旅限無(りょげむ)

歴史・外交・政治・書評・日記・映画

詐欺師に喋らしちゃあ行けねえよ

2005-07-30 17:29:11 | マスメディア
■テレビ局には、アナウンサー、キャスター、アンカーマン、放送記者、インタヴュアー、レポーター、コメンテイター、タダの埋め草などなど、「喋ってなんぼ」の人々が沢山働いているのですが、随分と下手くそなアナウンサー、尤もらしいだけで無内容なキャスター、自分好みに強引過ぎるまとめばかりするアンカーマン、聞いている人の立場を考えない放送記者などが増えてしまったようですなあ。「アノ人の声、アノ人の日本語を聴きたい」と思ってテレビのスイッチを入れることなどめっきり減ってしまいましたなあ。専門家の貴重な御意見を聞けるのも、昔は楽しみでしたが、何だか最近は、単なる出たがり屋さんの事を専門家と呼ぶような傾向が強くて、余り参考になる話も聴けなくなりました。

■言葉を商売道具にしている人たちが、大きな誤解をしているのが気になります。見て来たようなウソ?を付くのが「講釈師」の仕事で、それは大昔から変りません。下らないヨタ話や宣伝がましい「旨い話」を大口開けてくちゃくちゃもぐもぐやりながら垂れ流しても平気な神経は大したものですが、犯罪に関係する報道の分野にも出しゃばるのならば、それなりの覚悟が必要ではないでしょうか?オウム事件の端緒となった弁護士一家皆殺し事件の手助けをしたTBSというテレビ局は、「もう報道関連のワイド・ショー」はやりません!と宣言して、ずっと御家庭の主婦の皆様に耳よりな情報を提供する府抜けた朝番組を作っていたようでしたが、うっかり、昔の罪を多くの日本人が忘れていると舐めてかかったのか、突然『朝ズパッ』などという早朝から実に喧しく脂っぽい、それもやたらに説教がましく取って付けたように悲憤慷慨するワイド・ショーを復活させましたなあ。あの時[TBSは死んだ」と名言を吐いた筑紫さんは今でも元気に毎晩、生きているのか死んでいるのか分からない話をしているようですが、いよいよTBSは「オウムは忘れられた!」と判断したのでしょうか?

■そのオウム真理教の事件で、大失敗したはずのマスコミ各社は、余り学習していないようですなあ。犯罪を報道する場合に、「再現映像」という手法が使われますが、それは作り事であるから放送出来ます。しかし、テレビの速報性が競われるようになると「生映像」の需要が高まって、苦し紛れの「ヤラセ」事件を起こしてしまいます。テレビ朝日が『アフタヌーン・ショー』という午後のワイドショーが暴走族を取材した時に、一発のヤラセ事件で番組が吹き飛んでしまったのが最初だったのではないでしょうか?演出とヤラセは取材現場では区別し難い事が多いそうですが、放送しているテレビ局はどんどん偉くなって、立場の弱い制作会社に丸投げして苛めるので、現場ではつい受けを狙って過剰な番組を作りたくなるようです。

■それでも取材対象を分かり易く伝えたいという動機が有る限りはある程度の演出は許されるべきでしょうが、犯罪を宣伝しては行けませんなあ。例えば、連続殺人事件を起こしている凶悪犯に接触した取材スタッフが、「もう一回カメラの前で殺人をして見せて下さい」と要求すれば、これは間違いなく殺人幇助罪が成立するはずですが、困るのは詐欺師の場合です。殺人犯の武器は刃物や鈍器、ロープや電気コード、まあ素手という事もあるでしょうが、放火魔はライターが武器です。では、詐欺師の武器は何なんだ?と落ち着いて考えれば、それが「言葉」だと誰でも分かります。オウム真理教も元々はヨガ教室から詐欺集団に変身してテロ集団に成長したのですが、町のヨガ教室だったら皆様のNHKでも取り上げら得る微笑ましい内容の番組になるでしょうが、超能力だの悟りだの、世界が終わるだのという話になったら要注意です。

■世の中には、可哀想なくらいにテレビを信用して暮らしている人が沢山いるのです。最近も世間からトコロ天が消えたそうですなあ。いくつものテレビ局が競って宣伝したからです。午後に放送している日本テレビのワイド・ショーでみのもんたさんが口にする食材がその日の夕方には品薄になるという噂も有ります。それくらいにテレビを信用して生活を変える人々が多いという事です。そうなると、詐欺師を糾弾する目的で制作された番組を、宣伝と勘違いする困った人が現れてしまいます。大流行したピッキング窃盗を取材した番組は、肝腎の道具や具体的なやり方が分からないように画面処理していましたなあ。ところが、詐欺事件となると厄介で、詐欺師が商売道具にしている口元に、マイクを差し出す馬鹿者がいるのですぞ!これは犯罪ではないのですかな?正当な情報提供だと言い張るならば、ピッキング窃盗のやり方も詳しく報道すべきでしょうし、殺人事件の再現ももっと生々しく気分が悪くなるようなリアルな表現手法を存分に使えば良いでしょう。

■或る詐欺マルチ商法の首謀者にインタヴューする場合に、その商品の効能を喋らせたらそれは宣伝番組でしょうし、世界を変革する運動を看板にしてマルチ商法をやっている詐欺集団がいれば、その商品に「宇宙エネルギー」が注入されているという宣伝文句を放送したら、それは又とない詐欺商売の手助けになります。おまけに怪しげな仮装大会やら裸踊りやらを放送すれば、見物人を呼び込んでいるようなものでしょうに!怪しげな薬を売っているのなら、薬事法違反の疑いで取材するだけで充分でしょうし、無理やり変な石を売りつけられて借金地獄に落ちている人を救済する目的ならば、石の価値と販売方法の問題点を淡々と指摘すれば済むはずなのですが、詐欺師ほど見世物として面白い人間はいませんから、テレビ局はいつでもまんまと詐欺師の詐欺に引っ掛かって、自分も詐欺の片棒を担がされてしまいます。「元々、テレビ局自体が詐欺みたいなものだろう」などと言われたら、ジャーナリズムも報道機能も崩壊してしまいます。

■現在でも、海外のテレビ局が制作した重量感溢れる有益なドキュメンタリー番組を衛星放送で観られるのですから、間も無く、ヨタ話は地上波で眉に唾を付けて暇潰しに眺めて、必要な情報は海外からの衛星放送かネット検索で手に入れるという棲み分けが起るかも知れませんなあ。現実に、もうそうしているよ!という声も聞こえて来そうですなあ。ねずみ講やらマルチ商法やらが大規模な犯罪に育ってしまったのは、テレビ報道の効果が多かった事をもっと真面目に反省しないと大変な事になってしまうでしょう。所詮、テレビの中での話だ、と斬って捨てられるような報道をしていると、何を信用して良いのか分からない社会不安が高まって、夢も希望もない真っ暗な世の中になってしまうでしょうなあ。テレビを消して町に出ると、何とまあ詐欺めいた話の多いことか!食べる物を買おうと思えば、産地の表示も賞味期限もウソだったり、「健康になるかも知れない」程度の商品が色取り取りの宣伝文句で飾り立てられて万能薬のような錯覚を起こしそうです。まあ、洗剤や歯磨き製品などは何十年も前から同じような効果を宣伝しながら、新製品を次々と発売しているのですから、日本人は宣伝自体を信用しなくなっているのでしょうが、テレビ自体が商品テストをする番組をちゃんと作れば大いに助かります。

■米国で楽しんだその種の番組が有って、感心したものです。燃費の良さを宣伝している自動車に、本当に1リットルだけガソリンを入れて走って見たり、ハンバーガー店の宣伝写真と実物を並べてアップで比較撮影しりするし、脂汚れがすっきり落ちると言う洗剤を使って本当に使用済みのバーベキュー用品をごしごし洗ったり、まあ、演出も上手なのですが、司会者がいつも本気でウソ宣伝に腹を立てたり、逆に宣伝内容が真実だと分かると、信用しない視聴者を挑発したりする番組でしたなあ。日本は、去年までニュース原稿を読んでいた人が、「お得な保険」の宣伝をしていても誰も変だと思わない国になってしまいましたなあ。宣伝ではなくて情報が欲しいのですがね。
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本当に孤立するのか日本は?

2005-07-30 16:13:43 | 外交・世界情勢全般
■憲法制定問題で四分五裂になりそうな気配だったEUが、ロンドンで起きた爆弾テロに関連して再び団結を示すような動きを見せました。その勢いで北アイルランドの分離を求めて武装闘争をしていたIRAが一切の暴力的闘争を止めると発表しました。宗教闘争の性質を持っているアイルランド問題は、同じ神の名を掲げて似た者同士の殺し合いでしたが、更に異質で凶暴な敵が出現すると、互いの違いよりも共有している点が意識の全面に出て来るのかも知れませんなあ。ロンドン市民が平静を守って通常の生活を続けているという報道の一方で、やはり逃げ場の無い地下鉄を利用する人が激減とのニュースも有ります。世界で最初に地下鉄を造った誇りがシボンでしまったのは可哀想ですが、驚愕が憎悪に変って執念深い犯人探索が始まったのは腐っても鯛というところでしょうか?

■医師や弁護士などの専門的な資格を共通化しているEUは、警察部門の共通化も進めていたようです。まだ、EU全体は管轄するFBIのような組織は出来ていないようですが、捜査情報の共有化だけでも絶大な効果が上がる事を証明することになったようです。


ロンドンのテロ実行犯が伊で逮捕された裏で、01年の米同時多発テロで欧州連合が新たに導入した共通逮捕状が効果を上げた。EU共通逮捕状はEU間の容疑者引き渡し手続きを簡素化したもので、司法省や検察の許可がなくても裁判所の許可で拘束できる。昨年から各国が導入を開始、伊は4月に導入したばかりだった。

ロンドン市民の活発な情報提供も大いに助けとなっているとの報道も有りますから、市民は打って一丸となっているのでしょうなあ。IRAが武装闘争を放棄して「自分も仲間だぜ!」と言わないとエライことになりそうだと慌て出したのは、事件発生直後に犯人と疑われた事とこれからもテロが頻発しそうな気配に反応した結果でしょうが、テロリストを生み出している元凶と見られるのを拒否する動きも早々に起りました。


エジプトのムバラク大統領は28日、アラブ諸国の首脳に対し、23日に連続爆破事件で少なくとも64人が死亡したシャルムエルシェイクで会議を行いたい、との招請の意を伝えた。
 大統領は演説で、「アラブ諸国による特別首脳会議の開催を求める。実施はシャルムエルシェイクで、8月3日を提案する」と述べた。
 大統領は、イラクやイスラエル・パレスチナ情勢について、懸念される点が見られるとし、こうした問題についてアラブ共通の立場を打ち出す緊急の必要があるとの見解を示した。
 アラブの外交関係者によると、エジプトはイスラエルが来月にガザ地区のユダヤ人入植地撤退を開始する前に首脳会議を行いたい考え。

■大統領として次の第五期も仕事をしようと思っているムバラクさんですから選挙対策の臭いぷんぷんの発表です。しかし、転んでもタダでは起きない食えない人らしく、「我々はテロの犠牲者だ!」と世界が事件を忘れる前に、テロの現場でパフォーマンスをやってしまうというのは見事な決断でしょう。この召集に応じない事は、そのまま世界中に「テロの味方」という印象を与えますから、こぞって参加するでしょう。犠牲者であったからこそエジプトは指導的立場を確保出来たわけで、外交の世界では強い者が必ずしも上に立てるという訳ではない事を改めて示してくれたようなものです。パレスチナ政府からも出席せざるを得ないこの会議は、イスラエルも陰で支援するでしょうし、ひょっとするとムバラクさんは意外な業績を残せるかも知れませんぞ。

■欧州とアラブの二つの動きを見るにつけ、今もだらだらと北京で続けられている六者協議の混乱と下手くそぶりが対照的に強調されてしまったような気がします。地下鉄爆弾テロ事件は誰の目にも犯行内容が明らかですから、警察と市民が瞬時に協力体制を作り易いのに対して、ニ十年以上とも言われる長期間にぽつぽつと国民が忽然と消える事件だった北朝鮮による拉致事件は、初動捜査の甘さから今更全てのデータを集めて仮想的に被害者の人数を計算しようとしても無理なようです。地元では海上に不審な船が浮かんでいる時に、人気の無い海岸で暴行事件が起こっていると多くの人が知っていた25年前、その地元の警察は田舎の暢気さで背景となっている大事件には気付かず、東京の警察庁でも縦割りに加えて地方警察署の横割りピラミッド構造に胡坐をかいて大規模な情報収集など一切していなかったのですから、今更単なる家出だったのか別の事件に巻き込まれたのかを選別して拉致被害者の数を特定するなど、とても出来ませんなあ。

■今回のロンドンで犠牲になった54名とも言われる数に比べて、もっと多い日本人が拉致されている可能性も有り、100名を軽く越えると言う人までいるのに、北朝鮮と聞けば「触らぬ神に祟りなし」と言って済ましていた悪い伝統を守っていたマスコミ・公安警察・政治家のトライアングルが、30年近いブランクを生み出しましたなあ。今、北京の会議場でアホ面を並べている外務省のお役人は本当に可哀想で、その姿は哀れを誘います。拉致被害の実態を示す数字も持たず、重要人物が偽造パスポートで入国しても直ぐに釈放してしまうし、米国の注文通りにほとんど当たらない高額なミサイル迎撃システムを導入してドブに捨てたような開発費の一部を肩代わりするような防衛計画を見せ付けても、幾らでもスキが見つかるので相手はぜんぜんビビリませんなあ。

■ボランティア組織の中には北朝鮮国内にしっかり協力者を作って、中朝国境を通して映像情報やら機密書類やらをどんどん持ち出しているのですから、国家の機密費を正しく使って現地に協力者のネットワークを作り上げるのはそれほど難しい事ではないように思えます。要は、自分の部署ではそんな仕事は出来ません、という御役人の論理と、票にもならない事に興味は無いよ、という政治家の算盤勘定がくっついて、海外謀略活動をする役所を誰も作らないまま、国家そのものが謀略機関になっているような国の隣でのほほんと暮らして来たツケはとても払いきれるものではありません。北朝鮮に送金されたといわれる莫大な金額には、踏み倒された税金が沢山含まれているのですから、これをずっと見過ごして来た日本政府は、経済制裁どころか、長年に亘って世界最大の経済援助国を演じていたのです。

■確かに、「我々は怒っておるぞ!」というメッセージを込めて経済制裁を実施するのは大切な事です。しかし、それは日朝首脳会談をする前に発動して、その後の交渉として会談を行なうというのが順序でしょう。まったく逆の順番で外交を進めれば、相手は徹底的に甘く見て来ますし、弱みをさらけ出すような外交姿勢を示し続ければ、いつでも料理の出来る相手として無視されてしまいます。まだ半島の南北対立が厳しかった頃に、韓国と日本が拉致被害という一点で手を結べた可能性も有ったのに、すぐ隣の国を見誤りましたなあ。日本は隣さえも理解しないかと思えば、実は自分の国の事もすぐに忘れるらしく、60年代に腐るほど作られたドロドロの「昼メロ」をそっくり真似して製作されている韓国製のドラマに新鮮な感動を覚えて大喜びする始末ですからなあ。

■韓国の人も日本人と同じように恋愛と家族の事を悩んでいるんだなあ、などと当たり前の事を再確認して感心などする前に、自分の感情の中に妙な既視感を見つけておけば、知的所有権を言い立てて「パクリだ!」などと無粋な事は言わう必要も無い余裕の態度で、「韓国もいよいよ60年代を卒業するのだなあ」と分析すべきだったのではないでしょうか?そんな作り直しを輸入したかと思えば、日本側でも昔のTVドラマを作り直して赤っ恥をかいているのは残念です。日本が集団的無意識の中で「昔は良かった」と思い込んで安心しようとしているとすれば、これは大きな問題ですなあ。その肝腎な昔の事をすっかり忘れているのですから、昔の何がどんな風に良かったのかなんて誰も知りません。無責任なノスタルジーの暴走は、とても危険です。

■六カ国協議の中で、日本と韓国が本当に仲が悪いという姿を世界に晒したのは大失敗で、素朴に「金持ち喧嘩せず」の余裕が出来た韓国には時間的にも心情的にも後が有ります。自国民が拉致されようと工作員がうろうろしていても、同族意識で誤魔化しながら、北朝鮮が暴発したり巨大な難民の群れを生み出さないように、薬や点滴を打ち続けて生かし続けて時間稼ぎを続けるでしょう。自分一人では手に負えないので、中国とロシアに協力を要請して、北朝鮮とは近しい他人として付き合う作戦を取っているようです。しかし、日本は核が完成すれば最初のお披露目に狙われるに違いない立場で、四半世紀の間に拉致だの脱税不正送金だのを放置して、実質的な援助国だったのに、突然敵対し始めるのは唐突で、それも日本が豹変した理由となる具体的な事件など無かったのですから、世界の国々の理解を得るのは不可能でしょうなあ。

■「最近気が付いたのですが、どうも北朝鮮という国はトンデモない国なんですよ」と拉致被害者家族の皆さんが、北朝鮮とアホな政府の犠牲者として海外行脚をしながら訴えるのは、歯がゆい事ですが正しい行動です。しかし、同じようなことを、国の代表があちこちで吹聴して歩くのは醜悪そのものです。「おまえはアホか?」と問われたら、「そうです。アホなんです。だから、助けて下さい。」としか答えられないじゃないですな?嗚呼、恥ずかしい!ロンドンでは、テロの実行犯を一網打尽にして、その背景となるパキスタンや東アフリカへも調査が入っているのを見せ付けられますと、我が国が世界初の地下鉄テロの被害者となったオウム事件がやはり思い出されます。テロリストとして指名手配された犯人がまだ捕まらず、警察庁長官が狙撃されてもその犯人は何処かで笑っているのです。事件の全貌が解明される事もなく、尊師の麻原は拘置所の中を糞尿まみれにして裁判自体を無意味なものにしようとしています。人権だの善隣外交だのと言っていられた時代が懐かしい。今宵も、60年代に造られた日活清純恋愛映画をビデオで観ながら、韓国ドラマのパクリネタを寂しく探してみませうか?

