旅限無(りょげむ)

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野球世界一は目出度いけれど

2006-03-22 19:28:05 | 日記・雑学
■目出度い事が有ると、その裏側に隠れていた目出度くない事が急に目立ってしまう事があります。3月21日の春分の日、日本中が野球世界一で盛り上がり、東京銀座の一角では新聞の号外を奪い合って若い娘さんが怪我をしたとか、夕方のニュースが伝えていましたなあ。喜びを伝える号外という物を始めて体験したからではないでしょうか?同じニュースの中に、世界一になった選手達のインタヴュー直後に、イロイロ事情が有って指名を辞退した松井君が、桜吹雪の中でフルスイングしている薄型テレビのCMが流れたのにはぎょっとしましたぞ。スポンサー企業は頭を抱えたのではないでしょうか?「君はそんなところで何をしているの?」とテレビ画面を観ていた多くの人が思ったでしょうなあ。

■それにしても、優勝トロフィーを真ん中にして王監督と30人の選手が勢揃いした記念撮影には違和感が有りましたぞ!王監督の横に変なオヤジが笑顔で並んでいませんでしかな?あれは、日本プロ野球の天下りコミッショナーさんではないでしょうか?まさか公金でファーストクラスに乗り込んで渡米していたり、最高級ホテルのスウィートに踏ん反り返っていたのではないでしょうな!一体、あの人は何しに行ったのでしょう?昨年の「1リーグ制」問題やら、近鉄買収騒動が起こった時には雲隠れして逃げ回っていたクセに!実に興ざめな記念撮影でしたなあ。

■テレビの視聴率が40%を軽々と超えたそうですから、野球中継を生まれて初めて凝視したという日本人も多かったのではないでしょうか?少なくとも、「久し振りに」野球中継を楽しんだという人はとても多かったに違いありませんなあ。テレビ会社やウッカリ者の野球関係者は、この世界一で今シーズンから野球人気が再燃してくれるのではないさだろうか?と淡い期待を抱いていると仄聞(そくぶん)しますが、何とも甘い考えですなあ。今回の日本代表選手団を結成する時のドタバタ振りやら、各球団の不熱心さをファンは忘れてはいませんし、民主党の永田スットコドッコイ議員の御蔭で難を逃れたとは謂え、自民党の武部幹事長が球団買収問題に政治介入して、ホリエモンを応援するようにネベツネさんに電話したという由々しき問題だってまだまだ風化などしていません。

■高校野球の不祥事にしても、まだまだ根が深い問題が隠されているようですし、ドラフト制度の改革は遅々として進まないし、裏金問題にしても根本的な改善策は打ち出されない上に、過去に遡って膿を出し切るような作業もしませんでしたなあ。既に若年人口がサッカーにシフトしてしまったのですから、これからサッカー少年達が大挙して野球に鞍替えするなどとは考えられませんし、熱し易く醒め易い日本国民が、世界一の感動を3日以上持続などさせないでしょうから、野球は相撲にさえも負けてどんどん影が薄くなって行くのでしょうなあ。

■昨年の日本映画、『3丁目の夕日』の大ヒットから昭和30年代へのノスタルジーが高まったそうですが、あの頃、ガキンチョたちは皆野球をしていましたし、親子はキャッチボールをするものだと誰もが信じきっておりました。「空き地」という貴重な宝物が有って、サザエさんだろうと、ドラエモンだろうと、オリジナル作品には少年達が野球をする話が必ず描かれていたのです。その後、新幹線や高速道路、都市の再開発やらマンション建設などで、バブル後の日本は別の景観を持つ国になりましたが、それは野球やキャッチボールをする場所が消えた事を意味しいます。心身ともに蝕んでしまう少年野球・高校野球・プロ野球と言う旧態依然とした悪弊だらけの進路には、もう何の魅力も感じられなくなっていますから、野球は外側からも内側からも崩壊しつつあるのでしょうなあ。

■今回の野球世界一という大事件は、過去の人になっていた王貞治という偉大な野球人の伝説を復活させると同時に、イチローという新たなヒーローの姿を人々の心に刻み込んだのは確かでしょう。野茂投手にしろイチロー君にしろ、実は日本の野球に愛想を尽かして渡米した人だという事を、マスコミも野球関係者も意図的に忘れた振りをしているようですなあ。不合理で非科学的な側面を色濃く残している日本の野球の伝統を変革しない限り、日本の野球が復活する事は無いし、野放図な土建屋政治を改めない限り、親子のキャッチボールが復活する事もないでしょうなあ。少なくとも公園や校庭を上手に開放する習慣を身に付けないと、ただでさえ狭い国土と過密な住宅事情の中で野球文化を維持発展させるのは不可能でしょう。

■サッカーのワールド・カップという戦争の代替イベントが日本にも普及してしまった限り、今回のワールド・ベースボール・クラシックが日本中の若者を奮い立たせる力を持つ事はないでしょう。優れて王監督とイチローという偉大なキャラクターが「日本」を全面に押し出して、「自分の為に楽しんで来ます」とは一度も言わずに戦い抜いた姿、それは非常に特異で違和感を持って迎えられていたはずですぞ。何となく時代錯誤、危険なナショナリズム、そんな響きに身構えた報道が目立っていたような気がします。勝てば官軍で、各マスコミは掌を返して最初から応援していたような顔をしていますが、これも不愉快で卑怯な感じがします。

■平和の祭典でなければならない国際スポーツ大会ではありますが、今回の米国のやり方は、改めて日本人にあの国の性根を見せ付ける結果になったのではないでしょうか?出口の見えないイラク問題を何度も思い出した人も多かったでしょうなあ。アジアとラテン・アメリカから呼び集められた各国チームは、イラク攻撃に参加した有志連合軍に重なりますし、審判員から開催地、組み合わせ方法など、全部米国の事情に合わせて一方的に決められた事。そして、最初から米国チームが優勝するという嫌らしい前提で大会が運営されていた事など、どうしようもなく身勝手で世間知らずの若造ぶりを徹底的に見せてくれました。

■改めて、こんな国と同盟関係を結んでやって行くのはエライことだなあ、と思った次第です。そして、アジアやラテン・アメリカからの助っ人選手がいないと大リーグ自体が存続できないという実情が有るというのに、大リーグとは何の関係も無いキューバと、辛うじて2人の大リーグ所属の選手を擁する日本とが決勝戦を行なうという、彼らに取っては大きな番狂わせを味わったというわけです。しかし、あの国は決して自分の見っともなさというのには気が付かないのですなあ。負け惜しみが強いというのではなく、面の皮が厚いのでしょうなあ。野球を見直した日本人が多かった反面、米国が嫌いになった人も多かった、そんな大会だったのではないでしょうか?

■イラクを拠点にして中東を民主化するのなら、やがてはアラブ諸国からも野球選手が誕生するのでしょうか?或いは、打倒米国!に燃えている中国が、無様に負けた悔しさで3年後には大化けして決勝トーナメントにまで残るチームを作るのでしょうか?日本はともかく、この大会が存続するのなら、今回の日本優勝は、かつての大東亜戦争の始まりと同じように「アジアの覚醒」を引き起こすかも知れませんなあ。その時、日本はその盟主になれるのでしょうか?

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