓国にも本格的な怪獣映画が出現したというわけですなあ。日本のゴジラは戦争の惨禍と原子爆弾への怒りと恐怖をモチーフにして誕生した経緯が有りますから、韓国にも漢江から怪物が現れねばならない潜在的な理由が有るのでしょうなあ。北朝鮮製のプルガサリくんは、可哀想な農民を救って下さる伝説の義獣?なので、きっとエライ誰かさんをモチーフにしているのでしょうが、韓国の怪物が「日本」を象徴する何者かでない事を祈るばかりです。南北統一を力ずくで日本が阻止しようとするなどというトンデモ映画が大ヒットしたそうですから、気に掛かるところです。

半島統一、日本は沈没 其の参

2006-07-18 11:24:25 | 映画
■北朝鮮のミサイル乱射事件の直後に、こんな映画を国会で上映したとも思えませんが、続報が無いので実施されたのか中止になったのかは分かりません。でも、「意義ある作品と判断された」事自体に意味が有りますから、試写会が行われたかどうかは大した問題ではありません。今の韓国政府がどんな考えをしているのか、よく判ります。さてさて、憎っくき日本が「沈没」するのを高みの見物しながら、朝鮮半島は目出度く統一!これだけなら半島の人々も大喜びでしょうが、半島の森林を根絶やしにした元凶を扱った大作映画の製作が始まっていますぞ。

伝説の武将チンギス・ハーンの半生を描く日蒙合作映画「蒼き狼~地果て海尽きるまで~」(監督澤井信一郎)の撮影が、モンゴル国内で快調に進んでいる。即位式のシーンでは、2万人以上のモンゴル国民がエキストラとして参加。主演の反町隆史(32)は「チンギス・ハーンの偉大さがより一層感じられた」と感無量の表情を見せた。首都ウランバートルから約50キロ南下したウンドゥルドブの広大な草原。民族衣装のデールに身を包んだ2万人の民衆が一斉に「チンギス・ハーン、ホラエ(万歳)」と歓声を上げ、モンゴル式の万歳をする盛大な即位式が再現された。

■チンギス汗即位800年祭とかで、日本のイベント屋の堺屋太一さんが中心となって復活した騎馬軍団、夏から秋にかけて80回ほどのパレードをやるそうですが、この観光イベントを利用して企画されたのが『蒼き狼』の映画化なのだそうです。チンギス汗の遠征は、西の大国ホラズムとの激突を切っ掛けに西方が主戦場となりまして、死の直前に西夏を滅ぼし、2代目が宿敵の金帝国を倒すという順番です。問題は3代目の大ハーンになったフビライで、南宋を滅ぼしてチャイナを統一した後、朝鮮半島を支配下に置いて、日本侵攻の前線基地にしてしまったために、膨大な数の軍船を建造する目的で半島の森林は丸坊主にされたと言われています。井上靖さんの『波濤』という悲しい歴史小説に、当時の朝鮮半島の苦しみが描かれていましたなあ。ですから、日本が「元寇」さえも歴史のロマンとして語るほど能天気なのに比べて、半島の人々にとってはチンギス汗は英雄でもなければ、ロマンでもないはずです。

■フビライの時代に現在のハングル文字が、チベット文字を下敷きにして考案された事は案外知られていないようです。北京に人質として軟禁されていた朝鮮王家の王子が、フビライが信仰したチベット仏教の帝師となったパクパに命じて縦書きのモンゴル語表記文字を考案させたのも北京でした。サンスクリットと同じ原理で表記されるチベット文字を知った朝鮮の人々が、民族独自の文字を考案したのも同じ時期の北京だったのです。でも、この世界に誇るべき大発明は、その後の500年間も尊重されなかったのは残念なことでしたなあ。


13世紀にモンゴルを統一したチンギス・ハーンの半生を描く作品で、即位式でチンギス・ハーンが“誕生”する象徴的な場面。製作総指揮を務める角川春樹氏(64)の「CGではなく実際に撮りたい」という意向で、2万人のエキストラを動員して撮影が行われた。モンゴル国民にはチラシなどで撮影を告知し、チンギスが戦時中に用いた百戸長(1人のリーダーが100人を率いる)の手法を使って2万人が集められた。国全体の人口は約250万人で、ウランバートルは約90万人。エキストラのほとんどがウランバートル市民で、45人に1人が参加した計算だ。市内から撮影現場までは大型バス140台、小型バス450台で2万人をピストン輸送。エキストラはデールを自前で用意した。謝礼は1人5000トゥグリク(約500円)。

■まあ、モンゴルのお祭の一環として日蒙両国が大いに盛り上がって楽しめれば良いでしょう。噂に聞くウランバートルの孤児達を優先的にエキストラに雇うような事も考えたのでしょうか?


このほか、即位式のシーンには馬頭琴奏者や太鼓奏者、国の協力で国軍200人など約650人も参加。構想から27年目で製作にこぎつけた角川氏が「胆力や気迫がないと力感のあるシーンは撮れない」とこの場面だけは自らがメガホンを取り、「反町にも私にもチンギス・ハーンが乗り移ったようだった。満足なカットが撮れた」と手応え十分。反町も「2万人の群衆を見てチンギス・ハーンの偉大さがより一層感じられた」と表情を引き締めていた。
スポーツニッポン - 7月18日

■『天と地と』という前科?を残している角川監督ですから、無駄に大群衆を走り回らせた心配が濃厚なのですが、それもお祭の一環ですから良いでしょう。『男たちの大和』で儲けたそうですし、それを吐き出して日蒙友好に役立てば何よりです。馬が大好きだった黒澤さんに撮って欲しかったなあ、と多くの映画ファンは思っているでしょうが……。こういう映画の企画に世界で一番不快感を持つのがロシアだということも忘れては行けません。まだモンゴルが人民共和国だった時のこと、チンギス汗即位750年祭を祝おうと親分のソ連に無断で企画をしていたら、「戦車で踏み潰すぞ!」と怒られたことが有ったそうですなあ。悪い事に、1956年はポーランド、ハンガリーと反ソ暴動の当たり年だたのでした。モンゴルの人達は、ソ連の執念深さに心底恐怖したとか……。「タタールの頸木(くびき)」と呼ばれる屈辱的なモンゴル支配下の時代は、絶対に忘れられないものだと言われています。

■ですから、この映画が完成しても国会議員の皆さんがハシャイだりしないように、御注意申し上げておきますよ。ロシアと韓国に対する意図的な当て付けで騒ぐのならそれも良いでしょうが、無知を曝け出すようなことだけは止めて頂きたい。因みに、南宋を滅ぼされて異民族王朝の「元」に支配されたチャイナは強(したた)かで、フビライも中華3000年の漢族の皇帝に数えてしまっているようです。どさくさ紛れにチンギス汗まで、「56民族」の中に呑み込んで奇妙な歴史を作っているとも言われていますなあ。ロシアを牽制したり、後々は、中央アジアを「元々はわが国の領土だった」と言い出す布石かも知れません。頑張れ、モンゴル!日本が付いているぞ!と言いましょう。たとえ、角川映画の出来が悪くても、日蒙友好の為に完成したら皆で観ましょうね。次は『元寇撃退!』を一緒に作りましょう。

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半島統一、日本は沈没 其の弐

2006-07-18 11:23:54 | 映画
■日本に寄生して露命をつないでいる北朝鮮が『日本沈没』などを配給したら、パニックになるのではないでしょうか?買い付ける外貨が払底しているという事情も有るでしょうが、原作に書いてあった通り、「日本列島が消えたら東太平洋で東西世界が真正面から向き合うことになる」わけですから、北朝鮮としては日本列島を盾にして気楽にミサイルをぶっ放してなどいられなくなるわけですなあ。


大作映画「日本沈没」(樋口真嗣監督)が15日、初日を迎え、草なぎ剛(32)柴咲コウ(25)ら出演者が東京・TOHOシネマズ六本木ヒルズで舞台あいさつを行った。草なぎは劇中でカットされてしまった福島の民謡「会津磐梯山」を歌うサプライズも。幻の“未公開シーン”を披露し、「思ったよりうまく歌えました。手拍子も必要だったんですよ」とご機嫌。また「僕もフォッサマグナのように燃えています」「一緒に沈没するぐらい、気持ち的に高まっている。みんなも沈没寸前です」などと、終始興奮を抑えきれない様子だった。……
日刊スポーツ - 7月16日