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無理が道理になる事も有る

2005-07-29 10:27:55 | 外交・情勢(アジア)
■見物人がいる場所で口喧嘩や討論をする時に、一番上手なやり方は、誰が聞いても正しい事・喜ばしい事と思うに違い無い事を皆さんに聞こえる大声で発表して味方に付けて、実は自分が一番得をするように仕向ける事でしょう。皆が「そうだ、そうだ」と言っている時に、一人だけ違う事を言うと、その内容ではなくて言った事自体が悪者扱いされる理由になります。今回の六カ国協議の流れで言うと、「核兵器の開発を止める(かも知れない)」と言っている北朝鮮と、「それなら話し合いましょう」と言う米国は他の三国から「それは良いねえ」と評価されています。そこで、「(我が国だけが被害に遭っている)拉致問題も宜しく」などと言い出すと、自分の事しか考えないヤツだ!我がままだ!視野が狭い!邪魔するつもりか?会議に参加する資格がない!と言われてしまいます。

■そこで、「日本は放って置きましょうかねえ?」と誰かが言い出せば、そうだ、そうだと話が一方的に決まってしまいます。こうなると、会議はどんどん前のめりになって皆は楽観的になって先ばかりを見るようになりますから、誰かさんは上手に過去の罪を議題から消し去る事に成功します。元々は、核兵器の拡散を心配している米国が国際的な闇取り引きの元締めみたいな国が物騒な物で商売している内に核兵器まで売り出しそうだと知って慌てた事から、六カ国協議が始まったのに、闇取引の全貌を解明して皆でそれを糾弾しようという方向には行かずに、とにかく核兵器だは売り出さないように歯止めを掛けようという一点に話は集中します。偽札だの麻薬だのは小さな問題のような扱いになりますから、こうした各国が長年摘発に熱心だった犯罪についてさえ話し合わないのですから、自分がマヌケだったばかりに国民が拉致されて何十年も放って置いたような国の心配など誰もしないわけです。

■それに、北朝鮮は更に役者が一枚も二枚も上で、「半島の非核化」という誰も賛成するに決まっている言葉を持ち出しましたから、日本は既に用済みで「一体、何でそこに座ってんの?」という視線をちらちら送られるくらいで、ほとんど無視されているのではないでしょうか?


北朝鮮の金総書記は最近、訪朝した韓国や中国の高官に「朝鮮半島の非核化は金日成主席の遺訓」と述べた。27日の基調演説でもこの「遺訓」が真っ先に掲げられ、同時に「(非核化は)最高首脳部の確固とした意思」として、名前は伏せたものの金総書記の言葉と暗示させた。毎日新聞 2005年7月28日

現時点でも使用可能な核兵器は確認されていないのですから、金日成時代ならば尚更核兵器など持っていない北朝鮮が言う「半島の非核化」はそのまま「韓国の武装解除」と同義でしたし、その発言の真意は核以外の通常兵器による「第二次朝鮮戦争」に勝利する事だったはずで、軍事政権時代の韓国はそんな馬鹿馬鹿しい話を無視していました。それに当時は日米韓の集団防衛体制を前提としていましたから、韓国は最低限度の軍事力を備えていれば良かったので、民生部門にも国家予算を注ぎ込めました。しかし、北朝鮮側は最終的に一緒に戦ってくれる国は無いので、単独で戦い抜くための準備を50年以上も続けて来ました。

■そして、中東戦争の実戦やパキスタンでの核実験に参加しながら、日本を利用した謀略戦争も続けていた北朝鮮は常に準備OKでしたが、やはり気になるのは米軍が持っている核兵器体系でした。第一次朝鮮戦争の時は、マッカーサーがB29で原爆をぽいぽい播こうとしたらクビになったのですが、今は地球の裏側から原爆が飛んで来ますし、ちょっと離れた島からジェット機で原爆が運ばれるし、海から巡航ミサイルが飛んで来るので、開戦当初は電撃戦でソウルを火の海にして、またまた釜山まで一気に南下しようと思ったら平壌に幾つもキノコ雲がにょきにょきと立ち上がってしまうのでは引き合いません。これでは動けませんなあ。そこで、こんな事を考えたのではないでしょうか?こちらは木刀とナイフを持っているけれど、相手は機関銃を持っていて喧嘩が出来ない。「その機関銃を捨ててくれ!」と言っても相手は無視するばかりなので、こちらも機関銃を持って、「ねえ、イチニのサンで一緒に機関銃を置きましょうよ」と言えば、相手は無視出来ないだろう。

■それを聞いた相手は、「お前、本当に機関銃持ってんの?」と聞いて来るようになりました。持っているフリをしているのか、本当に持っているのかを確かめるには撃ち合ってみるのが一番ですが、これは付き合えない賭けですから、「最初に機関銃を見せろ!それから捨てろ!」と米国が本気になって言っています。こうして取り引きが始められましたから、「その前に、絶対に喧嘩しないと約束してくれ!機関銃を持たなくても暮らせるようにしてくれ!」と条件を出せるようになりました。こうなると、「一緒に機関銃を同時に捨てる」という素敵な発言が人気を得ますなあ。米国も「ヤダ!あっちが先に機関銃を捨てないなら話には乗らないぞ!」とは言いづらくなってしまいました。こうして、「半島の非核化」の意味がまったく違う意味になりました。上手ですなあ。

■我が日本は、口先では「拉致問題も忘れないでね」と言いながら、腹の中では「日朝国交正常化した人」として歴史に名を残したい役人と、日本国内では払底している川砂やら鉱物資源やらの利権を握って権力と甘い汁を吸いたい政治家が結託してうごめいていたので、本心では「拉致問題なんか邪魔だなあ。」と思っている事を見透かされているのではないでしょうか?日本が本当に怒っているというニュースも情報もぜんぜん無いのだから、それを支援しても国益になりそうには無いし、万一、噂通りに100人以上が拉致されているとしたら、何処の国だってこれを解決するには戦争を覚悟するに決まっているのですから、もたもたしている日本の様子を見ていると、本当はどうでも良いと思っているんだろうなあ、と考えている国が多いでしょうなあ。

■世界的に米国のやんちゃぶりが目立って、米国が居ない方が物事が上手く行くような気分が広がっていますから、韓国は米国嫌いになると同時に、北の同胞は可哀想だと思うようになるし、その内一緒に米国と戦おうとまで思い込む人も出て来たようです。どう考えても、嫌いな日本と米国に助けて貰いながらもう一度朝鮮戦争をやるのは理屈に合わないし、感情的にも納得が行かないでしょうから、六カ国協議では北朝鮮の肩を持つ立場を取りますなあ。米国にしたところで、何としても韓国の世論を味方に付けようとは思っていませんから、日本が米軍出て行け!と言い出さない限りは北朝鮮に核兵器を捨てさせる事だけに集中します。

■そして、案外北朝鮮が上手くやっているので、極東での米国の影響力を減らしたい中国とロシアは、「北朝鮮の言う事も分かるなあ」という態度で協議に参加しています。どう考えても、現状でも韓国・中国・ロシアは自分達は核ミサイルの標的になるはずは無いので、北朝鮮はまんまと米朝二国間の直接交渉を三つの国を味方に付けた形で実現出来るというわけですなあ。早々と韓国は「北朝鮮に電気を送ろう」キャンペーンも始めているので、このまま北朝鮮ファンクラブが結成されれば、主体性も無く追随する日本は、恥の上塗りになるとは分かっていてもクラブ会員になって、一番高い会費を支払う事になるはずです。もしも「冗談じゃないぞ!何で拉致被害者も返してくれない国に金を払わねばならんのだ?」などと正論を吐いたりすると、米国でさえも「日本は我がままだなあ」と言い出すでしょうなあ。

■よくぞ、ここまで自分を不利な立場に追い込んだものだと感心してしまいますなあ。これが国際信義に信頼して手に入る「名誉ある地位」なのでしょうか?変な話ですが、拉致問題が発覚したのと年金の不払いが急増したのは時期が重なっているような気がするのです。要するに、この国は最終的には国民を見棄てるんだなあ、と皆が実感してしまったのではないでしょうか?役人は省益と天下りと裏金、政治家は選挙の票と特別年金、大企業は経営幹部だけの利益、大学は学生の数、という具合に空中分解して勝手に利益を確保する競争をしているのですが、甘い汁には限りが有るので、どうも自分はその分け前は貰えそうもないなあ、と思った日本人はすっかり脱力してキレ易くなって、陰湿にイライラしながら暮らしているような気がします。

■元気なのは、大企業の経営幹部になるぞ!石に噛り付いても公務員になって裏金稼いで天下りするぞ!と考えている若者くらいではないでしょうか?中にはアニメ映画を作って稼ぐぞ!とかオッパイを大きくして有名人になるぞ!と思って張り切っている若者もいるのかも知れませんが、社会や国家などの大きな物に対する帰属意識や、守られている感覚が無くなってエゲツなく稼いだヤツが賢いという思い込みがあちこちに蔓延しているようにも見えます。そんな嫌な気分が子供を少なくしたり、役人達を開き直らせて「どうせ信頼なんかされていないんだから」と外交も内政も身が入った仕事が出来なくなってしまっているようですなあ。元気の源を取り戻さないと、楽しく暮らせるようにはならないのですが、そんな事を考えていると、妙な奇跡の薬(粉末)だの、世界革命ごっこしながらマルチ商法だの、変な物に魅力を感じてしまう危険が有るようなので、気を付けたいものでございます。マスコミの垂れ流し報道に乗せられると、またしてもオウム騒動の時と同じ恥を世界に晒すことになりますから、無理と道理を区別しようと気を張っていないと大変です。騙され易い外務官僚を馬鹿にする前に、「アノ人も日本人なんだなあ」と考えるべきでしょう。どうも詐欺に弱い国民性が気になりますなあ。

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数字は便利なウソを言う?

2005-07-28 20:36:04 | 社会問題・事件
■「君子は豹変す」と言われますが、年金改正問題が話し合われていたほんの二年ほど前までは、特殊出生率は改善して日本の人口は安心できる水準で下げ止まる、と言っていた厚生労働省が、今度は財務省と歩調を合わせて「もうダメだ!」と言い始めたようです。国立社会保障・人口問題研究所という国家の根幹になる人口動態を専門的に研究している機関が有りまして、社会保障制度を策定する前提となる数値を定期的に発表して下さいます。研究者も官僚も、ここから発表される数値を引用してあれこれと予測を立てるわけですが、案外、この研究所の方々はいつも慌てず騒がず、ちょっと他人事のように数値を発表しているような印象を持っています。

■それにはちゃんとカラクリが有って、発表される数値は、常に三種類用意されているのですなあ。俗に言えば、「こんなに増えたら良いなあ」という希望を叶えられる数値で学問的にウソにはならない程度の高めぎりぎり、それから「まあ、この辺りが妥当ではないかなあ」という足して2で割ったようなド真ん中の数値、そして三番目が「こんなにちょっとしか増えなかったら大変だあ!」という低めいっぱいの数値です。ですから、どの数値を取り上げるかでぜんぜん話が違ってくるわけでして、どうも、変だぞと言われだしてからも、ずっと厚生省は高め予想を強気で採用し続けている間に、年金積み立て資金の流用やらグリーンピアやらの天下り機関をせっせと作ったり、「余った資金」を役所の必要経費に存分に使って良いよ、という法律を制定してお手盛り行政を楽しんでいました。

■ところが、長引く不況やら慢性の「リストラ」と正社員の採用数の激減などで、とてもじゃないけど昔の通産省が描いていた男が企業の正社員で、奥さんが専業主婦、子供は二人という「標準家庭」なんかは作れなくなっても、しばらくの間は厚生省は強気でしたなあ。三回連続で定期的(5年に1度でしかな?)に発表していた予想値の低めぎりぎりと合致しても、粘り腰で「必ず上向く」と言い続けたのでした。それが、突然、総務庁の方から、最低値を採用して「もうダメだ!」という数値を発表し始めましたぞ!

男性初の減、総人口伸びも最低…人口減社会足音間近に

 総務省は27日、住民基本台帳に基づく人口調査結果(3月31日現在)を発表した。男性の人口は6207万6658人で、前年同期に比べて1万680人(0・02%)減り、1968年の調査開始以来、初めて減少に転じた。
 総人口の伸びも前年同期比0・04%増と過去最低の伸び率で、日本の経済成長や社会保障制度などに大きな影響を及ぼす「人口減少社会」の到来が間近に迫っていることを浮き彫りにした。
 総人口は12686万9397人で、前年より4万5231人(0・04%)増加した。増加数と増加率はともに過去最低だった前年を下回り、さらに鈍化した。
 04年度の出生者数は110万4062人。出生者数から死亡者数を引いた同年度の自然増加数は5万2980人で、いずれも79年度以降の比較可能な調査で過去最低だった。総人口に占める65歳以上の老年人口の割合は、前年比0・48ポイント増の19・72%で、過去最高を更新した。15歳未満の年少人口が0・12ポイント減の13・91%、15~64歳の生産年齢人口が0・36ポイント減の66・37%で、少子高齢化も進行している。人口が減少に転じたのが群馬、京都、大阪の3府県。減少自治体は計35道府県にのぼった。総人口のほぼ半数を占める3大都市圏のうち、関西圏(京都、大阪、兵庫、奈良)は0・004%減と初めてマイナスに転じた。(読売新聞) - 7月27日
 
 
■この記事には三面に続きがありまして、国立社会保障・人口問題研究所の推計として、2030年には1000万人の人口が減って、1億1758万人になって労働力人口はそれ以上のスピードで減少。どさくさに紛れて厚生労働省は、社会保障費全体の負担は2004年度の85兆円から2025年には168兆円になるぞ!と言い出していますぞ。「100年安心」だった年金改革は何だったのか、小泉首相は知らんぷりして、最前線を離脱して、一人で本丸の郵政民営化に攻め込んで選挙ゴッコに熱中しているようですなあ。思い出したように「財政の健全化」を言い出していますから、外務官僚にダマされたので、今度は旧大蔵官僚の話を聴くようになったのではないでしょうか?小泉さんは、初当選から長年大蔵委員会でお役人さん達と仲良しになっていたはずです。厚生大臣をしていた経歴は無かった事にしているようにも見えますなあ。

■火を噴き始めたアスベスト禍は30年も前から予測されていたのですから、小泉厚生大臣も知らんプリしていた大臣の一人ですし、人口問題に取り組み損なった大臣の一人でもあるのですが、その前任者だった菅さんはカイワレ大根をむしゃむしゃ食べたり、薬害エイズに関連した「無かったはずの」資料を発掘したりしてちょっと仕事をしたものでした。それでも、年金問題もアスベストも放って置いたのは同じでしたなあ。どこのお役所も本気で取り組んでいませんが、無気味に増え続ける自殺者の数と大金を使って進めていた癌撲滅にしても、胃癌が減って今度は肺癌だあー!と言って禁煙運動をばんばん進めていますが、これまで通り、「煙草を止めて肺癌予防」に予算をじゃぶじゃぶ使っても良いのでしょうか?これまでは、「煙草でなければ原因はストレス」と言っていれば済みましたが、これまで肺癌と診断されてお墓に入ってしまった方々の肺にアスベストが無かったかどうかは分かりませんが、これから「中皮腫」患者がが肺癌に迫るような事になったらどうするのでしょう?

