■採火地のアテネを飛び立つ時にも強烈な「見送り」を受けた五輪聖火が、わざわざ内部を改造した特別機に乗って無事に?北京空港に到着。厳戒体制の天安門に用意された盛大な「歓迎」セレモニーが賑々しく挙行されるのだそうですが、ギャラリーは公安と武装警察ばかりとか……。物々しい警戒の中で踊ったり唄ったりさせられる人達はどんな気持ちなのでしょう?道路特定財源で製作された『道普請』ミュージカルの舞台で恥ずかしい歌を唄って踊らされた某劇団よりも、後々、苦い苦い思い出になるかも?とは言っても採用されて練習を重ねていた頃には名誉な仕事だと思っていたのでしょうから、今更、ボイコットするわけには行かないでしょうなあ。
■そのボイコットですが、EUの寄り合い会議でも開会式に参加する国と欠席する国とに分かれて、チャイナの国営メディアは完全無視を決め込む一方で、北京政府は不快の念を絶叫しているとか……。政治的駆け引きには多くの理由と要素と思惑が絡みついているので、現段階でまとまった意見が出るはずもありません。問題は参加予定のアスリート達が昔のような国家の威信を一身に背負い、国家の命令一下、忠誠心の権化となって模範的な国民を演じなくても良くなっている御時勢ですから、チベット問題に限らず、いろいろチャイナ問題を理由に出場自粛を個人の良心に従って決断するケースがどれほどの数になるのか?という事になります。
■仮に、イチコロ餃子の被害者が五輪参加選手の親族だったとしたら、その選手は家庭の事情と私情を押し殺して大会に赴くのか?などと考えてはみましたが、実は大規模なスポーツ大会ともなると、選手以外にも驚くほど多くの重要な役割を担っている人々が居ることを失念していたのを思い知らされましたぞ。
1996年アトランタから2004年アテネまで、日本が3大会連続で金銀銅メダルを独占してきた五輪種目がある。陸上男子砲丸投げ。といっても選手の話ではない。メダルを獲得した選手の砲丸が、ことごとく日本の、それも小さな町工場で作られているのだ。北京でも当然、日本製「魔法の砲丸」のメダル独占は確実…のはずだった。
■マラソンなどの陸上競技ではオーダーメイドの靴が話題になりますが、砲丸投げの砲丸にも秘められた歴史と神話が存在するのですなあ。
埼玉県富士見市。有限会社辻谷工業は東京近郊の小さな商店街の一画にある。2階建ての1階が工場、上は自宅。旋盤のハンドルを握り、黙々と砲丸を削っていた辻谷政久さん(75)があっさりと言った。
「北京はやめました」
04年8月、サッカーのアジアカップが中国・重慶で開かれた際、現地サポーターが見せた日本に対するむき出しの憎悪。それが辻谷さんには気がかりだった。悩みに悩んだ末、4大会連続メダル独占の偉業を断念し、砲丸の卸先の運動具メーカーに北京五輪用は作らないと伝えた。去年の11月のことだ。
■当時、日本のメディアは無礼で無作法で恥ずかしいチャイナの観客に対して、どこか腰が引けた報道をしていたような印象が有りました。北京政府が得意としている「一部の悪い奴」理論を流用したような日中友好話に持ち込んで、ちょっと卑屈な困り顔をして見せて御仕舞いだったような……。でも、スポーツの最先端に直接関わっているプロ中のプロ、高貴な職人さんの目と心は敏感に反応していたのですなあ。イチコロ餃子殺人未遂事件やチベット騒乱が起こる前に、北京五輪の怪しさと危うさとウソ臭さを見抜き、「君子危うきに近寄らず」の選択をしたというわけです。
「砲丸は私の分身です。とても中国には出せない。大事に使ってくれる選手には申し訳ないが、職人としての意地があります」
五輪の砲丸は、審査を経て認められた数社の製品が公式球となり、選手は競技場でその中から使用球を選ぶ。アテネでは、決勝に残った8選手中7人が辻谷さんの砲丸を選択した。他の砲丸はインド製がかろうじて4位に入っただけだ。世界のトップ選手が「1~2メートルは記録が伸びる」と評価する「魔法の砲丸」の辞退で、北京五輪の優勝記録が少なくとも1メートルは短くなるとの予測もある。
■既に開催を決定したIOC自身が、「好記録は望めない」と寂しい予測を公表しているのですから、そこに砲丸投げ競技がダメ押しの凡戦になるというだけの話です。でも、長年、世界のアスリートに信頼された職人さんに参加を拒否されたというのは大変な事であります!
……砲丸は鋳物の素材を旋盤で削って作る。男子用の基準は重さ7・26キロ。それより軽いものは認められない。誤差は+25グラムまで。外国メーカーはコンピューター制御のNC旋盤という機械を使い、基準の重さで球体に近づけていく。……鋳物には鉄だけでなく、青銅や銅、その他の不純物が混じり、冷却時に残る空気のムラもある。完璧な球体だと重心が真ん中から大きく外れてしまうのだ。辻谷さんが使う汎用旋盤はハンドルで前後左右に刃を移動させながら削る。最先端のNC旋盤より手動のローテク旋盤が優れているのは、比重のムラを見極め、右側の半球を薄めに、左は少し厚く…といった応用が利くことだ。……
3月31日 産経新聞
■NC方式の旋盤や金型機械ならばパクるのは簡単でしょうが、本物の職人技は研修生や就学生には習得出来ないのでしょう。やはり、弟子入りして5年も10年も「修行」しなければ一人前にはなれない!職人さんにも五輪大会での記録は大いなる名誉となるでしょうに、辻谷名人はそんな物よりも大切な「意地」が有る!最近では「名誉」という包み紙の中に札束がぎっしり入っているような事も多いようですが、「意地」は砲丸のように中身がぎっしり詰まっていて、余分な物は紛れ込まないのかも知れませんなあ。
■こういう話がぽろぽろと出始めたら、大手スポーツ用品メーカーなどは困るでしょうなあ。もしかしたら、「北京五輪に参加しなかった」というブランドが生まれるかも?