■「スポーツニッポン」の記事に書かれているコメントは正しいのですが、この「日刊スポーツ」の草なぎ君の発言は実に恥ずかしい!もしも「スポニチ」の記者が正確に報道していて、「日刊スポーツ」の記者が聞き違ったか、書き間違えたとしたら、本当に恥ずかしい!本州中央を南北に走る「糸魚川・静岡構造線」を西縁にして、東縁の「柏崎・千葉構造線」までの一帯を指すようになりましたが、以前は「糸魚川・静岡構造線」自体をフォッサマグナと呼んでいましたなあ。どちらにしても、「大きな窪み」や「大きな溝」を意味するラテン語です。ですから、フォッサマグナは「燃え」ません。マグマは高温で溶けた岩石ですから、炎を上げることもありますから、マグマなら燃えると言っても良いのですが……。

■CGを駆使した日本滅亡の様子をとくと観て、水や空気を汚さないようにするとか、ゴミをぽいぽい捨てたりしないように改心する人が増えれば良いですなあ。失ってみないと、人はその有難みが分からないそうですから……。


カン・ウソク監督の15作目の映画『韓半島』が遂にベールを脱いだ。「興行勝負師」と呼ばれるカン監督が製作コスト96億ウォン(約11億6000万円)を注いだこの話題作は、ふたを開けてみると激しい非難を呼びそうな予感だ。非難の核心は「民族主義の商業化」だ。『韓半島』は統一を前提とした南北縦断鉄道・京義線開通に日本が「絶対不可」を宣言することから始まる。100年前の大韓帝国との条約文を根拠に、京義線に対する全権利を主張したもの。これにチョ・ジェヒョン演じる熱血歴史学者チェ・ミンジェは「文書に押された王印は偽物だ」と主張、大統領(アン・ソンギ)の支援で真の王印探しを始める。

■週刊誌など一部のマスコミでは取り上げられていた「問題作」です。こういう映画をろくな近代史教育を受けていない若者が群をなしている日本でうっかり公開したらエライことになりそうな気もしますが、何とも苦し紛れのシナリオを書いたものですなあ。「王印は偽物だ!」などという台詞は、チベット人が叫びたい台詞ですぞ!チベット併合(解放)の時に、ダライ・ラマ法王が北京に持っていかなかったはずの御璽が、何故か北京で調印された空証文にぺったりと捺されていた、という歴史上の椿事が起こっていますからなあ。


『韓半島』はどう良く解釈しようとしても誤解されるのは仕方ないほど、始終一貫して「克日(日本に打ち勝つこと)」と「愛国」を叫んでいる。 明成皇后(閔妃)暗殺・高宗毒殺・日本の自衛隊による武力示威を意図に取り上げ、現実的な妥協を主張する首相(ムン・ソングン)やサンヒョン(チャ・インピョ)を責め立てる。26日、試写会終了後にカン監督に会った。監督の第一声は「この作品、どれだけ槍玉に上げられるだろう。果ては“現政権に迎合している”という人もいるし…。まったく」だった。

■何が何でも「日本軍」が朝鮮半島に軍事侵攻しなければ気が済まないというのは、一種の強迫観念の混濁症状ではないでしょうか?半島の統一という大事件に対して、韓国と日本に駐留している米軍がどんな風に描かれているかは不明ですし、ロシアや中国がどんな反応を示してるかも分かりませんから、どれほどのトンデモ映画なのかは、後のお楽しみという事になりますなあ。


カン・ウソク監督の新作「韓半島(原題)」が劇場公開1日前の12日午後、国会の大会議室で試写会を開く。主催の国会文化芸術研究会が9日、明らかにした。同作品が南北統一と韓日歴史問題などを扱った点から意義ある作品と判断されたため。試写会には国会議員、国会職員、国民の誰もが参加可能。主催側は現在、カン監督と主演のチョ・ジェヒョンさん、チャ・インピョさんの参加も交渉中だ。YONHAP NEWS - 7月10日

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半島統一、日本は沈没 其の壱

2006-07-18 11:23:23 | 映画
■リメイク版の映画『日本沈没』は、相模湾沖の地震から話が始まるのだそうです。前作の映画では原作では小笠原諸島の遥か南の無人島が一夜にして音も無く水没するという無気味な始まり方をしたのですが、今回は日本列島の内側に地殻変動を限定している、つまり、内輪物に仕上げているような気がしましたが、宣伝媒体をちらちら観ると、国際問題としての広がりに欠ける作品になっているような印象ですなあ。前作では国連会議の緊迫した様子やオーストラリアへの大規模な移住、「難民」という解決不能の大問題が全面に押し出される中で、日本列島が裂けて沈んで行きましたなあ。この30年で「国際化」が随分と進んだはずなのに、『日本沈没』のような作品までが、内向きに変質するとしたら日本の近未来が心配になります。まあ、現物をちゃんと観てから、作品の評価をしましょう。

33年ぶりにリメークされた映画「日本沈没」(監督樋口真嗣)が15日、全国316スクリーンで封切られ、盛況のスタートを切った。北朝鮮によるミサイル発射の衝撃が尾を引く中での公開となったが、根強いファンが後押しした。タイトルも影響してか、製作サイドには、日本と微妙な関係を続ける中国などアジアを中心に約20カ国からオファーが届いており、沈没どころか世界に浮上しそうな展開を見せている。

■アジア諸国からのオファーが来るのは、商売としては目出度い話ですが、「沈没」が「滅亡」と二重写しになってスカッとする映画として売られるたりすると、ちょっと複雑な思いにも駆られますなあ。


小松左京氏(75)の原作がブームをつくったのはオイルショックがあり、巨人がV9を達成した1973年。それから33年を経て「日本沈没」が鮮やかによみがえった。東京・港区のTOHOシネマズ六本木ヒルズには、主演の草なぎ剛(32)はじめ柴咲コウ(24)大地真央(50)豊川悦司(44)らメーンキャストが勢ぞろいして舞台あいさつを行い、初日を鏡抜きで祝った。

■やっぱり商売の中心地は「六本木ヒルズ」でなければならないのですなあ。本当に沈没したITベンチャー企業も入っている建物なのに験(げん)が悪いとは誰も思わないようです。原作が発表された当時は、ウェゲナーの「大陸移動説」さえも一般人には目新しく、地球自体を一つの生命体と考えるプレート・テクトニクスなどと聞くと、神秘的な感覚に襲われたものです。作中でもコンピュータ・シミュレーションが重要な要素として破滅の恐怖を盛り上げましたが、当時の日本にはパソコンは存在せずコンピュータの実物を見た者もほとんど居ませんでしたから、米国のコンピュータを参考にしてイメージを膨らませて映像化したものです。何せ、「紙テープ」を読んでいましたからなあ。

■小松左京さん御自身も、昔なつかしい8ビット・マイコンを莫大な金額を支払って個人的に購入して、当時の地球物理学がはじき出していた最新のデータやら数式を打ち込んで、可能な限り実際に起こり得る「沈没」の過程を描き出したのでしたなあ。最初は計算尺!でしこしこと計算していたそうですから、まさに時代の最先端技術によって完成したSF小説だったわけです。だから、怖かった!それに便乗して、『ノストラダムス』のホラ話で大儲けした困ったオジサンまで出現して、オウム真理教の誕生を準備したりもしましたなあ。あの方は、今も元気なのでしょうか?


初回からの大入りに感激した草なぎは「気持ちが高まり過ぎていて、僕もフォッサマグナが裂け始め、沈没寸前です」と興奮。……柴咲も「きょうはお客さまの顔をバッチリ見たいのでコンタクトを装着してきました。あまり良くない日本の未来を描いていますが、これからの日本を良くしていくための参考になればいいと思っています」とあいさつし、盛んな拍手を受けた。

■草なぎ君の発言は別の新聞記事では噴飯物になっているのですが、どちらが本当なのでしょう?