■保育園と幼稚園の縄張り争いで働きながら子育てが出来るように努力もしなかった役人と政治家がいましたし、何より土地を高騰させると同時にローンで住宅を買わせようとバブルを煽った人達は、今、ローン返済で子供を持てずに困っている人達の声など聴かないでしょうし、身近に突然失職して人生設計が崩れ去って身動き出来ずに絶望している人を見てしまって、とても怖くて一家を構えられないと怯えている人々の不安も分からないのでしょうね。人口増加が止まって減少フェーズに入ると同時に団塊の世代の皆さんが、「ご苦労様」と有利な条件で年金生活にどっと入る2007年が問題とされていますが、それより前に、増え続けていた貯蓄が減り始めているのですから、既に破綻している年金が本当にパンクした時に発生する膨大な生活保護を申請する人々の群をどうやってさばくのでしょうか?

■或るブログには、某政党が熱心な支持者を確保するために生活保護の不正受給を政治力を使った助長しているなどというトンデモナイ話が掲載されています。税金の無駄遣いが「皆でやれば怖くない」時代は随分昔に終わっているのに、なかなか「構造改革」は進みませんなあ。あちこちで改革が実現しないのは、人口問題と同じように、統計数値を好みに合わせて操作しているからではないですかな?郵便貯金を食い荒らしている公団や特殊法人は、返済に困ったら税金で補填する密約を前提にして平気な顔をしているのでしょう?一体、誰からそんな余分な税金をふんだくるつもりなのでしょうか?税金を払わないと困るのは最終的には国民ですが、その前にちょこちょこと変な裏金にして抜き取っている連中がほとほと困るでしょうし、年金を支払って貰わないと最初に困るのが、社会保険庁の職員のような気がしてしまうようでは、未来は真っ暗です。

■数字と言えば、本日、十年も遅いけれど、北朝鮮の元工作員、安明進(アンミョンジン)氏(36)が衆院拉致問題特別委員会で参考人として意見陳述したそうですね。外務省は、一体、拉致被害者を何人だと思って仕事をしているのでしょう?開催中の六カ国協議で総スカンを食っていますが、「解決」と言っても、何人帰せ!と言っているのか御本人が知らないような主張をしても、「数えてから出直して来いよ」と言われても仕方がないでしょうに。北朝鮮だって、注文された人数に曽我さんまでオマケしてやったと思っているフリをしているのですから、正確な数字を出せない要求では鼻で笑ってアシラわれてしまうでしょう。何事でも請求するには、数字が必要でしょうに!それを全然調べもしないで、国際会議の場で駄々っ子みたいな事を言う前に、地道な調査が必要だったのですよ。「拉致は無い!」から「五人帰国」までの業績を自画自賛しているような雰囲気も有りましたから、相手も「これで終わりね」と言ったのではないですか?それで、こちらからも「うん、そうだね」と言った人が居たのではないですかな?

■皆様のNHKが困っている受信料支払い拒否者の数も良く分かりませんねえ。
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どこかで聴いた事が有る話

2005-07-27 20:07:57 | 外交・世界情勢全般
■どこから手に入れたかは区別しませんが、或るお金持ちが土地を購入して工場を建てて、工業製品を大量生産する最新式の機械を導入して、肉体以外の所有物を持たない貧乏人が何が何だか分からないけれど、言われて事だけ言われた時間やり続けると、そこで作られる製品が世の中に溢れて最後には余って売れなくなります。そうすると「経済恐慌」という物が起きるので、工場は閉鎖されて雇われていた人々は失業して食べられなくなります。その一方で、儲けた人は食糧などの生活必需品を買い占めて売り惜しみをしながらまたまた大儲けします。失業した労働者は怒って経営者を殺害して、工場の経営を独占して「計画的に」必要な物を適切な価格で製造して販売するので、世の中には余って売れ残る製品も無くなるし、生活必需品は独裁政府が厳しく価格を統制するので、人々は安心して生活ができるのだそうです。

■こうして実現したソ連という国は、生活必需品は統一規格の無駄の無い生産に乗ったので、選択の余地など無い物ばかりが作られて、最新の性能を求められるのは革命を防衛するための武器だけになりました。しかし、自由な発想や挑戦を禁止されて何でも知っていて絶対に正しい共産党の指導に従っていても、貧しさからは脱出できずに社会主義政権は奇妙な反政府暴動で崩壊しました。何だか、笑い話みたいですが、20世紀に起った実話です。この国が断末魔の声を上げている時代に、一ヶ月間もうっかりバック・パック旅行をしてしまった経験が有ります。

■1日の食費300円という狂気の旅行計画で、外国人用の旅行費の高さに耐え抜いた過酷な旅でした。社会主義政権の国を旅する時は、「熱烈歓迎」の国賓待遇で行くに限りますぞ!世界で最も進んだ思想で建設された社会は、世界で一番幸せで飢えも貧困も無くなると或る本に書いてあるので、何が何でも外国人が見学に来た時だけは実現しておかねばなりませんから、国賓待遇の客人の目の前には山のように食べ物や飲み物が並びます。愚か者は、その宣伝材料を楽しんでいる内に、すっかりそれが現実だと信じ込んでしまいます。実際に、ソ連を訪れたフランスの有名な文学者や、北京を訪問した英国の数理哲学者などが、ころりと騙されましたからなあ。今も騙され続けているのか、意地になって間違いを認めたくないのか分からりませんが、社会主義は素晴らしい!と頑張っている人が日本にもいます。

■愛国心と社会主義防衛に燃えて必死になって食糧増産に努力した人々がソ連にも沢山いました。最後の書記長になったゴルバチョフさんも、長期政権を担当したブレジネフさんも、地方の農産物増産運動を指導して成果が上がった事が認められて出世しました。しかし、中央政府に入ってみると、訳の分からない「英雄的労働」と「奇跡的成果」の報告書が山となっていて、誰も本当の国情を知らなかったのですなあ。否、賢いヤツらは良く知っていたので、国内の生産物を横流ししたり密輸出したりして、外貨を溜め込んで海外に逃げる準備に熱心でした。

■ソ連は米国との軍拡競争に敗れたという解釈が有りますが、庶民の生活レベルではそんな遠大な話とは無縁の下世話な混乱が起っていたのです。ゴルバチョフさんが頑張っていた頃、国家が統制していなかった家畜飼料が値上がりするのに、統制下のパンは馬鹿みたいに安く買えるようになっていて、家畜にパンを食わして、その余りを人間が食べるような生活になっていたのです。家来のキューバから武器と石油のバーター貿易で手に入れていた砂糖が、密造酒の材料になって食料品としては出回らないとか、実に奇妙な経済が出現していました。

■そんな裏商売に皆が熱心になってしまったので、国内の物流が大混乱したり停滞したりして、農産物は産地の鉄道駅で山となって腐りましたし、保線要員がアルバイトに行ってしまって、貨物列車が変な所で動けなくなって積荷の物資がダメになったりして、システム全体がダウンしてしまいました。「計画経済」とか「共産党の指導」というものはそんなものらしいのですなあ。苦し紛れの思い付きと変らない滑稽な政策が次々と打ち出されて混乱が深まって行きましたから、庶民はとても上手なブラック・ジョークを作って残しましたなあ。そんな昔話を思い出してしまうような新聞記事が有りました。


北朝鮮:農業最優先で行政・商業が停滞の“副作用”

 朝鮮労働党機関紙「労働新聞」など3紙が年始に掲載した「共同社説」は「農業生産にあらゆる力を集中させる」と強調し、4月の最高人民会議(国会)でも今年の目標に「食糧問題の最優先解決」が設定され、農業支出は前年比29.1%増となった。朝鮮中央通信などによると、田植えの季節を迎えた5月中旬ごろから、一般市民や政府関係者、軍人らが農作業に動員され、連日、全国で数百万人が農民を支援したという。金総書記はこのキャンペーンを高く評価したとされる。
 この一方、咸鏡北道など地方では、動員が裏目に出たケースが続出。中朝貿易関係者によると、政府機関や企業が職員を農場に送り込んだため、手続き業務が停滞し、物資輸送の遅延が続出。政府職員の出張も制限された。市場は夜間のみの営業となり、市民生活に大きな影響が出た。咸鏡北道在住の北朝鮮商人は「市民が畑に出ても農作業のコツが分からず、ほとんど役に立たない。動員に強制力はないため、商売人には畑に行かない人も大勢いて、昼間は閉鎖された市場の周辺の路上でモノを売っている」と話した。中国の北朝鮮研究者は「北朝鮮は食糧を国外支援に頼ってきたが、核問題と拉致問題でその支援が滞った。夏から秋にかけ、食糧事情はかなり厳しくなることが予想され、そのしわ寄せは600万人とも言われる貧困層に向けられる」と指摘している。
 世界食糧計画(WFP)は、今年の北朝鮮の穀物不足量を約50万トンと予測。米国は6月22日、昨年7月以降凍結していた食糧支援を再開し、5万トンをWFPを通じて拠出すると発表。北朝鮮は南北閣僚級会談で韓国側に50万トンの食糧支援を要求したという。
毎日新聞 2005年7月3日

■この国は、もうダメだ!という状態になっています。ソ連は結局一度も米国と戦争をしなかった国でした。第二次大戦中は奇妙な同盟関係まで結んでいたのですから、変な関係です。あちこちで代理戦争は盛大にやっていましたが、最後まで直接対決を避ける関係でした。ところが、米国と金王朝社会主義勢力は、「朝鮮戦争」という激闘を経験しているのです。互いに「第二次朝鮮戦争」は核兵器を使うだろうと想定している間柄です。ソ連の崩壊は笑って見ていられましたが、北朝鮮はそうは行きません。そこを見誤ると、馬鹿馬鹿しい「共同宣言」などに署名して世界の笑いものになるのです。米国への「お遣い」を頼まれているのに、それが分からない日本は誰にも分からない「国交正常化」だの「平和条約」だのとハシャイだので、すっかり相手にされなくなりました。

■「皆さんが核兵器の方が大事だとおっしゃるなら、それで結構です。でも拉致問題も宜しく」などと言っていれば、拉致問題が相手にされなくなるのは当然です。「包括的」という言葉を余り便利に使わない方が良いでしょう。「虻蜂取らず」とか「二兎を追うものは一兎をも得ず」と昔の小学生は勉強したのですが、最近は、ろくに漢字も分からないのに、欲ばかりが深くなった日本人が増えてしまいましたから、自分のアホさ加減を棚に上げて、国連の常任理事国になりたいだの、アジア共同体を作るのだのと、誰も聞いてくれない夢を見ていると、エライことになりますぞ!北朝鮮は、本当に必死なのです。日本は、選挙か郵便ポストか、などと暢気ですなあ。

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ローマ法王はドイツ人です

2005-07-27 14:11:40 | 外交・世界情勢全般

■爆弾テロのルーツを探して、パキスタンの次に東アフリカが名指しされていますが、ロンドンで発見された16発の爆弾の材料は最後まで供給地は特定されないでしょうし、資金源となったら何処の誰を経由して流れているのか手繰って行っても、多分アイツだろう、とは分かっていてもその間を繋ぐ決定的なルートは見つからないでしょうなあ。こうしたネット・ワークは米国が大宣伝して力ずくで信者を増やしたグローバリゼーションのお祭り騒ぎの中で育ったのですし、それが現在では、拡大EUの進展で欧州を舞台に動き回っているのですから、日本も負けずに東アジア経済圏を作ったりすると、南側からテロが流入して来る可能性が高いでしょう。

■それよりも、武器の闇市場が巨大化してしまって、有名な死の商人リストに載っていない小物がちまちまと器用に何でも調達して、誰にでも売ってくれるので、誰かさんから資金と指示を貰えば、一人前のテロリストになって有名になれる時代になってしまいました。海外旅行者が少なかった昔だったら、身分を隠して他国に潜入するのはハラハラドキドキのスパイ小説が扱うサスペンスでしたが、今は単なる人ごみに紛れて移動するだけですから、最近の007映画でも移動場面はカットされていますなあ。

■とは言っても、全ての壁が消えて無くなったわけではなくて、「歴史の壁」と「不信の壁」は今でもしっかり残っているようです。クリスマスでのないのに、世界中が数日間だけカトリック信者になったような騒ぎを起こしたローマ法王の交代劇から時間が経ちましたが、こんな記事が新聞に掲載されています。

ローマ法王:ユダヤ人へのテロ非難せず イスラエルが抗議
「法王の説教はユダヤ人へのテロを正当化するものだ」--。イスラエル外務省は25日、ローマ法王ベネディクト16世が世界各地のテロを非難する説教の中で、自国での自爆テロに言及しなかったことに強く反発、バチカン大使を喚問するなど異例の抗議を行った。カトリック教会に対するユダヤ人社会のぬぐいがたい不信感が再び頭をもたげた格好だ。
 法王は24日の説教で、前日の爆破テロで多数の犠牲者を出したエジプトやトルコ、イラク、英国の国名を列挙し、犠牲者への悲しみを表明するとともに「狂信や憎悪に扇動された暗殺者らの行為を食い止めるよう神に願う」と語った。イスラエルでも今月12日、パレスチナ武装勢力の自爆テロで5人の犠牲者が出たが、法王はこれに触れなかった。
 イスラエル外務省は声明で「バチカンが(自爆テロへの)非難を怠ったことは道徳観の欠如に加え、ユダヤ人に対するテロに事実上お墨付きを与えるものと解釈される」と厳しい口調でバチカンに反発した。
 前法王ヨハネ・パウロ2世は00年、ユダヤ人迫害を含むカトリックの過去の罪について公式に許しを請い、両者の和解を訴えていた。
毎日新聞 2005年7月26日

■前法王は史上初の東欧出身のポーランド人でしたが、今回はドイツ人の法王様です。即位直後からイスラエルは不快感を表明していたので、こういう事が起こります。ロシアでポグロムが起こって、ドイツではホロコーストが続いた19世紀から20世紀のユダヤの歴史は民族消滅の危機の時代でした。誰も救ってはくれなかった記憶は記録として残っていますから、イスラエルという国家の存在意義は最終的なユダヤ人のシェルターとなる事です。この世界中に向けられた不信感が、時々ユダヤ人の身勝手さや我が儘としか思えない決断や行動を引き起こすわけですが、ロシアや欧州はそれを非難出来ない歴史的立場に有りますから、渋々、イスラエル建国に最も協力的だった米国に同調していますなあ。でも、内心はユダヤ人は嫌いです。

■ユダヤ人が嫌われる理由は、事実と誤解とが混ざっているので簡単には列挙出来ませんが、キリスト教に改宗しない異分子だという一点は間違いなく重要な理由でしょう。それは「進歩」を信じるか信じないかの分かれ目となる問題で、新しい物は全部良い物だとすると、ユダヤ教から生まれたキリスト教は良い物に決まっているので、古い(悪い)物にしがみ付いているユダヤ人は否定されるべきだと考えられます。それに国土を失って移民として暮らしているのに、頑固に伝統を守りコミュニティを作って教育や医療のシステムを運営する姿が生意気に見えて仕方が無いという事もあるでしょうなあ。

■そして、今の欧米で起こっているテロの源は、中東問題だと断定されているので、そもそもイスラエルが存在しなければ、こんなにイスラム原理主義のテロは広がらなかったと考えるのが簡単なのです。しかし、イスラエルが存在しなくても石油利権や世界的な南北問題は避けられないのですから、「収奪されるイスラム」というイメージは必然的に現れたでしょうなあ。世界で二番目に中東から石油をがぶがぶと買っている日本が最初の標的にされなかったのは、武器を売りつけて石油による貿易赤字を埋めようとしなかった、出来なかったからです。民生用の自動車や食料品などを輸出して、ゼネコンが大規模な建設工事を請け負って貿易バランスを取ったので、イスラムを食い物にしているようには見えなかったというわけでしょう。

■しかし、インド洋でタリバーン狩りの燃料補給を続けたり、イラクのサマーワに自衛隊を送り込んでいるのですから、取り合えず、標的リストには載せているでしょう。60年代から、インドネシアや中東と人的な交流パイプを築いて来た日本は、本当はイラクに武装して乗り込む必要は無かったのですが、親方の米国が狙われて怒り狂っているのですから、「まあまあ、落ち着いて」などと下手な事を言ったら張り倒されるに決まっていますので、「お手伝い」として参加しているわけです。