■そのボイコットですが、EUの寄り合い会議でも開会式に参加する国と欠席する国とに分かれて、チャイナの国営メディアは完全無視を決め込む一方で、北京政府は不快の念を絶叫しているとか……。政治的駆け引きには多くの理由と要素と思惑が絡みついているので、現段階でまとまった意見が出るはずもありません。問題は参加予定のアスリート達が昔のような国家の威信を一身に背負い、国家の命令一下、忠誠心の権化となって模範的な国民を演じなくても良くなっている御時勢ですから、チベット問題に限らず、いろいろチャイナ問題を理由に出場自粛を個人の良心に従って決断するケースがどれほどの数になるのか?という事になります。
■仮に、イチコロ餃子の被害者が五輪参加選手の親族だったとしたら、その選手は家庭の事情と私情を押し殺して大会に赴くのか?などと考えてはみましたが、実は大規模なスポーツ大会ともなると、選手以外にも驚くほど多くの重要な役割を担っている人々が居ることを失念していたのを思い知らされましたぞ。
1996年アトランタから2004年アテネまで、日本が3大会連続で金銀銅メダルを独占してきた五輪種目がある。陸上男子砲丸投げ。といっても選手の話ではない。メダルを獲得した選手の砲丸が、ことごとく日本の、それも小さな町工場で作られているのだ。北京でも当然、日本製「魔法の砲丸」のメダル独占は確実…のはずだった。
■マラソンなどの陸上競技ではオーダーメイドの靴が話題になりますが、砲丸投げの砲丸にも秘められた歴史と神話が存在するのですなあ。
埼玉県富士見市。有限会社辻谷工業は東京近郊の小さな商店街の一画にある。2階建ての1階が工場、上は自宅。旋盤のハンドルを握り、黙々と砲丸を削っていた辻谷政久さん(75)があっさりと言った。
「北京はやめました」
04年8月、サッカーのアジアカップが中国・重慶で開かれた際、現地サポーターが見せた日本に対するむき出しの憎悪。それが辻谷さんには気がかりだった。悩みに悩んだ末、4大会連続メダル独占の偉業を断念し、砲丸の卸先の運動具メーカーに北京五輪用は作らないと伝えた。去年の11月のことだ。
■当時、日本のメディアは無礼で無作法で恥ずかしいチャイナの観客に対して、どこか腰が引けた報道をしていたような印象が有りました。北京政府が得意としている「一部の悪い奴」理論を流用したような日中友好話に持ち込んで、ちょっと卑屈な困り顔をして見せて御仕舞いだったような……。でも、スポーツの最先端に直接関わっているプロ中のプロ、高貴な職人さんの目と心は敏感に反応していたのですなあ。イチコロ餃子殺人未遂事件やチベット騒乱が起こる前に、北京五輪の怪しさと危うさとウソ臭さを見抜き、「君子危うきに近寄らず」の選択をしたというわけです。
「砲丸は私の分身です。とても中国には出せない。大事に使ってくれる選手には申し訳ないが、職人としての意地があります」
五輪の砲丸は、審査を経て認められた数社の製品が公式球となり、選手は競技場でその中から使用球を選ぶ。アテネでは、決勝に残った8選手中7人が辻谷さんの砲丸を選択した。他の砲丸はインド製がかろうじて4位に入っただけだ。世界のトップ選手が「1~2メートルは記録が伸びる」と評価する「魔法の砲丸」の辞退で、北京五輪の優勝記録が少なくとも1メートルは短くなるとの予測もある。
■既に開催を決定したIOC自身が、「好記録は望めない」と寂しい予測を公表しているのですから、そこに砲丸投げ競技がダメ押しの凡戦になるというだけの話です。でも、長年、世界のアスリートに信頼された職人さんに参加を拒否されたというのは大変な事であります!
……砲丸は鋳物の素材を旋盤で削って作る。男子用の基準は重さ7・26キロ。それより軽いものは認められない。誤差は+25グラムまで。外国メーカーはコンピューター制御のNC旋盤という機械を使い、基準の重さで球体に近づけていく。……鋳物には鉄だけでなく、青銅や銅、その他の不純物が混じり、冷却時に残る空気のムラもある。完璧な球体だと重心が真ん中から大きく外れてしまうのだ。辻谷さんが使う汎用旋盤はハンドルで前後左右に刃を移動させながら削る。最先端のNC旋盤より手動のローテク旋盤が優れているのは、比重のムラを見極め、右側の半球を薄めに、左は少し厚く…といった応用が利くことだ。……
3月31日 産経新聞
■NC方式の旋盤や金型機械ならばパクるのは簡単でしょうが、本物の職人技は研修生や就学生には習得出来ないのでしょう。やはり、弟子入りして5年も10年も「修行」しなければ一人前にはなれない!職人さんにも五輪大会での記録は大いなる名誉となるでしょうに、辻谷名人はそんな物よりも大切な「意地」が有る!最近では「名誉」という包み紙の中に札束がぎっしり入っているような事も多いようですが、「意地」は砲丸のように中身がぎっしり詰まっていて、余分な物は紛れ込まないのかも知れませんなあ。
■こういう話がぽろぽろと出始めたら、大手スポーツ用品メーカーなどは困るでしょうなあ。もしかしたら、「北京五輪に参加しなかった」というブランドが生まれるかも?