配給の東宝によれば、興行収入85億円を記録した「世界の中心で、愛をさけぶ」(04年)の98%の出足。客層もファミリーからシニアまで幅広いことから、同社は「興収70億円台も狙えそう」と鼻息を荒くしている。海外からのオファーも続々。5月の南仏カンヌ国際映画祭のマーケットに持って行ったこともあり、現時点で、その数は20カ国以上。TBSが中心となる製作委員会は具体的な国名を明かしていないが「アジアからが多い」と関係者は証言。小泉純一郎首相の靖国参拝問題などに批判的な中国や韓国からは来ているようで「“日本沈没”というタイトルに反応したのでは」と苦笑いする関係者もいた。ちなみに北朝鮮からは来ていないという。
スポーツニッポン - 7月16日

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日本のアクション映画

2006-07-15 21:26:51 | 映画
■久しぶりに映画の話題です。『日本沈没』が公開されたとかで、原作本も復刻されて商売繁盛らしいのですが、前作が封切られた1973年は忘れもしない第一次石油ショックでした。何だか今年は第三次石油ショックになりそうな気配が濃厚ですぞ。堺屋太一さんの出世作『油断!』なんかも映画化されるのでしょうか?今回の『日本沈没』は原作とは随分違うシナリオになっているそうですが、文化や歴史を考えさせる部分が削り取られていない事を祈るばかいです。
 
■復活した角川映画?が『男たちの大和』という映画を作って話題になっていたので、是非映画館に行こうと思っておりましたが、講演会などが立て込んでついつい見逃してしまいました。8月上旬に映像ソフトがリリースされるそうなので楽しみにしています。角川作品、佐藤純弥監督、戦争物という連想で、先日、友人と『野生の証明』をレンタル店から借りて来て懐かしく鑑賞しました。原作が森村誠一さんなので、相当に強い思い込みで自衛隊の特殊部隊を見てきたように描いているのですが、これがどう見ても本物に見えない。確か、東京都下で大規模な公開オーディションをやってエキストラを募集し、「実弾が撃てるから」という理由で北米大陸で撮影したのでしたなあ。公開当時から、その効果がぜんぜん上がっていないと酷評されたはずですが、今観るとますますその感が強いのですなあ。

■売り出し中の舘ひろし君が、出身を生かして暴走族かぶれの馬鹿息子を熱演しているのですが、東北の地方都市を支配する怖いオヤジの三国連太郎さんにぶっ飛ばされるシーンだけは何度も巻き戻して楽しめます。その三国さんのメイキャップが当時は存命中だった笹川良一さんそっくりなのも笑えます。後日談として泣く子も黙る鬼隊長を演じた松方弘樹さんは大の高所恐怖症で、軍用ヘリから森林地帯を逃げ回る健さんを銃機関銃で狙う場面、右に左にバンクするので撮影が終わって着陸した時には下着も軍服も小便でぐっしょりだったとか……。

■佐藤純弥監督は、幻の名作『ゴルゴ13』を東映で撮影したという前科?功績が有りまして、原作者のさいとうたかをさんがカット割まで考えた詳細なシナリオを書いて渡したのに、砂塵舞う砂漠地帯を裸のM-16を持って健さんゴルゴが延々と歩き続けるという狂気の沙汰を演出したことがあります。『野生の証明』をああでもない、こうでもないと悪態をつきながら観終わった友人と二人、『男たちの大和』は大丈夫なのだろうか?と大いに不安になった次第です。大和乗員を熱演した中村獅児君が、シャンパン2杯?だけで泥酔して信号無視で書類送検されたとか、せっかくDVDが出ると言うのに迂闊な話です。まあ、実際の大和に発令された「菊水作戦」も酔っ払い運転みたいなものだったから丁度良いのでしょうか?

■閑話休題。米国映画に負けないアクション映画を撮ろうと、日本の映画人も頑張っていますが、米国に輸出出来たアクション映画はまだ出現していないようです。火と煙は一人前に出せても、発射の反動がまったく無いピストルや機関銃を振り回しても、チャンバラ映画のような迫力は出ないでしょうなあ。どんな風の吹き回しか、警察が日本の映画やテレビに協力する事が決まったそうです。ネオ・ゴジラやネオ・ガメラには自衛隊が大いに協力して往年のファンを大喜びさせてくれていますが、警察も協力するというのはアメリカ帰りの小泉プレスリー首相の粋な計らいなのでしょうか?


撮影用のパトカーが一般道を走る――。警察庁と国土交通省は、テレビドラマや映画などの撮影で使われるパトカーやF1カーなどを模した車について、一般道での走行を認めることにした。これまでは道路運送車両法によって走行が禁じられていたが、民放各社や映画制作会社などの強い要望を受け、地域の合意が得られた場合に限って、走行できるように同法の運用を変更した。今後は刑事ドラマなどで、より真に迫った映像が見られそうだ。

■石原プロダクションが欣喜雀躍しそうな話ですが、根絶できない違法改造車の迷惑を考えると、こんな許可を出すと自動車を玩具にしている馬鹿者達が偽パトカーやら偽レーシング・カーを持ち出して事件を起こしそうですなあ。


同法では、ナンバープレートを備えていなければ自動車と見なされないほか、同法に基づく保安基準では、自動車に赤色灯を付けてはならないとされている。このため、パトカーや消防車などを模した車や、ナンバーのないF1カーは、一般道を走行できず、走行シーンは、撮影所内のセットや供用開始前の道路、港湾地域、私有地など、交通規制が適用されない場所を利用して行われてきた。
読売新聞 - 7月15日

今でも赤色回転灯などは簡単に購入できるのですから、渋滞を抜け出すためにダッシュ・ボードに隠して置いた偽物を屋根に載せてちゃっかり違法走行をする輩が出て来たらどうするのでしょう?それよりも、絵になる道路の風景など何処に有るのかなあ?と首を傾げたくなりますなあ。世界一になった日本の自動車メーカーが毎日流すテレビCMは全部海外ロケでしょうに!米国映画の真似をしたカー・アクションなどと言っても、どうしても貧乏臭くなってしまうのが日本映画です。


15日午前8時ごろ、堺市南区和田東の路上で、盗難車が止まっていると、警備会社から110番通報があった。大阪府警泉北署のパトカーが駆けつけると、男2人が乗った盗難車は急発進して逃走。道路を逆走するなどしながら通行中の車6、7台に衝突して逃げ続け、約2キロ先の同市中区東八田の府道交差点で停車。追跡してきたパトカーにバックで計4回体当たりした。さらに盗難車は、パトカーから降りた巡査部長(32)と、巡査長(30)にもバックで向かってきたため、警官2人は拳銃を計5発、発砲した。弾は運転していた男の腹部に当たり、男は病院に運ばれたが、間もなく死亡した。助手席の男は車から降りて走って逃走、同署は行方を追っている。
読売新聞 - 7月15日

■映画などよりも現実の方が米国映画の影響を強く受けて真似をしているようですぞ。別の報道では5発のうち4発が運転していた男の腹に命中しているそうですから、日本のお巡りさんも射撃に慣れて来たのかも知れません。テレビ・ドラマで言うと、なかなか撃たなかった『太陽に吼えろ!』シリーズを知らない世代は、ショット・ガンやらマグナムやら派手に打ちまくった『西部警察』を記憶しているのではないでしょうか?まさか、愛読書が『こちら亀有公園前派出所』という事はないでしょうな?!警察を舐めた犯罪が増加しているのは確かなようですが、警察側の対応もだんだん米国化しているようにも思えます。

■先日も、いい年をしたタクシー運転手が昼時の公道で「ゼロヨン」競走をやらかして弁当を買って会社に戻る若い社員を歩道で跳ね飛ばした事件が有りましたなあ。あまり「迫力の有る」カー・アクションなどを売り物にしたテレビ・ドラマなどが流行すると、番組の後に流れる「これはフィクションです」などと言う注意書きなど読まずに、すっかりテレビ気分でアクセルを踏み込むような人が増えやしませんかと心配です。

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実優ちゃんを悼みながら

2005-10-25 01:10:35 | 映画
■パキスタンの大震災で、冬の近い山岳地帯でヘリコプターが足りない!日本初の大型高速輸送船を建造する計画が公表された、それは実質的にはヘリ空母、そんな記事を書き並べている時に、趣味のラジコンで痛ましい事故が起きてしまいました。それが起こるまで、秋晴れの空の下、どんなに幸福な人が見たら羨むような風景が現れていたでしょう。まだまだ若いお爺ちゃんが、孫を囲んだ家族に自慢のラジコン模型ヘリコプターを披露している。全長1.4メートルのラジコン・ヘリは、その華奢な見かけに寄らない思い掛けない轟音を立ててローターを回転させていたでしょう。青紫の煙を勢い良く吐き出して、命を吹き込まれたように空に舞い上がるヘリコプター、それがゼロ戦であろうと、グラマンであろうと、元男の子としては胸が躍ります。実に羨ましい趣味をお持ちの若いお爺ちゃんです。

■旧作(新作は未見)の『飛べ!フェニックス』というアルドリッチの喉が渇いて汗ばむ映画が有ります。そこに、ハーディ・クリューガー演じる「飛行機の設計士」が出て来ます。双発飛行機で砂漠に不時着した男達が、彼が「本物」の設計士だと思って、彼が計算尺を取り出して頭の中で設計した単発飛行機を灼熱の砂漠で作り上げます。いよいよ、完成してエンジンテ・ストをする時になって、クリューガーが「オモチャ」の飛行機を設計していると知って、機長のジェームズ・スチュワートは激怒、アル中の副操縦士リチャード・アッテンボローは絶望の余りに高笑い……。