■こうして見ると、ドイツが置かれている立場は面白いものだと言えるでしょう。案外、ユダヤ人を絶滅させようとした歴史をイスラム過激派は評価しているのかも知れませんし、戦後の経済成長期に第一次大戦以来の付き合いの有るトルコから大量の移民を入れて下働きさせていた事も、今となっては過激派の標的とならない理由になっているかも知れないのです。以前ならば、イスラムの同胞がドイツでこき使われて差別的に苛められている!と怒りの対象になるような扱いをドイツはトルコ人に対して行なっていましたが、今ではトルコはイスラムの裏切り者としてテロの標的になってしまっているのです。何だか、怪我の功名みたいな話ですが、ドイツは今のところテロに遭っていません。ネオ・ナチとイスラム原理主義者は妙なところで仲が良いのかも知れませんが、この件に関する報道は無いようです。

■ちょっと前に、イスラエルの大統領がドイツ在住のユダヤ人に関して、「こんな国に住んでいるユダヤ人の気が知れない」と言ってしまって大騒ぎになったそうですが、今でもワーグナーの音楽を禁じている保守派もいるイスラエルには、ドイツに対する恨みを持ち続けている人々が沢山います。ドイツと聞いただけでも腹が立つし、ドイツ語風の人命や品物の名前も聞きたくない!と言うユダヤ人に何人も会った事が有ります。反ナチ=反ドイツが建国時の動機でしたから、これを乗り越えて「ドイツも変った」と認める国になるにはもう少し時間が必要でしょうなあ。

■ややこしい事に、イスラム原理主義に狙われる同士で、イスラエルとトルコとエジプトがどんどん結束を強めているという構図が有ります。先日爆破されたエジプトのリゾート地シャルム・エル・シェイクもイスラエルとの平和条約締結の賜物として手に入れたドル箱ですし、トルコは軍事技術をイスラエルから手に入れている関係です。こうした構図は、教育を受ける機会の少ない情報も限られている中東地域では良く分からないでしょうが、一旦、欧州に留学したりすると、かつてのイスラム帝国が食い荒らされている現実が手に取るように分かるわけです。まあ、そんな現実を祖国で詳しく知ったら、各国の独裁政権がテロの標的になってしまいますから、そういう国々は国内の情報を徹底的に制限して反抗的なヤツは外国にぽいぽいと放り出しています。

■放り出された人々の人権を認めて受け入れた欧州の国々は、イスラム原理主義の基地(アルカーイダ)になって、残念ながら近代化されていないイスラム教徒向けの教育を受ける内に、若者達は歴史の裂け目に落ちて行くという訳ですなあ。そこで行った事も見た事もないイスラエルという悪魔の存在を教える困った先生がいたりすると、反イスラエルの世界観を刷り込まれて、世界を単純にニ分割して敵と味方に色分けして若い怒りのエネルギーの発散場所を求めて自爆テロなんかに駆り立てられるのでしょうなあ。「殉教者は天国に行ける」という熱狂は、誰にも止められるものではありません。

■遠巻きに見ていられる部外者の利点は、複雑な構図を複雑だと考えられる事に有りますから、どれか一つの勢力に肩入れして同情から熱狂に感染するような事の無いように気を付けたいものです。今回のローマ法王発言に関しても、既に報復合戦が半世紀も続いている中東のテロリスト対イスラエル国軍との戦いは、テロ対一般市民という今の欧州で起きている事態とは違って見えるので、パレスチナ軍対イスラエル軍の「戦争」のような印象が有るのかも知れません。テロリストの親玉が政治的指導者になって国連総会にも平然と出席していたのですがから、こうした錯覚も起こるのでしょうが、しかし、アラファトさんが出席出来た国連総会ならば、ビン・ラディン君も出席出来る道理も有るわけで、そうなると国連憲章が吹き飛んでしまいますなあ。

■と言うわけで、まとまりの無いメモになってしまいましたが、米国の大統領が単純に「テロには屈しない」同盟軍を作れると信じているような幻想は、余り現実的ではないという御話です。日本は「十字軍」に参加した歴史を持っていないので、少しは冷静に事態に対処できるはずなのですが、何分にも、同胞が拉致されようと人質に取られようと、手も足も出ない国だという事はバレてしまっているので、日本国民は「自己責任」でびくびくしながら生活しなければなりませんぞ。
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だから言ったじゃないの!

2005-07-26 18:41:16 | 外交・情勢(アジア)

■北京で世界が注目する六カ国協議が始まりました。国内では郵政法案の参議院での議論の前に、「名誉」を重んじる道路公団の副総裁が逮捕されて道路利権に検察が手を突っ込み始めて、議員先生は選挙用に造った「熊しか通らない道路」の事が気になって仕方がないでしょうなあ。そんな大騒ぎをしていて、この重要協議になど気は回らないでしょう。それを良い事に、外務省のお役人は会議場で下手くそな一人芝居をしているようです。あまりシツコイと怒られて追い出され兼ねない雲行きです。そんな最悪の事態になっても主催国のチャイナを逆恨みなんかしては行けませんぞ!日本は今もずっと墓穴を掘り続けているのですから、他の参加国から冷たくされるのは自業自得なのです。


北朝鮮の核開発問題をめぐる六カ国協議は26日午前、北京市内の釣魚台迎賓館で始まった。冒頭の各国首席代表によるあいさつで、日本の佐々江賢一郎・外務省アジア大洋州局長は、北朝鮮の核計画の完全廃棄を要求した上で、「核、ミサイル、拉致といった諸懸案が包括的に解決されなければならない」と、拉致問題解決の重要性を明言した。また米国のヒル国務次官補は「米国は出兵し、(北朝鮮を)武力攻撃をする意図はない。最もいい方法は六カ国協議を通じて話し合いを進めることだ」とし、公式に北朝鮮を攻撃する意思がないことを表明した。
 昨年6月以来、一年一カ月ぶりに再開された協議は、中国、北朝鮮、日本、韓国、ロシア、米国の各国首席代表がそれぞれ数分間のあいさつを行い、その後、協議が始まった。
 北朝鮮の金桂冠外務次官はあいさつで、「船が座礁することがないよう、最終的な朝鮮半島非核化の終着点に向けて努力しなければならない」と述べ、朝鮮半島の非核化達成に向けて、前向きな姿勢を示した。韓国の宋旻淳外交通商次官補は「協議の焦点をここ(核問題)に集中しなければならない」と強調、日本人拉致事件や北朝鮮の人権問題などの論議を自制するよう参加国に要請した。
 再開された六カ国協議は、本協議に加えて、二国間協議が必要に応じて行われる予定で、25日に続き、米朝両国は、26日も個別協議を行う予定になっている。産経新聞より

■首相の人気取りと外務省の夢見がちな役人との思いが合致して調印された『日朝平壌宣言』の文言が変だぞ!と言われる度に、小泉首相はこの作文を書いた役人(多分、田中均さん)から聞かされていた通りの返答をしていましたなあ。改めて読んでみましょう。面倒な方は、宣言文は飛ばして下さい。

1、 双方は、この宣言で示された精神と基本原則に沿って、国交正常化を早いうちに実現させるためにあらゆる努力を傾けることにし、そのために2002年10月中に日・朝国交正常化会談を再開することにした。双方は、相互信頼関係に基づき国交正常化を実現する過程においても、日・朝間に存在する諸般の問題に誠意を持って臨む強い決意を表明した。

2、 日本側は、過去の植民地支配により朝鮮人民に多大な損害と苦痛を与えた歴史的事実を謙虚に受け止め、痛切な反省と心からの謝罪の意を表明した。双方は、日本側が朝鮮民主主義人民共和国側に対して国交正常化後、双方が適切とみなす期間にわたって無償資金協力、低利子長期借款の提供および国際機構を通じた人道主義的支援などの経済協力を実施し、また民間経済活動を支援する見地から日本国際協力銀行などによる融資、信用貸付などが実施されることがこの宣言の精神に合致するとの基本認識のもと、国交正常化会談で経済協力の具体的な規模と内容を誠実に協議することにした。 双方は、国交正常化を実現するうえで1945年8月15日以前に発生した理由に基づく両国および両国国民のすべての財産および請求権を互いに放棄する基本原則に基づき、国交正常化会談においてこれについて具体的に協議することにした。双方は、在日朝鮮人の地位問題と文化財問題について国交正常化会談で誠実に協議することにした。

3、 双方は、国際法を順守し、お互いの安全を脅かす行動をしないことを確認した。また、日本国民の生命および安全と関連した懸案問題について、朝鮮民主主義人民共和国側は日・朝両国の非正常的な関係により発生したこうした遺憾な問題が、今後ふたたび発生しないよう適切な処置をとることを確認した。

4、 双方は、北東アジア地域の平和と安定を維持、強化するため相互協力していくことを確認した。双方は、この地域の関係国間の相互信頼に基づいた協力関係構築の重要性を確認し、この地域の関係国間の関係が正常化するのに従い、地域の信頼醸成のための枠組みを整備していくことが重要との認識をともにした。双方は朝鮮半島の核問題の包括的な解決のために、該当するすべての国際的合意を順守することを確認した。また、双方は核およびミサイル問題を含む安全保障上の諸問題と関連し、関係国間の対話を促進し問題解決をはかる必要性を確認した。朝鮮民主主義人民共和国側は、この宣言の精神に沿ってミサイル発射の保留を2003年以後もさらに延長する意向を表明した。双方は、安全保障と関連した問題について協議していくことにした。

日本国総理大臣   朝鮮民主主義人民共和国国防委員会委員長
小泉純一郎     金正日
2002年9月17日 平壌

■締結直後から、「拉致」の文字が無いぞ!とあちこちから非難の声が上がっても、蛙の面に何とやらで、宣言文の第三項を引用して「拉致」の問題は双方で共通認識を持てたんだ、と小泉総理は言い張りましたなあ。でも、今回の六カ国協議冒頭の遣り取りを見ていると、疑義を示した人々と北朝鮮側の理解は共通していて、日本の外務省と内閣だけが勝手な解釈をしていた事は明らかですぞ!第三項には、「日本国民の生命および安全と関連した懸案問題について、朝鮮民主主義人民共和国側は日・朝両国の非正常的な関係により発生したこうした遺憾な問題が、今後ふたたび発生しないよう適切な処置をとることを確認した。」と有るだけですから、第一回日朝首脳会談で、「一部の冒険主義者が拉致をやった。でもそれは適切に処罰した」と金正日さんが言った時に、「解決」しているのです。宣言の中でも、「これからはやらないよ」と言っているだけですから、2002年9月16日までに起きた拉致事件は放置されて当然なのですなあ。

■第四項の「核およびミサイル問題を含む安全保障上の諸問題」に「拉致事件」が含まれているとも小泉首相は断言していましたが、後段の文章にはミサイル問題しか書かれていないのですから、これは小泉さんの誤読でしょう。調印後に、ずっと北朝鮮側が「拉致は解決済み」と言うのを怒る日本人がいましたが、この宣言文を出されたらそれは通りませんなあ。そして、韓国や中国が「それは二国間の問題だから、ここでは言うな」というのも筋が通っているのです。同胞から上がり続けた疑惑と捜索要請を無視して相手の謀略話を信じていた25年間は本当に重いのです。まして、こんなトボケタ宣言文に署名しに行くのに協力してくれたからと、小泉さんは拉致事件に深く関わっていると疑われている朝鮮総連に御礼状?を送っているのですから、日本が真面目に拉致問題を解決しようとはどの国も思わないでしょう。

■宣言文には銭金の事ばかりが書いてあるのに、日本側がぜんぜん支払わないから北朝鮮は怒っているでしょう。余りにも日本側の外交姿勢がちぐはぐなので、つい北朝鮮寄りになってしまいますなあ。勿論、拉致だの核爆弾だの麻薬に偽札、偽造パスポートに外為法違反の不正送金に脱税、密輸……国際犯罪でやってない事のない国ですから、味方になんか金輪際なりませんが、日朝共同宣言から六カ国協議までの流れは、日朝以外の四カ国も同意しているように、拉致問題に関しては北朝鮮の言い分がずっと通っているのです。同盟国の米国でさえも、「同情」以上の事は言えないのです。戦後の日本から一切の戦闘力を奪い、その後の朝鮮戦争に協力させようと自衛隊を作らせた時にも、飛行機と空母だけは絶対に作らせなかったのですから、「拉致被害者を帰せ!」と日本海に並べる道具が日本に無いのは米国の責任なのですが、だからと言って、おっとり刀で日本人を救出するためだけの目的で虎の子の特殊部隊を送ったりするはずは無いのです。

■「土下座外交」だの「謝罪外交」だのと悪口を言われ続けた日本の外交ですが、とうとう「外交」でさえなくなってしまったようですなあ。「日本の外務省は宣言文の日本語版を持ってないのか?」と聞かれたらどうなるのでしょう?憲法前文に書いてあるような友愛と信頼と信義など何処にも無いという事を、外務省はそろそろ勉強するのでしょうか?




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「八つ当たり」の大流行

2005-07-26 14:18:54 | 外交・世界情勢全般

■ちょっとロンドンが可哀想な立場になっているようです。真相の解明も出来ないし、次のテロがとても心配なのに、押さえ込む決め手は無いしで苛立っているキリスト教国の間で八つ当たり気味に責任の丸投げが始まったいるのかも知れませんなあ。

ロンドン同時テロ:ロンドニスタンを批判 米メディアなど
 【ロンドン小松浩】2度目の同時爆破テロ犯がロンドンを拠点にしていた可能性が高まり、ロンドンこそテロの温床との声が相次いでいる。米メディアなどはロンドンをイスラム過激派を野放しにする「ロンドニスタン」と呼び、欧米の脅威になっていると批判した。
 「まず自分の家をちゃんとすべきだ」。パキスタンのムシャラフ大統領はこう語り、英国内の過激派摘発が先決と強調した。国際テロ組織アルカイダとの関連が疑われるイスラム過激組織「ヒズブアッタハリル」や「アル・ムハジルーン」がロンドンで自由に活動しているという警告だ。
 ロンドニスタンとは90年代後半、仏治安機関関係者が命名した。2年前にも英シンクタンク研究員が「ジハード(聖戦)思想は英国の『個人の自由』を隠れみのに成長すしている」と指摘。ロンドニスタン化に強く警鐘を鳴らしていた。イスラム過激組織がパキスタンやアフガニスタンなどを基盤にしていることが呼称の背景だが、自己批判的なネーミングの裏に西側世界の固定観念も見え隠れする。
 ロンドンのイスラム人口は70万人で8.5%を占め、全英平均(3%)の3倍近い。「ヒズブアッタハリル」のロンドン支部創設者とされるオマル・バクリ氏や、アルカイダの欧州大使と呼ばれるアブ・カタダ氏ら過激思想を若者に吹き込む聖職者らも多い。バクリ氏の支持者は最大で800人いるという。
 英政府は過激な聖職者の追放やウェブ上を含む過激思想の流布禁止を検討するなど、重い腰を上げた。英メディアも「『ロンドニスタン』からの脱却を世界中が要求している」(タイムズ紙)など、汚名返上の必要性を強調し始めた。
 イスラム過激派にも一定の自由な言論を認めることで、逆に「ここでテロは起こさないだろう」という奇妙な安心感のあった英国は、次第に変わろうとしている。毎日新聞 2005年7月25日
 
■記事に出て来る順番に従って、八つ当たりリストを作りましょうか。言いだしっぺの米国メディアは自国の政府に対してイラク政策の失敗を追及できないので欲求不満が高まっていて、自分の国がアルカーイダの育ての親なのに、その認知もしないで遊び場を提供しただけの英国を責めるなんて、酷いじゃないですか?国連の会議場でも英国がしゃしゃり出てくれなかったら、米国は本当の悪者になってしまったでしょうに、その恩も忘れて文句を言うのはおかしいぞ!現在の神経症的な危機管理システムを自分では変だと思わずに、「我らを見習え!」という態度は、相変わらずだなあ、と世界からの反発が大きくなるかも知れませんぞ。

■しかし、まあ「ロンドニスタン」とは悪趣味な名称ですなあ。ローマ帝国時代は「ロンドリウム」とか呼ばれていたはずですが、命名者の仏国治安機関の人は、余程アフガニスタンが憎いのか、他国を蔑視する響きがあります。その仏国は、80年代には今の英国と同じような寛容な難民政策をイスラムに適応して世界中の物笑いになっていた事を世界が忘れていると思っているのか、決して思い出して欲しくないから英国だけを責めているのか、どちらにしてもしっかり覚えている人は居るはずです。元々は、植民地だったアルジェリアやベトナムからの移民を受け入れ、独立後には難民の世話をしなければならなくなった仏国は、人権思想や博愛主義でそんな政策を取ったわけではありますまい。

■79年に起きたイランのホメイニ革命はフランスという場所を軸として展開したのですぞ!ホメイニさんは一体どこからテヘランに飛来したんだ?パリから飛んで来たんです。追い出されたパーレビ国王は米国とエジプトを逃げ回って死んだのですが、経済政策など何にも知らないホメイニさんは次々と1400年前の法律を根拠にしてむちゃくちゃな命令を出し始めますから、とてもやっていられない!と言う人々はフランスに逃げまして、その後革命後には必ず起る内ゲバで、最初の大統領に任命されたバニサドルさんは命を狙われて女装までしてフランスに逃げたのではないでしょうか?