■未見の方には気の毒ですが、実は、ライト兄弟が発動機付きの蚊蜻蛉(かとんぼ)飛行機をちんたらと滑空させるよりも数十年前に、エンジン付きも軽飛行機は、それ以上の距離を姿勢を安定させて飛行していたという事実が突きつけられます。オモチャの飛行機と本物の飛行機、どちらが設計と操縦が難しいか?素人は「本物だ」と答えるでしょう。ところが、バランスと方向を設計段階で予め埋め込んでおかないと、模型飛行機は直ぐに失速する(考えてみれば当たり前です)けれど、本物は優秀なパイロットがあれこれと工夫してくれる。というネタがこの映画を奇跡のロマンに仕立て上げます。

■聞くところによりますと、模型飛行機の中で、ヘリコプターが最も難しいそうですなあ。基本的に地面に対して垂直に離陸するというのは、本当に難しいようです。映画、これも旧作の『戦国自衛隊』で、忍者みたいな武田勝頼(真田広之)が、見事なホバリングを披露しているヘリコプターに、お城(櫓やぐら)から飛び移ります。そのスタントは美しく華麗ですが、実は、CGもへったくれも無く、お城のセットの横にヘリコプターをぴたりと制止させたのは、元自衛官の名パイロットでしたね。(嗚呼、昔は調べて覚えていたのに!ファンの方、コメント下さい)

■79年当時の角川映画は、大変な勢いが有ったので、このシーンを櫓の中、地面からの俯瞰(ふかん)、ヘリコプターの内部から、少なくとも三台のカメラで撮影していましたなあ。甲冑姿でヘリコプターに飛び乗って、敵の首を掻き切ってから槍を並べてクッションにしている味方の陣営に飛び降りる真田広之君の艶姿に魅了されるシーンの連続です。しかし、こんな有り得ない場面が現実に撮影できたのは、どんな風が吹こうとも、空中にヘリコプターを制止させてしまう神業を持っている自衛官が日本に存在するからなのでした。ヘリコプターに飛び移るシーンと、その中から不敵な笑顔を残して飛び降りるシーンは、ジャッキー・チェンだって地団太踏んで悔しがるような危険で華麗な芸術です。つまり、名人芸の域を超えるような伝説の達人であるからこそ、へりコプターを空中に静止させられるのだという事です。

■さて、次がラジコンです。昔は「リモコン」と呼んでいた有線操縦の模型は、戦車や『宇宙家族ロビンソン』の探検車でしたから、ガキンチョは常に後ろに回って右か左に方向転換して快感を得ていました。しかし、ラジコン操縦の飛行模型となると、「行きは良い良い、帰りは怖い」という難物です。自分の足元から愛機が飛び立つ時と、大事な愛機を無事に帰還させる時とは、左右が逆になるので、大脳と小脳を器用に連携させないと、行かせたくない方向に愛機が飛んで行って、こちらがパニックになっている間にクラッシュ!だそうです。初心者は安物のぺこぺこ蚊蜻蛉を何機も地面に叩きつけては悔し涙にくれるのが常道とのことで、まして滑走もしない垂直上昇しつつ前屈姿勢を取らせて、前進と上昇を操作するヘリコプターは難物中の難物と聞き及んでおります。一説には、プロのヘリコプター・パイロットもラジコンのヘリは操縦出来ないとか……。そんな話を聞いていますと、どこかの川原や広場で垂涎のラジコン・ヘリを操縦している人を見かけますと、バカ面しながら、溜息をつきながら見惚れてしまうのですなあ。

■かのオウム真理教が、輸送や空中撮影も出来るプロ用のラジコン・ヘリを三機購入したという情報で、公安と自衛隊は真っ青になって、その後追い操作をしてました。二機の消息は抑えたものの、残りの一機が何処かに隠匿されている!これに行方不明のサリンを積み込んで、東京都心をぐるりと飛ばれたら一大事!でも、次々と逮捕された信者の口から、幻の一機は購入早々に墜落させて壊れてしまったという分かって、捜査陣は腰が抜けるほど安心したとか…

■『社会人のためのマナー集』には、必ず「座席の意味」が解説されています。自動車に乗る時の「上席」「上座」は何処か?これが操縦者ならぬ運転手の真後ろの席です。何故か?絶体絶命の瞬間に、運転手さんは助手席を救うよりも自分の身を救おうとしますからなあ。それを責める理由を、人間は誰も持っておりません。ですから、自慢の愛機を披露する時には、大切な人は「自分の後ろ」か「すぐ脇」に立たせて下さいね。


23日午後4時ごろ、栃木県佐野市田沼町のガソリンスタンド「マルセイ興産組合給油所」敷地内で、近くに住む運転手、深谷光頼さん(54)の操縦していた無線操縦ヘリコプター(全長約1・2メートル、重さ約4キロ)が墜落。近くで見ていた同居の孫、早川実優ちゃん(5つ)の頭にローターが当たった。実優ちゃんは搬送先の病院で約二時間半後に死亡した。脳挫滅による失血死だった。佐野署は過失致死の疑いで深谷さんから事情を聴いている。調べでは、深谷さんは、実優ちゃんから約50メートル離れた場所で操縦機器を使ってヘリを飛ばし始めたが、2、3分後に突然、制御不能となり墜落したという。現場には、深谷さんと実優ちゃんのほかに、実優ちゃんの母親や妹ら家族4人がいた。無線ヘリの操縦に資格は必要なく、深谷さんの操縦歴は約4年だという。産経新聞 10月24日

■操縦に失敗したと自分を責める人、一緒に立っていたのに…と悔やむ人、秋空の下の楽しいひと時が、思わぬ災厄の日になってしまいました。本物のヘリコプターも失速します。映画『トワイライト・ゾーン』の撮影中に、『コンバット』で日本中の人気をさらったヴィック・モローさんが、撮影中に失速して落下した本物のヘリコプターの「ローター・ブレード」に刻まれて死亡しました。

■レオナルド・ダビンチの設計スケッチ以来、空気に翼を捻じ込んで上昇する機械のアイデアは発展して来ました。でも、空気は「風」の異名です。飛ぶ物は、やがて落下します。ローター・ブレードは「回転翼」と翻訳されますが、固定翼とは違います。今回の事故は、誰が悪いのでも有りません!あちこちで崩壊した家族の悲劇が次々と報道される中で、寅さん映画の背景になりそうな、素敵な休日の風景が、ちょっとした不運が重なって大惨事になってしまいました。いつくかの映画を思い出しながら、ふつつかながら、哀悼の意を表したいと思います。

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黒澤明スペシャル?それはないでしょ!

2005-10-16 02:24:23 | 映画
■本日、10月15日の夜11時からテレビ朝日で「黒澤明スペシャル」を放送すると新聞欄に予告されたので、番組途中から観ました。『スマステ5』という名前の番組でした。最近、略語なのか隠語なのか分からない名前の番組が増えまして、テレビ欄は暗号表のようですなあ。「スマ」というのはスマップという歌が下手なのに人気は抜群という不思議なグループの一員の香取何とか君が司会?をしている番組です。以前にも数回見た記憶が有ります。なかなか丁寧に取材して情報量の多い番組だったという印象が有りますが、いかんせん、スタッフの努力がぼろぼろになる不思議な番組なのですなあ。貴重な映像資料やインタヴューが、スタジオに切り替わるたびに「ええー!知らないなあ」「おお、そうだんたんだ」などと次々に水を差されて価値を失って消えて行くのでした。

■後ろに並んでいるのは欧米系の顔をした娘さん達で、特に何かをするわけでもなく、にこにこして座っているという人格無視、女性蔑視の裏返しのようなセット扱いにする番組です。何なのでしょう?あの女性達は?多分、余りにも何も知らない司会者の若者が、後ろを振り返って「ねえ、皆知っている?」と質問して、全員が知っていて彼だけが知らないという事態を避ける為に考え出された舞台装置のような気もしますなあ。爆笑問題とかいう以前は毒気の強いコントをしていたコンビの片割れ、大田某さんがゲストのようでした。多分、毎回、それなりに薀蓄を垂れて香取君の無知を際立たせる役目で何者かが呼ばれるのでしょう。

■妙に声の大きな大田某は、黒澤明は天才だと言いたいらしく、映画館とテレビの映画放送以外に映画を観る機会が無かった時代ではなく、彼も黒澤作品の映像ソフトは全部揃えているとの話が出ました。その時、香取君もDVDボックスを購入済みとの反応でした。長らく中断している『黒澤明作品集』のほとんどを昔映画館で観た記憶と手持ちの本だけで描いている旅限無としましては、実に羨ましい会話です。しかし、

「でも、ぜんぜん観ていないんです」

香取君は正直に、耳を疑うような事を告白してしまいます。この若者は、何の間違いか昨年?のNHK大河ドラマで新撰組の近藤勇を演じたのではないでしょうか?黒澤も観ていないのなら、東映や大映が山のように残した時代劇の名作もぜんぜん見ていない可能性が高いと思いましたぞ!それで近藤勇を演じていたわけですなあ。あの大河ドラマは初回と最終回だけ観た記憶が有ります。

■初回から歴史をメチャクチャにして平気な事を知って、その後はぜんぜん観ないで過ごしたのでした。この一言を聞いて、観なくて良かった、と改めて思いましたなあ。海老沢会長時代の大河ドラマですから、宮本武蔵で『七人の侍』を無断で盗用したり、馬に逆側から乗ったりして大顰蹙を買い、『新撰組』は登場人物と同年令の役者?を揃えるという冗談のような企画だったようです。人生80年か90年の時代の若者に幕末の若者を演じさせたら学芸会になってしまうのは分かりきった事です。

■過ぎた事はどうでも良いでしょう。大河ドラマ自体の命運が間も無く尽きようとしているようですからなあ。立派な原作を選んで、ちょっと高過ぎるプライドを持ってスタッフが取り組んでいる大河ドラマは、誰の思い付きだか知りませんが、訳の分からないキャスティングで全てを台無しにしていれば、もともと時間拘束が長くて出演料が馬鹿みたいに安いと噂も高い大河ドラマは、出演するまともな役者が激減して自滅するでしょう。

■『スマステ5』の「黒澤明スペシャル」に話を戻しましょう。馬鹿の一つ覚えのように愚にも付かない「クイズ形式」にして時間を浪費して、黒澤明を残った短い時間で解剖して紹介しようと言うのですから、視聴者を舐めていますなあ。薀蓄を熱く語る大田某は、テレビ番組に多数出演しているのでしょうから、決して上がってしまったとは考えられません。ですから、彼は黒澤を語る資格など無い人だったと思われます。NHK教育テレビで「向田邦子」作品を語っていたようですから、ちゃんと準備さえしておけば大恥を掻くこともないのでしょうが……

「『用心棒』一本を観れば黒澤が分かる」のだそうです。確かに傑作ですが、これは暴言ですなあ。よせば良いのに、相手が無知の塊の香取君だと思って油断したのか、大田某は聞いたことも無い『用心棒』のストーリーを興奮気味に語りだしましたぞ!

「あれはね。村と村とが対立しちゃってさ、すごい争いになっちゃうんだ」

おいおい、争いは街道筋の宿場町を縄張りにしていた親分が死んで、その息子三兄弟と元は一の子分だった男が跡目争いをするのでしょう?村なんか出てきませんから、対立もしていません。村と村との抗争事件など黒澤は一度も題材にした事も有りません。


「『用心棒』一本だけ……いや、もう最初のシーンを観るだけで、黒澤の凄さは分かるよ」

はて?桑畑三十郎が収穫の終わった寂しい桑畑の道をてくてく歩いて来る。十字路で道端の棒切れを投げて行き先を決めて歩き出す。一軒の農家で水を飲ませてもらうと、若い夏木陽介さんが親が留めるのを聞かずに家出する。この冒頭シーンの何処から黒澤の凄さを読み取るのか?


「最初のシーンにさ犬が出て来んだよ」

あらら、最初に犬が出て来るのは『野良犬』でしょ?上手にメイク・アップして迫力を出してしまったので、「黒澤は犬に注射して狂犬病にした」と噂されて動物愛護団体が苦情を言って来たという有名なシーン。

「その犬がさ、こっちに歩いて来るんだけど、その犬が咥えているのが人の手なんだよな。これだけで、村と村とが物凄く対立していて、これから何かが起こるって分かるんだ」

水を飲ませて貰っていた三十郎が、息子に家出された父親に言われる嫌味の台詞と、夫婦喧嘩の口論に無駄なく抗争が始まっている事やますます大きな騒動になる事が予告されているので、冒頭シーンからしばらく時間が経った後に、三十郎が宿場に足を踏み入れると、空っ風が吹きぬける無人の大通りで、砂埃の中を犬が……という段取りになっているはずです。

■何も知らない馬鹿な視聴者と香取君の相手だからと、こういう人を引っ張り出した人には大きな責任が有るでしょうなあ。二度も大田某が言った「村と村との戦い」なら、黒澤は武士を主人公にしないで農民同士の殺し合いを企画した事になります。そんな脚本を書くはずはありませんし、映画にならないでしょうに!大田某は、もっと勉強する事が必要ですし、番組の制作スタッフは、もう少し視聴者を尊重して番組を作るべきでしょうなあ。ほとんどぶっつけ本番で作った番組だとすれば、黒澤ファンなら誰でも知っている『天国と地獄』撮影時のエピソードや、『羅生門』の豪雨の演出方法など、大田某はすらすらと答えねばならないのに、水に墨汁を混ぜた話を自信なさげに言い当てただけでした。

■司会もゲストも皆が素人で、元黒澤組だったスタッフや俳優達の貴重な証言映像もすっかり価値を無くした、とても後味の悪い番組でしたなあ。あれで黒澤作品の復権を願っているなどと言われたら大笑いです。

お口直しにこちらをどうぞ、
『用心棒』の旅限無版
楽しみ方です。


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五劫の切れ端(ごこうのきれはし)仏教の支流と源流のつまみ食い
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映画の楽しみ方

2005-08-14 07:47:16 | 映画
■「映画が掛かる」という日本語が、昔は有りました。日本語の「カケル」や「カカル」という言葉は、とても広い意味を持っていて、何とも便利な言葉なのです。映画は、芝居小屋文化の延長線上に位置づけられていたので、「芝居が掛かる」の流用でこう言われたのです。今でも歌舞伎文化に継承されている「看板」の文化の伝統ですなあ。室町時代から、河原などの広い土地に材木(今の鉄骨)で組み上げた構造物に筵(むしろ)を掛けて劇場を作って、入り口の上に演目と役者の名前を書いた看板を並べて掛けていたので、「芝居が掛かる」と表現しました。「映画やってる」とか「公開している」というのは、どうも味気の無い表現ですなあ。

■映画も劇場文化の延長線上で発達したので、スクリーンには幕が設置されているのですなあ。ビデオになってから割愛されているのですが、セシル・B・デミル監督が自分でサイレント時代の作品をリメイクした『十戒』は、オリジナル版であれば、最初のシーンで監督自身が登場して前口上をするのです。それも画面の中の幕の前で喋ります。口上が終ると、監督は舞台の袖(そで)ではなく、画面の幕の中に消えるのです。それから画面に映っている幕が左右に開くと、「ハジマリ、ハジマリィー」という段取りです。幼い時に、何度目かの再上映を観た時の記憶です。

■家庭用ビデオ・ソフトから様々な商品が開発されまして、好きな時に好きなスタイルで映画が楽しめるようになりましたが、これは映画文化の衰退を示す現象なのかも知れないのです。『十戒』のホーム・ビデオは、前口上は無くなっていて、いきなり巻頭タイトルとクレジットに入ります。寝転がって我儘に楽しむには良いのでしょうが、それで映画を観たことになるのかどうか、この問題は意地になっても残しておく問題です。

■司馬遼太郎さんが「日本は千年間、中国という異国を想像し続けた」と喝破したのは、御自身の体験を踏まえての事でしょうが、確かに、「聖人の国」「義人の国」という大誤解を肥大させてしまったために、阿片戦争以降の近代史において、日本人はチャイナ幻想を次々に打ち砕かれて、日清戦争をやってみたら楽勝だったし、実際に行って見たら日本の貧しい農村よりも酷い貧困を目撃してしまいます。大規模な泥棒集団や不衛生極まりない風土に、孔子も孟子もいないのか!などと、現地の人が聞いたら「お前達は千年間、眠ってたのかい?」と皮肉られるような状態でした。

■朝鮮半島に対する認識の落差も同様でした。江戸時代までの朝鮮半島出身者に対する卑屈なまでの尊敬心が、明治時代に大転換してしまいます。こうした脱亜入欧ブームの中で、神戸に映画(キネト・スコープ)が上陸します。本当は、清潔好きの日本人なら大笑いするはずの、「水撒き馬車」の映像に当時の日本人は感動してしまいます。水撒き馬車というのは、都市全体を一つの水洗トイレの便器に見立てて水を定期的に撒く物ですから、げらげら笑って馬鹿にすれば良かったのです。しかし、暗がりに映し出されたパリの街の威容に圧倒されて日本人は、「映画は舶来物」と瞬時に納得してしまいました。これは大和朝廷のチャイナこそ唯一の文明!と飛びついたのと同じ文化受容構造です。