■反革命派と革命派の両方がパリに流れ込んで、花の都を舞台に暗殺合戦や爆破合戦を盛んにやって、パリ市警は休む間も無く走り回っていました。今のようなネット社会ではなかったので、双方が新聞やパンフレット類をせっせと印刷しては互いに悪口の言い放題でした。当時のパリの街角には、機関銃を抱えたお巡りさんが立っていたし、観光地にもちょっと遠慮がちながらもパトロールしている姿が目立ったものです。パトカーのサイレンが鳴る度に、「今度はどっちがどっちをやったんだい?」などとカフェでも話していたんじゃないの?フランスはそんな苦労を忍んででも、イランの石油利権や原子力関連の利権を横取りしようと暗躍したのに、米国との大西洋同盟に従ってイラクに派兵してイラク利権のおこぼれを貰おうとする英国を非難するのはイカガなものか? 

■尻馬に乗るとはこの場合のパキスタンの事を言うのでしょうなあ。リビアや北朝鮮などという物騒極まりない国に中国から流して貰った核兵器の技術を卸す問屋稼業に精を出して、バレたら責任を全部カーン博士に押し付けて謝罪させる大芝居を打ち、自分が命令していた事を隠し通して恩赦を与える臭い芝居をしたのがムシャラフさんでしょう?アフガニスタンでの対ソ戦争を利用して米国と結んだパキスタンは、その恩を高く売りつけるのに大成功しているというわけですなあ。核兵器の裏市場の実態を米国が知らないはずはなく、パキスタンの悪行を最も良く知っているのに、大甘の特別待遇です。それでも、イスラム義勇軍を育てるわ、タリバーンを育てるわ、それを裏で操って国内の過激派をカシミールに送ってインドを挑発しながらメイド・イン・チャイナらしい原爆を実験し、オマケに完全なコピーと素人にも分かるメイド・イン・ピョンヤンの長距離ミサイルを花火大会のようにハデに打ち上げているのを、誰も止められませんなあ。全部カーン博士が悪かった、と言ったところで掻き集めた核兵器の一発も減る訳でもないでしょう?

■それに加えて、英国は植民地時代の宗主国なので、この時とばかりに米国の尻馬に乗って、ウサ晴らしのような強気の発言です。本当に食えない人です、ムシャラフさん!そもそも、議会制民主主義の総本家を自負する英国は、議論や演説をとても大切にする伝統に誇りを持っていて、ハイド・パークの北隅に有る「スピーカーズ・コーナー」ではビールのケースを担いで来た人達が思い思いの所に演台を作って毎週演説をするのを楽しみにしていて、それを市民と観光客が並んで聞いています。聴衆の数と拍手の大きさを競うという生の民主主義を楽しめるとても良い場所ですし、名所です。でも、これもテロリストから見れば、絶好の標的となるでしょうから、閉鎖されてしまうのでしょうか?それとも意地を見せて存続させるのでしょうか?本当は、イスラムの皆さんもスピーカーズ・コーナーに行ってロンドン子を唸らせるような大演説をすれば良いのでしょうが……

■今のところ、原理主義側には世界を感心させ、納得させる演説は出現しておりません。ほとんどのイスラム教徒からも反感を持たれるような内向きのカルト体質をますます強めているので、議論では負ける弱い立場には違いなく、かつてのソ連軍を撃退したアフガニスタンの勇士達のように義勇軍が競って集まるほどの支持は得られないでしょう。金持ちのボンボンが口の達者なオヤジの口車に乗って理想主義に走るというのは、何処にでも有る話で、そのボンボンが持っている金を目当てに有象無象が集まって、最後は使い捨てにされる者とうまく立ち回って生き残って得する者とに別れるのも、何度も繰り返されたドラマです。世界の歴史は裏と表に綺麗に分けて記述されるもので、後の歴史学者は隠されている裏の流れを表の歴史と関連させる研究をするものです。しかし、裏と表が張り付いているような米国という若い国が世界一の存在になってしまったので、裏が表に飛び出してしまって大混乱です。それが、今起っている事態の分かり難さの原因だと思いのですが……。

■ブッシュ大統領自身が「スカル・アンド・ボーンズ」とか言うエール大学の秘密結社に入っていますと公言するような国ですし、ブッシュ家とビン・ラデッィンの一家は切っても切れない縁の深い間柄で、パパ・ブッシュは石油成金の出身でCIA長官上がりの大統領だったのですから、中東の裏から大金を吸い上げて生きているのでしょう。マフィアと手を組んで大統領になったケネディさんあたりから、裏と表の区別が付かなくなっているようですなあ。裏が強過ぎる国は常に奇妙な動き方をするので、とても分かり難いものです。逆に、表の方が大きくて裏はちゃんと身の程を知って裏に隠れている国は、予想し易い動きをするような気がしますなあ。今頃、ロンドンに変な奴らが集まっているのはケシカラン!と言われるのも、英国では言論の自由が守られている証拠で、誰でも自説を発表する権利が守られているから、どんな支離滅裂の意見でもちゃんと発表する場所を保障しているわけで、それを有り難く利用する人々の中に移民や難民も差別されずに、含まれているのでしょう。

■問題は、始めから相手に自説は通じないと一人決めして、テロに走る愚かな者たちの考え方です。ちょっとでも王様の悪口を言ったら命が危ない祖国を逃れて、どれ程過激で残虐で非人情な考えでも発表する権利を認めている場所で安全に暮らせるようになった事を感謝しなくなった第二・第三世代は、特別な歴史教育を必要とする生徒達でしょうし、非イスラム国で理想のイスラム国を語る指導者は、そんな生徒達の教師になってはいけません。そのエライ先生たちは、サウジであろうとヨルダンであろうと、実際のイスラム国では話を聞いてくれる人が居ないのでしょうから、相手を間違えて間違った事を得々と語っている事になりますなあ。イラクから欧米の軍隊が去れば、自分達が思い描いている理想の国が出来ると思い込んでいる素朴な原理主義者は、サウジ王家や権力世襲のシリアの問題に関しては何も言わず、ただ「異教徒は出て行け!」と叫んでいるだけです。つまり、彼等が一番悪質な八つ当たりをしている事になりますなあ。

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気分はすっかりイスラエル

2005-07-25 14:59:31 | 外交・世界情勢全般

■誤射の疑いが高まって、死亡した青年の祖国の政府からも抗議が出される中で、ロンドン市内には民主国家らしい様々なデモや集会が開かれ始めたようです。英国の特殊銃撃部隊が立たされている立場は、越境自爆テロを何とか防ごうと毎日神経をすり減らしているイスラエル兵と同じですから、イスラエルが体験から学んだ謀略活動や検問方法を英国の警備陣がそっくり真似する事になるかも知れません。


ロンドン同時テロ:あせりが大失態 誤認射殺事件
 23日に判明した英警察官によるブラジル人誤射事件。英警察当局が一般市民を誤って射殺する大失態を引き起こした背景には、厳重な警戒を尻目に2度目のテロを許したことで、市民の不安を一刻も早く解消しようとした焦りがあったようだ。あいまいな情報のまま危急の対応を迫られる対テロ捜査の困難さも象徴する。【ロンドン山科武司】
 7日のテロ発生直後、ブレア首相をはじめ捜査当局は、テロを予兆する「情報はなかった」と強調した。だが、その後に情報機関などの「合同テロ対策センター」が事件1カ月前にテロの危険性を指摘するリポートを提出していたことが判明。判断ミスが指摘された。
 捜査でも拙速が目立った。7日のテロ実行グループの拠点・英中部リーズに住んでいたエジプト人化学者を「爆発物製造に関与した」と身柄拘束に動いた。容疑者の携帯電話に化学者の自宅電話番号があったからだ。しかし、英国では原則、個人ではなく住家に番号が与えられる。登録されていた番号は、化学者が住む以前の人物の名前で、化学者は事件と無関係だった。
 7日のテロ後、捜査当局は連日、駅や停留所に警察官を配備し爆薬を探る「探知犬」も動員した。それでも2回目のテロを許した。英捜査当局と情報機関の幹部はテロに関する「情報が不足していた」ことを認めた。
 22日にテロ容疑者と間違われ誤射されたブラジル人のジメネゼスさん(27)の場合、21日のテロの遺留品にあった住所録で判明した住所のアパートを警察官らが張り込み、外出したジメネゼスさんを追跡した。英スカイテレビは「住所が誤っていた可能性がある」と指摘した。近くに住むアームステッドさん(65)は「捜査官は地域に住まず、市民の顔を知らないから情報を得にくい」と言う。
 英捜査当局は、自爆テロ犯が爆発物を起爆させようとした時など「危険が迫った」時はテロ犯を即時に射殺する方針で、誤射事件を起こした特殊銃撃部隊員らもそれに従った形だ。
 しかし追跡中にジメネゼスさんが路線バスに乗るのは容認したとされ、なぜバス乗車前に捕捉しなかったのか対応の遅れが問題となりそうだ。
 特殊銃撃部隊員が私服だったことが悲劇を招いた可能性もある。隊員らはTシャツにジーンズの「ぶっきらぼうな若者姿」(タイムズ紙)で、ジメネゼスさんは、急に銃を取り出した不審な男たちをギャング団と間違えたかもしれない。毎日新聞 2005年7月24日 

■まだまだ他人事のような書き方の記事ですが、テロ(恐怖)に襲われた市民社会が必ず追い込まれる恐慌状態が英国でも始まっている事が分かるだけ、今回の誤射?事件の悲劇が起きた原因に関してあれこれとミスを指摘しても余り意味は無いと思います。まして、情報を持っていながら政治的謀略に利用してテロを野放しにして自国の市民を犠牲にしたというような「陰謀話」を楽しんでいる場合でもないでしょうなあ。第二次大戦中に、時の首相だったチャーチルがドイツの暗号を解読している事を秘匿する目的で、コベントリーという場所が空襲される事を知りながら放置したという歴史は有りますが、このところ暴れ回っているテロリストに対しては情報収集力を誇示することで活動を抑止するのが定石ですから、情報を意図的に握りつぶしては逆効果でしょう。

■ただ、情報機関自体が縦割りになっていれば、勢力争いの結果として情報が共有されなかったり、上にちゃんと伝わらないという馬鹿馬鹿しい失敗が起る可能性は常にあります。大切なのは、警戒態勢に入った事を国内にきちんと知らせて、「李下に冠を正さず」の道理を守って、誰もが誤解されるようなややこしい行動は取らないように努力することです。警察に呼び止められて、咄嗟に上着の内ポケットに手を突っ込めば射殺されても仕方がないという米国流のルールがだんだんと世界に広がっていますが、これからは「町を歩くと身体検査」が普通の事になるかも知れません。自爆テロの場合は、調べている方こそ、怖くて仕方がないのですから、調べられる方が相手の不安を察してあげなければ、ますます誤射が増えてしまいます。

■イスラエルでやったりやられたりの応酬が報道されると、受け取る側の立場によって、「パレスチナ側がやられた」方に力点を置くか、「イスラエル側がやられた」事を重視するかで、まったく違った感情が湧き上がります。連鎖しているテロと報復の応酬ですから、どの事件を切り取るかがとても難しく、「ここから始まった」と言って一つの悲惨な事件を取り上げても、その事件の原因となった逆側が仕掛けた事件が先行しているので、あれこれと調べて行くと、オスマン・トルコ帝国を崩壊させた後の始末がいい加減だったという英国とフランスの身勝手さしか掘り出せません。その両国は、「中東問題は世界の問題」などととぼけた事を言って済ましているので、国家を作ったイスラエルはそんな国際世論を相手にしていたらエライことになると悟って、「地中海に追い落としてやる!」と宣言している人たちだけを相手にして、ポンコツ兵器で大英帝国を追い出してから、あらゆる手段を尽くして防衛力を増強して、核武装まで進みました。

■誰も助けてはくれないし、最大の責任者が逃げ口上ばかり言っているばかりか、相手はソ連からどんどん兵器を仕入れていたので、冷戦の緊張が高まれば、中東を舞台にした核戦争の危険性さえ語られていたのですから、裏の手段を使ってでも対抗兵器を持つ必要が有りました。しかし、テロしかやる事がなかったアラファトさんがいなくなって、テロ集団と国家との関係が、国家と国家の関係に移行しようという時代ですから、本当は核兵器の廃棄が議題に上がらなければならないのですが、資金と武器を送って焚き付けていたシリア・イラク・サウジなどが米国の言う事をだんだん聞くようになっても、今度はイランが何に使うのかさっぱり分からない核兵器を作ろうとしているので、イスラエルの核廃棄はまだ議題にはなりそうもありません。

■パレスチナ側からのテロは、パレスチナ内部での派閥争いに加えて、中東各国が操る外の組織とが入り乱れて続けられているので、受けて立つ方のイスラエルは必死で情報を集めて、時々予防的な攻撃を加えて勢力の弱体化を図ったりします。普通の民家に武器を蓄えているテロリストを攻撃すると、流れ弾で命を落とす人が出てしまいます。それは国家の正規軍同士が戦う通常の戦争ではない「非対称型」の戦闘の場合は仕方が無いことです。軍服を捨てて一般市民を装って戦うゲリラやテロリストは、国際法は適応されず、スパイと同じように厳しく扱われます。チャイナでは、共産党宣伝映画を沢山作っていて、「弁衣隊」と読んでゲリラを賛美し続けているのが不思議ですが、昔からゲリラの掃討作戦では必ず悲惨な犠牲者が出るものなのです。

■そんな時に、一般市民としては、ゲリラの近くい行かないこと、ゲリラが近くに来たら離れること、それしか無いのですが、テロリストのアジトは常に見つけ難い場所と決まっていて、事件が起こってから「まさか、あの人が!」と言われるようでないと、一人前の革命家にもテロリストにもなれませんからなあ。そこで登場するのが、「ダブル・スパイ」です。イスラエルは沢山のパレスチナ人を金で釣ったり、謀略を仕掛けたりしながら情報提供者に仕立て上げています。それ以外に正確な情報が得られない事を経験から学んだのです。仕掛けられているパレスチナ側では、裏切り者を血眼になって探し回って、時々濡れ衣を着せられた同胞が処刑されたりもします。それも悲惨な話ですが、テロ組織を自壊に追い込むには最も有効な手段でもあります。

■パレスチナが国家を建設して、正規の軍隊を組織して戦争を挑んでいれば話は随分と変ったのですが、中東諸国は彼らが国家を作らないように執拗に妨害しながらテロ資金をどしどし提供しました。それを知っているイスラエル側としても、パレスチナ国家の種と根を絶ってしまうことはせずに、隣国同士の関係を結べる可能性を模索しているわけです。しかし、パレスチナ側にそれに応える人物が現れると、たちまち同胞のテロの標的にされてしまうのです。そのテロを命令しているのはアラファトさんとは限りませんでしたなあ。パレスチナ人は中東の最大の被害者で、皮肉なことに最良の友人とすべきなのが宿敵だったイスラエルだけなのです。

■こうした小さな歴史を振り返ると、これから英国の警察組織が行なうことも予想が付くでしょう。大量の二重スパイの獲得が最初の大作戦となるでしょうし、「予防措置」としての攻撃、そしてあらゆる場所での検問です。それは通常の経済活動をひどく停滞させることになるでしょうから、英国は苦境に立たされるでしょう。これから、「テロリストと交渉すべきか否か」というイスラエルか苦しみ続けた究極の選択を英国中が議論し始めます。英国はIRAとの血みどろの闘争を繰り返した経験は有りますが、あれは特定の場所に関する独立や自治を要求する運動でしたから、交渉の余地は有りました。

■しかし、今世界中でテロを実行している勢力は、特定の場所の自治を求めているのではなく、幻想に近いあるべきイスラム帝国を夢見てさまざまな要求や主張をしているのですから、交渉の余地は無いことになります。英国は、インドや中東でも苛烈な抵抗運動に破れていますが、それも独立闘争でしたから、戦後の交渉が可能でした。ところが、「イラクから出て行け!」と言っているのはイラク国民ではないのですから、外交交渉は始めから無理なのです。「相手の言い分も聞いて遣れ」と言うのは簡単ですが、その相手が一人でもないし、一つの組織でもないのですから、こういう発言は無責任です。

■イスラエルには地下鉄が無いので、空港やバス・ターミナル、百貨店や映画館の入り口などが主な検問場所でしたが、オウムのサリン事件以降は地下鉄、9・11以降は外国人が居住するアパート、今回のロンドンの爆破テロからは、移民して来た人達の海外渡航先へと、検査対象は際限も無く広がってしまいました。どれも豊かで自由な生活には欠かせない物ばかりですから、それを悪用する者と戦うためには、新たな不便に耐え忍ぶしかないようです。それにしても、パレスチナ人がパレスチナ人だというだけでテロリストの容疑を掛けられた悲劇が、今度はアラブ系だ、イスラム教徒だ、というそれだけで怪しまれるようになった事は、とても残念です。中東戦争は「アラブの大儀」という奇妙な旗が立って、結局は内ゲバを起こしてしまいましたから、今回の「イスラムの大儀」もビン・ラディンの動向によっては、同じような内部対立が始まる可能性が高いのです。しかし、八つ当たりテロとなっては、その対処方法はもう博打みたいなもので、無事であるのは運が良いと思うしかない時代になったという事でしょうなあ。

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さっぱり分からぬサマーワ

2005-07-25 00:33:42 | 外交・情勢(アジア)

■呪術に頼っているような文化を色濃く残しているような場所に足を踏み入れる場合には、様々な医薬品を用意してから入らねばならないのが文明人の弱点です。万一、感染症に苦しんでいる現地人に親切心で手持ちの医薬品を与えたりすると、思い掛けない恨みを買う場合があるそうですなあ。薬に効なく不幸にしてその人が死亡した場合に、異人が悪魔の毒を飲ませて殺したんだと思われるからです。イラクの荒野にキャンプを張って頑張っている自衛隊は、大きな誤解に基づく期待を振りまいて現地に入ったように思えてずっと心配していましたが、悪い予感が当たって刻々と事態は悪化して予想もしない逆恨みの対象となっている危険が増しているようです。


日本友好協会を解散=相次ぐ脅迫受け-デモ隊から「裏切り者」・サマワ【サマワ24日時事】
 陸上自衛隊が駐留するイラク南部サマワの日本友好協会のアンマル・ヒデル会長は23日、地元テレビ局に同協会を解散することを告げるメッセージを送った。解散する理由として「サマワの一部の市民は協会の活動を快く思わず、反対しているため」としている。
 アンマル会長は、宿営地内で派遣部隊との交流行事を開催。陸自車列付近での爆発事件直後の6月26日には、市民を募って宿営地に激励に訪れていた。
 しかし、最近は宿営地への激励訪問が脅迫を受け中止される事件があったほか、「アンマル会長は無理やり子供たちを自衛隊宿営地に連れて行き、踊らせている」などと中傷するCDが市内で配布されていた。22日には同会長経営の宝飾店に、停電の改善を求めるデモ隊約90人が押しかけ、「日本に心を売った裏切り者」などと脅していた。(時事通信) - 7月24日
 
■偉大な神の思し召しで、金が有り余っている東の島国からサマーワを天国に変えるために兵隊の服を着た連中がやって来たと思い込まれていた節が有ります。あれも出来ないし、これも法律違反になると頭を捻って考え出した最低武装の「給水作業」は、その後に続く巨大なプレゼントの前触れとして大歓迎されたかに見えましたが、派遣当初からサマーワの街中を取材した映像には、やる事もなく茶屋に集まっている若者達が自衛官に座ったままで声を掛けて、「おい、早く電気を通してくれよな」などと注文していましたっけ。日の丸を揚げて何をしに来たのか、何がどうなったら帰るのか、そんな最も重大な用件を広報していない事は明らかでした。

■一部の報道で、有名な日本の自動車会社が工場を建てるだの、巨大な集合住宅が建設されるだの、正確な広報をしないで舐められるような友好ムードだけで乗り込んだばかりに、イムシャラー(神の思し召しによって)の人々は神が異教徒を下僕として送って下さったと思い込んだとしても、彼らを責められません。彼らがどんな教育環境に置かれ、どんな質の情報を得て暮らして来たのかを調べずに、「心は通じる」などと無謀な思い込みで現地人とにこにこして付き合っていれば、誤解がどんどん大きくなるのは当然です。

■米国の付き合いで、法律違反になるぎりぎりの線で「給水」しに来ただけなのだ。と口を酸っぱくして無責任な夢や幻を毎日消して歩かないと、右手で貰った物はすぐに忘れて左手を出して来る事を恥とも罪とも思わないバクシーシ(喜捨)の文化は日本人にはとても分かり難いものでしょうなあ。自分より少しでも貧しい物には、どんな物でも分け与える善行を積めば、きっとアッラーが天国に迎えて下さるのだから、自分よりも豊かな者から富を強引に受け取るのもその人を最終的には救っているという解釈を日本政府は受け入れていたのかどうか?


イラク支援の陸自第3次100人、帰国

 イラク南部サマワに派遣された陸上自衛隊イラク復興業務支援隊の第3次要員約100人が24日、東京・羽田空港に到着した。
 派遣は約半年間にわたり、6月以降、爆発事件や宿営地への砲撃が続いただけに、隊員と再会した家族らは、無事の帰国を喜んだ。東京・新宿区の防衛庁では、家族約180人が隊員たちを出迎え、帰りを待ちわびていた子供たちが駆け寄って抱きついた。……
 隊長の岩村公史1等陸佐(43)は、相次いだ事件について、「安全対策や訓練を十分にしていたので隊員は冷静に対応できた」と振り返り、「復興支援活動は好調で、5年後、10年後にイラクの人たちが評価してくれると思う」と語った。3次要員は、中部方面隊(総監部・兵庫県伊丹市)の隊員を中心に編成された。
(読売新聞) - 7月24日

■本当にご苦労様と申し上げねばなりません。全てはうまく行っていると言わねばならない立場の人に取材して、そのまま報道するのは「大本営発表」と呼ぶのではないですかな?一切の報道陣の立ち入りを禁じ、毎日の記者会見も開かれていないような状態で、撃たれても撃ち返せないという恐るべき任務に就いている自衛官が置かれている苦しい状況はまったく分かりません。「こちらが撃たなければ撃たれない」と気休めにもならない御題目を唱えても、だんだん着弾地点が近付き、サマーワ市内にも怪しげな人物がちらほらし始めているのではないですかな?

■和風の灯篭をモチーフにした友好記念碑がぶっ壊されたのは随分昔の事のような気がしますが、あれは「こんな物は我々の希望を全部叶えてから建てろ!」或いは「これはきっと日本の偶像崇拝に使う施設に違いない!」かのどちらかの動機によって起った事件ではないかと推察しておりました。さっぱり希望通りに天国の生活にならない現実に苛立ち、部族間に疑心暗鬼と利権の奪い合いが始まってはいないでしょうか?友好協会が脅されているということは、有りもしない役得を妬(ねた)んでいる者がいるか、そういう感情を煽り立てようとしている者が存在する事を意味しているのではないでしょうか?

■「即時撤退」などと無責任な事を言っている政治家と報道機関の人々は、それが実施される日から一週間ほどはサマーワに滞在するべきでしょう。勝手に大きな期待を持ったのは向こうの責任ではあっても、「俺のためには何もしないで帰るつもりか!?」と石とロケット砲で怒りが爆発する現場に立って、中東の現実をその目で御覧いただいて、運良く生き延びて日本に辿り着いたら、少しは世界に通用する報道が出来るようになるのではないでしょうかなあ?ここでも勝手な撤退は極めて危険で、その危険の原因は日本側の勝手な台所事情だけしか眼中に無いままに派遣を決定した政府に有るのですが、現地に広報用の小さなラジオ局を設置するとか、映像で情報を提供する設備を作って現地の人材を育成して最終的に寄贈するとか、報道機関も協力できる仕事は有ったのではないでしょうか?

■国の代表が派遣されるのですから、「従軍報道」の覚悟で可能かな限り身近で報道すべきなのに、妙に素直に政府側の警告に従って「労災事故」を避けるのに熱心な日本の報道機関は信用が出来ませんなあ。いろいろなNGOが活動しているのですから、彼らと協力して広報活動を展開する背広組が派遣されるべきだったのですが、まともな情報収集も出来ないままに自衛隊派遣だけを決定したしまったツケは余程大きい事を、今から覚悟しておかねばなりませんぞ!

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誤射?ロンドン爆破テロの波紋

2005-07-24 06:59:08 | 外交・世界情勢全般
■ちょっと昔の印象ですが、短時間にパリとロンドンを続けて訪問すると、二つの都市の警察の違いに驚く経験をします。ロンドンの警察官は観光客に対して非常に親切で、バッキンガム宮殿の衛兵さんと同様に並んで写真に入ってくれたりする感じの良いお巡りさんで、警棒と無線機しか身に付けない紳士の国を象徴するダンディさを誇示しているかのようです。噂では写真写りの良さも採用条件に入っているとか…。そして、全員が白人で圧倒的に男性が多い。一方のパリは、さまざまな肌の色の警察がいて、特別に観光客に親切という印象は無いし、機関銃を手にして勤務している姿も目にします。隣同士の国なのに、警察の役割と姿は随分と違うものです。

■日本の警察は、明治維新の時に失業した武士階層を大量に採用して発足したので、近代国家らしからぬ階級的な威圧感を残していて相手構わず「おい、コラ」と呼び止める悪いくせがあって評判が悪かったようです。小ばかにされたような気分になる庶民の方も、犯罪者を捜査員として利用していた江戸時代の警察システムを揶揄(やゆ)する「不浄役人」という蔑称を使ってウサ晴らしをしていたようですなあ。戦後の社会主義運動や学生運動で過激派の摘発を熱心にやったので、その時の対立関係を根に持っている人も多いので、市民と警察との間にはちょっとした溝が残っているようです。しかし、実際には国際化の現場で、言葉がぜんぜん通じない犯人の扱いに困っているお巡りさんは、大変なのです。今のところ、麻薬の売買やこそ泥の捜査が主のようですが、粘着テープを愛用する強盗も増えて来て、ますますお巡りさんへの依存度が高まっているようですなあ。少しくらいの裏金を作って山分けしていても、犯罪者の検挙率をぐっと上げてくれれば、国民はやいのやいのと騒がないでしょう。

■そんな日本でも、アルカーイダの集金システムが存在している事が発覚して、いよいよ対テロ戦争の最前線に警察官が立たされる時代になってしまいました。まだ爆弾テロは起きていないので、外国人に対する過剰反応は起きていないようですが、関東大震災の時にパニックを起こして朝鮮系の人々を惨殺したDNAを持っているのですから、外国の文化を良く知らないままに「イスラム教徒ってえのは悪いヤツだ!」と言い出す輩が沢山いるに違いないのです。ですから、特に日本では絶対に爆弾テロは起きて欲しくないですなあ。

22日午前10時(日本時間同日午後6時)ごろ、警官隊に追われた南アジア系の男が駅の改札口をくぐりぬけ、ノーザン線の車両に飛び乗ろうとした。男はドアに半分はさまれ、おびえたような顔で車内を見渡したが、警官に追いつかれて銃弾を受け、床に倒れこんだ。発砲は計5発。

■こんなニュースが入って来て、さすがは007の国だなあ。(本当は007は対外情報部員で海軍士官)などと感心していましたが、何故、「5発」なんだろう?と不思議に思っていました。すると、最も聞きたくなかった続報が入って来ましたぞ!どうやら、射殺された男性は爆弾テロ事件とは無関係と判明しました!過剰反応が始まっているようですなあ。

ロンドン同時テロ:警視庁が異例の厳戒態勢 社会に衝撃

【ロンドン小松浩】テロ続発を警戒するロンドン警視庁(スコットランド・ヤード)は対テロ特殊チームを大量投入し、厳戒態勢を敷いている。「創設(1829年)以来最大の挑戦」(ブレア警視総監)とされる爆破テロの脅威を抑え込むためだ。底知れぬ不安を抱えたロンドン市民の多くは警備強化を容認しているが、白昼の地下鉄車内での射殺など、緊迫した異例の展開が社会に衝撃を与えてもいる。
 警視庁は自爆テロ犯摘発を主目的に500人から600人の特殊銃撃部隊を展開、「力」を象徴するギリシャ神話の神から「クラトス作戦」と命名した。隊員は普通の青年のようにジーンズ、Tシャツなどの軽装にコートをはおり、中にドイツ製の半自動小銃(口径9ミリ)を隠し持つ。
 22日にストックウェル駅で容疑者を射殺したのも、これら私服部隊だ。警視庁は内規で、自爆テロ犯は爆弾を抱えている可能性があるため胸でなく頭部を撃つように、と定めている。
毎日新聞 2005年7月23日

■警官ではなく特殊銃撃部隊が投入されていたのですなあ。9ミリの半自動小銃ならば、パラパラと発砲すれば5発の命中弾も不思議ではないのでした。しかし、問題なのは本当に射殺されても仕方の無い事情が有ったのかを疑問に思う声が余り出ていないらしい事です。「最大多数の最大幸福」を追求する中で多少の犠牲は止むを得ないという気分が国中に蔓延しているのでしょうなあ。既に怪しい人物のリストも作られて監視体制が敷かれているようですから、まだまだ過剰反応の「誤射」事件が起こる可能性が高いでしょう。同じ国籍で同じ社会に暮らす市民であるべき集団の中に、ぴっと線が引かれてしまったようです。イスラム教徒は肌の色が違う場合が多く、女性は髪の毛を覆う戒律が有るので服装の違いが目立ちます。それを見咎(とが)める視線を浴びて暮らすのは苦痛でしょうなあ。

■第一回の爆弾テロの犯人とされる若者の両親が、顔を出して当惑している心情を吐露していましたが、だんだんそれも出来なくなるかも知れません。欧州には同じキリスト教の旧教徒と新教との間で100年間も殺し合った経験が有りますし、初めての世界大戦と呼ばれる30年戦争も有りました。そして、悪名高い「十字軍」の歴史も有るので、その子孫達の中にイスラムに対する「聖戦」の気分が高まると誰も止められなくなってしまうでしょうなあ。圧倒多数の無関心派が徐々に過激な排外主義に同調するようになると、良識派の声などあっと言う間に消し去られてしまいます。何代も血筋を遡って「ヨソ者」扱いされる人々は、変えられない自分の血に悩むようになると、テロリストの候補者や志願者が得易くなるので、テロ屋にとっては好都合でしょうが、そうなると解決策はますます見つけ難くなって、どうしようもない疑心暗鬼が広まって、社会は完全に分断されて大きな事件が起こるようになります。

■ドイツからネオ・ナチ気分が伝染すれば、フーリガン兄ちゃん達が張り切ってしまうかも知れませんなあ。今も謎の多いダイアナ妃の死亡事故に関しても、英国王室にイスラム系の血が入るのを嫌った何者かが暗殺したという陰謀説が根強く囁かれているのも、暗い未来を予告しているような気もしますし、トルコがEU加盟を求めているのに対して、EUをキリスト教同盟にしようと思っている勢力がイスラムを理由に大反対しているの現実も有ります。移民の制限から移民の排除、強制送還へと進めば、かつてのユダヤ人が経験した悲しい歴史をイスラム教徒が経験する事になります。

■最近、人気が再燃しているクイーンという英国のロック・バンドで優れた歌唱力を発揮していたフレディ・マキュリーという人は、アフリカのタンザニア生まれのインド系英国人だったとのことですが、イスラム教徒だったらどうだったのでしょうなあ。芸術や歌、ロックは世界に共通の文化だ!平和の歌だ!という声が、イスラム教徒も仲間にしてくれるのかどうかは疑問ですし、アフリカを救え!と叫んでいたロック歌手達が、イスラム教徒を差別するな!と言えるのかどうか、ちょっと不安になりますなあ。