■映画を上映する時に欠かせない光源となる電球開発に、日本の竹が貢献したとか、不世出の喜劇王チャップリンが愛用したステッキが日本の竹だったとか、そんな事はぜんぜん知らないままに、映画は舶来、ハリウッド製が一番!と思い始めてからは、気取って洋画を観るくせに、ほとんど技術史的には遅れを取らなかった日本映画を「土着」の通俗文化と見下す姿勢が完成してしまいます。これに甘えて商売していた映画会社も有りましたが、映画は当時の先進国の間では割と簡単な技術で作れる芸術だったので、日本は随分と先端的な位置にいたのでした。

■映画を観るという行為と、美術館に行くという行為に違いが有ると感じているのならば、それは大きな間違いです。音楽会に行く、バレエ公演を観に行く、文化講演会を聞きに行く、これらの行為と映画を見に行くのは同じものなのです。映画は、余りにも工業技術に頼る部門が多い芸術なので、日本人はすぐに欧米に追いついてしまいましたから、中途半端に純国産の大衆芸術のようになって、後に黒澤明監督が怒り狂うような混乱が生まれてしまいました。欧州のオーケストラやバレエ団が来日する、或いはハリウッド映画が日本で封切られる。それを観に行く時の緊張感と日本映画を見に行く時の感覚が違うのは何故か?ここが大問題です。

■映画に限らず、「興行」という現場のアレコレとなると、昔ながらの風習が巾を利かすものですが、日本製は常に舶来品の下、という態度は今でも変わりません。これ自体をよくよく考えないと、「韓流ブーム」などが大きな商売になるような奇妙なことが続くことになるでしょうなあ。1960年代、日本が戦争の生臭さを全部アメリカに任せてしまって「平和」と金稼ぎに集中できた時代に濫造された「和風メロドラマ」の大群が、日本では保存も伝承もされずに消費されて忘れ去られていたのに、韓国ではネチネチと造り続けられていたというだけの話で、今の「ヨン様ぁー」女性軍の年齢層を見れば、「日活青春恋愛映画」もテレビの「昼メロ」も見そびれたバブル直前世代だと分かります。彼女達は、男達が『プロジェクトX』に感動するのと同じ時代の感性を今の韓国製大衆ドラマに観ているのですなあ。あれは、全部日本製ですぞ!誰か、当時のメロ・ドラマの二枚目役者写真集を出せば良いのに……。

■日本がバブル経済で沸き立っていた頃に、『沖縄の少年』という映画が作られました。学校の校庭に白い幕が張られて、小林旭主演のメチャクチャなアクション映画を子供達が夢中になって観ているシーンが圧倒的でした。主題歌を全員で合唱(絶叫)し、悪人をやっつける時には声と掲げた拳骨で加勢する。白いランニングに汗が染み出して、一本の映画に喜怒哀楽の全てを叩きつけて楽しむ姿に、改めて映画の見方を教えられたような次第です。少ない経験ながら、旅限無が経験した映画の見方を実感した御話をしたいと思います。続きは「雲来末風来末」をご覧ください。

『宇宙戦争』とオレオレ詐欺

2005-07-13 01:32:40 | 映画


■スピルバーグがトム・クルーズを使ってH・G・ウェルズの『宇宙戦争』を再映画化して、ルーカスの『スター・ウォーズ』と競っているそうです。『宇宙戦争』は、1953年に映画化されていて、バイロン・ハスキン監督と言うより、アーウィン・アレンの特撮だけで映画史に残っている名作が有ります。火星人が斬新なデザインの「空飛ぶ円盤(正式にはウォーマシン)」がぼんやりと浮かんでいるシーンが怖かった!

■今回の再映画化作品は、原作を大きく手直ししているそうで、『未知との遭遇』や『E.T.』を撮ったスピルバーグも「9.11」の影響で好戦的になったとの噂も有りますなあ。『シンドラーのリスト』を丁寧に撮ったユダヤ人監督ですから、ナチスと二重写しになる勢力が出現すれば敏感に反応するのかも知れません。何でも、主人公は国家よりも自分の家族を最優先で守ろうと闘うパパの物語になっているそうで、米国がテロの標的になるのなら別の国で暮らそうよ、というメッセージ?

■ウェルズはSF小説の偉大な父ですから、火星人が攻めて来る!という『宇宙戦争』が出版された時には大評判で、その後は続々と○○星人が攻めて来る!作品が発表されて、時々はM78星雲のウルトラマンが助けてくれる!のような作品も出来ました。小説は本屋さんや図書館で見つけて個人的に読みますから、本を閉じれば夢の世界から現実に戻って来れます。まあ、時々、本の世界から戻れなくなって奇妙な事件を起こす困った人もいるものですが、多くの人々はどんなに残酷な物語を呼んでも社会生活に支障を来たす事は無いようです。しかし、通信機械を使ったマス・メディアが登場すると、事態は一変してしまいました。

■テレビも地上デジタル放送になるとかで、視聴者参加型という宣伝文句で視聴者自身をメディアの中に引っ張り込んでしまうつもりのようです。ご用心、ご用心。


大規模な振り込め詐欺グループのメンバーが、交通事故を装い、会社員から総額4700万円をだまし取ったとして、警視庁は千葉県市川市の少年(19)ら2人を詐欺の疑いで逮捕した……立件された中で一人あたりの被害額としては過去最高額。11回にわたって振り込ませたが、会社員をホテルに泊まるよう指示して家族と連絡を取らせなかったため、ばれなかったという。……少年らはほか数人と共謀して昨年12月13日夜から翌14日午後にかけて、横浜市栄区の男性会社員(60)にうその電話をかけ、200万~1千万円を振り込ませてだまし取った疑い。
まず、会社員の長男を装った少年が「大変なことをしてしまった。事故を起こして人をはねた。ごめんごめん」と電話。
続いて警察官役の男が「信号無視で交差点に突っ込んだ。一方的に息子さんが悪い」と説明した。
弁護士役も登場し、「被害者は夫婦で夫は死亡、妻は左足を切断した。保釈金で200万円払って欲しい」と矢継ぎ早に告げた。
臨場感を出すため、電話越しにおもちゃのパトカーのサイレンを鳴らしたり、警察無線の口まねをしたりしていた。
2005年7月6日朝日新聞紙面より


■役者クズレで、煙草の包装フィルムを使って警察無線の物真似をする男をテレビで見た事が有りますから、この少年達も同じ方法を使ったのかも知れませんなあ。トンデモない犯罪ですが、こやつらがやっている事は、小中学校の放送部が作っている放送劇と同じですし、プロが工夫を凝らすラジオ・ドラマにも通じるものです。「オレオレ詐欺」は悪戯電話の延長線上に出現した犯罪でしたが、だんだんラジオ・メディアに近くなって来たのかも知れません。人間はメディアの技術を磨き上げて来ましたが、残念ながらその使い方には習熟していません!しつこく電話で勧誘する商売が根絶されないのは、誰かが客になっているからでしょうし、テレビやラジオのCM収入が無くならないのは、それに乗せられて客になる者がいるからでしょう。最近は、テレビもラジオも番組担当者が、本編なのか宣伝なのか分からない事を言い出すようになりましたなあ。

■こうしてメディアはますます情報と宣伝と詐欺との区別を曖昧(あいまい)にし続けるのでしょう。皆様のNHKなどは可哀想に、自分で自分の宣伝をしているようですなあ。マス・メディアを過信してしまう大衆の弱点は随分昔に暴露されているのですが、その代表例が、若干23歳のオーソン・ウェルズが仕掛けたラジオ・ドラマ『宇宙戦争』でしょう。この天才は、映画の傑作『市民ケーン』を残してくれましたが、何と遺作は『フェイク(偽物)』というドキュメントなのかフィクションなのかさっぱり分からない映画だったと記憶しています。最後まで世間をタバカルことを楽しんだ人でした。そんな人を商品のCMに起用した日本のウィスキー会社が有りましたが、あれはフェイクではなかったようです。

■さて、ラジオ・ドラマ『宇宙戦争』は、1938年10月30日のCBSラジオの「名作シリーズ」という番組の一つとして放送されたのでした。聴いている人達は、いつもの放送時間を楽しみにして「フィクション」を楽しむはずだったのですが、この天才は、番組冒頭の「皆様今晩は、今夜も当番組をお聴き下さりまして、有難うございます。さて、今夜の作品は……」という前口上を無くしてしまったのです。


「臨時ニュースを申し上げます。ただ今○○州の△△市郊外に謎の飛行物体が飛来しました。私は現場に駆けつけて、実況放送をしております。あッ、今、飛行物体から謎の光線が放たれました!あッ、物体から何かが下りて来ます。あッ、あれは……」


と延々と実況フィクションを放送したものですから、聴いていた米国人達もだんだんその気になって、自動車で避難するわ、ライフル銃を持ち出して警戒するわの大騒ぎになりました。あんまり慌てて逃げ出したので、交通事故を起こす人までいたそうですなあ。アメリカ人は馬鹿だなあ、と笑える日本人はいませんぞ!ワイド・ショーの空騒ぎやら、次々と起こって消える「健康食品」ブーム、最後はオウム真理教の宣伝番組まで作るのがマス・メディアで、これがしっかり商売になっているのですから、熱心な客がいるのです。「テレビ・ショッピング」番組がどんどん増えれば、オレオレ詐欺もどんどん増えるのではないでしょうか?