■「十字軍」という歴史用語がビン・ラディンの口から飛び出して驚いていると、ブッシュ大統領の演説の中にもまったく逆の意味で紛れ込んでいたので呆れたものですが、「十字軍」には参加しなかった英国が、今度は主力部隊になって新しい十字軍などが結成されない事を願うばかりです。案外、誤解している日本人が多いのですが、毎日、物騒な事件が起きているイスラエルにはパレスチナ系の国民が沢山住んでいて、個人的な交流や商売上の関係を維持しながらユダヤ系の国民と共存しているのです。自爆テロを起こすのは、被占領地から侵入して来るテロリストがほとんどで、イスラエル国籍を持っているパレスチナ人の多くは、テロよりも商売が大切だと言っています。長大な分離壁を作って国際的な非難を浴びていますが、テロリストの侵入を阻止する切り札として建設を決めた経緯を考えると、あの壁の御蔭でパレスチナ系の国民と本物のテロリストとの区別が付けやすくなったという面が有るのです。

■子供や女性に爆弾を縛り付けて起り込んで来るテロ組織を放置していたら、イスラエル国内でパレスチナ人の大量虐殺事件が起きてしまった可能性が高くなっていました。イスラエル国内ではパレスチナとの共存を求める声がずっと消える事は無く、テロリストの排除だけを求めているだけで、パレスチナ系の住民を排除しようとしているわけではないのです。これからロンドンを中心に欧州で起る恐れがあるイスラムに対する過剰反応に比べれば、イスラエルは長い経験から多くを学んで上手に共存している国だと思われるようになりそうですなあ。

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ロンドンの次はエジプト

2005-07-23 16:09:07 | 外交・世界情勢全般
■米国が育てたパキスタンとアフガニスタンにまたがるイスラム武装・ネットワークは、タジク系の英雄マスードさんの暗殺以後、アラビアから追い出されたビン・ラディン系の影響下に入ったという経緯が一つあります。そして、元々ビン・ラディンがアラビア王家に対する非難を開始する為の最初の国外拠点を置いたのがロンドンで、ドイツに留学していたアラビア系の大学生に命じて、9.11ニューヨーク攻撃を実行。対テロ戦争を宣言した米国は、情報収集能力を総動員して次のテロを断固として阻止しようと形振り構わない強硬姿勢を貫いていて、入国審査時の過剰なチェックや容疑者の洗い出しと拘束、拷問に近い尋問による情報収集などで、アルカーイダの侵入と活動を今のところは抑え込んでいます。

■冷戦時代にソ連が援助したエジプトは、北朝鮮とも協力関係にあって、共にソ連が東欧に設立したテロリスト養成機関に優秀な若者を送り出していたというもう一つの源泉が有ります。冷戦時代に民族解放闘争と社会主義革命思想が混ぜ合わされて、中南米や中東地区、そしてアフリカに社会主義を標榜する民族戦線が続々と生まれましたが、それらの資金や武器の援助はソ連から受けていました。ソ連が崩壊すると独自に資金を調達する為に略奪行為を始めるしかなくなり、年を追うごとにジリ貧状態になって開店休業の組織が増えているところに、ビン・ラディンというスポンサーが現れて、イスラム原理主義を名乗れば資金が得られるようになりました。思い付きのテロや誘拐事件を起こす者は、ビン・ラディンに対する好意や忠誠を看板にすると、きっと資金が渡って正式にその傘下に入るという具合なのでしょう。

■アフガニスタンのイスラム義勇軍が活動し始めるのと時を同じくして、ソ連と手を切って米国側に寝返ってイスラエルと平和条約を結んだサダト大統領を、記念日の閲兵式の最中に殺害するという大胆不敵なテロを実行したグループがエジプトに出現して、サダトの路線を踏襲している現在のムバラク政権を非難し続けたので、ムバラク大統領は徹底的な弾圧を加える決断をしました。国家の警察組織や国軍とは正面から戦えない反政府組織は、最大の産業である観光産業を壊滅させて政府を弱体化させようと、観光客を狙ってエジプトは物騒な土地だと世界中に宣伝しようと熱心です。その流れに乗った者が、イスラエルから返還されたシナイ半島沿岸のリゾートを襲うようになって、本日7月23日未明にシャルムエルシェイクに攻撃を仕掛けたのでしょうなあ。

■当日、現地のホテルにムバラク大統領が滞在していたという情報も有るようですが、飽くまでも標的は世界中から集まっているダイビング目当ての観光客でしょう。エイラット湾はイスラエルが第三次中東戦争で占領してから、有数の観光リゾート地としてさまざまな社会インフラを整備していたのを、そのままそっくりエジプトに返還したので、欧米からの沢山の投資や観光客を集める場所になりました。ですから、いつまでもエジプトと言えばピラミッドという頭打ち状態の観光産業にとって、新たな収入源として重点的に開発を進めている場所です。

■こうして見ると、米国に寝返った政府に牙を剥いているエジプトのイスラム原理主義運動の元はソ連のテロ技術によって育ち、アルカーイダ系のテロは米国によって生み出された事が分かります。これが、90年代のスーダンで接触して、協力したり競い合うようにして全世界を舞台にしたテロの共演を始めたというわけでしょう。エジプトを追われた原理主義者達とサウジアラビアを追い出されて欧州に拠点を持っていたビン・ラディンが、エイジプトの南隣で紅海を挟んでサウジと向かい合うスーダンで合体するというのは、地理的な合理性が有ります。その後のスーダンで、イスラム系の政府が非イスラム国民を虐殺しているのも、同じ流れの中で起きている現象です。

■彼らにとって、メッカを中心にして7世紀から発展したイスラム帝国の歴史は、夢や幻ではなくて、現実的に必要な空間として考えられていますから、最初は中東に入り込んだ欧州出身の異分子イスラエルだけが標的とされましたが、今はイラクという大きな産油国の跡地?が米国という世界最大の異分子として拒否反応を起こしているわけで、その間に挟まれているシリアとヨルダンには、強い反発を感じる者達が増えているはずで、案の定、ヨルダンからはザルカウィという威勢の良いテロリストが登場しました。ヨルダンに比べて強力な圧政を続けているシリアは、国家自体がテロリストのような物騒な国ですから、国内から目立ったグループが新たに現れる可能性は低いようです。

■かつては、ローマ法王を頂点とするカトリック教会のように、宗教上の教義が統一されていたイスラム帝国が存在しましたが、次々と王朝が変り、分裂と再統合を繰り返しながらキリスト教勢力と対決した歴史の最後を飾ったのがオスマン・トルコ帝国でした。この帝国は20世紀の入り口で大英帝国の挑戦を受けて瓦解しました。その大英帝国ですが、今は見る影も無い小さな島国ですが、世界をほぼ手中に収めようとしていたスペイン帝国に挑戦して、全世界の統一の役割を継承した国です。スペインが手を付けられなかったチャイナにも手を掛け、世界を一周する「日の沈まぬ国」を実現しました。しかし、その巨大な海洋帝国は、南アフリカの黄金を奪い合ったボーア戦争やインドの反乱あたりからヒビが入り始めて、ロシア帝国との衝突は避けて日英同盟を結んで、大日本帝国を咬ませ犬に仕立て上げて上手くやりました。

■世界が石油の価値に気が付く頃、大英帝国は威信をかけて中東石油を握ろうとして、全欧州の宿敵だったオスマン帝国に挑戦します。第一次世界大戦とか欧州大戦とか言いますが、ぐっと引いて眺めると、大英帝国対オスマン帝国という構図が見えます。そこにドイツ(プロシア)帝国とロシア帝国が介入して、中東石油を奪い合いました。その結果、定規で引いた国境線を持つアラブの王国が誕生したわけです。ロシアはカスピ海沿岸の油田地帯を死守しながら、常に中東への回廊を得ようと暗躍しますが、大英帝国を継承する機会をずっと窺っていた米国によって南下は阻止されます。東西冷戦は欧州を分断した「鉄のカーテン」を挟んで始まったように見えますが、実際は中東石油利権を中心とする世界再分割のせめぎ合いだったと言った方が分かり易いでしょう。

■OAPECやOPECを組織した産油国が冷戦構造の中で第三の勢力として台頭しようとしましったが、軍事力が足りないために、常に米ソどちらかの後ろ盾を必要とする立場に甘んじなければならなかったのです。ところが、この冷戦構造という枠が消えたので、早速イスラム帝国の再建という「大儀」が輝き始めて、千年来の部族闘争が始まってしまいました。スンナとシーアという宗派の違いと連動しているアラブとペルシアの民族対立を基盤として、アラブ側の大将争いがその上に載っていますから、世界の覇権を手にした米国はいくらでも介入して操りながら武器を売りつけてオイル・ダラーを回収して儲けることが出来ました。

■米国の介入は裏から表になり、とうとう堂々とサウジに軍事基地を構え、中央アジア地域にまで拠点を確保するようになりましたから、夢のイスラム帝国に加わる圧力は歴史上類を見ないほどの高さに達しています。伝統的に常に西の欧州から受けていた圧力に加えて北と中央に米国が入りましたから、空いている東、つまり東南アジアやオーストラリアへの通路と南のアフリカへの通路だけが残り、オスマン帝国の本家本元のくせにEUに加わると言い出したトルコが柔らかい重しになっているようなものでしょう。

■エジプトのテロリストは反政府運動を成功させないと大きな顔が出来ませんから、それに集中しています。産油国でない悲しさで、テロ資金も潤沢ではないでしょうから、世界の各地で派手なテロは出来ますまい。それに、中東の裏事情に詳しいムバラク大統領の厳しい摘発から逃れるのも大変でしょう。何せ、イラク戦争前に、「米国が攻め込めば1000人のビン・ラディンを生み出すことになる」と喝破していた人ですからなあ。トルコとアラブはイスラムでありながら欧州との共存を選択しているので、テロの標的にされる立場も欧米と共有しています。その立場をシタタカに利用しながら自国を高く売る方法も良く知っている国です。この二つの国はイスラエルと手を組む事で米国とも強く結び付くという老練な外交を展開しているわけです。

■欧州との対等な立場を持つイスラム帝国をどうやって建国するのか?その支配者は誰を想定しているのか?カリフ制を復活させるのか?石油収入をどのように分配するのか?ペルシアを独立させておくのか?トルコ系のイスラム諸国はどんな立場になるのか?ロシアと戦争して中央アジアをもぎ取るのか?最終的にはチャイナに挑んでウイグルまで飲み込むのか?数々の疑問に明快な答えを出しているテロリストは居ないようですから、彼らの暴力は、間も無く内ゲバに向って行くような気がします。

■次々と消えていった大帝国を思うと、それぞれの末裔達はその復活など望んでいないことが分かるのですが、米国という最も若い帝国は歴史が無いので、帝国は必ず崩壊してしまうという道理が分かりません。そして、中華帝国の夢だけを支えにしているチャイナも、自分達も信じていない四千年や五千年の伝説を宣伝していますが、本当は中華人民共和国というたった60年の歴史しか持っていない帝国だという事も忘れてはならないでしょうなあ。砂漠の蜃気楼でしかないイスラム帝国と大英帝国の崩壊後の空白を埋める事で誕生した米帝国との喧嘩ですから、どうしても現実ばなれした話になりがちで、片方は「イスラム万能」で、相手は「米国型民主主義万能」ですから、誰かが「どっちも間違っているぞ」と言ってあげなければならないのですが、とても聞いてくれそうにはありません。

■その間に入って、移民や難民を現実的に受け入れている欧州がテロの標的にされるのは、やはり迷惑な「八つ当たり」としか言いようが有りませんなあ。イスラムを守る聖戦だと言いながら、信仰を守りながら現地に溶け込もうとしているイスラム教徒を苦しめる結果しか生まないテロは、だんだん支持を失うでしょう。そして、本当の問題の当事者であるサウジアラビア王国では、近い内に王位の継承が行なわれそうな気配ですから、その時に、「王政反対」運動が起るかどうかが、一つの節目となるはずです。

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幻の極東麻薬戦争

2005-07-22 15:29:35 | 外交・情勢(アジア)
■本日7月22日のテレビ朝日「スーパーモーニング」という朝のワイド・ショーで、北朝鮮の麻薬密輸業者の映像が紹介されました。取り引き風景は中国のようですが、逮捕の瞬間が撮影された場所は、何とウラジオストク郊外でした。紀行ブログ『雲来末・風来末』で「浦潮記」を連載中のことなので、唖然としてしまいました。現地では酒(ウォッカ)のテレビCMを法律で禁じているのですが、それは健康志向が理由ではないでしょう。ソ連崩壊でモスクワからの援助が無くなった極東地区は精神的な荒廃が進んでいるからでしょう。アルコール中毒が蔓延したら社会は崩壊してしまうに違いなく、既に夜間の治安は崩壊寸前のようですから、沿海州政府は禁酒をしたいくらいでしょうが、そんな事をすれば1920年代のアメリカの轍を踏んでマフィアが密造酒で大繁盛するだけですから、積極的に飲酒を勧めないようにするのが精一杯というところでしょうなあ。

■今回のテレビ朝日のスクープ映像は、ウラジオストクの警察が麻薬取り引きの現場を抑える様子をとらえていました。強い酒よりも薬物で面白くも無い世間のウサを晴らしたいという需要は何処にでも有るのでしょうが、経済的に混乱している地域で麻薬が蔓延すると社会が崩壊して悲惨な事件が多発しますから、今のロシアに麻薬を売りつけるというのは、実に罪深い商売ですなあ。清朝の時代に阿片戦争を経験しているチャイナでも、「毒」と呼んで麻薬犯罪には極刑で臨むと宣言した戦いが続いていますし、ロシアでも現在常用者600万人と推定される麻薬患者を2010年までに100万人減らそうと知恵を絞っているところです。

■ソ連が崩壊し始めたゴルバチョフ時代は、相手のレーガン米国大統領が中南米からの麻薬流入を断固として阻止すると宣言して「麻薬戦争」を始めていました。その頃の欧州ではドイツの港に入るマリファナに始まってヘロイン注射が蔓延して大問題になっていたのでした。日本では誰が考案したのか分かりませんが「覚醒剤」などという変な名前でヘロインが密売されていて、今も使われていますなあ。ヘロイン患者と数日旅をした奇妙な経験が有りますが、その間一切の食事をしないし、眠っているのか起きているのかはっきりしなかったり、感情の起伏が激しくてとても付き合い辛かった記憶が有ります。目の前で細く丸めた紙の筒で白い粉を鼻に吸引すると、しばらく目をつぶって唸った後で、かっと見開いた目は真っ赤に充血していてホラー映画みたいでしたなあ。その勢いで、勧められても手なんか出ませんなあ。既に死期を悟ったような男でしたから、無理に止めさせて怪我でもしたら詰まらないし、禁断症状で暴れられても困るので、別れ際に早く止められれば良いね、と言うと寂しそうに笑った顔が忘れられませんなあ。

■世界的に麻薬が深刻な問題になっていた80年代、日本では拉致事件が頻発していたわけですが、容疑を掛けられている国が「でっち上げだ!濡れ衣だ!」と言っているのをそのまま報道していた新聞まで有りましたから、日本は貴重なチャンスを二重の意味で失った事になります。ソ連が崩壊すれば社会が混乱して麻薬が流入するのは目に見えていましたし、文化大革命後の混乱が続いていたチャイナも阿片窟の伝統?が有りますから、一山越えただけで黄金の三角地帯と隣合っている地理的条件を考えれば、麻薬問題が深刻化すると予想は付きました。そして、当時から農業政策の大失敗で、食糧を輸入用の外貨不足に苦しんでいた朝鮮民主主義共和国が国を挙げて麻薬生産を始めたという噂が出ていたのですから、拉致事件の疑惑を追及するためにも、日本が主導して「極東麻薬戦争」を仕掛けるべきだったでしょうなあ。

■バブル経済の暴走が始まる前、外貨が溜まって仕方が無かったのですから、麻薬撲滅用の資金を提供して、協力国の軍事警察力を結集して「後方支援」活動が出来れば、国際的な地位は上がるし、麻薬による収入を立たれた国は頭を下げて食糧援助を要請したのではないでしょうか?当時のソ連も中国も、北朝鮮の面倒など見ていられなくなっていたのですから、北の暴発も瓦解も望んでいなかった韓国とも協力して麻薬撲滅と民主化を迫って生産力を上げる支援にも回れたかも知れません。その条件として、拉致事件の「調査」を要求して納得の出来る自白を気長に要求する強い立場を確保出来たはずですし、東南アジア諸国や欧州とも手を結んで麻薬の輸出を断念させられた可能性が有ったのではないでしょうか?