■皆でオーソン・ウェルズの悪戯っぽい笑顔を思い出しましょうよ。彼は「この世に本物なんか無いよ。これは本当だよ。」などと人を食ったような事を言って名作を残しました。私達はメディアの外にいるんだ、と頑張って意識しないと危険です。「わたしもテレビに出たいわぁ」などと言い出す年端も行かない娘がどんどん増えているようでは、詐欺に遭わないメディアとの付き合い方を身に付けるには、まだまだ時間がかかりそうです。因みに、このブログは本物ですよ。

黒澤映画の復習と予習 その17

2005-05-11 12:18:00 | 映画
1961年 『用心棒』
■この映画は、コメディです。声を出して大笑いするようなコメディではありませんが、間違いなくコメディです。リアリズムを追求した時代劇として制作されたので、コメディではないような誤解が生まれ易いのですが、マカロニ(現地ではスパゲッティ)・ウェスタンの怪作『荒野の用心棒』や、最近のハリウッド製『ラストマン・スタンディング』などの非合法・合法リメイク作品を観ると、これが上質のコメディだと分かります。
 コメディですから、異常な人間しか登場しません。舞台となる場所は、ちゃんと「八州回り」も巡回する宿場なのですが、異常な人間しか登場しませんなあ。ヤクザと売春婦、棺桶屋さんと、逃げ出さない理由がさっぱり分からない定食屋兼居酒屋のオヤジ、まあ水戸黄門様の東野英治郎さんだから、常識外れの正義感の持ち主なのかも知れません。
 そして、一番異常な登場人物は、十手を預かりながら、賭博に殺人、拉致に人身売買を全て黙認し、率先してキャリア官僚に対する贈賄に加担する、というように汚職の限りを尽くす「番太のハンスケ」でしょうなあ。この重要な狂言回しの役を演じるのが堺左千夫ですが、最近の世情に引き寄せれば、裏金作りに熱心な警察や、麻薬やピストルの卸し問屋になっちゃった札幌の刑事さんに重なるキャラクターでしょうか。
 穏やかな例を引けば、「空き交番」しかない町とか、ヤクザと妙に仲良しの警察しか居ない地方の市、という事になりますかなあ。チャンバラ場面の迫力が目立ってしまいますが、この作品は社会コメディなのです。

■敢えて、マトモな登場人物を探すと、作品冒頭と、大転換の切っ掛けのシーンと、修羅場の終焉で「おっかさあーん」と泣き叫んでいた夏木陽介君ぐらいではないでしょうか?
 この夏木君のご両親が、実に鋭いジャーナリスティックな評論を、作品冒頭で披露します。


「うめえ物喰ってよ、綺麗な着物着てよお、太く短く生きるんだ、俺ああ」


と、男を売り出しに農家から家出してヤクザの期間労働者(フリーター)になるのが夏木陽介君で、最近の「ネット長者」を持て囃す風潮と響き合うものが有りますなあ。それを腕づくで止めようとするお父さんが、実にコンパクトなコメントを発します。


「どいつもこいつも、楽して儲けようとしか考えねえ。みんな博打のせいだ。サイコロ一つで人の物は手前えの物、揚げ句の果ては、人も物も自分の物も見境が付かねえ。」


「博打」を「IT」に、「サイコロ」を「株買占め」に置き換えると、この作品はぐんと現代的なメッセージに満たされます。株は博打だと、歴史の長い国では良く承知しています。歴史が浅い国、例えばアメリカ合衆国や中華人民共和国のような国では、株と博打が同じだという簡単な理屈が分からないようです。そうなると、日本は歴史が長い国なのか、ぽっと出のサンピン国家なのかの見定めが付きませんなあ。

■「太く短く生きるんだ」と啖呵(たんか)を切った夏木君は、作品の最後で、殺戮の現場とヤクザ社会の実態を見て、桑畑三十郎の一喝を受けて走り去りますが、桑畑に囲まれた実家の百姓家に帰ったのか、火を噴く前の三菱自動車と手を組んで、「パリ・ダカール・ラリー」に出場しに行ったのかは定かではありません。
 画面構成の巧みさ以上に、台詞回しが抜群に面白いので、何十回観ても飽きない作品になりました。とは申せ、この作品は仲代達也が持ち込むピストルばかりでなく、脚本段階から、米国製ウェスタンの影響が強すぎる嫌いがございますな。


「一人斬ろうが、百人斬ろうが、縛り首になるのはイッペンだけだよ!」


と、当時はリアリズムに凝っていた山田五十鈴さんが、息子にヤクザ教育をする場面で、この名台詞を吐きます。何だか、チャップリンの『殺人狂時代』の不朽の名言、「三人殺せば殺人者、百万人殺せば英雄」の裏返しのような台詞ですが、「縛り首」というのは、西部開拓時代の代表的な処刑法ですから、引き回しの上、打ち首、獄門、という江戸時代の司法制度とは合わないような気がするのですなあ。
 正確には「一人斬ろうが、百人斬ろうが、打ち首になるのは一度だけだよ」と、書くべきでしょう。

■後にも先にも、この『用心棒』が仲代達也さんの代表作です。正式なデヴュー作ですが、これ以降、『人間の条件』などの大作に出演している仲代さん。この作品以上の仕事は残していないように思えます。黒澤作品にも数多く出演しましたが、この「卯之助」さん以上の役は貰っていません。三船の「黒」に対照させる「白」のキャラクターが、仲代達也さんにぴったりです。三船の黒い着物と紋付に対抗して、まさか白装束という訳には行かないので、白地に細い縞が入った粋な着流しで走り回ります。
 懐手のままピストルを突き出す所作が、余りにも恰好良いので、ジョージ秋山さんも『浮浪雲(はぐれぐも)』第28巻、遼の巻、第五章『艶吹雪』という作品に、卯之助そっくりの人物を登場させていますし、後のテレビ・シリーズ『荒野の素浪人』峠九十郎の道連れになる鮎京の助とかいう名前の、大出俊さんが演じた白い六連発ピストルを操る男が登場しましたなあ。

■仲代さんは『七人の侍』で絞られたので、二度とお呼びは掛からないだろうと思っていたそうですが、黒澤監督が二度目に呼んだのがこの作品の準主役でした。びっくり仰天して馳せ参じた仲代さんが、最初に要求されたのが、巨大な扇風機が何台も並んで凄まじい砂粒が吹き付ける突風の中に現れるシーンでした。超望遠レンズで顔のアップを狙っている黒澤監督が、手持ち拡声器を通して大声で指示を出したそうです。


「ちゃんと、眼を開けろぉ!眼をぉ」


まったく酷い監督です。仲代さんは必死で、あの大きな眼を開いて無数の砂粒を入れながら、あの形相を作っていたのですなあ。ご苦労様でした。でも、シャープな演出の御蔭(おかげ)で、数々の名シーンが生まれました。

「もっとこっちへ来な!」…バッキューン


この場面は、何度観ても飽きない絶妙の間合いを持っています。この台詞と対照的な、

「あんまり、こっちに来るんじゃねえ」…ビュッ、グサ、ウグゥ


など、黒の三船敏郎を食いそうな白の仲代さんでした。

■「博打ウチの手打ちほど物騒なモノは無えんだ」なんていう、思わずメモしたくなるような台詞が目白押しですから、公開当時は何回も映画館に通った人が多かったでしょうなあ。今は、ビデオやDVDが買えますから、何百回でも楽しめますね。
 三船に「まったく可愛らしい顔をしてんなあ、お前え達は」と言われる面白いファッションの「馬鹿」の中に、自慢の刺青入りの左腕を切り落とされるジェリー藤尾さんや、パンク・ヘアで決めている中谷一郎(人呼んで風車の弥七)さん等がうようよしているのも面白く、反対勢力には三船を見事なフルネルソンで締め上げ、フリッツ・フォン・エリックばりにアイアン・クローを披露する、あの東洋の巨人が出演しています。「十六文キック」や「椰子の実割り」が観られないのは残念ですが、三船敏郎がボロボロにされてしまう場面は、何度観ても凄い!でも、この人はジャイアント馬場さんでないんですなあ。羅生門さんという役者さんです。
 この後に作られた『椿三十郎』が、映画史上初の「バサッ」「ブシャッ」「ドシュッ」という人を斬る音を入れました。ですから、この作品で三船敏郎がバッタバッタと斬り捲くる場面の音が寂しいのは仕方がありません。しかし、本当に「肉」を切る時には派手な音は出ないそうで、黒澤監督は嘘を承知で効果音を探したのでしょうなあ。実際に肉の塊を切ってみても、面白くもおかしくもない音しか出ないので、最終的にキャベツを切る音を利用したらしいのですが、この作品では、刀同士が当たる音も、人を斬る音もしません。