■麻薬撲滅運動で手を結ぶのに、平和条約や領土問題に触れる必要は無いし、東と北から圧力が掛かった時に「商売の邪魔をしている!」とはさすがの北朝鮮テレビも叫べなかったでしょうから、すぐに裏交渉で「麻薬は止めるから、助けて下さい」という話になれば、核武装だの長距離ミサイルだのという物騒な玩具を持たせる前に、今よりずっとましな交渉の場が持てたのではないでしょうか?

■今回のテレビ朝日が見せてくれた寂しいウラジオストク郊外の風景を見ている時に、ふと思った事なのですが、過ぎ去ったチャンスは取り戻せませんが、選挙も近くなって民主党あたりが馬鹿の一つ覚えの「アジアとの友好」などというまったく具体性の無い外交方針をマニフェストに書くような事の無いように、反省すべき材料とはなるでしょう。テロリストで死刑囚だったシン・ガンスという人物を釈放して下さいという署名運動に賛同した菅直人さんは、未だに反省もしていないのですから、元代表がこんな状態で間違って政権を取ったらどうなることやら。最近、横田めぐみさんと曽我ひとみさんに付いた最初の教育係がシン・ガンスだったと公表されたのに、それでも署名した人々から反省の弁は聞かれませんから、万が一民主党が政権を取って、菅外務大臣が誕生したら、日朝交渉の席で「あの時は世話になりまして、御礼を申し上げます」などと、シン・ガンスのメッセージが渡されたらどうしましょう?菅外相は、いつもの締まりの無い笑顔で「いえいえ、釈放されて良かったでしたねえ」などと外国辞令を口にするのでしょうか?

■ますます混迷の度を深めて行く極東という場所は、一触即発の戦争の種が静かに育っている場所ですから、生半可な作文のような政策で太刀打ちできるような暢気な場所ではありません。麻薬・偽札・ミサイルの外貨獲得三点セットを北朝鮮に捨てさせる外交戦略が無ければ、六カ国協議の次の段階には進めますまいなあ。チャイナは麻薬問題など相対的に小さな問題になってしまった観が有りますから、本当は北朝鮮を麻薬で締め上げるパートナーとしてロシアは有効な相手国だったのではないでしょうか?シベリアの石油パイプラインもチャイナに取られてしまったし、極東ロシアで日本語を学ぶ学生も激減して、日本はチャイナの方ばかり見ています。でも、チャイナを商売相手にして稼いだお金で北朝鮮の麻薬を買っていたら、何のための日中友好なのかさっぱり分からないでしょう。

■日本はまだエイズ問題と麻薬注射の回し打ちが強く結び付いていないようですが、現状を放置していればチャイナに負けずにエイズ患者の爆発的な増加に見舞われる可能性は高いのですから、今の内に麻薬戦争を仕掛けないと手遅れになりますぞ!偶に芸能人が麻薬で逮捕されたりしていますが、中高生にまで広まったドラッグ商売は暗い未来を暗示しています。国内問題の解決を外交に直結させる技術をもっと磨かないと、外交の失点が笑い事ではなくて致命的な社会崩壊の原因になる恐れが高まっているということでしょうなあ。もっともらしい顔して偉そうに成田を出発するけれども、六カ国会議では財布を持った置物同然の扱いを受けている事は、もうバレているのですから、20年以上前にチャンスを失った事を反省して、会議の参加も入り口を間違えた事を認めて考え直すべきではないでしょうか?

■米国は太平洋を越えて飛んで来る核ミサイルさえ無くなれば良く、あとの四カ国は日本が北朝鮮に黙って資金を出せば良いと思っているだけの会議ですから、四半世紀も馬鹿面さらして放置した拉致問題の解決などを言い出しても、「それはそれとして、問題は…」と一言で片付けられて村八分にされるに決まっているじゃないですか?麻薬とパチンコという中毒性の高い危険な商品に、毎日日本の大金が消えて、何処かの国の裏帳簿の収入欄が豊かになるような仕組みを壊さないと、国際会議をやればやるほど傷は広がりそうですなあ。

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ロンドンの地下鉄爆弾テロに思う

2005-07-22 13:57:15 | 外交・世界情勢全般
■先の爆弾テロから二週間かけて、どうやらパキスタンに首謀者がいるらしいと見当が付いたと思ったら、またしてもロンドンが同じ数の爆弾で狙われました。でも、今回は昼食時の一時間に起こったので、スペインやイタリアみたいに家に帰ってのんびりランチを楽しんで来るような習慣の無い英国ですから、日本と同様に交通機関を利用していた人数は、前回の通勤ラッシュ時とは比べ物にならないくらいに少なかったでしょう。それに、前回の記憶がまだ生々しい時ですから、アジア系の若者が大きなリュックを背負った姿形を一目見れば誰でも心の準備はするでしょうし、案外、乗り込んで来る前に隣の車両に移動し始めていた人もいたのではないでしょうか?オウムのサリン事件で言えば、事件発生の二週間後に、テレビで見慣れているクルタとか言うパジャマ姿で、傘とビニル袋を持って誰かが地下鉄に乗り込んだようなものですからなあ。

■それにしても、今回の犯行は幼稚な印象を受ける、どこか遊び半分の感じがします。新聞報道では、「自爆するぞ!」と言ってから逃げた奴がいたそうですから、ちゃんと洗脳されていない覚悟が定まっていない者だったようです。一口にイスラム原理主義と言っても、今やピンからキリまで玉石混交で、ますますわけが分からなくなっているようです。爆弾は怪我人を一人出した物意外は不発だっとも伝えられていますし、作り方が下手だったのか、扱い方を知らなかったのか、兵隊がびびってしまったのか、どれが理由であっても締まらない話です。英国の国内に移住しているイスラム教徒のグループ間でも功名争いが起こっているのか、しっかりした一つの組織が功を焦ったのか、これもどっちにしても年寄りが若者を焚き付けて爆弾テロをやらせている事に変りはありません。

■子供を戦闘員に使い始めたら、既にその組織は自己崩壊の段階に入っているという面が有ります。大日本帝国でも、最後には特別年少兵などという制度を急ごしらえして、人間爆弾に仕立て上げましたが、その先の事など誰も考えていなかったのではないでしょうか?十代の少年を使い切ったら、幼児を投入し、その後は赤ん坊に爆弾を抱かせて戦うわけには行かないわけです。テロそれ自体が目的化してしまっている観のあるイスラム原理主義運動の過激派は、世界中のイスラム教徒から自爆志願者を掻き集めなければならなくなっているようで、貧困に苦しむ移民や失敗国家になってしまった国々で希望を失っている若者に、一度の親孝行が出来る賞金をエサにするテロリストの粗製乱造が始まるかと思っていましたが、今回の第二回目のロンドン地下鉄攻撃で、早くもそんな面が垣間見えたような気がします。

■60年も続いているイスラエルとパレスチナの対立と抗争には、大帝国が崩壊した後の新国家建設という国際法が機能しない根源的な大問題が有りますから、簡単にどちらが良いの悪いのと感情で論じるのは危険なのですが、パレスチナ人の多くは、とくかく平和に暮らしたいと願っていても、「非国民」や「反革命反動分子」などと同じ効果を持つ排除の論理に縛られていて、テロ実行者を讃えねばならない義務を負って生きています。死ぬまで国家として必要なインフラを作らずにテロと駆け引きばかりしていたアラファトという人の御蔭で、和平交渉がまとまりそうになると、唯一の収入源となっているテロ支援金が無くなるのを怖れる連中がテロ続行を画策してしまいます。それと同じ構図が現在のイラクに現れていて、誰かが提供する資金でせっせとテロを続けているわけです。

■パレスチナでは女性がお腹に爆弾を入れて妊産婦を装って人ごみの中で自爆する事までやりましたから、警戒しているイスラエル側はすべての妊産婦を疑わねばならなくなって、戦闘の緊張から誤射事件が起こりました。青少年の体に爆弾を巻き付けて送り出す連中も同様で、資金を受け取って指示を出している人物は安全な場所にいて、学校施設も作らずにゲリラ訓練所しか行き場が無いような環境で子供達を育ててテロリストを養成していましたが、これがアフガニスタンやパキスタンで真似されて、今や世界中がパレスチナ化しているのです。テロのためのテロには、交渉の余地は無いし、万一、テロが成功したところで、彼らには国家建設のプランも能力も無いので、更に大きなテロを起こすしか無いでしょう。

■テロは犯罪なのだという共通認識が作れないパレスチナ新政府は、これまでにテロリストを要請して資金を与えて、英雄視して来た歴史に縛られています。これは靖国問題どころの話ではなく、自暴自棄になった若者に教育や職業訓練を施す義務を投げ出した大人達が犯した罪です。こういう人物と同じ考え方を持った人々が、欧州に移住してテロリストを育てているのですから、これからは人権の制限が考えられることでしょう。移民として受け入れて社会資本も提供している国に対してテロを仕掛けるのは奇妙な理屈で、彼らが本当に戦わなければならないのは、イスラム教を看板にしながら石油利権を独占している王族だったり、冷戦時代の強権支配をそのまま受け継いでいる国々の支配者であるはずなのですが、外にばかり向って攻撃を続けると、どんどん理解と同情を失って孤立して行くばかりです。

■実際に多くのイスラム教徒が暮らしている欧州の都市では、生活習慣の大きな違いによって常に緊張と差別が生まれる構造が出来上がっています。長期滞在する時に、不動産屋さんで住宅を探すと、「日本人は部屋を綺麗に使うから、喜んで貸してあげよう」と言われますが、その逆の扱いを受けるのがアラブ系のイスラム教徒達だったりします。床に砂を播いたり、強い臭いの香水を振りまいたり、キッチンには強烈な香辛料の臭いが染み付いて、次の借り手が見つからないとロンドンの家主が言っていた事を思い出します。そこで石油で儲けた莫大な資金でアラブの貴族が町のブロックごと買い上げて、アラブ人街にしてしまうような事が起こり、その周辺にスラムが出来てしまうようです。

■どうも、日本の報道では欧州とイスラムとの恐ろしく長い歴史が切り落とされたり、どちらか一方の極端な見解を取り上げてしまう傾向が強くて困ります。最も深いところで、国境を持つ国家で暮らす人々と一切の確定的な国境を認めない人々が対立していて、両者は共通の歴史認識が持てない事を承知の上で、水と油を混ぜるような努力をしなければならないのです。それがイスラエルとパレスチナの間で成功すれば、互いに主権を認め合う関係の糸口となるかも知れないので、世界は息を呑んで注目しているのでしょう。逆にロンドンでは水と油が混ざっていたように見えていたのが、誰かが器を叩いて分離させたというのが今回の連続テロ事件なのではないでしょうか。放置しておけば水と油は完全に分離してしまいますから、常に攪拌して混ぜておかねばならないのですが、その余力を英国が何時まで持っていられるのか、それは誰にも分かりません。

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何処まで飛ぶやらアスベスト?

2005-07-21 22:02:54 | 社会問題・事件

■呆れ果てるばかりですが、バブルに躍って帳簿に大穴を空けた揚げ句に税金を恵んで貰って生き残った日本の銀行と歩調を合わせて世界の金融界を闊歩していた日本の保険会社は、今ではすっかり尾羽を打ち枯らして元気が無いかと思っていたら、裏ではトンデモナイ事をしていたのですなあ。困った時の保険なのですが、所詮は博打の胴元ですから、分が悪い勝負には応じてくれませんね。まだ、天下の大蔵省が仕切っていた護送船団方式が健在だった80年代に、アスベストは危ないからと「賭け」に応じない決定をしていたそうですぞ!


80年代に石綿被害を除外 損保大手が賠償免責通知

 深刻な健康被害が拡大しているアスベスト(石綿)が原因で、企業が付近の住民や従業員の家族から請求される賠償金について、大手損害保険会社が1980年代半ばから保険金の支払い対象外とする免責契約に切り替えていたことが21日、分かった。
 東京海上火災(現東京海上日動火災)、三井海上火災(現三井住友海上火災)など損保大手は免責契約に変更する時点で「被害急増の可能性」(大手)を民間各社にも通知しており、当時アスベストを使用してた大手各社は事実上、危険性を認識していたことになる。海外の被害事例を早くから認識していた国とともに、リスクの大きさを知りながら使用を続けた民間企業各社の責任も問われそうだ。
(共同通信) - 7月21日

■信頼できそうな男優や好感度の高い女優を金に飽かして宣伝に使って、「任せて安心」などと言いながら、いざ契約となるとゴマ粒みたいな文字であれこれと「免責条件」を書き並べて持って来るのが保険会社とは知っていても、これだけ露骨な免責をやられては怒りを禁じ得ませんなあ。保険会社は優秀な確率論と統計学の専門家を雇う一方で、諜報機関顔負けの調査能力を持っている企業ですから、保険会社が「危ない」と判断したものは、間違いなく危ないのです。そんな保険会社が充分に調査した結果逃げ出したアスベストをあれこれ理由を付けて制限もせずに放置していたのは誰なのでしょうなあ?

■保険会社が、ゴルフの「ホールイン・ワン」保険を受けるのは、まずは起こりえないと判断しているからで、地震保険は一般保険とは別枠で高額な保険料を設定しているのは、必ず地震が起こるからです。気になるのは、戦争と原発事故も保険会社は相当の確率で起こると思っているのか、保険を受けてくれませんね。世界一の長寿国となったので、「誰でも入れます」と外資系の保険会社が毎日毎晩、テレビも新聞も雑誌も動員して宣伝しているのは、日本人はなかなか死なないと計算したからでしょう。ただし、アスベストに近い人は長生きしない、と三十年も前に結論を出していたのですなあ。そう言えば、本物のヤクザさんたちは生命保険には申し込めないという話がありましたが、アスベストはヤクザの抗争事件と同じくらいに危ないという事なのでしょうか?

■まだ機関銃やロケット砲は使わない日本のヤクザさん達の抗争事件は、新聞ダネにもならないくらいの頻度でしか起こらないし、極稀に起こると、マスコミ各社が現場に押しかけて数日騒ぎますから、やはり、とても珍しい出来事なのでしょう。ここ数日、機械製造業から飛び火するように、造船だの建材生産だのと、隠されていた危険が具体的な名前と数字で報道され始めました。労災認定がどうのこうのと付け足しのような報道も有りますが、既に傷だらけになって水に落ちた犬同然の厚生労働省が保障金の支払いを渋っていたとかいないとかという問題ではなくなって、当時の大蔵省が持っていた恐るべき絶対的な指導力を考えますと、「そんな危ない物を扱っているヤツの保険なんか受けなくても良いよ」の一言が、監督部門の誰かの口から出ていたとしか考えられませんなあ。

■そして、そういう指導が行なわれる前に、縦割り行政の壁を越えて建設省か厚生省あたりに情報提供を求めていた事も充分に考えられるわけで、問い合わせ電話に出たどちらかの役所の担当者が、「ええ、アスベストはとっても危ないので、保険なんか受けていたら保険屋さんはエライことになるでしょうねえ」ぐらいの事を言ったのではないでしょうか?そして、大蔵省からそういうお墨付きを貰った保険屋さんが、「そう言うわけでして、お宅の社員はウチの保険には入れない事になりましたので、宜しく」と危ない企業に連絡が行ったわけでしょうなあ。勿論、社員にもその家族にも、そして近隣住民やそこで生産されている物を使っている人々にも、一切の連絡は行かないわけですなあ。保険会社の社屋や寮などではアスベストの使用を制限していたりしたら、本当に酷い話であります。

■何はともあれ、アスベストの危険性は掘り起こして調べ上げればいくらでも報道出来たネタでした。別にどこかの国の極秘事項だったわけでもないのですから、徹底的に追跡調査すれば、こんな間の抜けた報道を今頃になってする必要はなかったのです。どこのマスコミが最初に、これまでの悪意ある怠慢を謝罪するのかがこれからの見ものですが、その根っこに巣食っている政官財の鉄のトライアングルが再び非難されるのは間違いないでしょうなあ。こんな時に選挙なんかしたら、何が起こるか分かったものではありません!明日の新聞を読むのが怖い、そんな毎日が暑い盛りに続きそうです。暑さを我慢して分厚いマスクを付けて生活しなければならないのでしょうか?この狭い国土に輸入されてどこかに蓄えられているアスベストは、輸入量を積算すれば数百万トンになっているのですから、その内の何万トンが風に飛ばされたのやら。私達の肺の中にも何十本かはもう刺さっていると考えるべきでしょうなあ。八つ当たりが激しくなって、ますます、煙草は吸いづらくなりそうです。

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