■むくれたり、張ったりをかましたり、最後にニッコリ微笑んで「昼逃げ」する藤田進さんや、他人の女房に異様な欲情を覚える役を演じた志村喬さんの陰湿なスケベ親爺ぶりも素敵です。
 西村晃(二代目水戸黄門)と加藤武さんの凸凹コンビは無くてはならないアクセントです。特に、西村晃さんの「死んだふり」は抜群のコメディとなっていますし、山田五十鈴さんを筆頭に実力派が、大真面目に演じるコメディ映画です。その中で、本当の喜劇役者の山茶花究(さざんかきゅう、よりもヤマサカキュウと読みたい)さんが、冷血なヤクザの親分を演じているのが素晴らしい!本当は、渥美清さんにも、ぞっとするような悪役を一度で良いから演じて欲しかった……。
 それにしても、土屋嘉男さんは、ほとほと情けない男を演じる名人でございますねえ。

最低、三回は観ないと味わい尽くせない傑作です。



黒澤映画の復習と予習 その11

2005-05-04 19:20:22 | 映画
1955年 『生き物の記録』

■これは、黒澤作品の中で唯一のゴジラ映画です。宣伝用のスチール写真にも、ゴジラに踏み潰された自分が経営する鉄工所の廃墟で目を剥(む)いて絶望している初の老け役に挑んだ三船敏郎さんの姿が使われているます。※嘘です※
ここで、東宝映画と世界の原爆関連の動きを並べて見ましょう。狂気の時代の幕開けです!


1945年7月16日、米ニューメキシコ州アラモゴードで史上初の原爆実験
同年8月6日、テニアン島から発進したB29 爆撃機エノラ・ゲイ号、広島にウラン原爆「リトル・ボーイ」を投下。約13万人が死亡 
同年8月9日、テニアン島から発進したB29 爆撃機ボクスカー号、長崎にプルトニウム原爆「ファットマン」を投下。約7万人が死亡
1946年、アメリカが9個の原爆を所有 John Herseyの"Hiroshima"出版され、原爆の悲惨さがアメリカ人に初めて知らされる
1948年、米国50個の原爆を所有
1949年8月26日、ソ連カザフ共和国セミパラチンスクの砂漠で初の長崎型原爆実験
1950年、米国300個の原爆を所有
1952年10月3日、英国がオーストラリア西岸のモンテベロ島で長崎型原爆実験
同年、ニューヨーク市が核戦争に備えて50万人の子供用の認識票を作成
同年11月1日、米国が初の水爆実験
1953年8月12日、ソ連が初の水爆実験
同年12月末、アイゼンハワー米国大統領が国連で「アトム・フォー・ピース」の演説をして、原発の大量利用が始まる
1954年3月1日、米国がビキニ環礁で最初の水爆実験(広島の原爆の1000倍の威力)で「第五福竜丸被曝事件」発生。杉並区の婦人運動から原水禁署名運動が広まり3200万人分の署名が集まる。
同年3月2日、日本初の原子力予算(中曽根札束予算)を予算修正案として提出し、4月3日に自然成立

昭和29(1954)年 『ゴジラ』公開

1955年の秋、ジュネーブで第1回原子力平和利用会議が開催される
同年11月29日、米・EBR-1が炉心溶融事故を起こして後に閉鎖
同年12月、国際連合が国際原子力機関(IAEA)設置を可決

昭和30(1955)年、『ゴジラの逆襲』公開

■この年が『生き物の記録』の公開の年です!

1957年10月4日、ソ連が人工衛星のスプートニクの打ち上げ成功して大陸間弾道弾の技術が誕生
同年10月10日、英国のウィンズケールで稼働中のプルトニウム生産炉で燃料溶融事故が発生し、大量のヨウ素放出
同年12月、ソ連のチェリャビンスクで、軍事用プルトニウム抽出後の再処理廃棄物大爆発(ウラルの核惨事)
1958年、ソ連最初の大陸間弾道ミサイルを設置
1960年、最初の潜水艦発射核ミサイル配備 
同年2月13日、仏国が当時植民地であったアルジェリアのサハラ砂漠で初の原爆実験(プルトニウム爆弾60キロトン)。イスラエルが核計画を密かに開始
1961年、「核兵器の使用は国連憲章の侵犯であり、人類に対する犯罪である」との決議案が国連総会に提出され、以来、ほとんど毎年同趣旨の決議案が出されている。米国は終始反対票を投じているが、日本は第1回には賛成し、その後は米国に気兼ねして、反対か棄権を続行中!

昭和36(1961)年 『モスラ』に続いて『世界大戦争』公開
     
■明治の伝統を守る家長としての責任感が強かった黒澤監督は、国際問題としての核廃絶をテーマにせず、敢えて自分の家族だけは核戦争から生き残る策を考え続ける「生き物」の記録を映画にしようとしました。
演技とメーキャップで老け役を演じた三船敏郎さんは、米国映画の『ジャイアンツ』のジェームス・ディーンと同じように、若々しい動きと声は隠せなかったのですが、それが一種の狂気を表現するのに役立ったようです。全ての台詞が断言口調なので、家長として一族の生命を守る為に、戦後の廃墟からやっと立ち上げて成功している鉄工所を捨てて、ブラジルに集団移住する計画を独断で進める「生き物」は、国際情勢だの政治的な駆け引きなどには構(かま)っていません。情報収集だの分析などの作業は最初から省略です。社会常識も冷静な判断もカナグリ捨てて、一匹の「生き物」となって核兵器から生き延びる方策を一途に考えて決断します。

■「自分だけ生き残るのか?」という非難の声には、不誠実な諦観(ていかん)と無責任な共謀の押し付けが隠されています。「核との共存」などと言う学者と政治家のメシの種に付き合っている暇は無い!と、自分の血族を率いて生存確率が最も高い場所へ逃れる事。
それが狂気なのか、裏づけの無い「折り合い」を付けて生きているのが狂気なのか?
唯一の地盤産業が核関連の企業である場合、雇用と経済効果を優先すれば、万一の事故を覚悟していなければなりません。そして、それが起こった時、国民がこぞって援助と同情を寄せるような事は無いことを、これまでの核事故が教えています。日本人は、地震や台風のように、放射能汚染を一種の天災として受け止めます。
それは、第五福竜丸事件(結局、原爆マグロという食い物の騒動でした!)長崎、広島へと遡(さかのぼ)って、日本人は「あやまちは二度と繰り返しません」という一文で、それが人災なのか天災なのかを区別しないまま忘れました。千羽鶴と鐘の音が、一体何を変えたのか?変らないのなら、自分の家族だけでも核分裂の爆風と高熱と放射能汚染から守ろうとする「生き物」の動きに注目しなければなりますまいなあ。
この作品と初回の『ゴジラ』を併せて観ると、ゴジラが象徴しているモノが見えてくるような気がします。海からやって来る核の災厄を止める方策が見つかっていない日本人は、ひたすら逃げ惑います。専守防衛の武力を並べては、ゴジラの放射能熱線に焼き尽くされてばかりいます。この世に核が有る限り、ゴジラは何度でも日本にやって来る。シリーズ化されてからも、このメッセージが繰り返されていましたなあ。

■カトリック教徒でもあった特撮監督の円谷英二さんが作った『世界大戦争』は、朝鮮半島の緊張から全面核戦争に発展する様子を画面に出現させています。フランキー堺と音羽信子さんの御夫婦が、核に焼かれる東京に留まるシーンは、一度観たら忘れられません。国会議事堂が核の炎で「焼き潰される」シーンと廃墟となった東京の撮影ラッシュを観た円谷さんは、その出来の良さに自分が恐怖に陥ったそうです。ですから、この作品は『ゴジラ』と『世界大戦争』と三本セットで観るべきなのです。ビデオ屋さんが増えて、本当に良かったですね。核が降って来ない内に、大切な人と一緒に観ましょう。